【奇風】相棒
マスター名:白銀 紅夜
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/09/24 08:41



■オープニング本文

●来る、相棒

 ――あなた方は捕らわれた――

 冷たい石造りの部屋は、外界と内部の状況を遮断している。
 何度も扉を調べてみたが、扉は沈黙を保ったままだ。
 高い場所にある、空気と光を入れる為の四角い穴からは、人間が外に出られるとは思えない。
 アヤカシを連れた、人間があなた方は此処で死ぬのだ、と世界征服だの何だのと、外から口上を述べていたが……。
 アヤカシの手の上で踊っている事に、何故、気付かぬか。
 人の形をしたアヤカシは、まるで慎ましやかな貴人のような高貴さを以って口にした。

 ――彼等を捕えなければならぬと。

 何かしらの対策を考えねば、恐らく食事を与えず弱らされたところを喰われるだろう。
 窓があって助かった、と開拓者達は思った……光の有無によって、人間が狂う時間には大きな差がある。
 遠くでいななきが聞こえた、随分と賑やかだとあなた方は思ったが、続いて得体の知れぬ心のざわめきを感じて、かわるがわる窓を覗いた。
 そこに立つのは、自分達の相棒であった――随分と殺気だっているようだが、誰がこの場に連れて来たのだろうか。
 と考えを巡らせば、大丈夫かぇ、と大きな声が響く。

「――っと、大丈夫じゃぁねぇから、来たのか」
「袖振りあうのも……でしたか。加勢しませんよ?」

 派手な服を着て、ギルドの羽織りを着崩したギルド調べ役の喜多野・速風(iz0217)と、その横にいるのは水に墨を溶かしたかのような墨色の瞳が印象的な子供だ。
 少年か、少女か――少女にしては線が太いので、少年かもしれない。
「おーい、聞こえるかぇ?おめーさん達、おめーさん達の相棒が騒ぐからよ。連れて来たんだが……おい、やるのかぇ?」

 外では既に剣戟の音が聞こえてくる。
 相棒は指示を待っているのだろう、あなたは指示を出す為、口を開いた。


■参加者一覧
海神 江流(ia0800
28歳・男・志
キース・グレイン(ia1248
25歳・女・シ
皇 りょう(ia1673
24歳・女・志
アーニャ・ベルマン(ia5465
22歳・女・弓
リエット・ネーヴ(ia8814
14歳・女・シ
龍馬・ロスチャイルド(ib0039
28歳・男・騎


■リプレイ本文

●集え、相棒
 誰が一番最初に、騒ぎ出したのかは分からない……ただ、漠然と予感がしたのだ。

 ――主が危険だと。

 喜多野・速風(iz0217)と少年の協力を得て、終結した開拓者の相棒達。
「主…無事?」
 少し離れた場所から、主の居場所を直感的に察した、からくりの波美は捕らわれているであろう、海神 江流(ia0800)へと声をかけた。
 鋼鉄の精神で、烈火の様な怒りを青き炎のような闘志へと変える。
「情けない状況だけど、今の所はなんとかな……頼めるか?」
 苦笑気味に返って来た海神の言葉に、波美はゆっくりと頷いて、相棒銃「テンペスト」を手にする。
 心の中の怒りを、海神は知らないだろう……。
「任せて。1500秒もあれば十分よ」
「こんな状態では助けを待つしかないのだが、何故か嫌な予感しかしないな……」
 頭を抱えながら呟いた、皇 りょう(ia1673)の横で、大丈夫大丈夫、とリエット・ネーヴ(ia8814)はあっけらかんと笑う。
「姫様ー! 小次郎がお助けに参りましたぞォーーーッ!!」
 響き渡る、武蔵 小次郎の声、皇の相棒である……二刀を手にした老いた姿のからくりだ。
「囚われの身というだけで情けないのに、天はさらに辱めるおつもりなのか」
「姫様、どこにおいでですか!? ひ……おぶぁっ!」
 渾身の力で小石を窓から投擲した皇、武蔵の額に的中させると、ぜぇ、と息を吐いた。
「姫様と呼ぶなと、日頃から言っているではありませぬか!」
「五月蠅い爺さんだな……おい、小娘。死んでるのか」
「う? おとーさん、私は生きてるじぇ!」
 思わず、武蔵にハリセン(自作)を振りおろしそうになった、ネーヴの相棒、からくりのおとーさんはネーヴへと声をかける。
 腕を組んだり、小石を無意味にめり込ませたりと忙しい……。
「主も主が、心配なんじゃの。しかし、姫様もお労しく――ハッ。もしや囚われの間に、悪漢にあ〜んな事やそ〜んなこ……ひでぶっ!」
「心配などしていない!」
「もう色々諦めますから、今はこの場を何とかして下さい! 皇家の家臣として!」
 皇とおとーさんにツッコミを入れられて、武蔵は額を擦りながら勿論ぢゃ、と呟いた。
「ぐる……」
「――ああ、グレイブ。そこにいるのか――頼めるか?」
「ぐる」
 バサリ、と翼が宙を切る音がする……キース・グレイン(ia1248)の相棒である甲龍グレイブは、力強く頷いた。
 任せろ――と言いたげにその瞳が光る。
「喜多野……か。すまない、助かった。恩に着る」
 グレインの言葉に、速風は笑った。
「帰ったら、酒でも奢ってくれぃ」
 その言葉に苦笑で返し、グレインは思考を巡らせる。
(「ある程度離れていても従っているということは、アヤカシ側に間接的に手を下せる手段があるということだろうか……」)
 とは言え、自分達の相棒に対して対策を施した様子はない。
「アーニャが捕まったか……。しょうがねぇな、助けてやるか」
 アーニャ・ベルマン(ia5465)の相棒であり、自称、猫エージェントである猫又のミハイルは、くい、とサングラスを上げニヒルな笑みを浮かべた。
「まさか、こんな形で恩返しが出来るとは……不謹慎だが嬉しくなるな」
 ラフィットさん、任せましたよ。
 そう、主である龍馬・ロスチャイルド(ib0039)の信頼を受けて羽妖精のラフィットはキリリとした表情で敵を臨む。

