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■オープニング本文 ●祝儀の前日 花嫁衣装を縫っていた女は最後の一針を、縫い終え息を吐いた。 その視線の先には、指輪がある‥‥開拓者だった男がかつて、女に贈ったものだ。 「絶対に、帰ってくるからその時は―――」 そう言った男は帰らなかった、だが彼女はまだ捨てきれなかった。 でも、それも明日で終わる―――彼女は決断した、別の男と結ばれる事を。 「貴方の顔が、見たい、この指輪を、突き返したい」 誕生日には贈り物、文のやり取りもある‥‥なのに行方はしれず、会いたいと言っても男は会う事を拒んだ。 「愛していないの?なら、何故‥‥」 まだ、こうして自分を求めるのか―――指輪を固く握りしめて女は泣いた。 悔しいのか悲しいのか、何も分からない。 「美枝、浮かない顔だな‥‥祝儀、先に延ばしてもいいんだぞ」 待っていると、明日には夫になる男は囁いた。 全てが吹っ切れてから、それからでも遅くは無い―――女が悲しいのが、男は嫌だった。 「昔からお前は―――」 「信弘様、私は、貴方の元へ嫁ぎます」 生きているのか、いないのか‥‥生きているなら何故、会ってはくれないのか。 「でも、お前は‥‥大丈夫か?」 開拓者になると、男が言った時女は気が狂ったように、叫んだ。 それこそ、寝食も取らずただ無事を祈る毎日―――脆く崩れてしまいそうな女を、男は知っていた。 「もう、大丈夫です‥‥ただ今は、真実を知りたい」 生きてはいないかもしれない事、それを知った時彼女自身もどうなるのかは分からない。 もしかしたら発狂するのかもしれない―――それならこのまま、何も知らずに。 「覚悟は、出来ているのです」 口を開きかけた男の隣をすり抜け、女は歩く、開拓者ギルドへ。 「この場所までの、護衛をお願いします」 何も無い寒村、そこに女と開拓者となった男、そして夫となる男が幼少期過ごしていた場所があった。 幼馴染である三人がよく、遊んだ場所、開拓者、そして商人と道は別れたけれど。 「両親は、生きている筈」 両親が贈っているのか、と言う可能性はかき消えた。 それにしては随分と見慣れた文字だった、そう、見慣れているのに何処かが引っ掛かる。 何も思い出せぬまま、或いはその結論を排除したまま彼女は深く頭を下げた。 |
■参加者一覧
鴇ノ宮 風葉(ia0799)
18歳・女・魔
海神 江流(ia0800)
28歳・男・志
斉藤晃(ia3071)
40歳・男・サ
倉城 紬(ia5229)
20歳・女・巫
菊池 志郎(ia5584)
23歳・男・シ
景倉 恭冶(ia6030)
20歳・男・サ
シャンテ・ラインハルト(ib0069)
16歳・女・吟
日和(ib0532)
23歳・女・シ |
■リプレイ本文 ●祝儀の前日 なるべく早く、と言う言葉に集まった開拓者。 「さてさて、開拓者からの手紙‥‥どんな事情があるんやろね」 口を開いたのは景倉 恭冶(ia6030)嫌な予感、否、確信に近いものを抱きつつ依頼人、美枝の方を見た。 「どうも。倉城です。今回は宜しくお願いしますね♪」 美枝へ、子犬のような愛くるしい笑顔でペコリと挨拶するのは倉城 紬(ia5229)無邪気なその姿に、美枝も笑顔を浮かべ深々と頭を下げる。 「‥‥久しぶりね、冒険に出るってのに気分が乗らないのは」 不意に呟いたのは鴇ノ宮 風葉(ia0799)だ、 美枝が、妙な行動を起こさないか―――心配していたのは無論、彼だけではない。 「気が狂うほど好きだった人と、影法師か。