開拓者親馬鹿選手権
マスター名:周利 芽乃香
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 普通
参加人数: 25人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/05/28 02:39



■オープニング本文

 巨勢王の誕生日を祝した御前試合が終了したある日の事。
「かいたくしゃさん、くるもふ?」
 ヒデを見上げて、もふらが問うた。

●あそぶもふ?
 神楽・開拓者ギルド。
「あいつらすっかり開拓者慣れしたみたいでさー」
 依頼用の受付台にもたれ掛かって話しているのは、郊外のもふら牧場で働いているヒデという名の少年だ。朋友を用いた試合で会場となった彼の働く牧場のもふら達の間では、ただいま開拓者とその朋友の話題で持ちきりらしい。
「特にこないだの試合で、朋友と開拓者が一緒になって闘ってたろ?『なかよし、いーもふ』とか言い出して」
 つまり、一人一頭の絆が羨ましくなったらしい。
 とは言え、もふら達は牧場で飼われている集団生活の身の上だ。真似できないのなら話を聞きたいと一頭が言い始めて、何時の間にかもふもふ大合唱になっていたのだとか。
「俺の顔見るたび、今度いつ来るか聞いてくるんだ‥‥うじゃうじゃいるもふら達がだぜ?」
 ヒデは一人、もふらはうじゃうじゃ。
 さすがに聞かれ飽きてうんざりしてきたヒデは、手すきの開拓者に遊びに来ないかと誘いに来たのだった。

 場所は神楽郊外のもふら牧場、広い上に近隣に民家はない。依頼名目ではないから報酬は出せないけれど、朋友をのびのび遊ばせてやれるのは折り紙付きだ。
 朋友を遊ばせるついでに、もふら達に朋友との逸話を語ってくれると嬉しい、とヒデは言った。
「出逢ったきっかけでも思い出話でも、あいつらに話してやってくれよ」
 いっぱしの職員気取りで、ふんふん頷いて聞いていたギルド職員見習い(自称)の梨佳(iz0052)は「そういう事なら‥‥」提案した。
「開拓者さん達に、朋友さんへの想いを語っていただきませんか?名付けて『開拓者親馬鹿選手権』ですっ」
 何故選手権なのか?怪訝な顔をしたヒデに「ノリです」梨佳は大真面目に答えたものだった。


■参加者一覧
/ 柊沢 霞澄(ia0067) / 井伊 貴政(ia0213) / 桔梗(ia0439) / 紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454) / 橘 琉璃(ia0472) / 玖堂 柚李葉(ia0859) / 玖堂 羽郁(ia0862) / 酒々井 統真(ia0893) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 皇 りょう(ia1673) / 水津(ia2177) / スワンレイク(ia5416) / 設楽 万理(ia5443) / アルネイス(ia6104) / からす(ia6525) / 朱麓(ia8390) / ルーティア(ia8760) / クララ(ia9800) / アグネス・ユーリ(ib0058) / エルディン・バウアー(ib0066) / アルーシュ・リトナ(ib0119) / レートフェティ(ib0123) / 御陰 桜(ib0271) / ミレイユ(ib0629) / コーデリア・アークテク(ib1830


■リプレイ本文

●もふもふ
 爽やかな風が牧場の草を揺らしてゆく。
 もふら牧場に到着した開拓者達が、広い広い草原の中に足を踏み入れると、点在していたもふら達がもふもふと集まって来た。
「かいたくしゃさん、きたもふ!」
「なかよしさんもふー」
 どんぐりまなこをきらきらさせて、来客者を囲んだもふら達。開拓者とその朋友を歓迎している表情は期待たっぷり。
「わぁ、もっふもふ♪ちょっともふってくる〜」
 好きに飛んでてねと言い残し、もふらの群れにそそくさ消えたアグネス・ユーリ(ib0058)。残された駿龍のヴィントは、やれやれとでも言いたげに翼の手入れを始めた。
(「寄って来るもふもふ‥‥もふもふが一杯‥‥」)
 常の凛々しい女当主の姿は何処へやら、ほわんと夢見心地の皇りょう(ia1673)、我に返ると頭を振った。
「いかんいかん。思わず意識が飛んでしまうところであった。何という巧妙な罠だ‥‥!」
「いや、罠ではないじゃろう」
 慌てて表情を取り繕う現当主を、猫又の真名は呆れた様子で容赦なく突っ込んだ。そもそもあんな毛玉共の何処が良いのやらと不満気な真名。
「‥‥にしても、お主の美意識も分からぬな。わしにはもふらなど、ただの太った毛玉に見えるがのぅ」
 ほれ、と前脚でちょいと差した先には、ぼってり蹲った毛玉もとい、もふらさま。
 可愛いではありませんかと反論し、りょうは真名に問い返す。
「だったら何故、ついて来られたのですか?」
 出歩く口実に付いて来ただけだと真名は答えた。りょうは自分の足であると。
 はぁと曖昧に頷いたりょう、そういう事であればのんびり休日をと納得し――
「さて、もふらさまに埋もれましょうか‥‥」
「待て。わしはあんな毛玉共に近づきたくないぞ。待てと言っているのが聞こえんのか、こら!?」
 足の向くまま、もふらさまに接近してしまう真名である。

