|
■オープニング本文 ●災難 燦々と照りつける太陽、首を上げてその、殺人的な熱射に悪態を付く。 砂ばかりの大地、それもそろそろ見飽きてきた……懐かしい天儀を思いだし、一つため息を吐く。 気ままに、自分勝手に生きている彼、喜多野・速風(iz0217)だったが、彼にも当然ながら恐ろしいものがある。 何か……アヤカシではない、ツケである。 家賃の滞納、そして膨れ上がるツケ――それを武器に、長屋の主であるジジイはしわくちゃながらも、爽やかな笑顔で『あるもの』を速風に差し出してきた。 「行け」 「……はい?」 職場に押し掛けてきてまで、何を言うかこのジジイ……とうとう、ボケたか。 と、速風は思ったが、それを気にした様子もなく、ジジイはその『あるもの』を押し付けて啜り泣く真似をした。 ――おい、あいつ、手癖だけじゃなく性格も悪かったのか。 ……酷いわねぇ コソコソとギルド内から、冷たい視線と声が響いてくる。 速風は手もとの『あるもの』に視線を落とした、甘味マップ「アル=カマル」と書いてある。 何処で入手したのかは不明であるが、ジジイがうるっ、とした視線で自分を見ているのが分かる。 ……いらっ、とした。 「と言う訳で、行って来い」 そんな訳で――土産を期待されつつ、ギルドを追いだされたのだが、目の前に広がる砂と砂と砂に、速風はうんざりしていた。 だが、遠目に都市が見えてきた――土産でも買って、さっさと帰るか。 が、それは甘い考えだった。 ●運を掴め オアシスから離脱する鉱夫たち。 彼らは着の身着のまま、取るものもとりあえず次々とオアシスを後にする。遠くからは既に戦闘の音が微かに聞こえてき、小型飛空船は僅かに老人や年少者を乗せて離陸する。 「砂漠の中だ、奇襲に気をつけろ!」 誰かが叫んだ。 出撃した警備兵たちは無事だろうか。時間を稼げたら、上手く離脱してくれているといいのだが。走龍がいななく。その健脚は土くれを、砂を蹴散らし、遥か地平線へと駆け出した。 茫然としていた速風だったが、鉱夫達に蹴りつけ、弾かれた老人を支え、何があったのか問いかける。 「発端は、鉱山から指が見つかった事で――ひぃ、あれは……」 遠目に見えるのは、うねる竜巻のようなアヤカシ、イウサール・ジャウハラか。 遠くで喚く大きな鳥、パンヴァティー・ガルダは真っ赤な巨躯で空を飛びながら、獲物を探している。 「大丈夫だ、爺さん、しっかり掴まってろよ!」 速風は老人を背負うと、開拓者ギルドへと走ったのだった。 |
■参加者一覧
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
鈴木 透子(ia5664)
13歳・女・陰
リエット・ネーヴ(ia8814)
14歳・女・シ
コルリス・フェネストラ(ia9657)
19歳・女・弓
エルディン・バウアー(ib0066)
28歳・男・魔
十野間 空(ib0346)
30歳・男・陰
ウルグ・シュバルツ(ib5700)
29歳・男・砲
レムリア・ミリア(ib6884)
24歳・女・巫 |
■リプレイ本文 ●砂色の地で 白い砂ぼこりが青い空に舞い踊る、太陽は開拓者達が踏みしめる砂に降り注ぎ、目を焼いていく。 ――全てを吸いこみ、巨大化し、迫って来る竜巻。 否、竜巻型のアヤカシ、イウサール・ジャウハラはまだ遠く、だが着実に此方へと迫ってくる。 「甘味を探してここまで来たら見つかったのはアヤカシでした。これもまたご縁」 きらりん、と老人子供に聖職者スマイルを放ちながら、エルディン・バウアー(ib0066)の手には大切そうに甘味マップ「アル=カマル」が握られていた。 「興味深い発掘品が、出ていると聞けば……」 はぁ、と地に落ちるようなため息を吐きながら、頭を抱えたのは十野間 空(ib0346)だ、発掘品への興味を暫し置き、この地のアヤカシを葬るべく甲龍、月光を駆る。 「水だけでも持ち込めると、護衛する人達が助かると思うんだ♪」 いそいそと水と食料を運びこんだ、リエット・ネーヴ(ia8814)は相棒のからくりであるおとーさんに『手伝ってー!』