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■オープニング本文 ●悪戯者の魔法 ハロウィン、ニタリと悪い笑みを貼り付けたジャック・オ・ランタン。 むかしむかし、悪い事をしたニンゲンが、此処よりずっと暗い場所に置き去りにされた。 一人ぼっちで、寂しい、そんな場所。 そんな悪いニンゲンが、とっても可哀相に見えた悪魔が、渡したランタン。 暗い闇の中、道なき道をニンゲンが歩く。 ずっとずっと、何処に続いているのかもわからない、道。 今は、もう、その道も見えなくなってしまったけれど‥‥まだ、この日には。 沢山の悪戯者が、足音を隠して、姿を隠して、迫っているかもしれない。 冷たくなった風が吹きつける、地面に落ちた塵に一つ、悪戯者が隠し忘れた足跡。 ランタンが灯す炎、複雑に描かれた影が文字を描く。 ユラリ、ユラリと動くその影は潜んだ悪戯者が、笑っているのかもしれない。 視線を移せば、大切な大切な相棒が、いた。 ―――もし、ねえ、きみが、人だったら、なんて。 やっぱりハロウィンに浮かれた、悪戯者がかけた、魔法かもしれない。 |
■参加者一覧
風雅 哲心(ia0135)
22歳・男・魔
アルネイス(ia6104)
15歳・女・陰
霧咲 水奏(ia9145)
28歳・女・弓
ユリゼ(ib1147)
22歳・女・魔
藍 玉星(ib1488)
18歳・女・泰
久悠(ib2432)
28歳・女・弓
レビィ・JS(ib2821)
22歳・女・泰
針野(ib3728)
21歳・女・弓 |
■リプレイ本文 ●双刃武闘 太陽が顔を覗かせれば起床の時刻、妙に光を眩しく感じて彼‥‥極光牙は目を開いた。 少し離れた場所では、彼の主である風雅 哲心(ia0135)が刀を振っている。 はて、こんなに低い位置から見ていただろうかと身体を動かした極光牙は自らの異変に気が付いた。 否、もしかすれば勘付いていたのかもしれないが理解を拒んでいたのかもしれない。 「しかし、我の姿が人間になるとは‥‥正直信じられませんね」 己の纏う金縁の白い鎧、此れが太陽に煌いたのだろう‥‥何度か手を握っては開くと小さく彼は息を吐いた。 「我が主に、申し上げなければなりませんね」 自分ですらまだ信じられぬ出来事に、主はどう反応するかと考えそう言えば、と思い出した出来事。 「確か‥‥依頼を請けていた筈ですが、どうしましょうか」 距離が離れている為、主は己に乗って行くと言っていた事を思い出す。 まずは説明から、と立ちあがった彼の前に朝の鍛練を終えた風雅が戻ってくる。 「誰だ、いや、まさか―――」 姿が変われど、絆は変わる事は無い‥‥不可解な状況に直ぐ対応したのは風雅だった。 「極光牙か?」 「はい、我が主。この姿でお会いできて本当に嬉しゅうございます」 名前を呼ばれれば、深く首肯し背を伸ばす‥‥金の髪と青い瞳が太陽の下で眩しい。 「こんな事もあるんだな‥‥極光牙、その帯剣は」 鋭く光る主の瞳、白刃が煌く太陽の下の一閃、金属音を立てて交わる二つの刃。 「さすが我が主、太刀筋が読めない」 「極光牙、太刀が重いな‥‥」 刃越しに笑いあう二つの姿、互いに刃を納め依頼の為と足を運ぶ。 歩いていけない距離では無い、寒村に入り風雅は口を開く。 「此方は相棒の極光牙だ、それで敵は?」 風雅の説明に、鎧の奥で少し笑みを浮かべる極光牙。 有り難いと頭を下げ続ける村人に避難を促し、警鐘が鳴れば二人は地を蹴り間に滑り込む。 