仕立て屋娘の戦い
マスター名:白銀 紅夜
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 易しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/09/10 11:49



■オープニング本文

●娘は反抗期
 北面の都、仁生。
 朝にも関わらず、ニワトリのような高い声を上げて少女が怒っていた。
「うるさいわよっ、オヤジには関係ないでしょ!」
「オヤジだと‥‥自分の父親に向かってなんて言い草だ!」
「オヤジにオヤジって言って何が悪いのよ!いーい、アタシは絶対、ぜーったい自分の店を出すからね!」
 ビシィッと指を突きつけて腰に手をあて、少女は言い切る。
 突きつけられた彼女の父親は重いため息をついて言った。
「お前の言いたいことはよーく、わかった」
 こめかみを押さえつつ、呟く父親に道行く人が哀れみの視線を投げかける。
 更には、頭痛には梅干が効くよ!なんて商品を売ろうとする声まで聞こえてきて、父親はヒラヒラと手を振って断った。
 もはや、このやり取りは毎朝の出来事となっている。
 始めは諌めることもした町人も、微笑ましいと思っているのか、それとも諦めたのか‥‥‥言うまでも無く、後者であるが、手出ししたくないとばかりに流すのが暗黙の了解になっていた。
「じゃあ、アタシは行くから。遭都に行って、じゃんじゃん儲けちゃうんだから!」
「ちょっと待ちなさい」
 今にも走り出しそうな少女をため息と共に引き止める。
 確実に十年は老けただろうとどこか冷静な頭で父親は思う。
「俺がお前の作った衣服を見てやる。それで合格したら、遭都だろうがあの世だろうが何処へでも行きなさい」
 あの世に行ってどうする、洒落にならないじゃないか―――とは、行き交う人々皆が思ったことである。
 ツッコミたかった町人だったが、時間は待ってはくれない。
 朝の安売りの方が彼ら、彼女等には大切だった。

●娘は世間知らず
 神楽の都、開拓者ギルド。
 その少女の担当をしていた受付員は悩んでいた。
「でね、酷いでしょー。あの世ってどの世だってのよ!」
 後がつかえている‥‥‥しかし、その受付員は気が弱く、また、新人でもあった。
 彼は自分の不運を呪う。
「で、依頼を出したいんだけど」
「では、内容と報酬を―――」
「報酬?そんなもん、無いわよ」
 ちょっと待て、報酬が無いとはどう言う事だ。
 その場の開拓者全員が内心突っ込んだ。
 慈善事業では食べていけないのだ、そんな事も知らないのかこの小娘。
 しかし、開拓者達はしたたかにも依頼を選び出す。
 暗雲が受付員の上に立ち込めていた。
「‥‥そうね、アタシの作った衣服をあげるわ。材料費が余ったら、報酬も上乗せしてあげる。それでいいでしょ?」
 それは開拓者が決めることだ‥‥‥しかし、そんな事を言えない受付員。
 曖昧な笑みをこぼして新たな依頼を書き記すのだった。
 “急募!衣服作りのモデル募集!アイデアもドシドシ待ってます!”


■参加者一覧
高遠・竣嶽(ia0295
26歳・女・志
俳沢折々(ia0401
18歳・女・陰
玖堂 真影(ia0490
22歳・女・陰
高倉八十八彦(ia0927
13歳・男・志
巳斗(ia0966
14歳・男・志
天宮 蓮華(ia0992
20歳・女・巫
上杉 莉緒(ia1251
11歳・男・巫
木綿花(ia3195
17歳・女・巫