 んじゃ頼むなーと退避しかけたヒデに、期待に胸高鳴らせ目を輝かせた桔梗(ia0439)が近付いてきた。
「毛繕いの道具を持って来たから、世話、させて貰えたら、うれしい」
 きらきら。
 牧場では一番の下っ端ヒデ、教えて欲しいと謙虚な桔梗に思わず見栄を張った。
「おう、俺に任せとけ!ばっちり教えてやるぜ、もふらの世話!」
 偉そうに胸張って、桔梗の傍にいる黒い被毛のもふらさまに目を向けた。
 よく手入れしてあって、とってもふわふわもふもふだ。黒もふらさま、幾千代がヒデを見上げて自信たっぷりに言った。
「ゆーしょーをいただくもふ」
 確かに、どこに出しても自慢できる手入れの行き届いたもふらさまだ。
「すっげー上手じゃん、もふらの世話。可愛がってるんだろ?あいつらに話してやらねーのか?」
「俺だと、幾千代の可愛さとか、利口さを、皆に伝わる様に話せないかも知れない‥‥から」
 可愛がり振りの上に、桔梗は充分親馬鹿だった。
 ともあれ、話すよりのんびり過ごしたいのだという桔梗に、ヒデは俺もだよと笑った。
「みんなに相手して貰ってる間、俺、原っぱで昼寝でもしてようかと思ってたんだ」
 大人しめのもふらを数匹集めて、もふらまくらにして。
 そいつらの世話してくんねーかな、と頼まれて、桔梗はほふりと微笑んだ。

●なかよし
 さて、開拓者にとって朋友とは、主従だったり友達だったり家族だったりする。それぞれが、それぞれの関係と想いを、興味津々のもふらたちに語って聞かせるのだ。
 まずは‥‥と、紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)はお手製の点心を皆に配り始めた。
「もふ龍ちゃん、これ配ってね〜」
「配るもふ〜☆」
 淡い金色の毛をしたもふらさまのもふ龍が、頭に点心の蒸篭を載せて場を回る。とてもお利口さんだ。そして可愛い。
 聞く者語る者分け隔てなく手土産が行き渡った頃、紗耶香はもふ龍を引き寄せると、撫でながらおもむろに語り始めた。
「あたしともふ龍ちゃんの出会いは‥‥もふら牧場でしたね。真っ先に目に付いたんですよ」
 なんと、開拓者のもふらに牧場出身者がいたとは!もふーといきなり興奮気味のもふら達。
 もふ龍をもふもふ撫でながら、紗耶香は小さく笑って「もふ龍ちゃん、出会った時は真っ茶色のもふらだったんですよ」と続けた。
「何か気になったので、この子にしたんですが‥‥」
 家に連れ帰り身体を洗ってやるとあら不思議、金色のもふらさまだ。
「それは、もうびっくりしましたよ。金色のもふらさまなんているとは知りませんでしたしね〜」
「もふ〜☆」
 洗う時のように指先でもふもふと毛をかき混ぜる紗耶香に、もふ龍は気持ち良さそうに合いの手を入れる。お利口さんで珍しい毛色とあれば人の評判に上るというもの。
「もふ龍ちゃんがあたしのお店に来てからと言うもの、物珍しさからかお客が増えまして‥‥まさに招きもふらです〜」
 金色の毛並みも相まって、もふ龍どこか神々しく見えた。
 続いて進み出たアルネイス(ia6104)は‥‥おや、一人のようだが?
「ムロンちゃんが自分の自慢話をしたくてしかたないようなのです」
 ジライヤのムロンに語らせるのだと少し場所を開けて貰ったアルネイス、召喚開始!
 どしりと現れた大蝦蟇は黄金色をしていた。
「さぁ、ムロンについて知りたい事があったらなんでも聞くがいいのだ!」
 ムロンが胸を張ると、もふもふと興奮気味だったもふら達から、こんな質問が上がった。
「さいしょ、まっちゃいろもふ?」
「???」
 召喚されたばかりのムロンは意味がわからないが、先に紗耶香の話を聞いていた者達は思わず苦笑い。
 肌の色だと誰かが言い添えたものだから、意味のわかったムロンは自慢げにえっへんと鼻息を吐いた。
「そう、ムロンはただのジライヤではないのだ!選ばれし者なのだ!」
「「「すごいもふー!!」」」
 いや、ただのジライヤだから。元々色素が薄いだけだから。
 詠唱を続けるアルネイスの内心はいざ知らず、ムロンは自分の事を選ばれた偉い蛙だと信じている。自信たっぷり誇らしげなムロンの表情を見ていると、そのまま信じさせておいて良いような気もしたり。
 もふらに絶賛されているムロンは大変気分が良さそうだ――が。
「も、もうだめぇ〜」
 練力の切れ目が召喚の切れ目。
 ぱたりと倒れたアルネイスと同時に、ムロンは符への帰還と相成ったのであった。

