【陰遵】牡丹灯籠
マスター名:白銀 紅夜
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/03/07 22:38



■オープニング本文

●選択
 全ての出来事の発端が、選ぶ事の出来ない自身の甘さだと知る。
 冬独特の乾いた風に弄られながら、あの地――滅びた里を思う。
 北條流の頭領、北條・李遵(iz0066)の腹心、藍玄は嘗て、愛した女の血で染まった手を思い、そして瞠目した。

 ――慶瓜は、里長の一粒種として、期待され自由を奪われ育った。
 そして、その影である李遵は、同じく術の全てを受け継ぎ、慶瓜の影となる為だけに育てられた。

 その二人を、同時に愛して、そして守ってやれると思っていたのだ、あの時の自分は。
 師としての愛が、何時からか男の愛に変わり、そしてそれが師としての慈しみだと漸く理解した時には、既に里は滅んでいた。
 ――殺せるわけがない、愛する弟子を。
 だが、彼は選択をする事から逃げた。
 二人の弟子、光と影、表と裏、容赦のない李遵の攻撃は、慶瓜の戦う力を奪い、自由を求めた彼女は地下牢に放り込まれた。
 地下牢に放り込んだ張本人、李遵は毎夜毎夜、慶瓜の元へ通い、何事かを話しているようだった。
 それは、漸く『己』と言うものを手に入れた、影の幼い自慢だったのかもしれない。
 しかし――同情した藍玄は、出してと懇願する慶瓜、既に魔に浸食され、アヤカシとなった彼女に手を差し伸べ、牢を開き……やはり誤った。
 慶瓜を思うなら、もっと早くに決断すべきであり、李遵を思うのなら、殺しておくべきだったのだ。
 何時しか、鬱屈した影武者時代の思いは、慶瓜へ自分の影を強いる。

 全ては誤りであった――だが、死して償うなど、綺麗事は許されない。
「李遵様、だから、全てを終わらせましょう。私も、影蜘蛛の里の一人です」
 だから……失くした里の業を、そして慶瓜の業を、背負いましょう。
 ――嗚呼、そうだ、全ての選択は、彼自身が、選択から逃げた事に端を発している。


 一方、李遵は流出した薬の精製方法、それを耳に入れ、そして薄ら笑いを浮かべた。
 ――まだ、元来の精製方法は知られていないらしい。
 だが、少々厄介な情報を掴まれていた、材料の情報、此方がバレてしまえば、北條の抱える里長を刺激しかねない。
 魔の森が侵食する陰殻、アヤカシ共にかき乱される訳にはいかないのだ。
 呼び出された粗末な居酒屋、強い酒を薄めた水のような液体を飲み干し、彼女は口を開く。
「つまり『材料』の情報を黙る代わりに、頭領を降りろと?」
「いえいえ、頭領は続けて頂きたく――それにわたしは貴女様とも再び、仲良くしたいもの。ああ『材料』の調達も致しますし、利益半分を頂戴頂ければ」
 あの、商人はクダラナイものだったでしょう?
 後……と男の続けた言葉に自分の唇に笑みを湛え、冷えた笑いを向けた。
 アヤカシより先に、目の前の男を爆破してしまいたい、だが此れは己の事――北條に己の里の、自身の事情を持ち出すわけにはいかないのだ。
「宝珠爆弾を一つや二つ、頂ければ、もう、貝のように固く閉じますとも」
「熱せば、開きますけどね、貝の口」
 ああ、でも死人に口無しでしたよね……と一人納得しながら、深く彼女は頷いた。
「良いでしょう、お互いの繁栄の為――調達はお願いしますよ」
「だが、貴女は信じるに難い。不寝番を付けさせて頂いても?」
「まあ、構いませんよ、ご自由に」

 その会話より一カ月。
 つつがなく行われて行くのは、利益と宝珠爆弾の横流し。
 対価は、沢山の『材料』と呼ばれた人間、そして秘密の保持。
「――李遵様、不審な動きがあるとの情報が」
 いつもより硬く険しい、藍玄の表情……続いて紡ぎだされた言葉に嗚呼、と彼女は頷いた。
「そうですね、でも気にする必要も無いでしょう」
 無数の気配を、肌で感じる事が出来る……それは藍玄も同じだろう、仏頂面の部下は珍しく笑う、視線と視線が交差する。
 ――理解し合う、お互いの打った手段を、藍玄は腰の刀を抜いた。
「お命、頂戴しても?」
「……問う事の無意味さを、教えたのは誰だったでしょうか?」
 赤い液体が、銀色の刃を舐めた。

