【直姫】遠雷
マスター名:白銀 紅夜
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/08/09 00:24



■オープニング本文

●蝉時雨
 途絶えることなく鳴り響く蝉の声。
 その賛歌は、短い命を必死に叫んでいる気がして花菊亭・有為(はなぎくてい・ゆうい)は息を吐いた。
 ある程度踏み固められた道を、牛が首をふりふり車を引いてゆっくりと進んでいく。
 隣は崖、慎重にならざる得ないとは言え馬を使うべきだったか、等と考える。
「有為様、お疲れではないですか?」
 問いかける秋菊に、大丈夫だと返事を返して彼女は自分の身体が跳ねるのに気付く。
 耳を澄ませば空を切る音、そして遅れて肉を裂く鈍い音。
 ―――敵襲か、後で聞こえる馬の悲痛な鳴き声、後ろに護衛を配置しておいて良かったと他人事のように考えつつ有為は口を開く。
「牛の歩みを速めろ‥‥秋菊、薙刀は使えるようにしておいてくれ」
 車の中で這いつくばりながら、有為は得物である弓を手にする。
「振り切れますか?」
 秋菊の問いかけに、どうだろうかと曖昧にごまかした。
 牛は馬よりも体力はあるが、スピードはそれ程ではない。
 加えて彼女は、ある貴族の家からの帰りだった‥‥他愛のない貴族の姫同士の会話に飽き早々に出てきたものの。
「(使いを出した方が良かったか‥‥)」
 雨の独特のにおいを感じて、降りだす前に出てくる手筈だったのだが―――内心舌打ちをしたところで、強い衝撃を感じた。
 身体が輿に叩きつけられ、牛が悲鳴を上げる。
「回り込まれました!」
 御者の声は既に絶望の色を蓄えていた。
「数は‥‥?」
「10です」
 御簾の中から外の様子を把握した有為は、苦笑めいた笑みを浮かべる。
 成程、と呟き矢を装填した‥‥青い光に包まれ、矢が逸れた。
 有為は目を細め、即射で装填するとまた、放つ。
「絹を付け、スキルを使う盗賊か」
 貴族が狙われるのはさほど、珍しい事でもない‥‥華やかな装いをしていれば特に狙われるだろう。
 だから大仰な程に、護衛―――或いは戦えずとも人を付けて彼女は移動する。
 上質そうな絹を来た盗賊、何故奇妙だと感じたのか―――そう、考えたところで彼女は気付いた。
 ―――自分もまた、上質の絹を着ている。
 貴族である、と示すように‥‥見栄のような、ものかもしれない。
「有為様‥‥」
 秋菊と、目が合う―――その場では最善かもしれない、だが、何処かで拒否していた。
「有為様なら、降りられます‥‥」

●遠雷
 開拓者ギルドに駆けこんで来たのは、手傷を負った女性。
 手当てを施されながら、個室へ通される‥‥深くかぶった市女笠を脱いで、濡れた青い髪を鬱陶しげに払った。
「敵の数は10名、そのうち弓矢を持っているのが4名」
 座ることを拒否し、外の落雷に身をすくめながら女性は続ける。
「‥‥直ぐに、出立出来る者を集めてくれ」
 開拓者の報酬としては、妥当ではあるだろう簪を置いた。
「これで立て替えておいてくれ」
 事情を問いかけるギルド員に、暫し女性は考え口を開いた。
「盗賊に襲われた、向こうには人質がいる‥‥私も向かう、急いで欲しい」


■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034
21歳・女・泰
井伊 貴政(ia0213
22歳・男・サ
佐久間 一(ia0503
22歳・男・志
柳生 右京(ia0970
25歳・男・サ
四方山 連徳(ia1719
17歳・女・陰
真珠朗(ia3553
27歳・男・泰
安達 圭介(ia5082
27歳・男・巫
猛神 沙良(ib3204
15歳・女・サ