先に辿りついた風雅が、刀の背で狼を弾き斬り伏せる。 遅れて辿り着いた極光牙は、二振りの剣を交差させ真っ向から受け止めると直ぐに村人へ退避を促した。 風雅の刀が翻り、まず一頭目を斬り捨てると二頭目へ‥‥後背から迫る狼を極光牙の重い剣が叩き割ると続けざまに血飛沫が飛ぶ。 「こうして肩を並べて戦える事が、我にとっての一番の願い。今この場でその願いがかなう事を、感謝しています」 カウンターのように放った蹴り、そして剣の柄を握り締め後ろで刀を振るう主へと告げる。 後ろで笑う雰囲気が伝わって来た‥‥張り詰めた空気を震わせ耳たぶを声がうつ。 「そうか‥‥、俺も同じ気持ちだ。よし、行くぞ極光牙!」 「はっ!」 雷閃の如く、刀が光る‥‥銀色の剣が宙を裂き敵を確実に葬る。 最後の一体を斬り捨て剣を納め、重なる思い。 願わくば、永遠に相棒として。 ●コレカラ 朝、朝食を作っていたアルネイス(ia6104)は、ふと目の前が暗くなり顔を上げた。 「ふわぁ、アルネイス‥‥今日の朝食はなんなのだ?」 金髪に透き通るような白い肌、そして赤い瞳、マントを羽織り三連の数珠を掛けたその若い少年。 何処かで見たような、と記憶を漁らずとも浮かぶのは己の相棒。 「アルネイス、お腹が空いたのだ〜」 周囲をクルクル回る相棒、ジライヤのムロンに自分は召喚したのだろうかと自問自答。 「少し待って下さいね、ムロンちゃん」 「早くするのだ〜」 はいはい、と声をかけながら盛り付けを完了‥‥したところで、つまみ食いをしているムロンを発見。 「夕飯抜きにしますよ!」 「味見なのだ!」 やれやれと肩を竦めて食卓を囲めば、懐かしさに笑みがこぼれる。 「アルネイスのご飯はいつも美味しいのだ〜」 「ありがとうございます‥‥あの時も」 まだ、外界を知らないムロンに外の出来事を教えたのはアルネイスだった。 確かその時も二人で鍋を囲んでいた気がする。 次々と消えていく料理に、今月も食費が厳しそうだと苦笑したアルネイスの料理へムロンの手が伸びる。 『一緒に行ってやるのだ!』 自分は甘いのかもしれない、と思いつつピシャリとその手を叩く。 「酷いのだ‥‥。あ、見るのだ見るのだ!太陽に透ける金髪、凛々しいのだ」 「そうですねー」 「やっぱり、ムロンが一番カッコイイのだ」 ふふん、とポーズを決めて自分の姿をもう一度確認、そしてまた素敵な場所を見つけたのか。 「白い肌と言うのも悪くないのだ、雪よりも白いのだ」 「そうですねー」 「やっぱり赤い目も最高なのだ、太陽より赤いのだ」 「‥‥そうですね」 よくそんなに自分を褒められるものだ、と流石にアルネイスもあきれ顔。 不意に、キラキラーっという効果音を纏っていたムロンが更にキラキラを纏った、ように見えた。 「これからも(ご飯を)よろしくなのだ〜」 「ええ、此方こそ」 弟のようなムロンと、離れられる気はしない‥‥これからも一緒に旅をしていくのだろう。 彼女は知らない、ご飯を、と言うムロンの内心の言葉に。 ●守護 秋風に棚引く雲‥‥とある山村。 屋敷の庭で武人然とした初老の男、崑崙は目を細めた。 目の前には、身体を伏せている霧咲 水奏(ia9145)の姿‥‥新緑の美しい鱗を纏った駿龍。 何やら自分が人間に、そして水奏が龍になったらしい‥‥少しの戸惑いは休息の時間を楽しむという事へと変わる。 「随分と立派になったものじゃのぅ‥‥お前さんの爺さんも安心じゃろう」 子供はいつの間にか大人になっている、この言葉を実感したのはいつの頃だろうか。 