●灯籠の色
 陰殻開拓者ギルド、個室で話を付ける一人のシノビの姿、年齢は、10代中ごろであろうか。
 まだ、感情を隠しきれない幼いシノビは、緊張の色を濃くしている。
「陰殻、北の道を通る馬車――それを襲って頂きます。人物は全て殺害か捕縛、決して逃がさないように――。でも、決して積荷は傷つけないで下さい」
 積荷に付いてもう一度、聞き返した受付員に対して躊躇いを浮かばせた後、シノビは口を開く。
「中身は開封厳禁。燃えやすく、振動に弱い物体です。僕達も回収に向かうますが、襲って頂いた後は、根来寺へ輸送をお願いします」

 ギャアギャアと五月蠅く烏が啼いている。
 さあ、行きましょうか――そう言って先導を切ったシノビの少年の目の前、ボツリ、と音を立てて銀の針の刺さった、烏が落ちた。


■参加者一覧
神凪 蒼司(ia0122
19歳・男・志
孔雀(ia4056
31歳・男・陰
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
溟霆(ib0504
24歳・男・シ
蓮 蒼馬(ib5707
30歳・男・泰
笹倉 靖(ib6125
23歳・男・巫
華角 牡丹(ib8144
19歳・女・ジ
高尾(ib8693
24歳・女・シ


■リプレイ本文

●警告
 ――まるで、警告だねぇ。

 天気の具合を見るような、そんな飄々とした口調で口を開いた溟霆(ib0504)は、仲間を落とされてギャアギャアと喚き立てる烏を眺める――恐らく、同胞の屍肉を啄ばむ事を阻まれ、異を唱えているのだろう。
 陰殻は、何処も彼処も、陰鬱な雰囲気を持っていた……まるで、それが正しい在り方なのだと言うように。
 負の感情にほくそ笑むのは、高尾(ib8693)と言う妖艶なる女――既に滅びた地の出身であり、爛れるような憎しみを、人間へと向ける修羅。
「(依頼と言う名の下に、憎らしい人間共を殺せるんだ、願ったり叶ったりだ)」
 依頼人に視線を向ければ、まだあどけない少年――まるで、初めてのお使いに行く子供のように緊張している。
「(こんな未熟な子が強襲・殺害の依頼主だなんて、不思議なこと……)」
 横で、烏に刺さった銀色の針を懐紙越しにつまみあげ、じっくりと眺めた笹倉 靖(ib6125)は、針と烏の死骸を見比べる。
「針って殺傷能力低いから、毒を使用して暗殺ってパターンが多いんだけどさ」
 ほれ、と差し出した笹倉がつまみ上げている針を見、蓮 蒼馬(ib5707)が毒……か、と呟いた。
 彼の記憶は、霞に覆われ手を伸ばしても、掴む事が出来ない――北條からの依頼は初めてだと言う彼が、北條流の頭領、北條・李遵(iz0066)について問いかけた。
「怖い人ですよ……ええっと、頭領になる為に親類縁者全て、殺したと聞いています」
 慎重に、情報を与え過ぎないように言葉を選び、同行する少年シノビが語る――親類縁者を全て、と蓮がずきり、疼くものを抱えながら反芻した。
「さて、少年?幾つか聞きたいのだがね」
 竜哉(ia8037)が馬車の通るルートを確かめ、幾つかの地点を上げる……彼は出来る限り、水辺の近くが良いと口を開く。
「追跡もし易いし、後始末は沈めても、流してもいい――勿論、休憩を取る事もあるだろう」
「はい。お任せします……全て開拓者に任せよ、と命令を――」
 誰から、と聞いた竜哉に、ハッとした様子で首を振る少年……思いの他、この少年は未熟者らしい。
 警告の様に突き刺さる針は確かに気になるが、豊満な肉体を少年に押し付けつつ、高尾は問いかける。
「護衛がシノビ……内部抗争かい?後で、あたしたちまで口封じで消される、なんてことは御免だよ……?あんたの長は、何て言ってたんだい……?」
 依頼を請けたんだ、あたし達は一蓮托生さ、と思いのこもらない殊勝な言葉を唇に乗せ、囁く。
「いえ――皆さんの身柄は保障してくれます。長と言うよりは……その、長の」
 また、ハッと気付いてフルフルと首を振る、その様はまるで小動物――もしかしたら、捨て駒かもしれないねぇ、などと高尾は冷めた目で見据える。
 少年の独断でした、と素知らぬ顔で言い切るであろう人間を思えば……ふつふつと憎しみがまた、燃えあがるのを感じた。
「坊や、駄目よ。女なんかに気を許しちゃあ。特に、ああいう男を喰いものにしてる様な女には近づかない方がいいわ」
 高尾から少年を引き剥がす形で、孔雀(ia4056)が少年を後ろから抱き締める。
「計算高くて、男の骨の髄までしゃぶったら、要らなくなってポイ。嗚呼、怖いわねぇ、アタシの近くにいらっしゃい」
 変な虫が付かないように守ってあげる、と少年の髪を梳き、孔雀が耳元で息を零す。
 ――女性嫌悪を内包した、孔雀には高尾の性質が酷く気に障る。
 それを高尾も理解していたからこそ、高尾は露骨に女をアピールし、孔雀の劣等感を煽る。
「依頼『仲間』とは、仲良くしとかないと、金がもらえないからね……」
 越えられない壁……性別的なものは変えられないからこそ、嫉妬するのだ。
「そんな年増の男の肌なんかより、女の肌のほうがいいだろう?」
「まぁ〜、よく喋るおブスだこと。アタシの美貌に嫉妬してるからって、当てつけは止めて頂戴。あれが女の本性よ、醜いわねえ〜!」
 二人に挟まれてオロオロする少年を見、そして神凪 蒼司(ia0122)が助け舟を出した。
「そろそろ、出発しないか。襲撃は昼間だ、その調子じゃ、夜になってしまう」
 依頼の成否がかかっているのならば、仕方があるまい……だからと言って、口論は止まない。
「何処に嫉妬するってぇんだい?生憎、年増の男への劣等感はないねぇ」
「おブスな上に、ひねくれ者。女なんて本当、醜いわねぇ」
 お世辞にも綺麗とは言えない、陰殻の道を歩く――人はまばらだ、チラリと視線を向ける人々もいるが、歩いてくる人物がただならぬ気配をしている上、大勢だと知ると興味なさそうに、また野良仕事に従事する。
 歩いてくる人物が弱そうな相手だと知ると、彼等は金品でも得られまいかと襲いかかるだろう――此処は、そう言う地だ。

