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■オープニング本文 ●捨て子 ジトジトと降り止まない雨。 そのぬかるみを裸足で歩く女性。 粗末な着物には継ぎ接ぎ。 時折手の中で赤子を揺らしては、しきりに謝罪の言葉を紡ぐ。 その包まれた赤子は澄んだ目をして、女性を見ていた。 「ごめんね、ごめんね‥‥不甲斐ない母ちゃんを許してね」 理不尽とも、哀れとも呼べる言葉を告げながら、端切れを組み合わせて作ったお守りを赤子の手に握らせる女性。 そのまま、廃墟となった家の前に赤子を置く。 それが、母としてできる最大の事だと、信じて。 いつか、殺されても‥‥生きて、生きてくれることを、信じて。 振り返り、振り返り、女性は来た道を戻っていく。 雨は降り続ける。 女性が、見えなくなった頃。 暗い空―――やがて、ギィ‥と言う立て付けの悪い扉を開く音が、響いた。 ●母と慕って 「母さん、今日は狩りの日だよ」 あれから十数年、あの時の赤子はしっかりとした体躯を持つ少年となっていた。 長きに渡り、連れ添ったのはアヤカシ、母と慕うアヤカシ。 「(やはり、まだ利用価値はある‥‥)」 獣の体躯をしながら、そのアヤカシは酷く賢かった―――とは言え、アヤカシ以外の何物でもなく。 人間が肉や魚、野菜を食べるように彼らもまた、食事をする。 弱肉強食、食い、食われるだけの存在。 ‥‥無垢な瞳をする少年は、利用できる手駒。 「(同族なら油断する、愚かなものだ)」 大きく欠伸をした後、金色の毛並みを持つ大柄の狼は立ちあがる。 狩りの時間だ、此処で少年を食ってもいいが恐怖の欠片も無い相手よりも、恐怖の感情を抱く人間が、どれ程美味しいか。 「そうだね、狩りに行こうか」 その夜、村が襲われた‥‥金色に三つの目の狼と、そしてお守りを首から下げた少年。 女性は知ってしまう―――ああ、我が子だと。 腹を痛めて産み、幸せであれと願った我が子だと。 「生きてくれるなら、そう、生き延びてくれるなら‥‥我が子が生き延びてくれるなら」 不甲斐ない母を、許し賜うな。 「私も、手引きしましょう‥‥息子を食べないと、約束して頂けるなら」 アヤカシは考える、無闇に襲うのも楽しいだろう、だが連れて来た後いたぶるのも楽しいかもしれない。 そちらの方が美味に決まっている。 「なら、少年位の子供を連れておいで」 ―――その日、女性は禁忌を犯した、逃げる為と甘言を吐きアヤカシへと捧げる。 恐怖に歪んだ表情、痺れるような憎しみの瞳。 だがそれも、我が子の為ならば。 ‥‥だが、アヤカシ、そして母子も甘かった。 翌日、命からがら生き延びた一人の男が開拓者ギルドに持ちこんだ依頼。 『アヤカシと、人間の母子を殺して欲しい』 |
■参加者一覧
篠田 紅雪(ia0704)
21歳・女・サ
霧崎 灯華(ia1054)
18歳・女・陰
只木 岑(ia6834)
19歳・男・弓
神呪 舞(ia8982)
14歳・女・陰
霧咲 水奏(ia9145)
28歳・女・弓
日和(ib0532)
23歳・女・シ
成田 光紀(ib1846)
19歳・男・陰
久悠(ib2432)
28歳・女・弓 |
