【陰遵】蛙の王様
マスター名:白銀 紅夜
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/08/21 23:18



■オープニング本文

●商談
 目の前の奴隷商人を見、北條・李遵(iz0066)は天儀酒を口に運ぶ。
 好んで話したい相手でも無い、だが、二束三文で買える奴隷を様々な事に使う――それは彼女の里の習わしであった。
 裕福と思われる奴隷商は、指先に飾られた装飾品を見せびらかすようにしながらぶ厚い唇をパクパクと開ける。
 それ程金が有り余っているのなら、自分で開拓者を雇えばいいものを‥‥そう思わない事も無いがアヤカシに蹂躙されているのは、個人的にも腹が立った。
「それで、ルートの確保を願いたいと?」
 北條流の使い‥‥と言う事で顔を変えた李遵は、いつもの通り感情を感じさせない声で問いかける。
 それが気にくわなかったのか、鼻息荒くした商人はイライラと机の端を叩いた、此れで5度目、どうやら苛立った時の癖らしい。
 第一、お荷物にしかならないのにわざわざアヤカシ退治を見たいと言い出す奴隷商――金持ちの酔興とは、自分の想像を超えるのだろう。
「別に、お得意様は他にもいるんですがね」
「じゃあ、他の所に行ってみればどうでしょう――調達なんて楽に出来ます」
 ――脂汗を拭う様子、そしてきょろきょろする視線と何度も組みかえる足。
 嘘、か‥‥虚栄を纏った商人はその衣を脱ぐのがどうしても嫌らしい、どうせ利害は一致している。
「そちらで依頼料を負担してもらえるのなら、此方で対処しますが」
 淡々とした李遵の言葉に、むぅ、と唸った商人は渋々金を差し出した、斡旋料と、そして報酬。
「では、此れにて‥‥此方としても、排除する理由がありますのでご安心を。貴重な取引物品ですからね」
「そうして頂きたいものです」
 皮肉を聞き流しながら、李遵は席を立つ――目端に捕えた奴隷商は、酷く疲れた面持ちをしていた。


■参加者一覧
九法 慧介(ia2194
20歳・男・シ
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
リエット・ネーヴ(ia8814
14歳・女・シ
溟霆(ib0504
24歳・男・シ
朽葉・生(ib2229
19歳・女・魔
シータル・ラートリー(ib4533
13歳・女・サ
笹倉 靖(ib6125
23歳・男・巫
如月 瑠璃(ib6253
16歳・女・サ