●物言わぬ屍
「ところで、シノビ君。竜哉君の上げた場所だが、幾つ程、見つかりそうなんだい?」
 溟霆の問いかけに、先行していた少年は、7つか8つは見つかります、と口にする。
 積み荷の行き先は魔の森付近だと言う。
 誰からもたらされた情報かは当然、溟霆にはわからないが決して、表沙汰に出来る中身ではないのだろう。
「いやはや、興味を持ちすぎたら、赤い華が咲きそうだねぇ」
 ――それは、綺麗な赤い華だ、恐らく、血の様に純粋な色をした。

「しっかし、最近の北條のシノビは、泥棒も請け負うのかい?」
 笹倉の問いかけに、少年はちょっと苦笑したようだった――少し首を傾げると、口を開く。
「泥棒から失敬するのが、泥棒と言うなら……」
「へぇ、一度盗まれたものなのかい?」
「不当な取引……あ」
 飄々とした調子にウッカリ乗せられたのか、少年が焦ったように視線を左右に彷徨わせる。
 情報の重要さは分からないが、不当な取引の産物であれば……北條が身柄を保障するのも、理解できる気がした。
 だが、何故、開拓者が選ばれたのかは――不明であるが。
「まあ、仕事ならなんでもやるさね」
「あ、あの――この事は内密に」
 オロオロする少年に、仕事だからねぇ、と笹倉はのんびり返すと歩を進める。

 目的の荷馬車はあれです、と少年の言葉に竜哉はゆるりと頷いた。
 まだ、人の眼の多い街道だ……荷馬車を追い越しつつ、襲撃予定地までの距離を考え――人気がない事を確認する。
「んまぁ、本当に口だけの女ねぇ、虫酸が走るわぁ」
「嫉妬してるのは、そっちじゃないかい?」
 孔雀と高尾の口論は、まだまだ続いている――本人達は意図的でないだろうが、即興で会話を作る事が難しい事を考えれば、中々のものである。
「誰がシノビか分かるか?」
「蜘蛛の飾りをつけているのがシノビです……間違いなければ、ですけれど」
 成程、言われてみれば蜘蛛の飾りを付けている者が5名。
 大きめの剣を所持しているのはサムライか――豪奢な服装をしているのは一般人かもしれない。
 何故、一般人が組み込まれているのかは不明であるが、この様子ならお目付役、と言ったところかもしれない。
 何度か、追い越されては追い越す、と言う行動を取った後、竜哉がシノビの膝に向かって槍を投擲した。
 サッ、とシノビが振り返り槍の攻撃を交わす――避けきれなかった一撃は、直撃する事は無かったが黒いシノビ装束の膝部分を切り裂いた。
 我が身に傷を作った竜哉が、何かに襲われたのだと……そういう口ぶりでよたよたと馬車に凭れかかった。
 彼の首筋に差し出される白刃――他人がどうなったとて、彼らには関係がない。
 大仰に驚いた様子で、後ろに二歩、三歩……だが、その間に他の開拓者達は襲いかかった。

