流行☆相棒喫茶
マスター名:白銀 紅夜
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/10/21 02:36



■オープニング本文

●流行は先取りしなければなりません
『今の流行は、相棒!ラクラクお仕事、大好きな相棒と一緒に楽しくお仕事してみませんか?』
 開拓者ギルド、少ない金銭を払えばギルドにある掲示板へと、広告やちょっとしたオネガイを貼る事が出来る。
 その一つ、でかでかと書かれた言葉は少々胡散臭い。
「ん、興味あるの?いやぁ、色々飲食店ってあるじゃない?でも、相棒も一緒にってなると中々無いし‥‥ちょっとやってみようかなって」
 ちょっと、で済む問題なのか、と問いかける相手にその人物、永城・明日香(ながしろ・あすか)は晴れやかに笑う。
「あ、これってアタシの家がやってる事業の一つなんだわ。その一つとして任せられたってワケ」
 広告を兼ねて掲示板へと貼ったのだと口にす髀ュ女、興味があるのかと問いかけられ曖昧に開拓者は答える。
「報酬は‥‥まあ、手間賃って事もあるし相場程度ね。仕事自体は1日で終わるから‥‥喫茶っていうより、相棒と触れ合うって言うのが大事よ。主人の方は時折お茶を運んだり、メニューを考えたりしてちょうだい」
 分からないかもしれないけど、と前置きして少女は口を開く。
「私達一般人って、龍とか、鬼火玉とか、そう言う色々な動物と触れ合う機会って無いのよ。最低限、言う事を聞かせられる主人が依頼条件ね」
 言うだけ捲し立てた少女は、じゃ、待ってるわよと店の地図を押しつけ、用意があるから、と駆けて行くのだった。
 ‥‥と、思ったらまた戻ってくる。
「あ、グライダーはグライダーで、空中遊泳っていうの?パフォーマンスお願いね!」
 騒がしい少女だ‥‥やれやれと思いつつ、開拓者はどうしようかと地図を見比べるのだった。


■参加者一覧
神流・梨乃亜(ia0127
15歳・女・巫
紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454
18歳・女・泰
乃木亜(ia1245
20歳・女・志
露羽(ia5413
23歳・男・シ
アルネイス(ia6104
15歳・女・陰
シャンテ・ラインハルト(ib0069
16歳・女・吟
プレシア・ベルティーニ(ib3541
18歳・女・陰
ロゼオ・シンフォニー(ib4067
17歳・男・魔


