迷子の揺り籠
マスター名:周利 芽乃香
シナリオ形態: ショート
無料
難易度: 易しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/06/20 08:36



■オープニング本文

 壁に囲まれた浮遊島――天儀。
 空に浮かぶ島々には陸があり水があり、命育むものがいる。
 人は食わねば生きてはゆけぬ。日々の糧を作り育て収穫し、命を繋いでゆく――

●嵐の後で
 田植えを終えたばかりの村を襲った暴風雨は、頼り無げな苗を悉く倒して行った。
「ゆうべは酷い風雨でしたね‥‥」
「ああ、まだ苗が根付いておらんっちゅうにの」
「刈入れ前でなくて良かったじゃないですか。そう思いましょう。さて、と」
 天災は仕方なき事、繰言を始めかけた老人を制して、男は田に入って行く。
 どこの田も似たような状態だ。ここ数日は、村人総出で田植えのやり直しとなるだろう。

「たろぼ、いい子にしててね」
 籠に寝かせた弟の頬をふにふにつついて、小梅は籠を載せたもふらさまに「お願いね」と声を掛けた。
 今日は赤子の太郎を除いた家族全員が苗の植え直しだ。食事を終えた小梅達は午後の作業、太郎ともふらさまは畦道でお留守番。
 解っているのだろうか、もふらさまは大人しく「もふ」と鳴いた。その応えに微笑んで、小梅は弟に背を向けた。
 昨夜とは大違いの良い天気だ。太郎はご機嫌、もふらさまものんびり。
「もふー‥‥?」
 目の前を大きな蝶がふわふわと横切って行く。何だかとても素敵なものに見えて、もふらさまはふらふらと後に付いて行った――

●白い迷子
 最初に気付いたのは小梅の母だった。
「太郎坊、気持ち悪くなってないかしらね‥‥?」
 屈んだ体を起こし、畦を見遣るがもふらさまの姿がない。ぐるり田の周りを見渡してみても、籠を載せたもふらさまの姿はなく。
 暫くして、その意味を悟った母親から悲鳴が上がった。

 田植えは一時中断。村人総出で太郎を探した‥‥が相手は移動するもふらさま、何処で見かけたと言って向かえば既におらずの繰り返し。
「籠を載せたもふらさま?畦道を歩いていたねぇ」
「もふもふ鼻を鳴らして機嫌良さそうだったよ」
「籠の中から赤ん坊の笑い声もしてたさね」
 とりあえず、もふらさまも籠の太郎も困った様子ではないようだ。
 しかし村の東にはアヤカシが出ると言う森がある。赤子の子守を任せておける、このもふらさまが進んで危険地帯へ入る事は考えにくいが、万一の場合は太郎の身にも危険が及ぶ。
「どうしよう、あたしがもふらさまを繋いでおかなかったから‥‥!」
 責任を感じて号泣する小梅を両親も責める事はできず、ただひたすら我が子ともふらさまの無事を祈った。

「ねえ、開拓者さん達にお願いしようよ」
 一通り探して見つからず。
 寄り集まった中、助力を請う子供の声に不謹慎と怒る事も躊躇われて、傍にいた大人はやんわりと否定を口にした。
「でもこんな辺鄙な場所まで来てくれるかねぇ」
「でもでもっ、困ってるんだもん!開拓者さん、助けてくれるよ!」
 小さな村の子にとって『開拓者』という存在は何だか英雄的な響きを持っているようだ。目を輝かせ「絶対大丈夫!」などと力んでいる。
「‥‥では、神楽の町へ連絡を入れてみようかのぉ」
 長老は傍らの男へ伝令を命じた。

●目にしたものは
 神楽の町。
「戦闘の可能性は低いようですが、緊急を要しますね」
 小さな村での出来事であり、報酬はごく僅かである。派手な功労にもならぬだろう。

 ギルドを訪れたあなたは、この『行方不明者捜索』の依頼に目を留めた。さて請けるか請けざるか――


■参加者一覧
天王寺 桜(ia0120
17歳・女・巫
犬神・彼方(ia0218
25歳・女・陰
相城 碧(ia0281
21歳・女・巫
栄神 望霄(ia0609
16歳・男・巫
秋霜夜(ia0979
14歳・女・泰
及川至楽(ia0998
23歳・男・志
ロレンス(ia1126
25歳・男・泰
乃木亜(ia1245
20歳・女・志


