【大祭】善人志願
マスター名:白銀 紅夜
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/11/19 16:23



■オープニング本文

●安須大祭
 ―――安須大祭。
 初代大もふ様が降り立ったその年、豊作となった事を切っ掛けとして開かれる様になった祭。
 しかし長く年を経た今現在、静かに厳かに大もふ様を奉り崇める旧来の方向からはずれた、とても賑やかなものとなっている。
 その経緯については不明で、一説によるとある国王の代で今の方向性になった、と言う話もある。
 尤も石鏡の現上層部は現状の大祭の方向性が旧来のそれと違う事に気付いていて、今年の大祭を転換の機にと検討しており旧来の質素な方向へ戻そうと考えている。
 因みに大祭が開かれてから今までに、幾度か大もふ様が大祭開催中に逃走する事があった。
 ただ、無事に捕まえると例年以上の豊作に見舞われる、とする伝説があり、石鏡に住む人々は毎年大もふ様の動向を密かに気にしているとか。

 尚、大もふ様逃走も捕まらなかった年は‥‥実際、何度かある様だがかなり昔の事で文献等、その仔細は残されていない。
 ともかく、何事が起きるか分からず石鏡に住む人々へも少なからず何らかの影響が生じるのは間違いない。

●目標第一
「石鏡で行われる安須大祭、此れは一大事です」
 カチャリと伊達眼鏡をかけて口にした、北條・李遵は相変わらず青白い顔、珍しく沈痛な面持ちで続ける。
「石鏡周辺の警備も強化されるでしょう。正直、陰殻‥‥特に私達北條は陽天周辺に獲物がいないと退屈―――じゃなく、収入源がありません」
 そんな事を考えられたのか‥‥と呟いたシノビの一人に手加減して投げられた飛苦無が突き刺さる。
『大もふ様』
 朱墨で書かれた硬い文字は紛れも無く、李遵その人のものだ。
「とは言え、石鏡を敵に回すのも愚の骨頂。ただでさえ、諏訪に貸しがある今、面倒ですが穏健を取り繕っておくのが吉でしょう」
 サラリと重大事実を告げた李遵に、彼女の腹心である藍玄が口を挟む。
「貸しの話は、既に纏まった筈ですが」
「纏まったのみですよ。一々隠す必要もありません、人の口に戸は立てられませんから」
 心底、面倒だと言うようにヒラヒラ手を振った李遵は壁の背にもたれかかる。
「第一、あの程度の貸し程度で翻った人間は使い捨て。話を戻します」
 あの程度、とは勿論北條が管理する宝珠爆弾の事を言っているのだろう、仔細を知る藍玄は内心やれやれとため息を吐いた。
 その上に積み重なるため息は、他のシノビのもの、勿論李遵の取りだした物体に対してである。
『謹製 まるごと大もふ様』
 そう書かれたもふらの、所謂着ぐるみだ‥‥流石に此処まで来ると展開は手に取るように分かった。
「ああ、別に貴方達に着せる気はありません。開拓者ギルドに同じ物を持って行ったのですが、快く承諾して頂きました」
 何をだ―――と呟くシノビを放置し、目に毒ですからねと何時もの主犯は涼しい顔でのたまう。
「石鏡ノて、貼り紙が貼られているようです。盛り上げ役として、大もふらの着ぐるみを着つつ内部警備の依頼です」
 後は言わずとも分かりますね、とわざわざ口にした李遵は伊達眼鏡を外すと伸びをする。
「嬉しい事に、石鏡と陰殻は隣同士。お祭りなら財布も緩いでしょう、血生臭い事実も伏せたい筈。排除された小悪党を引っ張ってきて下さい」
 何故こんなに面倒な事を、と口にしたシノビの額に伊達眼鏡が突き刺さった。
 高かったのに、と嘆く藍玄を放置し李遵は平然と口にする。
「祭り事は華やかにするべきです、ささやかな北條からの贈り物ですよ」
「ただ単に、行きたいだけですね‥‥李遵様」
「ええ、普通に祭りを楽しみたいので」
 後の裏工作は任せましたよ、と無駄に爽やかな笑顔で李遵が言いきった。
「‥‥幼少時に味わえなかった大もふ様への憧れを、今」
「溜めはいいので、キッチリ細工して行って下さいよ」
「わかってますって」
 ため息は幸せが逃げますよ、とため息を吐かせている張本人は言い切り身を翻す。
「名前、李遵で出してきたので」
 思いだした、とばかりに告げられた言葉に『謹製 大もふ様』の着ぐるみが吹っ飛んだ。
 怒りと呆れで本日753回目のため息を吐いた藍玄、回避された着ぐるみをキチンと位置に戻す。
「流石に、祭りの最中は大人しくしているとは思いますが‥‥恐らく開拓者にくっ付いて行ったのでしょう。その間、警備を怠らないように」