 神楽舞「武」を踊っていた笹倉の扇が、パタンと音を立てて閉じた。
「逃げられる前に、一気にやってくれよ」
 この依頼は、スピード勝負。
 そう言った彼は、戦況を見据える為にやや離れる……積み荷の無事は、尤も気をつけなければいけない事柄だ。

 打貫を使い、戦輪をシノビの首に向かって投げると、溟霆は早駆で距離を詰め、右に飛び退いた。
 その横を飛来する手裏剣と、続いて風神のカマイタチ――出来る限り狙いを定められないように、複雑なステップを踏むと蓮と併せて踏み込んだ。
「術の類は厄介だな……手早く仕留めてしまうか」
「仕留める以外に、手段も無いけれどねぇ」
 くくっ、と喉の奥で溟霆は嗤い、さり気なく積み荷の間へと身体を滑り込ませる。
 一方、蓮は裏一重で手裏剣を交わすと宙を一転、目下のシノビへ三節棍を叩きこみ、顔を蹴り飛ばす。
 吹き飛んだまま、水流刃が蓮目がけて放たれる――身体を縮め、突き進むと連々打で三節棍を振るう。
 日光を受けて、七色の光が走った……頑張ってくれよ、と笹倉が笑う。
「いやぁねぇ、醜い者に興味はないの。アタシの美しさに酔いしれなさ〜い」
 毒蟲が這い回り、一人のシノビが神経毒の痺れに呻いた、手で払おうとしても陰陽術による毒蟲は不気味な黒い光を放ちながらはいずり回る。
「ンフフ、アタシの放った毒蟲は如何かしら?その表情だと随分気に入って頂けたみたいねえ」
 孔雀がサディストの笑みで嗤う、斬撃符を交えて魅せれば――溟霆が打貫で戦輪を放つ。
 力尽きるシノビに確実に忍刀で止めを刺した溟霆は、後背から放たれた手裏剣を払い落す。
 幾度も放たれた手裏剣に、払いきれず刺さったものを忍刀で傷口ごと斬り捨てた――毒の類だとしても、身体に入り込まなければ脅威にはなり得ない。
「何の毒か分からないのは、脅威だからねぇ。出血よりも怖いよ」
 手早く笹倉が解毒をかける、逃げ出す前に白霊弾で敵を穿ち、阻害する。
「あら〜ん。逃げ出すだなんて、無様ねぇ」
「無様って言うより、逃げたくもなるよなぁ」
 逃がしてやる程、親切ではない――毒蟲を仕掛ける孔雀の横で、あーあ、と哀れみの籠った視線を笹倉は向けた。
 とは言え、あちらにはあちらの、此方には此方の仕事。
「まあ、運が悪かったと諦めてくれ」

 抜足を使い、高尾が印を紡ぐ――それより速く、飛来した手裏剣を何とか交わしつつ、水遁の術を放つ。
 水柱が上がり、一人のシノビが巻き込まれてクラリ、平衡感覚を失うも高尾へと襲いかかる。
 襲いかかる雷火手裏剣に、痛みを覚えるが踏み込んだ最高速を失わぬまま、神甲で殴りかかると喉を抉る。
 舞い散る血飛沫と、暗い色をした手裏剣。
 肩に振り下ろされた手裏剣はそのままに、高尾は更に敵のシノビを殴り付けた。
 ヒュゥ、とか細い息が漏れる音がして、骨の折れる鈍い音。
「悪く思わないでおくれよ。此れは、あんたの業さ」
 屍を蹴り飛ばしながら、高尾は嗤う、嗤う。

 次のシノビへと踊りかかった蓮は、シノビの足を狙い、低い体勢から足払いをかけると足の骨を砕いた。
 それと同時に腕に痛みが走る――鋭い歯で噛みついたシノビが、蓮を蹴り手を足とし獣のように睨みつける。
 そのまま、逃走を計るシノビだったが……速度なら蓮の方が優れている。
 瞬脚で接近し、そして自らの腰と同じ位置に在る首の骨に向かって、三節棍を振り下ろした。

