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■オープニング本文 ●北條の修練場から 「まだ、時間がかかりそうですか……」 鍛錬場を踊るように歩きながら、北條・李遵(iz0066)は腹心である藍玄に向かって口を開いた。 「そうですね。幼い時から氏族の技術を仕込まれた者へ、教える訳ではないので」 藍玄は手渡された手ぬぐいに血が付いているのを確認し、若干、腐臭がする事に顔をしかめて新しい手ぬぐいを取りだした。 以前、自身の氏族の揉め事に巻き込んだ出来事から、自身の氏族の滅亡まで。 それを見届けて思い立ったのが、氏族の技の伝授だったのだが、何しろ幼い時から身体そのものを作りかえられたシノビとは違う。 術の指南とはまた違ったやりがいに、珍しく藍玄は笑みを浮かべた。 元々、前線で戦うよりも指南役として技術を磨いてきた人間である、やりがいを感じない訳がなかった。 「ところで――裏千畳についてです。諏訪の陰険眼鏡が動き、鈴鹿の坊や、名張の爺まで動いた。北條は幸いにして、発注をした職人は健在の様ですが、足が痛いと――」 「薬をお分けするのですか?」 「……いえ、裏千畳の人間ですよ、相手は。それだけで認めるとは思えません」 裏千畳は暗器作成において、最高峰の技術を持つ氏族だ。 どの氏族にも介入せず、また、下手に取り込もうとすると他の四代氏族や慕容王を敵に回す。 利益に目がくらみ、北條列氏氏族の長が何度その技術を盗もうと企んだかは、彼女自身も把握していない。 その度に、北條の頭領は追い忍を刺し向け、消し去ったと言うが――。 本当に、その里長だけのたくらみなのか、それは判らない……反乱分子を数多抱えているような北條のシノビの、心まで縛る事は出来ない。 首を取りに来る人間を斬り捨て、たくらみの芽を摘んで、力で懐柔させたその頂点に彼女はいる。 「勿論、北條へも試練が架せられていますが……と言っても、北條の場合は身から錆なんですが」 「――貴女の監督不行き届きでは?」 鍛錬場の草を毟り、乾き切った砂を撒き散らした草の根を突きながら、李遵は楽しげに言った。 「だって、北條ですもの。各々に任せるのが、私達のやり方なんです。第一、力を認めさせるのであれば、手段なんてどーでもいいじゃないですか」 やれやれ、と視線を移し、無残に踏みにじられた草を視界に入れ、空に視線を移す。 遮る雲も無く、太陽は照りつけ全てを焼いていた。 「まあ、足が痛くなる前に、五臓六腑が悪くなったようなので何とかしたいと思います」 さっき、健在と言っていなかったか、と聞き返したくなるが――藍玄は既に慣れているので文句は言わない。 だが、キリキリと痛み始めた胃を押さえつつ、依頼料は自分の稼ぎで支払ってくれ、と思う。 「丁度、薬草も切れていたし――魔の森で、北條流、ぶーときゃんぷです」 何故魔の森でする必要があるのか、確かに薬草は貴重なものらしいが――何時ものように諌めようとして、やっぱりやめる。 どうせ、いざという時にしか動かないのだから、いざという時まで放っておけばいい。 傀儡のように動かされていたって、本人は文句がないのだろう、文句があれば力づくでも言いにくるに違いない。 ――とは、思っていても、やはり、藍玄は苦渋に満ちた表情で言った。 「何時か、寝首を掻かれますよ。それから、おやつは300文までです」 「『甘刀「正飴」』を持って行けないじゃないですか……」 妙に悲しげな言葉に、そこが大切なんですか……と藍玄はため息を吐きつつ、目から流れた汗を拭きとるのだった。 |
■参加者一覧
水月(ia2566)
10歳・女・吟
からす(ia6525)
13歳・女・弓
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎
