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■オープニング本文 どんな大きな事件でも、大抵の事件は時を経て人々に忘れられてゆく。 止まった時間、過去の出来事。 今、過去の事件が新たな波紋を生み出そうとしている。 罪人と呼ばれた彼らに心を寄せた、関係者らの働きかけによって―― ●序 あなたは覚えているだろうか――今から約三年前、天儀の転覆を図った者達が居た事を。 回天の企ては開拓者らによって阻まれ、彼らは投降し無人の儀へと流された。 後に『大神の変』と呼ばれる事となった歴史にも残されている大きな事件、しかしながら既に解決した過去の事件だ。 ときに今―― 浪志組は内部分裂していると言っても過言ではない状況にある。 ――流刑の囚人に対し、恩赦を求めて朝廷へ嘆願書を出すか否か。 そうした提案に賛成の意思を示す者もいれば、危惧したり寧ろはっきりと異を唱える者もいた。 当然だろう。世を騒がせた反逆の徒に対する恩赦嘆願である。 それに、これは多くの民にとって過去の事件であった。 罪びとは裁かれ事件は終わっている、何を今更という声もあるだろう。 あなたは――恩赦嘆願に、何を思うだろう。 ●叛くということ 神楽の都・港。 飛空船の発着場をはじめ、開拓者らの相棒繋留にも利用されている広大な港街を、男共が物々しく歩き回っていた。 黒地に赤のだんだら羽織――浪志組である。 飛空船が着陸できないよう発着場を占拠しようとしているようだ。 「固まるな。人が立っているだけで飛空船は着陸できん」 浪志組六番隊隊長・安田 源右衛門(iz0232)が、発着場全域に満遍なく人員配置するよう部下に指示を出している。 どこにでもいそうな中肉中背の男だったが妙に迫力があった。視えぬがゆえに気配を辿る――のだが、野次馬達の誰が隊長が盲目だと気付いたろう。 滅多に表に出てこぬ隊長格が物々しく指揮しているという異様な光景を、街の人々は遠巻きに眺めていた。 「局長のお友達の皆さんも同じで?」 「ああ。あいつらは藍可の代わりと考えていい」 この場合の『局長』は、筆頭局長である森藍可(iz0235)を指している。 彼女は武天の出身で、神楽に構えた私邸には故郷から連れて来た無頼共――もとい傾き者を大勢住まわせている。無頼と言えど元は有力氏族の次男三男で育ちだけは悪くない。彼らもまた藍可同様、主君に叛いた東堂らに強い嫌悪を抱いていた。 緊張しいしい無頼に近づいてゆく隊士を見送った若い隊士が、筆記していた手を止めて隣の源右衛門に問うた。 「隊長は‥‥いえ、隊長も、局長の代理なのでしょうか」 どういう意味だと、光を失った双眸が隊士を射た。 朽ちた瞳の迫力に臆さずに源右衛門をしっかと見据える、腹の据わった隊士の気配に表情を緩めて、源右衛門は淡々と答えた。 「俺は東堂一派はどうでもいいし、義やら忠節やら武家の美徳や精神論にも興味はない」 「では、恩赦嘆願には‥‥」 反対だ、と源右衛門ははっきりと返した。 正直なところ、浪志組にも東堂の人品人柄にも全く興味はない。藍可が理由にしたような義や忠節とも無縁だ。 しかし源右衛門には確固たる信念があった。 「俺は傭兵でな、契約は絶対だ」 「契約、ですか‥‥」 呟く隊士に頷く。物心付いた頃より戦地を駆けてきた源右衛門を支えてきたものが『契約』であった。 傭兵は、特定の主君を抱かずに金次第で一兵卒となる職業だ。どんな陣営にも付くし、ゆえに今日の敵軍が明日の自軍になる事も決して珍しくはない。 だからこそ優れた傭兵は交わした契約を決して違えたりはしない。今後の信用に関わるからだ。 「謀反とは、契約に叛くと同じだ」 東堂という男に興味はない、しかし信用はしないと源右衛門は言う。 信用できぬ人間の恩赦を、どうして賛成できようか。 理屈は通っていると隊士も思う。 だが――契約に叛かぬ事だけが絶対なのだろうか。 隊士は何処か割り切れないものを感じていた。 |