 ――主達は無事、ならば、今、絆の強さを見せつけん。

●剣劇の音は近く
 何を考えているのかは分からない……が、当面の脅威は鬼火玉だろう。
 そう、開拓者達から指示を受けた相棒達は、一般人を対処する者と、鬼火玉を対処する者に分かれた。
 妖しげな術を紡いでいる陰陽師は、何かあるのか、その場からピタリと動かない。
アヤカシの方は、しなやかな肢体を投げ出して見物と言いたげな様子だ。
 人間の足の部分に当たる場所が、何やら蠢いている……明らかに『人間』ではない。
「流石に、この状況から鍵を取りに行くのは無理だろうな――」
 ミハイルもグレイブに釣られて陰陽師とアヤカシを仰ぐ……尤も、扉を開ける為の『物』が、鍵の形状をしているかどうかは、怪しいものだが。

「アヤカシと陰陽師は私達が何とかする! だから、暫く大人しくしててもらえないか?」
 ワラワラと集まって来る一般人達、野良着に鍬や鋤を手にしているところを見ると、農民だろうか?
 ラフィットの横を、農民の鍬が切り裂いた。
 咄嗟に身を翻したラフィットだが、その表情が曇る……無駄な戦いなどしたくない。
「お前ら俺の仕事を邪魔するんじゃねぇ。ここにいるアヤカシと陰陽師をやっつけてやるからよ、おとなしくしてろ」
 幻惑の瞳で易々と絡め取ったミハイル、そしてフッ、と不敵な笑みを浮かべた武蔵。
「しかしこの様子では、大人しく主君を返してくれる気は無さそうですな。よかろう! ならば戦争ぢゃ!」
 対の刀で一太刀、鍬を斬り捨て返し刀で一般人の鳩尾に一撃。
「ふっ、峰打ちぢゃ――この二刀は錆びておらんぞ! ハッハ!」
「邪魔をしないで頂戴……」
 ズゥーン、と迷うことなく引き金を引いた波美が、青い髪を靡かせながら睥睨する。
 そして、半地下の建物の上で高みの見物と洒落こむアヤカシへと言い放った。
「恐怖で男を支配するなんて、三下もいい所。女は知性と愛嬌よ」
(「銃撃は――恐怖以外の、何物でもないとは思うが」)
 思わずツッコミを入れたくなるおとーさんだったが、怒らせると怖そうなので黙っておく。
「お黙りなさい、そこのガラクタ人形、あなたの主を食い散らかしても構わないのよ? 人間の恐怖の美しさ、それはとーっても肌に良いの」
 腕を伸ばして貫こうとするアヤカシの腕を払い、追撃を覚悟する波美だったが、その前にグレイブが間に入る。
 巨躯を活かし、硬質化で身を固めると尻尾で払った。
「助かったわ」
「ぐるる――」

