【直姫】霊祭り
マスター名:白銀 紅夜
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 25人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/08/31 03:24



■オープニング本文

●実害
 八月、半ばになると蝉の声も移り変わり何処か秋の豊潤さを感じさせる。
 花菊亭・有為は痛む足を医師に見せながら、難しい顔をしていた。
「これでは、馬を駆るのは無理でしょう‥‥安静にしておいた方がよろしいかと」
 勿論自由ですが、と一々付け足す初老の男性は祖父の代から世話になっているらしい医者である。
 腕は確かなのだが、何しろ悪化してくれた方が儲かるなどと言い切る医者であるから、好き嫌いの別れそうな医者だと思う。
「貴公の薬で効く物は無いか?」
「無理ですね、私は医者ですから」
 高位の巫女なら、などとアッサリ匙を投げる医者に肩をすくめる‥‥高位の巫女ならと言うが、骨のヒビを一uで直す巫女など彼女は知らない。
 いつもの冗談か、と流しつつ続ける。
「貴公の持ちえる薬の中で、最も効く物をと言っている。一瞬で直せと言っている訳ではない」
「霊祭りの儀には間にあわないと思いますが」
 嗚呼、と頷いた有為は改めて食えない相手だと内心呟く。
 ―――祖父の代からの付き合い、霊祭りを知っていてもおかしくは無い。
「それまでになるべく治しておきたい、一番効く物を」
「わかりました、処方しておきますので‥‥ああ、また悪化したらお呼び下さい」
 慇懃無礼とも言える態度で頭を下げた医者に、有為はあからさまなため息で答えたのだった。

●霊祭り
「父上、今年の霊祭りまでに完治は難しいようです」
 報告を、と口にした当主である父に有為は淡々と事実を告げる。
「‥‥ふむ、伊鶴にさせるか」
「いえ、私の過失です―――射手は務めさせていただきますので」
「万が一、外れたらどうする」
「ご心配なく、外さないだけの技量を持っていると自負しています。それに、私以上の力量を持つ者も集まるでしょう」
 言外に志体持ち、そして開拓者と、続ける有為に父は厳しい顔をする。
「家の事を思っての事、伊鶴にもよい刺激になるでしょう」
「開拓者等と言う者とは、顔を合わせる気にはならん」
 口にした父へ、有為は深く頭を下げ立ち上がり退室の口上を述べた。
「父上、伊鶴が上手く果たしてくれるかと、ご心配なさらず」
 廊下に出た彼女を待ち受けていたのは、侍従である波鳥、そして伊鶴。
「姉上‥‥大丈夫ですか?」
「問題ない、今回の霊祭りの指揮を取るのは伊鶴、お前だ」
「あ、はい‥‥頑張ります!あ、じゃなくて姉上、結局射手はなさるんですか?」

 花菊亭家の霊祭り。
 儀式の始め、送りの矢として射手が、言の葉を綴った矢を射る事になっている。
 正月とは違い、邪気を砕くのではなく先祖の背負った業を祓うと言うがどちらかと言えば武を示す様式に近い。
 ‥‥加えて、巫女を始めとした舞い手や吟遊詩人と言った楽師が祭りを盛り上げる、此れを以て雅とする。
 最後に自分の名を書いた肩代、紙で作った人形を小舟に乗せ、燃やす―――

 彼女は舞い手等は務めないが、儀式の始めとなる射手が矢を外す訳にはいかない。
「腕を負傷した訳ではない、お前は心配せず事にあたれ」
 足に、体重はかかるので辛くない事は無いがそれを言っても致し方の無い事。
「はい!‥‥そう言えば僕、お医者様に頂いたんです」
「何を貰った」
「染め粉ですよ、これで涙花も来られるでしょう?」
 楽しみですねと微笑み、休憩時間を過ぎたと怒られる伊鶴を見ながら有為は笑みを浮かべている自分に気づくのだった。


