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■オープニング本文 ●墨色の瞳 水分を含んで重くなった着物が、足にまとわりついて、行動を阻害する。 手で抑えている腹から、どんどん赤い液体が落ちて足を伝い、地に馴染んでいった。 「やぁれ、名誉の負傷とは言い難いねぇ」 随分と歩いたような気もするが、それ程の距離を歩いてはいないのだろう。 何処か冷静に考える自分に苦笑しながら、喜多野・速風(iz0217)は深く息を吐いた。 ギルドの調べ役‥‥つまり、依頼として成立する前に内容を調べる役ではあるが、所謂『キナ臭い』内容であれば当然、彼自身も危険に晒される。 まさに『キナ臭い』依頼であった‥‥冷たい目で品定めをする依頼人から逃げ出し、追手に手傷を負わされたものの、何とか討ち倒す。 「とは言っても、此処で死んだら意味ないさね」 尤も、追手に捕まれば次の日には、ギルド調べ役の剥製なんてものが出来ているかもしれないが。 そこまで考え、苦笑し、げほっと、背を丸めて咳をすれば脊髄を駆け巡る鋭い痛み――目の前が霞み、暗くなっていく。 最後に何かが、視界に入った気がしたが‥‥認識する間もなく彼の意識は途絶えた。 目を覚ませば、子供がいた――性別は解らないが、まるで墨を水に溶いたような黒の瞳。 腹の傷は綺麗に手当てされ、つん、と薬草の臭いが鼻をつく。 「気が付きましたか。‥‥暫くは、痛みが続くと思いますが、直ぐに治るでしょう」 「ああ、そんな事は慣れたもんでぇ。恩に着るさね。ありがとよ」 見た目ほど、とっつきにくい相手でもないらしい、笑顔を浮かべ返事を返せば顔色一つ変えずに、その子供は立ち上がった。 「じゃあ、失礼します‥‥あまり、長居したい訳ではないので」 「此処は、お前さんの家じゃないのかえ?」 「‥‥違います。元々は社のようですが、今は誰もいないのでお借りしました」 なるほど、見てみれば神社独特の建築様式をしている――気もする。 速風にも知識はないが、目の前の子供が嘘を吐く理由も無いだろう‥‥ふむ、と一つ頷いて場所を問えば神楽の都はそれ程離れていないと言う。 直ぐに何処かへ行きそうな子供へ、速風は笑いかけ、そして何か礼に、と懐を探るが何しろ宵越しの金は持たない主義。 飾り紐を外して、子供の手に持たせる。 「大したものじゃねぇが、受け取ってくれ。石鏡のギルドにいる時に買った、お守りさね」 子供は暫し逡巡していたようだが、やがて頷くと飾り紐を受け取り、懐に突っ込んだ。 ●正体 何とか、ギルドに戻り報告を済ませ、受付に狩りだされ。 緊急で舞いこんだ人相書に、彼は凍りついた。 「あの子が殺人鬼?信じられねェ」 ‥‥富豪10名の殺害。 何れも手口は陰惨なもので、鈍器で頭を殴った後、刃物で殺害。 とは言え、富豪全員が後ろ暗い事を行っていた、そしてあくまで目撃証言のみ‥‥との事でギルドもそれ程力を入れて捜査を行ってはいないらしい。 この人相書も、依頼人が人づてに聞いたものだと言う――太陽に顔向けできない人物には、そんな繋がりも出来るのか、半ば呆れがちに速風は依頼人を見る。 「次は、私の家が狙われている。ええ、金は払います、どうか、私とコレクションを守って下さい」 「使用人がいるようだが、そちらの護衛はいいのかえ?」 聞いた速風に、依頼人は蔑むような視線を向け、そしてせせら笑う。 「使用人ですか?そんなものはどうでもいいんです、それよりもコレクションを」 |
■参加者一覧
檄征 令琳(ia0043)
23歳・男・陰
鬼啼里 鎮璃(ia0871)
18歳・男・志
リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)
14歳・女・陰
アルバルク(ib6635)
38歳・男・砂 |
■リプレイ本文 ●護衛すると言う事 敵は子供と、そして相棒である管狐。 彼等から、依頼人とその蒐集品を守る。 警備と言えば簡単だが、何時現れるかも分からない敵に対処するには、常に気を張り詰めておかなければならない。 大きな腹、眠そうな瞼の依頼人は、開拓者達を値踏みするような粘着質な瞳で見る。 「弱そうな奴らだな、開拓者ギルドはこんな奴等しかいないのか?私の命が狙われているんだぞ?」 黄色く変色した歯を剥き出しにして、濁った瞳でギルドの調べ役である、喜多野・速風(iz0217)へ鋭い語気で迫った依頼人は返答に大きく鼻を鳴らした。 「彼等は腕利きの開拓者です。素行や能力共に、問題ありません」 「ふん、どうだか」 粘着いた瞳が、もう一度リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)を見、そして好色な色を湛えてぶ厚い唇を舐めた。 「(やれやれ、思っていたけど、依頼人はどーしようも無い奴ね)」 その視線の意味が分からない訳ではないが、あくまで外見年齢通り、14歳の少女のフリをして少し首を傾げてみせる。 ふん、ともう一度鼻を鳴らした依頼人は、精々頑張ってくれ、と部屋に引きこもろうとした。 「すみません、蒐集品と一緒に守る為、蒐集品の置かれている部屋にいて頂きたいのですが」 申し訳ありません、と鬼啼里 鎮璃(ia0871)が肩を竦める、何しろ、この依頼を受けた開拓者は4人。 速風を入れて5人であるが、人数は足りていないように思えた。 依頼人の鋭い目が、彼を射抜く。 すみません、ともう一度場を収める為に鬼啼里は口を開くと、頭を下げる。 彼に非がある訳ではない、だが、失敗すれば依頼人の命は無い。 開拓者としても、ギルドとしても大して実害はないのだが、依頼を受けた以上失敗はしたくないところだ。 「本当に、頼りになるのかね」 何度目かの言葉に、半ばうんざりして檄征 令琳(ia0043)は窓の外を見る。 予想以上のクズだ、だが、依頼だから『仕方が無い』事ではある‥‥仕事は、金と労力の取引でありそれ以上でも以下でも無い。 長いな、と声に出さず伝えてきたアルバルク(ib6635)に、苦笑めいた笑みを返した。 漸く、解放された開拓者達、速風は鬼啼里の指示に従い、蒐集品と依頼人のいる部屋を監視していた。 元より彼も、そのつもりだったらしく、そのつもりさね、と気安く笑う――ギルドが、或いは速風がどんな意図を持っているかは分からないが、問題はないのだろう。 「さぁて、見物させてもらうかね」 「あら、一人で何処に行くのかしら?報酬だけもらって、逃げようって訳じゃないわよね」 冷やかしの様な、それでいて厳しい口調でヴェルトがアルバルクへ口を開いた。 好色な視線に晒されて、酷く機嫌が悪いのだ。 「ああ、仕事に私情は挟まないさ。相手はしっかり金を落とす、で、俺はしっかり仕事をする。ほら、襲撃が夜中とは限らないだろ?夜は光が消えたら、ヤバいと思ってくれ」 じゃあな、と手をヒラリ、上げた彼は使用人の部屋へと向かう。 日中の屋敷内の様子を、しっかりと頭の中に入れておく為だ、勿論、それには使用人の姿かたちも含まれている。 「敵を騙すには、まず味方から――この場合は、味方でも無いですが」 ボソっと呟いた檄征は、誰に言うだけでも無くそうですねぇ、と虚空を見上げた。 大理石を切りだした邸宅の天井は、美しい女性の像が描かれ、片目には本物と見紛う程に似せられた眼球が嵌めこまれている。 