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■オープニング本文 ●「からくり」 アル=カマル、神砂船の船室より発見された、人間大の動く人形。 陶磁器のように美しい肌は、継ぎ目ひとつ無い球体を関節に繋がれて、表情は無感動的ながらも人間さながらに柔らかく変化する、不思議な、生きた人形。 あの日、アル=カマルにおいて神砂船が起動され、「からくり」の瞳に魂が灯ったその日から、世界各地で、ぽつり、ぽつりと、新たな遺跡の発見例が増えつつあった。何らかの関連性は疑うべくもない。開拓者ギルドは、まず先んじて十名ほどからなる偵察隊を出した。 「ふうむ‥‥」 もたらされた報告書を一読して、大伴定家はあご髭を撫でる。 彼らは、足を踏み入れた遺跡にて奇怪な姿の人形に襲われたと言うのである。しかも、これと戦ってみた彼らの所見によれば、それらはアヤカシとはまた違ったというのだ。 なんとも奇怪な話であるが、それだけではない。 そうした人形兵を撃破して奥へと進んでみるや、そこには、落盤に押し潰された倉庫のような部屋があり、精巧な人形が――辛うじて一体だけ無事だったものだが、精巧な人形の残骸が回収されたのだ。 「‥‥まるで、今にも動き出しそうじゃのう」 敷き布の上に横たえられた「人形」を前に、大伴はつい苦笑を洩らした。 ●敗者の末路 ジットリと汗が滲み、薄い被膜となって素肌を覆う。 撫でゆく風は湿気を大量に含み、不快感と苛立ちを生んで行く。 ‥‥しかし参ったなァ、と後頭部を掻きながら懐から薄っぺらい財布を取り出し、中を確認する。 残金、500文――長屋の家賃を払って、2食、食べられるか否かのギリギリの金額。 長屋の大家には、ツケを願うとしてご飯だけは喰わねばやってられない。 「勝ってると思えば、いつの間にか無くなってんだよなァ」 この男、賭博場でしょっぱい賭け事を行い、金銭をばら撒いた後である。 グスッ‥‥と何処かで、鼻水をすする音がした。 志体故に、ただ人よりも鋭い五感がそれを拾えば、持ち前の好奇心からひょい、と路地を覗きこめば――薄汚れた服を纏う少女。 「お、どうした」 「お母ちゃんと‥‥はぐれた」 ――かくして、茶屋で団子と茶を飲み食いしながら少女の親を探した結果。 男の頬には、くっきりと紅葉が付いていた。 「おう、色男。また何かやらかしたのか?」 「ちぃと、迷子の面倒を見てりゃァ、人攫いに間違えられてな‥‥見つかったからいいんだけどさ」 「お前、そりゃぁ日ごろの行いの悪さだって――そういや、新しい女郎が」 お前も同じだろい!と声を返しながら、調査を‥‥開拓者ギルド調べ役、その名の通り怪しい依頼があれば事前の調査を行うのが仕事であるが。 「こりゃァ、見事になぁんにもねェ。お、一つ遺跡の調査か――よし、キタさんの出番ってェ事だ」 開拓者も仕事が無けりゃァ、生活できねェ‥‥と言う老婆心からか。 ただ単純に、冒険をこの目で見たいからか――恐らく後者であるが――癖の強い字で綴られた貼り紙には『急募!』の文字が躍っていた。 『急募!遺跡の調査。内部はからくりが眠っていると思われる。口の硬い人募集』 何故、口の堅い人――? ギルドのタダ茶を堪能した開拓者達は、キョロキョロと周囲を見回した後、喜多野の耳打ちに苦笑を禁じ得なかった。 「からくりと一緒に人形兵を回収してよ、好事家に高く売りつけるってェ事さ。壊れてりゃ、糊でくっつけりゃァいいって事よ。勿論、ギルドには内密に」 |
■参加者一覧
天津疾也(ia0019)
20歳・男・志
貉(ia0585)
15歳・男・陰
孔雀(ia4056)
31歳・男・陰
ペケ(ia5365)