リエット・ネーヴ(ia8814)
14歳・女・シ
利穏(ia9760)
14歳・男・陰
溟霆(ib0504)
24歳・男・シ
蓮 神音(ib2662)
14歳・女・泰
長谷部 円秀 (ib4529)
24歳・男・泰
笹倉 靖(ib6125)
23歳・男・巫
バロネーシュ・ロンコワ(ib6645)
41歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ●普通の境界線 「ま、要は夏らしくキャンプしようぜって話なんだろうけどね。場所が致命的に合わないが」 目の前に広がる魔の森、竜哉(ia8037)がバッサリ一言で斬り捨てた。 通常の感覚を持っている人間なら、魔の森でキャンプをしようなどとは思わないだろう。 「はいっ!! 梅干は、おやつにはいりますかっ!」 「入りません。よく腐らないものを選びました! が、300文を超える分は没収です」 シュパッ、と手を挙げて問いかけたリエット・ネーヴ(ia8814)に、今回の依頼人、北條・李遵(iz0066)は没収です、と何処かから籠を出した。 理不尽な事甚だしいが、李遵からの依頼と言えばそんなもんだ。 「……ぶーと、きゃんぷ? 北條氏族は、魔の森での薬草取りの事を、そう言ったりするものなのでしょうか」 利穏(ia9760)と同じく、ぶーと、と首を傾げた水月(ia2566)は何が出来るだろう――料理も出来る訳じゃないし、と眉尻を下げる。 からす(ia6525)がその不安を察したのか、微笑み、口を開いた。 「気にするでないよ。得意不得意はある」 こくり、と頷いて大きな目を瞬かせた水月の横から、頑張ろうね、と声をかけるのは蓮 神音(ib2662)だ。 「絶対、三日間生き延びてやるんだよ!」 気合いも十分、そんな彼女とは対照的にバロネーシュ・ロンコワ(ib6645)は、肩を竦めた。 「シノビ頭領から依頼されて参ったら、過酷環境でシバキ上げですか」 その通りです、と李遵が李遵教官殿と呼んで下さい、と何やら強調しているがそれは華麗にスルーする。 水袋に水を満たした笹倉 靖(ib6125)が、水はおやつじゃないよねぇ、とへらり笑った。 「もふらの水袋……水漏れしない優れ物だよー」 いいだろーと子供のようにヒラヒラさせた笹倉の水袋を、李遵が狙う。 「もふらさま! いや、笹倉様それを私に下さい!」 ちょっと目が本気になっているのに気付いて、長谷部 円秀 (ib4529)が後ろから。 「ぺたん娘って呼びますよ!」 「ぺたん娘言うなー!」 ……貧乳についての言葉には速かった。 「おぉー♪ ふかいだ、ふかい。……フカイに手を出してはならぬ」 「長靴いっぱい食べたいよー」 遠い目をしたネーヴと李遵が意味不明な事を口走る……もう錯乱状態に陥ったのだろうか。 その横では、腹ごしらえとばかりに、兎月庵の白大福を口の中に放り込む利穏。 「流石に美味しい、これなら幾つでも――いえ、これは生き残る為の貴重な栄養摂取です。それにしても、喉が渇きますね」 早めに水源を見付けたいですね、と真っ当な事を言っているのだが、大福喰いながらなのであんまり説得力がない。 「まあ、こうして和気藹々と言うのも悪くはないね。藍玄君は胃が痛いだろうけど」 珍しく平和だ、と溟霆(ib0504)が珍しく、を強調しながら言った。 とりあえず、アヤカシは食べ物でないので除外するとして、ケモノや普段口にする木の実や薬草、と言ったところか。 水源も、汚染されている可能性は無きにしも非ずだが、瘴気感染は後に解除が行われるので問題ないだろう。 「どの辺りまで踏み込むつもりだ?」 竜哉の言葉に、ふかいふかい、と口走っていた李遵がああ、と頷いて言った。 