■参加者一覧
キース・グレイン(ia1248)
25歳・女・シ
アルマ・ムリフェイン(ib3629)
17歳・男・吟
叢雲 怜(ib5488)
10歳・男・砲
山階・澪(ib6137)
25歳・女・サ
神座真紀(ib6579)
19歳・女・サ |
■リプレイ本文 ●謬見の末 人々が、遠巻きに彼らを眺めていた。 上空を飛空船が旋回する港の発着場に、目立つ羽織姿は浪志組。 一部隊が出動する大事が港に発生したのだろうか。しかしながら、如何にも素行の悪そうな傾き者の若者らも部隊の駒のように見える。 何の理由で隊士と傾き者が結託しているのか街人らには全く想像もつかず、どうにも事情が飲み込めぬ人々は一体何が起こるのかと只々不安げに様子を伺っていた。 到着早々、状況を見て取ったキース・グレイン(ia1248)が苦い顔を浮かべて心中嘆息した。 浪志組が掲げた理念はどうした六番隊。これでは安寧を齎すべき天下万民に、不安を振りまいているではないか。 キースは浪志組所属ではないが、彼らが掲げた理念を体現する組織であって欲しいと願うし、その為であれば協力を惜しむつもりはない。 「こんな形で役に立つ機会は、来て欲しくはなかったんだがな‥‥」 一見して小柄な青年と印象付けられるシノビの彼女は、するすると人垣に身を割り込ませて源右衛門が指示を出している方向へと進んでゆく。 神座真紀(ib6579)が半ば呆れて独りごちた。 「全く‥‥何やっとんねん」 ギルドに届いた港封鎖の知らせで来てみれば、人垣の向こうに見えるは浅からぬ因縁の知己。 浪志組に義理はない、ただ藍可の側にいる都合隊長職に就いているだけだと言い放つ偏屈な男であった。ゆえに日頃は街の警邏を部下に任せて森私邸に籠もっていたはず。 その源右衛門が、隊を率いて港で何やら活動している。そのさまはまるで別人のようだ――が。 「んなこと思うてる場合やない。とにかく安田さんと話してみぃひんと!」 分厚い人垣の前で己に気合を入れて、真紀は野次馬を掻き分け始めた。 別の場所では、街人らを掻き分けて六番隊を目指して進む一人の隊士がいる。 「すみません、通してください」 澄んだ声、目立つ羽織に癖のない真っ直ぐな青い髪が印象的な女性隊士だ。その侵し難い佇まいに気圧された街人らが空けてゆく隙間に割り込み、着実に六番隊へと近づいてゆく。 穏やかな佇まいの中に野次馬をも退かせる気迫を秘めた隊士の名は山階・澪(ib6137)。しかし彼女は六番隊所属ではない。森派に属する四番隊隊長・中戸採蔵(iz0233)の後継たる隊長見習だ。 人垣を抜けた先で、澪は一喝した。 「四番隊隊長見習、山階澪です。直ちに港の封鎖を解きなさい」 凛と響いた声に、野次馬たちはもとより六番隊の一般隊士らの動きがぴたりと止まった。 年若い隊士など抜刀の構えさえ解いて直立不動の姿勢になる中、だからと言って場から殺気が消えた訳ではなかった。武天の傾き者らと源右衛門である。 「それは、藍可からの指示か?」 何の感情も伴わぬ淡々とした口調で、源右衛門は問うた。 まるで森藍可の命令以外は聞く耳持たぬと言わんばかりだ。応えに拠っては敵対も辞さぬといった様子の傾き者たちも従うつもりはないらしい。 (やっぱり安田さんやな‥‥) 二人の声が聞こえる範囲まで人垣を抜けてきた真紀は、相変わらず淡々とした源右衛門の口調に呆れを通り越して苦笑した。 