「龍であるお前さんにも、思うとはな」 鈴の音のように、澄んだ声が返ってくると崑崙は笑みを深くした。 霧咲が本懐。剛彊真理‥‥盲目的に己を犠牲にせず、己が信じる心を貫き忠恕を為す。 名誉や義務で縛るのではなく、自らの信義の為に技を奮う‥‥自身を保つと言うのはあまりに難しい。 魔の森の脅威、それから民を守る霧咲の技‥‥幼い時から武を身につけてもアヤカシの群の前に儚く散る命。 だがこの子は生きている、己を大切にし、他者をも慈しむ。 「始めはどうなる事かと思ったが、今となっては掛け替え無き相棒にして、友」 水奏が、真っ直ぐな瞳を向ける‥‥その中にずっと昔、彼女の祖父に見たものを彼は、見た。 崑崙は、年月の刻まれた顔にやや笑みを浮かべる。 戦いの中で、背を預けられる相手に出会う事は難しい‥‥だが、見つかればとても頼りになる、相棒。 「まるで、あやつといるような気分になるのは‥‥やはり血の繋がりを思わせるな」 脈々と受け継がれていくその血と、そして霧咲の本懐。 相棒と呼ぶに相応しい、目の前の駿龍となった水奏は空から響いた龍の鳴き声に細い顎を上げた。 崑崙も相手を悟れば、優しさを瞳に乗せて声をかける。 「ははは、どうやら迎えが来たようじゃな。今日は何もない。わしに気にせず、婿殿との逢瀬を楽しんで来て構わんよ」 楽しげな様子に、水奏も是、と取ったのか新緑の翼を広げ風に乗った。 茜色の空に、緑が映え生命の強さを思わせる。 目を細め、崑崙は今は亡き友人へと語りかけた。 「‥‥やれやれ、ああした姿見せられては、せめて子が出来るまでは現役でおらんと、と欲が出るのぅ」 滑空する姿は凛々しく、強く‥‥水奏の祖父は何処からか見ているだろうか? いや、見ていなくとも構うまい。 「すまんな、友よ。わしがお前の所に往くのはまだ先らしい‥‥代わりに、土産は楽しみにしておれ。成長した孫の姿を聞かせてやるからのぅ」 破顔する、亡き友人を棚引く空の垣間から、見たような気がした。 ●二人ぼっち 吹き荒れる風に、一欠けらの優しさも無い‥‥冬の風は冷たく体温を奪って行く。 風に銀髪を暴れさせた青い瞳の女性、フロージュは時折金に輝く髪もそのままに駿龍、ユリゼ(ib1147)の背を撫でた。 「ユリゼ、リゼ‥‥」 ゆっくりと撫でては、彼女の愛称を呼ぶ。 「あなたは飛ぶ時に何時も『ごめんね、ありがとう』と私の翼を撫で首を抱いてから私に乗りますね」 どうか、謝らないでとフロージュは口にする‥‥人の姿を借りる事の出来た今なら、伝わるだろうか。 何処か孤独を心に抱えた、ユリゼに伝わるだろうか? 「あなたが望む地へあなたを運ぶ事、それが私の望み‥‥リゼを乗せる事は重くも、辛くも何ともない」 凍てつく寒さ、焼けつく日差しも共に受けると‥‥フロージュの細い手が華奢なユリゼの翼に触れた。 「今のあなたなら望む所へ何処へも翔んで行ける。でも一人で行かないで、同じ様に私を乗せて下さい」 言われなくとも、と声が返ってきた気がしてフロージュはかがめられた背に身体を預ける。 遠く見つめる果て、北の地は冷たいのだろうか‥‥南、そして東へ西へ、当ても無く各地を点々として世界を渡る日々。 抱きしめたユリゼの身体は、温かくフロージュは冷たい風から逃れるように頬を押しつけた。 「いつか、あなたの本当の行き先が決まったら教えて下さい‥‥何処へでも、何処までだってお連れしましょう」 ただ、その時はあなたの心の見据える先を、私も一緒に―――。 