 揚菓子が入った紙の袋に無造作に手を突っ込んで、ぱりぱり食べつつクララ(ia9800)は暖かく他人様の親馬鹿っ振りに耳を傾けていた。
「すごーい‥‥ね」
 最後の「ね」で連れて来た朋友をちらと見る。甲龍の椿は知らん顔。
 何やらぎこちないのは数日前に喧嘩してしまったから。切欠は些細な事だったような気がするのだけれど、何となく気まずくて今に至る。
(「ほかの人と相棒の仲の良さ、見習いたいんだけどな」)
 ちらちら椿に目をやりながら、クララは親馬鹿達の惚気話を聞いていた。
 例えば、溢れんばかりの愛を語り倒すスワンレイク(ia5416)。
「ではわたくしのもふらちゃんのご紹介をさせて頂きますわ!お名前は昼寝ちゃんと申しますの」
 名前だけで何が大好きかわかるような気がするもふらさまだ!
 頭頂部と首周りの毛色がピンクの昼寝、目付きがよろしくないのは眠いのか、寝起きが悪いのか。どことなく不機嫌そうにも見える気性の荒いもふらさまである。
 にも関わらず、スワンレイクにとっては最強に愛らしい最愛のもふらさまであり。
「このなんともチャーミングなふわふわ桃色ヘアーは、まさにもふらさまオブもふらさま。意志の強さを感じさせる瞳といい、ぷりぷりぷりんなお尻といい、まさにもふらさまが神のつかいと言われるのも納得のパーフェクトボディ!」
 スワンレイクの溢れる愛は、流れるように途切れなく言葉になって口に出る。
 肝心の昼寝は、神の使いというよりも我が神とばかりに偉そうだ。主であるスワンレイクも昼寝にとっては自分に仕える下僕という認識らしい。煩いと言わんばかりに「もふ!」と一声鳴いた。
「そしてこの鳴き声の勇ましいことといったらどうでしょう!『もふ』とは即ち『猛風』猛き風を感じるかのようなもふもふという声に、わたくしたちの心は熱く燃え盛るのですわ!ここから始まるもふらちゃん伝説。わたくしたちは今まさに伝説に立ち会ってい――」
「桃〜♪もふらさま達があたし達の仲のイイとこみたいんだって〜♪」
 まだまだ延々続きそうなスワンレイクの演説は置いといて、御陰 桜(ib0271)が忍犬の桃をもふもふしつつ登場。
 お腹の毛をもふもふされてご機嫌の桃の様子に羨望の鳴き声を上げるもふら達に囲まれて、桜は桃を膝に乗せてもふもふしながら桃の首筋を見せた。
「このコがあたしのぱ〜とな〜の桃、この首筋にある花みたいな模様がとってもきゅ〜とでしょう♪」
 毛色が織り成す模様は自然の神秘、桃に与えられた花模様は桃の花に似ていて、それが名の由来になったのだとか。
「それにとっても頑張り屋でね、いつもあたしが起きる頃には修行を始めてるのよ♪」
 桜の起床は昼過ぎだったりするのだが、桃が勤勉な忍犬である事には変わりない。
 それからとまだまだ続く桜の褒め言葉に、桃はとても恥ずかしそうだ。桜にもふられながら、ころんころんと身を捻る。更にもふもふしつつ、ひと段落付けた桜は実践に移った。
「最後にとっておきのを見せてあげるわね♪桃、アレやるわよ♪」
 わんっ!と一鳴きした桃は、それまでの愛らしい犬からがらりと変わった凛々しい表情、キリリと忍犬の姿を見せた。桜は懐から玉を取り出すと、遠くへと投げた。
「桃っ!」
 シノビが意識して遠くへ投げた玉を桃は即座に追うと、玉が地に落ちる前に跳躍、華麗に捕った。
「さっすが桃♪ほぅらご褒美ご褒美♪」
 これくらい何でもないと言った様子で戻って来た桃だったけれど、桜のもふもふご褒美には、とろんと甘えた愛犬に戻っていたのだった。
 おやこれは負けてはいられませんねと、忍犬の吉良をずずいと引き出した設楽万理(ia5443)。
「宅の忍犬、吉良ちゃんはとっても優秀なワンちゃんざますのよ」
 いきなりマダム口調で自慢し始めた。
 吉良、何だか落ち着かない様子だ。何せいつもの主と口調が違う。そわそわと不安げに万理を見上げるも、万理はお構いなしで吉良を褒めちぎる。
「その飛跳躍はまさに天を衝く矢の様で中空どころか高空まで届く勢い。ダッシュをさせれば駿龍も真っ青の速度で大地を駆け抜け天儀に並ぶものなく」
 そういや弓術師の本気を出した矢を追わされた事があったっけ‥‥てか、天儀一の俊足は言い過ぎなんじゃ。
 吉良、内心焦りまくる。しかし万理の誇張‥‥もとい親馬鹿は止まらない。
「頭も御利巧で主人である私を困らせることは無いし、嗅覚も鋭く千里先のアヤカシの匂いも嗅ぎ分け何度助けられたでしょう!!」
 嗚呼、なんて素晴らしいわんちゃん!
 感極まった風に両手を掲げ挙げた万理、急に真顔になって吉良に振り向いた。
「じゃ、吉良、みんなの前でやって見せて」
 !!!
 吉良、大いに焦った!
 万理の無茶振りは今に始まった事じゃない。しかし今回はいくら何でも度が過ぎる。
 高空まで跳ばねばならぬのか、駿龍と駆け比べせねばならぬのか、アヤカシ感知なんてやった事ないし――
(「‥‥できないよ!でもやらないとご主人の顔を潰すしなぁ」)
 おろりと万理を見上げると、主はいい笑顔で観客に言った。
「とまあさっき言ったことは全部嘘ですが、犬って困った顔して飼い主を見ているときが最高に可愛いですよね!!」
(「!?」)
 主が自分をからかうのも今に始まった事じゃないと‥‥吉良は改めて思ったとか思わないとか。