■リプレイ本文

●間近の危機
「雷雨の救出カ。こりゃまた襲う側には好都合アルナァ」
 鞠に布を巻きつけて焙烙玉に偽装しているのは梢・飛鈴(ia0034)だ。
「有為さんのあんな姿を見たら放っておけないですよ」
 飄々と笑うのは井伊 貴政(ia0213
 彼女の弟に良い事を言った手前もある、と心配そうな表情の依頼者、花菊亭・有為に穏やかに声をかける。
「脚が痛むようでしたらこれを」
 符水を有為へ渡し、佐久間 一(ia0503)は彼女の足を気遣った。
「‥‥後で返す」
 足の具合を見て暫し逡巡するが、受け取った有為は低く返答する―――雨は激しさを増し侵入者達を、拒むように見える。
 猛神 沙良(ib3204)が有する翼で、雨よけを行う。
 白い翼が、雨に濡れて艶やかに輝いた。
「濡れると、いけませんから‥‥」
 少しでも濡れる個所は少ない方がいいでしょう、と儚い容貌の神威人は笑みを浮かべる。
「必ず助けて貰いたい。それって『貴女』の希望ですかね?」
 不意に呟いたのは真珠朗(ia3553)聞くのは野暮、と判断し、それでも尚問いかける様を見、有為は鋭い視線を向けた。
「‥‥自分の腕を、不要だと思う人間は少ないだろう、秋菊は私の腕だ」
 成程、と頷いた真珠朗は読めない笑みを浮かべる。
「ま、あたし、貴女の事好きですし頑張りますよ、相応にね」
「なんだか最近のお仕事が花菊亭家の依頼だらけな気がしてきたでござるー」
 馬を駆りながら呟くのは四方山 連徳(ia1719)だ。
 大変でござると有為を見る視線は何処か、哀れみが浮かんでいるような気がする。
「あの屋敷のようだな」
 先頭を走る柳生 右京(ia0970)が口を開いた。
 荒んだ屋敷を見上げ、安達 圭介(ia5082)は有為に視線を移す。
「(直姫様のあのような姿は、初めて見ます‥‥秋菊さん、どうか貴方を必要とする直姫様の為にも無事でいてください)」
 やらなければやられるのだろう、貴族の世界―――その中信じられる相手、なのだろうから。