とねだりながら、せっせと運んでいく。 それをウルグ・シュバルツ(ib5700)が手伝い、駿龍であるシャリアが不安そうにシュバルツの背に隠れた。 大丈夫だ、と声をかけながら魔槍砲の扱い方を学ぶ事は、出来そうにないな……と内心ため息を吐く。 それでも彼は、わりとお人よしな性格からか、見過ごす事は出来なかったのだ。 「急に集まってきてるみたいです、移動できない方は此方へ――!」 風は強さを増し、鈴木 透子(ia5664)はたまらず、声を上げた。 押し合いへしあい、老人と子供とその家族が小型飛空船に群がって来る……甘いものに集まる蟻の如し。 砂埃が目に入り、彼女は痛みに瞬いた。 「加勢します。速風さん、飛空船の操縦を頼みます」 「よし、任せられたぜぃ!」 駿龍の応鳳を駆り、所用でアル=カマルへ来ていたと言うコルリス・フェネストラ(ia9657)は、喜多野・速風(iz0217)に小型飛空船の操縦を頼むと、地面に降り立ち応鳳に水を与える。 彼女自身も、市女笠と外套で日差しと熱射の対策を行っていた。 「エルディンさん、そして透子さんがイウサール・ジャウハラの風の流れを抑える様ですが、それに沿っての操縦は可能ですか?」 「任せろってぇ事さね」 短い間に相談を行い、結果を出した開拓者達、フェネストラの言葉に速風は頷いた。 続いて続けられた言葉にも。 「うまくいけば、今後の同種のアヤカシとの戦いで役に立つと思いますが、住民の方々の安全が最優先ですので、喜多野さんが危険と判断した時は、無理せず離脱をお願いします」 「おうよ、肝に銘じておくぜぃ」 「傷病人を優先して船に」 お姉ちゃん、よくなるかねぇ……と走龍で逃げる際に挫いたらしい、足を引きづり、老女が口にした。 「大丈夫、必ず傷は良くなるから」 神風恩寵でその傷を癒しながら、レムリア・ミリア(ib6884)は相棒、甲龍のブラックベルベットへ殿を頼むよ、と声をかけた。 黒耀石を思わせるその鱗が、太陽の熱に煌き優雅な龍は了解とばかりにいななく。 「走龍なら、俺が探して来ようか?合間になるけどな。ああ、俺はサムライのルオウ!よろしくな」 仲間にしたばかりの走龍、フロドを駆るルオウ(ia2445)が、逃げ分かれた走龍を心配する老女へと声をかけた。 頼むよ、と縋りつく老女の背を支えながら、ミリアが飛空船の中へと誘導する。 「あ、神父さんからの贈り物です」 バウアーがアクセラレートをルオウにかけ、続いて竜巻が来ると思われる部分にフロストマインを仕掛ける。 同じくして、鈴木も地縛霊を3つ仕掛けた。 「この船の進路上を開拓者達で確保する。この船を目印に避難を!」 「じゃあ、発進するから落ちないようにしてくれぇ!」 ミリアが、走龍でバラバラに走り始めた人々へと声をかけた。 速風が舵を握り、飛空船を発進させる――動力の宝玉が煌き、砂を巻き上げながら飛空船は空へと飛び立った。 ●太陽の船 太陽を背にして真っ赤な鳥、パンヴァティー・ガルダ―凶光鳥―が絹を裂くような、不快な声を上げた。 それは獲物を前にして、歓喜の声をあげているように思える。 イウサール・ジャウハラはまだ、距離が開いているのか……或いは、ルオウが抑えているのか飛空船に接近してくる様子は無い。 目の前の脅威、凶光鳥は鋭い爪と素早い動きで甲板の護衛をする開拓者達へ、襲いかかって来る。 超越聴覚でそれを捕えていたネーヴが、まだ来るよ!と声を上げながら螺旋で凶光鳥の羽根を狙う。 ――鶴の鳴き声のような風切り音を立てて手裏剣が打ち抜いた。 瘴気を立ち上らせて落下していく凶光鳥、ネーヴの相棒であるからくり、おとーさんは彼女の首根っこを掴んでアヤカシの下敷きになるのを阻止する。 駿龍、シャリアに騎乗したシュバルツが一瞬、息をとめた――それと同時にズゥーン、と鈍い音を放ちマスケットが火を噴く。 首を背の方向へ反り、凶光鳥は傷口から瘴気を噴きだしそれでも尚、果敢に襲ってくる。 痛みはあるのだろう、瞳はギラギラと憎しみに燃え、金色のカギヅメとクチバシは惨忍な光を放つ。 もう一度、装填すると引き金を引き、次は翼を狙う――銃弾が二つ、食いこむ頃には飛行力を失くした凶光鳥は、地面へと落下する。 ――耳障りな、悲鳴に似た声を上げながら。 別の凶光鳥に狙いを定め、引き金を引く――ヨタリ、とよろめいた赤い鳥は鋭い声を上げ距離を取ると怪光線を放つ。 シャリアが脆弱な鱗を焼かれ、痛みに首を横に振った……それを宥めシュバルツはもう一度銃を構える。 襲いかかる爪、耳の皮がパリ、と破れて一本の赤い線が付いた――シャリアの首を叩き、シュバルツは二度目の攻撃を交わすとカザーク・ショットで撃ち抜いた。 「――次から次へと」 一方、甲龍である月光を駆る十野間は、霊魂砲を放ち凶光鳥へと放つ、怪光線は月光に霊鎧を指示し敢えて避ける事はせずに狙いだけを定める。 「竜巻の方は、如何です?」 彼が口を開くと同時に、遠くで術が弾けた――フェネストラが応鳳に高速飛行を命じ『見て来ます』とだけ口にすると近づいていく。 少しだけ風が弱まったイウサール・ジャウハラ、中にはコアと思われる宝玉の様なものが浮かんでいる。 一瞬だけ光を発したものの、直ぐに風にかき消されて見る事は出来ない。 「――くっ、厳しいですね」 無数の風による真空刃を身に受けつつ、月涙と響鳴弓を使った矢を放った。 悲鳴のような声が、周囲に響き渡る……イウサール・ジャウハラはその動きを鈍らせたが、反撃とばかりに砂を巻き上げ迫って来る。 「フロド、行くぞ――」 その時、地上で岩陰に隠れていたルオウが声を上げた……響き渡る咆哮、イウサール・ジャウハラが進路を変え、ルオウへと迫って来る。 すかさずルオウは、飛空船とは反対側へと逃げると、龍躍を指示しタイ捨剣で斬りかかる。 鋭く美しい殲刀「秋水清光」が、太陽の光に反射し、風を裂いた――だが、彼の身体は竜巻の方へと引きつけられる。 中にこそ、取り込まれる事は無かったが真空刃と竜巻による風で身体はズタズタ、その上に砂が入り込み痛みを生じた。 それでも退く訳にはいかない、彼は目の前のイウサール・ジャウハラを睨みつける。 それを飛空船上でやきもきしていたバウアーだったが、甲板から乗りだし、イウサール・ジャウハラの様子を見――舵を取る速風に向かって、声をあげた。 「置いて行っちゃイヤですよ?神父さん泣いちゃいますよ?」 「置いて行っちまったら、後で拾ってやらぁ!」 その言葉にズーン、と落ち込みつつも、迅鷹であるケルブの友なる翼でイウサール・ジャウハラの方へと飛び立った。 後で拾って貰う、と言う言葉を信じたのか、甘味を後で奢らせるつもりなのかはわからない。 「神の御使いになった気分ですね。ケルブ!行きますよ!!」 正に獲物がかかった、とばかりに襲いかかるのは凶光鳥。 だが、それを許す他の開拓者達ではない……呪術人形を手にした鈴木が、白狐を使うと凶光鳥へと放った。 流石に素早い凶光鳥と言えども、避ける事は出来ず中から爆発したかのように散っていく。 その脇から別の凶光鳥が怪光線を放ち、次々と群れで襲ってくる。 一撃離脱を信条としているのか、或いはただの本能なのか、襲いかかって来てはヒラリと攻撃をかわす。 鋭いくちばしは鈴木の身体を抉り、結界呪符「黒」で彼女は一旦足がかりを作る。 そして遮那王、と彼女の相棒、忍犬を呼んだ。 任せろ、とばかりにウォォーン、と啼くと結界呪符「黒」を踏み台にし、立体攻撃で仕掛ける。 鳥と犬との闘いは、お互いが素早い事もあり回避しては突き、噛みつき、縺れ合う。 ……強靭な凶光鳥の羽ばたきで宙に浮いているが、重力に従ってやがて、高度が落ちていく。 鈴木は痛みをうったえる身体に眉をしかめつつ、結界呪符「黒」をもう一度発動させた。 そこへ、白霊弾での援護をしたミリアが素早く鈴木の傷を治していく。 「ただ安らかに、営みを紡いで行こうとする人々の生活を脅かすアヤカシ達め――!」 二度目の白霊弾にか、ミリアの攻撃にか、凶光鳥は間合いを取った。 ミリアは、鈴木に『大丈夫かい?』と問いかける。 「はい……でも、群れで襲ってくるとなると、厄介ですね」 「――ああ」 飛空船の船内に閉じこもっている子供たちや、老人はどれ程不安な思いでいるのだろう。 