■リプレイ本文

●土を耕して
 ――わたしの願いを 叶えてくれるなら あなたの願いを 叶えましょう。

 足で踏み固められただけの、粗末な交易路。
 痩せこけ、栄養失調で腹を膨らませ、瞳だけが爛々と輝いている子供。
 そして、重そうな一重まぶた、贅肉を身体に詰め込んだ大人――だが、此方も瞳を爛々と輝かせた商人。
「俺は俺のやれる事でカバーする、負担をかけてすまない、皆――」
 竜哉(ia8037)は手に地図を持ち、傷を負いつつも、周辺の地形を頭に叩きこむ‥‥傷がジクジクと疼いて、彼は不甲斐ないと眉を顰めた。 だが、その分思考なら役に立てる。
 陰殻と言えば、閉鎖的な地域色だが、まだこの辺りは開放されている方なのだと、依頼人である北條・李遵(iz0066)は言う。
 ――尤も、迎撃ポイントと指定された場所以外の移動は、見張られていると言う、その中でも、竜哉が選んだのは片側のみが畑で、片側が林になったやや広い場所だった。
「(この商人も、そして依頼人も。何を考えているんだか)」
 商人の贅肉の奥の、瞳に暗い物を見て、内心眉を顰める。
 一人一人、子供達を抱きしめたシータル・ラートリー(ib4533)が、優しい口調で大丈夫、と繰り返す。
 頭を撫でながら、涙を拭いながら、震える子供達は何が起こるのかも分からず優しげな少女に縋りついた。
「何も心配はいらないので、大きな音や声に驚かずにいてくださいましね♪」
 ラートリーの言葉に、コクコク頷く子供達を確認し、彼女は奴隷商人にずずいっと近づいた。
「畑が心配なのは存じているつもりですが、危険なので別の場所で待機していただけると助かりますわ♪」
「人も守れないほど、力のない開拓者なのかね」
 尊大な様子で、奴隷商人は口にすると、見物と洒落こむように、その場に敷物を敷いてふんぞり返った。
「(もふ戦隊の長官が、今日は真面目だ)」
 些か、李遵を見て驚きを隠せない九法 慧介(ia2194)は、あのノリが見れないものだろうかと考えてみるが、口に出すのは憚られて口をつぐむ。
 此処にもふらさまがいない以上、次の依頼にもふらさまの調達が入りそうな気がして迂闊な事は言えない。
「しかし、陰殻も開放的になったものですね」
 抑えきれない戦闘への欲求を織り交ぜながら、溟霆(ib0504)が口にする。 モノクルの奥では、赤い瞳が相手を窺うように冷たい色を放っていた。
「ええ、開拓者にはお世話になりましたからね」
 以前の陰殻で、アヤカシに蹂躙された時に開拓者が活躍したのだと、淡々と語る姿はどんな感情も読み取れない。 全く、酔狂な――とチラリ、視線を向けた笹倉 靖(ib6125)は頭を掻いてため息を吐いた。
「言っとくけれど依頼の報酬範囲外だから、怪我しても知らねぇぜー?」
「さ、笹倉さん!」
 笹倉の言葉に、怯える子供達に慌ててラートリーがとりなすが、大丈夫と本人は気にしない。 商人から鋭い視線を向けられた李遵は、敵ですよ、と見事に矛先を交わす。
「う?朽葉ねー、間にあう?」
 雑草を結んで足を引っ掛ける類の罠を仕掛け、木の棒や石を使いながら罠を仕掛けていたリエット・ネーヴ(ia8814)が、フロストマインを仕掛ける朽葉・生(ib2229)へと問いかける。
 罠を仕掛け終わってから、という訳にはいかないのが戦闘の辛いところである。 炎の鬼が紡いだ炎を、フロストクイーンを盾にする事で受ける。
「当初よりは少なめですが――」
 朽葉は眉ひとつ動かさず、大丈夫でしょう、と口にした。
「人を脅かす、悪しき鬼どもはこのわしが成敗じゃ!」
 如月 瑠璃(ib6253)の、薙刀「巴御前」が空を切り裂いた。 その長さを生かして柄を振るい、地を裂いては炎の術を放った炎鬼を弾き飛ばす。
「‥‥ところで、あのおじさんと子供達、誰?」
 直ぐに立て直し、迫って来る炎鬼の直線攻撃に斬り結び、淡く輝く斜陽を使った得物、殲刀「秋水清光」で炎を切り裂きながら九法が問いかける。
「昔の知り合いですよ、言うなら名もなき商人壱ですね」
 答えは何か、含みがあるものの、簡潔なものだった。
 斬り捨てるよりも、叩き潰す事に重きを置いた刀が、九法の隣の土に食い込んだ。 早駆で別の鬼を蹴り、足の踏み場とした溟霆の手から苦無「獄導」が放たれる。
 目を守り、耳を掠めた苦無に怒りの咆哮を上げた炎鬼が、彼に炎を放つ。
「お――っと、甘いね。しかししかし、何処から術を放つのか分からないのは惜しい」
 甘い甘い、そう言って喉の奥でクツクツと笑みを漏らした男が後ろに回り込み、暗で頸椎から目まで一突き、倒れ臥す炎鬼。
「‥‥くっ、大丈夫ですか?」
 雷が大地を裂き、身を呈して射線に入り込んだ朽葉が、痛みに呻く。 青く氷の様な瞳で射抜き、彼女は呪文を唱える――アイシスケイラル、氷の矢が雷鬼を穿った。
 グゥ、と低く唸った雷鬼が脚力に任せて接近、彼女へ追撃をする、肉厚の刃で、或いは拳で。
 避けろ――と、口にした竜哉の言葉は間に合わず内心舌打ちをし、朱藩銃を向けた。 膝の後ろを穿った弾丸が、他の鬼の気も引き、炎を身に受ける。
 新しく現れた炎鬼、そして雷鬼に、氷鬼、林から現れては開拓者に襲いかかる。
 やれやれ、と肩をすくめた笹倉が、神風恩寵で傷を癒す。 戦場に居ながらにして、その声は近所をふらりと歩くような、気軽な言葉だった。
「防御と回復しっかりなー、油断すると、大変だぞー」
「いや、靖さん、俺の後ろに‥‥ああ、何時もの事だけど」
 おざなりなツッコミを入れつつ、雷鬼を斬り捨て、次と氷鬼へ切っ先を向ける。 集中撃破と行きたいが、相手も目標は定めずに単純に破壊行動を繰り返す。
「術を放ちます。射線から退避を」
「はーい、じゃあ、次行くねっ!」
 灰色が侵蝕する――ララド=メ・デリタ、拳を灰へと還しながら尚、大きく接近した氷鬼はネーヴとかち合い、そして目の前の敵はネーヴが一瞬で消えた事に驚いたようだった。
 斜め上から強襲をかけたネーヴは、螺旋で氷鬼へ手裏剣「鶴」を放つ――仕留めた。
 危ない! と誰かが叫ぶ、身体を空中で捻った彼女は、炎鬼が放つ、凶悪とも言える質量を持った炎に焼かれて畑へと吹き飛んだ。
 咄嗟に受け身を取ったお陰か、それ程酷くはないが焼けた肌がジリジリと痛む。
「‥‥だいじょ、ぶ?」
「大丈夫、ありがと」
 栄養失調で大きな目と腹をした子供が、枯れ木のような手で彼女を撫でた。

