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■オープニング本文 ●新境地 真っ青な空を見上げながら、少女は眼を保護する眼鏡を持ち上げた。 「いい天気やなぁ」 独特の訛りを持つ口調で、軽く伸びをすると隣に寝そべる相棒へと視線を移す。 「うん、やっぱりやりたい事はやらな、あかんよね」 少ない手荷物を持ち、散歩のような気軽さで向かったのは開拓者ギルド。 ―――新しい地が見つかったと風の噂で聞いた。 彼女は勿論、その戦いや経緯など知らないが興味はある。 何が待っているのか、何があるのか。 「敵を知るにはまず、味方からって言うやん?」 敵を騙すにはまず味方から、が正しいがそんな事は気にも留めずにギルドの中へと歩みを進める。 「瓦版配布、って言うか作成込みでお願いしたいんやけど」 唐突に言われた言葉、受付員もこの手の依頼者には慣れたもので詳しい内容を聞いて来た。 「新しい儀が見つかったやん?風の噂で聞いてるって言ってもどーせやから、現場の状況とか知りたいやん?」 「つまり、現場で動いた開拓者の話を聞きつつ、瓦版を作りたいと」 「ついでに配布も手伝って貰うわ、インパクト、相棒おったら、おお、開拓者!って思うし」 ‥‥言った当人自身が悦に入っているが、それは放置して受付員も書類の作成をすすめる。 「空からばら撒いても、全然構わへんし、普通に配布するんもありやな。自己出版やさかい、あんまり報酬は出されんで?」 少ない金額を見て、受付員は首を捻った。 「受ける方がいるか、わかりませんよ?」 「あ、朝廷褒めるようなんもちょこっと入れて、見出しもお願いな」 無視か‥‥しかも、かなり人使いの荒い依頼人のようである。 「うち等が書いても生ぬるい文面やし‥‥やっぱ、開拓は浪漫やね、現場の声頼むわ」 浪漫だけでは生計は立てられないのだと、言ってやるべきか悩む受付員だったが黙って書類を書き上げるのだった。 |
■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086)
21歳・女・魔
風雅 哲心(ia0135)
22歳・男・魔
乃木亜(ia1245)
20歳・女・志
八十神 蔵人(ia1422)
24歳・男・サ
シエラ・ダグラス(ia4429)
20歳・女・砂
小隠峰 烏夜(ib1031)
22歳・女・シ
九条・亮(ib3142)
16歳・女・泰
朱鳳院 龍影(ib3148)
25歳・女・弓 |
■リプレイ本文 ●伝えると言う事 「今回の事を記事に‥‥私は何を語りましょうか」 ほっそりとした指先で紙を撫で、朝比奈 空(ia0086)が首を傾げる。 瓦版作成、元来ならば開拓者よりも適任がいる‥‥配る方はともかくろくな記事が書けるでしょうか? 何処となく不安そうなのは、シエラ・ダグラス(ia4429)だ、特に絵を気にしているらしく表情は固い。 今回の依頼人、朝河・凪紗を見つけた乃木亜(ia1245)がペコリと頭を下げた。 「乃木亜といいます。こちらはミヅチの藍玉。よろしくお願いします」 藍玉も一緒、とばかりに真似をする。 「宜しく頼むで、ある程度ならうちが修正かけるさかい、気負わんで、な?」 ポンと緊張したようすのダグラスの肩を叩き、朝河は笑う。 ダグラスの相棒である、駿龍パトリシアが不満だ、とばかりに低く唸った。 「記事に地図や地形はいるでありますか?」 問いかけたのは小隠峰 烏夜(ib1031)相棒の駿龍、峰雅楼丸/ホガロウマルは大人しく彼女に付き添い、うんうんと言いたげに首を縦に振る。 「そうやね、あるとええな。