【神乱】虜囚兵、征く
マスター名:周利 芽乃香
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/04/13 01:02



■オープニング本文

●序
 ジルベリア南部で発生したヴァイツァウ元辺境伯の遺児による武装蜂起は、帝国軍に勝る数のアーマーや龍、更にはアヤカシや伝説とさえ言われた巨神機までもが登場し、一時は帝国軍不利かとも思われた。
 しかし要請に応じ援護に向かった天儀の開拓者達により状況は一転する。いまだ予断を許さぬ状況ではあるが、帝国軍には次々と吉報が齎されている。
 首謀者コンラート・ヴァイツァウの命運は尽きたに等しい――その一方で、両軍の交戦区域となった戦地跡では一足早い戦後処理が始まっていた。

●蘇化するモノ
 南部辺境で反乱軍と帝国軍の交戦に巻き込まれた村は多々ある。戦線移動後にそれらの村がどうなるかと言えば荒れたまま、住民達が戦後復興に動くしかないのが現状だ。
「やれやれ、兵隊さんは行っちまったかね」
 漸く静かになった村では、動ける村人が中心になって破損箇所の修復に当たっていた。殺し合いは他所でやってくれとぶつぶつ愚痴る亭主の腕に添え木を付けてやって、女は亭主の尻をぱしっと叩いた。
「ほいおしまい。ま、怪我だけで済んで良かったよ」
 ほかに怪我人はいないかねと家々を回る女を他所に、亭主は隣家の主人と世間話。
「まさかアヤカシ共が沸いてくるとはなあ‥‥」
「反乱軍にアヤカシが味方しているってぇウワサは本当なのかねぇ」
 おお怖い。
 男共が暢気に立ち話していると、遠くから女房のお叱りが飛んできた。怖いのは女もかと苦笑いする男達。
 慎ましやかに生きる民にとって戦争は天災のようなものでしかない。壊れた壁を直し荒れた畑を均す。嵐の後と何ら変わりはなかった。

 嵐の後と違うのは、悲しい始末をしなければならない事だ。
「俺らは怪我で済んだが‥‥」
 地に伏す死体に黙祷を捧げる。アヤカシであれば放って置いてもいずれ瘴気に還るものであるが、生きとし生けるものの争いで作られた命なきものは眠らせなければならぬ。激戦の果てに倒れた兵、龍達を村人達は丁重に扱った。
 2・3軒先で龍を運ぼうとしている村人が手伝いを募っている。
「おーい、手を貸してくれ!この龍を運ぶ‥‥え、軽‥‥うわぁぁあっ!!」
 手伝いを呼ぶ声が、悲鳴に変わった。

●囚われ人
 遭都からの輸送船団に乗って、彼らは再び祖国の地に居た。
「まさか、こんな形で戻って来ようとはな‥‥」
 運命の皮肉に口端を歪めて痩せた青年が呟いた。黙ってはいるが、仲間は皆似たような心境だ。
「なーんか、気に喰わねーよな」
 ぶすっと膨れて隅っこに座っていた少年が言う様子が反抗的だったもので、年嵩の青年が窘めた。
「仕方がないだろう、俺達の身柄は天儀の物なのだから」
 輸送船に乗っているのはジルベリア出身の若者達である。天儀からの最終便に乗せられている彼らは開拓者ではない。遭都の法によって裁かれた、罪人達であった。

 彼らは遭都上空にて輸送船を襲撃していた騎龍集団、空賊である。
 ジルベリアで蜂起している反乱軍に与すべく、稼ぎを手土産に傘下に降ろうと画策していた彼らは、討伐に雇われた開拓者達によって救助・捕縛された。
 神楽の奉行所に引き渡された空賊は全員ジルベリア人であったが、罪を犯した場所が遭都であった事、聴取に素直に応じた事等から情状酌量の余地ありとして、天儀預かりの罪人として扱われる事となった。
 母国であるジルベリア帝国に仇なさんとしていた者達である。ジルベリアの法で裁けば投獄は免れぬ。最悪死罪も有りうる事からこれを避けんと動いた者達がいる事を、彼らは知らない。命を賭して反乱に加わろうとしていた若者達は、自分達が捨て駒であると、龍に騎乗できる点を買われて有事の際まで飼い殺しにされているだけなのだろうと割り切っていた。
「メーメル城を帝国軍が囲んでいるそうね‥‥風信機の伝達が聞こえたわ」
 扉付近で耳を澄ませていた年長の娘の言葉に、空賊達に緊張が走った。
 もはや反乱は成就せずという事か。今、自分達はジルベリアへと輸送されている――それが意味する所は。
「コンラート様と共に処刑されるのなら本望よ」
 若き反乱軍総指揮官の名はいまだ甘い幻想を含んでいる。黙って膝を抱えていた少女の瞳に光が宿った。