●蒔かれた種
「こうも増えてくると、大変ですね‥‥」
 頭に巻いたスカーフを、無意識に巻きなおしたラートリーは、二対のシャムシールを、芸術的に捌いては新たに現れた氷鬼の腹に二度、もう一度で四度、腹を切り裂いた。
 横やりを入れる新たな雷鬼の攻撃を更に踏み込む事で避け――ようとして出来た隙に、攻撃を覚悟した。
 が、空気が振動し如月が不敵な笑みを浮かべる。
 氷鬼と、そして雷鬼が彼女へ向かって駆けた。 守るべき対象がある以上、野放しにしておくことは危険‥‥だが、囮になると言う事は。
「ここから先は行かせぬぞ、アヤカシども!ここから先に行きたくば、このわしを倒してからゆくのじゃな!」
 薙刀で受け、或いは避けながら罠を踏まないように、柄でバランスを取り一番負傷している氷鬼へと一撃を加えた。
「こりゃぁ、事前に聞いた3体とは違うんじゃないかい?」
 李遵だっけ、と問うた笹倉は神風恩寵に神楽舞「護」と、舞い踊っては回復し、忙しい。
 さり気なく報酬の吊りあげを要求してみるが、しれっと、依頼人である李遵は口を開く。
「3体以上は確実、皆さんの働きを期待しています」
「では、北條の頭領のお眼鏡に適うように頑張りましょうか」
 全く感情のこもらない声で口にした溟霆が、炎鬼、雷鬼、氷鬼をそれぞれ見て、遠くから来るもう一匹に視線を移す。
 それは竜哉も気付いたのか『炎鬼、1体出現』と淡々とした声で口にした。
 目端で捉えた奴隷商人は、相変わらずべったりと口元に笑みを貼り付け、澱んだ瞳で此方を見ていた。
 養豚場で、豚を見るような――所謂、人間が家畜を見る目と同じ。
「(力に対する恐怖を植え付け、反逆の芽を摘み取るか)」
 無力と知っている者は、奮い立つよりも耐える事を優先する。 何時か、何処からか救いが来ると信じて。
 愉快そうな瞳で、李遵が遠いところから見ている、さあ、どうする? 彼等にとって、彼女等にとって、これは些末な出来事なのだろう。
「いいさ、「反逆」の種も与えよう。丁度良い、『対人型』の戦い方を、よく見ておくといい」
 銃を構え、そして狙うのは鬼の額、恐らく、人間であれば致死に当たるだろう。
 痛みに呻く鬼を見、顔に恐怖を宿した子供は何時か、奴隷から解放されるのだろうか――?
 それはわからないが。
「どんなに強いものでも、弱い所はあるのさ。致命的になる位、ね」
「ご尤も、隙を狙い、穿つ」
 暗を使い、小さな刃で大きな敵を倒す。 噴き上る瘴気の中で、そのシノビは嗤った‥‥戦いに、歓びながら。