唇が紡ぎ出した小さな我が儘に、頷いてくれただろうか? ゆっくりと夜が訪れる、藍色から暗澹とした暗闇に月が光を浴びて輝く。 「リゼ、月夜を駆けましょう‥‥あなたが綺麗だと言ってくれる翼を私も見たい」 星には手が届かなくとも、ユリゼの心には少しでも、手が届くだろうか? 翼を撫で、首を抱き、そして、フロージュはいつもユリゼがするように瞳を見つめた。 「一緒に、行きましょう」 小さくユリゼが鳴いた、良かった、とフロージュが目を閉じる。 「瞳の色は変わらない、私の好きな色です‥‥」 ●家族 自然の暗闇が、自分に迫ってくるようで炎蕾は身体を震わせた。 気ままに飛んだその先、夜営と言う決断をした玉星‥‥藍 玉星(ib1488)は今、食べられる物を探しに行っている。 カサリ、と聞こえれば見慣れた姿が見えて炎蕾は彼女へ駆けよった。 「冒険気分だったけど‥‥ねえ玉星、こんなに暗くて静かだと、何だか怖いね」 弱虫アルなぁ、と返って来そうで慌てて炎蕾は首を振る。 「ち、違うよ、ボク、弱虫じゃないよ、泣いたりしないもん‥‥玉星が一緒だったら強くなれるんだよ」 ギュッと抱きついて、躊躇いがちに紡ぐ言葉。 「でもね、玉星がご飯を探してる間、寂しかったの‥‥ずっと、一人になったらどうしようって、ちょっと泣いちゃった」 ちょっとだけだよ、と付け足して、更にギュッと抱きつき顔をうずめる。 「玉星は、初めて会った時から、いっぱい傍に居てくれて、いっぱい遊んでくれて、いっぱい優しくしてくれて、ボク、とっても嬉しかったんだよ!」 今も、撫でてくれる手が心地よくて、きっと微笑んでる玉星に更に炎蕾は続けた。 「ボクね、生まれてすぐに、訓練所に引き取られたんだって。仲間もいっぱい居て、兄弟みたいだったけど、家族とは違うんだって‥‥」 何処が違うのかな?と首を傾げ、そして違う方向へまた首を傾げ。 「でもね。いつも傍に居てくれて、あったかくて、守ってくれて、撫でてくれるの。お母さんていうんだよね‥‥玉星がボクのお母さん?」 ちょっとずつ、自分で答えを見つけようとする炎蕾の顔を見つめ、玉星も笑みを零す。 撫でて、そして抱きしめれば嬉しそうに声を上げるのが分かった。 「風かな‥‥何だか山がザワザワしてきたね」 もっと近くに寄っていい?とピッタリ寄りそう炎蕾は、玉星の服の裾を掴んで顔を上げる。 ガサリ、と一際大きな音を立てて現れた漆黒の塊に二人は立ちあがった。 「あいやー、客人みたいアルね」 「玉星‥‥ボクも頑張るよ」 グッと拳を握りしめて、漆黒の塊へ向かう―――近くで見れば闇を纏った狼。 咆哮を上げ襲いかかる姿に、玉星の拳が叩きこまれる。 「(ボクだって、玉星の力になりたいよ)」 鋭く爪を立て、炎を狼へ放つ‥‥グワッ、と口を大きく開けて飛びかかって来た狼へたたらを踏み、それでも拳を叩きこんだ。 玉星の紅砲が狼に当たって、弾け、狼が朽ちる。 「うう‥‥」 「大丈夫アルか?」 役に立ったの?と問いたい気持ちを押しこめ炎蕾は顔を上げた。 「ボク、今は玉星がいないと何もできないけど、うんと大きくなって、強くなって、いつか玉星を守ってあげるからね。だからずっと、傍に居てね?」 必死なその姿に、玉星が笑う。 「分かったアル、それまで待ってるネ」 しっかりと寄りそって、互いの温もりを感じる―――目を閉じて、安心に包まれ炎蕾は目を閉じた。 ●リズム 雲海を下に見る事の出来る高い山、白い花が咲き乱れ、下限の月が蒼穹に浮かぶ。 空の裾野は雲海に触れ、淡く発光したような輝きを纏う。 