 形はそれぞれだけれど仲が良い事は伝わってくる。
 漫才のような語る人達を生暖かく見守りつつ、井伊貴政(ia0213)は手製の柏餅を食べていた。
 傍には炎龍の帝釈。帝釈が食べているのも柏餅‥‥なのだが、大きすぎて柏葉では包めず見た目は餡入り餅のようだ。しかし味は柏餅、しかも美味とあれば帝釈には葉の有無など関係ないらしく、旨そうに食べている。
 お裾分けをいただいた梨佳が、帝釈の赤銅色に黒縞模様の身体をまじまじと見つめて言った。
「何と言うか‥‥どことなく貴政さんに似てますね〜」
 おとなしく寝そべって日向ぼっこを始めた帝釈からは、戦闘時の勇猛果敢さは想像できない。けれどそれは主も同じで、そうですかぁと飄々とした応えを返す貴政からは戦闘時の様子など伺えぬ。
 それはこの御仁も同じ‥‥寧ろ大人気ない悪戯心をちらと出しているのは朱麓(ia8390)だ。
「梨佳にはやらん!」
 あかんべえでもしそうな勢いで、お手製の菓子を背に隠す朱麓姐さん。彼女の土偶ゴーレム月ヶ峰梨瑚の背から覗き、口端を指で伸ばして本当にあかんべえしている梨佳も大概子供っぽい。
「朱麓様も梨佳様も‥‥仲良くなさってください」
 この場で一番オトナなのは梨瑚だったりする。
 しかしその真面目な様子も僅かな事、牧場のもふら達に寄って来られて、初めてもふらに遭遇した梨瑚は大興奮。
「しゅ、朱麓様!見て下さい!このもふもふを‥‥ああ、これぞ正に至福の一時‥‥」
 ここにまた一体、もふら好きが誕生したのであった。
 朱麓のお菓子をいただきつつ開拓者達の話を拝聴中のクララと椿。ふとクララの手が止まった。
「椿ちゃん‥‥」
 齧りかけの梅餅を膝に落とし、クララは相棒をじっと見つめた。只事ならぬ呼ばれ方だと感じたか、椿もクララに首を向けて双方見つめあう。
「うわぁあん!ごめんね、椿ちゃん!!」
 クララ、椿にがばっと抱きついた。急に泣き出したクララに周囲は驚いたが気にしない。自分が未熟なばかりに椿を活躍させてやれないと自らを責めるクララに、椿は優しく頚をすり寄せて。感動的な仲直り場面に居合わせた者達は、良かったねと祝福したのだった。
 