■リプレイ本文

●ワガママ娘降臨
 店の前に立ち尽くす開拓者8人。
「どう、開拓者なら傷に効く薬草はどうだい!」
 本日も店の人々は元気で開拓者に声を掛けてくる。
「大きいわね」
 不意に呟いたのは木綿花(ia3195
「仕立て屋、春秋‥此処ですね」
木の看板と、併設された美曹の苗字に高遠・竣嶽(ia0295)は頷く。
「じゃあ、入りましょうか――うわっ!」
それを確認して店の中に入ろうとした巳斗(ia0966)に何かが激突する。
「いったぁい、人の店の前に突っ立ってんじゃないわよ!」
 大丈夫かと声をかける前に威勢のいい声が聞こえて天宮 蓮華(ia0992)はあらあらと微笑みながら手を伸ばす。
「って、アンタ達が開拓者?」
 偉そうな上からの口調に内心頭にきながらも、玖堂 真影(ia0490)は首を縦に振った。
「はい、あの、依頼、見て‥‥」
 俯きがちに説明したのは上杉 莉緒(ia1251)可愛らしい外見をしているが、ちゃんとした男の子である。
「ふーん、まあ、いいわ。中に入って」
 品定めするような視線を向けた後、春梅はくるりと身を翻し、併設された美曹の家の方へと歩いていった。
「元気な子じゃけえ」
 感嘆とも言える言葉を口にして高倉八十八彦(ia0927)はその後を追う。
「依頼にて 鉄砲娘 衝突す」
 俳沢折々(ia0401)の呟いた言葉に、『鉄砲娘』って誰よ!と春梅が食いついた。

●ワガママ娘と母
 開拓者達が通されたのは春梅の自室と思われる場所。
「アタシは美曹 春梅。アンタ達にはアタシの服作りを手伝ってもらうわ」
 名乗った春梅に開拓者達も各々自己紹介しては、木の椅子に座る。
「私達が考えたのは天儀の良さとジルベリアの良さを兼ね備えると言った衣服です」
 高遠が切り出すと同時に、木綿花と玖堂も口を開いた。
「地は天儀風にして、ジルベリアなどの文様の刺繍を施すのもよいかもしれないわね」
「天儀独特の服にジルベリア風の刺繍や装飾とか」
 それに一つ一つ頷いて春梅は紙にジルベリアの装飾と天儀の衣装を書いていく。
 高倉はちぃと借るけんと、木版に赤と青の風景を描く。
「巻きスカートやらハーフマントとかは、色合い次第で伝統的な服装にもあうと思うんよ―――面白いじゃろ。赤は戦火の都、青は水の都、人の印象ゆうたらこんなもんじゃけえ」
 成程と各々頷いては、木版に描かれた風景を見る。
「素材は天儀のものをワンピースっぽく詰めて、足を出すような感じの着物なんてどうかな。長めの靴下の合わせても可愛いよね」
「ジルベリア風であれば天儀の装飾品を、天儀風であればジルベリアの装飾品を交換してみては面白いのではないでしょうか」
 続けて告げられた俳沢と巳斗の言葉にも頷いて春梅は筆を走らせる。
 隣から父であろう、秋凛が接客する声が聞こえてくる。
「そう言えば春梅さん、お母さんは?」
 不意にこぼした上杉の言葉が、春梅の手を止めた。
「って御免なさい、判りきった事を聞いてしまいました‥‥」
 慌てて謝る姿に春梅は首を振って筆を硯に置いて立ち上がる。
 箪笥の引き出しの一番下。
 懐紙に包まれた一枚の服を取り出す。
「綺麗な色ね―――」
 その、鮮やかな青に木綿花が微笑んでその服を見つめた。
「アタシの母さんはジルベリア人よ。何も覚えてないのに、この服だけは覚えてるんだよね――ふわって風になびく空色のスカートに繊細な薔薇の刺繍」
「ジルベリア人、ですか」
 呟いた巳斗。
 彼もまた、ジルベリアの親戚をもつ。
「大切にしているんですね―――じゃあ、ベースはお母さんの様な女性に似合う天儀風の着物。でも春梅さんらしいジルベリアらしさも取り入れてみればどうでしょう」

