【神乱】尊厳
マスター名:周利 芽乃香
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/05/15 20:32



■オープニング本文

 あなたは私とおなじ、ひと。
 だから――私はあなたを、ひとりの騎士として送りたいのです。

●救世主の末路
 コンラート・ヴァイツァウ。
 前南方辺境伯にして、禁じられた神教会の信仰を捨てることを拒否して帝国に滅ぼされたヴァイツァウ家の遺児で、昨年末から四月まで帝国への反逆を意図して活動した青年の名前だ。
 アヤカシの被害とその対策のための増税、ひいては帝国の支配に不満を抱いていた南方諸侯は、オリジナルアーマーを擁したコンラートの元に多くはせ参じたが、反乱そのものは開拓者を味方に引き入れた帝国軍が勝利した。
 背景を上げれば、コンラートの理想主義から来る政治の失策や諸侯の統制のなさ、反乱軍に要となる将がおらず戦線が維持できなかったことなどもあるが、最たるものは参謀格のロンバルールがアヤカシであったとされることだ。
 ロンバルールに率いられたと思しきアヤカシが帝国側諸侯の領地や人民を襲い、多くの犠牲を出したことで、かえって帝国軍の気概を高める結果にもなった。こうした事実が判明するにつれ、反乱軍から離反する者も出て、結果として反乱は失敗に終わった。

 コンラートはその後もしばらく逃亡生活を送っていたが、四月中旬に開拓者により発見され、開拓者ギルドに身柄を送られた。
 その後、帝国からの引き渡し要求とコンラート本人の要請とで、身柄はスィーラ城に送られ、事は政治の世界に移行した。
 城内のことはなかなか知れることではないが、コンラートはロンバルール重用の責任は自身にのみあると主張、甘言に乗った諸侯、特に戦死者の領地への増税を減じるように願っているとも聞こえる。
 当人の心持ちが変われど、その罪が免じられることはなく、コンラート・ヴァイツァウの処刑が決まったのは四月下旬に入った頃。
 処刑の場所は、反乱の舞台となった南方と決まった。

●あのひとになって
 帝国軍にその情報が入ったのは、コンラートの処遇が決まった頃の事だった。
「反乱軍の残党が、コンラートの奪還を企てている‥‥?」
「グレイス伯の元に反乱軍内通者が潜んでおったのだ。処刑の日程まで把握しておったわ」
 頷いた騎士は、反乱軍の残党に処刑はおろか移送日程まで漏れていようと嘆息する。
 帝国に仇なす者の処刑であった。奪取を企てる者がいたとて、予定を変更する事は大帝の威信にも関わった。
「それで、軍幹部は‥‥?」
「予定通り、コンラートを南部辺境へ移送するほかないだろう。移送には開拓者も雇い、慎重に事を運ぶ。決して残党共に出し抜かれる事のないようにな」

 虜囚兵という存在がいる。
 罪を一部減刑するのと引き換えに、戦地や危険な任務へ赴かせる罪人の事である。
 ジルベリア首都・ジェレゾの帝国軍宿舎の厨房で皿洗いをしていたマイヤは、オリガが任務に志願したのだと聞いて驚いた。
「任務って、まさかコンラート様移送の護衛に志願したの?」
 ううんと首を横に振り、オリガはマイヤに小声で告げた。「私、コンラート様になるの」と。
 内密にと言い置いて、オリガは自分が囮役となり南部辺境への移送行軍をするのだと説明した。反乱という大罪を犯した彼は移送中も衆人の注目を集めている。中には心無い中傷をする者や、不埒な行いを仕掛ける者もいるかもしれない。
「そんな‥‥オリガ、あなたが危ないじゃない!」
「大丈夫よ、私一人で移動するんじゃないんだから。開拓者達が、守ってくれるわ」
 オリガの表情は、どこかすっきりとしてさばさばして見えた。

 一方、ジェレゾ開拓者ギルドでは、内々に開拓者達が集められていた。
 別室に集まった一同の顔を見渡し、依頼達成まで他言無用と言い含める。
 彼らが請けた依頼は、囮役を本物として扱い南部辺境の処刑場まで運びおおせる事であった。