18歳・女・シ
マーリカ・メリ(ib3099)
23歳・女・魔
南風(ib5487)
31歳・男・砲
笹倉 靖(ib6125)
23歳・男・巫
マハ シャンク(ib6351)
10歳・女・泰 |
■リプレイ本文 ●銭魂〆 瘴気漂う東房の北東、うち捨てられた廃村で何やら金にきたなi――じゃない、欲望に正直な面々が集まっていた。 喜多野・速風の脇腹をぐいぐい突きながら、貉(ia0585)がニヤリと童顔に意味深な笑みを貼り付ける。 「例の人形を売り払う? 随分酔狂なこと考えるなぁおい?だが、面白そうだ、俺にも一枚かませろよ」 「いやいや、からくりじゃないさ、人形兵。問題がなきゃぁいいだろい?」 にしし、と二人顔を見合わせてあくどい顔。 「しっかし、人形持ち帰って更にからくりもって帰ればボーナス、ドドンかいな。くくく、これはぼろ儲けの予感やな、よだれが止まらんわー」 じゅるりと瞳はお金のマーク、手にしたリングは金の輪、銭の風が吹く場所に彼は現れる、天津疾也(ia0019)が目を光らせ遺跡を見つめた。 金で買えないものも、あると人は言うが『ソレ』以外は金で買えると言う裏の意味。 「ぶっちゃけ、お金欲しいペケです。今日は欲望の使徒として洞窟調査頑張りますよー」 「はいな、狙うは一攫千金『宝物ってのはお金や宝石だけじゃないんよ』と言うばあちゃんの言葉を確かめる機会です」 頑張りましょう、とペケ(ia5365)とマーリカ・メリ(ib3099)が手を取り合う。見た目可愛い二人もこの、金による汚染を受けているのか。 「世も末‥‥あでっ!」 ボソリと呟いた所に、なんて事!と大げさに手を広げた孔雀(ia4056)の手が喜多野に当たったが、そんな物は気にならない――彼は大仰に天を仰いで『嗚呼!』と世を憂う声を響かせる。 「神よ。何故貴方はアタシという最高の存在がいながらこんな下らぬ人形などを創造なされたのですか」 「からくりは誰が作ったか、わかんな――」 「アタシの肌は陶器より美しい!そして人間を超越した表情、この美貌!」 笹倉 靖(ib6125)の呟きは彼の嘆きに消された、セリフが被っているが仕方が無い、人生、諦めも肝心だ。 「速風は、戦闘がんばれよー?アンタが誘った張本人だし、キリキリ働いてねー!俺は見てるから」 「働かないと、キタさん怒っちゃうぞ」 「うわ、怖ぇーっと、マハとは最近依頼一緒によくなるなー♪息も合わせて行動したり出来」 「‥‥チッ」 マハ、ことマハ シャンク(ib6351)は思い切り舌打ちをした後、プイっと顔を逸らしてしまう――俺、何かやったかなぁと落ち込み中の笹倉さん。 頑張れ、的な視線を向けて、うふふ大丈夫です!とメリが笑顔で言い切った、全く感情がこもっていなかったりする。 ●銭・オブ・ザ・金 欲望にとり憑かれた一行、ペケを先頭にして中へ踏み込む。 「噂の『人形』ってやつを、見てみたくってね」 勿論、人々も興味深いけれど‥‥としっぽをユラリと動かしながら南風(ib5487)がひょい、と顔を出した。 視線の先には罠。 「罠侮ったらマジで死にますよー。場合によっては上級アヤカシと戦う以上の危険性が有るんですから‥‥そこの色が変わっている部分、毒霧の罠ですね」 褌は緩めても気は緩めません、の言葉に喜多野の視線が褌へ。 「おぬし、変態か」 シャンクがサラリと酷い事を呟いて、そのまま隣を過ぎ去っていく――そう言えば、と振り返った彼女が確認と言うように問いかけた。 「からくりが目覚めてしまっても、構わぬのか?」 「うーん、そうなったらギルドに連絡入れて判断を待つって事さ。全然構わないよ」 「ふむ」 ――と、二人の間を裂く影、ガチガチと骨を鳴らしながらガラクタが飛んでくる、数はざっと30か。 