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■オープニング本文 ●春の訪れ 春の天気は変わりやすい――と、巫女に言われた花菊亭家、跡取りの花菊亭・伊鶴(はなぎくてい・いづる)は空を心配そうに見上げていた。 「大丈夫でしょうか‥‥天気」 誰ともなしに問いかけられた彼の侍従、波鳥は同じく空を仰ぐ。 「巫女のあまよみによれば、今日の午後明日まで雨、その後はよい天気のようですよ‥‥雨に濡れて桜も一層、艶やかに見えるでしょう」 「あの方も、同じ空を見上げているのでしょうか‥‥」 少し成長したように思える伊鶴であったが、やはり掠めるのは思い人――そして、大切な家族や友人。 はぁ――とため息を吐いた伊鶴はハタ、と気付いて口を開く。 「波鳥、陰陽師の占いはどうでしたか?」 「明後日の日がいいでしょう、との事です‥‥準備もつつがなく」 春の宴の為の楽の音、そして赤い敷物に特別な料理――座卓と運ぶ侍従が傾いたのを見て、慌てて飛び出しては助けに入る。 「僕も手伝いますよ!皆でやれば、早く終わりますよね」 恐れ多いとまごつく侍従に、手を差し伸べ机を担ぎあげた‥‥それを見てため息を吐く人物が一人。 「――落ちついたと思ったが、まだまだ跡取りとしての自覚には欠けるな」 「そう仰いますが、有為様‥‥この秋菊、伊鶴様の行動に涙がこぼれる思いでした」 執務を終えたばかりなのか、嫡女である、花菊亭・有為(はなぎくて・ゆうい)が墨の香りをさせながら難しい顔で視線を伊鶴へと向けた。 まだまだ、本調子では無いとは言え彼女達の父にばかり執務を押し付ける事など出来ず――。 そしてまた、どちらかと言えば野心の溢れる有為は身体に鞭を振るい執務に励んでいた‥‥病弱な父に代わり、と言うのもあるが家の為、例え、望まれた子では無くとも。 慕い、敬い、尽くした祖父が、自分を殺すよう命じていたとしても‥‥。 「伊鶴――後は侍従に任せておきなさい。私達が手を出しては、示しが付かないだろう‥‥それに、剣術の稽古はどうした」 あ!と慌てて伊鶴は、パタパタと中へ入って来る――見れば、足袋を穿いた足は砂で汚れていた。 思わず眉を顰める有為に、この家の二女、花菊亭・涙花(はなぎくてい・るいか)がぴょこっと顔を出す。 「お姉様、お兄様、桜の花がこんなに!」 両手いっぱいの桜の花を持ってきて、涙花が楽しそうに微笑む――そのまま、冠のように有為、侍女の秋菊、伊鶴や波鳥に花を差し出す。 「涙花‥‥詩の勉強の筈だが」 「はい、今、桜の花の詩を作っていますの。お披露目しますわね」 待ちわびて 指折り数え 倒れ臥す 朝陽輝く 嬉色の桜花 (その日を待ちわびていつの間にか眠ってしまったのですが、訪れた朝陽は、春を喜び謳歌する桜を輝かせています) 生き生きと詩を詠んだ涙花は、少し眠そうに目をこすると小さく欠伸を漏らす。 「楽しみですの‥‥ねぇ、鈴乃」 涙花の侍女、鈴乃は泣き笑いのような、不思議な表情で涙花と外を見つめ、そして深く頷いた。 ――そして、一枚の貼り紙がギルドへ持ち込まれる。 『皆さんで、お花見をしませんか?』 |
■参加者一覧
佐久間 一(ia0503)
22歳・男・志
安達 圭介(ia5082)
27歳・男・巫
リエット・ネーヴ(ia8814)
14歳・女・シ
雪切・透夜(ib0135)
16歳・男・騎
日和(ib0532)
23歳・女・シ
紫焔 鹿之助(ib0888)
16歳・男・志
成田 光紀(ib1846)
19歳・男・陰
ファムニス・ピサレット(ib5896)
10歳・女・巫 |