■参加者一覧
/ 井伊 貴政(ia0213) / 佐久間 一(ia0503) / 玖堂 柚李葉(ia0859) / 玖堂 羽郁(ia0862) / 天河 ふしぎ(ia1037) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 皇 りょう(ia1673) / 安達 圭介(ia5082) / 倉城 紬(ia5229) / 菊池 志郎(ia5584) / からす(ia6525) / リエット・ネーヴ(ia8814) / 雪切・透夜(ib0135) / 琥龍 蒼羅(ib0214) / ティア・ユスティース(ib0353) / ルーディ・ガーランド(ib0966) / 久悠(ib2432) / 朱鳳院 龍影(ib3148) / ヴァナルガンド(ib3170) / 月影 照(ib3253) / プレシア・ベルティーニ(ib3541) / リリア・ローラント(ib3628) / アルマ・ムリフェイン(ib3629) / 御影 銀藍(ib3683) / 針野(ib3728


■リプレイ本文

●前日
 祭り、と言っても準備なしに勧められるものではない。
 貼り紙を見て、訪れた開拓者の中には前日の準備を手伝う者もいた。
「霊祭り‥‥要するに盆入りの行事のお手伝いですのね」
 そう口にしては、霊祭りの儀の説明を受けた礼野 真夢紀(ia1144)は問いかける。
「はい、皆様には精霊馬を作って頂きます」
 涙花の侍女、鈴乃が説明をした時、響いた元気な声。
「鈴乃ねー、遊びに来たよ」
 鈴乃を見かけたリエット・ネーヴ(ia8814)は大輪の花が咲くような笑みを見せた。
「お久しぶりです、ネーヴ様」
「涙花ねーは?」
 声を落としたネーヴに、呼びました?と染め粉で髪をくすませた涙花が顔を出す。
「お久しぶりですの、ネーヴ様。後、はじめまして、わたくし花菊亭・涙花と申します」
「礼野 真夢紀ですの‥‥るいか、さん?」
 呼び辛いと首を傾げれば、礼野は不意に思い付き口を開いた。
「るいさん、って呼んでいいですか?」
「はい、るいで構いませんの」
 ネーヴに抱きしめられながら、はにかんだ涙花は偽名が浮かばなくてと小さく呟く。
「偽名?」
「涙花様が、此処にいらっしゃるのは内密の事ですから‥‥精霊馬の作り方を説明致しますね」
 お茶を濁すと話題をすり替えた鈴乃が、胡瓜を取りだし切った竹櫛を刺す、馴れた物だ。
「精霊馬を作る方が全くおりませんので、皆様には手伝って頂きたく思います」
「お力、貸して下さいませ」
 ペコリ、と頭を下げる鈴乃と涙花。
「勿論だよ、涙花ねー!」
 抱きつくネーヴに、首肯する礼野、家では精霊馬を作るのが担当、とは本人の言葉。
「慣れるまできちんと立つ馬作るの、難しかったんですよねー」
 とは言え最早技量は見事‥‥これなら、侍女と同じく指導に回れるだろう。