●おいしいもの
 親馬鹿達の熱い主張から少し離れてみると、広い牧場内では、あちこちでお茶会が開かれている。
 例えば、いつものようにお茶を淹れているからす(ia6525)。今日は人妖の琴音を連れてきているはずだが、傍に琴音は見当たらぬ。
「冷茶は如何?」
 からすの様子はいつも通りだ。初夏に合わせた冷えた茶と茶菓子を用意して、もふらや開拓者達にふるまっている。一通り給仕し終えたら、書を引き寄せて読書を始めた。
「う〜ん、遊べるの?でも、恐いかも‥‥さわるのが限界かも‥‥」
 恐る恐るもふらに手を出す猫又の紅雪に、橘琉璃(ia0472)は無理はしなくて良いですよと微笑んだ。
「お菓子とお茶ありますから、お友達になったら、一緒に食べましょうね」
「おかしもふ」
「なかよくしてもふ」
「怖くない?」
 お菓子に釣られたもふら達は、怖くないよと紅雪のお友達に。紅雪を背に乗せて、琉璃の心尽くしのお相伴。
「どーなつ、もふ?」
 礼野真夢紀(ia1144)の重箱から現れた淡黄のまぁるい物体の名前を教えられて、もふら達は興味津々だ。おからで作ったドーナツは食べやすい一口大にしてあって、差し出されたドーナツをもふら達は手からもふりと食べた。
「どーなつ、おいしーもふ」
「こっちもたべるもふ」
「あ、葉は食べれませんよ?」
 柏餅を柏葉ごと食べようとしたもふらを慌てて止める真夢紀。もふらさまは雑食なので案外気にせずもしゃもしゃ食べたりする。
 鈴麗には甘夏ねと、真夢紀は駿龍の鈴麗のために甘夏を剥き始めた。もふらの柏葉と同じく鈴麗も甘夏をそのまま食べる事はできるけれど、真夢紀に剥いて貰うのが好きだ。おっとりと真夢紀が食べさせてくれるのを待っている。
 淡い紫の髪を揺らし、駿龍のフライヤを撫でながらミレイユ(ib0629)が、真夢紀に鈴麗との馴れ初めを問うた。真夢紀は剥いた甘夏を鈴麗に差し出すと、にっこり笑った。
「鈴麗は、うちの裏山に遊びに来た処で仲良くなったんだよね〜」
 大きな口で甘夏を受け取った鈴麗は、満足気に鳴いてみせた。