狢が容赦無く仕込み杖で叩くように払い、目印を書いていた天津が振り向きざま刀で薙ぎ払う‥‥ペケが忍眼を発動したまま、こっちだと先導した。 「ちっ、金にならん連中に興味はねーし、さっさと済ませちまうぞ」 「銭には、代えられんで!」 ガシャガシャと不快な音を立てて迫ってくるガラクタ、一際大きな音を立てて現れたのは。 「出ましたよ、今回のターゲット!」 アストラルロッドを、仄暗い松明の灯りの下でひらめかせメリがアイヴィーバインドを発動させる。 「ふ、アタシの美力(びぢから)の前では全てゴミ!滅せよ、汚物!」 さり気なく酷ぇな。 美し過ぎるアタシへの、試練――!叫びながら孔雀が斬撃符を鎧の隙間へと放つ、ガシャンと振り下ろされる剣。 「ま、鎧相手でのセオリーでもあるしな。とりあえず傷がつくと価値が下がるから気をつけてやるか」 残骸と化したガラクタを放置し、斬撃符を飛ばす――気のせいか、それは銭の形に見えた(天津談) 「なるほど。確かに良くできている」 人を模した、人ではないもの‥‥誰が、何の為にと、興味は尽きず。 「‥‥これを買う、という好事家がいる事もまた、面白い」 感心した様子の南風に、働け!と喜多野が叫んだが狐の神威人は知らん顔、中の遺跡に特別な趣向がないかと視線を巡らせる――此処まで、戦闘に緊張感が無い人も珍しい、両手に朱藩銃を手にしているだけ、警戒しているのか。 「退屈しのぎには、なるようだ――もう一体」 翼で身体を隠し背を屈めた状態から、破軍で底上げした攻撃力、そして持ち前の素早さで相手の突きを交わす、右、相手の右腕を掴み引っ張り、たたらを踏んだ右側へと踏み込み。 そのまま、腕のしなりを使って後頭部を攻撃する、そのまま頭を掴み、膝で顔を潰し――。 反撃に出た人形兵の貫手を、首を横に降る事で交わすが首の皮膚が裂け血の花が咲く‥‥そのまま、貫手に出した左腕も捻りあげるが痛みは無いらしい。 ただ、木偶のように動き続けるその姿に、極神点穴を叩き込んだ‥‥中が破壊され、木っ端みじんに砕け散る。 「大丈夫かえ?」 戦陣で味方を支えていた喜多野が、シャンクに声をかける――彼女は不承不承ながら笹倉の手当てを受け。 「見た目より、脆いな――極神点穴は耐えられぬか」 繋ぐには、少々砕け過ぎた‥‥強すぎるのも問題だと思いつつ、ふい、と視線を向ければ金!銭!金!と言う叫びと共に天津と狢が人形兵を確保したところだった。 間接を狙ったおかげか(或いは、金への執着が救ったのか)四肢は切断されている物の綺麗に保存されている。 「金への執着か‥‥通常以上の力を発揮するのかもしれないね」 南風が尤もな事を言っているが、ただ、金の為である――好奇心に殺されるタイプでね、と飄々と笑った彼は不意に、問いかけた。 「君はどうだい?金‥‥か?それも悪くない」 その端では、おーいとシャンクの顔を覗きこむ笹倉の姿、案の定思い切り顔を背けられ。 「マハ、大丈夫か?」 「‥‥‥‥礼くらいは、述べてやる」 うーん、何があったのか、と喜多野が遠い目をしている間、横にいた孔雀が絶叫する。 「もう、売り物にならなくなっちゃったじゃないの!せめて、顔だけは!」 折角『鬼畜で変態の好事家』に売りつけようと思ったのにぃ――と悲鳴を上げる孔雀を、まあまあと諌めつつ。 「ま、後でつなぎゃいいだろ」 ●降臨せし銭神 一応、人形兵を縛って遺跡の脇に転がしておき、足を踏み出そうとした処で――ペケの動きが止まった。 「ちょっと待って下さいよ」 ポイッと砂の入った袋を取り出し(取り出した場所は褌のように見えた、寧ろ、そうだと嬉しい喜多野談)放り投げる‥‥ガコッ、と何かが開く音がしてギィ――と振っては地底へと消えていくガラクタ達。 