●当日―精霊馬―
 開始の儀、射手が矢を射る時間にはまだ、余裕があった。
「野菜で動物を作るなんてすごいな〜!野菜って育てたら動物になるんだね☆」
 可愛らしいボケを炸裂させるのは『夢の翼』隊員、プレシア・ベルティーニ(ib3541
「育てたら、動物に、なりますの?」
 ウッカリ影響される涙花、その肩をポムっと叩いて雪切・透夜(ib0135)が苦笑する。
「元気そうで‥‥良かった。後、野菜は育てても動物にならないから」
 残念そうな涙花を励ましつつ、花菊亭家の侍女や慣れている礼野を見習い竹櫛を胡瓜へ刺していく。
「精霊馬って結構可愛いよね‥‥あっ、別に可愛いものとか好きなわけじゃ、無いんだからなっ」
 慌てて言い繕った天河 ふしぎ(ia1037)は、横で精霊馬を作る月影 照(ib3253)へ視線を移す。
「可愛いものが好きでもいいのでは?‥‥あ、この祭りを記事にするのもいいですね」
 同小隊の仲間であり、思い人である月影は気付いた様子も無く涼しい顔。
「いや、納得されても‥‥違うんだって!そ、そう言えば飛行船型なんてどうかな?」
 ほら、と天河が造り始めたのは飛行船型の船、肩代を流す為の物。
「良いですね、手伝いますよ―――」
 合作を始める天河と月影、そんな二人を見て同じ小隊『夢の翼』一員のヴァナルガンド(ib3170)は穏やかな笑みを見せた。
「流石はふしぎさんらしさが出ていますね。なかなか素敵です」
 射手として呼ばれるまで、と彼女も精霊馬作成へ。
「え?僕らで野菜を切って動物の形にするの〜?何だ、ボク勘違いしてたよ〜」
 失敗失敗、とチロリと舌を出すベルティーニ、分かりますか、とヴァナルガンドが手本を示す。
「いやいや、確かにふしぎらしいの‥‥」
 同じく『夢の翼』の朱鳳院 龍影(ib3148)は見事な胸を揺らしながら、紅の爪で精霊馬を突く。
「しかして、ヴァナルガンド‥‥そろそろ私達は射手の方へ戻った方がよいのではないか?」
「そうですね‥‥じゃあ」
 ふしぎさん頑張って下さいね、と聞こえないように呟きヴァナルガンドと朱鳳院が儀式の間へと向かう。
「うんしょ、うんしょ‥‥出来た〜」
 満足そうなベルティーニ、おお、と声を上げたのは針野(ib3728
「おお、中々上手に出来てるんさー‥‥なんか、故郷の祭でばあちゃんと料理したの思い出すなぁ」
 作り慣れているようで、鼻歌を歌いながら彼女は次々と作っていく。
「この季節は祭が多いと思ったら‥‥へえ、そういう風習なのか」
「ええ、お盆行事‥‥先祖の霊を祭ります」
 礼野の説明に、頷くのはルーディ・ガーランド(ib0966)だ、ジルベリア出身の為かあまり天儀の祭りには詳しくは無い―――が、興味を持ったようだ。
「僕はどっちかというと、見物に近いけど‥‥折角だし」
 ゆっくりだが、確実に制作を始める彼‥‥だが、その彼に悲劇が訪れようとは。
 説明には少し時間を遡らねばならない。
「見て下さい見て下さい、どうですかっ?」
 紅の錦に金の刺繍で花菊亭家紋が綴られた、舞手の衣装‥‥巫女袴に近いがずっと豪奢である。
 その衣装に身を包んだリリア・ローラント(ib3628)は楽しげに同行者であるアルマ・ムリフェイン(ib3629)へ突撃。
「リリアちゃん、かーわいい♪」
 にへーっと笑った御影はローラントをおんぶ状態で、同行者の一人、御影 銀藍(ib3683)へねーっと同意を求める。
「可愛らしいですね‥‥良くお似合いです」
 御影の言葉に、ローラントの笑みも深くなった。
 ‥‥3名集まれば、次は突撃相手は誰にする、と無言の会話。
 ―――そして。
「野菜と僕達どっちが大事なのさっ」
 ムリフェインの言葉と同時に3名がガーランドへ強襲をかけた。
「楽しそうですの」
「楽しくないと思うよ、多分‥‥」
 仲が良いのですね、とほわほわ微笑む涙花を4人から引き離しつつ、雪切が呟く。
「でも、楽しいじぇー」
 ほらっと涙花を抱きしめるネーヴ、ガーランドが受けた物と、涙花の受けた物は全く違うが。
 3名に乗っかられて、ベシャリと擬音を放ちつつ潰されるガーランド、襲撃者の顔を見ればこめかみに青筋。
「‥‥お前ら、ちょっとそこに正座しろ」
 何やら説教スイッチが入ったようで、正座と言う言葉を知っている辺りが説教慣れしてそうだ。
「今日何しにここに来たのか、わかってやってるんだろうな。あ゛ぁん?」
「‥‥ご、ごめんなさ―――」
 捨てられた子犬のように震えるローラント、正座は嫌だと足を投げ出しているのはムリフェイン‥‥視線が刺さって渋々正座。
「あ、足が‥‥」
 足をコッソリ揉んで何とか耐えるのは御影‥‥ともすれば殺気すら放ちそうなガーランドの顔色を窺い付け足したようにムリフェインが口にした。
「あ、僕達は儀式があるから―――後は頑張ってね!」
 行こうか、リリアちゃん‥‥と見事な脱兎術。
「リリアさん、アルマさんー、置いて行かないで下さいーっ!」
「‥‥逃げやがったな、後でまた言い聞かせねぇと」
 悲鳴を上げる御影に頑張れ、と笑顔‥‥御影はがっくりとうなだれるのだった。
「そう言えば、料理の方はいいんですか?」
 問いかけたのは、花菊亭・有為、そして花菊亭・伊鶴へ挨拶を済ませて来た井伊 貴政(ia0213)である。
「はい、侍従や侍女の殆どは料理へと回っていますから‥‥そちらの方が、私達もいいので」
 恐らく涙花の事だろう。
 鈴乃の言葉に、成程と頷いた彼は染め粉でくすませた青い髪、そして金の瞳の少女へと視線を移す。
「ええっと、涙花ちゃんかな?」
「はい、花菊亭・涙花と申しますの‥‥今は、るいと呼んで下さい」
 声を小さくして会話する二人、姉から聞いていると言う井伊の言葉に涙花は微笑んだ。
「とても、親切にして下さっています‥‥お姉様もお元気ですか?」
「ええ、姉は相変わらずですよ。と、此れが精霊馬かな?」
 指し示す先に、胡瓜で作った馬‥‥ネーヴが身を乗り出し大きめの精霊馬を指さす。
「此れは私とるいねーで作った、合作だじぇー♪私はリエット・ネーヴなのだ」
「僕は雪切・透夜です。お姉さんとは何度かお会いしたことがありますね」
 涙花とネーヴの様子をスケッチに描きながら、雪切が頭を下げる。
「井伊 貴政です。宜しくお願いしますね」
 頭を下げ、自己紹介は完了‥‥と言うところで、異変が起こった。
「これに式神を込めたらいいんだよね〜?ん〜、おりゃあ!」
 爆発する精霊馬、あれ、消えちゃったと不思議そうなのはベルティーニ、開拓者や咄嗟に庇ってもらえた涙花と鈴乃に怪我は無いが。
「どっかへいっちゃったの〜ま、だいじょぶだよ♪」
 ちょっと耳の先を怪我しながら言い切ったベルティーニ、そっと涙花が止血剤を差し出す。
「ありがとー‥‥ん?」
 何か恐ろしげな雰囲気を感じてベルティーニが、硬直する。
「おい、そこに正座しろ―――」
 表情は閻魔の如し、ガーランドの説教が始まった。