うち等は訪れる機会って無いやろうし」 「あの〜凪紗さん『朝廷を褒めろ』って‥‥瓦版に言論統制が?」 テキパキと答えていく朝河へと問いかけるのは八十神 蔵人(ia1422)の相棒、人妖の雪華。 「確かに、このまま朝廷を褒めてやるのもな」 人身御供の片棒を担がされた、と言うのが八十神の心に引っかかっているようで。 だが、それを聞いた依頼人は大きな声で笑いだした。 「おおきに、心配してくれとるんかもしれんけど、報道規制とかそーいうもんやない‥‥どっちかって言うと、開拓者側の方やな。一応、朝廷の管轄っちゅう事やし」 ニヤリ、と笑い朝河が更に告げる。 「とは言え、一個人の文章に規制なんぞ入らんやろ」 カラカラと笑う依頼人の隣で、しみじみと呟くのは朱鳳院 龍影(ib3148)だ。 「色々あったが、こうして記事にできる日がくるとはの」 過去の戦い‥‥雲関蜻蛉―キキリシニオク―との戦闘、そして島や遺跡での探索、此れも仲間がいなければ出来なかっただろう。 「一度やってみたかったんだよね〜グライダーでの空中配布って」 ゴミと間違われないように、と軽い感じの文体で書いていくのは九条・亮(ib3142)紫電と名付けたグライダーをチラリ。 「キキリシニオクや李水は、俺の義理の家族や友人たちが決死の覚悟で挑んで倒したんだよな。俺も現場に立ち会ってれば、もっと詳しく書けたんだろうが‥‥」 少しの感慨に浸りつつ、風雅 哲心(ia0135)が相棒、甲龍の極光牙へ視線を向けた。 主と同じく、しんみりとしたようにユラリと尻尾を動かす相棒に苦笑する。 「やはり、牌紋や魔戦獣の事でしょうか‥‥私は情報収集に徹していましたが」 依頼人の家だと言うやや埃っぽい長屋、椅子に腰かけ墨をすりつつ朝比奈は呟く。 「魔戦獣の両将『あばりむ』に『らばる』との激闘も興味を惹くかもしれんな。上級アヤカシに匹敵する強さを持った2体」 魔戦獣に関して書く事に決めた、朝比奈と風雅。 「私は‥‥鬼咲島の周囲の海でアヤカシに襲われた話を。皆さんが、合戦の事は書いて下さるようですし」 やや俯き加減で遠い目をする乃木亜、今でも思い出すとゾッとする。 ピィと無く藍玉の背を撫でて、少し微笑んだ。 「藍玉も、あの時は頑張ってくれましたね」 襲い来る魚型のアヤカシ、飛ばない飛空船‥‥ふむふむ、と顔を覗かせた朝河はニヤリと笑い。 「面白いやん、まさに開拓に危険はつきもの」 ‥‥体験者からすれば、笑い事では無いのだが。 「ええ、あの時は飛空船の調子がよくなくて、もう少しで儀の縁から下へ落ちるところでした‥‥」 冷や汗混じりに乃木亜も返答する、勿論相手は柳に風だった。 「では、鬼咲島や渡月島は任せるであります」 小隠峰が和紙に綴りだす、土地の地図。 海を挟み、中継点になる渡月島と鬼咲島‥‥これほどまでの距離を移動した、と考えると。 「派遣船団スゲー、いや、ボク達?」 九条が楽しげに笑い、眼鏡を押し上げながら地図を辿る。 「参加したのは、朝廷派遣船団の旗艦『しらせ』の護衛と牌紋戦だからなぁ‥‥やっぱり闇目玉さんパネェ、弱みとか弱点とか探ったけどあの戦力にはマジビビったね」 「私は、情報の収集に撤していましたが、遠くから客観的に見ると直接対峙するのとは違う恐ろしさを感じました」 ふと口にした朝比奈は、瞑目すると一つこぼす。 「‥‥門を開く度にあの者達と戦う事を考えると、決して良い事ばかりでは無いという事を考えさせられます」 「地下神殿の仕掛けを解いた、と言うのは大きいだろうが―――次はどんな敵が来ると思うと、な」 開拓者とて、恐怖し怯える事もあるのだ‥‥と朝河がうんうんと頷く。 「しっかし、一ちゃん美人やったなぁ。