■リプレイ本文 ●ナイショの お花見をしましょう――そんな優しい依頼と、主催者である伊鶴の誕生日が近い事。 楽しみは多い方がいい、どうせならお祝いを‥‥と開拓者は秘密めいた表情で集合した。 安達 圭介(ia5082)が桜を仰ぎ見た後、目的の人物の一人、有為の侍女、秋菊を見つけて頭を下げる。 「伊鶴様の誕生日も近い事ですし、皆で祝う事が出来ればと思ったのですが」 差し入れです、と花濁酒を差し出した彼に頭を下げ有為の侍女である秋菊が受け取り、難しい顔の主を振り返った。 「正式な祝いは、後に行うつもりなのだが」 提案が今一つ飲み込めない様子の有為に苦笑し、親しい者同士で、と彼は言い募る。 「どのような場面であっても、家族からの贈り物は嬉しいものですから」 「そうですね。格式高いものではなくて、ささやかなものですが」 ヒョイ、と顔を覗かせた佐久間 一(ia0503)は、ジルベリア風に執事服と黒い洋靴を身に付けた、いつもよりピンと背筋を伸ばし照れ笑いを浮かべた。 「今日はちょっと変わった格好で‥‥どうでしょうか?」 「――動き易そうだな」 「とてもよく似合いますの、ジルベリアのお洋服ですのね」 素敵です、と褒めるのも苦手な姉の代わりに、涙花が顔を出して微笑んだ――その横に侍女の鈴乃も控えている。 「ありがとうございます。それにしても、天気は上々、素敵な日になりそうです」 前日に降った雨は花弁を散らす程では無く、瑞々しい潤いを与えて一層美しく、桜を彩っていた‥‥此れは楽しみだと桜を眺め、挨拶をすませる。 同じく、花菊亭家によく関わっていた雪切・透夜(ib0135)が、ケーキの包みを倒さないように気を付けながら脇に置いた。 続いて取りだしたのは折り紙、まあ、と瞳を輝かせて涙花はその折り紙を見つめる‥‥一年前より、部屋に飾られていた折り紙で作った雛人形は『嫁に行きそびれる』と言う言い伝えがあっても片付けられなかった思い出の品。 「また作るか、雛人形」 「はいですの!」 雪切の言葉に、深く頷く涙花にヒラリと手を上げて挨拶をし、ドサリと隣に風呂敷に包んだ団子を置いて縁側に座り込むのは紫焔 鹿之助(ib0888)だ。 「うっはは、花見花見!!折角仲良くなったんだ、楽しまなきゃ嘘だぜっ?」 な?と紫焔が青い空を見上げ、花見と言えば、団子だよなと快活に笑う。 伊鶴が宴の準備の確認をしているのを見、そして声を潜めて彼等の父、鵬由へと告げる。 「これで上手くいきゃ、涙花だっておやっさんのこと尊敬の目で見ると思うぜ。なっなっ?」 ずいずいと寄って、耳打ち――想像したのか嬉色を顔に湛える鵬由。 「ああ、皆で祝えたら伊鶴も喜ぶだろう」 「こんにちは!今回もよろしく♪」 リエット・ネーヴ(ia8814)が右腕を力いっぱい振りあげ、零れるような笑みで登場‥‥ふ、と視線を移せば、入りにくそうなファムニス・ピサレット(ib5896)に手を差し伸べる。 「は、初依頼でその‥‥」 「緊張しなくても、大丈夫だよ。僕、リエット・ネーヴって言うんだ」 「あ、私、ファムニス。ファミニス・ピサレットです」 ペコリと勢いよく頭を下げるピサレットの動きに合わせて、腰まで伸びたツインテールと胸元の白いリボンが跳ねる。 「一緒に行こっか」 連れだって入れば、開拓者の来訪に気付いたらしい伊鶴が慌てて駆けてくる。 『お楽しみ』は勿論彼には内緒、開拓者同士が目配せを行う。 「み、皆さん集まって下さってありがとうございます!」 顔を彩る嬉色、彼も花見が楽しみで仕方がないらしい。 「フ、ファムニス・ピサレットと申します。