■参加者一覧
土橋 ゆあ(ia0108
16歳・女・陰
九法 慧介(ia2194
20歳・男・シ
リエット・ネーヴ(ia8814
14歳・女・シ
ユリア・ソル(ia9996
21歳・女・泰
エルディン・バウアー(ib0066
28歳・男・魔
長谷部 円秀 (ib4529
24歳・男・泰
姫梨架(ib5351
15歳・女・陰
王子真央(ib5354
18歳・女・吟


■リプレイ本文

●もふ戦隊、推参
 早朝、依頼開始時間の数刻前。
「‥‥大丈夫、着ぐるみだから私の顔は見られない、だから大丈夫」
 緑色の『謹製 大もふ様』着ぐるみの頭部を手にしてブツブツ呟いているのは、土橋 ゆあ(ia0108)だ。
 机に転がっているのは、手製の判子と緑の朱肉。
 判子は額に葉っぱを乗せた、ともすると何かに化けそうなもふら様が描かれてある。
 いつもはシュールなご尊顔も、土橋の手で作られ丸っこくて可愛い‥‥筈。
「これが『謹製 大もふ様』装備ですか‥‥感動です!」
 長谷部 円秀 (ib4529)が依頼の為、届いた『謹製 大もふ様』着ぐるみを前に拳を握りしめ萌‥‥燃えていた。
 本番前に、と着ぐるみ着て見ると、中はふんわりと起毛になっており温かく、汗を掻くと不快指数100%突破は間違いなしだろう。
「やっぱり、恋愛成就のもふピンクよね。‥‥面白そうな依頼だわ」
 ユリア・ヴァル(ia9996)はピンク色の『謹製 大もふ様』着ぐるみを見て満足そうに頷いた。
 似合わない?いえいえ、彼女は愛をもたらす使者ですから―――当人曰く、面白そうじゃない、と言う内情は置いておいて。
 もふピンクらしく、ハートマークが書かれてある着ぐるみ、実に芸が細かい。
「妙齢のご婦人の作った、着ぐるみ‥‥私はこの着ぐるみで神の愛、隣人愛、もふら愛、甘味愛、自らの愛を説きます」
 聖職者的、ストイック・ブラックなエルディン・バウアー(ib0066)は十字架を身に付けており後光が差しちゃったりしていた。
「お願いしちゃってみました」
「‥‥いや、お願いされたんで黒子として」
 何時の間に来たんだか、サッパリ分からない依頼人が屋根裏を突き破って上から登場。
 九法 慧介(ia2194)がランタンでバウアーの後光を作っている。
「役者だね、僕も一役やらせてもらってるけど」
「同じく、準備させていただきました」
 姫梨架(ib5351)と王子真央(ib5354)が、ランタンで光源確保。
「正に神が私にチャンスを与えてくれたのでしょう‥‥こうして愛を―――」
 説く事を、と紡ごうとしたバウアーが弾き飛ばされた、無邪気な金髪の少女リエット・ネーヴ(ia8814)は抱きとめ体勢の李遵の腕に収まる。
「北條ねー♪お久しぶりぃー!」
「お久しぶりです、今の私の事は長官とお呼び下さい。もふ戦隊を預かる司令官」
「お守して下さい、と依頼に‥‥」
 腹をくくったらしい土橋の言葉に、李遵は振りかえり無表情のまま深く頷いた。
「え、だって一人では暇ですから」
「本音出てるわよ、本音」
 ヴァルの言葉にワザとです、と返してくる依頼人『謹製 大もふ様』を身に付けた九法が内部の紙をペリッと剥がす。
「頭領をお願いしま―――あ、何か言伝‥‥」
「お願いって、あ、李遵さん忘れて‥‥」
 若干、依頼人を忘れかけていたらしい、もふブルー長谷部。
「え、ちょ、依頼人忘れるとか北條的に問題です、胡散臭さ―――」
「言葉に被せないで下さいよ!大丈夫です、ちゃんと案内しますし、楽しんでもらいますよ?幼少時の憧れを今叶えて差し上げます!」
 李遵の意味不明な言動も、長谷部のアウト・オブ・眼中にもツッコミを行う相手がいない。
「うーん、見ている分には面白‥‥仕事仕事」
 九法が大もふ様着ぐるみ、白を着用する―――仕事忘れてたのか、と雑草が生えている気がするが気にしない。
「そうです、もふ戦隊、出動!」
「イェーッス、長官!」
 ビシッとあらぬ方向を指さした李遵に、しっかり敬礼するネーヴ。
「もふ転身っ!」
 スチャッ、と黄色い大もふ様着ぐるみを装着、走り回って確かめる彼女。
 とてつもなく、自身の身体のフィットしている不思議―――きっと、北條の皆さん頑張った。
「(長官‥‥良い響きです)」
 悦に入っている李遵は放っておいて、開拓者達は早朝、依頼開始時刻に見回りを開始したのだった。