「うーん、ちょっと、見てくる」 パタパタ、と中へ駆けこんだネーヴと、小娘!とそれを追いかけていくおとーさん。 ちなみに、おとーさんといっても銀髪の強面の青年の顔立ちをしたからくりである。 「外は大丈夫なのかね」 コツン、コツン、と杖を付きながらのんびりと一人の老紳士が問いかける。 「う、こんにちわーん、大丈夫だよ。みんなは、何か異常や困ったことはないかな?」 「大丈夫さ、ちょっと操縦は荒っぽいから年寄りには……」 水が飲みたいー、と騒ぐ子供に岩清水を分けながら、ネーヴは世話を焼いていく。 退屈、そろそろ外に出たい、と騒ぐ子供達とは持ち前の明るさで意気投合。 「うんっ!一緒にあそ……」 「いや、違うだろ。仕事中だ」 「そか。お仕事中だったじぇ」 終わったら、と約束すると船内は大丈夫、とネーヴは甲板を見張る開拓者達へと告げた。 ●大地の上で 所変わって、飛空船から降りたバウアーと、ルオウは無事に合流を果たしていた。 「酷い傷ですねぇ」 お疲れ様です、と労わりながらバウアーがルオウへとアクセラレートを付与する、同じく自身にも付与すると白に染まる聖杖「ウンシュルト」を振るう。 「凍てつく刃よ、アヤカシを切り裂け!」 放たれたアイシスケイラルは、中にこそいりこむ事は無かったがその風を切り裂き、中のコアを露にする。 痛みをこらえながら、ルオウは走龍のフロドに『行けるか?』と問いかけると相棒はいななき、竜躍で躍りかかった。 それと同時に背水心で覚悟を決め直し、タイ捨剣で斬りつける。 嫌がったイウサール・ジャウハラは進路を微妙に変え、周囲の木々や石を巻き込みながらある方向へと襲いかかる。 ――老女が駆ったものと思われる走龍が、必死に逃げようともがいていた。 ルオウとバウアーは顔を見合わせると、一気に走龍へと飛びかかる。 直ぐそこをイウサール・ジャウハラが砂埃と石をまき散らしながら、広大な砂漠へと進路を変えるのだった。 飛空船甲板、そこでは相変わらず凶光鳥の猛撃と、開拓者達による迎撃が続いていた。 イウサール・ジャウハラが別の方向へと向かった事を確認した速風が、開拓者達に声をかけつつ進路を変更する。 緩やかな弧を描いた小型飛空船は、当初とは別の街へと向かう。 瘴気回収を行いながら、十野間はキリがないですね……と一人呟いた。 甲龍、月光も意を同じくしたかのように小さく鳴いた。 「それでも、当初よりは少なくなったかと思います」 応鳳の背で、フェネストラが矢を射る――そして隣を落ちていく凶光鳥を駿龍の翼で避けると、また矢を放った。 「翔!」 「シャリア、翔けろ!」 スピードブレイクを使い、マスケットで凶光鳥を撃ち抜いた刹那、シュバルツの下でシャリアが躍動する。 得物である鋭い爪で襲いかかり、はたき落とす。 ネーヴは螺旋で手裏剣を投げては、鈴木の結界呪符「黒」の後ろで身を隠し、また攻撃を行っては白狐を使う鈴木の援護を行う。 常に治癒に走り回るミリアは忙しく、手傷を負わされたシャリアやシュバルツ、そして忍犬の遮那王の傷を癒す傍らで、付いてくる走龍の姿を下に見る。 砂漠を走りまわる走龍は、小型飛空船よりも彼等の方が速いのか、次第に速度を増し次の街へと入った。 「とりあえず、元気な人達は避難したようだね」 「う、もう少し頑張るんだじぇ!」 ネーヴが気合いを入れるように声を上げ、無言で頷いたシュバルツのマスケットが火を噴いた。 元気な子だねぇ、と十野間は笑いつつもその手は陰陽符を扱い、呪声で攻撃する。 怪光線がまき散らされると、身を伏せた主に月光は我が身で受ける、とばかりに霊鎧でたち向かった。 ――やがて、開拓者達の途切れる事のない猛攻に不利だと判断したのか、攻撃する凶光鳥は次第に減り。 そして、いつの間にか遠くへと飛び去って行った。 それを追いかけるかのように、遮那王の勝鬨が上がる。 「いいこいいこ」 その頭を撫でながら、眼下にそびえる街へと無事に入った事を確認し、鈴木は笑みを浮かべたのだった。 ●街へ 完全にアヤカシを仕留めた、とは言い難いが――それでも死者も負傷者もいなかったのは開拓者達のお陰だろう。 