「使用人にも、注意しておきましょうか」 下手をすれば、少年が襲撃した頃合いを見計らって、使用人が刺し殺すかもしれない。 勿論、そうなったとしても依頼の成否には全く関係ない、少年からの襲撃を向かい討てばいいだけなのだ。 「それにしても、こう、常に気を張っていると時間が経つのが遅く感じられますね」 定期的に心眼「集」を用いて、周辺に気を配っている鬼啼里にとって、長期戦や長期にわたる警備は厳しいだろう。 いざという時にスキルが使えない可能性もある。 「疲れたら、休んでも構いませんよ」 休んで下さい、ではなく休んでも構わない、と慇懃無礼な所を感じさせる言葉で、檄征が注意を促す。 曖昧に笑った鬼啼里は、まだ大丈夫ですよ、と周辺の警戒を強めるのだった。 「それにしても、金品が手つかずってことは個人的な恨みかしらねぇ。一人で別々の場所にいる人を10人も、復讐だとしたら頑張った方じゃない?」 「ええ、その分子供でも油断は出来ません」 退屈そうに、ヴェルトと檄征は言葉を交わす。 「それにしても、剥製って何の剥製なのかしら?」 立て籠っている蒐集品を置く為の部屋は、全ての剥製に覆いがかけられており中を窺い知る事は出来ない、何より、狭くて息が詰まる。 自分の世界へと入り込んでいた依頼人は喜々とした口調で立ち上がり思いの他、優雅な仕草でヴェルトの元まで来る。 意外と、成りあがりではなく貴族筋の人間なのかもしれない――ジルベリアの元女貴族であるヴェルトはそのような事を考えるが、自分と同じだとは思いたくない。 眉を顰め、曖昧な笑みを依頼人へ向ける。 其れを肯定と受け取ったのか、依頼人はベタリと張り付いたような笑みを浮かべ、一つのケースを取り出した。 「此れは『蠱惑の花』と名付けたんだがね」 「(‥‥退屈そうね)」 言外に退屈、と伝え、ヴェルトは話を切り上げようとするが、話しだした依頼人の口は止まらない、喜々として喋り続ける。 まるで、発情期の猫のようだ――もっとも、猫ならもっと可愛いが。 「手に入れるのは、流石の私にも大変だった。まず、美しくなければいけない。ああ、すまない、現物だったね」 ケースの中の小さな箱を開ける、中身に吸い寄せられたのは、ヴェルトではなく速風の方だ‥‥一瞬、目が鋭くなるが、彼は何も言わない。 「美女の唇で作られた花、綺麗だろう?」 「――そうね」 アルコールの中にたゆたうのは、紛れもない唇、蝶が吸い寄せられる花のようだ、と依頼人は血走った目で訴えかける。 その瞳が、自分の唇に注がれているのを知りながら、ヴェルトは曖昧に笑って見せただけだった。 一方、使用人の部屋へ足を運んだアルバルクは、悲鳴の上がる内部をそっと探る。 過酷な状況の中では、さして珍しくも無い、強者による弱者への折檻が行われていた。 あんな碌でもない依頼人の気を惹いて嬉しい、とは思わないが、日々の鬱憤を晴らす為の防衛手段なのだろう。 ジルベリア風の女中服、所謂メイド服を身に付けた女が、苦悶の声を上げていた。 とは言え、変に介入する訳にも行かない。 ゆっくり、音を立てないように気を付けながら、アルバルクは静かにその場を後にするのだった。 ●闇から出でて 日が暮れると、ランタンに灯りを入れる必要性がある。 依頼人から支給された、高級そうなランタンの中の蝋燭に火を付け、アルバルクは廊下を歩く。 大理石からなる、静謐さを通り越し冷たさを感じさせるこの屋敷の廊下から、窓越しに月が見えた。 使用人の部屋から戻り、生活スペースと称される部屋へ。 何かの気配を感じた彼は、ピタリ、足を止めた――暗闇からの殺気を、感覚と本能だけで回避し、そのまま振り向きざまにショーテルで攻撃を与える。 