●一転、潜入
 雷雨は、音を消し潜入班に味方した。
 見張りの呼子笛が鳴る前に梢が拳を叩きこみ、佐久間が雪折で首を掻き斬る。
 壁越しに心眼を使用し彼は外で待つ陽動班を数名、そして6名程の存在を感知すると、声を潜めて告げた。
「程近い内部に4名‥‥これ以上は射程外です」
「計4名アルね、後は屋根裏で高みの見物ネ」
 屋根裏だし、と梢が呟き屋根を上り、縄を括りつけては他の二人を引っ張り上げる。
ギシギシと重い音が鳴るが、これ程のボロ屋敷なら常時、音が鳴っているだろう。
「梁、折れないか心配になってくるでござるー」
 最後尾に位置する四方山は、鎧の重量を気にしながら慎重に歩を進める。
「梁は太いので大丈夫だと思いますが‥‥それにしても、部屋の数が多いですね」
 広い土地に、複数の部屋の数は以前に住んでいた人物がどれ程裕福な人物かが分かると言うもの。
「コレだけボロじゃ、見る影もないガ。屋根裏あって良かったアル」
「羨ましいでござるよー、と、陰陽術その九十九、辿りつけない部屋でござる」
 九十九神だったり何だったりするようだが、四方山の結界呪符「白」が前から歩いてきた道を封鎖する。
 奇妙に思ったようだが、道が塞がっている以上引き返すしかない。
 唐突に現れた壁が、屋根裏の陰陽師の術だと思う者など殆どいないだろう‥‥歩いてきた賊もそうであった。
 首を傾げ引き返すのを見て、潜入班は頷きあう‥‥そのまま、内部へと歩いて行った。
「間違いないですね‥‥先ほど、追いかえした盗賊を入れて10名」
 軽く下を覗きこめば、仄暗い部屋に揺れる蝋燭の光、油を舐める火の音が聞こえてきそうな静寂。
 少し先を行っていた佐久間が心眼と共に、人数を確認する。
 広い部屋の中央、捕われの人物である秋菊の姿、囲む盗賊が4人‥‥内容までは聞き取れないが不穏当なのは間違いない。
 ―――このまま待ち、何のために攫ったか。
 聞きだす事も出来たがその前に、賊の一人が秋菊の胸倉をつかみ上げた。
 各々視線を合わせ、一気に屋根裏をぶち破る。
「とりあえず、返してもらうアル」
 梢が淡々と告げては、焙烙玉に偽装した焙烙鞠に火を付け丁寧に顔に向かって投げつけた。
 一瞬の不意を付き佐久間の雪折が一人の首を掻き斬る、そのまま刀を翻し秋菊を掴む相手の腕を叩き、払う。
「さ、帰るでござる‥‥と、逃げるでござるよ?」
 四方山が結界呪符「白」を盾にしつつ、秋菊へ声をかけた‥‥動かない彼女の視線の先は奇妙に曲がった足。
 屋根へと戻る事は不可能、となれば正面突破‥‥飛来する矢を裏一重でかわし、梢が秋菊の腕を取った。
「あくまで緊急護身用ですが‥‥扱えますか?」
 佐久間の渡す珠刀「阿見」を見て首肯した秋菊は、飛んでくる苦無を払い落す。
「たしなむ程度なら」
「時間稼ぎなら、お任せでござる」
 撒菱ビーム!と笑いつつ撒菱を撒きながら、四方山は最後尾に付く。
「走っている最中に踏みたくない物、第一位に輝いたお品でござるよ」
「確かに踏みたくないナ‥‥」
 振りきれるか、と問いかける梢にどうだろう、と佐久間や秋菊も苦笑した。
「夜光虫はちょっと、部屋の外に出ないと無理でござる」
 援軍が欲しいが、頼りの夜光虫は射程が足りない。
「そこを、左に!」
 咄嗟に声を上げた秋菊、梢と佐久間が滑り込む、遅れて滑り込んだ四方山が出口を結界呪符「白」で塞いだ。
「成程、物置なら壁も薄いでござるね」
「ええ‥‥北は日が当らないので、もしや、と」
「早くぶち壊すアル」
 遠慮無用、とばかりに堂々と梢が壁に拳を叩きつける、腐ったところが脆く朽ちればそこを重点的に攻めた。
「手当てを‥‥」
 壁を梢に任せ、佐久間が止血剤、包帯と薬草を取りだす、逃走防止の為か足の腱にはナイフが噛ませられている。
「ありがとうございます」
 自分で行うと申し出た秋菊に任せ、佐久間も壁と対峙した。
 上段から、力任せの攻撃を加える。
「ヌリカベが押されてるでござるね‥‥これ位なら、夜光虫も使えるでござるよ」
 四方山の持つ符が、淡い光を纏い、周囲を照らす‥‥外は雷雨、気付くかどうかは分からないが円を描くように夜光虫は飛んだ。

 一方陽動班。
「‥‥些か、遅いですね」
 まだ、開拓者としての日が浅い、その不安だけではない不安を猛神が口にする。
 心なしか、内部も騒がしくなっているように思えた。
「突入しましょうか。人数としても、分が悪いでしょうしね?」
「そうだな、血が騒ぐ」
 井伊の言葉に間髪入れず首肯するのは柳生、手にした刀もその主も、力を欲しているように思える。
「―――合図です、保護したと!」
 安達が指さす先に円を描く夜光虫、突入の合図に陽動班は内部へと侵入を開始した。

