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■オープニング本文 ●小さな友達 息を飲む程に、その空が美しかったことを覚えている。 自分は頭から醜悪な臭いのする鮮血を被り、死体の山の中でぼんやりと座りこんでいた。 それに比べて、空に輝く星の、清廉さ――美しさ。 斬り殺された両親への哀しみや、怒りなどは感じなかった……ただ、漠然とだが『何時か』その時が来る。 そんな予感がしていただけで。 ふわり、ふわり――燐光を纏って小さな『人』が下りてくる。 赤く濡れた手を伸ばそうとして、慌てて無事な布切れで血を拭い、手を伸ばした。 子供心に、それは何かお目出度い、素敵なものだと言う事を直感していた。 どうしたの、と聞かれたような気がするが、よくは覚えていない。 寂しい、お友達もいなくなっちゃった――そう、泣こうとして、打たれる、と思い直した事は覚えている。 「――寂しい」 心を占めていたのは、親を失った悲しみでは無く……温かい人の温もりを失った事による寂しさだったのだ。 ●慰安訪問 うん? と煙管を咥えたまま、首だけで喜多野・速風(iz0217)は『慰安』の文字に訝しげな様子をしている開拓者を振り返った。 「北面集落からの疎開民でサ、今はジジイの孤児院にいるんだがよ、魔の森の活発化は言わば全体の恐怖さね。そいで、強い強い開拓者の人に来て貰って、安心させようってぇ事さ」 朋友必須? と聞かれた速風はニヤリ、笑って言った。 「金もねーし、数は多い方がいいだろい」 人相手だと、報酬がいるからな、とカラカラと笑ったギルド調べ役は、はた、と思い付いて言葉を添えた。 「そう言えば、妖精にあったさね。信じるかどうかは、それぞれだけどよォ」 |
■参加者一覧
酒々井 統真(ia0893)
19歳・男・泰
菊池 志郎(ia5584)
23歳・男・シ
和奏(ia8807)
17歳・男・志
リエット・ネーヴ(ia8814)
14歳・女・シ
シャンテ・ラインハルト(ib0069)
16歳・女・吟
日和(ib0532)
23歳・女・シ |
■リプレイ本文 ●積もる不安 吐く息は白く、空は何処までも高く――冬特有の、やや白に染められた空を仰ぎ見た和奏(ia8807)は、広いですね……と他人事のように呟いた。 その傍でふわり、軽く浮いては睨むような視線を向ける光華と言う名を持つ人妖は、少し嫌みを滲ませた口調で口を開く。 「風情を感じる感性は、あったのね」 未だ、出会った時の『大きな虫』発言を気にしている彼女の嫌みに、和奏は首を傾げ不思議そうな顔をしたままだった。 「頼るべき親の無い辛さ――私にも、良く分かります」 白い息を吐き出しながら、シャンテ・ラインハルト(ib0069)は隣で凛々しく胸を張る忍犬、セレナーデの毛並みを無意識に撫で、その温かさにホッと息を吐く。 武天での戦いから幾月、北面でもアヤカシの動きは活発になっており、不安は深々と雪のように積もっていく。 「大喧嘩に備えて、鋭気を養わねぇとな!」 快活に笑った酒々井 統真(ia0893)の横で、人妖の神鳴も深く頷く。 それは、戦いに出る武人達の力によるものだから、自分が強く、在らないと。 彼は、既に必要な道具を持ちこんでいて……山ん中のボロ小屋が住処だから修繕の腕は鍛えられている、との事。 「こんにちわんわぁ〜♪今回はよろしくだじぇっ!」 わぁ!と駿龍のシャートモアから、素早く下りたリエット・ネーヴ(ia8814)が、右腕を天に振りあげて元気よく挨拶をする。 