その攻撃は軽くかわされ、次の瞬間に足に痛みを感じて飛びのいた‥‥赤い液体をまき散らした細い針が、床から伸びている。 次には、空気を切る音で跳ね退くと、鉄の手袋でその音へ向かって拳を突き出した。 キーンと金属のぶつかる音がして、宙を切り裂く鎖鎌が弾かれる、咄嗟の行動であるが、相手が息を飲むのが分かった。 「‥‥弾かれるとは、思いませんでした」 墨色の瞳をした少女、否、メイド服を身につけた少年がその場に立っていた――味方を呼ぶよりも早く、鎖鎌が複雑な軌道を描いて宙を切り裂く。 それをショーテルで打ち払えば、鎖と刃が擦れ合い不協和音を放った。 鎖鎌から伸びる、分銅がしっかり刃に巻きついているのを確認すると、アルバルクは思いっきり力を込めて引き寄せる。 少年もその場に足を突っ張って、引き寄せられまいとするが力で叶う訳が無く、ジリジリと二人の距離は縮まっていく‥‥やがて、不利だと判断したのか少年は鎖鎌を投げ捨て腰から忍刀を引き抜いた。 引っ張っていたアルバルクがたたらを踏み、体勢を崩す、鎖鎌が離れて床に落ちたが、ぶ厚い敷物に音が吸い込まれる。 そこへ、一直線に迫る少年、鉄の手袋で弾くが、速度と質量を持ったその攻撃を受けきれず、ブレた刃は首の皮を切り裂きドクドクと血を吐きだしている。 だが、そのままやられている訳には行かない、そのまま大きく踏み込み接近すると、足で少年を蹴り飛ばす。 その足で更に踏み込み、少年に向かって暗蠍刹を使い、肩口をめがけて袈裟切りに斬り捨てた――否、斬り捨てる筈だった。 片腕の籠手を盾にして其れを防いだ少年は、そのまま身体を交わし、忍刀をすれ違いざまに振るう。 「危ない所でした‥‥長々と此処で働いた分が、水の泡になるところです」 「そりゃぁ、どうも。退いちゃぁ、くれないかね――こっちも、報酬がかかってるんでな」 「遠慮します」 短いやり取りを行い、直線の動きをした少年と、曲線を描くアルバルクの得物が重なり合う。 廊下と言う建物の中で、少数であった事は幸いと言えよう。 大人数では、殺気も気配に混じり、初手の鎖鎌で依頼人の首が飛んだかもしれない。 冷たい汗を拭い、アルバルクは笑う、重なり合った得物を払ったところで、自分のミスに苦い表情を浮かべた。 「‥‥チッ」 少年の足が鎖鎌を蹴りあげ、片手で扱うと、アルバルクの腕から脇腹にかけて切り裂いた――此れ以上、戦う事は無理だろう。 姿を消した少年を目端に捕えながら、彼はランタンの中の蝋燭を吹き消した。 ●闇へ還る 「――此方へ、誰かが来ているようです」 灯りが消えたのは見えたのだろうか‥‥窓から見える程度の灯りは、気付かれなかったかもしれない。 だが、何かの予感を感じたのだろう、鬼啼里の声は凛と張り詰めていた、万が一の事を考えて呼び笛を吹く。 ――ガシャン! 大音響を立てて、窓が割れる‥‥そこには、誰もいない。 「そんなに長い時間維持できる術じゃないわ。さぁ、姿を見せなさい♪」 直ぐにブリザードストームを放ったヴェルトが、機嫌よさそうに口角を吊りあげ窓を見据えた。 キィ――と、音を立てる小さな管狐、その身体にはナイフが括られている。 「陽動かもしれません、気を付けて!」 鬼啼里と同時に、ドアが破壊され殺気が中へと流れ込む。 「来ましたか――それにしても、戦うことでしか己を見出せ無いとは、我ながら愚かです」 檄征の言葉と共に、月に照らされた鋭い光が部屋の中を蹂躙する、それを気配だけでかぎ取り、陰陽槍「瘴鬼」をやや斜めに構える。 蒐集品の溢れるこの部屋では、非常に不利な得物ではあるが、彼は陰陽師、距離を取りつつ、身をかがめ刃をやり過ごす。 二度目の攻撃は、彼の肩口を抉った。 