■リプレイ本文 ●序曲 灰色の雨雲が視界を曇らせる、ポツリと落ちた雨粒に顔を上げ只木 岑(ia6834)は、手にした華妖弓を撫でた。 「足元は悪いし、見通しも良くないし、音も聞こえにくい」 やりにくいな‥‥と呟いた只木に、成田 光紀(ib1846)も煙管を咥え空を見上げる。 「面倒な天気だ、煙草も湿気る」 友人達は気負っているのか、と目を移すと赤い瞳を遠くへ向ける日和(ib0532)と目があった。 「(それで、あの子が守れるのなら‥‥)」 降り積もる雨は止まず、人の業は巡り我が身に還る―――そんな物は都合のいい言葉でしかない。 皮肉気味に嗤った霧崎 灯華(ia1054)はその艶やかな相貌で、因果応報よね、と呟いた。 「さて、今日も狩りに行こうかしらね?」 鎌を通し、その身に浴びるであろう鮮血を思い得物を撫でる。 隣では無表情の神呪 舞(ia8982)は凍りついた瞳を温度差の激しい別の開拓者へと向けた。 「所詮アヤカシの戯れと母の自己満足、周りからすれば等しく悪‥‥どれも私には関係ない事です」 汲み取り目を向ければ人間の醜悪さ、疲れ朽ちるのなら―――奥底で願う希望や清らかさを、神呪自身は知らない。 弓に薬を塗り、雨で滑らぬように装備を整えた霧咲 水奏(ia9145)は緩やかに言葉を紡ぐ。 「悪を滅し、我が身の罪業と為す。其れが、霧咲が弓術に御座いまする」 生きる為に殺し、或いは殺され、流れて行く人の世‥‥其れを否定する事は出来ず。 「どちらを選ぶが修羅の道。選ばずとも良い者は、誠、僥倖よ」 自らの手を汚さない者は大勢いるだろう、久悠(ib2432)の言葉尻はため息の様にも聞こえた。 最後に、と問いかけるのは今まで口を閉ざしていた篠田 紅雪(ia0704)だ。 「報いは受けねばならぬ、何者であれ‥‥」 雨が強くなる、彼女は問いかけた、まだ、遠くを見たままの友人である日和へと。 「本当に、良いのか?」 一瞬の間、先に行くわよ、とギルドを後にした灯華の開けた扉が閉まる音。 「これが私の役目だから。篠田こそ‥‥」 続ける筈の言葉は強い雨に、かき消され、泡となる。 ●戯曲 先に伏兵として、山内に潜伏した只木と久悠。 「これ位でいいかな‥‥機能せずに、上手くいけばいいんだけどね」 山に続く道へ、仕掛けられた網と前後に配置された撒菱‥‥簡素だが、足止めには丁度いい罠である。 一方、久悠の仕掛ける罠は二つ、旧式弩を使い長く取った弓の弦を引けば矢が発射される、命中率は低いが当たれば大きい。 もう一つ、大きめの網を地面スレスレに張り杭で固定する‥‥一連の作業を終え、雨の水分を含んだ髪を彼女は掻きあげた。 「何故、母は子を捨てた‥‥」 ギルドでの会話、問いかければ忌々しいとばかりに吐き捨てる依頼人―――ただの口減らし、止めを刺さない愚か者。 「等しく愚かなものだ」 「物思う身、仕方が無いのだろう」 同じく伏せる成田、不遜な態度で大して興味もなさそうだ‥‥そう、悲劇と名を付けるのも下らぬ程有り触れた戯曲。 「終わりましたか、久悠さん?」 助っ人に来たのですが、と顔を上げた只木は久悠の首肯に同じく頷き、機を待つ。 「では、俺は本隊に戻ろう」 成田が腰を上げ、素早く本隊へと向かう‥‥罠の場所を告げねばならない。 味方が絡め取られては、意味を為さないのだ。 同刻―――本隊、そして別動。 別動として活動する日和は、その卓越した聴覚で音を捉えていた。 雨音が妙に耳に付く、アヤカシにいたぶられて苦悶の声を上げる一般人の声、そして美味しいと良いね、と無邪気に笑う子供。 「(私は、あの子を殺す‥‥)」 潜めた音、それは伏兵班から、罠の場所を聞いた成田の声。 本隊に合流したらしい、全て配役は揃った。 「参る‥‥」 刀を閃かせ、本隊の篠田が斬りかかる―――その殺気を感じたのか、怯えを顔に浮かべる女性、母親だろう。 