「ありがとね、ありがとね」 ずっと一緒に生きて来たのだと、飛空船の中で心配し続けた老女が、先に街へと付いていたルオウとバウアーの手に走龍を見、歓喜の涙を流す。 「いえいえ、聖職者として当然の事ですから」 引っ掻かれまくったのか、傷だらけのままでもバウアーの聖職者スマイルは変わらない。 「ま、ばあさんに喜んでもらえて良かったぜ!」 ルオウも傷だらけであるが、同じく満面の笑みは変わる事がない――が、ミリアによって治療の為にと連れていかれる。 「俺も怪我しておきゃぁ、良かったぜぃ」 それを見送りながら、速風がポツリと呟いた……お前は舵取りしかやってなかっただろうに、と誰かが思ったのか思わなかったのか。 「速風にー、元気出すんだじぇ」 ネーヴに慰められつつ、うん、と彼は遠くを見るのだった。 さて、と甘味マップ「アル=カマル」を広げた男二人――バウアーと速風の甘味の旅に行こう、との言葉に乗った開拓者達。 「ちなみに、速風殿の奢りだそうです」 「言ってない言ってないぜ!まあ、少しなら……」 と言いつつも、甘味も酒も、勿論女も大好きだと公言する速風。 「聖職者ですから堂々言えませんが」 ごにょごにょ、とバウアーは誤魔化して見せる――健全な男性なのだから、認めても誰も何も言わないだろうが。 「まずは……蜜菓子「マナ」から行くか」 近くにある、とさり気なく手にした甘味マップ「アル=カマル」をヒラリとさせたシュバルツ。 ――おまえも、か。 アル=カマルの地には様々な文化が見える――天儀にもありそうなものから、ジルベリア、泰国に似通ったものまで。 元々からこういうものだったのか、或いは以前、アル=カマルとの国交が出来てからこう言う風に変化したのかは分からない。 剣舞を見せる美女に、決闘を始める闘士達。 「うわぁ、すげぇ!」 喜々としてルオウが向かったのは、そんな闘士達の下、大人たちに混じって戦い始める。 熟練の開拓者であるが、リーチの差もあり闘いは互角。 だが、アヤカシとの戦いと違う事はそれが、芸術とも言える闘いである事だろうか……? 「あんまり、戦って傷を作らないように」 ミリアが苦笑しながら口にしては、口説く男性ににこやかな笑みを返すとノー、の言葉を紡ぐ。 大人は蜜酒を、子供はぶ厚い硝子に入れられた乳の濃い飲み物を飲みながら、甘ったるい蜜菓子を齧る。 砂漠での熱射はまるで、火に炙られるかのような痛みを感じたものだが――こうして、人々の雑踏を聞きながら片手に飲み物を、片手に甘いもの、となると不思議と太陽の熱射も心地いい物に思える。 サボテンクッキーや、餅のような食感の菓子、繊細で華やかな織物は雑多に並べられ商人達が客引きをしていた。 彼等の手にする、甘味マップ「アル=カマル」を見、そして親切に店も教えてくれる。 ――勿論ながらその奥に、見知らぬ旅行客から沢山儲けよう、と言う思いがないことは無い。 「……なんですか此れは!」 美味しい、神父さん感動!と頬を押さえるバウアー。 往く人々が、それはお勧めだよ、と言いつつ去っていく……彼等の手にも、冷たい蜜酒が握られており、砂と熱射から身体を守る為の布を彼等は巻いていた。 「乳を使った菓子かぇ?おお、こっちのナッツ風味の菓子も美味ぇ」 「私も食べるー!」 ネーヴが元気に手をあげ、財布を覗きこみながら食べすぎだぞ、小娘とおとーさんが呟く。 「だいじょーぶだいじょーぶ、全部、速風にーの奢りだから!」 いつの間にか、確定事項にされている事実――しかも、全部。 「じゃあ、私も蜜酒のお代わりを」 ミリアが口にし、おずおずと、しかし既に美味しそうな物に目を付けていた鈴木が、ナッツが沢山入った黄金色の菓子を頼む。 「だ、大丈夫なのでしょうか……?」 フェネストラが呟くが、誰も聞いてはいない。 「豪気な方ですね……じゃあ、私も遠慮なく」 十野間に褒められつつ、増えていく注文に速風は。 「おう、俺の奢りだぜぃ!」 と男の見栄と言う悲しいスキルを発動させるのだった。 後日、アル=カマルでひたすら働き、そして天儀に戻って来てからも馬車馬の様に働かされ、往き倒れた速風の姿が発見されたとか、されないとか。 |