 牧場に菫色の影が降り立った。
 優しい色合いの駿龍はフィアールカ、その背から降りたアルーシュ・リトナ(ib0119)は強くなり始めた陽射しに目を細め、若草色の帽子を軽く整えた。
 賑やかに盛り上がっている親馬鹿達の様子に微笑み、フィアールカの首筋に手を添える。
「ね、フィアールカ?あなたは何時の側に居てくれるものね」
 皆の前で語りたい気持ちはあったけれど、今日は観客で。
 ちゃんと相手を見て、アルーシュを守ってくれるフィアールカ。もふもふ寄ってきた無邪気なもふら達は警戒せずに受け入れる利発なフィアールカ。
 草原に腰掛けて、アルーシュはお弁当を広げた。
 パンには卵とハムや野菜を挟んで、メインディッシュは牛肉と茸のワイン煮込み、新鮮な果物も忘れずに、お茶にはミルクをたっぷりと。さあどうぞと勧められ、もふら達は大喜びだ。
 竪琴を爪弾きながら小さく口ずさむアルーシュに寄り添い、心地よさ気に目を瞑るフィアールカ。時折手を休めてもふらの毛を撫でるアルーシュの悪戯心で、背にもふらを乗せられたりもして。
「ふぃあーるか、やさしーもふ」
 もふもふころころ、柔らかい感触を背に感じ、フィアールカは柔順にされるがままにしている。
「もふらさまって普段何を考えてすごしているのかしらね」
 きっと食う寝る遊ぶの事ばかりだろうもふら達を相手に、首を傾げるレートフェティ(ib0123)。一度に沢山のもふらさまと会うのは初めてだと、わくわく。
「ね?イアリ☆」
 添う甲龍に声掛ければ、イアリは静かにレートフェティの傍に佇んでいる。リュートを構えて陽気な曲を奏でだすと、イアリは何処となく嬉しそうな様子を見せて、もふら達はもふもふと騒ぎ出した。どうやら歌っているつもりらしい。
 調子っ外れのもふもふ合唱団を率いて、レートフェティはイアリに合図した。龍の重量を感じさせぬステップで、イアリが軽快に踊り出す。白毛達も一緒にもふもふ踊り出した。
 駿龍のウィルと一緒に緊張の面持ちでいたコーデリア・アークテク(ib1830)が天儀に来たばかりなのだと聞くと、レートフェティは一緒にどうかと彼女を誘った。
「みんなで陽気に楽しもう〜ねっ☆」
 うん!と元気に頷いたコーデリアはウィルと一緒にリズムを刻み出す。楽が繋ぐ一体感は、コーデリアに新しい出会いと期待を感じさせてくれた。
「イアリは音楽と果物が好きみたい」
 レートフェティの言葉は、楽しげにステップを踏むイアリからも伝わってくる。初めて出逢った時も、音楽と果物に釣られて付いてきてくれたのだと彼女は笑った。

●きずな
 淡い金髪の人妖が一人、もふら達に混じって開拓者達の話を聞いている。からすの琴音、どうやら手帳に話を書き留めているようだ。からす曰く、これも修行の一環らしい。
「ふむ、成程」
 もふらの背に乗って熱心に話を聞いている琴音の様子は、修行や義務というよりも琴音自身の興味で動いているように見えた。

「あんまり人に自慢するような話はないんだけどな、そうだな‥‥」
 興味津々のもふら達に囲まれて、ルーティア(ia8760)は甲龍フォートレスと初めて出逢った時の思い出を語り始めた。
 ルーティアがまだ小さかった頃――森の中で出逢ったフォートレス。寒さと空腹で消耗し切って動けなくなっていた甲龍の第一印象を、彼女はこう語った。
「怖いって思うより先に、初めて見る龍の格好良さに見惚れた」
 おとなしく蹲って主の話に耳を傾けているフォートレス。どっしりと落ち着きある佇まいは威風堂々として、歴戦の証である大小の傷痕がその浅黒い色した鱗に刻まれていた。
 衰弱した甲龍が回復するまで、幼いルーティアは世話を続けた。言葉は交わせなかったけれど、龍の傍にいて、心通わせて――そんなある日。
「龍が元気になった頃、森にアヤカシが出て、自分達が襲われた」
 びくりとするもふら達。話を聞く様は、まるで小さな子供だ。どうなるもふとざわざわする中、相変わらずフォートレスはのんびりと主に頚を預けている。
 ルーティアは言った。龍が自分を庇って、父達が助けにくるまでアヤカシの攻撃に耐え続けたのだと。
「傷だらけになっても一歩も退かず、その姿はまさに砦のようだった」
 フォートレスに向けた彼女の視線は優しい。そしてフォートレスの表情は何処か誇らしげに見えた。
 唯一、背のみが無傷のフォートレスに感謝を込めて、ルーティアは思い出話を結んだ。
「そしてその龍はその時から、今も自分を護ってくれている」
 その龍――フォートレスが背を無傷で守り抜くのは、ただ一人背を許すルーティアの為だけに。
 もふら達にまみれていたアグネスは、ルーティアの話に空を見上げた。牧場へ来て早々、放遊させているヴィントが翼を広げている。
 子供の頃から、守られていると感じていた。ヴィントの羽の影――この羽の影だと、何も怖くなかった。
「あたしとヴィントの出会いも子供の頃ね」
 アグネスが話し始めたのは出逢いの話。
 ジルベリア各地を巡業している旅芸人の一座で生まれ育ったアグネスが、ある森で一座と逸れてしまった時の事。良い風に誘われるまま、森を舞う蝶や所々で咲いている花々に夢中で、いつの間にか森の奥へと迷い込んでしまっていて。自分を狙うアヤカシに気付けど時既に遅し――
「けど、突然森の上空にいたのよ」
 状況を理解するのに一瞬かかった。やがて自分が龍の爪に掴まれて上空にいるのだと理解したものの、何故助けてくれたのかいくら考えてもわからなかった。
「ただ、不思議とこの龍は少しも怖くなかった‥‥妙に懐かしい、気がした」
 それが最初の出逢い。
 以降、各地を移動しているアグネスの許へヴィントは時々現れた。付かず離れず――否、心は常に傍に在ったのかもしれない。
「そして、開拓者として一座を離れた時、一緒に天儀に渡ってくれた」
 空を見上げ、アグネスは微笑んだ。
 今は家族のようなヴィント、彼と共に空を行くと一緒に風になれたような気がするのだと。