■リプレイ本文

●こんな事もあろうかと
 相棒喫茶、キズナと書かれた看板を見上げ露羽(ia5413)は中性的な顔に穏やかな微笑みを浮かべた。
「こういうお店、初めてですごく楽しそうです。私は嬉しいんですが‥‥黒霧丸には少々面倒な仕事かもしれませんね」
 隣に控える忍犬、黒霧丸は漆黒の毛並みも艶やかに主である露羽を窺う。
 可愛いですね、と微笑みもふらであるもふ龍を抱え、顔を覗かせたのは紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)だ。
「私もお店を経営していますし‥‥もふ龍ちゃんも看板もふらとして頑張って貰いましょう」
「もふ龍に任せるもふ〜」
 どうやら、やる事は決まっているらしい彼女とその相棒の言葉に少し首を傾げ。
「人に懐く性格ではありませんし、芸でお客様を楽しませて差し上げるとしましょうか」
 頼みましたよ、と露羽が黒霧丸へ言葉をかけた。
「藍玉の‥‥人見知りを治す機会かもしれませんね」
 横でふよふよ浮きながら、不思議そうにピィと鳴くミズチの藍玉に微笑みかけ乃木亜(ia1245)は苦笑を浮かべる。
「おかえりなさいませ〜、ごしゅじんさま!」
 ドンッと、擬音の付きそうな勢いで現れたのはプレシア・ベルティーニ(ib3541)だ。
 彼女も相棒の甲龍、イストリアと共に風変わりな依頼を受けたらしい。
「ん〜こんな感じでいいの?」
 カクリと首を傾げる彼女に、丁度現れた依頼人である永城・明日香が満足そうに頷いた。
「うわぁ、色々な相棒さんがいっぱいだぁ。皆さんよろしくおねがいします」
 朗らかに笑ったロゼオ・シンフォニー(ib4067)はタイミングが良いと思いつつ更に口を開く。
「広い場所はありますか?相棒が龍―――」
ですので、と紡がれる筈の言葉は依頼人が取り出してきた物を見て途切れた。
「メイド服よ」
「‥‥‥‥ごめんなさい。着る勇気ないです」
 メイド服と依頼人の顔を見比べ、たっぷりの静寂の後、彼は速攻でブンブン首を振った。
「賑やか、ですね‥‥」
 少し心細さを感じ、シャンテ・ラインハルト(ib0069)が忍犬、セレナーデへ視線を向ける。
 大丈夫、と主張するかのように胸を張ったセレナーデは、ラインハルトの前に立つ。
「仲が良いんですね、勿論、私とムロンちゃんもですが」
 そう口にし、呪文を紡ぐのはアルネイス(ia6104)彼女は既に自前のメイド服を用意しており、それにもカエルの刺繍。
 勿論呼びよせるのは、ジライヤのムロン。
「何なのだ?」
 ゆっくりと首をもたげたムロンは、同じく緩慢な動作で周囲を見回し、一つ欠伸。
 その姿にラインハルトも小さく笑いを零した。
「そう、みたいですね‥‥やはり、大切なとも、ですから」
「ん、それは言えてるよね。ね、えんちゃん」
 鬼火玉、炎焦の頭にメイドカチューシャを神流・梨乃亜(ia0127)が付けてやる。
 似合うね、と微笑めば主の意図が伝わったのか炎焦も満更でもなさそうだ。
 その横で黒霧丸にカチューシャとエプロンを付けてやりながら、露羽が深く頷く。
「嫌がりはしないようで‥‥」
 どうやら、任務と思っているのかと頷けば遠慮がちに声をかける人物。
「あの、女装って恥ずかしくないですか?」
 チッと言う永城の舌打ちに、曖昧な笑みを返し死守したタキシードに身を包んだシンフォニー。
「いい、ファイアス。僕の言う事だけ聞いて、大人しくしててね」
 身じろぎした相棒の炎龍、ファイアスに声をかけるのを待ち、露羽は口を開く。
「ええ、女装も時々はやらないと、勘が鈍ってしまうので」
「それにしても、似合いますね‥‥」
 変じゃないでしょうか‥‥と少し恥ずかしそうな乃木亜はピィピィと鳴く藍玉と共にメイド服を纏い戻ってくる。
「ん、似合ってる‥‥梨乃はど〜う?」
 ふんわりと裾を靡かせながら続いて現れた神流に、お似合いですとラインハルトも頷き軽やかに口笛を吹く。
「しかし、朋友にもメイド服を‥‥とは難しくないですか?」
 龍はもちろん、もふら、ミヅチ、忍犬‥‥鬼火玉にジライヤ。
「メイド服とまで行かなくても、カチューシャを付ければいいと思うな」
「ムロンは遠慮するのだー、そんな事をしなくてもカッコイイのだ」
 本人、本ジライヤ曰くダンディスキル、と言ったのかどうかはわからないが、宥めすかせるアルネイスがとうとう切り札を出した。
「ご飯抜き!」
「イストリアも一緒に出来るといいんだけどなぁ‥‥」
 うるるーん、きらきらーんと効果音が付きそうな上目遣いで見つめるベルティーニ。
「折角だから、一緒だと嬉しいんだけどなぁ―――」
「流石に其れは、難しいんじゃないでしょうか?」
 ファイアスも着てくれるか‥‥と呟いたシンフォニーの言葉は、見事に依頼人の言葉に被せられた。
 彼女の目の前に置かれているのは、ソーヴィニオンが作った栗餡の入った饅頭だ。
「ん、ふぁいふぉうふふぉ」
 食べながら言うので、何を言っているのかサッパリわからないがゴキュリと飲みこむとヒョイっと後背の扉を指し示す。
「大丈夫よ、問題ないわ」
 こんな事もあろうかと作ってた、とメイド服‥‥勿論人間サイズではない。
「ソーヴィニオンちゃん、美味しかったわ、やっぱり旬の物はいいよね」
「ありがとうございます、自信作なんですよ。栗きんとんや、甘藷は如何でしょう」
 仄かな甘さが‥‥と説明しながら、厨房を観察するソーヴィニオン。
「見事に馴染んでますね、ああ、栗のイガ剥きはやりましょう」
 うんうんと、長閑ですね、とばかりに穏やかな笑みを浮かべ露羽が栗のイガを取っていく。
「おお、えんちゃん似合う!」
 似合う似合う、とはしゃぐ神流に被せられたフリフリを不思議そうに、鬼火玉の炎焦は振った。
「みんな仲良く、まったり過ごそう〜」
「そろそろお店を開けましょうか‥‥」
 アルネイスもムロンを連れて、パッとドアを開ける―――冷たくなり始めた風がチラシを揺らす。
「‥‥とても馴染んでいらっしゃいますね、皆さん」
 呉服屋でも始めた方がいいんじゃないだろうか、とラインハルトは内心呟きつつ綺麗に仕立て上げられたメイド服に視線を落とした。
 勿論ながら、依頼人が用意したものである。
「ね、ね、此れでいいかな?いらっしゃいませー、ご主人さま!」
 耳をピコピコ、しっぽをフリフリさせてベルティーニが頭を下げた‥‥入って来た客は驚いたように目を丸くするが直ぐ笑みに変え、メニューに目を通す。
「い、行きましょうか‥‥」
 固まったままのシンフォニーが、同じく固まった乃木亜へ視線を移した。
「行きましょう、お客さんが待ってます。どんなときでも笑顔を絶やさないように皆さん徹底して下さいね〜」
 ソーヴィニオンの言葉通り、気がつけば外にも客と思われし人物がちらほら。
「いらっしゃいませ、相棒喫茶、キズナへ」

