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■オープニング本文 ●うちのアホが消えまして 開拓者ギルド、掲示板。 そこには、正規の依頼が出せない依頼人や、ちょっとした困りごと等、些細な出来事から大きな事件に関わりそうなモノまで、千差万別。 無論、それを請けるのは開拓者ばかりとは限らない――依頼人は物事の解決を願っているのであり、誰が請けようが、素性が怪しいものであろうが知った事ではないのだ。 「へぇ、用心棒雇う、ねぃ……うん、こりゃぁ、良さそうだ」 今日も今日とて貧乏なギルド調べ役、喜多野・速風(iz0217)は空いた時間、勝手にギルドの掲示板を物色しながら顎をさすった。 名前は伏せてあるが、最近名も聞こえてきた盗賊の、用心棒……正規の依頼ではまかり通らない依頼ではあるが、調べ役の速風がちょい、と目をつむれば上手くいく。 「ついでに、財宝でも頂いてくるかぇ。ああ、事前調査だとすれば、俺の立場も何とかなるだろい」 ニンマリ、そんな擬音が似合う仕草で速風は貼り紙をペリ、と剥がした。 ……一週間前の、夜の話である。 「長屋のお爺さんから、盗賊退治の依頼ですね……あれ?」 まだ、受付員として新しい方にあたるその女性は、驚いたように瞬いた。 請け負う開拓者の方へチラリと視線を移した後、自分の上司に事を告げれば、問題ないから、と豪気な返事が返って来る。 その言葉の裏に、ギルドとしても面倒な事に首を突っ込みたくない、と言う意志がありありと感じて受付員は頷いた。 確かに、外見情報は詳細であるが、受付員の知る人物の名前は書かれていない。 「ええっと、30人程度で構成されている盗賊のようですが……根城は洞窟を改良しているようです。後、用心棒として、一人の砂迅騎がいるようです」 名前は、伏せますが……と、何度目かの思考停止の後、受付員は注意事項を読みあげる。 「尚、用心棒の砂迅騎については、生存状態でしょっ引いてくるのが、重要な条件のようです。盗賊がどれ程、私腹を肥やしているかはわかりませんが、それも忘れず、ギルドに受け渡して下さい」 |
■参加者一覧
滝月 玲(ia1409)
19歳・男・シ
野乃原・那美(ia5377)
15歳・女・シ
からす(ia6525)
13歳・女・弓
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎
リエット・ネーヴ(ia8814)
14歳・女・シ
不破 颯(ib0495)
25歳・男・弓 |
■リプレイ本文 ●連鎖するアホ ギルドが名前を伏せ、生かして捕えろと言う依頼。 盗賊の数や用心棒のクラス、そして得物まで情報が漏れている……外部から情報があったが、内部の人間の犯行か。 ギルドは決して、用心棒がギルドの人物だとは言わなかったが――。 「先行捜査を行っているギルド関係者が用心棒になっている、かな?」 クク、と何処か黒い笑みを浮かべたからす(ia6525)が、愉しげに目を細めた。 受付員の、困った顔を思いだしつつ、滝月 玲(ia1409)が口を開く。 「それにしても、盗賊なのに立派装備だって?こっちは金欠だってのに」 ぷりぷりと怒った様子の彼に、それが重要だ、と静かに竜哉(ia8037)が口を開いた。 「万商店の荷車でも襲ったか、或いは後ろに誰か居るのかは判らんが……キッチリと吐いて貰わねば」 「うーん、ボクは斬れればそれでいいんだけどね。一杯人が斬れそうで楽しみなのだ♪腕がなるね〜♪」 二対の忍刀を腰に差した、野乃原・那美(ia5377)が深紅の瞳をキラキラと輝かせた。 まるで、菓子を目の前にした子供のように、無邪気な色彩を放っている。 「よーし、ヨモギもワラも用意したじぇー♪」 狼煙用のヨモギやワラが手配され、それを目の前にしたリエット・ネーヴ(ia8814)が楽しげに笑う。 今回の件に関して、ギルドとしては協力を惜しまないのだろう。 下手を打つとは思えないが、公になればギルドの尊厳に関わる。 「塩も用意したからねぇ。楽しい事になりそうだぁ」 大体こっそり財宝ゲットとかずるいんだよぉ!俺も財宝欲しいわ!