●ワガママ娘の父
 モデルの玖堂、巳斗、上杉の採寸、そして全員のサイズを量った春梅は意気揚々と木綿花と巳斗と共に店を後にした。
 天宮は静かに秋凛の事を考えつつ、春梅の選んだ布を裁ち、書かれたとおりに縫い合わせ始める。
 その姿に玖堂はそっとお茶を差し出した。
「本気で心配してくれるお父様がいて羨ましいです」
 思わず呟いた天宮を高遠が振り返る。
「何か、言いました?」
「いえ、行きましょう」
 静かに首を振ると、高遠と玖堂もうなずいて歩き出す。
 店と酷く近い場所に春梅の部屋があると言う事は、常に心配して、そうしたのではないかとそんな事を思う。
「失礼します」
 一言声を掛けて、高遠が始めに中に入る。
 その後を続いて、天宮も入ると秋凛と思わしき店の主を見かけて静かに腰を折った。
 最後に入った玖堂は頭を下げ、送り出してくれた父を思う。
「ああ、春梅の―――そうか、いらっしゃい」
 柔和な笑みを浮かべた秋凛は少し待つように二人に言うと客の要望に答え、丁寧かつ迅速に服を勧めていく。
 客足が少なくなり、各々で選んでいる客だけになると一言断り秋凛は二人の前に立った。
「ようこそ、春秋へ―――今回は娘がお世話になっています」
 深く頭を下げると三人の前に木の椅子を出しては、向かい合う。
 三人が挨拶すると、また静かに秋凛は頭を下げる。
 目の辺りが似ているかもしれない、そんな事を思いながら、天宮は亡母を思う。
(「反抗期‥あたしも覚えがあるから他人事には思えないのよねぇ」)
 内心、玖堂はため息をついて秋凛を見る。
「単刀直入に言います。春梅の事ですが‥‥何故、店を出す事を反対されているんですか?」
 高遠の言葉に凛は苦笑し、口を開いた。
「そうですね、春梅は腕はもう、十分一人立ちできるでしょう。だが、あの子は過信している。服は、主役ではない。主役はあくまで、着る方全てであり、そこを忘れてしまったら、仕立て屋として失格だと、思うんです」
「そう、ですの‥‥でも、春梅様も一人立ちして、世の中を知っていく年齢になっていると思いますわ」
「私達、開拓者の間では春梅様の年齢で既に一人前として活躍している方もいます」
「あたしも、こうして開拓者になる前、父に猛反対されました。凄く頭にきたし、顔を見るのも嫌だった。でも、今は、送り出してくれた父に感謝しています」
 優しく諌めるような天宮の声音と、凛とした高遠の言葉、率直な玖堂の言葉に小さく苦笑して秋凛は頭をかく。
「反対なさるのは春梅様が失敗し傷つく事を恐れて、ですのよね。ですが人は失敗を通じて成長します。もしも春梅様が傷ついて帰ってきたら、その時は思いっきり抱きしめてあげて下さいませ。帰るべき場所があれば、人は強くなれますもの」
 天宮の言葉に、秋凛は静かに息を吐き、目を閉じた。
「妻の、姿を映し見ていたのかもしれません。春梅も、大きくなったな」

●ワガママ娘と行軍
 一方、買出しに行った木綿花と巳斗、そして春梅。
「この糸なんてどうかしら。ウコンで染めたものよ」
 木綿花の言葉に、華やかな糸と布に目を奪われていた春梅は目を向ける。
「天儀の物も、ジルベリアの物に負けないくらい、素晴らしい物ばかりです」
 巳斗の言葉に少し考えてその糸を生地と合わせて触り心地を確かめる。
「でも、よくウコンで染めたなんてわかったわね」
 木綿花はその言葉に笑みをこぼす。
「家業が機織だもの」
「へぇ、負けてらんないわ。巳斗、起立!」
 いきなりの言葉に反射的にビシッと姿勢を正す巳斗。
 弓道を嗜んでいるせいか、その姿勢に一寸の乱れも無い。
 まさにモデル向きだと春梅は唸りながら、ウコンの糸を合わせる。
「もう少し暗めの糸でもいいかもね―――綺麗な色で羨ましいわぁ」
 手帳に書き込みながら、うんうんと一人で唸る。
「そう言えば、春梅さまはお父さまが嫌い?」
 その言葉にやや下にある木綿花の顔を見て、ふっと空に視線を映す。
「あのオヤジが見てるのはアタシじゃないよ」
「そうでしょうか?少なくとも、本音でぶつかり合える。羨ましいな‥‥」
 不意に零れた巳斗の言葉に春梅は小さく息を吐いて目を閉じる。
 木綿花と巳斗は視線を交わし、どうするべきかを無言で話し合う。
「信じましょ?春梅さまのお父さまは春梅さまに言っているのだもの」

