【奇風】お化けと一緒
マスター名:白銀 紅夜
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/09/16 02:28



■オープニング本文

●楽しいお化け屋敷
 ぐぅ、と唸って男は、足に力を込めた――背中には、少年がおぶさり、腕に少女がもたれかかる。
「お前達、重いってぇの」
 女の子に失礼なのよー、力が無いだけだよなー。
 ハモる二人の子供に、その男、喜多野・速風(iz0217)は強く言えず、何処で覚えて来たんだ――と遠い目で目的の屋敷を見つめた。
 何でも、博打通いの亭主を持った女が首を吊ったらしい。
 ‥‥その後、その亭主も後を追ったとも、家でなぶり殺しを受けたとも言われている。
 元は裕福な商人の家だったその屋敷は、主から忘れされて久しい。
 買い手が、怪死すると言う曰く付きの屋敷は、時折訪れる好奇心の塊に騒がされるだけで、良識ある大人は足を運びたがらない。
 無論良識のある(と自分で思っている)大人である速風も、この屋敷に足を運びたかった訳ではないが。
 彼の長屋の主人の―長屋のジジイ―孫たちが言うのだから仕方が無い。
 長屋のジジイが、何でも夫婦水入らずの温泉旅行に行くとのたまった時には。
「(嘘だろ、クソジジイ)」
 と思わないでもなかったが、書き置きの隅に、何かあったらツケが倍額になります、あしからず――とあった時には。
「(職権乱用かよ、クソジジイ)」
 と、思ってしまった彼を誰も責める事は出来ないと思いたい。

『お化け退治』
 と、名前のついた今回の冒険。
 アヤカシとしての幽霊は何度も見たことがあるが、普通(?)の幽霊にはお目にかかった事が無い。
 そもそも、そんな物がいるのか‥‥アヤカシの様な気がする。
「さあて、鬼が出るか蛇が出るか」
 お守も任せておくぜぇ、と、速風は後ろを振り返り、開拓者達に念を押すのだった。

 屋敷内――。
「ああ、また来た。幽霊稼業も、楽じゃないわ」
「おいおい、稼業も何も、稼いで無いだろ?」
「だってねぇ、まあ、博打よりマシかしら‥‥さあ、行こうかしら。幽霊の姿って便利よね、餌が向こうから飛び込んでくるんだもの」


■参加者一覧
水月(ia2566
10歳・女・吟
エルディン・バウアー(ib0066
28歳・男・魔
明王院 浄炎(ib0347
45歳・男・泰
ティアラ(ib3826
22歳・女・砲
サミラ=マクトゥーム(ib6837
20歳・女・砂
トィミトイ(ib7096
18歳・男・砂
ケイウス=アルカーム(ib7387
23歳・男・吟
ホープ=マクトゥーム(ib7514
20歳・男・砂