●虜囚兵
 ――ところが、彼らが移送されたのは首都ジェレゾでも交戦中の南部リーガ城でもなく、クラウカウ城であった。
「所持龍に騎乗し、急ぎメアン村へ向かえ」
 空賊達に命じられたのはアヤカシ討伐、囚人であり戦士でもある、虜囚兵としての出兵だ。
 クラウカウ城近くのメアン村は、数日前のヴォルケイドラゴン襲撃時に激戦区の一つとなった村である。アヤカシ達を撃破した帝国軍であるが、死傷者が出た事もまた事実。今回発生したアヤカシは、その死体に絡んだものだ。
「合戦で死んだ龍に瘴気が憑いている?」
 年長の青年――セルゲイが問うた。反抗の素振りなく尋ねて来る虜囚に兵は頷く。囚人であれ此度は戦力として出す以上、敵情報は知らせておかねばならぬと兵は詳細を説明する。
「アヤカシ化したのは、この間の空中戦で死亡しメアン村に落ちた龍2体。生前と同等の能力を有する。タフという訳ではないが、止めを刺し損ねると復活してしまうらしく、村に向かった者が梃子摺っている」
 戦闘時に動きを阻害しないような形ばかりの拘束具をセルゲイに施す。若者達に逃走や反抗の意思がない事を見て取って、武器防具も返却してやる。
 馴染んだ愛弓を手に、少女が尋ねた。
「メアン村に向かうのは私達だけなの?逃げるかもしれないわよ?」
「心配無用だ、見張りは頼んである」
 挑戦的なオリガの発言に、兵は余裕の反応を返す。暫くして『見張り』の開拓者達が部屋に入ってきた――


■参加者一覧
志藤 久遠(ia0597
26歳・女・志
鬼島貫徹(ia0694
45歳・男・サ
花脊 義忠(ia0776
24歳・男・サ
深山 千草(ia0889
28歳・女・志
輝夜(ia1150
15歳・女・サ
シエラ・ダグラス(ia4429
20歳・女・砂
珠々(ia5322
10歳・女・シ
劫光(ia9510
22歳・男・陰
アーシャ・エルダー(ib0054
20歳・女・騎
アイリス・M・エゴロフ(ib0247
20歳・女・吟


■リプレイ本文

●再会
 部屋へ入ってきた『見張り』の開拓者は男女十名。いずれも歴戦の猛者と言った風貌で、そう易々と逃亡を許してくれそうにもなさそうだ。
 全員が室内に入った所で、虜囚兵達は幾人かに見覚えがあるのに気が付いた。
「まあ‥‥これは奇遇ですわね」
 既に面識があったイリス(ib0247)が思わぬ再会に驚き、続いて喜びを顕わにする。
「どうやらまた、ご縁があったみたいねえ」
 おおらかに微笑んだ志士は、空でアヤカシに襲われていた自分達を霧から逃がしてくれた女性だ。深山千草(ia0889)の一言に、オリガの挑発がやや削げた。
「ふむ、久しいの。健勝であったか?」
 輝夜(ia1150)が放つ尊大な態度も彼女の持ち味だと、天儀で暫し共に過ごした事がある者達は知っている。
「此度の件、民を守ることに異存はなかろう」
 それに‥‥と、輝夜が続けた言葉に、かつて騎龍空賊であった者達は頷いた。
「それに死龍の存在は、龍使いとして到底許しておけるものではあるまい?」
 死した龍に瘴気が憑いて出来たアヤカシ。不死系のアヤカシは、命を冒涜するアヤカシの中でも最も忌むべき存在であった。
「以前、言いましたよね?私には貴方達を助けた責任があります、と」
 硬い言葉で語りかける女騎士アーシャ・エルダー(ib0054)。厳しくも凛と続けた。
「今回は監視というのもありますが、むしろ一緒に戦う者として扱います」
 人妻騎士、アーシャは此処で破顔した。
「――ですから頑張りましょう」
 笑うと少女のようだ。再会に喜びを顕わにし、イリスが握手を求めて来る。共に力を合わせて頑張ろうと差し出された手を、マイヤがしっかりと握り返した。
 旧知の開拓者もそうでない開拓者も、見張りに雇われたのだとは言え、自分達を対等に扱ってくれている事は十二分に伝わって来て、多くの虜囚兵達の緊張はほぼ解けたと言って良かった。
 相変わらず警戒を解き切らないオリガを、志藤久遠(ia0597)は真面目な態度で見守っている。
 いまだオリガに反抗の意思がある――監視を依頼された以上、遂行する心積もりであった。