本日は誠にお日柄もよく‥‥あの――」 パニックに陥っているのか、何を言っているのか自分でも分からなくなってきたピサレットだが、宜しくお願いします、ともう一度頭を下げる。 そんな姿に慌てて伊鶴もペコリ、有為の鋭い視線を浴びて急いで胸を張り、よく来ました、と精一杯大人びた様子で告げる。 一方、少し時は遡り――。 「涙花のお兄さん‥‥伊鶴の誕生日、か」 短髪を春風に遊ばせながら呟いた、日和(ib0532)は山の中、風呂敷の上に春の食材を取っていた。 直感で、食べられる物と食べられない物、それを分けていきながら花菊亭家の方を見、そして歩を進める。 そんな彼女の同行者である、成田 光紀(ib1846)は笏でペシペシと彼女の肩を叩きながら『可愛い子』に思い馳せた。 「可愛い子って、涙花だったか?答えてくれるかね、日和君」 「成田、開始前から酔ってるんじゃないか?」 涙花は巻き込まないぞ、と気合を入れつつ花菊亭家へ向かえば、既に勢ぞろいした面々‥‥日和が一番に視線を移した涙花は、元気そうに笑っていて思わず、笑顔がこぼれる。 「(やっぱり花は陽を浴びてるのが、いちばんだなぁ)これ、ギルドからもらったんだけど、珍しかったから。桜のお茶なんだって」 差し出した桜の花湯を、嬉しそうに両手で受け取る涙花、心配だった同行者の成田は、慇懃な調子で鵬由と、そして伊鶴と言った花菊亭家の面々に挨拶を述べていた。 「このような特別な機会にお招きいただき、幸いでございます」 礼儀正しい姿に、うむ、と鵬由は満足そうに頷き、連れ立って出立するのだった。 ●謳歌する宴 桜の舞う丘――薄紅、白に紅、赤い葉を持つ山桜、糸の様なシダレ桜。 「ほう、これは実に結構」 「桜って言っても、色々あるんだな」 成田の言葉に、此れは山でも見るな、と言いつつ眺める日和‥‥奔放に伸びた枝の合間から零れ落ちる陽光は神秘的で、桜の繭に包まれたかのよう。 有為が、此れは何代か前の当主が植えたものだ、と山桜を見上げ説明を加える。 成程、と彼女の纏う大紋に描かれた捻じ山桜を見て、安達が感慨深げに頷いた。 「あの、皆さんのお口に合うかはわかりませんが‥‥」 ピサレットの広げたお弁当には、潰したジャガイモに干し鱈や野菜、ひき肉をそれぞれ混ぜ込み衣をつけて揚げた――コロッケの様な――揚げ物が沢山入っている。 「わぁ、美味しそうですね!」 美味しい物を期待してきた、雪切が嬉しそうに声を上げた、その横から一つ貰い!と紫焔がコロッケを攫って行く。 「ま、負けませんよ!」 何との勝負なのか、伊鶴も続いて箸を伸ばす――慌てて沢山ありますからと口にした ピサレットの言葉は最早聞こえず、仲良くせき込んだ二人の背を軽く叩いてネーヴが大丈夫?と声をかける。 横にはピサレット、伊鶴の膝の上で『お楽しみ』の為に動けない様にしていた、代わる代わる誰かが、彼を監視中だ。 「はい、お茶です」 佐久間の差し出したお茶を流しこむようにして、ようやく一息‥‥と思いきや、次は団子に手が伸びる。 「流石、団子屋の姉さん、美味い!」 「どれ‥‥一つ貰えるかね」 父である鵬由も、一つ手を伸ばし団子を口にして笑みを零す。 「優しい味だ」 ハラリと桜の花びらが落つる、風が吹き荒べば桃色に染まる景色は、風に荒れても何処か優しげな雰囲気を纏っている。 「えっとね、あのね。宙を舞う花弁を宙で七枚取ってから、その花弁に願い事を想うとね。願いが叶うんだよ♪」 ――涙花父も、遊ぼ遊ぼっ♪と、はしゃぐ彼女にどれ、と鵬由は腰を上げた。 「涙花父の願い事も、叶うと思うじぇ♪」 桜の花弁を七枚、手を伸ばせば一枚、二枚‥‥気まぐれな風に遊ばれる花弁を取るのは中々難しく、手を開けばその手を撫でて落ちていく。 