「っつうか、お前らこれだけ人数そろっていて志体持ちもいるってのによ、アヤカシ一体と陰陽師一人に何で好きなようにされてんだよ。少しは俺達を見習え!」
 ミハイルの言葉に、農民たちは申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「あ、怪しげな術を使うんだ!」
「れれれ、歴戦の、陰陽師に、かなわねぇ」
「……思った以上に、士気が低いな」
 容赦無くバシバシと農民達の足元や手を狙い、自動装填で装填しながら獣剣で鍬を斬り捨てるおとーさん。
 後背からの攻撃は身を翻し、相棒銃で受け流し、喉元スレスレに獣剣を突きつけた。
 へたり、とへたり込む農民を放置したまま、次の敵へと移る……味方が足止めをしている間、ミハイルはラフィットと共に鬼火玉へと攻撃を仕掛けた。
 だが、鬼火玉も高速回転をしながら業火球で炎を放つ。
 水分を失った枯れ草に炎が飛び散り、燃え盛る――ハッ、と笑ったミハイルは鎌鼬を放つと、ラフィットと共に獣爪「氷裂」で切り裂いた。
 自己修復で修復しながら、戦い続ける鬼火玉……当然ながら、見物だけで終わるはずもない。
 アヤカシの腕が伸び、ミハイルを掴むと地面へと叩きつける……グレイブがその下に入り込んで受けとめるが、傷は深い。

「アヤカシが怖いなら、戦えない、逃げ出しても仕方ない口実を作ってあげる。それでも死にたいなら、好きになさい……」
 そのまま、寝ていなさいな。
 そう言って冷たく口にした波美は、峰打ちで農民の意識を奪っていく。
「ふむ。此方は大丈夫そうぢゃな」
 流石、ワシぢゃ、と一人納得する武蔵にツッコミを入れる事無く、おとーさんは鬼火玉に向かって引き金を引いた。
 相棒銃が穿つのは、ラフィットの付けた傷口だ。
 自己修復で揺らめき、傷を修復し始めた鬼火玉はふるふると震え、痛みに声無くも戦慄く。
「……これで、仕留める!」
 紅葉のような赤の身体を持つ羽妖精が、力強い動作で地を駆けた。
 躍動する四肢と、そして自分の体長程度を軽々と飛びあがり、鬼火玉へと斬りかかった。
 獣爪による斬撃は、傷口を更に広げ痛みを与える――業火球を放った鬼火玉だったが、傷に震える中で、主の冷たい言葉を聞いた。

「――止めよ、死してもな」

 綺麗な花火が上がる。
 咄嗟に翼を広げたグレイブの下で、ミハイル、ラフィット、おとーさんはその炎から逃れる事が出来たが。
「ふ、服に移ったじゃないの……! あ、でも主が新しい服を――」
「姫様ー、服が燃えてあら、恥ずかし……ごふぁっ!」
 遠くで波美と武蔵が喚いていた――そしてその横で野良着に付いた炎に焼かれ、転がりまわる農民達。
 それにあわせて、痛みに耐える低い唸り声がグレイブの口から洩れた。
 居てもたってもいられず、爪を立てて高い窓に張り付き、グレインはその姿を目に焼き付けた。
「今は、お前を信じる……だから」
 ――微力でも良い、この信頼が力になるのなら。

●野望は……
 もう一方の鬼火玉に向かって、おとーさんが銃撃を放つ。
 充満する火薬の臭いと、そして枯れ草達が燃えていく臭い。
(「全く、それもこれも、小娘が大人しくしないからだ……」)
 決して彼は認めない、心配と言う心の動きを。
 武蔵の放つ双刀での斬撃が、鬼火玉に傷を付けていく。
 業火球で応戦する鬼火玉だが、波美とおとーさんの銃撃を浴びて散った。
 遠くを見れば、農民たちは、速風が撤退の手助けをしているらしい……問題はないだろう。