 さて、メアン村に出た死龍は二体であると言う。
「‥‥戦ってのはいつだって泣くのは貧しい村人だよな‥‥」
 劫光(ia9510)は改めて状況を確認すると虜囚兵達に目を向けた。
 この者達も元は貧しい村人だったのかもしれぬ――だが。
「お前等がどんな事情があって、どういう気持ちで反乱に加わろうとしたのかは興味ねえ。だが自分や周りをできる限りでよくしようとしたんだろ?‥‥だったら‥‥手を貸しな」
 同年代の虜囚兵、セルゲイと目が合った。臆す事なく見つめ返して来た誠実な罪人の目は、静かに肯定の意思を示す。
 部隊を二手に分け、虜囚兵五名もそれぞれに組み込む事となった。揃って行動できないのが不満なのか目付きが険しくなるオリガに、シエラ・ダグラス(ia4429)は冷たく言い放つ。
「大丈夫だとは思いますが‥‥下手な真似は考えないで下さいね。さもなくば斬らなければいけません」
 天儀では志士で開拓者登録しているシエラだが、元はジルベリアの騎龍部隊に属する騎士であった。祖国では空賊討伐もこなしたと言うシエラの職業的な厳しい顔が垣間見える。
「出発前から脅迫するとはね」
 皮肉気に唇の端を歪めるロベルトへ、さして挑発された様子もなくシエラは言った。
「ええ、脅迫です。貴方達の自由を制限するための」
「‥‥とにかく、龍の死体にうろつかれても厄介な事ばかりですしね。手早く片付けてしまいましょう。アントンとオリガ、ロベルトは此方へ」
 雰囲気が悪くなり始めた二人をさっさと引き離し、珠々(ia5322)が出立を急いた。

●死龍
 戦後処理中のアヤカシ発生、運が良いのか悪いのか。
 メアン村の住民が早々に避難を果たし、初期被害のみで済んだのは幸いと言って良かった。
 敵は二体、他に湧いたモノはなし。人っ子一人居ない閑散とした村を訪れた死龍討伐隊は、上空を舞う命なきモノを即座に捉えた。アヤカシも同様に獲物と捉えたようで、双方の距離が急速に縮まってゆく。
「一度死したとは言え、龍退治であれば武勇にも箔が付くというもの」
 雑魚には用がなかったがと、傲慢不羈で邪悪な笑みを浮かべた鬼島貫徹(ia0694)はクククと声を漏らし炎龍の赤石を駆けさせた。
「俺の手柄になるがいいッ!」
 死龍を更に己へ寄せるべく発した、赤鬼の苛烈な一声。掛かった龍は一目散に突っ込んできた。
「敵が分かれました、私達はあちらの龍を」
 アーシャの先導で隊は分かれ、其々の戦いが始まった。