堂々としたアヤカシと子供、篠田の刀はヒラリと避けたアヤカシの毛を、四散させたのみで避けられた。 同時に民間人救出へと駆けだした日和、咄嗟にアヤカシが避ける、いたぶり、足も食いちぎられた一般人の頭部を齧ったまま。 水奏の弓が飛来するも、アヤカシの方が速かった。 「母さんは、凄く耳がいいんだ‥‥知ってる?全部聞こえてたんだって」 殺される気分はどう、と子供が息絶え絶えの一般人へと話しかける。 狂気を孕んだその瞳は光など無く、我が子を抱きしめようとした母親は腕を弾かれ慟哭した。 「聞こえていたとて、何も違いは御座いませぬ」 即射で矢を放つ水奏、その瞳がアヤカシの瞳と重なりまるで貴い相手のような、そのような感情が湧きあがる。 ―――魅了の術、逃げると思われる方向へと放つ筈だったその矢は、止まった。 「流石に、すばしっこいみたいね」 灯華が呪縛符を放ち、その足を止める‥‥絡みつく符に鬱陶しげに唸り声を上げたアヤカシは灯華へと疾走、肩を鋭い牙で抉った。 血が吹きだすのを恍惚とした表情で見つつ、彼女は死神の鎌を振るう。 「前衛を補佐するのが、役目‥‥回復は致します」 神呪が神風恩寵で、その傷を癒す―――アヤカシの瞳と視線が合うがその術は彼女の抵抗力の前に破れた。 神楽舞・攻が開拓者達を鼓舞する、一瞬、開拓者の視線が合う‥‥伏兵をどうするか。 堂々としたアヤカシと子供、そして不安げな母親。 放たれた矢はヒラリとかわされ、腕を、顔を、喉笛を狙いに来る。 ‥‥子供も、母親も、アヤカシにとっては力を増幅させる保存食。 地の利、アヤカシに有り。 伏兵中止の笛が、成田の手で吹かれる。 鏡弦を併用し、高所から様子を見ていた只木の方が速く駆けつけそのまま、アヤカシへと会を放つ。 狙いは足‥‥気を込められた矢は、成田を狙い鋭い爪を振るったアヤカシの足を狂いなく撃ち抜いた。 「母さん!」 叫んで駆け寄ろうとした子供を、母親が抱きしめ止める。 「邪魔を‥‥するな!」 発気、触れれば焼け爛れるような篠田の激しい気迫に、子供や母親はしり込みし恐怖を浮かべた。 子供が手を伸ばす先、一匹のアヤカシだけが平然と弓を構えた久悠へと駆け、その腕を喰らおうとして瞬速の矢を足に受ける。 咄嗟に庇った久遠の腕から、血が噴いた‥‥その血も気にせず彼女の口から紡がれる問い。 「何故、そのお守りを持つ」 子供へ、問いたいと‥‥直ぐに察した子供は朗らかに笑い言いきった。 「自分の子供だって思ってくれたら、協力してくれるかなって‥‥母さんは、人間を食べるから」 「自分が人を狩ることに疑問を持たないなら、人ではないよね」 只木の言葉に、やはり子供は楽しそうに笑う。 「お前達だって人を殺すじゃないか。僕達も、殺すんだろ?」 「その通りですな‥‥殺生にて必殺、その為の弓で御座いまする」 水奏が山猟撃を使い、直ぐに近づいたアヤカシの喉を忍刀で掻き切る。 「じゃあ、お前達だって同じだ。母さんは殺さなきゃ生きていけない、お前達は好きで殺すんだ」 「解せないね‥‥どうしてきみの母さん、アヤカシは人の子を育てる手間をかけたんだ?」 人語を理解するのか―――返答は期待していないながらも更に問いかけた只木へ、返事が返される。 まるで、それこそ解せないと言いたげな笑いだった。 「たまには違った趣向を凝らしたいと、思わないかね?お前達だって、様々な楽しみがあるだろう」 ただの、戯曲と言いたげな様子で、その言葉に神呪の言葉が落ちる。 