「入口から入って、どっかその辺りでキャンプです。適した場所を見つけないと、後々大変ですよ」 どうやら、厳密には決まっていないらしい。 なんだかんだと言われて、魔の森の奥に連れていかれなくて良かった、と言うべきか。 そして、開拓者よ。 この依頼に参加した時点で『魔の森でキャンプする』通常の人間とは違った感覚の持ち主になったのだ。 ●キャンプ開始 魔の森は昼間に於いても薄暗く、やはり不穏な空気を漂わせていた。 「本格的な陣を張っても問題はなかろう?」 「おー、じゃああの辺で」 やる気なさそうに返事をした笹倉が、少しばかり高所である場所を示す。 丘などは付近にはなさそうだが、起伏は存在しているようだ。 「水はけも……悪くはなさそうですね」 ロンコワの言葉に、少し見て来ます、と長谷部が動いた。 「ちょっと待ったー。呼子笛持って行って!」 蓮の差し出した呼子笛を受け取り、ありがとうございます、と礼を一言。 既に陣を張る為、からす、ロンコワ、笹倉は準備に入っている。 「俺、力作業向いてないんだよなぁ」 時折、笹倉が肩を回しながら呟いた。 排水の為の側溝掘りを行い、二重に鳴子をつるす。 草を刈り、或いは結んで罠を仕掛け、落とし穴も掘る。 水月が身軽な動作で、手ごろな樹へと登ると周囲を見回す。 「あやかしさん、北から来るの」 カタカタカタ、鳴子が鳴り、アヤカシがぬ、と姿を現した――が。 「かかったようだよ」 にやり、嗤うからすが落とし穴を見、そして矢を放つ。 這いあがって来るアヤカシに向け、ナイフを放った笹倉、そしてロンコワが杖を叩きつけた。 水月は樹から滑り降りると練力消費の無い、荒鷹陣で驚かす――まるで、威嚇する猫のようで愛らしい。 そしてぺし、と布を翻して叩きつけた。 「ん〜、スキルが使えないと辛いの」 瘴気に還ったアヤカシを見、彼女は呟いた。 一方、水源を探しに向かった竜哉とネーヴは腐臭のする沼を発見していた。 飲めない事も無い、が、飲むのは勇気がいりそうだ。 李遵の話によると、もう少し先に池があるようなので此処ではないだろう。 「う? 何か――」 ぴちゃん、と沼が音を立てる、と同時に刺さる苦無。 そして投文札による斬撃、随分と大きな蛙がぱっくりと口を開けたままその場に転がった。 「……池は、もう少し奥のようだ」 竜哉が歩を進め、沼を目印に少しばかり奥へと踏み込んでいく。 ケモノの足跡が増えている事を確認しつつ、更に奥へ。 「この辺りまで来ると、陣地から離れてしまうな」 「んー、沢山汲んでおくんだじぇ」 ザクザクと楽しげに草を刈りながら、ネーヴは草の性質を確かめる。 特に毒草なども見受けられない、万が一毒草だとすればこの池の水も汚染されている可能性が高い。 ――僥倖と言えるだろう。 「ケモノがいなければ、魚なども取れるかもしれないな」 ざぷり、と水袋を沈め竜哉は呟くのだった。 利穏と蓮、そして溟霆は李遵と共に、薬草を探していた。 「てれれれん、野草図鑑〜。教官殿、この中に薬草はありますでしょうか?」 妙な擬音と共に顔を表す野草図鑑を覗きこみ、李遵はこの草が近いですね、と口にした。 野草の中でも、どちらかと言えば毒草に近い性質を持つ野草である。 「もしかして、水源の近くではないでしょうか?」 植物が育つ為には、水が必要だ。 ならば、先に水源を――と言ったところで、呼子笛が響き渡る。 長谷部が鳴らしたものだ……薬草採取班と合流した彼は、ぼそり、呟いた。 「ここは地獄へのいくつ手前でしょうか?」 ブォォォーーー 咆哮を上げながら、迫ってくるケモノの群れ。 「あ、ウッカリ殺気だしちゃいました」 えへ、とか全然可愛くない事を言いつつ、李遵は頑張ってくださいね、とひらり、樹に登って静観するのだった。 何とか、ケモノを仕留めた開拓者達。 