「――あれだけの人間を従わせてたんだ、気を引きつけられないか?」
「わかった。話しかけてみよう」
 ミハイルとラフィットの間で、小さく言葉が交わされ、ラフィットが声をあげた。
「おまえ達の目的はなんだ?」
 自分に話しかけられた、と気付いたのかは分からないが、陰陽師は何度か瞬いた後、ゆっくりと口を開いた。
「これはー、世界征服の一歩なんですよー。アヤカシ、そうです、アヤカシが問題です」
 何度か繰り返した陰陽師は、アヤカシ、と呟いてもう一度、口を開いた。
「アヤカシもー、また、世界の理。ならばー、強い者にね、抗うのはね、無駄なんですよ。そう言う、無駄な人間がね、僕は許せない訳なんですよ」
「……その怪しげな術、何か力を削ぐものか?」
「まさかそんな。そんなまさか、これはですね、これはー」
 と、喋ろうとしたところで、陰陽師がラフィットへ向かって術を放った。
「く――っ!」
「そんな、誘導尋問にー、乗りません」
 傷ついても尚、誇り高き騎士の魂が傷つく事はない。
 地を蹴り、一直線に向かう……一直線に伸ばされたアヤカシの腕は、波美とおとーさんが光輝刃で切りつけている。
 避け、そして陰陽師へと爪を振りかぶった。
「覚悟……っ!」
「駄目ですよぉ、ねぇ――?」
 陰陽師が粘着質な嗤い声を上げながら、腰の小刀を振りあげた。
 そして、振り下ろす前に、崩れ落ちた――血飛沫を上げながら。
 陰陽師は身体の小ささを活かし、爪を立てたミハイルを横目で見、そしてミハイルに向かって術を放つ。
 サングラスが割れ、不敵な瞳が覗いた。
「宜しくない……宜しくないですよぉ」
 自分を治癒しながら、ぶつぶつと呟いた陰陽師は突如、大声で嗤いだした。
「でもですね、僕を倒してもですね。決して扉は開かないんですよ。この術がある限りですね、その内、中から瘴気が出て死に至るんですよ」
 幸福です、幸福です、と続ける陰陽師が弾け飛んだ――弾き飛ばした、グレイブがぐるる、と低い唸り声を上げながら爪を立てる。
 ヨタヨタと立ちあがった陰陽師は、何か術を唱えようとするが……。
「止めだ!」
 ラフィットの爪が、彼を永遠に黙らせるのだった。

 一方、アヤカシを相手取る波美と武蔵、そしておとーさん。
 鎖分銅をアヤカシの腕に巻き付けてみる武蔵だったが、アヤカシの腕が縮むと同時に引き摺られる。
「にょ、女人の姿をしておるが――!」
 趣味ぢゃない、と騒ぎたてる武蔵……彼は知らぬ事なのだが、皇は半地下の建物の中で頭を抱えていた。
 その横を遠慮なく、バシバシと撃ち抜いていくおとーさん。
「大丈夫だ。当てはしない」
 武蔵をアヤカシが盾にしようとすれば、制限解除も使いつつ、撃ちながら徐々に向きを変えていくと変化を見せる。
「この武蔵を抱きこもうなぞ、千年早いわ!」
 鎖分銅から手を離した武蔵が、アヤカシの腕を弾いていく。
 ジリジリと半地下の建物から撤退を始めるアヤカシに、逃がすものか、と波美が銃撃を放った。
「見苦しいわよ」
「ガラクタ風情が、知った口を聞くんじゃないわ」
 着物の下から、テラテラと輝く膚を見せながら、アヤカシは無数の『手』を放った。
 ナメクジの様な独特の湿り気を帯びたそれは、火薬を湿らせ、おとーさんと武蔵を貫き、波美を弾き飛ばした。
 続いて、瘴気が弾丸のように吐き出される。
 ……ぐらり、と傾ぐ3体のからくり、陰陽師を倒したミハイル、ラフィットが追撃に回る。
 それを瘴気の弾丸で牽制しながら、アヤカシは既に人の形を止めた下半身に力を入れ、渾身の力で離脱を計る。

 ――が、それに気付いて空を舞う、グレイブ。

 上空から降下の勢いを乗せて、アヤカシの身体に覆いかぶさるようにしがみ付いた。
 立てた爪はアヤカシの膚を裂き、噴き出す瘴気にグレイブは戦慄いたががっしりと組み合って、不動を貫く。
「よし、決めるぞ!」
 ミハイルが飛びかかり、波美とおとーさんが光輝刃で切りつけ、武蔵が上段から下段へと刀を振り下ろした。
 ラフィットの爪が首にしっかりと食い込み、アヤカシは苦悶の表情で、事切れるのだった。