「氷の術では、負ける気はありません――」
 氷鬼に対峙した女が、風に髪を遊ばせ口を開く‥‥恐らく、この言葉の意味など分からないだろう。 フロストマインを仕掛けた場所、その位置へ誘導するように、彼女は退いた。
 踏み込む、そして吹雪が吹き荒れる‥‥動けぬ鬼は、奇声を発しながら大気を震わせた。
「上手くいったね♪」
 楽しげに笑い、ネーヴの螺旋が、打剣が、氷鬼の身体へと突きささる。 灰色の球体が生まれ、そして灰へと還す。 瘴気にも戻れぬのは、敗者の末路。
 弱きものは搾取される、その後ろでは、子供の首根っこを掴んだ笹倉がやれやれと引き摺り戻していた。
「その辺りにはまられると、罠も無駄になって二重に迷惑なんさー」
 好奇心旺盛な子供は、何処にでもいる。 神風恩寵を使いながら、戦闘へと意識が集中したところで、その言葉が耳をうった。

『タスケテ』

 逃がして、何処か遠いところへ。 陰殻じゃない、他の場所へ。
「助けてって具体的にどこまで? 逃がせばいいの、その後は?」
 おとなが、なんとかしてくれる。 つよいひとが、 まもってくれる。
 庇護される事しか知らない子供は、突きつけられた言葉を聞いて途方に暮れていたが、徐々にしゃくりあげ始めた。
「嘆くんじゃなく、自分で動けって話さね」
 ――何時の日か、人は自分で立ち上がらねばならない日が来るのだから。
 如月が地断撃を放つ‥‥一直線に荒々しく道を切り開けば、やれ、と底をついた練力を考え、どうしたものか、と苦笑する。
 だが、不思議と笑みがこぼれるのは仲間、というものを感じているからか。
 狐の獣人は、柄を地面について宙を駆け、上から強襲を駆ける――目の前に迫る、炎の弾丸、切り裂き、そして、赤い鬼の首が弾け飛んだ。
 残るは、炎と、そして雷の鬼。
 各々負傷を負い、練力を失いながらも開拓者達の瞳はまだ強く、輝いていた。
 危機を感じたのか『撤退』という選択を取ろうと、鬼達は駆ける――だが。
「逃がしてしまうと、もふ戦隊の長官に何を言われるかわからないので」
 はらり、はらりと季節外れの桜が舞う――いや、それは九法の使う紅焔桜だ、満月が輝いた。
 地上に降りた月が、雷鬼の胴深くまで切り裂く、シュウシュウと音を立てる瘴気。
 鬼を蹴る事で刀を抜き、二度目の太刀を浴びせた‥‥たたらを踏んだ鬼の目を穿つ弾丸。
 一つ一つ聞かせる、人型の弱点。
「肘、膝、肩は腕と脚の力と向きを決める、そこに衝撃を加えればバランスと勢いを失い――眼は視界と狙いを司る」
 雷を放とうとした雷鬼の背後から、螺旋を描いて手裏剣が飛来する。 ネーヴの攻撃、彼女は長苦無「白夜」を避雷針として見るが、所謂知覚の攻撃なのだろう。
「駄目かぁー」
 残念、と無邪気に笑う彼女の前で、バタリ、と雷鬼が倒れた。