褒めるんはそんな感じで」 「‥‥いいんですか、それで」 雪華の視線が、八十神に突き刺さるが書いた文章を見て彼は堂々と言い切った。 「大衆はすべからく、美人に弱い!」 ―――特別創刊号、『戦場に咲いた花が勝利へ導く福音を』 新しい儀、そこに到達するまでには開拓者と呼ばれる者達の協力無しには辿りつけなかっただろう。 先発調査として向かった開拓者達。 予期せぬ事態、動かない飛空船‥‥アヤカシの迫りくる状況でその行動力と発想力を以って帰還したのは開拓者達だった。 勿論、朝廷の派遣した旗艦「しらせ」で指揮を執る指揮官、そして派遣された謎の美しい使者。 強大な翼を持ち、複眼をもつキキリニシオク―――はぜる炎をその翼を以って回避し鋭い顎を開く。 身軽な物腰で飛び乗った開拓者達、吹き出る瘴気に身体を蝕まれながらも敵を破壊せしめんと得物を振るう。 周囲から押し寄せる闇目玉、特殊な攻撃にその精神力で耐え、一気に畳みかける‥‥黒井の魔戦獣についての言葉。 真っ白なミミズクの形をした、李水は先陣を切り開拓者へと襲いかかる。 ―――続いて牌紋はその姿を表し、感情の無い瞳で開拓者達を見据えた。 その隣には両将「らばる」と「あばりむ」が髑髏のような風態で立ちふさがる。 伝達手段、そして意思の疎通を綴り相手の能力を調べ、地道に新たな可能性を発見していく。 一方、渡月島でも開拓者は遺跡を探索していた。 古びた遺跡の中、魔戦獣達を封じる術。 それを知る朝廷の使者はその身を投げ打とうと‥‥ 『この血が役に立つなら‥‥』 強く溢れる忠誠心、だが開拓者示す、違う道を。 そして石板の文字と輝く宝珠。 はためく炎と受ける、吟遊詩人達の奏でる音色が効果があると知り―――開拓者達は音色を奏でる。 押し寄せる敵の怒号、崩れ落ちながらも縋り得物を振るう者達。 宝珠と短刀が結ばれ輝き、響き渡る断末魔と共に灰塵へと還る牌紋や魔戦獣。 扉を示す、その先にある光‥‥ ●あい、きゃん、ふらい 「‥‥さ、最後はどうなったのでしょう」 ヘタうま系の絵を描いていたダグラスが、うんうんと頷き満足そうな依頼人へ問いかける。 「ん?此処からは有料版でお届け」 乃木亜さんの提案です、とビシッ、指を刺された乃木亜はすみませんと呟きながら身体を小さくした。 「―――商魂逞しいな」 ため息をつきつつ、我関せずとばかりに風雅は極光牙の具合を確かめてやる。 戦いを経て一層強くなった絆、強くなったのは何も自分だけではない。 「完璧であります」 元々、諜報や探索を主に動いていた小隠峰の地図、精密ではないが戦場について書かれた物だ。 瓦版に貼り付け、改めて見直せば決して高価ではないものの興味をそそる文面。 地図や絵は特に、子供達の冒険心を煽るのに効果的だろう。 「配布は、ブレイズヴァーミリオンの出番じゃな」 朱鳳院が赤や朱色で彩られた、グライダーを見ながら口にする。 「伝説の龍を、イメージしたものじゃよ」 「ボクのグライダーは紫電、やっぱり被らない方がいいよね‥‥でも、獣人がいるかもって思うと楽しみだなぁ」 九条もグライダーの調整をしつつ、ある意味帰郷?とはしゃぐ。 「あまり高度がありすぎると、気流に巻き上げられてしまいますよ?」 そのままグライダーで『あるすてら』まで行きそうな苦情へ、ダグラスが苦笑気味に声をかけた。 「わかってるって!」 「しかし、記事を書くというのも結構難しい物ですね」 長く座っていた身体を動かし、朝比奈も現物を一枚‥‥版画と手書きの為、バラつきはあるが何処となくそれも微笑ましい。 「では、グライダー組はそちらを任せた」 風雅とダグラスがそれぞれの相棒に乗って、空へと舞い上がる。 