●開店☆朋友喫茶
 オープンテラス、開拓者の提案で設けられたその場所には龍や、ジライヤと言った大きめの相棒を持つ開拓者達が接待に当たっていた。
 流石に人々は驚いたように店を見、直ぐに視線を逸らし歩く‥‥そんな中、一人目のお客。
「お店の方向としては、ウザかわ系ですね‥‥オプションで味見サービスも付いていますが」
 斬新だねぇ、と眉尻に笑みを乗せた老夫婦は、それも頼もうかなと酔興な言葉を口にする。
「おおっと、ムロンに触れるのはタダではないのだ〜。サンドイッチを頼んでくれたら一緒にお話をしたい気分になりそうなのだ〜」
 ふふん、とウザい顔と声でムロンが答え老紳士の伸ばした手から逃げた。
 自分で言っておきながら、良いのだろうかとアルネイスは暫し逡巡するがムロンへ一言。
「ムロンちゃん、味見サービスです」
「あ、僕、おしぼり用意しますね!」
 シンフォニーがサッと、固く絞ったおしぼりを用意する‥‥少し考え、気付けの為のかんきつ類も用意しておいた。
「この子はファイアスと言います、炎龍ですが‥‥割と気性が大人しい方なんですよ。ただ、頭を撫でられるのは嫌がりますが」
「へぇ、やっぱり龍にも色々性格があるのねぇ」
 一人が入れば、次も‥‥と、店に歩み寄る。
 ザラッとした鱗を暫し撫でた、別の女性はシンフォニーの乗ってみますか、との問いかけに首肯する。
「ファイアス、もう少し首を下げて‥‥大丈夫ですよ、支えておきます」
 面倒くさげな様子のファイアスに苦笑しつつ、シンフォニーが手を支え女性を乗せた。
 龍に乗る機会など、一生あるかないか―――はしゃいだ様子の女性に、次、と人々から声が上がる。
「いらっしゃいませー、オススメはおいなりさんだよ!ごほーしもあるからね〜」
『おりじなるめにゅぅ』と書かれた、ベルティーニオリジナルメニューに書かれたご奉仕、その横で微妙な表情の相棒、イストリア。
「おいなりさん‥‥え、ここ喫茶店」
「え、でも甘くて美味しいよ?」
 ユラリとベルティーニの尻尾が揺れる、ダメ?と言われれば相手はガクンと堕ちた。
「じゃあね、おはぎは?あんこの甘さともちもち食感がたまらないんだよぉ〜!」
 拳を握りしめ力説するベルティーニ、イストリアはもう知らない、とばかりの表情だが目はチラチラ。
 しっかり主の無事を確認しているらしい。
「きなこもつけたら、1つで2度美味しいしねぇ〜♪」
「私がお客だったら、直ぐに頼むわぁ」
 だらーんと寝そべりながら、ボソリと呟く依頼人の上で中華鍋が音を立てる。
「まだ、お饅頭が残ってますよ〜、もふ龍ちゃん、2番持って行って!」
 依頼人より張り切りながらソーヴィニオンが、声を上げた。