●ワガママ娘を黙らせろ!
 帰ってきた三人を上杉、高倉、俳沢が迎える。
「あ、お疲れ様です‥‥」
「その顔じゃぁいいもん買えたようじゃけん」
「行軍の 帰還と共に 凱旋旗ってね」
 高倉の指示の元、三人は自分の案を書いていたらしい。
 机には数枚の紙が散らばっている。
「当然じゃない!」
 偉そうに言っては、椅子に座り、案に目を通す。
 背後では木綿花と巳斗が苦笑していた。
 ノックの後、扉が開いて、高遠、天宮、玖堂の三人が帰ってくる。
「あら、帰ってきたの。どーせ、オヤジと話してきたんでしょ。わっかんないんだから」
 フンと鼻で笑った春梅の前に玖堂が歩み寄る。
 波乱の予感を感じ取った上杉が何か声を掛けようとするが、やんわりと俳沢がそれを抑えた。
 黒の瞳は確実に面白がっている。
「貴女ね、全然わかってない!」
 ポカンと口を開いていたが、春梅も立ち上がってキッと玖堂の顔を睨みつける。
「わかってない?アンタ、自分が全部知ってるなんて思ってんの?」
「貴女が分かろうとしてないことは十分伝わってくるわよ。報酬ってね、支払われる側が認めて成立すんの。貴女、職人の前に商人としてそこ欠けてる。そんなんでジャンジャン儲ける?はっ、笑わせないでよ?」
 さすがに玖堂は冷静だったが、今にも飛び掛りそうな春梅に、各々位置を変える。
「そんな事知ってるわよ!アタシだって仕立て屋の娘なんだから!良いものには好きなだけ金出すわよ、客はね!」
「ほら、わかってない。作品としてなら極端な物も良いわ。でも商品とするなら客の注文に応える技量と柔軟さが必要ね‥で、貴女にそれはあるの?」
「当たりま‥‥ふぐっ」
 何か言い返そうとした春梅の口に豆大福。
 だんだん喧嘩腰になってきた玖堂の口にも豆大福が放り込まれていた。
「上手ですわ!」
「ボク、人の口に豆大福を放り込んだのなんて初めてですよ」
 天宮の言葉に巳斗が呟く。
 そりゃあ、生きている間に経験する人物は殆どいないだろう。
「まあ、喧嘩はよかぁないね。どれ、春梅なにか思うたかん?」
 高倉の言葉に、春梅は豆大福を飲み込んで言った。
「もう一つ頂戴」
 開拓者全員脱力、若干魂浮遊中。
「色気より 食い気の勝る 春の梅」
「仕方が無いじゃない、美味しかったんだもの!」
 俳沢の言葉に、間髪入れず春梅は食って掛かった。

●ワガママ娘、成長す
「でも、気に入っていただけてよかったですわ」
 ニコニコと重箱を並べた天宮。
 綺麗に作られた豆大福、紅葉の練りきりなどが大量に鎮座している。
「お茶、いれてきました。よければ、秋凛様にも」
 高遠がお茶を入れてくる。
「あ、ありがと」
「やっぱり、食べてくださる方にそう言っていただけると、嬉しいですね」
 天宮の言葉に春梅は頷いて、高遠の方を向く。
「アタシが持っていってもいいかな?」
「ええ、そちらのほうが、秋凛様も喜ばれるかと」
 優しい眼差しで春梅を見た高遠は、頷いてお盆を春梅に差し出す。
 どうやら、玖堂との喧嘩はいい方に転がったらしい。
(「アタシ、ばっかみたい。食べる方が、つまり着る方が喜ぶものを作んなきゃなんないんだわ‥‥」)