どんな感情なんだろうな、それは」 見届ける、そう呟いて日和(ib0532)はまず、と紙と筆を取りだした。 「名前を書いて貰っていいか?」 「え、ええ―――」 美枝が綴る文字、それは筆跡とは異なる‥‥少なくとも情緒不安定な美枝が、自分に送ったものではない。 「会えないのに届く手紙。見慣れたけど違和感のある手紙。ふーん‥‥?」 文字を覗きこみながら、鴇ノ宮が呟く。 嫌な、予感を感じていた‥‥知らない方がいいのかもしれない、だが、依頼は依頼。 「ま、アンタがいいならいーけど?」 何処か投げやりな態度で、やや肩を竦めながら家で待っているらしい依頼人の夫となる人へ。 「(いーのね、連れて行って)」 「真実を知るということは、単に事実を確認することではなく、誰が何のためにそうしたのか、そこまで調べることだと思います。途中で諦めてしまわないでくださいね」 菊池 志郎(ia5584)は、美枝の顔色を窺いつつゆっくりと言葉を紡いだ。 「(真実を知りたい。では、なぜ真実を知りたいのか―――自分の決断に、最後の後押しがほしい、のかもしれません)」 白く細い、消えてしまいそうな美枝の表情に、どこか昔の自分を重ねシャンテ・ラインハルト(ib0069)は目を閉じる。 浮かぶ、両親の顔‥‥あの時何も出来なかった、自分もちらついて。 「(本当に後押しになるか、どうか‥‥いえ、なるようにしませんと、ね)」 首を振って、幻影を追いやった。 「前に進むためにか」 苦笑を浮かべつつ、美枝から寒村までの道のりを聞き、地図を作製するのは斉藤晃(ia3071) 彼の手には数枚の赤い布、不思議そうな美枝に豪快に笑う。 「まあ、気休めみたいなもんや」 一方、家で待つと言う信弘へと会いに行った海神 江流(ia0800)は、目的の人物と対峙していた。 「(式の前にこんな事‥‥余裕がないというか、未練は十分だろうな)」 依頼人である美枝もだが、どこか信弘も落ちつかない様子である。 「何か、知ってる事はないか?」 単刀直入に問いかける、曖昧に視線を動かした目の前の男は目を閉じ、ゆっくりと口を開いた。 「いえ‥‥俺の口からは、何も」 「言いたくないのか―――?」 首肯する男、そして立ち上がる海神‥‥此れ以上、口を開く事は無いだろう。 出立前に合流しなければ、特に鴇ノ宮のお守、である為無用な長居は出来ない。 「たださ、あなたが泣いているなら、何故、自分が泣いているのかを知るべきだ。自分が振り回されてる感情ではなくて、自分が本当に望む事をさ。それで、自分が望めるべき方に向かっていくべきだよ」 ―――でないと、なんで生きてるのかわかんないだろ? コレだけは、伝えておきたい‥‥目をそらした信弘、やがてかち合う視線。 「‥‥はぁ、やれやれ、か」 生ぬるい風が吹く、その風に何処か、不快なものを感じて海神は肩をすくめるのだった。 ●出立 「暑くなる前にでかけるんがええやろ」 地図を片手に前を歩く斎藤、その後ろで警戒する菊池は超越聴覚で不審な音が無いかを確認する。 「美枝さん、結婚されるんですよね‥‥お相手は?」 倉城の言葉に、少し照れたような仕草で美枝も口を開く。 「とても、良い方ですよ‥‥幼馴染で」 「なんや、依頼じゃなかったらゆっくりできそうやね」 後ろで華やかな女性同士の会話を聞きながら、警戒しつつも景倉が伸びをする。 「確かに、木陰で眠ったら気持ちいいだろうな」 日和も釣られたように伸びをした。 日差しは厳しいが、どこか心地よい。 「お話を聞いていると、本当に、素敵な方なのだと」 控えめに微笑み、ラインハルトが笛を奏でる。 言葉では伝えられない、歪んでしまう思いを‥‥奏でられる優しくもせつない調べに乗せて。 