「後一体、ですね――」
 大丈夫ですから、そう言ったラートリーがシャムシールを構える、風のように空気を切り裂き、弐連撃と払い抜け。
 ララド=メ・デリタを放った朽葉が、灰となって朽ち果てるのを確認する。
 まだ、上半身だけを蠢かして攻撃へと移ろうとした炎鬼、炎を吐くが、弱く宙に舞って消える。
 そのままでも息絶えるだろうアヤカシに、容赦無い一撃が加えられる。
 モノクルの奥で、静かに燃える赤い瞳は手にした忍刀「蝮」を軽く拭い、口角を吊りあげた。
「生憎、僕は嫌いなんですよ」
 美感とはかけ離れている――その非情さは、苦しみを終わらせたのか、それとも冷たく生を奪ったのか。
 ただ、瞳だけが煌々と輝いていた。

●さいごまで
 7体の鬼達から瘴気が立ち上っていた。 満足したように頷いた奴隷商人は、大げさに拍手し脂肪に隠れた細い目を更に細めた。
「見事、いやぁ、見事」
 その称賛の中には、所詮は金で雇われる者――と言った侮蔑が含まれている。 それを直感として感じ取った開拓者達は内心、苦々しい顔をしたがそれは顔には出さない。
「素晴らしい‥‥」
「ところで――その子供達、物は相談ですが、買い取りましょうか」
 戦いが終わり、子供達から事情を聞いていた朽葉が口を開く。
「おや、どなたから聞いたのですか?」
 李遵をチラリと見た奴隷商人は、子供達を憤怒の瞳で見ては、笑みを作って朽葉に問いかける。 此処で名前を出してしまえば、子供達がどうなるかはわからない。
 ただ、首を振り、彼女は守秘義務があります、と事務的な口調で返す。
 交渉を進めようとするが、どうしても持ち金では買えそうもない‥‥元より、商人とは商才がなければ出来ない仕事だ。 素人が玄人に勝つことが出来ないように。
 それを、好奇の目で見ていた李遵だったが、朽葉の言葉に猫なで声で問いかける。
「何故、見ず知らずの子供にそこまで?」
「――助けたいと思い、行動する事に理由なんて、必要ですか?」
 しっかりとした朽葉の言葉に、彼女は感心したように頷き、そして嗤い、奴隷商人へ振り返る。
「私が買い取りましょう。ええ、最後まで面倒をみますよ」
 暗い瞳が怪しく輝く、澱んだ瞳が不吉な雰囲気を醸し出す。 笹倉がギルドの所在を教えるのを見て、李遵は更に言い募った。
「ええ、最期まで」

●???
 暗く澱んだ場所、血と、血と、金属と、錆と――底しれない孤独の臭い。
 悲鳴も、呻きも許されない場所。
 助け出された、3人の子供達は微笑みと共に受け入れられ‥‥そして、そして。

 ――あなたの望みをかなえると 約束をしたなら わたしの望みを 叶えてくれますか?

 ギィ、鉄格子が開く‥‥そこには、右手と右足をもがれた女、否。
『材料』と見なさねばならない――服の裾から見える、蜘蛛の巣の入墨を持つ材料。
 声は不思議と、哀しげな音を持っていた。

「貴女は、絶対に、殺しません」

 薬草の臭い、赤い新鮮な肉が投入される、煮込まれる。
 ――子供達の行方は、ワカラナイ‥‥そして、奴隷商人も何処かへ。