「パティ、真っ直ぐ飛んで!」 時折聞こえてくるのはどうやら、グライダーに対抗意識のダグラスの相棒、パトリシアをたしなめる声。 ―――当龍は、少ししょんぼりしているかもしれない。 グライダーを駆る、朱鳳院と九条も滑空した。 「地上組は場所を考えなければ、でありますよ」 町の地図を見ながら、小隠峰と相棒のホガロウマルが道をなぞる。 「禍火には、我慢して貰う事になりますね」 頼みますよ、と朝比奈に言われ炎龍、禍火は深く首を振り是を表した。 「藍玉‥‥似合いますよ」 首にブレスレット・ベルを付けた藍玉は嬉しそうにピィピィと鳴いては首を振る。 やや重そうだが、乃木亜に褒められた為か気分が良いらしい。 「民衆のウケは悪いやろけど‥‥なあ、此処まで褒めんでもいいんちゃうか?」 血で封印され続けた、その事実。 ―――強制されたのであり、忠誠では無く、そう育てられたのであり、望んだわけではない。 「遠い遠い雲の上の話や、下手に突っかかってお縄になるよりこーして少々曲げても事実を伝える。そう言う事しか出来んのや」 しっかしジルベリアっぽくて可愛いなぁ、と雪華を興味深そうに眺める依頼主。 「そうそう、最近人妖が本体に‥‥って、無いわ!」 「えー、こんな美人やったんかぁ、本体でいいやんって、そんな無茶な!」 どうも、ありがとうございましたーと、八十神と依頼主である朝河。 「‥‥ああ、また雪華の悩みの種が」 頭をかかえる悩める人妖、雪華‥‥大道芸人として負けられないでありますよ!と小隠峰が相棒をチラリ。 後ずさるホガロウマル。 「そろそろ、行きましょうか。今の時間帯なら広場にも人が多いかもしれません」 あくまで冷静な朝比奈は、この地点と示すと禍火を連れ軽やかに去っていく。 「私も行きますね‥‥頑張りましょう」 サラリと言って、藍玉と乃木亜も去る‥‥見事なボケ殺しだ。 ●空から 龍を駆る、風雅とダグラス。 「この辺りでいいか。極光牙、今回の仕事もしっかりやってやろうぜ」 「パティ、もう少し低めに飛んで‥‥そちらはお願いしますね」 風雅と極光牙、ダグラスとパトリシアが中空を飛び、人々の目を引き付ける。 真っ白な体躯の二対の龍に、人々が見惚れたように視線を向けた。 初秋の少し物憂げな太陽の光を受け、その姿は神々しくすらある‥‥。 「いつも通りだと暴れるのは解りきってますから」 スキルは完全封印、武装も手綱のみとダグラスが微笑む。 「じゃあなんで連れてきたのか‥‥ですか?配る時にパティならよく目立っていいかなあ、と」 ねぇ、とパトリシアに話しかけるように微笑み、ダグラスが宙へと流す瓦版。 ちょっと拗ねながらも、パトリシアは中空を飛ぶ。 少し離れた場所で、風雅と極光牙も瓦版を配っていた。 「新しい儀について書いてある‥‥瓦版だ」 兄ちゃん、なんのビラだ!と声を上げる酔っ払いにピシャリと返答。 メガホン代わりにする前に、読めと鋭い視線が語る。 新しい儀?と不思議そうな町人達は、まあ話のネタにと昼食をとりつつ瓦版を広げた。 グライダーを駆る九条と朱鳳院。 「この辺りでいいかな?」 「いいじゃろう、大通りは人も多いしの」 しっかり互いのグライダーに身体を固定し、腰に挟んだ瓦版を宙へ。 「しっかし、牌紋なんて無双されて死ぬかと思った‥‥間一髪、封印が遅れてたら昇天してたかも」 サラリと重大な事実を口にしつつ、九条が紫電と名付けたグライダーで低く、時には高く滑空する。 「うむ、此方は渡月島にいたが‥‥負傷者は多かったと聞く」 空中停止や急機動でアクロバティックな行動をし、人の目を引き付けるブレイズヴァーミリオン、そして朱鳳院。 そのダイナマイツ☆バディに人々の視線は釘付けだっ!