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■オープニング本文 ●凍れる世界 耳が千切れそうな寒さ、吐く息は冷たく凍る。 「あの野郎‥‥」 隣で、相棒のもふら様がもふ〜と鳴いた。 相棒がもふら様で良かった、そう思う―――もふもふの毛皮は暖かく、暖をとるのに最適だ。 「おい、大丈夫か‥‥?」 「―――もう、助けなんて来ないよ」 気弱になる相棒を励まし、その手を握るがその瞳に生気は戻らない。 生まれ育った東房のとある寺院、彼等二人は孤児だった。 今の時代、孤児など珍しくない‥‥強盗をするか、身体を売るか、何処かに身を寄せるか。 あの日も寒い日だった、凍えて、凍えてこのまま死んでいくんだと希望を捨てた日。 『寒いだろう、おいで‥‥』 笑った住職は今よりもずっと、若かったが瞳の色は変わっていない。 「なあ、あの爺さん、泣くと思うか?」 「出来たら、泣いては欲しくないよ‥‥」 腰が痛むらしい、住職にただ、湯治でもして休んで欲しかった。 寺院の切り盛り位、自分達がする‥‥一応志体持ちなんだから、そう言って啖呵を切った結果が、これだ。 『別荘に住み着いたケモノを退治して欲しい、それ程強くは無いが‥‥アヤカシもいるかもしれない』 そう言った金持ちの依頼人、住職は生憎寝込んでいると告げれば、使用人が抑えている為一刻も争うと返ってくる。 報酬は良かった、住職の旧友だと言われた、そして住職に湯治でも行かせたかった。 『―――ただ単に、人間を殺したい』 そう言って嗤った依頼人を、祟ろう。 寒い場所に小型飛行船から下ろされ、金目の物を取られた。 『―――ただの戯れだ』 金持ちと言うのは、ただの気まぐれで人を殺すらしい‥‥まだ、ゴロゴロとしていたもふら様も一緒に蹴り落とされただけ、マシなのだろう。 でなければとっくに、自分達は死んでいるに違いない。 「どちらにせよ、死ぬなら賭けようぜ‥‥」 一人の男は、少ない符を夜光虫へと変える―――あまりに頼りない光、気付くかどうか。 獣脂を練り込んだ松明へ、かじかむ手で火を付ける‥‥隠し持ったナイフで腕を切り、赤い斑点を雪へと付けた。 「なあ、帰ったら‥‥普通に働いて、ちょっとずつ金溜めて、爺さんに温泉、行かせてやろうな」 ●助けを求めて 雪にまみれた老人が、開拓者ギルドへ飛び込んでくる。 うっすらと年月を刻んだ顔に涙を浮かべて、重々しく口を開いた。 「若造二人が、帰って来ないのじゃ‥‥無鉄砲な二人だったのじゃが、こんなに長く寺を空ける事は無かった」 涙を堪えるように、深く拳を握りしめた老人は東房の寺院の住職だと言う。 「それに、聞いてみれば依頼人は悪辣な者じゃと言う―――」 告げられた名前に、慌てて受付員が記憶を思い起こせば、以前に何度か、派遣した開拓者が行方不明になっていた筈。 勿論、戦闘により死亡と言う可能性も捨てきれないが‥‥。 「最悪の場合、亡骸でも返して欲しい‥‥向かった先は分かっておる」 何故なのかと、問いかけた受付員に老人は淡く微笑んだ。 「身体こそ、脆くはなったが‥‥精霊の告げと、寺院の僧兵の目撃情報、かのぅ」 ギルドとしても、悪辣な依頼人を野放しにする訳にはいかない。 何処まで情報が信用できるかは分からないが、どうやら高位の僧らしい依頼人が言うのなら間違いないだろう‥‥。 糸が切れたように倒れ込んだ住職へ、肩を貸した見習いを見ながら受付員は貼り紙を貼った。 |
■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086)
21歳・女・魔
菊池 志郎(ia5584)
23歳・男・シ
和奏(ia8807)
17歳・男・志
煌夜(ia9065)
24歳・女・志
レヴェリー・ルナクロス(ia9985)
20歳・女・騎
アレーナ・オレアリス(ib0405)
25歳・女・騎