●当日―控え―
 一方、少々時は遡る。
 射手や楽師、舞手の控室に花菊亭・有為、そして花菊亭・伊鶴はいた。
 格式高い貴族、となれば礼儀もうるさい、開拓者達も花菊亭家の面々へと挨拶へ向かう。
「お屋敷にお邪魔するのも久しぶりですが、相変わらずご立派ですね」
 感嘆の声を上げたのは菊池 志郎(ia5584)比較も無く、卑下もしないただ、感嘆の声に家の嫡女である花菊亭・有為は首肯し屋敷を見上げた。
「祖父の意向により、質実剛健を重視した造りに変わったが‥‥昔はもっと煌びやかだったようだ」
 淡々と述べては、弓の最終調整へと入る。
「射手の手伝いとは、中々に得難い機会ですね」
 佐久間 一(ia0503)は、有為と秋菊に一礼し同じく弓の具合を確かめた。
 残暑の生ぬるい風が、緊張気味の心をほぐしていく。
「きっと、鈍い者でも何かの気配を感じるだろう‥‥そんな祭」
 不意に呟いたからす(ia6525)は、現れる御霊に手を振り、或いは微笑み、生死の邂逅を楽しむ。
「何か、いるのか?」
 問いかけたのは久悠(ib2432)心地よく吹く風に目を細める。
「ああ‥‥そうだね、何を視ているのか、気になるかな?」
 微笑みを浮かべるからすに、久悠は暫し考え、口を開いた。
「悪いものではない‥‥そうじゃないか?」
 そうかもしれないね、とからすは鷹揚に頷き同じく流れる風に吹かれ、目を細めたのだった。
「挨拶をせねば‥‥有為殿」
 花菊亭家家紋の衣服を纏った女性、一目で久悠は嫡女の花菊亭・有為だと直感する。
「どうした‥‥来賓の者か」
「久悠だ、宜しくお願いする」
「花菊亭・有為だ、射手としての技量、楽しみにしていよう」
 頭を下げる久悠に、尊大とも言える態度で有為は頷くのだった。
「お久しぶりです、有為さん、秋菊さん‥‥あれからお加減は如何ですか?」
 先に、有為と秋菊を見つけ井伊が頭を下げ気遣いの言葉を述べる。
「先日はご苦労だった。私も秋菊も、順調に回復している」
「ありがとうございます‥‥まさか、助けが来るとは思ってもいませんでした」
 開拓者ギルドに飛び込んで来た時は驚きました、と口にする井伊をねめつけ有為は準備を行う侍従達へ指示を出す。
「今日は頑張って下さいね、また何かあれば馳せ参じますよ〜」
 失礼します、と頭を下げ彼は緊張しているであろう花菊亭家跡取りの少年の元へ足を運ぶ。
 入れ替わりに訪れたローラント、気になる事が一つ。
「‥‥私にできる事、ありますか?」
 いきなりの言葉に有為は、視線で続きを促す。
「怪我してる事、わかる。大事な御役目もあるのでしょう?」
 心配、されている事に漸く気付いた有為は首を振って口にする。
「大丈夫だ、貴公は舞手、だったか―――そちらに専念して欲しい。服の大きさは揃っている筈だが、何か問題があるようなら侍女に言ってくれて構わない」
 強い瞳、それを感じてローラントは首肯する、そして、付け足すのだった。
 無理はしないで下さい‥‥と。