「海神、ちゃんと付いてなさいよね」 「あー、分かってるって」 鴇ノ宮の言葉に、海神が口を開く。 「と、ノンビリも此処までですね‥‥敵襲のようです」 真っ先に気付いたのは菊池、枝を踏みしめる音と鼻息荒く啼く音‥‥化猪だろう。 「5体ってところか?」 海神の心眼、斎藤が朱色の槍に赤い布を巻きつける‥‥数匹ならば、上手くいけばやり過ごせる。 鋭い牙が光った、5体‥‥。 「こっちで引き付けとくわ、先に行きぃ―――ほら、こっちやで!」 大きな声を上げて斎藤が駆ける、地図とは逆の方へ。 「美枝、先に行こう」 日和が十分に引き付けられているのを確認し、美枝を急がせる。 「え、でも―――」 「大丈夫ですよ、斎藤さんなら、大丈夫です」 大丈夫、とゆっくり繰り返す倉城、ラインハルトが軽快な口笛を吹く。 軽やかなメロディに、やがて依頼人は首肯し、歩を進めた。 囮となった斎藤は軽く道を戻りつつ、大きな気に狙いを定める‥‥ 「冗談みたいな手やけどな」 上手く行った、それは運だと理解している。 長身を活かし大きな木へ布を引っかけた後、素早く槍を身体で隠す。 敵が追い付いて来る前、彼は森へと紛れこんだ。 「10匹‥‥来ます!」 個体事態の強さはそれ程でもないが、依頼人を護衛しなくてはならない。 菊池が捕えた化猪はその巨体を以て、突撃する。 「こんなとこで相手してる暇はねぇんだ、早く村に着かなきゃなんねぇんでね」 美枝から距離を置いて、景倉は咆哮を使用する‥‥襲ってくる10体。 正面突破とばかりに二刀を駆使して、力任せに刻む、同時に踊る、身体に巻かれた鎖。 菊池が素早く印を結ぶ―――不知火、一匹の化猪の周囲に現れる炎。 「火傷の後は、凍傷にでもなりなさいよ」 鴇ノ宮がブリザーストームを放つ、流れる勇壮なメロディ‥‥ラインハルトの騎士の魂だ。 「感謝するよ!」 日和がラインハルトへ礼を述べ、打剣で命中を上げた飛苦無を放つ。 ‥‥一つ、二つ、目を潰され慟哭する化猪。 いつもは閉じられた左目が、白く、妖しく輝く、三度目、向かってくる化猪は木葉隠で目くらましを。 「伏せて、動かないで下さいね?」 ラインハルトの言葉、それに倣い中央に美枝、倉城も伏せた。 「大丈夫です、私達がいますから」 震える美枝を抱きしめ、倉城が囁く‥‥戦闘に加わりたいものの、やや厳しい。 「海神、たまにはいいトコ見せなさいよねっ!」 神楽舞「進」を使用し、海神に目配せする鴇ノ宮。 ‥‥敵が、突進してくる、速い、一番弱い、美枝へ。 本能的に悟ったのだろうか、弱い、相手を。 「はいはい、悪いな」 前半は鴇ノ宮へ、後半は美枝へ‥‥美枝を抱え流水の如く流れる動きで横踏を使用し、避ける。 急速に止まり翻ろうとする化猪、攻撃体制に入っていたところを、二刃が斬り裂いた。 金属音を立てて手に戻す景倉―――残り、5体。 「援軍です‥‥数は10!」 「10、来るな」 菊池の言葉と、海神の言葉は同時。 印を結び、素早く不知火を放つ菊池‥‥突進は厄介だが、相手は鈍重だ。 「あー、もう、鬱陶しいわね!」 鴇ノ宮のブリザーストーム、視界を白く濁らせる。 そこに流れる勇ましい調べは、戦いの場を演出するようだった。 「待たせてすまんな!」 回転切り使用で、豪快に現れた斎藤‥‥敵陣に突っ込んでいる為、ダメージは大きいが与えるダメージも大きい。 「少しずつ、倒していきましょう」 「完全に‥‥と、言いたいけど、撤退してんね、アレは」 漸くフリを悟ったのか、化猪は森へと退散していく‥‥放っておけばまた、何処かに被害が出るかもしれないが。 