 ガラガラ、ガラガラ、次々と撃破されるシノビを棄て置いて荷馬車は進もうとする。
 だが、立ちふさがった神凪が桔梗を用いて鋭いカマイタチを放った。
 放ったと同時に、切り込めば鋭い音を立てて噛みあう刃、咄嗟に二刀を重ね合わせて攻撃を受けたが、その力の重さに手が痺れている。
 そのまま、力で押し切ったサムライは一足跳びに打ちかかった――力技は不利、心がけているからこそ、一旦、神凪は距離を取る。
「良い腕をしている」
 瞬時に回避を選んだ神凪に、鋭い目をしたサムライが口を開いた。
「――そう思うのなら、退いては貰えないだろうか」
「拒否する」
 力と力がぶつかり合う……力では敵が上回っているが、単純な速度なら神凪が上。
 技を言うのなら――桔梗でやや離れた場所からカマイタチを放ち、敵の射程に入らないように計算しつつ、常に冷静さを失わない。
 何より、いきなりの強襲で敵が遅れを取ったのは。

 ――此方で引き付ける

「了解」

 竜哉が小さく呟くと、未だに体勢を立て直し切れていない敵の背後に回り、暗殺者の刃を穿つ。
「護衛が、護衛以外に気を向けちゃいけないなあ」
 味方が派手に動きまわる程に、暗殺者と言う影は深い影となる。
 胸骨に守られていない心臓を穿たれたサムライは、血を噴き上げながら、倒れこむ――気付けば、立っているのは開拓者と、そして。
「ヒィィ、化物!」
 ヒュゥヒュゥと恐怖に喘ぎ、命乞いに地に頭を擦りつける一般人。
 その首に向かって、鋭い槍の穂先が差し出される――竜哉が口を開いた。
「誰に頼まれて、何処に持っていく予定だったのか」
「確り言ってくれれば、殺さないかもねぇ」
 殺さない、殺さないでくれよ、と涙と鼻水に濡れる一般人を侮蔑の視線で見ながら、孔雀は多分ねぇ、と心の中で呟いた。
「此れは、北條のお頭に頼まれて、魔の森付近のアタシ達の氏族の――へへっ、あのアマ。親類縁者全員葬ったなんてぇ、言われてますが。実際はそうでもないみたいですねぇ。里長全員と、床を共にしたなんてぇ――ギャッ」
 穂先が跳ね上がる。
「で、中身は――?」
 笹倉の問いかけに、すみません、と少年が一般人の首を弾き飛ばした。
「中身は、教えてはいけないと……」
 屍は土に埋め、或いは水の中に沈め、開拓者達はゆっくりと荷馬車を押していく――根来寺へ。

●牡丹灯籠
 根来寺、陰殻の表の顔。
「皆さん、ありがとうございました」
 やや暗くなった空、灯籠の色が灯る居酒屋で少年は止まった――ご苦労様でした、と飄々とした声が上から聞こえてくる――北條流の頭領、北條・李遵、その人だ。
「久しぶりさね。で、単刀直入に言うけど、この針知らない?」
 笹倉の言葉に、単刀直入に返しますが、と前置きした李遵が同じ針を差し出して見せた。
「私の針です。流石に『不当な取引を行ってる張本人』が、強奪願いを見過ごすのも変でしょう……まあ、皆さんのお陰で良さそうな噂も立ちそうですが」
 その時、初めて李遵が笑みを向ける――純粋な笑みには、付属する感情など存在しない、ただ、微笑んでいるのみ。
「私達の氏族の秘密を知った者は、消えて行く……。尤も、藍玄がこんな依頼を出したのは私も、少なからず驚きましたが」
 ところで皆さん、と彼女は灯籠を持ちあげた。
「知っていますか、牡丹灯籠。焦がれて死んだ女は幸せでしょう――夜な夜な、逢いに行けるのですから」

 細い糸に縛られて幾時、漸く藍玄は目を覚ました。
 ――牡丹が描かれた灯籠が弱い、光を投げかけている。
「貴方の放った子飼いは、情報元を消し去ってくれました。とは言え、残党は集まって私を籠絡にかかるでしょう……その前に」
 彼女は一族の一粒種、ならば、その影は為すべき事を為しましょう――影は影に還り、亡霊は亡霊に為る。

 はて、縛られているのはどちら――?