オドゥノール(ib0479)
15歳・女・騎
リゼット(ib0521)
16歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ●灰色の空間 空は灰色、見ているだけで心まで凍りつくような死の世界‥‥雪原との区別が付かず、防寒具を身に付けた和奏(ia8807)は、困りましたね、と表情を変えず呟いた。 何を考えているのか、遠目には分からない主の顔を窺うように相棒、駿龍の颯が顔を上げる。 同じく、人形のような朝比奈 空(ia0086)がほっそりとした身体で炎龍、禍火に騎乗し、低空を飛行していた。 嘆息に近い息を付き、寒さで薄くなった色の唇を開く。 「碌でも無い依頼人と出会ってしまうのは不幸としか言い様がありませんね」 ――時間は、少し前に遡る。 開拓者ギルド、突如飛び込んできた住職を名乗る男性。 一刻を争う、と言う依頼に挙手しフツリと糸が切れたように倒れこんだ彼を寝台へ運ぶのを手伝い、菊池 志郎(ia5584)は彼に声をかけた。 「全力を尽くしますので‥‥どうか待っていてください」 ソリと、温石を用意できないか、と申請された彼の言葉に頷きギルド員が慌ただしく用意を始める。 「‥‥私たちが救助している間に、例の人物を要注意依頼人として扱う手続きを、しておいてもらえるだろうか? 放っておいたらまた犠牲者が出るぞ」 やや、女性にしては硬い言葉と声音で告げたオドゥノール(ib0479)が、つやを消した漆黒の駿龍、ゾリグに鞍を付けながら口を開く。 直ぐ様、依頼だと気付いた彼女の龍は重く低い声で鳴いた。 「財力、権力、実力‥‥どんな力でも、身につけ過ぎると心が歪みやすくなっちゃうのかしらね」 防寒具も貸して貰える?と、飄々とした様子で煌夜(ia9065)が炎龍、レグルスに防寒具を付けながら口を開く。 『緊急』と言う事で全て、ギルドで費用を持つと話が纏まったらしい――少なからず、このような依頼人の依頼が通った事に責任を感じているのかもしれない。 ‥‥尤も、彼等が依頼人の身辺や心情を全て図る事など不可能なのだが。 仮面の奥――レヴェリー・ルナクロス(ia9985)は唇を震わせ、アーマーケースを握りしめる。 「必ずや『生かして』二人を連れ帰って見せるわ」 握りしめ過ぎた、白い指が更に冷たい色に染まった‥‥焼けつくような正義感と、目を向られる事の無い孤独が合わさって、彼女の心は遠く、救いを待っているだろう要救助者を思う。 フン、と不満足そうに鼻を鳴らしたリゼット(ib0521)は決して、言葉を紡ぎはしないが冷たい目で『精霊』とやらが告げたらしい場所を見ていた。 「(人を食い物にして我が物顔で居る奴は‥‥気に入らないわ)」 アレーナ・オレアリス(ib0405)は目に付くように赤い旗を用意し、ふぅ――と息を吐く。 「それにしても、悪辣な依頼人もいたものですね――」 戦闘で亡くなった、とあれば疑問に思う事も少ない‥‥下手をすれば自分たちが被っていたかもしれない、被害。 「今は、救える命に――手を伸ばしましょう」 ふわり、と甘い白薔薇の香りを纏い、彼女は口にするとアーマーケースの中で眠る、アーマーのヴァイスリッターへ視線を落とした。 質問を纏めていた和奏が、もふら様の絵に視線を落としもう一度文字を確認する。 「合図は分からないみたいですが‥‥もふら様をよく伝令に使っているみたいです」 「暗い場所、ですか?」 気力の尽きかけた住職をゆっくりと宥め、菊池は首を傾げる――雪原に、一等暗い場所があると言うのか、それとも、死の淵に立った暗さだと言うのか。 「行きましょう‥‥発見時は短く2回、普段は1回。呼子笛が聞こえる場所なら、此れで大丈夫だと思います」 朝比奈が、禍火に騎乗し空を駆る――ぐん、と速度を増した空からの捜索組に続いて、馬車で近くまで急行した地上からの捜索組が続いた。 ●空の灰色 駿龍、隠逸の背に乗った菊池が、暗視を駆使して仄暗い世界を見下ろしつつ、傾きかけたソリを堅く背に結ぶ。 面倒よの、とばかりにジッと菊池を見た隠逸はやや、速度を鈍らせ首を動かした‥‥流石に、ソリを背負うのは重いらしい。 とは言え、地上班の捜索の邪魔になってはいけない――ジィと見ていた菊池は目じりを押さえ、目の疲れを取る。 「禍火‥‥何かそちらに?」 ふ、と視線を向けた朝比奈は背筋に冷たいものが走るのに気付いて、手綱を引く‥‥巫女としての勘か、近づいて来るアヤカシをその目が捕えた。 ――赤い色が空を覆った、鋭く突き刺さる紫電は、レグルスに騎乗した煌夜の雷鳴剣。 「やっぱり、たかって来たわね‥‥」 木刀を眼前にかざし、目を守りながら我が身に引き付ける煌夜――その下から炎にて援護するレグルス。 斜陽から、秋水へと行動を変えた和奏が鈍い音を立てて、その刀で眼突鴉を両断する‥‥斬り捨てた傍から、側面より襲ってきた攻撃は颯が炎にて牽制した。 「相手をしている暇はありません‥‥早々に散りなさい」 キリリと弦を絞った指先が、鋭い矢を放つ――接近してきた眼突鴉を視野に入れ、蒙古剣を鞘から引き抜き帯に挟む。 そのまま、斬りつけ浄炎を放った、焼かれ、地に落ちるアヤカシを見届け、冷たい風に朝比奈は身体を震わせた。 透き通る女性は、まるで雪の中へといざなうような笑みを浮かべ、冷たい吐息を吐く。 雪姫――と、直感し禍火に回避を命じる。 鋭いオーラを纏ったオドゥノールが、無慈悲なまでに正確な矢を放ちゾリグと共に、眼突鴉の群れへと突き進む。 絡みついて来る眼突鴉達は、ゾリグの尾に弾かれ爪で引き裂かれた‥‥落ちて行く黒い塊達。 「一旦、退きましょう!」 暗視で、少し離れた場所から捜索を行っていた菊池が急行し、彼の術が結ばれる‥‥弾ける煙遁に紛れ、彼等は離脱した。 暫く飛行した後、ピィ――と、呼子笛を吹き、返答を待つがただ一度、仲間から返答が返ってくるのみ。 雪原はまだ、冷たい沈黙を保っているのだった。 ●地の灰色 獣脂を練り込んだ松明が揺れる‥‥体勢を低く、時には高くして視線を巡らせるルナクロス。 時折、手を当てて声を張り上げた。 「お願い‥‥返事をして!」 シュゥ、と雪を駆ける音がして、盾の上に低くしゃがみ雪ゾリのように、なだらかな斜面から降りて来たオレアリスが横に首を振る。 目端で捉えたリゼットが、木の枝に目印を付け聞こえた呼子笛の音に、一度笛を吹いて返す‥‥降り積もる雪は痕跡を消し、彼女の結んだ、赤く揺らめくリボンがただ一つの目印だ。 決して、切れて飛んでしまわないように固く、結ぶ。 空を見上げれば、空を探索する仲間達の掲げる赤い旗‥‥悴む手を何度か握ったところで、ピクリ、と殺気を感じ彼女は口を開いた。 「セシリア‥‥」 「リゼット、お客さんが来たみたいだよ!」 カッと、氷柱を弾き飛ばす音に反応し、リゼットの前に立ちふさがる土偶ゴーレム、セシリアと不穏な殺気を放つ雪姫。 ヘルメットを被ったルナクロスが、そのままアーマーを起動させる‥‥メサイア、と名付けたアーマーに描かれた紋章、三日月が二つ。 ルナクロスの紋章。 「起動完了――行くわよ、メサイアっ!」 パッとリゼットとセシリア、そしてオレアリスが左右に避ける――ルナクロスの振るった片鎌槍がブン、と音を立てて風を斬った。 白いオーラが爆ぜ、粉雪が舞う。 忍刀で敵を抑えていたオレアリス、何度かの攻防の後、アーマーのヘルメットを装着しヴァイスリッターを起動させる。 徐々に宝玉の出力が上がって行くのを確認し、大きく踏み出した‥‥踏みだすと同時に忍刀を薙ぐ。 「リゼット‥‥」 酷く身体が揺さぶられるような、目の前の姿が、とても神聖な存在のような印象を受け‥‥セシリアはその怪力をリゼットへと振るう。 ――魅了、直ぐに察したリゼットは音を立てて雪原へと叩きつけられた攻撃を見つつ、身体をかわす。 叩きこんだ攻撃を見た刹那、動いたリゼットは操る雪姫へルーナワンドを叩きつけた。 