元気な声に、お、と頬かむりをした依頼人、喜多野・速風(iz0217)が箒を持ったまま、振り返った。 塵が冷たい風に飛ばされるが、そんな事は気にせず、ネーヴの頭をわしわし撫でた速風は子供達に声をかける。 「よぉ、元気そうで何よりでぃ。こちとら、キタ兄ちゃんが雇った開拓者だ。おめぇさん達と、遊んでくれる兄ちゃん姉ちゃんだから、沢山遊んで貰うように」 「……あんなに小さいのに、かわいそうになぁ」 日和(ib0532)の呟きの先には、何処か不信感を瞳に宿した子供達――親を失ったのか、或いは捨てられたのか。 もしくは、子供だけでも……と親は遠くへ疎開させたのかもしれない、が、やはり離れる寂しさや、捨てられたのではないかと言う不安は心の奥底に巣食っていた。 「行くよ、まくら!」 不満顔のもふら、まくらを引っ張り日和は子供達へと向かう。 でも、元気そうじゃねーか、ともふら独特の不遜な表情で、ズリズリ引っ張られるまくらは、大きく欠伸をする。 「喜多野さん、台所を借りても宜しいでしょうか?」 菊池 志郎(ia5584)の手には、料理の材料を入れた風呂敷包み。 聞けば、ジルベリア風の料理になる予定だと言う。 「ほほぅ、なら、キタさんが味見を――イデッ!」 ゲシゲシと子供達に蹴られた速風が、箒を振りあげて追いかけ始める、と思いきや振り返って。 「台所でもなんでも、好きに使っておくんな」 子供相手に本気で追いかけ回す、大人げない大人に苦笑しつつ、菊池は管狐を取り出す。 名前は雪待、美食家(?)なこの管狐は大層、食への意識が強く、また、顔を覗かせた日和も笑顔で。 「料理、楽しみだね」 と言ってくるものだから、否応なしに期待が降りかかってくる。 「頑張りますよ――雪待は子供達と遊んでいて下さい。ああ、あまりはしゃぎ過ぎてはいけませんよ」 「我は子供では無いぞ」 不満げな管狐の姿に、クスクスとその場に笑いがこぼれたのだった。 ●妖精のように 力仕事を得意とする開拓者達は、修繕へと力を注いでいる。 雨漏りや隙間風が酷い、と言う孤児院の壁や床には、年月を経てこびり付いた汚れが歴史を物語っていた。 ネーヴは壺の中に狙いを定め、綺麗に包みで包んだ、とらのぬいぐるみを隠す。 すぐ、見つかるかな、それとも中々難しいかな? 自分がプレゼントを探すときのように、ワクワクしながら彼女は足取り軽く、屋根に上り、修繕が必要だと思われる個所に、赤いリボンを付けていく。 ふいに、地上を見た彼女は、楽しそうな出来事に表情を輝かせ、屋根から下りて駆けよるのだった。 同じくして、身軽な動作で屋根へと上った酒々井と和奏。 優先箇所を書きとめ、場所別に区分した和奏の書きとめを覗きこみ、ネーヴのリボンで彩られた場所を目安に、二人はせっせと仕事に励む。 板を使っての補強の作業が主な仕事だが、酒々井はテキパキと、和奏はノンビリと。 対照的な二人だが、確実に塞がれていく穴……光華がクルリ、と穴から顔を出して口を開く。 「こっちも、穴が開いてるわよ」 「――そうですか」 「こっちにも開いてます!」 孤児院の中でも、少しばかり年長組に当たる少年が、穴を覗きこみ、指を突っ込んでは手を振り上げる。 「板があるからよ、補強しておいてくれ。後は、板に何か描いたりするか?」 酒々井の指示に従い、少年がトンカンと釘を打ちつける――土間に埋め込む飾りや、板に絵を描くのは、妹も喜びそうだ、と少年が嬉しそうに笑った。 「妹がいるんですか――」 あんまり楽しそうに話すものだから、和奏はオウムのように聞き返す。 「はい、ええっと――この子ですね。