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■オープニング本文 ●アヤカシ調査 「この『ラマ・シュトゥ』ってのは何や」 「こいつですか‥‥残酷な奴でしてね」 黒井奈々介の問いかけに、現地の役人は顔を歪めた。 開拓者ギルドとアル=カマル側で情報交換をやっていた彼らは、上級アヤカシ、大アヤカシについての確認作業を進めていた。 ラマ・シュトゥは砂漠の集落を襲うアヤカシだ。女性のような上半身と鳥のような下半身を持ち、人里に部下を差し向けては生贄を要求する。生贄を求められた集落はアヤカシによって見張られ、しかも、生贄を奉げていようともラマ・シュトゥの気まぐれで全滅させられる。 「えげつないことしよる」 「外部に連絡を取ったことが発覚すれば皆殺しです。だから、行商人が久々に訪れたら集落が一つ全滅していた‥‥なんてこともあります」 彼らの話を一通り隣で聞いていたギルド職員が、待てよと思い出したように立ち上がる。 「‥‥集落から頼りが来ない、という依頼を見た記憶があります」 「何やて?」 「まさか‥‥」 ギルド職員の後ろで、役人と黒井はお互いに顔を見合わせた。 ズルリ、と何かが這う音を耳にし、二人は視線を背後に向ける。 つん、と鼻に付くのは鉄錆の臭い――鼻が削げ落ち、片足を失った男が一人、自らの血だまりの中に倒れ込んでいた。 「どないしたんや!」 慌てて駆けよる黒井、ギルド職員が慌てて薬草とぬるい湯、そして包帯を手に帰ってくる、急に慌ただしくなるギルド内。 「村を――」 助けて、と口にした男の手――否、腕に刻んであったのは村への地図、ボソボソと村へ向かう道を口にしながら、何度か懇願していた男はやがて悶絶すると吐血し、息絶える。 赤黒い蠍が、いびつな歯を向いてカサカサと外に出ようとする、アヤカシ――勿論ギルド員も馬鹿ではない。 何度かの攻撃により息絶えた、アヤカシを見、そして黒井は男の最後の言葉を書きとめた手帳を見、天を仰ぐ。 「何や、厄介なことになったなぁ」 彼はノンビリとした口調とは裏腹に、どこか焦燥めいた色をその顔に浮かべていた。 |
■参加者一覧
御凪 祥(ia5285)
23歳・男・志
鈴木 透子(ia5664)
13歳・女・陰
和奏(ia8807)
17歳・男・志
ルー(ib4431)
19歳・女・志
シータル・ラートリー(ib4533)
13歳・女・サ
セシリア=L=モルゲン(ib5665)
24歳・女・ジ
Kyrie(ib5916)
23歳・男・陰
アルバルク(ib6635)
38歳・男・砂 |
■リプレイ本文 ●滑る砂上船 「お手間をかけますが、布を用意していただけませんかしら?」 慌ただしいギルドの内部、急募として発生した依頼に挙手したシータル・ラートリー(ib4533)が砂色の布を所望する。飲料水に塩を入れ、所謂砂漠と熱中症対策を行っていた傍らで、鈴木 透子(ia5664)が声を上げた。 「乗り物を手配したほうが良いと思います、村民と素早く安全な場所に移動させなければなりません」 ご尤もな言い分だが、如何せん仮設ギルドは組織体系が出来ておらず右往左往、資金はどこから‥‥と、頭の固いギルド員にじれて更に鈴木は言い募る。 「お年寄りや子供や、怪我人病人もいると思います。砂上船のような、見た目に分かる助け舟があれば動けるかもしれません」 「ああ、もう、ええやん。