術の効果が一瞬、途切れた状態のままセシリアと共に、距離を置く。 「出来れば戦いたくないけれど――」 アヤカシとは、根本的に人間を襲い糧を得る‥‥一旦退却、などと言う思考すら持たない敵は本能の向くままに彼女達へと攻撃を続けた。 「直ぐに、終わらせてしまいましょう。私達には、此処で待っている余裕などありません」 空砲を放ち、援軍を要請したオレアリスは、再び忍刀へと持ち変えると鋭く突きを繰り出す。 突きの瞬間、オレアリスに出来た一瞬の隙を目がけ氷柱を放った雪姫の側面、ルナクロスの片鎌槍が両断する。 「押し通る!!そこを、退きなさい!!」 このままでは、やがて燃料が尽きるのが先だろう――そう判断すれば軽い助走の後、武器を掲げ迫激突を放つ。 メサイアを纏ったルナクロスの繰り出す衝撃波に、雪姫が弾け飛び体勢を崩した。 悲鳴のような不協和音が辺りに響き、仮面の奥で眉を潜める‥‥頭の隅が膿んだように痛く、鈍痛が支配していた。 高速飛行で直ぐ様、駆けつけて来たオドゥノールがゾリグを駆り、地面すれすれまで高度を下げると矢を放つ。 放っては、また離脱しては引き寄せられるように矢を放った、まるで輪舞曲のように繰り返す戦い。 「間にあったようだ‥‥直ぐに終わらせてしまおう」 段々と残り僅かになって行く雪姫へ、狙いを定めた時――彼女達の耳に呼子笛が聞こえた。 確かに、二度‥‥それは、探し人、発見の合図。 ●雪の上に浮かぶ赤 赤い色が雪原に散っていた――それは、決して雪に埋もれ消える事無く、何時までもそこに在った。 まるで、その地から動かない、とでも言うように‥‥そのまま、静かだった赤い色が急に動きだす。 力尽き、降っては瘴気へ戻って行くアヤカシを避け、顔を上げた――華やかな技と、そして大きな旗を目にして、吹いていた風に何かの声が混じる。 「――何か、声が聞こえませんか?」 ポソリ、と言った朝比奈が、自分の言葉を噛みしめるようにもう一度繰り返す。 既に白銀の髪は、雪に濡れて重くなっていた‥‥耳を澄ませば、確かに聞こえる。 「もっふぅ〜」 気の抜けるような、やる気の無い言葉と共に、寒いもふ、と続けられる愚痴――神様の使いとして崇められるもふら様の、声。 もふら様の黒い瞳と、朝比奈の紫の瞳が重なった‥‥禍火がゆっくりともふら様を捉え、彼女を見上げる。 「はぐれもふら様では、無いでしょうし――」 ジィ、と目を凝らして菊池が周辺を探る‥‥チカ、チカ、と弱弱しく繰り返す淡い光が、消えた。 「当たり、じゃない?」 万が一、敵襲を警戒しつつ霊刀を手にしたまま、煌夜はレグルスの手綱を動かし高度を下げる――もう一度、もふぅ〜と聞こえた声に和奏は迷わず、呼子笛を吹く。 二度、発見の報せと共に高度を下げ、辿り着いた先に見たものは冷たい肌をした二つの影。 まるで、凍りついたようなその姿に一瞬、既に帰らぬ人となったのか、と最悪の事態を想定する開拓者達。 神妙な表情で、脈拍を測っていた朝比奈がゆっくりと紡いだ。 「衰弱しているだけのようです。精霊よ‥‥癒しの風を」 神風恩寵が、柔らかな風をもたらし、掌に付けた傷を癒していく――菊池が、温石をその手に握らせ毛布をかける。 「ご住職がお待ちです。こんなところで倒れてはいけません」 彼の言葉に、片方の男性がゆっくりと唇を開いた‥‥爺さん、と。 「住職様から、探しだすように頼まれた開拓者です」 和奏の言葉に、ああ、と頷いた男性は、何度か瞬いた後、差し出されたヴォトカを口にする。 ゆるりと頭を振った彼は、隣の男性を揺さぶって声をかけた――起きろ、と何度も。 「あれ――」 もっ、ふぅ〜と突撃してきたもふら様に潰されつつ、目を覚ましたもう一人の男性はまだ、夢心地で開拓者達を見まわしている。 現実か、それともお迎えが来たのか――彼等はまだ考えているようだった。 「見つかったのね‥‥」 赤い目印を振り返りながら、リゼットが口を開いた――勿論、隣にはセシリアの姿もある。 