「む、難しいですね‥‥」 ピサレットの言葉に、隣で一生懸命な涙花も頷く。 お酒や食事を踏まないようにしながら、手を伸ばし、掴もうとピョンピョン跳ねる。 「桜に酒、宴――どれをとっても良い物だ」 盃を傾け、成田が花菊亭家の面々を見回す‥‥人の縁と言うものは興味深く、この場に集まった者も縁が結ばれた者なのだろう。 日和のお気に入りらしい、涙花にご挨拶――口元に笑みを浮かべて、人魂で出来た蝶がふわり、触れれば四散して、驚いたように瞬く涙花。 「涙花を巻き込むのは感心しないな‥‥あわわっ」 成田の取りだした道符を見てワタワタと逃げる日和、それを見てクツクツと笑い、盃を差し出した。 「おい、酌」 「‥‥全く」 二人のやり取りに、気の置けない関係を感じて誰からともなく笑みがこぼれる――酷く温かい関係は人々の心を、癒してくれる。 ●桜花咲く春 伊鶴が横笛を取りだし、口を当てると流れ出す旋律。 その音色に満足げに笑う成田は同じく横笛を取りだし奏で、ピサレットも意を決して立ち上がる。 「では、余興に一つ」 「私も、頑張って舞います!」 何処か優しい音色に合わせて人魂の蝶が舞う――それを仲間だと思ったのか、何処からか現れ共に舞う蝶。 舞う花弁に狙い定め、氷柱の蝶が当たり弾ける。 すぅ――と儚く消えるその姿はまるで、何処か哀しくも美しい、儚い現世。 ジルベリアの舞踊も盛り込んだ、ピサレットの舞が春の美しさを褒めたたえる、扇が咲き、つま先立ちで身体を回転させる姿は風に遊ぶ桜の如く。 桜の周りを蝶が舞うかのように、軽やかな動きで全身を使い、謳歌する。 零れる日の光が、複雑な輝きを生み出しより一層、幻想的に見せていた。 「(凡そ一年で大きく変わった。それがよくわかる光景)」 雪切は懐かしい1年前を思い出し、あの時に話した梅の花見――今は一緒に過ごせる桜の花見。 スケッチブックにペンを走らせながら、満足そうに折り紙で作ったお雛様を飾る涙花。 「とても、綺麗ですの」 「そうだな、今を忘れないように、何時か振り返る為に‥‥」 一人、盃を傾ける有為に、一献如何ですか、と安達が酒を注ぐ。 「折角のご家族でのお花見です。花も良いですがご家族との時間も楽しみませんと」 「十分、楽しんでいる――こう言った宴は得意ではない」 仏頂面の有為が、彷徨う先の視線に笛を奏でる伊鶴の姿。 「家族と過ごす時間は、掛け替えの無いものだと思いますよ――伊鶴様にとっても、宵姫様にとっても」 お嫌いではないのですね、と笑った安達をねめつけつつ、更に盃を傾ける。 「伊鶴殿は笛がお上手ですね。とても優しい音色のように感じます」 「――随分と上達した、笛の音は人を幸せにすると。だが、雅楽だけでは家は存続できない」 嫌いな音色ではない、と付け足した有為に苦笑しつつ、もう一献と世話を焼く安達――不意に隣に座ったのは雪切。 伊鶴、涙花、そして鵬由――家族である筈なのに、有為はその場所から離れていた。 記憶を失くすほどに、敬愛されていた人物より殺意を抱かれていた事実は彼女にとって辛いもの。 「気は晴れませんか‥‥まあ、すぐには無理ですものね――以前、言った通り。僕は貴方を有為としか見る気はありませんよ。他が何であれ、有為は有為ですもの」 「――そうだな」 「もう少し、気楽に行きましょう。肩肘張らずに‥‥張り詰めるだけでは疲れてしまいます。偶には笑ってくださいな。でないと美人が台無しですし、何より、描くのなら笑顔の方が良い。ね?」 そう言って差し出したのは春の香り袋――気持ちを落ち着かせるのに良いので、と言い募れば淡々とした礼の後香り袋を手にする。 「なー、ねーさん、つまんねぇの?」 