■リプレイ本文

●賑やかな捜索隊
「必ず見つけるから、泣かずに待っててね?」
 いまだベソをかいている少女に、乃木亜(ia1245)は優しく声を掛けた。

 村へ到着した一行は、現在小梅の家にいる。改めて捜索を行うべく、長老はじめ村の者たちも集まって来ていた。
 これから日が暮れる――初めての地でもある。天王寺桜(ia0120)が慎重に村内の地形について尋ねている。
「たろさんを預けていた、もふらさまはどんな性格なんですか?」
 もふもふ鼻を鳴らしながらお散歩だなんて、何だかノリの良さそうな方ですねという秋霜夜(ia0979)の言葉に、及川至楽(ia0998)は何か思いついたようだ。
「‥‥笛とかの音で、もふらさまが寄って来るとか、ないですかね」
 笛や鈴、果ては鍋まで、音を出せるものを用意しようと言い出した。相城碧(ia0281)が笑顔で賛同する。
「うん、いいと思うー」
「楽しい事が村内で起きれば、もふらさまがひょっこり顔出しそうです♪」
 霜夜が祭囃子を奏でて貰えませんかと頼む。協力を惜しまぬ構えの村人たちに否の声はない。
「んん?そぉだぁな。風に乗って囃子の音が聞こえればぁ時の目安にもなるさぁね」
 太郎の母親から重湯や襁褓を預かっていた犬神・彼方(ia0218)の提案に、ではお囃子が一曲終わる頃に再び此処でと栄神望霄(ia0609)が請合った。

「お姉ちゃんが泣いてたら太郎ちゃんに笑われるよ?」
「‥‥う、ん‥‥もう、泣かない‥‥」
 乃木亜にお姉ちゃんと呼ばれて懸命に涙をこらえた小梅に見送られ、一同は捜索を開始した。

●東西南北散らばって
 望霄と霜夜は真っ先に村の東にある森への境界へ向かった。
「良かった、もふらさまが森に迷い込んだ様子はないですね」
 霜夜は雨上がりの草叢や木陰を注意深く探って、地面に真新しい足跡が残っていない事に安堵した。
「もふらさま、何処まで行ったんだろうね〜」
 東の森から村の中へ。
 村で預かったもふらさまの好物を手に、望霄は楽しげな歌を歌いながら道をゆく。勿論遊びなどではなくて、興味を惹かれたもふらさまが出て来ないかという作戦だ。
「霜夜ちゃんは蛇とか蛙とか大丈夫?」
 望霄が霜夜に問うた。出たら出た時ですと答えた霜夜に、望霄は俺は平気だよと飄々と笑った。
 一見、何処から如何見ても楚々とした美少女の望霄だが、見た目の麗しさと内面の気風の良さは別物のようだ。
「居なくなってから結構時間が経ってるから、太郎ちゃん泣いてるかもしれないね」
 時折歌を止めて耳を澄ませてみる。何度目かでお囃子の終わりを知った。

「たろちゃーん。もふもふー?みんな心配してるよー」
 笛に合わせて鈴を振りながら、碧は可憐な声を張り上げた。
 はっきり言って至楽の笛は滅茶苦茶だ。だが不思議と不快ではなく賑やかで楽しくなる。時々眠気に負けるのか、音が途切れるのはご愛嬌。
「あれ?至楽さん大丈夫ですかー?」
 何度目かの音の途切れに碧が振り返ると、至楽は地面にしゃがみこんでいた。
「‥‥考えるな。感じろ!」
 何だか真剣だ!
 そこ!と指差した先にはアマガエル。畦道は平和だった――

(「太郎ももふらさまの事も‥‥きっと死ぬほど心配してるさぁね」)
 村の南を一人で探しながら、彼方は家族の事を思った。彼女は任侠一家の頭であり『父』である。孤児や身寄りがない者たちの親代わりとなっている彼方にとって、赤子の心配も家族の想いも痛い程伝わっていて。
 時間との勝負。逸る気持ちを抑えて丁寧に探す。出発前に聞いた、もふらさまが興味を持ちそうな場所や目立つ場所に立ち止まり、道ゆく人に尋ねてみる。
 笛で陽気な曲を奏でてみたが、草叢からもふらさまが出てくる気配はなかった。
(「仕方ない、一旦戻ろうかぁね」)

 村の北方を担当したのは桜と乃木亜だ。
 草原で手頃な草を摘み取った桜は、ぴーと鳴らしてみた。その素朴な音色に乃木亜が笑みを浮かべた。
「よかったね、と言えるように‥‥小梅ちゃんが笑顔になれるように、頑張りましょうね!」
 乃木亜は開拓者になる前に家族を失っている。アヤカシに殺されたのだ。
 だから残された者――小梅一家の事が気に掛かる。村に着いて松明の準備などを願う傍ら、自責の念に駆られてベソをかいていた少女の事が心配でならなかった。
 長い間の一人子状態から漸く授かった弟だと聞いた。お姉ちゃんと呼ばれて涙を堪えた小梅の為にも頑張ろうと固く誓う。
「はい。あ、村の人が言ってた小川が近いみたいです」
 二人は太郎ともふらさまの名を呼びながら近づいて行った。
 水浴びをしているもふらさまが見つかるかもしれない――だがそこにもふらさまの姿はなく、足跡だけが残されていた。注意深く足跡を観察して事故の形跡がない事を確認する。
「もふらさまが水を飲みに来たみたいですね」
 桜の結論に、周囲に生物がいないか探っていた乃木亜は胸を撫で下ろした。