 もふら達に囲まれた神父様は、まるで子羊に囲まれた聖者のよう‥‥?
「では、出会いの話など‥‥」
 エルディン・バウアー(ib0066)を囲む、無垢な子羊達はもふもふもふもふやかましい。
 そこへ、もふらのパウロがえへんと咳払いして爆弾発言をかました。
「僕、このあいだ神父様と一緒にアヤカシを退治したでふ」
「「「ゆうしゃもふー!!!」」」
 もふら達、大騒ぎ!もふもふ合唱が大きくなった!
 ちょっと待てと止めに入らんとするエルディンを他所に、パウロは絶好調だ。
「神父様のピンチのときに、僕がアヤカシに体当たりして助けたでふ!」
「‥‥はい?」
「「「すごいもふー!!!」」」
 もふら達は信じている!
 我も我もとパウロに群がるもふら達へ、パウロはトドメを刺した。
「もふらだって、やるときはやるでふ!」
「「「もふー!!!」」」
 妙にヤル気になり過ぎたもふら達は、パウロと一緒に明後日へ向かって駆け出した!
 一方、牧場到着後ヒデに教わりつつ、まったりもふら達の世話をしていた桔梗は、ほっこり陽に当たってふんわりしたもふらの毛を梳いてやっていた――そこへ。
「「「ゆうしゃになるもふー!!!」」」
 パウロを先頭に、もふらの群れが突っ込んだからたまらない。
 転寝でうつらうつらしていたヒデはいきなり起こされて目を白黒させているし、大人しく毛繕いされていたもふら達は混乱、幾千代は機嫌が悪そうだ!
 大好きな日向ぼっこを邪魔されたのだから、不機嫌になるのも道理というもの。幾千代を宥めて、ヒデと一緒にもふら達を落ち着かせた桔梗は、乱入もふら達も一緒に面倒を見る事にした。
「幾千代、もふらさま達と、遊んでおいで」
 もふーと不満げな幾千代を、パウロ達の群れに混ぜる。白毛のもふらさまが多い中、黒毛の幾千代はかなり目立ったのだけれど、桔梗は幾千代にこう言った。
「‥‥だいじょぶ。同じ色のもふら様が居ても、ちゃんとお前を連れて帰る、から」
「‥‥そこまでゆーなら、あそんであげてもいーもふよ」
 しぶしぶと、いそいそと、幾千代は同族の中に入って行った。
 初めの内こそもふら見知りをしていた幾千代も、やがて寛いで今は寛いで一緒にごろんごろん転がったり、もふもふじゃれたり、もふぁんと昼寝したりしている。追って来たエルディンと顔見合わせて、桔梗は安堵して微笑んだ。

 植樹して間もない桜樹の苗木に水を遣っている小さな影。二つに分けた金の髪を結わえている赤のリボンの後姿は、酒々井統真(ia0893)の人妖、ルイだ。
「早く大きくなーれ」
 統真が持った水桶から水を掬って、ぴちゃぴちゃと掛けてやる。ルイの様子を見守りながら、統真は最近のルイが焦っているように感じていた。
 ついこの間、此処で朋友対戦に参加したのだった。あの時ルイは勝手に参加登録して、統真を意識した戦い方で試合に臨んで。
「‥‥焦らなくても、結果は付いてくるんだから、な」
 ぽつりと言った統真を見上げ、ルイはぷーっと膨れた。
「‥‥焦ってなんか、ないもん。焦らなくても、役に立ってるもん。ただちょっとだけ、こんな事も出来るんだって。驚かせたかった、だけで‥‥」
 俯いたルイの頭を撫でてやる。一部で『ぱぱ』と呼ばれているのが不本意で親馬鹿選手権には出ないぞと息巻く統真だが、こんな所作は立派な『ぱぱ』だ。
「この牧場、もう何回目かな‥‥あ」
 いつしか顔馴染みになっていたもふらに寄って来られて、ルイが少しくすぐったそうな顔をした。