「えと、未熟なのでお目汚しとなりますが、宜しくお願いしますッ!」
 やや緊張した面持ちで頭を下げたのは倉城 紬(ia5229)だ、舞の勉強の機会でもある、とつぶらな瞳を大きく開き、舞手の動きを見つめる。
「足の運び方、顔や腕の位置、手にする道具の使い方‥‥」
 一つ一つを心に刻むように、瞬きすら忘れ、見入る‥‥否、魅入る。
「そう力むものではないよ」
 弓の準備を終え、舞手や楽師の控室に入って来たからす、竹水筒の特製冷茶を差し出す。
「ありがとうございます」
「落ち着いたかな?」
 見事ですよね、と暫し舞手の舞に心癒され、冷茶を飲み干した倉城はごちそうさまでした、と口にした。
 自分も‥‥自分の精一杯の、舞を。
「伊鶴ちゃん。‥‥楽は楽しめそう?」
 ふらりと顔を出したのはムリフェイン、いきなり話しかけられて驚いた伊鶴だったが持ち前の人懐っこさで笑みを浮かべる。
「はい‥‥あ、でもちょっと緊張します」
 素直な返事ににっこりと笑みを零し、ムリフェインは口にした。
「自分を裏切らないのが一番。だよ」
「伊鶴さん、お久しぶりです。刀の稽古は順調ですか?」
 楽師として参加予定の菊池、伊鶴に挨拶をすれば相手の少年は直ぐに気付いたようで顔をほころばせる。
「あ、菊池さん‥‥頑張ってますよ、皆さんを守れるように!」
 今は楽師ですけど、と笛を見せる伊鶴にそうですね、と菊池も思案し口を開いた。
「楽しむ時は、楽しめばいいと思いますよ」
 ですよね!と間髪いれずに返ってくる言葉にセレナードリュートを手にしていた琥龍 蒼羅(ib0214)が一言。
「外し過ぎも良くないが‥‥」
「は、はいっ!」
 思わず背筋を伸ばす伊鶴に、クスクスと忍び笑いを洩らす開拓者達。
「祖先がいるから、今の自分がある‥‥忘れないよう、想いを音に変えましょう」
 笑みを零しティア・ユスティース(ib0353)は、祝詞をそらんじては、リュートへ触れる。
 奏でる音に合わせて舞いの練習をするのは安達 圭介(ia5082)だ。
「しかし‥‥戦闘時の神楽舞も大変ですが、見せる舞は何度経験しても、どうしてもアガってしまって」
 緊張気味なのか、ぎこちないものの几帳面に足を運ぶ。
 その横で玖堂 羽郁(ia0862)は恋人の佐伯 柚李葉(ia0859)の笛の音に合わせて軽やかに、だが確りとした足取りで踊る。
「巫覡氏族の出だからな、こういう奉納舞は得意だぜ!‥‥そういや、ソロとかあんの?」
 不意の問いかけに、伊鶴は大きく頷いた。
「大丈夫ですよ、作って貰います!」
 今から作るのか、とツッコミが入りそうだが侍従の波鳥を通して有為に連絡すれば、是の言葉が戻ってくる。
「舞のイメージは神秘的に、厳かに‥‥かな。うん、一緒に肩代燃やしやろうね♪」
 佐伯へ微笑みかける玖堂、こくんと頷いた佐伯は控えめに微笑み口を開く。
「うん、ありがとう‥‥笛の音もこの身も、あなたの添え手であれる様に」
「いや、コッチこそ誘ってくれてありがとな!」
「ご先祖様達にも喜んで貰えるような舞台になるって、思ったから。羽郁‥‥と、なら」
 呼び捨て練習中の佐伯に、もう少しスムーズに頼むぜ、とコツン、玖堂が佐伯の額へ己の額をくっつける。
「‥‥僕も、いつかあの方とっ!」
 ラブラブな雰囲気の二人を見て、拳を握る伊鶴。
「その調子だと、まだ進展は無しかな?」
 ひょいっと顔を出した井伊に、礼を述べる前にとんでもないと顔を真っ赤にして伊鶴は首を振る。
「もっと‥‥強くなってから、と」
 ―――せめて、家のしがらみがあの人を巻き込まないように。
「そっか‥‥あ、この前はキツい事言ってごめんね、笛、楽しみにしてるよ」
 井伊の謝罪の言葉に、きょとんとした顔をしていた伊鶴だったがやがて笑顔になると頷いた。
「そんな事無いです、自分の安全も、大事な人の安全も大事って事ですよね!」
 分かっているのかいないのか、だが一歩前進か、と苦笑する井伊。
「じゃあ、僕はそろそろ裏方を手伝ってくるよ」
「はい、では!」
 立ちあがって見送った後、入れ違いで侍従が入ってくる。
「霊祭りの儀の時刻です、お急ぎ下さい」