冬香」 和奏の手にする紙を指さし、少年は妹の名前を口にする……アヤカシによって失ったのだ、と語った彼の表情には暗い影が漂っていた。 冬にしては暖かい日差しが、縁側に差し込んでいた――ちんまり座って、のんびりと茶を飲んでいる孤児院の長。 彼が、速風の言うジジイである。 中では、日和が土壁に板を打ちつけていた――この上から、塗り直すのだが力加減も分からず、打っては壊し、打っては壊し。 「……なんだろ、直ってる気がしない」 まくらが、眠そうに欠伸をする……もう少し、上手い方法があるんじゃないかと、そのもふらは思ったが、ノンビリとその光景を見守っていた。 平和な時間に、ギューと気が引っ張られて不満そうにもふ、とまくらは怒る。 子供達の容赦ない、毛のもふり方、挙句には引っ張ったり、上に乗っかったり――その様子を見て、人気者だなぁ、と日和は笑う。 「遊んでおいで。修繕はしておくから」 「ええ、任せておいて下さい」 ラインハルトも少し疲れてきた腕を軽く伸ばしながら、外へ視線を向けた。 セレナーデは、視線の先で子供達と戯れていた――頭の良い忍犬は、元気すぎる子供達に少々戸惑っているようだが、いい相手になっている。 これなら大丈夫、そう判断して彼女はプレゼントの隠し場所を探した。 『妖精が隠したプレゼント』 今、妖精の噂が各地で聞かれているからこそ、この夢にあふれた出来事は現実に。 「そう言えば、速風は妖精、見た事あるのか?」 日和の言葉に、おうよ、と頷いた速風は板を打ちつけながら、遠い目で昔の事を語る。 「俺の両親はちぃと名の知れたゴロツキでよぉ、それが祟って開拓者に殺されちまったんだが――生き延びた俺に、妖精が示してくれたんさね。この孤児院への道を」 一緒に、雪の中を歩いて、倒れて、諦めて……死ぬはずだったあの時の少年は、孤児院の湿気た布団に寝かされ、看病を受けていた。 あの時、出会った小さな友達は、何処にいるのだろうか……? 「じゃあ――この近くにもいるって事だね」 「……恩人、ですね」 子供達に見せられたらいいな、と日和の言葉にラインハルトも深く頷いた。 綺麗で、小さな友達――もしかしたら、悲しみに沈んだ心も慰めてくれるかもしれない。 ラインハルトが、綺麗に包まれたお菓子を植木鉢の後ろに隠した。 「このお菓子、私も好きなんですよ」 「そっか、楽しみだなぁ」 対する日和は、もふらのぬいぐるみと桜の花湯を使われていない火鉢の中へ。 満足そうに頷いた彼女は、また、トンカン、トンカチで板を打ちつけるのだった。 ●2人と1匹 はしゃぎまわる子供達の声を聞きながら、菊池が用意するのは鶏肉を味付けして揚げた、フライドチキン。 タレにつけ込んで焼いたローストチキン、海老やイクラの赤、錦糸卵の黄色、絹さやの緑と言う華やかな散らし寿司。 野菜スープは温かく、大鍋で作ったプリンは優しい味わい。 「喜んでくれるといいんですが」 見る限り、出来は悪くないですね――と一人頷いた菊池の鋭い直感が後ろの気配を察した。 「目標確認、2歩。キタさんは2歩で行ける」 「お前ばっか食ってんじゃねー。やっぱり、狙いは散らし寿司かな」 「……我なら一瞬で近づける」 ダメ大人代表と、悪ガキ共らしい、何故か彼の朋友の雪待も付いてきている――内心頭を抱える菊池だが、此処は平静を装って、ギシリ。 床が音をたて、食い意地の張った大人と子供と管狐一匹が散らし寿司へと近づいた瞬間に、散らし寿司を両手で抱えあげる。 「あ――」 宙を切る手に、間抜け面を下げた2人と1匹。 ご愁傷様です、と何事も無かったかのように調理を続ける菊池に、敗北を悟った2人と1匹は大人しく撤退を始めるのだった。 