「上から降ってくる仕掛けになっているようですね」 「どうや、解除出来そうか?」 「そうですね――」 ペケが飛んだ、文字通り、飛んだのだ‥‥身軽な動作で天井の穴に貼り付き、中に松明を放り込む、ジュウと言うこんがり焼けましたみたいな音がしてガサガサバタバタ。 南風の朱藩銃が撃ち抜き、喜多野の銃も弾丸を吐きだした。 十分にガラクタを放り込んだ後、何も無かったかのように進もうとして――ザクッと風を斬る剣。 「不意打ち、いや‥‥」 壁に立てかけられた剣が落ちる、それを天津が弾き飛ばせば今度は、耳の横を掠めていく剣。 奥からユラリと現れた無表情の人形兵は、天津の弾き飛ばした剣を手にして、殴りかかって来た。 「あっぶ‥‥ねーなっと!あ!?傷!?これ直せるか!?ばっか俺じゃねーよ人形だよ!価値下がったらどーすんだ!あー、俺の馬鹿!」 肩に熱い痛みを感じながら、瘴刃烈破を放てばザックリと人形兵の腹に傷が付いた、止む負えない。 「まー、価値は下がるだろうなぁ」 神風恩寵を掛けながら、笹倉が人の欲は怖いよねぇ‥‥と他人事のように呟く、背中から襲いかかる何か、を咄嗟に交わせば、何時の間にやら現れた人形兵。 何処から現れたのか、と周辺を見回せば、一見無害そうな壁――壁その物は何の効力も無いのだろう、そうでなければペケが声を上げた筈。 「よーし、俺達は此処を守るってぇ事にしようか」 楽だし!と言い切った喜多野に、メリのアストラルロッドがコツンと当たった。 「ちゃーんと、仕事して下さいよ」 「そっちには、もう敵は潜んでないみたいやで」 銭の加護を‥‥と、銭っぽい感じの丸い円を手で作りながら、天津が心眼で周辺を探る。 それにしても、身体から汚染されているようで気分が悪い。 陰陽師を見れば、さして気には止めていない様子で斬撃符に呪縛符を浴びせている。 「こういう仕事を待ってたのよ、俺ちゃん」 「ンフフー、これはアタシの美貌に対する神々の嫉妬ね」 四肢を狙って猛攻、見れば、ちょっとだけお肌もツヤツヤ‥‥そんな訳ないか。 「今のところ、2千文アップやな」 うむ、と頷いた天津が人形兵の傷に手を這わせる――哀愁が漂っているようにも見えたが、それは得られぬ銭への追悼であろう。 おい、とぶっきらぼうにシャンクが笹倉を呼んだ。 「おぬし、この瘴気なんとか出来んのか」 「流石にこれだけになると――」 「話にならんな」 キッパリ言い捨てて、足を踏み出し強烈な突きを繰り出す‥‥後ろの扉が粉砕して冷たい汗が喜多野と笹倉を襲った。 「出入り口が二つなら、此処を休憩場所に出来るだろう――開けておいた方が発見し易いしな」 ご尤もである、気力を消費して瘴気感染を弱めたペケが、鍵開け道具で何かを弄っているところだ。 「南風さん、手伝って下さい」 「ああ、勿論」 縄を使った罠や、重みで落ちるような罠が殆どで、彼女曰く『高度な』罠は仕掛けられていないらしい。 魔法などの解術は、勿論彼女の専門ではないが――遺跡の中で石化や毒霧など浴びたくは無いものだ。 と、足の先で石となった動物と思われる死体を突くメリ、未知への好奇心は尽きないが遺跡の中で化石と言うのも頂けない。 「これ、何時出来たんでしょうね?」 「そうだね――各地で見つかっている事を考えると、王朝以前かもしれないし」 推論でしかないけれどね、と肩をすくめた南風は危なっかしい足取りでペケの後ろを歩く、ふい、と上を見上げれば丁度いい感じに設置されている大石。 視線の先には階段。 「皆さん、ダッシュですよ。こればかりは、解除出来ないです」 ミシ、ガラガラガラ――どしゃーん。 「良かったですね、ガラクタも一緒に潰れて」 此れは誰の幸運か、潰れたガラクタ共を見ながら銭の神様は我々に付いている事を確信する。 