●霊祭り
「本日は、貴重な時間を割き、当家へ来賓下さり感謝致します―――」
 緊張した面持ちで伊鶴が、口上を述べる。
 やがて神妙な笛の音と共に、巫女や僧侶があげる祝詞。
 有為を始めとした射手が、紅白の御簾の後ろからすり足で現れ、当主代理である伊鶴へ一礼。
 遠くの的へと狙いを定める、一瞬の静寂、空を切る矢、中央に突き刺さる、拝礼。
「やっぱり、先輩方の撃ち方は見てて綺麗なんよ。わしも見習いたいさー」
 凛とした姿、観客として見ていた針野がそんな呟きを漏らす。
 有為の後から、開拓者達もその技術を奮う。
 艶やかとも言える微笑みを湛えたからす、紅の瞳が的を見据える‥‥五文銭、中央に突き刺さる矢。
 次に射手を務めるのは佐久間、伊鶴、観衆、そして的へ一礼。
 呼吸を整えれば的だけが鮮明に、視界に移る、重心は丹田へ‥‥揺らがない肉体。
 矢を番え、正面で構え、的を定める‥‥静かに弓を引き分けると気力が身体をめぐる。
 そして、その瞬間、矢は弓から離れ吸いこまれるように的へ。
 一息吐くと彼は、また一礼すると控えへ戻る。
 次に矢を射るのは久悠、すり足で歩み、会、そして鷲の目を使い矢を放つ。
 ‥‥周囲を引きたてる為、淡々とした動作であるが、互い無く的へ吸いこまれる矢。
 次に的へ対峙するのは朱鳳院だ、その矢は生者、死者の業を打ち砕くが如し。
 力強い矢は的すら、打ち砕いた。
 ヴァナルガンド、淡い水色の髪をなびかせる狼の獣人は黒漆が艶やかに輝く理穴弓を構える。
 白い手から放たれた矢は、風を切り的へと喰らい付く。
 最後、御影は青の瞳を的へと向け、的との距離を理解する‥‥弓に矢を番え、引き絞る。
 此処で外す訳にはいかない―――最大限の集中を発揮し、彼は矢を放った。
「(当たって下さい‥‥)」
 吸いこまれるように的へと命中する矢、ホッと一息吐く御影、他の射手達も出てきては、伊鶴へ、そして観客へと一礼した。