外では、ネーヴが畳を前に格闘戦を仕掛けているところだった。 「畳の急所を見つけて、だんっ、と足を踏み鳴らすんだじぇー♪」 足をふみならせば、魔法のように畳は起きあがってクルリ、ひっくり返る。 「畳の急所って、何処さ」 「へっへーん、内緒」 片足と両腕上げてくるくる廻るネーヴに、はしゃいだ子供達も同じようにクルクル廻る、廻る。 クルクルクルクル、やがて目を回して倒れ込む子供に、大丈夫?と聞きたそうにセレナーデが顔を寄せる。 わぁ!と歓声をあげた子供は、次は鬼ごっこ&かくれんぼしよう、と遠慮無い仕草で忍犬を撫でまわす。 「鬼ごっこ&かくれんぼ?」 もしかして――と問いかけるネーヴに、勿論、とやんちゃそうな子供が胸を張った。 「リエット、知らないのかよ。天儀で流行の、鬼ごっことかくれんぼを組み合わせた遊びなんだぞ!」 名前からわかる遊びだが、子供達には気にならないようで……既に何処に隠れよう、何処へ逃げよう、としきりに周りを見回している。 「10まで数えたら、探しに来いよ!犬と一緒でいいから」 「犬じゃない、セレナーデだよ!」 「わーい、張りきって逃げるじぇー」 勿論ながら、ネーヴも参戦、子供達が追い付けるように、気を付けて逃げるつもりではあるが、満面の笑顔に子供達の不安も何処へやら。 対するセレナーデは、どうしてこうなったのか、とばかりに頬を膨らます子供の腹を突いて、励ましてやる。 「直ぐに追い付いてやる、泣いてもしらないからな!行くぞ、名犬セレナーデ!」 ビシィっ、と指を突きつけて、名犬セレナーデ、と何やら付け足しつつ、一つ二つ、数える子供に、容赦しないからーと、ネーヴはパタパタと走り出す。 勿論、一般人である子供に容赦なく逃げる訳にはいかない。 軽く走り出し、ひょい、と柱を曲がったところに『でん!』とその場を支配するもふら――日和の相棒、まくらがいた。 冬にしては日差しは温かいが、まくらをそれこそ、枕にして眠る子供にさて、どうしようかと首を傾げる。 このままでは、風邪をひいてしまうかもしれない。 「お、リエット。あ、寝ちゃってる」 日和が顔を出せば、コクコク頷いて――毛布でもかけてあげるよう、と彼女は口を開いた。 子供の表情は安らかなものの、時折、指をしゃぶったりと、落ちつかない。 ころん、と寝返りを打ってはぎゅっと、まくらを抱きしめる。 「あ、リエット見つけ!」 ギュッと、腕を掴んで、開拓者にも勝ったーと声を上げる子供に、起き出した子供は周りを見回して――走って行ってしまった。 「あ……!」 「リエット、私が行くよ。行こう、まくら!」 どうしようか、逡巡したところに日和が声を上げ、走っていく、そしてネーヴはまた、子供達と遊びに興じるのだった。 ●安らかなり まくらと共に、子供を追いかけた日和は縮こまる子供を見つけ、口を開いた。 「はじめまして、私は日和っていうんだ」 「あ、あの、私は――冬香」 元より、器用な方ではない日和は、どうしたものかと頭を悩ませた。 無理に話を聞き出せば、逆に傷つけてしまうかもしれない――それは、彼女にとって酷く怖い、過去を想起させる出来事だった。 「……開拓者さん、じゃない、日和さんは」 「ん?」 「生きて、帰ってきますか――?」 お父さんとお母さんは、私と兄を庇って、死んだんです、と少女は語る――それを黙って聞きながら、日和は迷いつつも、頷いた。 「うん、帰ってくる」 約束、と小指を差し出す少女に、やや躊躇った後、日和も小指を絡ませる。 ……約束、してもいいのだろうか? 