出したら」 揺れ動くギルド員の中で、至極軽く黒井奈々介が言った、決定権は無い筈だが頑張ってな、と放り投げるとまた書物の中に埋もれていく。 「望まぬ要求に従わせるだけの力を、お持ちなのですね‥‥」 ラマ・シュトゥについての説明を受けた和奏(ia8807)は相変わらず、ぼんやりとした表情でポツリと呟いた。 瘴気へと還り始める蠍を見、そして男性の遺体を見、ルー(ib4431)が肩をすくめる。 人の命を囲って弄ぶ、アヤカシに倫理や道徳など求めては仕方が無いと分かっていても――静かにこみ上げるのは確かに怒りの感情。 「外部に情報が漏れた事が、ばれている可能性がある――」 ノロノロと用意される砂上船の指揮をとり、御凪 祥(ia5285)槍を手にしたまま空を仰いだ。 「ああ、暑そうだ」 太陽は燦々と輝いて、広大な大地はすべからく砂に覆われている――這いまわる蠍が、暗がりを求めて石の下へ潜ろうと甲羅に覆われた身体を蠢かせる。 ラマ・シュトゥの放った刺客なのか、或いはただの蠍か‥‥どちらにせよ、脅威となるのなら排除しなければならない。 「ンフフ。それじゃあ、さっさといくわよォ。時間との勝負だからねェ」 セシリア=L=モルゲン(ib5665)が霊魂砲を放ち、嫣然と笑えば蠍が焦げてひっくり返る、その場からシュウシュウと立ち上る黒い瘴気。 「男性に付いていたものでしょうか?」 Kyrie(ib5916)の言葉にこたえる者はおらず、砂上船は開拓者8名を乗せ、砂の上を滑っていく――移動手段を砂上船に変えてしまえばそれ程、時間のかかる行程ではない。 義理堅い砂漠の民を思ってか、アルバルク(ib6635)が口元に歪んだ笑みを浮かべた。 「砂漠の民は仲間を見捨てたりはしねえ‥‥そうだろう?」 ●黒の恐怖 僅かに村が見える地点、そこで砂上船で乗り入れ警戒をしつつ、開拓者達は歩を進める。 だがしかし、その村は既に無人――いや、それは正しくは無いだろう。 誰も外を歩いている者がいない、地面にはまだ、柔らかな砂に付けられた足跡が残っていると言うのに。 「何人かは既に亡くなられているかしら。残念ですが‥‥」 ラートリーが表情を曇らせ、ルーが眉根を寄せて誰ともなく問いかける。 「まさか、もう‥‥?」 「いや――」 精神を研ぎ澄ませて、心眼で周辺を探った御凪はあまりにも静まり返った村に、反応を見つけて粗末な布で作られた家へと視線を向けた。 中に、確かに存在しているにも関わらず、不気味な程の静寂に包まれている――ヒュン、と何かが宙を切り裂いて迫る、咄嗟に片手剣で打ち払ったルーは視線を太陽の方向へ定め、仲間に鋭く告げた。 「東から――」 「ちょっと待ちなさい。見てみるわねェ」 モルゲンの言葉に一同は周辺に目端を利かせながら、自然と防御の体勢を取る‥‥二度目に飛んできた石を肉厚の曲刀で払ったアルバルクは、何だ、と短銃を構える。 「蠍の前に、村人かい」 粗末な武器を手にしたまだ、若いと思われる男が石の蔭から、そして遺跡の影から現れる。 喉は砂で焼け、不快な音となり震わせる。 「出ていけ!」 村人と思われる人々が口ぐちに声を上げる、歓迎されるとは思ってはいなかったが予想外に手荒い持て成し。 内心ため息をつきつつも、信を得るにはアヤカシを退治するのが先決だろう。 「(そうするしか術も無い)」 やや、眉を潜めて御凪が目端を利かせ村人に一歩、足を踏み出した。 ラートリーが咆哮を使用する――ぞろぞろと、岩の隙間から、或いは人の影から顔を表す、その数は十数体、甲羅が太陽の光を照り返して不気味に輝く。 