 貫徹が引き寄せた龍の元へ向かう一団。
 威力は弱けれど、最も早く接敵したセルゲイの攻撃に、貫徹が尊大に呟く。
「フン。虜囚の身でありながら、戦場に駆り出されるだけの腕はあるというワケか」
 己の役割をこなすべく甲龍を駆るセルゲイを見遣り、貫徹は猛り立つ死龍を誘導し牽制する。
「龍達の死をこれ以上弄ばれるわけにはいかない‥‥パティ、行くわよ!」
 気合充分、遅れてならじとシエラは駿龍パトリシアを鼓舞し死龍へ向かった。パトリシアと同じ龍族、瘴気が入った末であったが、何とも遣る瀬無い気持ちであった。
 シエラの怒りの矛先はアヤカシへ、パトリシアにソニックブームを命じると自身は剣を構える。
 その異名に違わぬ吹雪の如き力強い衝撃波を、式の龍が追った。
「‥‥行け!雷の龍!」
 劫光が放った雷の化身が空を翔る。死龍の首に喰らい付いた雷龍を見届け、劫光は炎龍の火太名を死龍の頭上に来るよう移動させた。
 死龍は逃がさぬ、だが、我がちにと攻撃しては後が閊える。
 一撃必殺、マイヤの援護を受けた千草が炎纏わせた己が剣を叩き込み、素早く死龍から離脱する。近接攻撃を得手とする仲間が多いから、仲間同士渋滞を引き起こしてはならない。
 間合いまであと少し。パトリシアで接近していたシエラの平突が、死龍の翼に食い込んだ。
「頼むぜ、松風」
 甲龍の相棒に声を掛け、花脊義忠(ia0776)は松風に硬質化を命じた。これで多少突っ込んでも平気だ。そしてこれは義忠の豪快かつ真っ直ぐな気性による戦い方を補佐するものでもある。
 貫徹に目標を定めている死龍へ松風を駆った義忠、小細工なしに斬馬刀を振り上げた。
「その隙もらった!チェストォォォォォォォォォォォォォッッッッ!!!!!」
 大声の気魄そのままに、義忠の刃が死龍の翼を断った。
 片翼となって墜落してゆく死龍を追って、龍達が駆ける。
 逸早く、桃色の光が大地に下りた。地に叩き付けられた死龍は苦しげに蠢き、頚を上げ反撃しようと顎を開く。イリスと駿龍シルフィードが地面すれすれに肉薄した。
(「かつてはこの子と同じく、私達の友人であったのでしょうに‥‥」)
 この死龍にも主が居り、共に空を駆けたであろうと思うと胸が痛む。人の良き友人であった龍、せめて人の手で無に還れと顎上げた龍の喉元を貫いた。
 レイピアを刺されて尚、死龍は暴れている。追いついた赤石、貫徹がその頭部に大斧を振り下ろした。
「ふははッ、二度目の生も儚いものだったな龍よッ!」
 地に伏した龍は、もう二度と動く事はなかった。

 一方、もう一体の死龍と対している討伐者達。
 虜囚兵の吟遊詩人、ロベルトに後方からの支援援護を頼み、輝夜は駿龍・輝龍夜桜に目標を追わせた。
 メアン村上空での戦闘は二次被害を招きかねない。場を選んで輝龍夜桜を止めた輝夜は、獲物が此方に集中するよう咆哮を放つ。
「輝桜よ、汝が眷属が懐に入りし時、衝撃波を放て」
 己に向かって近付く死龍を見据えつつ、輝龍夜桜に語りかけた輝夜は接近を待った。
 輝夜が場所を定めた地点へ、討伐者達が陣を敷く。
「篝、今日は彼らの監視が任務です」
 この間のように暴れさせはしませんよと久遠。お堅い主に炎龍の篝の心中は如何に――ともあれ、篝はおとなしく久遠に従って、虜囚兵達の後方に就いている。
 前方の虜囚兵、弓術師オリガが駿龍を止めた。お願いしますと久遠は珠々に声掛けて、珠々の駿龍・水銀をすり抜けてゆく。
 こちらは姉弟のような騎士達。
 虜囚兵の少年騎士アントンと並んで炎龍のセネイを駆っていた、アーシャが釘を刺した。
「騎士ならば自らを律し、己の力を過信せず、敵を冷静に見極めることです。アントンさんは騎士ならば可能ですよね」
「ああ、まかせとけ!」
 アーシャにしてみれば、特攻型と聞いている少年騎士を牽制するつもりで言ったのだが、アントンには『騎士ならば』という言葉が響いたらしい。赤髪の少年は胸を張って請合うのがおかしかった。
「俺さ、悪い奴をやっつけて騎士団長になるのが夢なんだ」
 だから頑張る。
 そう言い切った罪人は、意外と単純な少年なのかもしれなかった。

 輝龍夜桜が主を狙う死龍の追撃を避けている。輝夜へ集中している死龍の背に、珠々の手裏剣が次々と刺さった。
 振り返れば討伐者達が包囲している。死龍の運命は決したと言って良かった。
「篝、行きなさい!」
 心得たりと篝が急降下、死龍にぶつからんばかりに組み付いた勢いで久遠の槍が深々と死龍に突き刺さる。セネイがそれに続きアーシャの両腕の力を乗せた一撃が死龍に落ちた。
 己に向かい来る死龍を全身で断たんとばかりに受けて立つ輝夜、オリガの援護射撃を潜り抜け、水銀が迫った。
「死龍の攻撃、お前がかわしきれないはずがありません‥‥突っ込みなさい、敵の懐まで」
 雄々しく吼えた水銀が、真っ直ぐにかつての同族へと突っ込んでゆく。見極めた珠々の手裏剣が、敵の急所に入った。
 徐々に抵抗が弱まってきた死龍だが、いまだ空を飛ぶ余力は残っているようだ。
 この一撃で地に落とさん。
「輝桜よ、汝が眷属に安らかなる眠りを」
 輝龍夜桜もろとも死龍に向かった輝夜は、己の全てを剣に託して死龍に打ち付けた。
 がつ‥‥‥ん‥‥
 肉を骨ごと断つ手応えを感じた。
 腕を通じて力が抜けてゆくのがわかる――長い時のように感じた次の瞬間、仲間達が見たのは、頚と胴体が離れて落ちてゆく死龍の姿であった。