■参加者一覧
檄征 令琳(ia0043
23歳・男・陰
志藤 久遠(ia0597
26歳・女・志
皇 りょう(ia1673
24歳・女・志
詐欺マン(ia6851
23歳・男・シ
アルクトゥルス(ib0016
20歳・女・騎
アーシャ・エルダー(ib0054
20歳・女・騎
アイリス・M・エゴロフ(ib0247
20歳・女・吟
ルヴェル・ノール(ib0363
30歳・男・魔


■リプレイ本文

 あなたの罪を、私に分けてください。
 全てを肩代わりはできないけれど、せめて一部でも共に担わせてください。
 理想を求めたあなたの往く末を、私も共に辿りましょう――あなたになって。

●依り代
 いまだ肌寒いジェレゾのある日、厚い雲に覆われた薄暗い天候は死出の旅を予感させるような陰鬱さを感じさせた。
 装飾のない重厚な馬車は移動する檻が如く。南部辺境への片道を移動する監獄馬車の乗客は、大罪を犯した青年だ。
 今まさに乗り込もうとする人物の粗末ながら清潔さの伺える白いフードからは、金の髪が見えている。華奢な姿は優美にさえ見えて、育ちの良さ、世間の機微を知らぬ未熟さが伺える。目深に被ったフードで表情は見えなかったが、周囲の扱い方からして移送される罪人、コンラート・ヴァイツァウに間違いないと思われた。

(「オリガさん、最初に会ったときとだいぶ変わりましたね」)
 初めて遭遇したのは遭都上空であったか。
 監獄馬車の前で護送を担った開拓者に引き渡されているコンラートを見遣り、アーシャ・エルダー(ib0054)は、随分柔らかくなったものだと感じていた。
 そう、今から開拓者達が護送するのはコンラートの影武者、いわば衆人の目を欺く囮である。見せ掛けの大罪人を演ずるのは虜囚兵オリガ・バルィキン。年恰好はコンラートと同じくらいだが、性別や顔立ちは誤魔化せない。娘の長い金髪を短く切り、伏した顔をフードで隠す事で遠目にはコンラートと見えるように誂えていた。
 オリガの変装に真実味を持たせるのが開拓者達の今回の任務である。帝国旗を手に監獄馬車の先頭に就くアーシャは帝国軍人だ。同様に馬車の左右と後方にも騎士を配し前後には帝国旗、威信を殊の外目立たせるようにする。
 馬車の後方警備を担当するイリス(ib0247)は、帝国旗を持って既に馬上の人となっている。配置に就く前にオリガへ告白した時の事を思い出していた。
「‥‥4月にコンラート様を帝国に引き渡した開拓者の一人が‥‥私です」
 オリガは、イリスの言葉に一瞬はっとしたものの、短く「そう」と応えた。
 コンラート探索の任を請けた開拓者として、謝る事はきっと失礼だし卑怯だと考えて、イリスはオリガの目を真っ直ぐに見て告白した。
 オリガはイリスを責めなかった。詰らなかった。ただ「そう」と応えた。
 イリスはかつてオリガが空賊としてコンラートに心酔していた事を知っていたから、運命を受け入れる姿勢を示すオリガに面食らわずにはいられない。今のオリガからは以前見せていた女戦士の獰猛さが抜け落ちていた。
(「心境の変化なのか、未だにコンラート殿に憧れに近いものをもっているのか‥‥」)
 影武者を志願した少女の心境を図りかねて、志藤久遠(ia0597)は小さく首を振った。
 何にせよ、志願を言い出した以上は遣り切って貰うまで。そして自分は任務を全うするべく尽力するだけの事だ。
 厳しくも責任感の強い志士は、気持ちを切り替えると馬車の右側に就く。その反対側、馬車の左側に就く事になっているのはアルクトゥルス(ib0016)。オリガ――もとい偽コンラートと言葉を交わしている。
「敗者を哂う者に次の勝利は無い、って言葉が伝わってましてね。例え敵でも敬意をもって遇するのがウチの一族の流儀なんです」
 北部辺境の武闘派一族の女騎士、アルクトゥルスは決して荒々しいだけの戦士ではない。相手に対する敬意と礼を忘れぬのが一族の誇りでもある。正々堂々戦いを挑んでくる敵には敬意を込めて撃退してみせようと、勇ましく位置に就く。
(「あの者と、再び相まみえる事になるとはな‥‥あの頃とは大分変わったか‥‥」)
 アーシャが持った印象を、ルヴェル・ノール(ib0363)もまた同じように感じていた。有事の際には速やかに援護ができるようアルクトゥルスの後方に就いた彼が知っているオリガという少女は、すぐに噛み付いてくる好戦的な娘だったはずだ。
 何が彼女を変えたのかは解らぬが、これから起こるであろう狼藉に耐えてもらわねばならぬ。勿論、目に余る行為は阻止する構えだ。
 監獄馬車に乗り込んだ偽コンラートへ、窓から覗き込んだ檄征令琳(ia0043)が声を掛けた。
「私、貴方の部下に殺されかけたんですよ」
 ふふふと冷ややかな笑みを零す令琳が差しているのは、反乱軍総大将の事にほかならぬ。事実を織り交ぜた恨み言に思わずぞっとするも、偽コンラートの表情はフードに隠れて伺えぬ。
 貴方の旅路が安らかなるものになりますよう願っておりますと言い添えて、令琳は御者台に座った。
「では参りましょうか、コンラートさん」