「い、いらっしゃいませ〜」
 ペコリ、と頭を下げる乃木亜の隣、藍玉もペコリと頭を下げる。
 オープンテラスの大きな朋友達に比べ、店内の小柄な朋友は敷居が低いのかちょっとした休憩に、と入って来る人々も多かった。
「ああ、駄目ですよ‥‥藍玉、ちゃんとお客さんに付いていないと、すみません」
 お冷を、と戻りかけた乃木亜の後をくっ付いて行く藍玉を引き留めつつ、ペコリとまた彼女は頭を下げる。
 気にしなくていいよ、と微笑んだ壮年の男は深くソファに座り込んだ。
「朋友炊き込みご飯、はどんなものかな?」
「あ、はい‥‥朋友の形に切ったお野菜を炊き込んだご飯です」
 野菜嫌いのお子さんにも、と口にした彼女に男は頷き一つ、と注文。
「ジルベリア風、ぱふぇ〜お待たせ!」
 少し離れた場所では、炎焦を突いて声を上げる子供と神流の姿。
「お前、カイタクシャ?」
「うん、そうだよ。しゅぎょうだって」
 自分より少し大きなだけの、おねえさん開拓者に、ふーんと唇を尖らせる少年。
「別に、凄くないからな」
 自分の方が凄い、とばかりに木の洞や小さな空き地、雨だれが奏でる音を聞かせる姿にうんうんと頷く神流。
「冒険は楽しいよね〜」
 ニッコリと笑う横で、炎焦がユラリと揺れる‥‥母親と思われる人物にたしなめられた少年は、更に唇を尖らせる。
「大丈夫だよ、梨乃も木の洞や空き地、大好きだから」
 その言葉にニヤリと快活な笑みを浮かべた少年は、一言。
「お前、気にいったから俺達と同じ開拓者な!」
 約束とばかりに笑う二つの小さな姿に、母親と思われる女性が苦笑した。
「いらっしゃいませ‥‥ご注文をどうぞ」
 深い藍のメイド服を着たラインハルト、注文をメモし厨房へ声を上げる。
 隣に立つセレナーデ、此方も白いエプロンを付け白いカチューシャでお洒落を。
 可愛らしい姿とは裏腹に、見た目より遥かに年月を重ねた忍犬は注意深げに周囲を見回した。
「かーわいい!」
 とは言え、子供は容赦なしに撫でまわす。
 セレナーデの周囲をクルクルと回る子供はあまりに無邪気で、ラインハルトは口元に笑みを浮かべた。
 堂々とした、隣の小さな騎士は沈黙を保ったまま―――すみませんと声をかける女性へ首を振る。
「ご注文‥‥」
「あ、此れと、此れと‥‥」
 大丈夫?とばかりに気遣う視線を受ければ萎縮して肩をすくめるが、目の前のお客は笑みを返す。
「頑張って」
 告げられた言葉は短いながらも、大粒の気遣いが籠っておりラインハルトは深く頷いた。
「いらっしゃいませ、ご注文は如何なさいますか?」
 和風アレンジのメイド服を着こなした露羽、華奢な腕が伸びお冷を置いて行く。
「熱いお茶をお持ちしましょうか?」
 寒くなりましたね、と声をかければそうですねぇ、とふっくら笑い目の前の女性は微笑んだ。
「大人しいわんちゃんねぇ」
「その子は、忍犬の黒霧丸です‥‥シノビの訓練を受けた犬なんですよ」
 おやまぁ、と微笑む女性に撫でられ少し瞬きすると黒霧丸は主の顔を見上げる―――任務、と片付けたのだろう、暴れる事も無い。
「少し、余興を見せましょう」