暗闇から、姿を現した少年は墨色の瞳を向け、そして壁へと飛来した、遅れて鎖分銅が音を立てる。 「この糞餓鬼、糞がァっ!」 明らかに狙われるだろう、依頼人を押し倒すようにして速風が身を伏せた、頭上を鎖鎌が切り裂く。 冷めた目で、依頼人の滑稽な姿を見ていた檄征は、改めて少年へ視線を向けた。 「あんなクズをいくら消しても、満ち足りることはないでしょう。だって、金品が目的であるなら、消す必要は無いでしょう?」 少年は、何も言わない。 「それに、消えて喜ぶ者がいても、悲しむ者がいない人間を消している。あぁ、安心して下さい。私がいなくなっても、困る人も哀しむ人もいませんので、遠慮無く、全力で来て下さい」 呪縛符を放ち、少年の鎖鎌を弾き、檄征が語りかける。 「堕ちなさい、深く暗い夢の底に‥‥」 妖しく微笑むヴェルトが紡ぐ、アムルリープに、ふと意識を手放しそうな少年の背を、管狐が引っ掻いた。 「――その為の、相棒って訳ね」 観察してみれば、少年が襲撃してから管狐は、大した攻撃行動を行っていない。 巡らした思考を、断ち切って、ブリザードストームを放つ。 「(動きが‥‥速い)」 何度か鎖分銅を放った鬼啼里は、手段を変える事にしてシャムシール「イアーフ」を手にした。 闇の中で、唯一清浄な光のように、澄んだ色をしている。 「手加減は、出来ません――」 踏み込む、薙ぐ、弾く‥‥流し斬りが上手く決まって、血が噴き出すが少年は表情を変えずに片手の忍刀ですれ違う瞬間、鬼啼里を切りつける。 そして一旦距離を取り、そして何を狙ったのか駆けだす、時折腕で依頼人の蒐集品を弾き、落としながら。 依頼人が、怒りの咆哮を上げた。 忍刀が残虐な光を帯びる、横踏で其れを交わし、斬りつけようとして、目的に気付いた。 「喜多野さん!」 「‥‥厄介な、耐えて下さいよ!」 檄征の放った呪縛符、命中が削がれ、速風の剣が少年の皮膚を裂く、だが少年は彼の頭蓋に肘を叩きこむと、鎖鎌を取り出す。 「忘れないで欲しいものね!」 ヴェルトのアムルリープが、少年に向かって放たれるが、気力を振り絞り少年は駆けた。 ザクリ、赤い血しぶきが依頼人の首から上がる――血を浴びた少年は、静かに口を開いた。 「僕の目的は、殺す事。貴方達と、戦う事じゃない――」 少年に向かって、ブリザードストームが放たれる、だが、少年は管狐を己に同化させると自身の守りを固めた。 不利ではあるが、守れない訳ではない‥‥戦いではなく、此れは護衛。 あくまで調べ役でしかない、速風のみが護衛に立ち、開拓者は全て攻撃に回っていた――守る相手など、いないかのように。 護衛であり、室内で待つ事を考えると人数の少なさも問題では無かっただろう。 何故、大人数で蒐集品の集まる部屋を選んだのか。 何故、片付ける等して大人数が動ける場所を、確保しなかったのか。 「守る為に傷つける。とは言っても、護衛がいなければただの、的」 少年と、管狐が消える――その姿を見送って、檄征は苦い表情を浮かべた。 「くそっ、無様です‥‥」 コポコポと、依頼人の首から血があふれて絨毯にシミを作っていく――せめても、と神風恩寵をかけるヴェルト。 タダ働きはご免こうむりたかった。 ●解放 首を掻き切られた依頼人は、結局帰らぬ人となった。 ――狂喜の表情を浮かべて開拓者達は迎えられる、使用人達は清々した様子で依頼人の顔に唾を吐きかける。 ありがとう、ありがとう‥‥。 その後、改めて開拓者ギルドから派遣された速風が、何時もの通りタダ茶を淹れながら口を開いた。 「ああ、あの後。人体やら死体が見つかってぇな、死者に罰も何もねェが、逮捕されたってぇ事よ」 こんな事もあるさ、そう言って頭の包帯を取り、彼は笑うのだった。 |