■リプレイ本文

●いざ、お化け屋敷
 おどろおどろしい雰囲気を持つ、目の前の屋敷。
 彼の背後には8人の猛者達が集っていた――ある意味、彼等も物好きだねぇと、そこは突っ込んじゃいけないだろう、って事を思う依頼人、喜多野・速風(iz0217)。
 彼は、両肩にぶら下がる子供達を指さして、そして明王院 浄炎(ib0347)を見た、で、拝み倒す。
「重いから、代わって」
「失礼なのよー」
「失礼だよなー」
 ダブルでハモる子供達、リクとミナミのお守りで、速風の生命力は残り1だった。
 貧乏くじの様な気もするが、面倒見のいい父でもある明王院は仕方があるまい、と子供達を軽く肩に乗せてやる。
「攫われるのよー」
 何だか、凄く失礼な事を言われているが、明王院は、はしゃぎ過ぎないように、と念を押すだけだった。
 そして、子供達並みに目がキラッキラしてるのは『教会生まれのE』さん、エルディン・バウアー(ib0066)である。
「教会の神父さんはカッコイイんだーーと子供達にいいとこ見せる良い機会。これも布教活動の1つ!レッツ、悪魔祓‥‥へぶしっ!」
「天儀神教会、シスターのティアラと言います。神父様ともどもよろしくお願いします」
 まずは、挨拶ですよ、と神父さんこと、バウアーを蹴り倒したティアラ(ib3826)は何事も無かったかのように挨拶をすませる。
「お化けとはまた非科学的な。どうせアヤカシでしょうに」
 ついでに、重いため息を吐いた、科学が通じるかは不明として、幽霊と聞けばアヤカシを疑うのが一般的な思考と言えよう。
「わ、ちょ、重‥‥わぷっ」
 運悪く、飛んで行った先にいた、ホープ=マクトゥーム(ib7514)がバウアーの下敷きになってアプアプと溺れかけの金魚のように酸素を求めていた。
「楽しそうだな」
 氷河期の様な、冷めた口調で、全く楽しいなんて思っていないでしょう、貴方――なんて突っ込みたいような声でトィミトイ(ib7096)が呟く。
「幽霊屋敷、か‥‥うん、さっさと片付けよう(お化けなんていない、お化けなんて嘘さ)」
「こ、怖くないの、サミラ。俺、すっごく怖いんだけど」
「んー‥‥まぁ私は戦士だし、幽霊なんて怖くないけど、ね。幽霊とか、怖い訳じゃないけど」
 ケイウス=アルカーム(ib7387)の問いかけに、何処かで聞いたような歌を心の中で繰り返し唱えていた、サミラ=マクトゥーム(ib6837)は、恐怖を心の奥に押し殺して、首を横に振った。
 パタパタ、パタパタ――足音が近づいてくる――。
 クイッ、と服を引っ張られて「出たぁあっ!」思わず、アルカームは叫ぶ――が、首を傾げたまま何も言わない小さな娘。
「あ、あれ――ええっと水月だっけ」
 無言のまま、コクンと頷いた水月(ia2566)は、やっぱり幽霊に間違われた――と内心切なくなるが、何も言わずに瘴索結界「念」を張り巡らせる。 術を紡いだ瞬間、水月の身体が淡く、輝いた。
 ピョコン、と髪の毛がアンテナのように立ち上がり、ユラユラゆれる。
「アヤカシなら、アヤカシなら――お化けじゃない、あ、アヤカシですよね?」
 ティアラに手を引っ張られ、バウアーの下から解放されたホープが、水月に問いかける。 コクン、と頷いた彼女は、早く行こう、とばかりに屋敷の扉を指さした。
「では、行くか。リク、ミナミ、逸れぬようにな」
 明王院が扉を開く、双子は大丈夫なのよーと口にして、するすると降りて楽しげに中に入るのだった。