「‥‥本当、下らない」 アヤカシも、人間も下らないと―――諦めを含んだ言葉、そうね、と答えたのは灯華だ。 「どちらにせよ、殺されるんだもの」 風は鋭い刃となりアヤカシへと襲いかかる、襲いかかる刃を受けたアヤカシの腹部から赤く鮮血が落ちた。 それも気にせず、アヤカシはそのまま疾走し灯華へとその牙を立てる。 アヤカシと子供の差が開いた、アヤカシはまだ子供を殺す気はない―――子供は無力を嘆くように声を上げて泣きながら空を仰ぐ。 日和が早駆で近づき手刀を叩きこむ、崩れ落ちる子供、抱いては遠くへ寝かせる。 「(大切な存在と生きていた、子供にとってはただそれだけで‥‥)」 謝罪を、告げたような気がした。 水奏の矢が立て続けに放たれる、即射を使った素早い動き。 「その瞳、潰して御覧にいれまする」 鷲の目に気力を込めた矢が、正確無比な命中力を以って突き刺さった。 深々と貫通する矢に、苦悶の悲鳴を上げるアヤカシは怒り狂ったまま咆哮を上げる。 そのまま水奏へと疾走すると、その腕の肉を齧り取った。 「そのまま続けて下さい、戦線維持に専念します」 神呪の神風恩寵が血と雨でむせかえるような戦地に、爽やかな風を送る。 齧り取って着地をした瞬間に、灯華の斬撃符、そして篠田の焔陰を纏わせた刀が閃き回避に失敗したアヤカシの尾を切り離した。 そのまま、畳みかけるように只木の会が深々と2つ目の瞳を射ぬいた。 久悠の瞬速の矢は、やや、動きを鈍らせながらもアヤカシは回避する。 「ふむ、動きが鈍くなってきているな」 雨の中、成田の眼突鴉がその手より出でる‥‥二度、符を放てば最後の眼が潰れ、血が滴った。 ●終曲 アヤカシは母親の腕を齧り、襟足を掴み開拓者の方へとぶん投げる。 ‥‥囮にでもしようと言うのか、母親は子供を抱え逃げようとするが成田の大龍符の前にその身を竦めた。 聞こえていたとの事は本当のようで、アヤカシは細い獣道をジグザグに走る。 逃走、を図ろうとしたアヤカシを開拓者が許す訳も無く即射を使った水奏の矢が飛来した。 早駆で回り込んだ日和が火遁を放つ、降りしきる雨はその威力を消そうとするが手負いのアヤカシは少し後退り。 庇いきった足は、火遁の炎で焼け今や、片足を引き摺っていた。 「(そう言えば‥‥足から齧っていたような)」 奇しくも同じことを考えていたのか、と思えば力押しでも勝てる、印を紡ぐ手と燃え広がる火遁。 「よく育てられたね、あの子‥‥獣の姿で」 矢を放つと共に告げられた只木の言葉に、唸ったアヤカシは笑いを浮かべる。 「裕福な家に、おいておけばよく育ててくれたよ‥‥そしてそれを失った家族のなんたる美味な事か!」 恍惚とばかりに叫ぶアヤカシは、矢を受けながらも逃走を図ろうと跳躍。 「伏せよ、駄犬!」 成田の呪縛符が飛来する、不敵に笑った灯華が死神の鎌を振り回した。 「そう簡単に逃げられると思って?」 飛びずさったアヤカシを、地縛霊が現れ傷を付ける。 灯華の言葉に、久悠が続けた。 「其が修羅の道‥‥選び、生きる」 猟兵射が、アヤカシに撃ち込まれる‥‥奇襲に近い攻撃にアヤカシはたたらを踏み、無様に雨に足を取られ地を滑る。 陰陽師達の、呪縛符も功を奏しているのだろう―――続けざまに放たれた猟兵射はアヤカシの動きを止め、そして、二度と動く事無く。 ‥‥一つは、終わった。 そして、もう一つ‥‥気絶したままの子供、そして襟首に噛み傷を負った母親。 縋りつき泣く姿は、あまりに滑稽だ。 子供に手をかける‥‥そう言った日和を母親が止める。 