●余興は楽しく
 楽しい事、となれば元々店に来る人々は陽気な性質なのか、移動し始める人々。
「黒霧丸、行きますよ」
 玉が宙を切れば、音も無く跳躍した黒霧丸が宙を舞う。
 飛跳躍で高く飛んだ黒の毛並みが揺れ、その玉を露羽へと投げ返す。
 ベルティーニの符が燕に変化し、薄闇を纏う空を背景に夜光虫が光った。
 スポットライトを浴び、続いて飛苦無を咥えた忍犬は、的へと苦無を放って見せる。
「わ、すっごーい!」
 人払いして、と告げる為に訪れた依頼人は思わず群衆に混じり拍手。
「ああ、すみません」
 当てなければいい、と自覚しているだけにウッカリと笑う露羽に依頼人が饅頭を放り投げた。
「食べ物を粗末にしないで下さい」
 続いて飛んできたソーヴィニオンの言葉に、うひゃ、と肩をすくめる。
「や、投げたら反応するのかと―――あ、ラインハルテちゃん、余興頼める?」
 お客に頭を下げ、またいらして下さい、と口を開いたラインハルト、急に振られて慌てて苦笑で返した。
「お客さんの入りも落ちついてきたし、少し休んでいいよ」
 間食の時間も少し過ぎ、気がつけば外は夕焼け空。
「おいなりさ〜ん」
 ギュゥ、とベルティーニに抱きつかれコクコクと頷いた依頼人は一言ソーヴィニオンへ。
「おいなりさん一つ!」

「あら、もふら様」
 薄い金色のもふ龍は給仕役もふ、とテキパキ料理を運んでいく。
「相棒って言っても、ずーっと開拓者雇う訳にはいかないのよね」
 疲れたわーと肩を回しながら小休止、とばかりに皿拭きの手を止める依頼人。
「そうですね‥‥このお店を続けるのであるのでしたら、作りやすくて且つ美味しいものを安定して提供できなければ行けません」
 まず、そこが第一ですよ、と念を押すソーヴィニオンの言葉を聞いたのか、もふ龍が声を上げた。
「美味しい料理を作り続けるのは大変もふよ〜」
 もふもふ、最近のお魚‥‥と主婦と話に華を咲かすもふ龍を見つつ永城は苦笑する。
「客寄せだけじゃ、直ぐに廃れるしねー」
 もっと優しく、とソーヴィニオンに言われ、菓子の形を整えると肩を竦め。
「それに、笑顔不足ですね、料理を作っている時も笑顔は忘れず」
「笑顔は大事もふよー」
「気を付けまーす」
 一人と一匹に言われ、笑顔を作り依頼人は崩れ落ちる。
「難しいわぁ」
「無事に終わったら、あたしの得意料理を皆さんに振る舞って差し上げますわね☆」
 頂きます、と声を上げた依頼人に苦笑しつつ開拓者達も釣られて笑うのだった。

「あ〜んなのだー。食べさせて欲しいのだ〜」
 ピッタリとくっ付いたムロン、幼い声があーんと口にしムロンへとパフェを差し出す。
 先程から、背中に乗せてもらった少女は上機嫌ではしゃいだ声をあげる。
 カエルのパペットで腹話術をしてみせたアルネイス、カエルのお姉ちゃんいってきまーす!と言われ‥‥あ、と声を上げた。
「ムロンちゃん!ストーップ!晩御飯抜きにしますよ!」
 どうやら、近所を散策すると少女とムロンの中で約束が出来たらしい―――慌てて止めれば両者不服の顔。
 術の効果が無くなれば少女は一人になるだろう‥‥寂しそうな少女の頭を撫で、ポケットに入ったままのカエルのボタンを差し出す。
「どうぞ」
 暫くアルネイスと、ムロン、そして手の中のボタンを繰り返し見た少女は頷き、手を振って笑った。
「他の相棒撫でてるのにズルいのだー」
 バレたか、と苦笑するアルネイスの横、ムロンがプイっと明後日の方を向く。