●楽しいお化け屋敷〜西班〜
 水月の瘴索結界「念」では、中にいるのはアヤカシだと言う。 故に、戦闘も想定される中、多数では同士討ちになりかねない、故に開拓者達は班を二つに分けた、賢明と言えよう。
 西側を担当するB班は、サミラ・トィミトイ・アルカーム・ホープの四人。
 トィミトイの持ち込んだ蝋燭の炎と、そしてサミラの持つ松明の炎、妖しく揺れる――ギシィ、放置されて久しいのか、黴の臭いや、木の腐った臭い。
「‥‥ケイ、鬱陶しい」
 ピタリ、と立ち止まって口にしたサミラは、後ろにべったりと張り付いているアルカームに、シッシッと手を動かした。
「だ、だだだ、だって」
 屋敷を出るまでに、舌噛むんじゃないか、と言う位『だだだ』とどもった彼は、救いを求めるようにトィミトイを見た――当然ながら、無視された。
「まあ、随分と雰囲気のある場所ですし‥‥ははは」
 若干壊れた笑いと、冷や汗をたれ流しながらホープは虚ろな目で虚空を見た。 同郷の仲間達の前で、恥ずかしいところは見せられない。
 自分がしっかりしなければ!とけなげな青年は自分の心を奮い立たせるが、怖い者は怖い。
「さっさと片付けようって、言ったじゃない、置いていくよ」
 先陣切って歩くサミラ、だが、その歩みは遅い――幽霊なんかいない、幽霊なんかいない。
 呟く彼女へ、怪訝な視線を向けながら、置いていくぞとトィミトイが声をかけた。
「えええっ、ま、待って!」
 西側の部屋の一つに到達した4人、躊躇いもなくトィミトイが扉を開く。 
『ざわ‥‥ざわ‥‥』
 そして――無言で閉めた。
「な、何――お、お化け?」
 アルカームの言葉に、面倒くさそうに口を開く。
「見るに堪え難い者を、目にしただけだ」
「で、でも、一応確認しないといけませんよ、ね――」
 そうですよ、と少し冷静になり、ホープも扉を開き‥‥額を抑え、その場に崩れ落ちた。
「そう来たか‥‥」
 一体、どう来たのか、最早、アルカームは部屋から遠く離れた場所にいる。親しみやすいのはいいんだけど、とサミラは内心呟きながら中を覗いた。
 読経でもしているのか、ボソボソと声が聞こえてくる。
「ハエハエー」
「ハエ髪様‥‥ハエ――み、た、なぁあああ!」
「いやぁあああ!」
 思わず、悲鳴を上げたサミラ、本能のままに、拳を振り下ろした、ちなみに裏拳で。
「お化け屋敷ではなく、おハゲ屋敷、ですか」
 しょっぱい事実である。
「今から生えるんだよ。ああ、此処は人もよりつかないし、絶好の場所なんだよ」
 輝く頭皮を、手ぬぐいで擦りながら、生え生え――と経文を呟くカルト集団をとりあえず、外に放り出し、中を確かめる。
「特に、気になる点はないね」
 手ぬぐいが、頭皮の脂染みを作り、艶やかにも切なく、輝いている以外は。
『サミラは 汗染みついた手ぬぐいを 拾った!』
「要らないってば!」
 思わず投げ捨てた手ぬぐいは、妙にぬるっとしていて、不快感が湧き上がる。 ――仕方が無いので、ホープの服で拭いておいた。
「何故、僕なんですか――」
 進行上、仕方が無い事である、多分。