●もふグリーン&もふブルー
 まず、人の多い表通りを回る事にした土橋。
「(大丈夫、私の顔は見えてない、見えてない‥‥)」
 式神人形ももふらっぽく、装飾してあり緑のもふらは否応なしに人を呼び集める。
「八頭身‥‥あ、あなたは伝説のモフラテス様では?」
 一人、納得したご老人が深く深く頭を下げる‥‥分からない開拓者はモフテラスのお守りを石鏡の神社で貰って来よう!
「いえ、私は‥‥そ、そうもふ、悪人がいれば退治しま‥‥もふ!」
 人の多い場所、それも屋台通りとなれば酔っ払いの深酒が問題になってくる。
「で、では―――是非、私の店を」
「(‥‥もしかして、酔っ払いの騒ぎでしょうか?無銭飲酒?)」
 着ぐるみの奥で瞳を鋭くさせ、深く頷いたもふ戦隊グリーン‥‥次にはビラを配っていた。
「安くて美味しいもふら食堂もふ、朝食にどうぞもふ‥‥」
 帰っていいですか?と聞きそうになりつつ、それを堪えて周囲を注意深く観察する。
 耳を研ぎ澄ませば、絡んでいると思われる酔っ払いの声‥‥労いの為に茶を入れて来た、そう言って戻って来た店主は遠くへと向かうもふグリーンの姿を見た。
「だぁかぁらぁ、金払う気なんて無くても、問題ねぇよなぁ?」
「やめるもふ!」
「ああ?誰に向かって言ってん‥‥ゴファッ!」
 傀儡操術、森の精霊設定のもふらグリーンの容赦ない攻撃が炸裂する。
「自然を愛する心が悪を倒す、グリーンもふら様アタック!」
 見た目は可愛らしいもふらの式神人形であるが、勿論その威力は侮れない‥‥アッパーを喰らって地面に倒れ伏す、名も無き飲んだくれ。
 もふら式神人形に、殴られ地面に伏す姿は滑稽でチョッピリ可哀相である。
「この方々は、李遵さんに‥‥」
 お任せする手筈ですね、と紡がれる筈だった言葉は抱きつきによって妨害された。
「捕まえました、もふグリーン!」
 スタンプを、と差し出してきたのは当然依頼人である李遵である。
 集まってくる子供達へも、スタンプを押してやりながら土橋は罪状、無銭飲食の酔っ払い達が背負われて行くのを苦笑気味に見送ったのだった。

 一方、人だかりの中央にいるのは長谷部。
 祭りの準備で忙しい傍らで、手伝える程成長していない子供達が8等身もふらへ果敢に挑んでくる。
「も、もふーっ!」
 石投げといった技を受けながら、もふもふ言いつつ寝転がる長谷部。
 子供の世話は慣れているのか、容赦の無い石投げにも果敢に挑んでいく。
「待てコラーっ!」
 能あるもふらは中身の人を隠す、と言う言葉なんて無いが作ってしまいたい位にもふらに擬態している。
 そんな、中身の人が行動しなければいけない事態に陥ったらしい―――顔を動かせば前から走ってくる顔の青い青年。
 待てコラ、と追いかけているのはかなり厳ついオジサマ達、止まるのも怖そうだ。
 いざ行かん、悪党討伐‥‥もふブルー、重力を感じさせない動きで空を飛んだ。
 一瞬、太陽が翳る、そして丸ごともふらの上に彼はいた―――相手の頭上に飛びあがり、重力で押しつぶす。
「見るもふ!このもふブルーの勇姿!まるで、波のようだもふ!」
 グシャリと潰れた丸ごともふらの手から、巾着を奪還し、成敗!
「連れていくにはお任せを、そして捕まえました」
 ご苦労様です、とおざなりに口にし判子を欲求する李遵の持った紙にペタリと判子を押してやる。
「では、後は任せたもふ!」
 ありがとうございます、と何故か犯人に頭を下げられつつもふブルーは意気揚々と去っていった。