アルバルクが、ルーを援護するように短銃を何度も撃ち、蠍を一匹一匹倒し、血気盛んに走りだした村人へ鋭く剣気を飛ばすルー。 怯えてすくむ村人は恐怖のあまり、弓を取り落とす‥‥その背に、腕に、蠍が付いていない事を確認した彼女は足に走った痛みに顔をしかめた。 厭らしい黒の光沢をもった砂漠の暗殺者、アクラブがその柔らかな肉に尾を突き立てていた――その尾を剣で弾き飛ばし、続いて尾を患部から抜き去る。 「あいつが、村を売ったんだ‥‥」 相変わらず恐怖で膝を砂に埋めた男が、天を仰いだ。 「――僕達は、村を助けに来ました」 和奏の言葉に、村人は激昂し、襲いかかる、憎悪と憤怒とそして、一抹の哀切――ありとあらゆる負の感情がその瞳に宿っていた。 「どうせ、ギルドに向かった若造に言われたんだろう。助けてくれと」 コクリ、と頷いた彼に、帰ってくれ、とだけ村人は告げる――その背に狙いを定めた蠍、和奏が、そのアヤカシに向かって刀を振り下ろす。 毒があると思われる尻尾を斬り飛ばし、振りあげたハサミを一刀で斬り伏せた。 ――ただ、蠍よりも自分達の方が強いと、それを証明する為に。 ただアヤカシを倒すことだけを考え、葉擦で命中を補った御凪が、槍を振るう――穂先を揺れる葉のように動かし、蠍を弾きあげた。 個体の強さはそれ程ではない、ただ如何せん、数が多い。 人魂を飛ばし、探っていたモルゲンが何かを問うような目で村人へ視線を向けた。 「言われたのかしらァ、村人を虐げろ、と」 ラマ・シュトゥ――その名前を口にした彼女、叫ぶ村人は弾かれたように村の外へ出ようとして、素早い蠍に回り込まれ顔を青ざめさせた。 「‥‥話して頂かなければ、わかりません」 村人に扮するかのように、一行とは別の場所から入り込んだ鈴木が静かな声で気力を絞り『黄泉より這い出る者』を扱い、告げる。 一撃で葬り去られた蠍がシュウシュウと不快な音を立てて、腹を上にして転がる。 その腹は化け物の口の中のように穢れた血の色。 「何故、ギルドに向かったのが若者だと?」 問いかけたKyrieの言葉と、再生されし平穏の音色でやや落ち着いた村人が、やがて大声を上げて笑う。 「あいつは、何度も言った。ギルドに助けを求めるべきだと――」 如何して強い者に逆らえよう、蹂躙されながら終焉の時を待つしかないのだ‥‥力の無い者は力ある者に淘汰される。 もしかしたら、自分達は生き残れるかもしれない‥‥相手の命と引き換えに。 それは陽炎のように消えてしまう希望、だが、彼等が絶望に喰い殺されない為の手段であった。 ガサガサガサ、音を立てて遺跡の暗がりより現れる蠍、ほら見ろ、と村人は嗤った、監視されているのだと。 「全ては、茶番だ――」 「此方へ!」 ラートリーの咆哮と共に、蠍の波が訪れる‥‥射程内全ての敵を引き寄せたとでも言うのか、流石の多さにやや気後れしながらも隼人から、直閃、鋭い突きを繰り出し身体を翻し、その空を御凪が葉擦により、不規則な動きをした槍を振るう。 そのまま、柄を横薙ぎにしてアヤカシを跳ね飛ばし声を上げた、腕にハサミを立てたサソリを無理矢理剥がして、彼は声を上げる。 「外は危険だ、屋内に入って欲しい」 村人達の表情には困惑が、そして根強い恐怖が刻まれていた。 ●タスケテ 「お願いです、手伝わせて!――あの人を殺した、僕達だから、まだ、まだ」 叫んだ一人の少年に首を振り、腰を落として話の先を促す。 