 矢を使った祓いが終われば、次は御霊を慰める楽と舞。
 玖堂、安達、倉城、そしてローラントを囲むように巫女達が舞う。
 紅が翻り、紫が地を踏む、舞扇は白檀の香りを放ち空間を浄化していく。
 時折視線で会話する玖堂と佐伯。
 やや緊張気味に、浅い呼吸をするのは安達、深く息を吐いて落ち着きを取り戻す。
「(この舞が、ご先祖の業を贖えると‥‥いいですね)」
 完全に舞、そして音楽と調和し溶け込むような動きをしているのは倉城だ。
 無心、のびやかに、白いしなやかな腕が神聖な空間を作り上げる。
「(アルマさんの音を聞けば‥‥身体が勝手に動いてくれる、やりましょうか)」
 ローラントとムリフェインの視線が一瞬、繋がり、そして離れ、旋律をなぞっていく。
 伊鶴の笛を引きたてながら、時には高く、時には低く、三味線を奏でる。
 琥龍の奏でるセレナードリュートは澄んだ音色を放ち、輝く星の如く清らかだ。
「幻想的ですね、雰囲気もスケッチに込める事が出来るといいのですが」
 熱心に霊祭りの様子をスケッチブックへ描く雪切、ネーヴと涙花が覗きこむ。
 素朴な音色を奏でるのは菊池の横笛、本職には劣るもののどこか聞く者の心を和ませてくれる。
「(人々の安寧と幸福への祈りを‥‥祈りを癒しの風へと)」
 ユスティースの奏でるリュートは何処までも澄みきって、まるで空まで届いて行きそうだ。
 祈りは風となって、人々を癒すのだろう。
 ―――やがて、舞を終えた舞手達に溢れんばかりの拍手。
「じゃあ、俺のソロだな。精霊と人間の縁を括る=繋ぐ、という意味を持つ舞だ、見て欲しい」
 これからが本番、先程舞った疲れなど微塵も見せず軽やかに踊る玖堂。
「(緩やかな旋律‥‥羽郁さん、羽郁の、助けになれるように)」
 時折視線を交わす二人、混じり合ってはまた解ける、目に見えぬ精霊が瞬き、ざわめく。
「実に優雅よの」
 茶席を設けたからす、彼女の周りに開拓者達も腰を下ろす。
「色々な舞いがあるのですね‥‥」
「霊と精霊は違うけど、両方呼んじゃうなんて贅沢だよね」
「アルマさん、銀藍さん、ルディさん見てた?」
 ムリフェイン、ガーランド、そして御影へ駆けるのはローラント。
「ええ、リリアさんもアルマさんも、お疲れ様です」
「良かったよ、服も似合ってるし」
 やがて、舞を終えた玖堂が一礼する、佐伯と微笑み合えば拍手喝采、息はピッタリだ。