●3名の戦隊と、その裏
 繁華街、少しばかり表よりも治安の悪い場所へ向かうのはイエロー、ピンク、そしてブラックの大もふ様。
『窃盗や強盗に注意!』
『狙われてるあなたの持ち物!』
 掲げられたイエローのネーヴが持つ白旗は眩しく、ビラを配るのはピンクのヴァルの可愛らしい仕草。
「お祭りでは恋に特別効くお守りもあるもふよ、片思いにも恋人にもおすすめもふ」
「くっ‥‥もふら頭で、私の輝く聖職者スマイルが振りまけないのが残念です!」
 ブラックなバウアーが、もふら頭の奥で歯を噛みしめた‥‥大丈夫だ、分かる人にゃわかる。
「でなければ、半径10m以内の女性を虜にしてみせるのに!」
 ギュッと女性と握手しながら、ボソリと呟くバウアーにネーヴとヴァルの視線が突き刺さる、極寒だ。
「ユリア殿、リエット殿、冗談ですってば」
「ブラックはスルーもふ。酔っ払いは騒動を起すもふ、すりの標的にもなるもふ、注意もふー」
「ブラックはスルーっ!」
「恋のもつれはしつこいもふ、お祭りは洒脱に楽しむもふ(※粋が分からない無粋な男は絞めるわ)」
「はばねろ、目から入れれば!」
 女性陣、容赦ない‥‥よよよ、と手を付いたバウアーの上で『はばねろ』という何かを持っていたネーヴが耳を澄ました。
「ん、東に何か騒ぎが―――」
 ‥‥五月蠅い、それ以上何か言ったら刺すぞ!
 どうやら、少々大きな揉め事のようだ‥‥ネーヴが三角跳で屋根を蹴り、現場へと急ぐ。
 人の波に乗じて、バウアーとヴァルも騒ぎの中心へと向かった。
「お前等なぁ、世が世なら、ヒィック‥‥俺ァ」
 白刃が昼夜に煌く、警備隊も人質を取られ迂闊に近寄れない。
「この世を乱す不埒者、そこまでです」
 誰だ、と声を上げた犯人―――白刃を煌かせるが。
「必殺!ねんねんころりよ、おころりよぉぉー!」
 バウアーのアムルリープ‥‥その場で崩れ落ちる犯人、外がやられたとあたふたする内部へ潜入したネーヴが強烈な辛いらしい『黄色い何か』を顔面に投げつけた。
「味わえ♪ は ば ね ろ だ ッ !」
「ウギャっ!」
「世は世じゃないもふっ、ハートブレイクもふ!」
 ヴァルの天使の矢がのれんを突き破り、犯人のみぞおちに刺さる‥‥痛さと辛さに犯人、本気で涙目。
「峰打ちだから、安心だね♪」
 後に、犯人は語る‥‥仁王立ちの黄色いもふら、怖かった、と。
「怪我は無いようで何よりです」
 人質を助け起こしバウアーは、内部を確認した―――散乱した酒瓶。
「すみません、あの人たち酒癖が悪くて‥‥」
 粋じゃないわね、とため息を付いたヴァルの肩を叩く人間‥‥続いてバウアー、ネーヴの肩を叩く。
「捕まえました、ピンクにブラックにイエロー」
「長官、犯人捕まえたじぇー!」
 見てましたから、と平然と言ってのける李遵の額に、ヴァルがペタリとピンクのもふらスタンプを押しつけた。
 愛と書かれたハートを持った、もふらのスタンプである。
「オマケよ」
 止めないのか、と言うツッコミは行わないようにした。
「もふら様の肉球だよ」
「黒のもふら手形です‥‥ついでにもふもふ、いかがですか?」
 キラーンと見えないけど、もふら顔の奥でバウアーの笑顔が光る、見えないけど。
 だが、既に李遵はネーヴをもふっていた。
「長官、はばねろ食べますか!」
「部下にあげたいと思います、優しいので」
「自分で言うと、全く説得力無いわよ」
 ヴァルも加わり、キャッキャとはしゃぐ女性陣‥‥笑顔でバウアーもその中へダイブ。
 後はご想像にお任せ致します。