必要な分を解体し、血抜きをしてそれぞれが分担して陣地まで運ぶ。 既に天幕が張られており、本格的な陣が張られている。 「お、お帰りー」 笹倉が手をひらひらさせ、利穏と蓮、そして溟霆に長谷部、李遵を迎えた。 ネーヴと竜哉も、水で一杯の水袋を手に戻って来る。 そして、李遵の要望で、肉の塊を預けた薬草調達班は動きだしたのだった。 沢を付近に、探索を続ける。 白い斑点の付いた薬草、と言うよりも毒草に近い性質の草は群生しているらしい。 利穏は枯れ枝などを拾い集め、焚き木に使えるように準備していた。 「意外と、見つからないものですね」 「群生していると言っても、時期外れですしねぇ……おや。開拓者の皆さん、出番です」 ――アヤカシとは出来る限り関わらない。 そう言う方針だった筈だ。 だが、李遵がどこぞで拾った石をぶん投げ、それが鎧鬼に当たる。 此方を睨みつけた鎧鬼の瞳は、明らかに敵意を含んで、開拓者に襲いかかって来た。 「い、嫌がらせですか!」 「利穏さんが『兎月庵の白大福』を分けて下さったら、援護しなくもないです」 「もう食べ終わってますって!」 「李遵教官殿、酷いで有ります!」 「……いや、北條の頭領ならやると思った」 「ですよねー」 等と言うやり取りを聞きながら。 「お茶でもどうかね?」 からすが淹れたお茶を差し出し、ロンコワはそれを受け取る。 「助けなくていいんですか」 「あー、止血剤用意しておくか」 やる気なさそうな笹倉が、頑張れーとへにゃり、笑った。 「ブートキャンプだしな」 竜哉が呟き、ぶーと? と首を傾げる水月へと説明を加えた。 「ブートキャンプ。新兵訓練の一つ……まあ、新人を鍛えよう、と言う事だろう」 「新人……です、か」 かくん、と首を傾げた水月、明らかにこのメンツは新人じゃない。 「まあ、りっちゃんの事ですからキャンプがしたかったんでしょう」 若干、悟った感じの長谷部が、からすから借りた山姥包丁で、肉を切っていく。 ちなみに今日の献立は、鍋らしい……一流半程度、と当人は言うが大したものである。 ●鍋を囲み 「いやぁ、沢山取れました」 とてもいい笑顔で現れた李遵と、とても疲れた様子の利穏と蓮。 溟霆辺りは平然としているが、やっぱりスキル無しでの戦闘は中々――大変。 「楽しかったねぇ。良いものだ」 失礼、中々楽しかったらしい。 「あ、何か手伝う事があれば手伝いますよ」 蓮が人懐っこい笑顔を浮かべ、長谷部へと声をかけた。 「じゃあ、そちらの野草を切って、あく抜きをお願いします」 「はーい」 「李遵さー、わざわざここまで薬草取りに来て何に使うの?」 樹に凭れながら、笹倉が李遵へと問いかける。 ふわ、と大きな欠伸を漏らせば、まだ夕飯前ですよ、と声が聞こえた。 「神経痛を和らげるんです。私の暗器を作った職人が、足が痛いと五月蠅いので」 「栽培はできない感じの草なのかい?」 「魔の森で取れる変異種ですから。第一、普通の土壌に植えると他の薬草を喰いつくしてしまうんです」 他の薬草が育たなくなるのだ、と付けくわえた李遵はにやり。 「共存できなければ、滅ぼしあうだけです」 ぱち、釜戸の炎が、弾けた。 鍋をつつき、他愛も無い事を話す。 「眼鏡が曇って、中々」 ロンコワの呟きに、熱いものを食べると鼻水出ませんか、とか返事が返って来る。 「ん、美味しい」 水月がドンドンお代わりとせがみ、からすはからすで既に、お茶をたしなんでいる。 「夜は最初が俺と、バロネーシュと円秀か。よろしくな」 肉だけを取りながら、笹倉が呟いた。 野草も食べるように、と何処かのオカンのような台詞が長谷部から返って来る。 じーっと李遵を見つめるのは、蓮だ。 「どうかしましたか――?」 「……いえ、何も無いであります(神音のセンセー、北條の依頼から帰ってから、少し様子が変。