●楽しいお化け屋敷〜東班〜
 東を担当するのは水月・バウアー・明王院・ティアラ、そして速風と子供達。
 見た目は人魂の、マシェライトがバウアーを中心として辺りを照らす。
「大部屋、見た限りは何も無さそうですね」
 残念そうに言うバウアーを放置して、助祭であるティアラは、子供達を気にかけていた。
「大丈夫、お姉ちゃん達がお化けなんかやっつけてあげるから」
「頑張るのー」
「頑張るのー」
 リクとミナミに優しく微笑みかけ、穏やかな時間が流れる――が、其れは長く続かなかった。
 ピコ、と水月のアンテナが揺れる――ふ、と視線を向けた先に、其れは降って来た。
「見るな!」
 咄嗟に動いた明王院、そしてティアラだが好奇心旺盛な子供達は、顔を覗かせる。
 舌の飛び出た首、頭蓋の割れた首‥‥ビチャ、中身をまき散らしそれは床へと落ちる。
「ふぎゃぁぁぁーー!!」
 バウアー、あまりのグロさにティアラに抱きついて、全身の穴と言う穴から涙を流し始めた。 まて、子供の憧れ、神父なのに、それでいいのか?!
「神父様、聖職者なら――さっさと除霊でも退治でもしなさい、このデクノボーっ!」
「ギィヤァアア――!!」
 ティアラに吹き飛ばされ、床に蹴り倒されるバウアー、子供達に覗きこまれ、ボロボロになりながら、輝く神父スマイル。
「聖職者たるもの、これしきのことで怯んではなりませんから」
 キラリと素敵な笑顔であるが、子供達は酷かった。
「でも、怖がりさんなのよー」
「なのよー」
 とは言っても、彼等も経験を積んだ開拓者である、霊拳「月吼」で明王院が首を捕え、そしてその動きを止める、そして一気に片を付けた。
 ゆらり、揺れた鬼火は、開拓者なら出くわしたことのある敵であろう。 先に気付いた水月が、指さし示す先、炎を纏うアヤカシが炎をリクとミナミに吹き付けんと火を吐いた。
「リク、ミナミ!」
 速風と明王院、同じタイミングで引き寄せれば、リクとミナミがいたところで火柱があがる。 腐った床を炎が舐める――このままでは、火事に!
「消火活動なら、キタさん任せられるぜぃ」
「なら、此方で戦闘を受けもとう」
 明王院と、速風が視線を絡め、では私が、とティアラがリクとミナミの護衛を引き受ける。
 そして、神父さんは――?
 十字架を掲げ、毅然とした佇まいで首を見る。 そして――。
「破ァァァーー!!」
 気合をとばす、この気合は全ての霊を打ち破り、祓う、それは教会生まれのEだけが出来る事であって――。
「くっ、なんて手ごわい、効きません!!」
「何遊んでるんですか、神父様!」
 プギャーとティアラに蹴られて飛んでいきつつ、アクセラレートをかけてホーリーアローで幽霊を倒していく。
「聖霊の力が込められし光の矢よ、わが敵を射抜きたまえ!」
「始めから、そうしておけばよかったんじゃねェかい?」
 砂の雫で消火した速風が、ポツリと呟くが、突っ込んではいけないお約束である。
「ちょっといいですか?ここに座りなさい。正座です。いいから‥‥そこになおんなさいにゃああ!!」
 ティアラのお説教には、見ないフリを決め込んだ。
 大きく踏み込む明王院、ギシィ、と床が悲鳴を上げた、行けるか、それとも落ちるのが先か。
 運足の動きで悲鳴を上げ、落ちた床を回避すると鬼火に接近する、近い距離で、彼は容赦なく暗勁掌を打ち込んだ。
「少々痛い目に合い、怖い思いをしながら学ぶ事も子らには必要だが――生憎、アヤカシは危険すぎる」
 キラキラとその姿を見ているリクとミナミ、振り返り‥‥子らが肝試しや探検を好むのは判らぬではないが、と彼は苦笑した。

●上階〜西班〜
「‥‥居ないですね?」
 時折後ろを確認し、何も付いてきていない事を確認し、そしてまた、前を向くホープ、目の前にあるのは階段。
 此れを上らねば上階へはいけない‥‥ギシギシと階段は音を立て、暗闇で見える複雑な染みは、まるで頭蓋骨のようだ。
「ああ」
 成程、此れは確かに悪霊に見えなくもないな、と感心して立ち止まったトィミトイは、見事に仲間達の恐怖を煽っていた。
「トィミトイさん、何か‥‥見える、んですか?」
 恐る恐る口を開いたサミラに、見える、と聞かれ、少し考えては木の染みが見えるだろう、と不機嫌そうに頷く。
「え、え、嘘?ね、嘘だよね」
 同意を求めると言うよりも、違うと言って欲しい、と言う願いを込めてアルカームが問いかけるが勿論、何も見えない訳ではない。
「見えるに決まっているだろう」
 ダダっ、と駆けだすアルカームの首根っこをホープは掴んで、乾いた笑いを漏らしながら、一人だけ逃げるなんて許しませんよ。 許せませんよ――ねぇ、ははは、と虚ろな表情で告げる、恐怖のあまり、アルカームは泡を吹いていた、南無。