●反転、邂逅
 何事かと出てくる敵の盗賊は、各々の得物を携えている。
 先に動いたのは真珠朗、素早さを活かして接近し足払いを仕掛け側面から極地虎狼閣を放った。
 白い閃光が相手の身体を貫く、続いて間髪入れず背中に蹴りを叩きこむ。
 迎撃は身体を捻る事でかわし、その腕を捉え、腹部に槍の石突きをお見舞いする。
 得物を考えれば、この広い場所で全て仕留めてしまいたい。
「狩り立て。追い詰め。噛み殺す。それが獣の理だって話で」
 因果なものですねぇと鷹揚ともいえる姿に、柳生も首肯した。
「邪魔をするなら斬る、ただそれだけの話だ」
 真空刃の斬撃が、遠距離から狙う弓持ちの腕から鮮血を滴らせる。
 怯んだものの、正確に放たれた矢を甘んじて肩に受けながら柳生は両手に持つ刀で重い一撃を放った。
 安達の舞う暖かな舞、神楽舞「防」は大樹の作る木陰の如く、雷雨と言う攻撃から開拓者達を守る。
「(何か、違和感が―――)」
 舞いながらも、抱く違和感の正体に思考を巡らせ首を傾げた。
 ‥‥見張りは兎も角、広い屋敷にもかかわらず目の前の敵数は10名。
 一か所に普通、留まるだろうか‥‥そして騒がしい屋敷内。
「10名、全員ですね‥‥有為さん、情報は正しいのですよ、ね?」
 猛神が隼人を使用しながら、声を潜め後背から敵へ矢を射る有為へ問いかける。
「先方が間違っていなければな」
 それに頷きながら猛神は、落ちつかない様子の有為へ放たれる矢を刀で、或いはその翼で受けた。
 黒の瘴気を纏う、矢じりが彼女の白い翼を濁す―――否、そのように見えるのか。
 悪意を詰め込んだようなその、術に心が痛む。
「心毒翔‥‥見た事がある、私と同じ弓術士だ」
「わかりました、厄介ですが‥‥さあ、敵は此方ですよ!」
 有為へ距離を取るように忠告し、咆哮を放つ。
 集まってくる敵、一つの標的に意識の向いた敵を狩るのは容易い。
「やる時はやる主義なんですよ、僕は」
 手荒ですが、と呟き室内用に脇差しに変更した井伊が弓術士の横を駆け、一閃。
 ―――遠く離れた敵へこそ、弓は真価を発揮する。
 とは言え、一瞬で矢を番え牽制に放った弓術士は怪しく笑っていた。
 その瞳に嫌な物を感じながらも更に追撃する井伊、そこへ飛来する瘴気の銃弾‥‥霊魂砲。
「只の盗賊にしては、手練だな‥‥」
 遠くへ位置していたその盗賊、陰陽師は薄ら笑いを浮かべ掌中で符を弄ぶ。
「ええ、君達には言われたくないですが」
 遠い陰陽師、逃げないように追うか‥‥そう考えたところで井伊は逡巡する。
 潜入班との合流も済んでいない上、有為がいる―――自分達5人に対し、まだ立っている敵は7名。
 みすみす逃がすのか‥‥そんな中、動いたのは柳生だ。
「志体持ちか‥‥ならば、お前の相手は私がする」
 軽く剣を薙ぎ、纏わりついて来る敵を威圧し冷たく見据える。
「雑魚に興味は無い、死にたくなければ下がっていろ」
 彼の金色の瞳は、強いと思われる相手と戦う事への喜びに満ちていた。
 身を翻そうとする敵へ真空刃を放つ、踏み込んだ刹那、足を捉える地縛霊。
「無闇に飛び込むから―――」
 嘆息するような陰陽師の腕から鮮血が飛び散る、咄嗟に庇わなければ腕ごと持っていかれていただろう。
「大丈夫ですか?」
 安達の神風恩寵が、柳生を癒す‥‥爽やかな風が濃厚な血の臭気と交わり、戦場を舞った。
 そして彼は見つける、三人の救出者、そして一人の女性を。