●堕罪の旅
 スィーラ城を発った監獄馬車は、一路南部辺境を目指した。
 初めの内――首都に近い内こそ帝国の威光は効力を発揮し、移動は滞りなく進んでいた。移送は見せしめの意図もあったから、何処に行っても衆人の注目を浴びたが、一行が掲げる帝国旗の前には、人々は精々無責任な噂話をする位しかできなかった。
 だが、戦地となった南方が近付くにつれて、辺りの空気は変わりだす。殺気めいた雰囲気を敏感に気付くのは開拓者が戦闘に身を置く者ゆえにであった。
「何とも襲撃に適した地形でおじゃる」
 山道に差し掛かった所で、口元に袖を添えて詐欺マン(ia6851)が苦笑した。
 入り組んだ地形、隠れるに適した木々。
 ここで襲撃されても不思議はない。ちと見てくるでおじゃると、言葉の雅さからは想像つかぬシノビの物腰で詐欺マンが消えた。
「奴ら、南方辺境へ足を踏み入れる前にコンラート殿を奪い返そうとしているでおじゃるよ」
 暫くして戻って来た詐欺マンは、一行とは別働で先行していた皇りょう(ia1673)が、この先で足止めを兼ねて説得を試みていると報せた。
 ――と、遠くから高い笛の音が鳴り響いた。りょうの呼子笛に違いない。
「交渉決裂か」
 漆黒の外套を引き寄せ、ルヴェルが皆を促した。

 一方、山中でりょうは反乱軍残党に取り囲まれていた。その数四名。
「戦いは終わったのだ。これ以上多くの血を流してどうする。コンラート殿は罪を認め、償おうとしている。その意思をお前達は挫こうと言うのか」
「うるさい!帝国の犬に何がわかる!」
「コンラート様を取り戻せば!俺達はまだ戦える!!」
 いまだ終戦を認めようとしない残党を、りょうは哀しいと思った。どのような結果になろうと、人の心にしこりは残る。敗北を認めたくない彼らの強がりが悲しかった。
「騎士だか開拓者だか知らねえが、一人で斥候なんぞしたのが運のツキだ、悪く思うなよ」
 じりじりと残党達が近付いてくる。相手はおそらく志体を持たぬ、一人で叩き伏せる事は難しくはなかったが万一逃げられては拙いと、りょうは応援を呼んだ。
「な!?仲間を呼んだか!」
 鳴り響く呼子笛、残党達の間に緊張が走る。程なくして増援が駆けつけた。