 2階、殺気の様なものを感じサミラは足を止めた、ゆっくりと扉を開ける。
 ――ドサッ。
 落下する音、梁からぶら下がる女、折れた首を見る限り、発声する事は不可能であるが、その女は虚ろな微笑を浮かべていた。
「ひぇ、出たぁぁっ!」
 アルカームが何処から出るんだって言うぐらい高い声で、悲鳴を上げた。 逃げ出そうとするがホープが張り付いていて逃げられない、もうやだ、俺にかまわないでよ!とか、精神状態的にはそんな感じだった。
「ッ!――きょ、今日は、良い天気ですね?」
 小さな悲鳴を喉の奥で殺し、紡いだ言葉は少々場にそぐわない挨拶で、後ろから付いてきた3人が何か、言いたいような気がして誰も口を開かないのに、サミラは必死で弁明する。
「恐怖や警戒は戦士にとって最も重要な‥‥(略)」
「今日も亭主は博打三昧、花嫁衣装も質に入って流れたわ。博打に、遊郭で遊んでばかり」
「其れが何だ、時間の無駄だな」
 蝋燭を吹き消し、窓を蹴破ってダナブ・アサドで身体能力を高めると太刀「獅子王」を構えるトィミトイ、獅子を思わせる威圧感、幽霊の女は口を開く。
「私が、怖くないの――?」
「死人の霊など珍しくもないだろう」
 低い体勢から、上へ切りあげるように太刀を振るう、酷い!と頭の中で呪われた声がして、小さく舌打ちをした。
「こ、攻撃が通った‥‥こいつ、アヤカシ!?」
「そうよね、そうに決まってる――消えてなくなれ、アヤカシ!」
 アルカームが激しく紡ぐ、奴隷戦士の葛藤と武勇の曲は何時もより攻撃的な音色、サミラが曲刀で現れた鬼火の炎を受け払いつつ、ピストルを撃つ。
「でも、あれってやっぱり幽霊じゃないでしょう、か――?」
「何時まで、遊んでいないで確かめて来い」
 ホープの言葉に、思いっきり冷たい視線で口にしたトィミトイが、邪魔だとばかりに女幽霊の上から強襲をかける。
 落下した首の折れた幽霊、もがいて悲鳴を上げるがホープに狙いを定め、頂きます、とマウス、トゥ、マウス、された方はたまったものではない。
「お、おえぇぇ――」
 何かが汚れてしまった、そんな気がした。
「ふ、ふふ――アヤカシ、だったんですね‥‥そうとわかればこっちの物だっ!!」
 もう、何かヤケだった。 ロンパイアの長い柄は、狭い場所では不利だが、その柄を力技で叩きつけるようにして攻撃する。
「こっちだ、幽霊モドキっ!」
 アルカームが声を上げ、ダーツを放ち、全員の『色んな意味で』重なった思いが叩き込まれた。
「消えてなくなれ!」

●上階〜東班〜
 カク、カク、と関節の外れた幽霊が奇妙なダンスを踊る。 静かに、静かに、歩み寄り、そしてその小さな背中へ声をかけた。
「ふは、ふははっは!」
「――キャァ‥‥!」
 共鳴の力場が発動する、狙われた小さな背中の持ち主、水月が絹を裂くような悲鳴を上げて、そして振り返り後ずさる。
「こう狭いと、使いにくいのですが――」
 ロングボウを放ち、ティアラが幽霊へ攻撃を加える、即射で矢継ぎ早に撃った矢が、幽霊の頭蓋に刺さった。
 鬼火へは、明王院が素早い動きで殴り、次々に瘴気の塊へと返していく。 バウアーが大仰な動作で十字架を掲げ、踏み出し、ボゴッ‥‥消えた。
「おーい、大丈夫かぇ?」
 蝋燭で照らしながら、速風がバウアーに手を差し伸べる。 幽霊‥‥否、アヤカシそのものは、弱かったのか、静まり返った屋敷には気配はない。
 帰ろうか、誰かが口にする。
 もう、幽霊騒ぎは起こらないだろう、割れた窓の奥で、女が嬉しそうに笑った、気がした。