●鎮めの歌
 アヤカシの消滅を確認した一行は、メアン村に降り立った。討伐の完了を触れて回ると、そろそろと村人達が顔を出し始める。
「死龍共は討ち果たしたッ!龍さえ俺の前には赤子同然よ!」
 手抜きの無い働きこそが更なる名声を生むのだしっかり巡回している辺り仕事熱心な貫徹なのだが、大威張りの赤ら顔に恐れて村人達は様子を見ている。
「安心してください、死龍の始末は終えました」
 出て来た村人に珠々は経過を説明し、もしよければ村の後片付けの手伝いをさせて欲しいと申し出た。

 使えるものは修繕して使い、無理なものは新たに作り直す。
「よし!火太名そのままじっとしてろ!」
 倒壊した家屋を火太名に持ち上げさせて、屋内から調度品を運び出す劫光。志体持ちの人間と龍の手伝いは、力仕事がいくらでもある戦後処理に重宝された。
「ほら、一緒に手伝いましょう。勇敢に戦った者たちへの手向けですよ」
 仕事で向かった場所故に、後始末も仕事のうちだと、アーシャが虜囚兵達を誘った。目を背けさせたくはない、これが彼らの仕出かした反乱の余波なのだから。
 消極的なアントンに「騎士たるもの」と囁いてやると途端にやる気を見せるから面白い。
 年長の三名――セルゲイ・マイヤ・ロベルト――は素直に従った。表情は硬いながらもオリガも手伝いに混じっている。態度の割に手際が良いのは、そういう生活をしてきたごく普通の村娘だったのかもしれなかった。
(「‥‥戦でなければ守れたものもありましょうに」)
 奇しくも縁あって関わる事になった罪人達。反乱軍に加わろうとしていた空賊の頃から見て来た久遠は、村人を手伝い感謝されている虜囚兵達を複雑な表情で眺めた。
 片付けがほぼ済んだ頃、子供達に囲まれていた千草が吟遊詩人の二人を呼んだ。
「マイヤちゃん、ロベルトくん‥‥もしよかったら、ジルベリアのお歌をお願いできないかしら?」
 千草の周囲の子供達が吟遊詩人だと聞いて目を輝かせる。期待に満ちた視線を向けられて、マイヤがハープを手に取った。
「どんなお歌を歌いましょうか?」
「子供達のための歌を‥‥」
 戦のための歌でなく、日常の、ささやかな日々の暮らしの歌を。

 死龍は瘴気が去っても死体が残る。
 村から少しはなれた山の中で、義忠は真新しい塚に古酒を撒いた。
「次会う時は、良い相棒に出会うんだぜ?」
 言いつつ、徳利から直接一口含む。呑むに決まってるだろうと当然の面持ちだ。
 何とも義忠らしい豪快な好漢さに輝夜は小さく肩をすくめて、犠牲となった龍達の冥福を祈った。
(「戦いに赴く以上、パティにも同じ運命に陥れる可能性がある‥‥」)
 パトリシアと並んで冥福を祈るシエラは、我が身に置き換えて考えずにはいられない。
「パティ‥‥?」
 無意識にパトリシアの白い頚に触れていた。
 問題児の弟分はシエラ姉にフンと鼻息を吹きかける。気性の激しいパティらしい反応に、シエラは苦笑しつつも安心を覚えずにはいられなかった。
「どうかせめて‥‥今は安息が得られますように」
 イリスが歌うは故郷に伝わる鎮魂の歌。
 このジルベリアの地で果てた命を想い、清らかな歌声が山に浸透してゆく。
「極楽に行った龍達のひとまずの休息に、乾杯」
 徳利を掲げ、義忠が最後の酒を呑み干した。