 霊祭りの儀も終盤、肩代に書いた名前を小舟に乗せて燃やす。
 厄を肩代に込め、それを炎で祓うのだ。

●肩代へ
 飾られた精霊馬が、道を作る。
「けど、盛大なお祭りだったさー」
 針野の言葉に、そうだねとベルティーニは稲荷寿司をほおばりながら頷いた。
「喉に詰まらせないで下さいね?」
 ヴァナルガンドが水を差し出す、何処か遠い目の朱鳳院は自分の名を書いた肩代を小舟に乗せる。
 ‥‥書いた名は『朱鳳院 龍影』ではなく、本名を。
 天河はさり気なく月影の手を取りエスコート、その頬が赤いのは決して気のせいでは無い。
「しかし、なんというか、妙な感じですね。死者を弔うってヤツですか‥‥」
 長くシノビをやってきたと言う月影、だが悪くは無いと一人頷く。
 飛行船型の舟に乗せられた、夢の翼の隊員の肩代‥‥流れながらも炎に包まれ、空へ。
「沢山の灯火で送られていく、綺麗‥‥」
 チラリと盗み見した月影の横顔、思わず見とれてしまい天河は鼓動が早くなるのが分かった。
「なーんで僕らの名前を燃やすんだろ?」
 不意のムリフェインの言葉に答えたのは有為、遠く流れて行く舟を見ながら口を開く。
「肩代に自分の名前を書き、それを燃やす事で、厄を祓うとされている」
「‥‥同い年なのに、背負っているものがこうも違うなんて、ね」
 硬い横顔を見て、呟いたローラントに有為は首を振った。
「どんな人間であれ、何かを背負っている‥‥それは比べる事など出来ない、私はそう、思っている」
「流れて行きますね‥‥」
「祭りも終わり、だな」
 御影とガーランドが呟く、何処か物悲しさや郷愁を抱かせるような、そんな炎。
「天の果てまでお行き‥‥」
 そっと舟を押し出した久悠、立ち上る煙は天へ。
 ユスティースが奏でる音色は、どこか切ない。
 祭りが終われば寂しいが、惜しむ心はやがて良い思い出へ。
 遠い琥龍の視線は、開拓者であった亡き祖父の姿、一点を見据え宣誓にも似た言葉を口にした。
「いつか超えて見せよう。俺のやり方で、な」
「お久しぶりです、涙花さん」
 ネーヴの後ろから現れた涙花を見つけ、倉城が挨拶の言葉を述べる。
「はい、倉城様もお久しぶりですの‥‥何をお願いするのですか?」
「友人達や姉妹達の悪運を祓える様、ですね‥‥特に二番目の姉の」
 姉妹、の言葉を聞いて涙花が楽しそうに微笑んだ。
「わたくしも‥‥姉上や兄上、そして父上の」
「いっぱい書く事があるじぇ♪」
 ネーヴの言葉に、少女達は最早絵馬と化した肩代を見せ合う。
「(少しずつだけど、変わってきてますね。有為さんもですが、伊鶴さんの存在も大きい)」
 楽しげに笑う涙花を見ながら、雪切は願いにも似た思いで肩代を流す。
「(このまま良い方に行ければ‥‥)」

「直姫様、秋菊さん、お怪我は大丈夫ですか?」
 一つ礼をし、安達は有為と秋菊へ声をかける。
「完治はまだとはいえ、ご無事で何よりです」
 続いて、佐久間も有為と秋菊、そして安達を見つけ声をかけた。
「ああ‥‥お陰で霊祭りの儀でも、失態をせずに済んだ」
「あの時は、ありがとうございました。まだ、死ぬわけにいかないと改めて、思いましたよ」
 クスクス笑う秋菊を睨みながら、有為はため息を吐く。
「どうか、ご自愛くださいね」
 せめて楽しい一時を‥‥と。
「そうだな、貴公達の力を借りる時もあるだろう、願わくば―――」
 結局最後は口にせず、有為は燃える肩代へ視線を移した。

「(どうか、俺の大事な彼女と家族に災いが起こりませんように‥‥)」
「(先祖の事はわからないけれど、羽郁さんの隣に居られるご縁を感謝します‥‥)」
 肩代へ祈るのは玖堂と佐伯、そっと肩を抱き寄せ耳元でささやく。
「来年は、俺の故郷の夏祭りに来て欲しいな」
 触れる吐息のくすぐったさと、そして思わぬお誘いに佐伯ははにかんだ。
「(姉様達が、幸せでいられますよう)」
 名前と共に姉達の分の肩代も燃やす礼野。
 赤い人形を流すからすの横、伊鶴は不思議そうに首を傾げる。
「赤い人形ですか?」
「ああ、霊を送る、厄を水に流す‥‥赤は特に厄を祓うと言われている」
 静かに手を合わせ御霊に手を振るからす、不思議そうに首を傾げた伊鶴はああ、と頷いた。
「ご先祖様がいらしているんですか?」
「ああ、そのようなものだな」
 ふむふむと頷く伊鶴、殆ど分かっていないが、不意に思い付き口を開いた。
「ご先祖様、ありがとうございます。皆さんに会わせてくれて!」
「伊鶴君、近所迷惑になるから、ね」
 見守るお兄さんな井伊が、ポンと伊鶴の肩を叩く。
「すみません‥‥つい」
 反省の色皆無、の表情に伊鶴を知る者は重いため息を吐くのだった。