「今、何が起こっているか、わかっていますよね」
 格子越しにオリガを覗いた令琳は、ふふ、と笑うと「あなたを奪還に来た人を傷つけている頃でしょうね」と続けた。
 全員で反乱軍残党に向かう必要はなく、優先すべきは移送中の罪人を奪還されぬ事だ。令琳は御者台に座り油断なく辺りを警戒している。
「かつての私が、いるのね」
 監獄の中から少女の声がした。
 誰が聞いているかわからない。久遠が、影武者の少女でなく移送中の罪人に向けて、今の想いを問うた。
「コンラート殿は反乱の旗印として祭り上げられました。今もなお、旗印に夢を抱く者がおります‥‥あなたは何をし、彼らに何を伝えますか」
「コンラート様は‥‥いえ、私は‥‥」
 監獄馬車の主は、ひとつひとつ辿るように、たどたどしく自らの想いを語る。檻の外の者達は、仲間達が手を汚し戻るまでの間、否定も肯定もするでなく罪人の告解に耳を傾けていた。

 大ケルニクス山脈を抜け、南部辺境に入った一行を見る衆人の目は厳しかった。
 戦争を持ち込んだ帝国軍に反感を抱く民も多い。メーメルが近付くにつれて、帝国旗は威光を放つどころか攻撃対象の目印にすらなっていた。
「何しに戻って来た、人殺し!」
「聞こえているんだろ、顔出せよ!!」
 ――!!
 誰かが投げた卵が馬車に当たってぐしゃりと潰れた。漂う異臭、腐っている。
「卑怯者!!」
 飛んできた方向をきっと睨み一喝したアルクトゥルスの気魄に、民が一瞬たじろいだ。しかしそれも僅かな間の事、すぐに勢いを取り戻した大衆は手当たり次第に物を投げてきた。
「皇帝陛下の命にて、私達はこの者を連行しています。邪魔をするのであれば、帝国に背く者と見なします!」
 アーシャの叱責も興奮した民衆を抑えるには至らず、却って勢いづく有様だ。
 一人では何もできない癖に、特定不能を笠に着た数の暴力。耐えつつ静かな怒りを込めて、ルヴェルは手に火球を生み出し威嚇した。
 詐欺マンの白い顔に、熟し切ったトマトの赤黒い汁が垂れた。酸味と臭みが入り混じった汁を黙って拭い、歯向かう事なくじっと耐える。
「これも仕事とはいえなかなか辛いものでおじゃるな‥‥」
 移送されているコンラートだけでなく、移送の役目を担っている者達にも攻撃は容赦なく降りかかった。勿論、度を過ぎたものは防御したけれど、それでも隙間を縫って飛んでくる小さな礫は護衛者を潜り抜け、檻の中のコンラートを襲った。
「コンラート殿への沙汰は既に下っています。それ以上の振る舞いは、それもまた感情に任せた身勝手で、糾弾されるべきものと知りなさい」
 馬車に押し寄せる民衆を推し戻し、久遠が諭す。馬車後方からコンラートを護るイリスは、何としてでも護り抜くと盾と帝国旗の柄で防御に専念した。
 一度でも神輿として担いだ者を、思う通りにならなかったと掌返す性根がアルクトゥルスは気に入らなかった。馬車の中を覗き込もうとした住民を捕まえて、軽くぶん殴っておく。手加減してやったのは彼女の慈悲だ。
 やがて終着点が近付いて来た。城門に迎え入れられ、到着した一同は肉体的にだけでなく、精神的にも疲弊しきっていた。