何時、命を落とすかもしれないのは、誰もがそうなのかもしれない。 だが、開拓者として戦地へと赴けば、その可能性は大きく上がるだろう……それでも、縋り来る少女の瞳が、泣きだしそうな瞳が。 約束を求めていて、大丈夫、と日和は何故か泣きたい気分で、笑う。 独りじゃない、此処に、いるから。 そう伝えたくて、小さなその手を握れば、少女ははにかむ。 「誰かが、気にかけてくれるって、嬉しい事ですね――」 また、壊してしまうんじゃないか……そんな恐怖を抱いていた日和だが、目の前で笑う少女に、そうだね、と柔らかい笑みを返すのだった。 「冬香ァー、兄さんが呼んでるぜぃ」 「あ、キタ兄ちゃん」 「お、日和も一緒か。まあ、入れ入れ」 どうしたのか、と問いかければ壁のつぎはぎに絵を描いたり、土壁に飾りを埋め込んだり、洒落たものにするんだと、と速風は笑う。 「このオンボロも、洒落たモンになるってぇ事さね」 「オンボロとは失礼じゃのぅ」 正座の状態からずずぃーと近づいてくるジジイに、速風は冷や汗を流しつつ後ずさる、後ずさる。 その様子をみて、ケラケラと笑い声を上げる日和と冬香にひょい、と速風は振り返った。 「さ、綺麗にしてくんな」 目の前には、雨漏りに悩まされる事はない天井と、綺麗に塗りなおされた土壁。 勿論、屋根の修繕はとっくに済ませている。 「あ、ええっと――」 誰でしたっけ、と聞く前に子供達の名前リストを手で捲りながら、和奏が確か――と口を開いた。 「冬香、です」 「お、じゃあコイツの自慢の妹だな!」 ワシワシ、酒々井がカナヅチを持っていた手を痛そうに振っている少年の頭を掻きまわすように撫でた。 「わ、わ、其れ秘密ですよ――っ!」 思わず笑い声が零れる中、不思議そうに首を傾げる和奏も、仲良しさんですね、と付け足した。 あ――っと、外で声が上がった。 何だろう、とばかりに外を見れば、ふわり、小さな包みを抱えて宙を滑る人妖、神鳴だ。 「妖精?」 「妖精だ、まてー!」 はしゃぎだす子供達、それを聞いてしたり顔の酒々井。 「(本当は私も、遊びたいんですが、ね)」 神鳴は内心苦笑しつつ、手でぎゅっと持ったプレゼントを落とさないようにして、行方をくらました。 子供達の夢を守る事、それを最優先に。 「そう言えば、喜多野さんは妖精を見た事があるって、言ってましたね」 ギルドの中で仰ってましたよね、と付け足した菊池に、おうよ、と速風は頷いた。 寒い寒い、冬の中で、独りぼっち。 その時に出会った、友達――それを言えば、開拓者だって妖精なのかもしれない。 ……志体と言う、不思議な力を持った、友達だから。 「……興味本位で聞いてしまってすみません。でも、もし、今日また妖精に会えたら、喜多野さんはすごく幸運ですね」 大きな幸せがやってきますよ、と付け足した彼に、速風はそうさねぇ、と呟き、開拓者と、子供達を見まわした後。 「酒池肉林」 ボソリ、呟いたところで、ジジイに頭の上からお茶をぶっかけられるのであった。 「よしよし、皆、こう言う大人にはなるんじゃぁねーぞ」 笑顔で言った酒々井に、笑い声が上がった。 ●友達 継ぎ接ぎに絵を、土壁にカラフルな飾りを、と華やかになった頃に、さて、とラインハルトが口を開いた。 「皆さん――プレゼントを持って来たのですが」 妖精が、悪戯で隠してしまって――と、続けた彼女に、わぁ、と歓声をあげる子供達。 「プレゼント!」 「なあ、見つけたら貰っていい?」 はしゃいだ姿に、碌な説明も聞かず蜘蛛の子を散らすように探しまわる。 やや、気圧されていたラインハルトだったが、どうやら開拓者達の催しは成功したらしい。 