‥‥無論それだけではなく、華麗な動きに人々が集まってくる。 「若者は元気じゃのぅ」 大通りの茶屋でマッタリ中のおじいさんが呟いた。 「新しい儀発見!の瓦版だよ!」 持って行ってねと九条が声を上げれば、今日の話題は此れで決まりと商人達も目を通す。 ‥‥身近で無い出来事、だが、目新しい事や楽しい事は人をワクワクさせる。 「グライダーねぇ、うちの店のチラシも頼むよ」 「それは開拓者ギルドで頼んでくれるかのぅ」 ここぞとばかりに、売り込む商人に朱鳳院は頷き軽くかわした。 ●地上から シャラン、シャランとベルが鳴る。 「朝廷の発令で新しい儀が開拓されました。この瓦版にその事が書いてあるのですけれどいかがですか?」 空とは別に、地上で配っていく地上班。 「私たち開拓者が見聞きしたことが書いてあるので、詳しいと思いますよ?」 乃木亜が通りすがる人々に声をかけ、瓦版を渡していく。 珍しいミヅチが相棒である事もあってか、足を止める人々は多かった。 「開拓者ってのは、書き物もするのかい?」 はぁーっ、逞しいね、と頷く初老の男性が一部貰うよ、と有料版を貰って行く。 「あ、ありがとうございます!」 少し嫌みのようなものを感じるが、男性の様子を伺えば何処か視線は優しい。 昔、開拓者になりたかったんだよ‥‥と微笑んだ男性は頑張んなさい、と瓦版を広げ去っていく。 見る事が、あるのかね‥‥と初老の男性の呟きに乃木亜は、少し寂しげな微笑を浮かべる。 ―――家族は失くし、入った道だけれど。 彼女もまた、開拓者なのだ‥‥望むものを手に入れるのは、難しい。 人通りの多い場所、台を設置した八十神。 「えー、人妖の珍しさと面白さが魅力でっせ!」 「可愛さは?!」 ある意味夫婦漫才、雪華がさて、と仕切り直し。 「雪華が見た、渡月島の戦場を皆様にお伝えします!」 両将の「あばりむ」と「らばる」上級アヤカシ程の力を持つ、魔戦獣。 「この魔戦獣と呼ばれる存在が厄介で‥‥上級アヤカシ程に強く、またサムライの咆哮と言った攻撃は通用しませんでした」 ―――倒れていく仲間や、弾かれる刃、朝廷の使者、一三成の使命。 「過去の魔戦獣との戦いでも、彼女のような美しい使者の活躍があったのでしょう」 雪華と重ねるようにして、八十神が大げさに額を押さえ嘆いて見せる。 「残念な事に過去の魔戦獣との戦いは秘されており、封印を担った使者達が今何をしているかは定かではありません」 「(最後の、凄い嫌みですね‥‥旦那様)」 「(気にしない、気にしない)一部、安くしてまっせ!」 こそこそとやり取りしつつ、有料版もチラリと見せてアピール。 「いやぁ、可愛いねぇ」 「珍しい‥‥!」 「え、そっち?!」 買って下さいアピールを、雪華がしたのかは、不明である。 「この辺りならいいでしょう‥‥」 朝比奈と禍火は、少し歩いたのち広場に落ちついた。 広い原っぱに見えるその場所は『開拓者ごっこ』で遊ぶ子供達が多い。 「おー、すげぇ、龍!」 「本物?」 子供達は無遠慮に触ってくる、低く唸りだしそうな禍火を目で押さえ朝比奈は口を開いた。 「ええ、本物です‥‥新しい儀が見つかったのですが、一枚どうぞ」 「新しい儀?」 不思議そうな子供達に、直ぐ様方針を変える。 「ええ、此れはご両親に持って帰って下さい‥‥私がお話しましょう」 禍火にじゃれつく子供達、落ちついた声音で朝比奈の語る、開拓者の言葉。 「こうして、誰も死ぬことは無く新しい土地が見つかったんです」 ほぉーと頬を紅潮させて目を輝かせる、子供達。 もっととせがむ姿は、好奇心の塊だ。 「そうですね‥‥開拓者と言っても、刀を振るうだけが大事とは限りません」 地味!