「許されないでしょう、私達も我が子も」 「命乞い?止めてよね、興ざめだわ」 灯華の言葉に母親は静かに首を振り我が子を抱きしめ、そして目を閉じた。 「せめて最期は自然の摂理のままに、私からお願いします―――」 意図を汲む事位構わないでしょうと、神呪が口にする。 ‥‥所詮、やるべき事は同じ、結末も、同じ。 相変わらず凍りついた瞳は、雨に濡れてさえ揺れているようには見えない。 「ならば‥‥」 刀を携え、口を開いたのは篠田―――降りしきる雨に、鈍く輝く刀。 「怨みの言は‥‥いずれ、彼岸で聞こう。故に―――」 生を断ち切る一太刀、ありがとう、と母親は紡いだ気がした。 「(彼岸で待っておれ)」 生ぬるい紅が噴き、ゆっくりと倒れて逝く。 次は、まだ眠ったままの子供。 「(守れなくてごめん。‥‥生きてて、ごめん)」 子供を通し、遠くを見た日和が、手にした業物。 痛みも怒りも悲しみも、何も感じないまま最期まで。 一つ、息を吐いた‥‥振り下ろした、白刃。 断ちきる肉と骨、子供は何も知らぬまま、その命を終えた。 ●そして――― 「一生苦しむのが嫌なら、安らかに眠らせてあげるけど?」 生きてる?と笑いながら話しかけた灯華の言葉は最早、届いてはいないのだろう。 直ぐに手当てをすれば生きながらえたかもしれないが‥‥此れは仕事では無い。 どちらにせよアヤカシは食いつぶすつもりだった、ならば不運で片付けられる程度。 緩慢な死を迎える姿に興味も失せ、灯華はお風呂に入りたい、と伸びをし呟いた。 「埋葬程度でいいんじゃないかな?」 罪を重ねる哀れ、そして身勝手さ―――開拓者すら異質、精々アヤカシに荒らされない程度に、と只木は口を開く。 「依頼人も、殺してくれと言っておったしな‥‥」 小さな村では、意見の違いは生死に関わる事もある―――久悠が小さな塚を作る。 お守りと、そしてアヤカシの一部‥‥此方は瘴気が四散し無くなるであろうが弔いは遺された者の為。 「子供はどんな親とて慕うものだろう」 例え、それが飯の調達の為であっても、そこに愛情は無くとも。 「アヤカシが居たからこそ生き長らえ、母と出会えたとは皮肉なものに御座いまするな」 その恨みも辛みも甘んじて受け、それでもただ、ただ願わくば。 「その魂に安らぎを。輪廻の果てで今度こそ縁切れぬ家族と為る事を‥‥」 そっと目を伏せる水奏、そして篠田と日和へと頭を下げる。 「よし、きれい!」 顔面蒼白の日和は、篠田の両手を握りしめ自分の手でゴシゴシ拭くと微笑んだ。 困惑を浮かべる篠田、自己完結してしまった相手に聞く事も出来ず。 その困惑は、気遣いの為か、それともその手の温もりか――― 「子の親愛も母の愛もあとには何も残さず、骸を晒し朽ちるのみ‥‥本当、くだらない」 何度か、くだらない、と神呪は呟く。 徒花は実を付ける事は無く、雨に濡らされその花びらを散らす。 それでも、一応の弔いを‥‥。 「(アヤカシのみならば、何も思うことなく狩りとれただろうに物思う身と言うものは難儀だな)」 結局湿気たままの煙草を吸うのを諦め、友人である篠田と日和に視線を移す成田。 誰に弔われる事も無いだろう、行ってはいけない事を彼女達は犯した。 作った塚ですら、雨に流され消えるかもしれない。 「彼岸花、それが良いと思ったんだ‥‥」 仕事、只木の持つ弓に雨粒が落ちた―――彼岸花の描かれた弓。 花言葉は、悲しい思い出‥‥死者の花。 ―――罪は裁かれ、命は無に還る。 母子の愛か、それともただの執着か‥‥道を外した末路は死者の国。 |