●仕切りなおし、そして
 お囃子が一曲終わる頃、村の方々から皆が戻って来た。
 紙に大雑把に描いた地図に捜索済の地域を書き込んでゆきながら、互いの捜索地域の情報を交換する。
「東の森に入った様子はなかったよ」
「北の小川には来ていたみたいですけど、脚を滑らせたような感じはありませんでした」
 今の所危険な場所での痕跡は見つかっていないという報告に、一同安堵の息を吐いた。
「あとは‥‥この辺ですね。あたし、東南へ向かいます」
 霜夜が地図の未捜索地域を指して言った――辺りはもう、闇に近い。

「小川は北から西を通ってる‥‥及川さん?」
 立ったまま意識を手放しかけた至楽の首根を攫んだ碧は、未だ探していない小川を目指す。
「おーありがと‥‥方向音痴だから逸れたら死んでまうわ‥‥」
 二次遭難は避けたいところだ‥‥
 自分の顔をうにうに弄っている至楽を引きずって、碧は迷子の名を呼び続けた。
「はい、志士さん。出番」
 川岸に不審な足跡が残っていないか調べながら、至楽に心眼を促す。居眠りかと思うような集中の果てに、至楽は一言「いる」と答えた。
「たろちゃーん!もふもふー!」
 ここぞとばかりにちんどん鳴らしたその時。草叢から赤子の鳴き声がした!

「でかっ」
 至楽の第一声がそれだった。もふらさまは精霊力が凝固した生命体、大きさは色々だったりする。
 籠に近づこうとしない相棒に代わって碧が覗き込んだ。太郎は寝起きでぐずっているようだ。手早く外傷がない事を確認すると、碧は呼子笛を鳴らした。

「良かった‥‥」
 集合場所である小梅宅に先に到着した乃木亜は、籠付きもふらさまを連れた西方捜索者の姿を見て涙ぐんだ。
「迷いやがってこにゃろー」
 歩きながらもふらさまを苛め‥‥もとい労わっている至楽の様子に、遠目にも陰りは見られない。もう大丈夫よと小梅に笑いかけると少女にきゅっと抱きつかれた。
 緊張の糸が切れたようにその場へへたり込んだ母親に代わり、籠の中の赤子が心配で彼方が迎えに走り出す。慣れた手付きで籠から太郎を抱き上げると、あやしながら歩き始めた。
「犬神さん、慣れてるねー」
 実は安否確認の際に一度泣かれている碧だ。見真似で襁褓を当ててはみたものの一苦労だった事を、安心しきった表情の太郎を見て思い出す。
 太郎の頭を支えるように、己の鼓動を聞かせるように抱いた彼方は優しい笑みを見せて、小さな手に指を伸ばした。
「ほら、もぉ大丈夫だぁよ…お家に帰ろうなぁ」

●早乙女の唄
 翌日。
「泊めていただきましてありがとうございました」
 一夜の宿の礼を述べた後、霜夜は少し遠慮がちに「田の様子はどうですか」と続けた。
「今回の騒動で遅れているのではないですか‥‥?」

 そんな訳で。
 一同、神楽への帰還を少し延ばして、田植えのお手伝い。
 爽やかな風が流れる中を、村人に混じってへっぴり腰を披露しているのは至楽。どうやら眠気が来た模様で、豪快に顔から突っ込んだ。
 そんな様子をころころ笑う小梅の隣で苗を植えながら、乃木亜は本当に良かったと思う。その乃木亜の表情を同年代の桜は微笑ましく眺めていた。

「もふらさまも子守してくださいね♪」
 野原で居眠りを始めたもふらさまに霜夜が言った。
 今日一日、田に出られないほど小さな子たちを集めた即席の子守処を買って出たのだ。懐からお手玉を取り出すと、母から教わった歌と共に繰り始めた。
 その手さばきに見入る子供たち。
 望霄は、もふらさまに好物を与えて毛並みを掻くように撫でている。少女のような美少年に、開けっぴろげな子供たちは「男なの?女なの?」と問う。
「俺は綺麗なものが好きなだけだよ」
 ふうんと頷く子供たち。女の子は望霄の容姿に「お姫様みたい」うっとりしている。
「にいたん?ねえたん?」
 そして‥‥子たちが混乱している存在がもう一人。赤子をあやし襁褓を換えてと大忙しな彼方だ。ちっとも大変そうに見えないのは、彼女が心底子供好きだから。
「かいたくしゃ、ってひとは、おとこのひとでも、おんなのひとでもないの?」
 何だか大変な事を言われているような気がするが、碧は明るくそんなことないよと答えた。「みんなと同じだよ」と。

「いい天気ー」
 空は青空。暫く天気は安定するだろう。流れる白い雲を眺めて、のんびりと望霄が呟いた。