との言葉に苦笑しながら彼女は続ける。 「でも、それが誰かを手助けする事になっているんですよ‥‥」 昼過ぎになり、帰る子供達を見送り、昼食にしようかと朝比奈も立ちあがる。 「随分と人気者の様でしたね‥‥と言っている場合でもありませんか」 残りの瓦版、それは道すがら配ろう、と朝比奈は美味しそうな物を吟味しつつ、禍火と共に道を行く。 黒い烏を手に止まらせ、小隠峰は事前に地図で見つけた広い場所をゆっくりと歩く。 町の中でもやや、裕福と思われる家は勿論道も広く龍であるホガロウマルが歩いても、驚きこそすれ通れなくなる事は無い。 「新しい儀が見つかったでありますよー」 一部いかが、と口を開く彼女。 点々と瓦版が落ちているのを見れば、飛行班が回ったのだろう、直ぐに彼女を見つけた町人が駆けよる。 「続きが気になるんだよ、で、どうなったんだい?」 どうやら、有料版を求める声も多いようだ‥‥それにこの界隈の人物は財布の紐も緩いのかもしれない。 「一部、どうぞであります」 ついでに、取り出した苦無で行うジャグリング。 ホガロウマルを隣に従え、上では烏が宙を飛ぶ。 「大道芸人、小隠峰を宜しくでありますよ」 いやいや、開拓者!とツッコミが来そうであるがそれは置いておく。 「へぇ、お嬢ちゃんは何をしたんだい」 「偵察や索敵でありますよ」 サラリと返し、配り切れば用は無し。 「では、此れにて失礼」 去り際は素早く、苦無をサッと片付け、彼女は依頼人の家へと戻るのだった。 ●開拓史 飛行班が先に、依頼者宅へと戻る。 「意外と、儀に興味があるものなんだな」 先に戻った風雅が、入れて貰ったお茶の不味さに微妙な顔をしている横、ダグラスも青い顔。 「え、ええ‥‥そうですね」 「まあ、話題には乗り遅れたくないやん。なあ、その茶ぁ、不味い?」 実はゴの付くアレを出汁に‥‥と口にした依頼人へ風雅の怒号が鳴り響いた。 それを聞き、間一髪逃れた九条は笑いまくる。 「大丈夫大丈夫、ボクは嫌だけど」 「労いの茶が此れではのう‥‥」 粗茶以前の問題である、と朱鳳院も呟く。 「私は結構です」 「ゲテモノ食いは、範疇外でありますよ」 遠慮の朝比奈と小隠峰、最後に話を振られた乃木亜も、思いっきり首を横に振った。 「遠慮します」 「だって、貧乏やねんもんー!」 長屋から追い出されるーとウダウダ始める依頼人に、地上班の開拓者達が有料版で手に入れた文を渡す。 「‥‥おお、結構売れたやん、さすが開拓者。広報と集客の他に販売もやるか!」 有料で売れるか不安だったと、苦笑する依頼人。 「さて、終わったことやし」 外に食べに行こう、と空を示せば橙に染まる空。 「頼んで良かった、やり遂げてくれて、おおきに」 本当に良かったと微笑む依頼人、開拓者達も頷き歩み始める。 「‥‥苦難に各々の理想や信念を以て、恐れを乗り越えて立ち向かえるからこその『開拓者』なのでしょうが」 朝比奈の言葉に、確かにと首肯しそれぞれ思いを馳せた。 「やる事も多いだろうけどのぅ、仲間となら」 朱鳳院の隣、九条もカラカラと笑う。 「空中配布、残らずに良かったよ‥‥やり遂げたって感じ」 「色々やりましたであります」 確かに色々とやって来た小隠峰と、ブレスレット・ベルを付けたままの藍玉と一緒の乃木亜。 振り返れば確かに楽しい事、そればかりではない。 「喜んでもらえるのが、一番ですね‥‥と、龍を連れて行っても大丈夫ですか?」 飲食店へ、と口にしたダグラスの言葉に依頼人が固まる。 「考えて無かったようですね」 「冷静に言うたんなや‥‥」 雪華の冷静なツッコミに、八十神がボソっと呟く。 ―――まだまだ、開拓者達の開拓史は始まったばかり。 |