 反乱軍総大将、コンラート・ヴァイツァウの処刑が行われたのは、それから数日後の事であった。

●騎士の最期
 半年前、大勢の歓声に迎えられて壇上に立った青年が、今は喚声の中に居る。
 秋になれば家畜の競り市が開かれるような空き地に設えられた急拵えの処刑台の上には処刑人が用いる斧が置かれ、使われる時を待っている。その瞬間を今か今かと話し合う民衆に混じって、影武者を務め上げた一行はコンラートの最期を見届けるべく場に留まっていた。
 変装を解き身仕舞いを整えた影武者達には、皆一様に疲労と痣があった。しかし戦後の事とて、周囲に多少の怪我を不審に思う者はない。誰がコンラートの影武者を務めた一行だと気付くだろう。
 娘姿に戻ったオリガの顔色を、イリスはそっと伺った。疲労が残り青ざめてはいるが、眼には生気がある。その視線は真っ直ぐに処刑台へと注がれていた。
 やがて、本物のコンラートを乗せた護送馬車、続いて皇帝の親衛隊の制服を身に着けた軍人とグレフスカス辺境伯の馬車が到着した。立会人席に着いた彼らの身なりは大衆には珍しいもので、見物人からはひそひそと尋ねあう声が漏れる。
 そんなざわめきも、コンラートが台上に連れ出されるまでの事であった。
 注目の的が登場し民の関心は本日の贄に注がれた。ここぞとばかりに叫ばれる罵倒や怨嗟の声を、如何に帝国兵士と言えど止められはせぬ。
「コンラートさま‥‥っ」
 思わず口走りかけたオリガを制するアーシャ、耐えてとオリガの耳元で囁いた。
 清潔そうではあるが粗末な、貴族らしからぬ身なりをしたコンラートの顔には、いくつかの痣があった。それがどのようにして付けられたものであるかは、影武者として移送の旅をしてきた彼らには容易に想像できる事。痛々しい姿だが、処刑前に小ざっぱりと整えて貰ったのだろう、それがせめてもの救いだった。
 ――と、すっと騒ぎが静まった。
 喧騒を静めたのは、人々の悪意の中心に居たコンラートその人であった。台上で貴族の礼を、優雅に頭を下げてみせたコンラートの姿には、民衆の興奮を冷ます効果があったらしい。
 自らの足で処刑人の傍らへ向かい、静かに跪く。斧が振り下ろされる位置に首を据えられる前に、立会人へ顔を向け何か言ったようだったが――
 ――立会人が、手を高く挙げた。
 次の瞬間、民衆は大騒ぎになった。悲鳴、喝采、興奮、怨嗟――血を見て倒れる女を運び出せと兵士が怒鳴る。
 天に知らしめるように、髪を掴み高く上げられたコンラートの首級を、立会人は確認し、混乱が静まるのをじっと待っていた。
「オリガさん‥‥オリガさん!?」
 心配したイリスがオリガに顔を向けた。
 オリガは凝視していた。救世主の首級を。
 涙が頬を伝うがままに、足腰に力が抜けようと、顔だけは上げて。
 信念に従って戦い生涯を終えた若き騎士の首級を、しっかりと見つめていた。

 誰も居なくなった空き地からハープの音色が聞こえてくる。ジェレゾへの帰還準備を終えて出発を待っているイリスのものだ。
(「できるならば生き延びて、反乱などというやり方以外で人々を守る盾となって欲しかったな‥‥」)
「これも定めというものでおじゃるか」
 命潰えた若き騎士を偲び、りょうは黙祷する。内心を知ってか知らずか、詐欺マンがしみじみと呟いた。
 オリガの肩をぽんと叩いて、令琳はふふと笑った。
「頑張る人は素敵ですよ。泣いてもいいと思いますよ、皆さんの胸を借りてね」
 私は優しくないですから、などと嘯く令琳の目は優しい。姉の如き表情でアーシャが腕を広げた。
「誰にもなかなかできないことですよ。よく頑張りました」
 抱き締められて、漸くオリガは声を上げて泣いた。道は間違っていたけれど、苦しむ民の救世主たらんとした人の死を漸く受け入れて。
「コンラート様は、やはりロンバルールがアヤカシだとは知らず‥‥皆さんを救いたい、そう考えての行動でした‥‥そう‥‥答えてくれました」
 出発前、イリスが彼から直接聞いた本心を、オリガは誇らしげに聞いた。自分が信じていた通りの人だったと微笑んだ。
 ひとつの反乱が終わった。全てを見届けたイリスは、敵になってしまった人を歌う。
 民の為に闘おうと決意した王子様の歌。
 コンラート・ヴァイツァウ。彼を忘れぬようにする為に、彼の命の平安を祈るように――