「殺した‥‥ですか?」 サソリの毒で亡くなりました、と和奏の言葉にふるふると首を振った村人は、ポツリ、と呟いた。 「ラマ・シュトゥ――血を好み、恐怖を好む、僕達は、ジンを痛めつけられるように」 一人が、死の扉をくぐる、月が満ちては、そして欠けては。 「わかった、だから、中へ。気持ちだけ、受け取るから」 「まだ、西にジンを捕えたまま、だから――!」 ――タスケテ ルーに促されて、少年も粗末な家の中へ入り込む、その数を心眼で確認した御凪はゆっくりと頷いた。 「数も多いと‥‥嫌ねェ」 困っちゃうわァ、と艶やかに笑う彼女の両手には鞭、オマケとばかりに爆式拳を炸裂させその身を翻し、霊魂砲。 「ンフフ‥‥ッ!悪いコにはおしおきが必要よォ!ンフフ!」 浴びる瘴気とアヤカシの甲羅の破片を身に浴びながら、恍惚と高らかに笑う。 「しかし‥‥どうして、腕に地図を刻んでいたのでしょう?」 上手く行きすぎなのでは――と表情を曇らせた鈴木が、依頼人の腕に刻まれていた地図を思い出す。 「――確か、此処だった筈です。地図」 念の為、キュッキュ、と縄で村人の身柄を拘束していた和奏が腰の刀を振り向きざまに抜き放ち一閃、二つに裂けた蠍が儚く散る。 「遺跡、と聞くと良いモノが出てくるとは思えないので‥‥」 バリケードをしっかりと設置し、和奏の呟きに嗚呼、とアルバルクが答え、銃に弾丸を詰めた。 「まあ、それより先に奴さんの始末だな」 「眠らせておきます、少しはマシかと」 奏でられるKyrieの夜の子守唄が響き渡り、動きを止めていく蠍達――後は狙いを定める訳でも無く。 「この位、ですわね」 ラートリーの言葉に他の開拓者達も息を吐き、周辺を見回す‥‥どちらにせよ、この村は滅びる、それは確実な未来。 「既に全滅させられることはほぼ確定ですが、それでも従うのでしょうか?」 「現実が、そうだからなァ」 助け合ってねェと、直ぐにくたばっちまう――気まぐれな『不良中年』がニヤリと笑みを浮かべた。 ●ラマ・シュトゥ グシャァ、と濡れた物が潰される音がした‥‥西、と言った少年の言葉の通りに村の西へと向かう。 そこには、巧妙に家屋で隠された屍の場所、その上に腰かけ人骨の杯に汲みあげた『其れ』は機嫌良さそうに唇を歪めた。 「どんなツラをしているかと思えば‥‥」 戦慄に身体を竦める開拓者達、危険により鋭くなった勘が告げる――この数では、この敵に勝てない。 それを分かっているのか否か、ラマ・シュトゥは緩慢な動作で次の人間の首をへし折りながら、その肉に歯を立てた。 「この村はやるよ、勝負はお預けだ」 「待って!」 放心状態からいち早く回復した鈴木が、咄嗟に声を上げた――それを不思議そうに見つめるラマ・シュトゥ。 「あの地図は‥‥?」 「腕の地図か、ああ、村人に任せると破られるし、捨てられるし、つまんねぇからな――腕に描かせたよ」 愉しいだろう、そう言って開拓者の中に恐怖と、そして悪趣味さを植え付け、ラマ・シュトゥは去って行った。 「全滅の危機は、去りましたね」 あ、もう、終わったんですね――と、和奏が家屋の方を振り返る。 「‥‥胸糞悪ィがな」 アルバルクの言葉が、吐き捨てるように口にし地面に視線を移す。 血を吸い尽くされた人間の頭部が、砂漠の砂に静かに埋まっていく――砂上船が砂の上を滑る、生き残った者を連れて、ステラ=ノヴァへ。 全ては、上級アヤカシ、ラマ・シュトゥの茶番、そんな何とも言えない思いを抱えたまま。 |