……と副音声で不破 颯(ib0495)が叫んだ。 勿論、それは心中に仕舞っておき、地図より目的の場所へ向かうと、アメトリンの望遠鏡で矢倉を見る。 ボロボロの矢倉は、板で修復されており『夜露死苦!』と時代錯誤の文字が派手しい。 「人数は?」 声を潜めて問いかけた竜哉に、2人ぃ、と返した不破。 超越聴覚で聞き耳を立てている滝月が、どうやら籠絡は簡単そうだ、と小さく口にした。 『暇だなー』 『腹減ったー。先生もいるし、ちょっくら寝ておくか』 「見張りと言うには、見張ってる様子はないねぇ」 「先生……用心棒の事か?」 とりあえず、二人分――と滝月が携帯品から肉まんを取り出す。 痺れ薬はギルドが許可を出さなかったので用意できなかったが、差し入れだけでも十分に気は引けるだろう。 黙っておけば、勝手に眠っているかもしれないが、作戦の最中に奇襲をかけられるのも癪に障る。 早駆を使い、矢倉へ向かって駆けあがった。 「お疲れさまです、ほっかほかの肉まんを作ったので持ってきました♪」 全くの新人……怪しまれる事も覚悟の上での彼だが、ギルドに用心棒の依頼を出すような盗賊だ。 「あれ、誰か頼んだっけ?」 「宅配じゃね。どうもー」 ……まて、それでいいのか。 思わず懐に忍ばせたハリセン「笑神」でツッコミを入れそうになった滝月だが、チラリ、仲間達に目配せを送った。 「応援を呼ばれちゃあ、楽しみにしてた燻作戦が出来なくなっちゃうだろ」 滝月自身も、太刀で峰打ちで一人を仕留めると、あっという間に荒縄で縛りあげてしまう。 それと同時に、動きだした竜哉、顔色一つ変えず、彼は矢倉を蹴飛ばした。 脚絆「瞬風」で凶器となった足が綺麗な円を描き、そしてボロボロの矢倉に打ちこまれる……中々容赦がない。 ガラガラガラ―― 「(お、俺、巻き込まれてるー!)」 「な、やっぱり矢倉嫌だったんだよォー!母ぢゃーん」 足をガクガクさせて、突然の崩落に恐怖で戦慄く盗賊、ついでに巻き込まれた滝月。 「その位置、面倒なんだよぉ。くたばれ」 へらり、笑った不破が強射「弦月」で矢を射ると、ふっ、と盗賊が崩れ落ちる。 ――矢が当たった様子は無い、が。 「気絶してるな」 恐怖に目を開いたまま、盗賊は気絶していた……寒空に『夜露死苦!』と書かれた、寒々しい白さの甚平が翻った。 絵だけで見るのならば、何となく開拓者の方が悪玉っぽい、気がする……。 ●アホよ出て来い 「こっちも準備万端だじぇー」 矢倉を襲うと同時に、開始された燻りだし作戦。 洞窟と言う地形だからこそ、有効な手段、そして開拓者達の心の底に燻ぶるサディズムまでも満足させてくれる、お得感一杯の手段だ。 ヨモギやワラが大量に積まれた、洞窟入り口――奥に空気の出入り口でも作っているのか、細い煙が中へと入っていく。 「このまま入るなら狙い撃ちだ。が、」 流れ込む煙を見ながら、からすが満足そうに頷いた。 「さあ、お仕置きの時刻だっ!うわぁーいぃ♪」 ぶすぶすと燻ぶる植物に、息を吹きかけるともわん、と煙が立ち上り――近くに陣取る開拓者達も瞳に涙を浮かばせた。 少しばかり、距離を置いて得物を確認する野乃原、既に抜刀した刃は鋭い藍色をしており、冬空の頼りない太陽の光の下で儚く見える。 「早く出て来ないかなー♪狙い打ち、なます切りー♪」 「目が見えなければ、照準が合わなくなる。息苦しさで出てくるしかないだろうね」 「そんな可哀相な盗賊諸君とアホに、更に餞別を渡そうか……」 懐紙を開き、火打石で懐紙の中の植物に火を付けた竜哉が、煙が出てくるのを確認して――中へと放り投げた。 独特の臭いに、鼻をつまんで、じぇー、とネーヴが声を上げた。 「く、臭っ!」 すすす、と不破が出入り口から遠ざかる……その横で、ゴンズイだね、と平気な顔をしてからすが口を開いた。 ちなみに、臭いを敢えて申し上げれば、下から出ていくものに酷似した臭いである。 そして肥溜めに酷似した洞窟内で、悲鳴が上がった……。 「んー、そろそろ出てくるかな?それじゃあ行くのだ♪」 一番最初に動いたのは、喜々として忍刀を横に薙いだ野乃原だ。 小柄な体躯が流れる水のように動き、盗賊の刀を弾き落とす。 「せ、先生、お願いしますぜ!」 「ちょっと待てぃ。