●布と戦え!
「そこの糸とって!」
 帰ってきた春梅はすぐに仕立てに取り掛かった。
「刺繍は、こういう風に―――指は指さないでね」
 経験者の木綿花が春梅の監督の行き届かないところをフォローしている。
「お茶、入れてきたわよ」
 玖堂の言葉に春梅は顔を上げる。
「ありがと、仮縫い、終わったからモデル役はこっち来てくれる?」
 言われたとおりに三人が立ち上がると天宮と共に春梅は着付けを始める。
 秋凛の使っている布に、ジルベリアの紋様を縫いつけたものだ。
「えと、くすぐったいです‥」
「動かないで下さいませ」
 巳斗と天宮の丁寧な着付けと
「ぱ、パンツ姿を‥‥」
「パンツでも褌でもいいから早く脱ぎなさーい!玖堂は多分女の子だから別室」
「多分じゃないわよ!」
 上杉、玖堂、そして春梅の荒っぽい着付け。
「大変そうじゃのぉ」
「阿鼻叫喚ってやつかな」
 高倉と俳沢は戦線離脱とばかりにお茶をすすり、和菓子を食べている。
「でも、春梅様、変わったようです」
 うって変わって高遠は細やかな手伝いを忘れない。
「もう、皆、手を動かして!」
 家業のせいか、燃えてしまった木綿花の雷が落ちた。

●ワガママ娘と開拓者
「出来たわ!」
 満足そうに言った春梅の目の下にはシッカリとクマがついている。
 あれから数日、春秋には玖堂の呼んだ近所の人たちが集まっていた。
「緊張、してるんじゃない?」
「してないって言いたいけど、ちょっとね」
 水干の裾を短くしスカート風に仕立てた茜色の衣装に、銀糸で薔薇を施したものと、黒の袴を着た玖堂が問いかける。
「やる事はやったけぇ大丈夫」
 高倉がポンと春梅の肩を叩く。
 春梅はそれに頷いて、一歩前に出た。
「本日は春梅の作品披露にお越しくださってありがとうございます。ジルベリアと、天儀の良さを取り入れるよう心掛けました。心行くまでお楽しみください」
 春梅にならい、開拓者達も一礼する。
 常盤緑に銀糸でトライバルの刺繍。
 襟は茶色の紐の先に雌黄のボタンで留める水干を着た巳斗に、紺色のボタンで襟を留め、薄藍に金糸でアネモネの模様が入った水干を着た上杉。
 それぞれ集まった人数に緊張しながらもポーズをとる。
 町人達は素敵ねぇと声をかけ、笑う。
 全てが終わった後、ぐったりした様子の開拓者達と春梅。
「お疲れ様、開拓者の皆さん、そして春梅」
「うん。父さん、ありがと」
『春梅さんがお母さんの事、そしてお父さんの事を忘れず、大切に考えていると感じ取って頂ければ、お父さんも恐らく認めてくれるのではないかと思うのです』
『他者の意見を受け入れる姿勢は見せても、御自身の信念は簡単に曲げてはいけません』
 上杉と木綿花の言葉を思い出しながら、春梅は立ち上がって秋凛を見た。
「アタシ、わかったわ。服は、着る人の為のもので、服のための人じゃないって」
 秋凛は黙って春梅の言葉を聞く。
「未熟かもしれない、でも、皆が教えてくれた。思いやる事。ちゃんと帰ってくるから、一人立ちを認めてください」
 深々と頭を下げた春梅に、秋凛は頷いて、微笑んだ。
 依頼達成、それは依頼人と開拓者の別れの時。
 春梅はそっと、皆に包みを渡す。
 古代紫をベースに銀で桜の花の刺繍が施されたジルベリア風の衣装は高遠に。
 墨色をベースにした膝丈で、四葉の刺繍の入った、紅の帯で留めるワンピースは俳沢に。
 高倉には銀鼠色に黒で牡丹の刺繍の入ったマント。
 天宮には濃藍に瓶覗色の薄布を重ねたドレス風の衣装。
 木綿花には山吹色に若草色で花柄を刺繍したドレスを。
 去っていく開拓者達に小さく春梅は呟く。
「ありがとう、アタシ、忘れないから」
 衣装の裏地に綴られた『ありがとう』開拓者達は気付くだろうか?