「いや、いいのかな。これで‥‥一応、隠し扉は描いたけど」 笹倉の呟きに答える者はいない、ああ、と気付いた喜多野が嬉しそうに、本当に嬉しそうに言った。 「お、書くのが面倒でねぇ――いやぁ、平和でいいな、ははははは」 「うっわぁ、容赦ないな」 「凍らせます、今ですっ!」 メリのフローズが弾け、孔雀の華麗なる呪縛符が手から放たれる。 「自分の中途半端さを恨みなさい。アンタ達は今から売られに行くのよ。フフフフッ!」 絶対に、絶対にあきらめないんだ――逃げるな、逃げるなら尾てい骨置いていけ! 余計な事を考えている場合じゃないだろう――此れから欲望をたれ流せばいいっ! 世界は、世界は、世界は銭だぁぁああっ! うぉぉおおおおっ!‥‥狢の斬撃符と、天津の平突が炸裂する、どうやら、内部から破壊するより点や間接を狙った方がいい。 今回の、力尽きない限り襲ってくる人形兵に対して、学んだことである。 「アイヴィーバインドです。報酬、報酬!」 「速風、俺が背負えなくなったら、頼む――ぐっばい」 遠い目の笹倉に、いやぁぁあっ!靖ちゃーん!と速風が叫んだ。 ‥‥‥‥‥‥‥‥。 「皆、大丈夫かな?混乱していたみたいだけど」 ※罠の所為で、皆さん混乱していたようです 遺跡の罠と言うのも、風情があるね――とのんびり口にした南風が暴走しまくって疲れた面々を見やる。 「うーん、絵に惹かれていてどうも。勿体無い事をした」 王子と姫の様な絵図や、子供をあやす女性の様な姿もあって面白かったんだよ‥‥なんて声は遠かった。 ●手のひらを金に 「アタシとした事が‥‥この気持ち悪い瘴気のせいよね」 いや孔雀さん、貴方は元から、どえs‥‥すみません。 「仕掛けはありませんね、このまま開けますか?」 ペケの言葉に首をふったシャンクが、軽く腰をかがめて鍵を手にする‥‥艶やかだが場違いな壺の中には真っ白な鍵。 目の前の棺桶は、さながら墓――いや、或いは揺り籠と言うのかもしれない。 「矢張りと言うべきか、鍵があった」 開かれた棺桶の中に安置されていたのは、人を超越した『からくり』だ。 「――目覚めないな」 「からくり‥‥ねぇ。例の『人形』と同種、か?」 南風は、触れては感触を覚え――アル=カマルの人形を思い起こし、抱えあげる。 「さて、お姫様を外まで、お連れしますか」 「おうよ、此れを持って帰りゃぁギルドの依頼も問題ない――後は、わかるな?」 喜多野の言葉に深く頷く面々、2体は残念ながら破損してしまったが6体は十分に売れる、1体も半値で売れるだろう。 遺跡の見取り図を受け取り、ギルドの要望に適うものである事を確認し、からくりを背負う。 「つーか、重い‥‥子供くらいある?いや、もっと重い?わかんね‥‥」 思わず、重みに身体が揺らいだ笹倉、それを軽くからかいながら喜多野が笑う。 「非力だなぁ。背負って欲しいのかえ?」 「うっせー、非力で悪かったな」 アタシの分は運んでね、と言って迫るのは孔雀だ、カツンと遺跡の中にハイヒールの音が響く。 「で、アンタ、買い手はどんな変態なのよ?抜群の鬼畜を選びなさい。嗚呼、奴らが売られて行く様が目に浮かぶわ。フッフーフ」 「子供の前では言えない相手」 ちらりと視線の先には、シャンクの姿‥‥彼女は実年齢、25歳なのだが好事家には興味無いので、無視しておく。 運び行かれるからくりと人形を見て、メリがボソリ。 「どうせ水無月なら、素敵な方に運ばれたいですよね〜」 微妙に、心にグサリと来るセリフである。 ――尚、余談であるが、巫『女』と名乗る薔薇の名を持つオトメンに迫られて天津が涙目になったのは、言わないお約束である。 終われ。 |