「甘刀だ、少しずつ飲みこんでくれ」 甘刀を小さく割って、まだ意識混濁の状況にある二人の口に入れながら、ヴォトカを流し込みオドゥノールは泰紋毛布をもふら様にかけた。 「感謝するもふ」 ゾリグの付けた火炎の横、冷えた身体を温めるもふら様――その、毛皮に血が混じっているのを見たオレアリスは止血剤を使い、そっと撫でる。 「もふら飴、お腹の足しになりますか?」 和奏の差し出したもふら飴を、美味しそうに食べながら、もふら様がもふもふの毛皮で遭難者達を包む。 もふら様は見ていた‥‥次のもふら飴を差し出した和奏に、感謝を述べるともふもふと食べる。 「歩けるようになれば、早めに帰りましょう‥‥」 煌夜は、彼等のいた暗い洞穴から少し離れた場所で、周辺を警戒しつつ声を上げた。 「動ける?」 ルナクロスの言葉に、頷いた男性はゆっくりと立ち上がろうとしてたたらを踏む。 「此方にどうぞ‥‥小さいソリですが」 大きなソリは調達出来なかったものの、ずっと運んできた隠逸の背を見て菊池が促す。 ――小童め、と言いたそうな相棒へ苦笑を返し中へと毛布を敷いた。 「もう一人の方は、此方へどうぞ――乗り心地は良く無いとは思いますが」 ギガントシールドを外し、少し装甲の軽くなったヴァイスリッターの状態を確かめつつオレアリスは口を開く。 「雪の上を滑るのは、問題ないかと思いますわ」 「この子も、手伝わせるわ――セシリア」 任せて、とばかりに頷いたセシリアへ視線を移すとリゼットは護衛へと回る。 常に手にしたルーナワンドの嵌めこまれた宝石が、雪原の白さを眩しく反射させた‥‥護衛に回る者は、先んじて空を駆り、大地を歩く。 「敵が来ます、気を付けて――」 隠逸のソニックブームと、颯の鋭い爪が眼突鴉を裂いた‥‥一瞬気を取られ戦う手を止めた菊池へ、朝比奈の解術の法がかけられる。 漸く、自分が魅了されていた事に気付いた彼は苦笑したまま、礼を口にした。 「道は開いて行くわ‥‥巻き込まれないでね?」 雷鳴剣を放ちながら、煌夜の騎乗したレグルスが滑空し群れに飛び込んでは円を描くように切り裂いて行く――討ち漏らしたアヤカシは、オドゥノールの矢の前に散って行った。 地上‥‥オレアリスとセシリアがソリを引く。 随伴した朝比奈が、隣で様子を時折確認しながら後背からの奇襲を浄炎で防ぐ――メサイアを纏ったルナクロスは、積極的に前へと出ると片鎌槍で突き進む。 「この報いは必ず受けさせるわ、そう、必ずね‥‥」 「此方には、証言者がいますもの――此れを機に告発出来るでしょう」 ヴァイスリッターを纏う、オレアリスがリゼットの結びつけた赤いリボンを視界に入れ、息を吐いた。 そろそろ雪に覆われた地面が見え、開拓者ギルドへと戻る道へと入る。 後ろに視線を移せば、ぐったりしているものの、些か笑みを見せた男性二人が笑っていた。 ●雪の中より 戻って来た、開拓者と男性二人‥‥運が良かったとしか言いようの無い生還に、何度も頭を下げる依頼人である住職。 頬をひっぱたかれ、悪ガキのような幼い表情を浮かべる男性二人も、しっかりと頭を下げた。 「――いいな」 ふ、とポツリと口にした呟きを自分で理解して、ルナクロスは苦い笑いを浮かべる。 孤独なまま、あそこで冷たくならずに済んで良かったと‥‥。 後に、証言を纏め被害者を募ったものの、状況証拠が無く依頼人は罰金のみで免れた――だが、一度立ち上った煙は、確かに何かしらの変化をもたらす。 風の噂で、被害者遺族に殺されたとも、あまりの業の深さに呪い殺されたとも聞くが‥‥。 今、彼等が知ることのできる事は、救助された男性二人、そしてあの時飛び込んできた住職は慰謝料を受け取り、元気に毎日を過ごしている事のみ。 開拓者ギルド、見習いとして働いている男性二人の手厚い歓迎とおすそわけを半ば強引に渡されながら、開拓者達は新たな依頼人を探すのだった。 |