何処か儚く消えるような、そんな情景、白月から少し離れた場所で陰鬱な音色を奏でる久悠(ib2432)が、空を見た。 心の中の闇を払いたい時の、彼女の行動‥‥。 その瞳に光は無く、暗い色を湛えた瞳が無性に嫌で、紡いだ言葉は‥‥昔の、名前。 無表情に向けられた硝子の瞳が、やがて苦く悲しい笑みへと変わる―――そんな瞳が見たい訳ではない、そう言えたらどんなにいいだろうか。 だが、きっとその言葉は届かない‥‥闇に取り残されたまま、彼女の心は嵐が過ぎるのを待っている。 「空でも飛ぼうか」 そう言って手を伸ばせば、久悠が笑う、翼が無いじゃないか、と。 今は、人の腕を持つ白月‥‥ああ、困ったな、と苦笑しながらもまあ、いいかと久悠の手を取った。 「僕とワルツを‥‥」 「知らぬ」 思いっきり顔をしかめた姿に、白月はまあ、いいじゃないかと強引に手を取りリズムを刻む。 淡い雪灰色の腰までの髪が、ステップに合わせてユラリと揺れた。 「なあ、こうやってクルリクルリと踊るのは空を飛ぶのに似てるだろ?」 「お前は‥‥空を飛ぶのが好きだからな」 ぶっきらぼうな、何処か甘えたような言葉に少しは気が晴れている事を、願った。 何時だって金の瞳を輝かせ、新しい事を始めるのは久悠の方だ‥‥その瞳が輝くたびに喜びが積み重なって行く。 「旅をしながら、色んなものを見たよ‥‥世界は綺麗だ、忘れるな」 「絵空事にしか聞こえんな」 「でも、今の時間は悪くないだろ?」 問いかければどうだか、とはぐらかされて‥‥それでもまだ、ステップを踏む久悠に少しだけ安堵する。 グゥ、と腹が鳴ってそう言えばずっと久悠を見ていたんだった、と思いつつも止まらないリズム。 リズムと同じく、グゥ、グゥと腹が悲鳴を上げる。 一瞬、何かと変な顔をした久悠は結局、腹を抱えて笑いだした。 「このやろう‥‥」 拗ねたように白月が言えど、それでも久悠は笑ったままで―――まあいいか、とその金色の瞳に光があふれているのを知り。 握り返される手、虚ろだった久悠のリズムが戻って行く。 あんたの笑った顔が好きだから‥‥なんて、言えないけれど。 「なぁ、笑え」 一瞬の間、そして久悠が笑みを零した。 「白月の‥‥腹のお陰だな」 なんてこった、と笑えばやっぱり久悠は笑っていた―――ああ、それでもいいや。 あんたは、笑ってろよ、なぁ? ●繋がり ヒダマリは隊商にくっ付いて歩きながら隣で太陽の下、機嫌の良さそうなレビィ・JS(ib2821)の方をチラリと見た。 「師匠もきっと、この空の下で太陽を浴びているに違いないわ‥‥わたしの勘が告げるのよ」 笑みを浮かべて告げたレビィに、ヒクッと隊商の人間の口元が動いた。 ‥‥もしかしたらドン引きされたかもと思いつつヒダマリは口を開く。 「‥‥すみません、適当に流して下さい」 いつもこの調子なのかい、と言外に問われて乾いた笑顔でヒダマリはかわす。 絶対に気苦労する事が起こる、と直感、否―――確信が告げていた。 分かれ道で、ギィと荷車が止まる‥‥此処から先、街まで辿りつけるだろうかと頭を悩ませるヒダマリへ頑張れ、と肩を叩いて行く隊商の人々。 行こうか、と笑顔を向けて歩き出すレビィ‥‥道、わかってるの?と声をかければ勘! と言う頼もしい返事‥‥ヒダマリの笑顔が固まった。 「すみません、この街に行きたいんですが‥‥」 辿りつけると言うレビィの勘に任せる訳にも行かず、辿りつけば既に空は茜色。 「お姉ちゃん、街の東のほうに安い宿があるって‥‥いない」 漸く今日の宿も探し当てれば、何処に消えたか、レビィの姿。 ‥‥まさか、危ない目に遭ってないよね? 不安が込み上げて、地図を固く握りしめお姉ちゃーんと叫ぶ。 がむしゃらに歩き回り、赤いコートを探す‥‥このまま、いなくなるなんて嫌だと。 でも、自分が傍にいていいの―――? 「君が居なければ、あの子はここまで旅は出来なかった‥‥君なら大丈夫さ」 不意に聞こえた声は、不安そうなヒダマリの心を優しく宥め、人ごみの中に消える―――赤いコート。 「あ、これ買ってきたの!ゴーグル!」 「え‥‥?」 声を弾ませ戻って来たレビィに、ヒダマリは瞬く。 「ほら、前の町のお店で同じようなのずっと見てたから。いつも迷惑かけちゃってるから、お詫びって言うか‥‥」 カッコイイゴーグルに視線を移し、そして嬉しさがこみ上げる。 でも、そこをグッと抑えてヒダマリは口元を結んだ。 「‥‥うん。でもそれではぐれてるよね。また迷惑かけてるよね?‥‥ちょっとそこ正座」 お説教中、道行く人々がどうした事かと二人を見ては、視線を逸らす。 十分反省したのを見て、ヒダマリは少しはにかんだ。 「ゴーグル、嬉しかったよ。ありがとう」 あ、でもまた同じようなことはしないでね?と念を押して、ゴーグルを身に付ける。 まるで、傍にいてね、と告げているような気がして確かな繋がりを感じた。 「じゃあ、行こうかお姉ちゃん」 しっかりと手を繋いで、今度ははぐれないように‥‥ ●一緒 ふわぁ、と欠伸を噛み殺した針野(ib3728)へ、視線を移すかがほ。 依頼の無い休日、たまには気負わず針野を背に乗せ空でも飛ぼうかしら‥‥そう思っていたのに起きれば何故か人の身体で。 「かがほ、退屈なんさー」 かがほの灰緑の髪を手で弄びながら、針野が声を上げる。 「街にでも行きたいんよ‥‥」 「絶対嫌。町に出たら、男がうじゃうじゃいるもの。‥‥そ、そんな目をされたって、行かないったら行かないからね」 シャーっと猫のように威嚇をし、男共を思いだして眉をしかめる。 針野は守るんだから―――と静かなる闘士を燃やすかがほへ、針野のオネガイ、と言う視線。 この視線に甘い、そんな自分の甘さが時に憎らしくなるもののやっぱり逆らえなくて。 頬に熱が集まるのを感じながら、かがほは視線を逸らした。 「あああ、もうっ、分かったわよ。あんたの好きになさいっ!」 「え、行ってもいいんさね?」 別に視線に負けた訳じゃないから、と負け惜しみの様に口にすれば嬉しそうに笑う針野。 どうしてこんなに可愛いのかしら‥‥なんて考えつつ抱きついて来る彼女の頭を撫でる。 「まあ、つまりアレよ。‥‥変な男に絡まれたら、すぐに私を呼びなさい。蹴散らしてあげるから」 呼ばれなくても駆けつける、勿論―――大切な針野だから。 「かがほ、大好きさ!」 ギュッと抱きつかれれば、更にカァっと頬に熱が集まる‥‥なんて可愛いのかしら、なんて。 決して言えないけれどいつものように、甘えてその肩に頭を乗せてみる。 温かくて、いつも煩い他の子達が今は静かにしていて本当に良かったと、そんな事を思う。 「(次の休みには、空を一緒に飛びましょう‥‥針野)」 絶対に、追って来れない場所だから―――全部全部、言葉に出来れば不自由しないのだけれど。 「かがほ、これからもよろしくさ」 「考えておくわ」 やっぱり捻くれた言葉しかできない、でも針野は分かったように笑って。 「嬉しいんよ、一緒に居る事が」 ずっと傍にいるからね‥‥心の中で語りかける、ずっと、一緒。 |