団子を手土産に、紫焔が子犬のように顔を覗かせた‥‥その瞳は真っ直ぐでしなやかな強さを秘めている。 「んだよ。ねーさん折角美人なんだからさぁ。笑ったらもっとかわいーのに」 手を引っ張って宴の中へ巻き込めば、桜が有為の髪にスッと飾られた、嬉しそうな涙花の微笑み――紫焔が団子を差し出しつつ、頭を撫でる。 「んで、ど?楽しいかい?」 「はい、とっても楽しいですの!」 「狭いとこにいたら、体ん中の気も淀むってもんだしな。あー、気持ちいいなぁー!」 「鹿之助にーちゃんも、参加するの」 ネーヴの言葉にヒョイ、と立ち上がると一つ二つ、三つ‥‥四つ目、となる前に桜の花弁がすりぬけた。 「中々難しいな」 奮闘する紫焔の横で、おや、と安達が声を上げた――見れば、丁度七枚揃った花弁、意図しない僥倖に少し彼は考え。 「日々、平穏でしょうか――」 此れが一番です、と言い切った安達の瞳が何処か遠いのはきっと、彼が巻き込まれ体質だからに違いない。 ●お楽しみ 宴もいよいよ佳境、奏でる笛の音が止んだ頃合いを見計らい、伊鶴以外の者で目配せ。 「ちょっと早いかもしれませんが、おめでとうございます」 おめでとう、と口ぐちに言われ伊鶴がキョトン、とする――見れば仏頂面の姉ですら祝いの言葉を述べているのに気付き、何かありましたっけ?と一言。 「ケーキです。勿論買って来たので、味は大丈夫ですよ」 雪切の持ってきた包み、現れたショートケーキに更に首を傾げる伊鶴にはい、と佐久間から【お守り「ぶじかえる」】を渡されて。 「勇敢さと無鉄砲は紙一重です、これからも気を付けて精進してくださいね」 次に涙花へ【お守り「絆」】を。 「ここに居る皆さんとの絆は決して消える事はありませんよ」 そして有為へ【お守り「希望の翼」】 「自分が今、伝えられる事は‥‥これしかありません」 そして最後に『3人が同じ刻を共有できますように』と願いを込めた、銀の砂時計を1つずつ贈る。 「何だか――宴が横道に逸れてしまって申し訳ありません」 「いやいや、良い。こうして思ってくれる友人が出来て、何と僥倖な子か」 父である鵬由は感激に涙を滲ませながら、少しずつ大人になっていく子供達を眺めた。 「誕生日おめでとう、伊鶴――これ、菜の花」 食べられるから、と口にした日和、続いて誕生日を思い出した伊鶴だったが――ええ?!と声を上げる。 「覚えていて、下さったんですか‥‥って、あれ、僕の、誕生日ですよね?」 美味い!、とケーキを口に運ぶ紫焔、それを肴に成田は祝い酒、と酒を飲みネーヴも座ってもぐもぐ。 「お祝いと言うのは、いいですね」 佐久間の言葉にですね、と雪切が賛同。 一人、涙目の伊鶴をフォローするように、安達が桜の砂糖漬けは如何ですか?と声をかける。 慌ててプレゼントの苺のコンポートを差し出すピサレット、二人の気遣いに伊鶴はホロリと涙を流すのだった。 「晩霜が 儚き花に 降りるとも‥‥降りるとも‥‥んぅー」 詩を綴ってみよう、とネーヴが取りだした筆、覗きこんだ伊鶴が少し考え。 「訪ね訪ねる 雪解けの春」 (遅い霜が花に降りて育ちを阻害しても、何時かは何度も春が訪れて、雪は溶け、霜も消えるのです) 少し離れた場所、宴も終わり皆が帰る頃――離れた日和は桜を見上げ、ポツリ。 「‥‥もう独りじゃない」 此れ以上を望むのは――おかしいな。 「日和様、帰る時も皆で一緒ですの!」 見つけて声を上げた涙花に、少し切なさを滲ませ――開拓者達と合流する。 微笑んだ涙花が、七枚の桜の花弁を手のひらに乗せて。 「また、皆さんで来れますように」 その言葉を聞き、叶うよ、絶対!そう言ってネーヴは笑うのだった。 |