「抹茶とせんべいだよ」
 ふ、と神流が顔を上げれば炎焦が乃木亜のミズチ、藍玉へ向かって行くところ。
「えーんちゃーん」
 ダメーと間延びした彼女の声と、乃木亜が慌てて謝罪する声。
「ピィ、ピィー」
「あの‥‥」
 ラインハルトが口笛を吹き視線を移す。
 やれやれ、とばかりに顔を見合わせた神流と乃木亜は互いに笑みを浮かべるのだった。

●キズナ
「皆さん、お疲れ様でした―――無事に終わりましたね」
 閉店後、シンフォニーの一声でお茶会と言う名の慰労会が開かれていた。
「お疲れ様でした」
「ご主人様の得意料理、皆も食べるもふ〜」
 ソーヴィニオンの言葉を引き継ぎ、もふ龍がせいろを頭に乗せ運んでくる。
「おいなりさーん!」
「はい、おいなりさんもありますよ」
 ベルティーニの声と共に、露羽もテーブルへとお皿を置く。
「美味しいもふ‥‥」
「ピィ、ピィ―――」
 魚を食べているもふ龍、そして藍玉‥‥その様子を目端に捉えつつ乃木亜も手を伸ばす。
「あ、甘くて美味しいです」
 並べられたのは、中に餡の入った点心、朋友達の顔を書いたクッキー。
「お疲れ様、えんちゃんもおつかれ」
 神流が置いたのは、フルーツたっぷりのパフェ、厚みのあるクッキーは鬼火玉を象っている。
「人と接するのって楽しいですね。黒霧丸もよく頑張ってくれました、嬉しかったですよ」
 菓子をつまみながら、露羽が黒霧丸を撫でた‥‥その横ではラインハルトもセレナーデを撫でる。
「最後のお客、不味かったのだー」
 意外と顔舐めを注文する客は多かったようで、ムロンはぐったりしていた。
「ムロンちゃん、お疲れ様」
 アルネイスの言葉と少し特別、の晩御飯は勿論朋友の形に切られた野菜の入った炊き込みご飯。
「まったーっ、私の顔は、どんな味!」
 さあ、舐めろと言わんばかりに顔を近づける依頼人、プイっとされてガクリと崩れる。
「ええっと、気を落とさないで‥‥」
 点心あげますから、とソーヴィニオンに差し出されやけ食い、とばかりに口に放り込む。
「甘いのが、妙に傷口に沁みる。シンフォニー君、メイド服着てくれなかったし」
「‥‥まだ引きずっているんですか」
 着ませんから、とタキシード死守―――チッと舌打ちして依頼人はゴロリと寝転がった。
「やっぱり、大型朋友はサクラいないとキツイかぁ。一組目の二人って私の親」
「気が抜けるような、重要な事実が‥‥」
 ボソリとアルネイスが呟く、両親、と遠い目をする開拓者も多い。
「いい、ご両親ですね」
 露羽が遠くを見つめるのは、シノビの里だろうか‥‥乃木亜の遠い目には、藍玉が反応し小さく鳴いた。
 ラインハルトも目を閉じれば、ベルティーニがニッコリ笑みを浮かべる。
「両親かぁ、ボクは直ぐにはぐれちゃったみたいだけど―――」
 何時か会えると思ってる、そう笑うベルティーニにうんうんと頷く依頼人。
「僕達には、相棒もいますからね‥‥」
 間を取りなすように口にしたシンフォニーに、神流が伸びをしながら答える。
「ん、えんちゃんも、家族‥‥冥夜も」
 冥夜?と首を傾げた面々に、神流が差し出す手の中の人形。
「‥‥一緒って言う感じでいいよね、それ。相棒はいないけど、店が私の相棒に、ってね」
 未来は大富豪、と言いきった依頼人に苦笑しつつ、開拓者達は各々の相棒へ手を伸ばす。
 これからも、一緒‥‥その思いと共に。