まさか教官殿と……?)」 センセーのおヨメさんになる、と意気込む彼女。 どうやら李遵が怪しいと睨んでいるらしい。 「何だか、こうして皆で鍋を囲むのもいいですね」 利穏が微笑みながら、息を吹きかけて料理を冷ます。 友達が少ない事を気にしている彼にとっては、貴重な体験らしい。 「うん、楽しいじぇ! おかわり!」 ネーヴが口元を汁でべとべとにしながら、椀を掲げた。 「俺は中辺りか……何かあれば起こしてくれ」 竜哉はそう言ってさっさと眠りに落ちる――既に水月も猫寝入りで眠り、見張りを残して他の開拓者達も眠りに落ちた。 ●キャンプで知る事 闇に目を慣れさせ、耳を馴染ませ、アヤカシの奇襲に備える。 見張りとして、目を覚ましていた開拓者だけが、その気配に対処した訳ではない。 からすが朧月で、敵を射抜いたところで、ピィーと李遵が笛を吹いた。 「アウトー! 練力使用、禁止です」 おや失礼、と口にしたものの、役に立っている事には違いない。 「からすさんには、後で獣耳カチューシャを付けて貰うとして」 投文札で切りつけ、朽ちた刃を蹴りで弾き折ると当て身を喰らわせる竜哉。 溟霆の忍刀が振り下ろされ、ロンコワが杖で殴りつける。 水月が布を振りあげ、影を切り裂いた。 明けていく空。 「何だかんだ言いながら、俺達は自然に生かされてる」 「どうしたよ、竜哉」 何となく空を眺め――と言うか、李遵に叩き起こされて全員で空を眺める。 笹倉は疲れてるから寝る、と言ったが何やら奇声を上げた李遵にやはり、起こされた。 全くもって、迷惑な話である。 魔の森は瘴気を孕み、アヤカシを生みだすが此処にも確かに、命はあった。 「何だか、キャンプって感じですよね」 利穏がポツリ、呟いた。 魔の森から見上げる空は――とても美しい、何て事はない。 寧ろ瘴気で重苦しい空だったが、明けていく空を見れば、それなりの感慨もある。 (「今日も生きてる……」) 主に死亡フラグ立ちまくっていた、日々からの生還! ぐっばい、死亡フラグ! かむ、日常! 「……魔の森じゃなければ、美味しい依頼だったんですけれどね」 ロンコワがとても現実的な事を言った。 「まあ、此れから魔の森に踏み込む事もあるだろうしね」 悪くはないよ、と溟霆は口にする――実は戦闘狂でもある彼、もしスキル使用可能なら好きなだけ戦闘していただろう。 こぽぽ、と音を立てて茶を淹れ、そして皆に分けながらからすが静かに口を開いた。 「人間もまた、自然の一部と言う事なのだろうよ」 コクリ、と頷いた水月はキラキラと大きな瞳で明ける空を見つめていた。 死地で迎える太陽は、まるで世界に投げかけられた祝福。 志体持ちは精霊の祝福を受けている……何故、今の時代、今の自分、其に生まれたのかはわかりはしないが。 「うー、ちょっとまだ、眠いじぇ」 ごしごしと目をこすり、ネーヴが呟いた。 「うん……教官殿、眠いです」 「寝るな、寝たら死ぬぞ!」 半分徹夜のテンションは、やたらと可笑しかった。 「さて、そろそろ朝食を作りましょうか――」 「あ、神音が担当するよ!」 手を上げた神音が食材を見ながら、楽しげに料理を始める。 何時か『大好きなセンセー』のおヨメさんになる事を、夢見てその横顔はキラキラしていた。 「そう言えば、りっちゃん。楽しいですか?」 「ええ、当然ですよ」 長谷部の問いかけに、李遵は大きく頷いてそして、言った。 「ずっと昔、私が新人だった頃、よくやりました」 同士討ちの戦闘でしたが、と笑いながら遠くを見ている。 いつの間にか、眠ってしまったネーヴを膝に乗せ、水月にぴたり、とくっつかれて確かに、李遵は楽しそうだった。 そして、来る3日目の朝。 「や、やったよ〜!」 北條流ブートキャンプ、脱落者ゼロで完遂。 ご満悦の李遵は、またやりたいですね、と語ったと言う。 |