 皆から離れて休日を過ごす者達もいる。例えば――恋人達。
 二匹の駿龍には、それぞれ揃いの獣羽織と頭巾。桜があしらわれた装いが春らしい二匹は、玖堂羽郁(ia0862)の帝星と佐伯柚李葉(ia0859)の花謳だ。
 帝星さんも素敵と撫でて、羽郁からの贈り物がとてもよく似合うと柚李葉は花謳をぎゅうと抱き締めた。
 そんな柚李葉に羽郁は心尽くしの料理を勧め、龍達には故郷秘伝の龍専用餌を与える。食後の茉莉花茶を楽しみながら、二人は互いの龍について語った。
「花謳は、かおうって音が始めに降って来て、花を謳うと付けたの」
「柚李葉ちゃんらしいね」
 羽郁は恋人の話に微笑んで、帝星はミカボシと言うのだが、元々は亡き母の龍だったのだと明かした。
 母から譲り受けた帝星は、自分が認めた相手しかその背に乗せないのだと言う。玖堂家の長である父や、巫女姫である姉ですら背を許さないのだとか。
「母上が亡くなられてからは、隠居を決め込むような態度をしていたんだ」
「羽郁さんを認めて一緒にいるのね」
 柚李葉はそう言うと、オカリナを取り出してそっと息を入れた。
 風に乗り、素朴な音が流れてゆく。風が乗せてくる花の香りに、どんな花だろうとぼんやり考えながら、柚李葉は花謳に背を預けて眠り始めた。
「柚李葉ちゃん‥‥?」
 急に途絶えた音を不審がって見てみると、彼女が眠っている。
 羽郁はそっと横に並ぶと柚李葉に肩を貸し、こっそり手を繋いだ。柚李葉が手を握り返して来る。照れくさいけれど幸せだった。

 焔の神楽舞を奉納する開拓者と鬼火玉。
 水津(ia2177)と魔女が焔は水神を信仰する者達である‥‥何故に焔の神楽舞。
 ともあれ、火事にならないように充分気をつけて、二人は灼熱の神楽舞を踊りまくっていた。
「ぷよちゃん、いくですよ!」
 焔と化した水津と魔女が焔(通称:ぷよ)、あと2匹ばかり鬼火玉が加われば時空の彼方に消されてしまうのではな勢いで踊っていた。
 巫女の水津は氷を作っては時折焔に放り込む。その度に盛大な蒸気が上がった。
「何事にもメリハリ‥‥緩急が大事ですからね‥‥」
 水津とぷよは、練力の限り神に踊りを捧げ続ける。
 水神を信仰する焔の巫女の踊りを遠目に眺め、柊沢霞澄(ia0067)が炎龍の紅焔と青空の下での食事を楽しんでいる。
「紅焔、ごめんね‥‥」
 突然、霞澄が言った。紅焔は気性の激しい龍だけど、今日は霞澄の都合だったから。
 本当は皆と一緒に楽しくすごせたら良かったのだけれど、霞澄はまだ踏み出す勇気を持てなくて。
(「もし皆に嫌われたら‥‥」)
 また『いらない子』になってしまうかもしれないと思うと、怖かった。
「私も紅焔も前は一人ぼっちでしたから‥‥」
 霞澄は遠く草原の端に目を遣った。
 かつて気性の激しさが原因で仲間から孤立していた炎龍がいた。種族の違いはあれど、同じ寂しさを知っている――気掛かりで引き取り紅焔と名付けた炎龍は、今では霞澄の大切な友だ。
「紅焔、弱い私で、ごめんね‥‥」
 何度目かの謝罪を口にした。紅焔は責めるでもなくただ静かに霞澄の傍で丸くなる。
 いつか、一歩を。霞澄はそう心に誓いつつ、黙って寄り添っている紅焔に囁いた。
「‥‥付き合ってくれてありがとう‥‥」

「お帰り琴音。お茶は如何?」
 からすは戻って来た琴音を迎えると、いつものようにお茶を勧めた。
 茶を受け取った琴音は、手帳を抱えて何処か主に似た口調でこう答えたものだ。
「ん、なかなかに面白かった」


 開拓者と朋友の数だけ出逢いがあり想いがあり、絆がある。
 それぞれの愛情、それぞれの形、それぞれの安らぎ。
 晴れた空の下、二十五組の親馬鹿達が、それぞれの幸せを謳歌していた。