おそらく、真紀が行って直球で要求したとしても、一筋縄ではいかない偏屈男からは同じ返事が聞けただろう。さて、どうしたものか。 一足先に人垣を抜け出たキースが、源右衛門に問うている。 「尋ねたい。浪志組は、何の為にお前らを置いている」 「さてな」 何を考えているのか解りかねる、表情の乏しい中肉中背の男。 こんな男が傭兵だの契約だのと自己満足に拘っているというのか。自身も傭兵育ちの身だけに、キースには源右衛門一派の行動が身勝手以外の何物にも見えなかった。 源右衛門の代わりに澪が浪志組の大儀を諳んじる。 「浪志組は尽忠報国の志と大義を第一とし、天下万民の安寧のために己が武を振るうべし‥‥この港の状況が、天下万民の安寧の為に振るう武ですか」 違う、と澪にははっきり言える。 言うなれば、これは私情。八丈島解放に難色を示す森藍可の嫌悪感に同調した傾き者らと共に、六番隊隊士らを巻き込んで源右衛門が起こした騒動だ。浪志組の総意で動いているとは、到底考えられない。 「全ての人々は、公正な交渉の結果、等しく港を利用する権利があります。あなた方は、その権利を踏みにじっているのです」 澪の言葉を聞いた野次馬たちが、そうだそうだと囃し立てる。それを制し、キースは怒りを押し殺すように言った。 「わざわざこんな騒ぎを起こして組織の信用を落として、それで根本的に解決できるとでも思ってんのか?」 八丈島流刑恩赦嘆願の件は浪志組内の問題だ。組内部のいざこざを屯所外に持ち出したところで何の解決も導き出さぬだろう。寧ろ源右衛門らがしている事は、世間に対して浪志組という組織の信用を失墜させる行為に他ならない。 「遣り方ってもんを考えろ。一般の迷惑なんだよ」 言葉を重ねる二人の前に立つ源右衛門の白濁した全盲の瞳に感情の色は浮かばない。元々が寡黙な男なのだが、こういう時に反応がないのは殊更に周囲を苛立たせるものだ。 苛々と交渉の終わりを待つ傾き者たち、そして不安げに成り行きを見守る街人たち――そこへ。 「安田のおっちゃん、船を降ろさせて欲しいのぜ!」 上空を旋回していた飛空船の一隻から声が飛んだ。 名指しで呼ばれて上空を見上げた彼らは、そこに八丈島から戻った飛空船に搭乗した叢雲 怜(ib5488)とアルマ・ムリフェイン(ib3629)の姿を見る。 色めき立つ傾き者たちの気配を片手で制して、源右衛門は視えぬ眼を空へと向けた。 ●嫌がらせ 会見を終えて八丈島から戻ってみれば、師の読みそのままに人だかりができていた。 さすが先生――などと師の慧眼に感心している場合ではない。飛空船が着陸できぬよう計算された人員配置。地上は暫しお預けだ。 操舵室へ向かったアルマと入れ替わりに、怜が爪先立ちで窓の外を眺める。 「はわ、これじゃお家に帰れませんのだ‥‥じゃ、なくて!!」 これでは八丈島で東堂・俊一(iz0262)が予想した通りではないか。目の端に渋い顔をしている真田悠を認めて、彼は気合を入れた。 地上に散開する派手な身なりの若者ら、あれはおそらく森私邸に住まう武天出身の傾き者たちだ。隊服着用で港を占拠する六番隊も隊長は森派の安田源右衛門、これ以上事態が大きくなれば、世間の浪志組批判はもとより派閥の領袖たる藍可の立場をも危うくしかねない。 (ここは何としても穏便に、丸く収めないといけないのだぜ) 真田派に恰好の口実を与えぬようにと、怜は青と紅の双眸を見開いて、地上を見据え思案する。 一方、操舵室へ向かったアルマは、ピリピリとした緊張の中で難しい顔をして地上を見下ろしていた船長に尋ねた。 「ご覧の通りだ。申し訳ないけれど少し滞空できるかな」 「それは構いませんが‥‥できるだけ早くお願いします」 船長の口振りが重い。先ほどから地上――港の管制側との連絡が取れないのだ。