銃は洞窟の奥に棄て置いて、弓を使え」 先生と呼ばれた用心棒……と言うか、アホが戦陣で地味に陣形を整えてくる――混乱しながらも盗賊達は一気に駆け抜けた。 「どりゃぁあああっ!」 『夜露死苦!』の甚平が風に揺れた、一体さっきからこの文字は何なのだろうか、と思いつつ滝月が水筒の水をぶっかける。 「ぶほぉっ!」 ヒュン、とアホ目がけて放たれる矢、その先に立つのは、へらりと笑った不破。 「あんたのそれ厄介だからなぁ。動くんじゃねぇ」 「……動くなと言われて、動かない奴は居ないと思うがねぃ?」 喜々として出てくるアホ、だが、所詮アホである――ネーヴが紡いだ水遁により、ふらつきつつ、ファクタ・カトラスでネーヴへと斬りかか……ろうとしたところで、彼は動きを止めた。 「――あれ?」 ところに、竜哉の蹴りが入る、咄嗟に剣で受防を行うとアホは一旦後方へ下がった。 一応、アホが戦っている間に、次々と盗賊達は倒れていく。 先即封と六節を交えた矢を放つ不破、そして、からすも同じく矢を放ちながら荒縄で縛り上げて転がして置いた。 「さて、どれだけ今日は斬れるかな?命が惜しいなら下手に抵抗しないでね♪剣先がずれてもしらないのだ♪」 「ひ、ひぃぃ!」 御助けをー、と盗賊から悲鳴が上がる、薄い刃は鋭く閃き、野乃原の駆けた後はカマイタチのように傷を負った盗賊達が取り残される。 身体を反転させ、後背から襲いかかる盗賊の腹部を峰打ちすると、のけぞったところで腕に斬りかかる。 取り落とした得物を拾いかけた盗賊へ、滝月が後ろから手刀を叩きこんだ。 ついでに、得物を遠くへと蹴り飛ばす。 一気に接近した盗賊が、からすへと斬りかかろうと最上段の構えを見せた。 ふぅ、と息を吐いて長く結んだ髪が揺れる――山猟撃で取り出した山姥包丁が、残忍な煌きを帯びた。 「甘い」 ●最低だ……このアホ 戦況は不利。 銃は使えないし、煙は晴れてきたものの弓を放とうにも、開拓者達は巧みに、洞窟の入り口から離れている。 中に残っている盗賊もいるが、怯えて出てはこないし、外の盗賊達は半分が開拓者によって制圧されている。 残りの盗賊も、士気の低下は甚だしい――アホ、もとい、喜多野・速風(iz0217)は早々に決断した。 「(そうだ、寝返ろう……)」 砂塵の鳴き声で地表の砂を巻き上げた速風は、盗賊へと斬りかかった。 「ふ、今までの潜入捜査だったが、漸く、本隊が来たぜぃ!」 ……最低だ、お前って。 そんな声が聞こえてきそうだが、開拓者達も承知済み、そう言う事で、と逃げ出しそうな速風の前に野乃原と不破が立ちふさがった。 「おっとぉ、逃げるのかい?撃つよ?」 超☆笑顔で告げる不破が、矢を番えた弓を向ける……それより先に地を駆けた野乃原、手には荒縄。 「んふふ、逃げるようなら僕が特別に縛りあげちゃうんだぞ♪」 「それって、微妙に美味しい展か――ぶばっ!」 亀の甲羅のような形が美しい、縛り方で転がされた速風、そして何かをやり遂げたような野乃原の笑みがあった。 矢を後退する事で回避し、滝月が思考を巡らす――先程、アホが銃を奥に捨てろと言う支持を出していた。 ならば、水風船はそれ程効果がないだろう、暗視と早駆で一気に奥でかゆみにゴロゴロする盗賊達へと接近する。 そして――。 「じゃあ、運が無かったと言う事で」 かくして、速風と盗賊達は捕えられたのである――。 ●アホ教育 とりあえず、埋めようか?鼻の下まで。 と言う、竜哉の一言で埋まったと言うか、埋められた速風、そこにネーヴが蛇を近づける。 「―――っ!」 とりあえず、喋れないっぽいので口元まで、土を退けてやると『やめてよして触らないで―』とちょっと五月蠅い。 「僕の質問は、すでに尋問へ変わってるんだじょ♪えっと、あのね。何かお話しよー?」 「そうさね、じゃあ、この前聞いた色沙汰を……」 パーン、と小気味いい音を響かせて、滝月のハリセンが閃いた。 「何言ってるんですか、可愛い後輩を悩ます先輩には、容赦しませんよ!」 「いや、平和的解決への糸口に……すいません」 きらーんと、頭上に光るからすの山姥包丁、不破や野乃原も凄くいい笑顔で、弓や刀を構えている。 