「見つけたーっ!」 壺の中に入った、綺麗な包み紙から出てきたとらのぬいぐるみ、そして春の花々の香りのする袋を抱きしめて、少女は笑う。 「こっちも、お菓子だお菓子!」 ジルベリアのお菓子に、此れは何だろう――と夢想でしかなかった『お菓子』と言うものに戸惑いを見せる少年。 それは、ジルベリアのケーキですよ、とラインハルトが付け足した。 そそくさと包みを開けて、一口大のケーキを放り込めば、あまーい、と幸せそうな笑顔。 今までは、日々の食事にも事欠く生活をしていた少年にとっては、初めての経験だったらしい。 綺麗な花や、甘いおしるこ、キャンディにブローチ。 隠された様々な贈り物を夢中で探す子供達、時折。 「此れは俺のもんだ!」 「いーや、俺のものなんだからな!」 「ほらほら、喧嘩すると、妖精がまた、プレゼントを持って行ってしまうかもしれませんよ?」 何て喧嘩も勃発して、それを諌めるのに開拓者達もてんやわんや。 「あ、これは皆さんで分けて下さいね――」 此処は、平等に、とキャンディボックスから可愛らしいデザインのキャンディを分けながら、和奏が言った。 それを舐めつつ、どうやら全てを見つけ出した子供達は、満足げで――でも。 「お腹空いた……」 じゃあ、ご飯にしましょう――と並べられた料理達。 「ふむ、美味美味」 「……雪待、お願いだから皆さんの分を残しておいてくださいね」 菊池がたしなめる横で、子供達の分を残さないと、と気を付けつつ食べまくる日和。 その横で、何も考えずに食べまくる速風。 「喜多野にーちゃん、それ、私の!」 ネーヴに注意されて、悪い悪い、と悪びれもせず速風は笑う。 カツン、とジジイにシャモジで頭を叩かれて、彼はその場で頭を抑えるのだった。 「甘い……」 「それは、プリンと言うお菓子ですよ」 スプーンですくって、口に入れれば口の中で程良くとろけるお菓子に、子供達は目を輝かせた。 開拓者の持ってくる物は、どれもこれも目新しく、何処か憂鬱な影が漂っていた孤児院内だったが、今は幸せで満ち溢れている。 食事が終われば、ラインハルトの奏でる音楽を聴きながら、まどろみの時間。 此処で人気なのは、やはりフワフワとした朋友達で、セレナーデは枕のようになっているし。 「うん、やっぱりいい気分。すごいなぁ」 日和に抱きしめられたまくらを、子供達も撫でくり回す。 「(な、何故我が……)」 管狐の雪待は何故か、しがみ付かれて苦しそうにバタついていた。 それを、頑張って下さい、と苦笑しつつ、菊池は見やる。 眠れない子供は、和奏と一緒にママゴトに興じていた。 「はい、あなた、ご飯ですよー!統真ちゃんも、食べ残しちゃいけません」 「俺、子供役――」 実年齢より若く見られるのを気にしている酒々井からすれば、ちょっぴり苦い遊びだったかもしれない。 楽しい時間は、あっという間に過ぎて。 西日が支配すれば、もうお別れの時間――。 「これ、にーちゃんやねーちゃんにやるよ!」 そう言って、子供達が差し出したのは童話「白い妖精」と言う本、なんでも、孤児院に寄贈されたものらしい。 「友達、だからな!」 ふわり、微笑む子供達に開拓者も笑いを返して――そして、チラリ、と白い影が横切った。 小さな少女の姿をした、真っ白な存在……それは。 「あの時の――」 速風が呟いた、なら、妖精か、と開拓者達もその姿を見やり、そして、妖精はす―と、何処かへと飛んでいく。 「見送りにでも、来たのかねぇ」 どうか、友達を見守っていて――不思議な、僕達のトモダチ。 温まる心を抱いて、開拓者達は帰路につくのだった。 |