どうやら反対派らは管制室もしっかり抑えているらしい。 「わかった。船長、この時間帯に入港予定の飛空船はわかるかい? そっちにも交信を頼むよ」 港を占拠している浪志組隊士らと交渉するのに、多少の時間を要するのは間違いなかった。 幸い彼らが搭乗している船は燃料が充分残っているが、同時間帯に入港予定の他船もそうだとは限らない。中には着陸地の変更を余儀なくされる船もあろうから、空の事故を防ぐ為にも早めの交信を行う必要がある。 港へ交信を試みていた船員が分厚い航空網を繰り始める。きびきびとした慌しい空気が流れ始めた操舵室の、広い窓からアルマは改めて地上を見た。 発着場では浪志組隊服着用の者が数名、他に派手な身なりの若者らが睨みをきかせている。 (藍可ちゃんの関係者‥‥だよね) 森藍可の人となりをアルマは知っていた。そして武家の忠義を刷り込まれて育った武天の傾き者たちが今回の件で強い怒りを抱いている事も。 流刑の地で邂逅した、師を思う。 『もし叶うならば百年の後、私達の子孫がまだこの儀に留まり罪を償い続けるのであれば、その時には新たな儀への来訪を許可して頂きたい』 ただそれだけを願った、真っ直ぐで誠実で不器用な師、東堂俊一。 (僕は‥‥先生の言葉を、彼らに伝えなければならない) これ以上の争いは要らない。師はそんな事、望んではいない。 アルマは操舵室を飛び出した。客室を抜け、風渦巻く甲板に駆け上がると、そこには先客がいた。 懸命に源右衛門へ訴えかけている怜の隣に立ち、アルマは腹の底から叫んだ。 「話があるんだ! 管制室を交信可能にしてくれ!!」 ●誰が為に 地上に居た全ての者達の視点が空へと向き緩んだ人垣を真紀が掻き分けて進む。 「安田さん!」 漸く抜けた先で声を掛けると、源右衛門のみならず澪とキースも視線を彼女に向けた。 三者とも難しい顔をしている――交渉難航中らしい。言ってやりたい事は山ほどあるが、さてこの偏屈男にどんな言葉を投げつけてやろうか。 「‥‥何しとるん」 「港の封鎖だが」 しれっとのたまう表情の乏しい男の返しにキースの表情が強張った。 一瞬にして場が緊張に包まれた――その時、管制室の方角から六番隊隊員が駆けて来た。 「隊長、飛空船から交信要請が来ていますが、どうしましょうか?」 「受ける必要は‥‥」 「交信許可してください。行きましょう皆さん、ここでこうしていても埒が明かない」 源右衛門が拒否を命ずるより早く、澪が隊士に返してキース達に頷いた。 かくして、一同は管制室へと場所を移していた。藍可と近い出自の者らという事で、源右衛門には一部の傾き者の同席を要請してある。 「あのまま甲板上の方々と会話する訳にはいきませんから」 そんな事をすれば野次馬らに浪志組の内部分裂を晒す事になりかねないと言って、澪は八丈島から帰還した飛空船との回線を開いた。 ――安田のおっちゃん!? 繋がった途端、怜の声が聞こえて来た。焦りの色が伺える。 「安田源右衛門なら此処にいます」 澪の返事を聞いた怜の、安堵の気配が伝わってくる。 おっちゃん、と怜の声が語りかけてきた。 『俺ね、解放に賛成したんじゃなくて、藍可姉が怒ってるって東堂の兄ちゃんに伝えに行ったのぜ』 それを聞いた傾き者らが顔を見合わせた。彼らは解放賛成派が八丈島へ向かったものだとばかり思っていたから、怜の言葉は意外だったようだ。 『東堂の兄ちゃん、藍可姉らしいって言ってた』 「言っていた、ですか?」 澪が問い返す。過去形だ。そもそも東堂が乗船しているなら交信に出て来ても不思議はない。 アルマが疑問を引き取った。 『先生は、儀を出るつもりはないと仰いました』 ――という事は、今上空にある飛空船には東堂ら流刑者は乗っていないという事か。 