●二転、合流
「気配が読めないとはバカ?」
 後背、拳を叩きこんだのは梢。
「立てこもりも冷や冷やでござるよー」
 でも無事だ、四方山が口にする‥‥秋菊を挟むようにして立つ二人、もう一人の佐久間は意外に手間取りました、とその身で秋菊を庇った。
「秋菊!」
 思わず声を上げた有為、その視線が翳る―――映るのは血がにじむ包帯。
「有為さん、最後の仕上げですね‥‥必ず」
 大丈夫ですから、と自分に言い聞かせるように猛神が呟く。
「ああ‥‥此処で失敗しては意味が無い」
 同じく、有為の言葉は自分に言い聞かせているようであった。
「中々いい腕だ、そうでなくてはな、だが―――戦闘中に気を抜くのはどうかと思うが」
 一瞬秋菊に気を取られた陰陽師に向かって、炎を纏わせた柳生の刀が凶悪とも言える力を持ち斬り裂く。
 両断剣と焔陰を使った重い一太刀、吹き出る鮮血を浴びながら容赦なく彼は止めの一閃を浴びせた。
 首を動かし視界が鮮血で覆われるのを防ぐ、周囲を見回せば後5名。
 実質的な指揮官は陰陽師だったのだろう、不利を悟った盗賊達が逃げようと我先にかける。
 その前に滑り込んだのは真珠朗、梢の足払いで転倒した敵へ向かって槍の先を向け威圧した。
「興の乗らない殺戮ってしたくないんですよね‥‥あんまり。大人しく投降してくれません?」
 あたしも楽ですし、と付け足す彼の腕が動けば恐らく次の一瞬には事切れているだろう。
 一人は捕縛できそうだ、と秋菊の傷を神風恩寵で癒しながら安達は具合を確かめる。
 不意に、顔を上げた彼は見た―――敵の盗賊が、味方を盾に逃げる様を。
「逃がしません!」
 佐久間がその手から手裏剣を放つ、真空刃で追撃する柳生‥‥だが、遠く射程が足りない。
 有為も矢を放つが、足の痛みで一瞬、手が震えた‥‥敵の肩に刺さるも即射で番えた矢は足に命中したがそれでも動きは止まらなかった。
 ―――相手も、命がかかっている。
 遠距離武器を持っていれば追撃出来たかもしれないが、追うには遠く秋菊も疲弊していた。
「戻りましょう‥‥お二人の傷が心配です」
 口にした井伊は、壁にされた盗賊の息を確かめる‥‥事切れている。
「命に優劣はない、なんてのは世迷言ですしね。結局」
 厭世的、とも言える笑いを浮かべる真珠朗。
「―――生きて、死ぬ、それだけが優劣もなく平等なのだろう」
 幸か不幸かも全ては当人の問題だ、と口にして有為は外へ‥‥向かおうとして立ち止った。
 雷鳴、徐々に迫ってきている雷の音は何処かに落ちたのだろうか?
 身が竦むような音で空間を支配している‥‥真っ青な有為。
「大丈夫ですか?」
 猛神が心配そうに声をかける、黙ってブンブンと首を振る依頼人へ微笑みかけつつ彼女は白い翼を広げる。
「有為様‥‥よく来て下さいましたね、雷恐怖症なのに」
 ありがとうございます、としみじみ呟く秋菊を主である有為は睨みつけた。

●暗転、裏
 所変わって開拓者ギルド。
「貴公達にも聴取の場にいて欲しい」
 威圧の為、と漸く雷から立ち直った有為に付き合い、開拓者達は軽く休息を取りつつ捕縛した3人の聴取を行っていた。
「随分と羽振りがよかったからつい‥‥誰かまではわからん」
「撒菱の上に座りたいでござるか?」
 四方山の言葉に青ざめる盗賊、若干哀れみつつも安達も口を開く。
「狙ったのは直姫様ですか?―――命までは取りません」
 見るからに人の良さそうな人物に言われ、盗賊もため息をついた。
「あの家紋の付いた奴を連れて来い、と言われただけだからな‥‥あの場所に通ると」
 頭領なら知っていたかもしれないが、と口にしたのは既に亡き陰陽師で。
「誰かに依頼されたんですよね、詳しく教えて貰えますか?」
 佐久間の問いかけに、盗賊は開き直り。
「顔を隠した奴だったからな‥‥声はジイサンみたいだったが、この服も貰い物だ、いいだろ?着るなって言われたけどな!」
「美味い話には裏がある、覚えておくアルね、小者」
 自慢げな盗賊、梢にピシャリと言われすみませんと謝るのだった。

 夜、秋菊を見舞い有為は秋菊の部屋にいた、身体を起こそうとする秋菊を手で制す。
 狙われたのは恐らく自分、それも親交のある貴族のうちの誰か。
 あの場所を彼女が通ることを知る者。
「有為様、彼等は私のことを姫と呼んでいました‥‥きっと、狙いは有為様」
「‥‥そうか、それに歳を重ねた、男」
 他を蹴落としてきた自分‥‥それは祖父の遺志。
「お祖父様の遺品を探してみよう、秋菊、お前は早く治せ」
「御意」
 家の為に無茶をしている自覚はあった、他貴族、分家、母方の家‥‥疑えど、敵の把握までは出来ない。
 ―――徐々に、近づいて来る、遠かった筈の嵐が。