「じゃあ、平和的解決の為に、アホには少し反省しておいて貰って……」 竜哉が目の前に丸薬を置くと、それをいぶし始める――目の前には、肥溜めのような強烈な臭いを放つゴンズイ。 「ぎゃー!」 開拓者達は、アホをとりあえず放置して、盗賊達をしめあげることにした。 「で、この物資は何処から得たのかな?」 横で、山姥包丁を砥ぎながら、からすが問いかける……ちなみに、彼女の尋問は選択式である。 「ヴォトカと火乃酒滴、どっちがいい?」 傷口に擦り込んでくれるらしい、ぶっちゃけ、どっちも遠慮したい感じである。 「よし、塩にしよう」 「ぎゃぁー!」 不破がザリザリと塩を擦り込んでいく、涙目になって盗賊は訴えた。 「か、鍛冶屋から盗んだんですー。あっしら、盗賊よりも泥棒が得意なんですがね。アシが付いちまって、それでどうせなら盗賊になろうって一致団結を――い、言うならチョイ悪盗賊?」 パーン、とまた滝月のハリセンが鳴り響く。 「チョイ悪も何も、完全な悪だろ!」 「いや、でも、あっし等、殺しはやらない主義でして」 「もう一発、逝っとく?」 「すんません」 ネーヴが、何処から取って来たのか、ネコジャラシでゴンズイの臭いに涙目の速風で遊んでいる。 「く、くすぐってぇ!」 「僕はお話してくれるまで、やめないんだじぇ。用心棒になった理由は?」 「田舎のおっかさんが、病気で倒れたってぇ言うんで、やむなく……ってぇ、その蛇、蛇どっからとって来たんだ」 ちゅ、と蛇の頭に口づけを送りながら、ネーヴが嘘を吐いている味、と口にした。 「う?これ?そこの穴にいたの♪」 「蛇を人に向けちゃぁ、いけねぇぜぃ。まて、近づけるなって、早まっちゃぁいけねぇぜー!」 全てが終わる頃には、盗賊と速風は主に尋問で疲れ果てていた。 「蛇、いや、蛇ぃぃいい!」 何か、うなされてるっぽいが、アホにはこの位で丁度いいだろう。 「うー、奥の財宝も、持って帰れそうだね」 ネーヴが器用に『鍵開け道具』を用いて、盗んだと思われる装飾品の類を持ちだしてくる。 盗賊の話では、自分達はアシが付いている、と言う事だからギルドに委託すればすぐに、持ち主は判明するだろう。 「はぁ、何だかなぁ。これ、何万文するんだかぁ」 はぁ、と自分のものにならない財宝を見ながら、麻袋に入れていく不破。 勿論ギルドの依頼であるから、着服する気はサラサラない……いや、ちょっとは欲しくもなるが、ギルド所属を抜けてまで得たいメリットではない、が。 「なら、一つ位盗っちまっても……」 ガシっと肩を抱きつつ、盗もうぜぃ、と爽やかな笑顔を向けてくる速風。 仕方がないのでとりあえず、ぷすり、と頭に矢を刺して置いた。 ●アホ後日談 依頼を終えた開拓者達――新たなる依頼の為に、開拓者ギルドを訪れていたのだが。 「あれ、何してるんですか速風さん」 不意に視線を落とした滝月が、机の中をガサガサ漁る速風を発見する――その顔は、ずっとやつれて見えた。 「いやぁ、ちぃとねぃ」 「ふむ、当ててみせようか」 茶は自分で淹れるに限る、とからすが自分で淹れた茶を口にしつつ、速風へと視線を移す。 「つまりタダ働きの上、空腹に耐えかねて机を漁っている、と言うところじゃないかな?」 当たり、何も出ないけどねぃ、と笑う速風に、野乃原がいい仕事があるよ、と口を開いた。 ピクリ、と動く耳。 「ボクに斬られるだけで、報酬が。ちなみに変動だよ♪」 斬った感触が良かったら、報酬プラス、と爽やかに言って見せる彼女だが、剣先がずれたらごめんね、と恐ろしい事を言う。 それにしても、と不破がタダ茶を飲みながら口を開いた。 「あの財宝、どうなったのかねぇ」 「おう、持ち主が見つかったみてぇだぜ」 「速風にー、コレあげる」 空腹でダラリ、と壁に倒れ込んだ速風の口へ、ネーヴが突っ込んだものは。 「す、すっぱっ……せ、せめて干飯にしてくれぃ!」 「まあ、因果応報と言う奴じゃないか」 竜哉が目端で真っ白に力尽きた速風を見つつ、依頼へと目を通す。 どんな依頼を受けるか、それは開拓者の判断に任せられている――失踪したアホも帰ってきて、めでたし、めでたし。 と、終えたいところなのだが。 「速風ぇー、家賃払わんかぁーっ!」 怒鳴りこんでくる長屋のジジイに、此処にいますよー、と開拓者達は口を揃えて速風を指さすのだった。 |