『もし其処に藍可ちゃ‥‥森さんがいるなら、僕からも謝りたい。貴女方の怒りは尤もなのだから』 だけど――と、アルマが息を継ぐ気配がした。 ――隊を抜きにしても、占拠は拙いよ。僕ら浪志組の本分は、民の笑顔を護る事なんだから。 澪が頷いた。 尽忠報国の志と大義を第一とし、天下万民の安寧のために己が武を振るうべし――まさにそれが浪志組の本分だ。 安田、と澪は静かに語りかけた。 「港が私闘の道具にされて、誰が其処を利用しようと思いますか?」 今、源右衛門達が行っている事は私怨でしかない。個人の争いでケチの付いた場所が忌避されるのは、長屋の訳有空室の例を引くまでもないだろう。 「その切欠を作った私たちの信用は地に落ちる事になるでしょう」 「‥‥‥‥」 聞いているのかいないのか、相変わらず無言の源右衛門にキースが落ち着いた声で語り掛けた。 「お前、森の傭兵だったんだってな」 「‥‥今もだ」 言葉少なく源右衛門は返した。 浪志組という枠に嵌められた今でも、源右衛門は藍可の護衛のつもりでいる。彼が浪志組に在るのは、藍可の側に在るが為であった。 「森が浪志組の局長やってる以上、お前は民の為に在る事までが今の契約になるんじゃないか」 俺も傭兵育ちだがな、とキースは続けて組織の信用を落とす行為の危険を説く。契約で動くのが傭兵と言うのであれば、雇い主の不利になる行為は慎むべきだ。 「だいたい‥‥降りる場所なんざ、他でどうにでもなるだろうによ」 「そらそうやな、飛空船は水上で離発着するんやし」 だから港は海沿いに作られる訳で。 真紀の突っ込みに傾き者らが苦笑する。 「なんだか馬鹿らしくなってきたな、なぁ安田の旦那?」 「そろそろ引き際じゃねぇかな」 この場に藍可が居たならば――おそらく彼らと同じ事を言うだろう。 なんとなく、そんな気がした。 * それからの行動は早かった。 傾き者らは早々に引き上げたし、浪志組は団結して野次馬整理にあたった。 「警戒態勢は解かれました。皆さんも早く解散してください」 何があったのか尋ねたがる街人もいたが、その辺は危険物設置の誤報があったのだ等と適当な説明をでっち上げておく。 隊士達が奔走する中、源右衛門は管制室にいた。人員整理に不向きな男の側には真紀がいる。 「あたしは東堂さんて人はよう知らんし、あの事件にも関わってないから詳しい事情も解らへん。けどな‥‥思うんよ。叛くには叛くだけの理由があったんちゃうか、って」 真紀は、かつてギルドの依頼に叛いた事があった。殺害を請け負いながら依頼人を欺き対象者の幸せを優先させた。 「あた‥‥依頼請けた友達は、契約に叛いたこと後悔してないんよ。その人と相手の幸せな姿、見れたからな」 「神座‥‥」 源右衛門は静かに詫びた。真紀が何の話をしているのか、彼には痛いほど解っていた。 信用を裏切ってまで己と妻の幸せを優先してくれた、開拓者達。その恩は生涯忘れるべくもない。 「本当に俺は‥‥何をやっているのだろうな」 皆それぞれに信念に従って生きている。なのに契約という言葉に縛られて片手落ちの行いをしていたのは己の方ではないか。 すまん、と源右衛門はもう一度詫びた。 飛空船の客室の窓から真田悠が港の喧騒を眺めている。 「一件落着、ですかね。さて、屯所には入れて貰えるんでしょうか僕達」 「まぁ何とかなんじゃね?」 肩を竦める天元 恭一郎(iz0229)を他所に、真田はおおらかに言ったものだ。 局長たる自分が出張るまでもなく、屯所の門戸は開かれるに違いない。 東堂の為に奔走し、浪志組の分裂を阻止すべく心を砕く開拓者達――彼らの信念と真心に、越えられぬものなどないのだから。 |