●開かない扉
 傷だらけのお互いを見ながら、相棒達はどうしたものか……と頭を悩ませる。

『僕を倒してもですね。決して扉は開かないんですよ。この術がある限りですね――』

 陰陽師の言うとおり、決して扉は開かなかった。
 揃って半地下の建物をじっくりと眺めてみたが、ツルリとした建物は継ぎ目のないように見える。
「……仕方がない、壊すか。あの小娘なら無事だろう」
 アッサリと決めたおとーさんに、待った、の声が入る。
「ちょ、ちょっと。私の主に傷が付いたら、どうするのよ」
 波美の言葉に、それは尤もだが――と、おとーさんは同意するが埒が開かない事も、同時に告げた。
「うむむ、儂は粗忽者だからの。さて、どうするか」
「俺一人だったら、出入り出来るんだがな……おい、アーニャ、何かいい策はないか?」
 ミハイルの言葉に、はい? と慌てて顔を出したベルマンは少し考え……。
「わかりません! でも、何度か体当たりしましたが、開きませんでしたよー。外から、鍵がかかるみたいです」
「人間に聞くか」
 ベルマンの言葉に頷いたミハイルは、仕方がない、と頷いた。

「ああ……ヒィ?」
 有り難や、有り難や、と陰陽師とアヤカシを倒した事を告げれば、農民たちは有り難がって頭を擦りつけ――。
 波美を見て、戦慄した――まだ、峰打ちの傷が痛むのだろう。
「何か、術を破るものとか……どうしたら開くのか、知らないか?」
 ラフィットの言葉に農民は暫し首を傾げたが、思い当たる事はなさそうだ。
 それよりも、珍しい羽妖精に興味があるのか、有り難い有り難いとラフィットを撫でていく……自分勝手なものである。
「術があるんだったら、解呪の類がある筈さね。二つの建物に何か……」
 農民達の手当てをしていた速風が、波美の肩に手を回そうとして払い落された。
 相棒達の冷たい視線を浴びつつ、ごほん、と咳払いを一つ――そうして注目を集めてみるが、それは少年によってぶち破られた。
「解呪の札がありました。此方の目的は済みましたし……」
 少年の手に『何か』があるようで、速風は口を開き、だが其れよりも早く、解呪の札を手にした相棒達はその場を去る。
 ――何やら、二つ分の口論が聞こえてくるが、それは預かり知らぬところであろう。

「開いたな」
 精霊力を感じながら、呟いたミハイルがよう、と気安い口調で笑う。
「よう、アーニャ、元気……そうじゃないなぁ。俺達に感謝しろよ」
「は〜、一時はどうなるかと思いましたよ。ミハイルさん、ありがとうございました」
 ベルマンがミハイルの頭を撫でながら、捕らわれの身も疲れますね〜と息を吐いた。
「撫でられて喜ぶ俺じゃねぇ。マタタビ酒、忘れずに用意しておけ」
「おお、姫様。お労しい。ところで、今回の遠征費が……ほれ、このように」
 何処からともなく算盤を取り出し、弾いた武蔵が皇に詰め寄り遠征費を要求する。
 財布を覗きこんだ皇は、武蔵から視線を逸らし。
「…………ツケておいて下さい」
「おとーさん! 助かったじぇ〜♪」
 大喜びで抱きついてくるネーヴに無言で無数のチョップを浴びせるおとーさん、横には傷ついた主を無言で背に乗せるグレイブ。
「信用していた」
 その言葉に、グレイブは嬉しそうに小さく鳴き声を上げる。
「タツマ、無事でよかった」
「ええ。ラフィットさん、ありがとうございます――」
 握手しあう、ロスチャイルドとラフィットの横を、主! と叫んで波美がすり寄った。
「私が一番の相棒よね、ほら、服も汚れてしまったけれど」
 全て、主の為! と海神に詰め寄る波美、それを苦笑して流しつつ、助かった。
 そう言って、海神は軽く波美の頭を撫でるのだった。

●後日談
 ボロボロになった開拓者と相棒達は、直ぐに傷の治療を受ける事が出来た。
 何でも、速風が手配したらしい。
「んまぁ。依頼人が悪かった――ってェ言っても、調べ役の力不足は否めないけどなァ」
 ガリガリと頭を掻きながら、相棒達の冷たい視線を受けつつ、速風はタダ茶を振るまう。
「開拓者とギルド、持ちつ持たれつ。この茶で勘弁してくれぃ」
 そう言って立ちあがった速風の手には、花があった。
 死者に供える様な、慎ましやかな花だ……誰か、亡くなったのか、と問う開拓者へ、速風はゆっくり頷く。
「おめぇさん方が、相手にした敵じゃァねェ。新人の調べ役さね、遺体が見つかった……ってェ言っても、調べ役もグルだったなんて話が……と」
 此処だけの話さね、と彼は言って、去って行くのだった。