 ブブゼラを吹き、世間を忍ぶもふらとして行動していたのは九法だ。
「あれ、九法さんはもふ戦隊、やらないんですか?」
「いやぁ。戦隊感覚ならあのくらいの人数が丁度良いと思うよ」
 ゴパァッと謎の効果音と共にいきなり地面から現れた李遵に、見物していた方が面白いし‥‥と内心で返す。
「そう言えば、集まったのか?判子」
「この通り―――そう言えば向こうで騒ぎが、もふら様お願いします」
 自分では止めないんだなぁ、とまた何処かに遊びに行こうとした李遵の首根っこを掴む。
 篭手払で斬りあいに発展し始めた、石鏡の国王、どちらが好きかと言う論争に彼は終止符を打つのだった。

●もふ戦隊よ、永遠に
 昼食の時間を挟めば、直ぐに休憩は終わりを告げる。
「もふ戦隊、出動です!」
「はい、長官!」
 もふら煎餅を食べていたネーヴが、ピョコンと立ちあがって敬礼。
「相手は3名、場所は―――」
 妙に細かい場所と人数、そして。
「いや、もう得物まで割れてんのか?」
 九法の言葉に、長官は重々しく頷き平然と口にする‥‥。
「北條なんで、あの下忍」
「え‥‥え、あ、あの、北條さん?」
 此れは間違い、間違いと呟き続ける土橋に本物の一言―――成程、とヴァルは頷いた。
「指示したの、貴女でしょう」
「そうです、そして相手はふらもです。もふらっぽいアヤカシのアレをイメージしました」
 ‥‥‥‥それでいいのか、それでいいのか?!
「戦隊モノの見せ場、つまり、此処で大もふ様の素晴らしさを伝えよと!」
「つまり、もふら好きの為の、もふらによるもふらの為の正義の戦いですね!」
 九法とバウアーが盛り上がる、もふ戦隊ショーだ。

「不埒者は、粛清します‥‥(見えて無い見えて無い、私は見えて無い)」
 グリーンの土橋、式神もふら人形を手に声を上げた。
「悪いもふらにはお仕置きだじぇー!」
 イエローのネーヴも声を上げ、どんどん曲が大きくなっていく。
 バックミュージックは、王子さんと姫梨架さんがお送りしております。
「蔓延る悪は、もふ戦隊が許さないもふ!」
「相手が悪かったわね、諦めなさい‥‥」
 長谷部、そしてヴァル―――煙幕と共に現れたブラック、バウアー。
 ‥‥ちなみに、演出は九法さんが頑張ってます。
「喰らいなさい、大もふ様の怒り。ウルトラスーパースペシャルローリン(グキャ)ライトニングも‥‥ふもふアタック!」
 途中で舌を噛んだようですが、バウアーが揃って泣く子は更に泣くぜ、もふ戦隊。
 金色のもふら様の顔が書かれた、ボールを回し、アタック。

 ※昼食中は此れを作ってました。

「ま、参りました‥‥」
 深く平伏するふらも達、息も絶え絶えだ。
「安須大祭の平和は、もふ戦隊が守るもふ!」
 グッ、とポーズを決めるとパチパチと上がる拍手、子供達が無邪気に喜んでいる。
 彼らによって、大祭は守られた。
「さて、随分騒ぎましたが‥‥楽しめましたか、李遵さん?」
 長谷部の言葉に、深く頷く李遵―――全員の顔を見ながら彼女は言った。
「皆さん‥‥私、大もふ様って見た事が無いんですが大もふ様、あれで合ってますか?」

「北條ねーも大祭来るといいんだじぇー」
「あ、良いですね、それ。大もふ様に慣れた幸せを分けて差し上げます!」
「いえ、あの‥‥依頼書の裏に書いてあったんですが」
「どうしたんですか、ゆあ殿」
「そう言えば俺も見た気がするな、着ぐるみの中で」
「あ、『大祭に行きたがった場合は殴っても止めて下さい』あら、先手打たれてるじゃない」

 一日が終わり『謹製 大もふ様』を眺めていた李遵は筆を滑らせる。
「‥‥出来ました、もふ戦隊」
 半紙を首に括りつけ、彼女は刺すような視線を向けている部下へと振りかえった。
「もふ戦隊、紫なんてどうでしょう」
「仕事して下さい。‥‥楽しかったですか?」
 苦虫100匹噛んだような部下へ、彼女は口にする。
「ええ、とても」
 更に苦虫が増えた部下へ、機嫌よさそうに笑うのだった。