「先、急ごうか‥‥立ち止っても仕方が無いしね」 日和の言葉に、他の開拓者達も首肯した―――今は、原因を突きとめるのが先だ。 休憩は、と問いかける美枝に斎藤は首を振り、おにぎりを軽く持ち上げた。 「ワシはこれで十分や‥‥昔は住んでたことやけどどんなところやったんや?」 他の開拓者達も、大丈夫だと口にするのを確認し、質問する。 暫し考え、美枝は口を開いた。 「皆、温かな人達でした。土地が悪いので、作物は中々育ちませんでしたが‥‥森が多かったので猟師や木こりを生業にしていましたね」 とれたて野菜と、新鮮な肉で少しの贅沢をする、と微笑む姿に倉城も笑みを零す。 「楽しそうですね♪あ、美枝さんの実家はどんなお仕事を?」 私は神社兼料亭、と付け足して微笑む。 「私の両親は畑を耕していましたね‥‥信弘と、春也の両親は、猟師でした」 「アタシ、野菜だけでいいわ」 幸せそうねぇなんて、事を思いながら鴇ノ宮が呟く。 「ええ‥‥またご一緒したいですね、あ、そろそろです」 美枝の言葉と、斎藤が地図で確認したのは同時。 ●寒村にて 一言で言うと、貧しい村だった。 だが、何処か生き生きとしている。 「さて、春也の両親に会うのが一番やね」 景倉が村を見回して一言、震えている美枝にそっと寄り添う倉城。 「(生きていればいいんだけどな‥‥)」 複雑な思いを抱きつつ、日和も歩を進めた。 「此方です」 「いい、家ですね」 穏やかな口調で、菊池が口にする‥‥育ちの所為かもしれない。 「(でも、此方の方が皆、生き生きしています)」 「狭そうね」 端的に口にするのは鴇ノ宮、海神が苦笑する。 その姿を見て、クスクスと女性陣からは笑みが漏れた。 「すみません‥‥美枝です」 木の戸を叩き、声をかける美枝‥‥少し経ってから、顔を覗かせた老女。 「おや、ああ」 美枝に気付いた老女は驚いた様子を浮かべ、周囲の開拓者を見て訝しげな表情へと変える。 「美枝さんに雇われた開拓者です」 菊池の言葉に、深く頷いた老女は年月の刻まれた顔を歪め、一粒の涙を零した。 嫌な予感が、確信に変わる。 通された美枝と開拓者は、小さな部屋で老女の話を聞いていた。 「‥‥あの子、春也はね、馬鹿な子だよ」 炎の灯された線香、揺らめくその奥に、一つの剣。 「それって‥‥」 日和の言葉に、老女は頷き―――春也のものだ、と口を開く。 「嘘‥‥」 ポツリと漏らした美枝は、何度も繰り返す、嘘、だと。 「嘘―――」 嘘を吐く理由など無い、真実は目の前に‥‥でも、認めたくない、認めたら――― 「この、思いは‥‥私は!」 弾かれるように飛び出した、速く、駆ける。 「美枝さん!」 倉城も追う、自棄に走っては‥‥菊池と日和も速度を上げ、回り込む。 一般人に追い付くのは、容易かった。 「一番、大切な存在は誰ですか?」 菊池の問いかけ、そして日和も紡ぐ。 「泣くのも悲しむのもいいけど、今あんたを見てくれてる人を忘れちゃだめだ」 腕を拘束し、自害を止める‥‥舌を噛み切るのを止める為美枝の口へ突っ込んだ手から赤い血が流れた。 ―――痛みも許しのように。 「美枝さん‥‥すいません。これ以上は、見逃す事はできません。ごめんなさい」 華奢な身体で抱きしめる倉城、遅れて奏でられる再生されし平穏は、ラインハルトのものだ。 「この調べを‥‥」 届けたい、過去に届かなかったこの調べを。 一方、屋内では線香の煙が揺れるのを見つめ、盃を傾ける‥‥斎藤だ。 「現実はいつも残酷やが、それを受け止めることも必要やからな」 いずれ、知る事になっただろう真実‥‥だが、一つの疑問。 「美枝のところに、贈り物が届くって聞いてやね」 恐らく、依頼人が一番知りたかった事実を景倉は問いかける。 「お前さんは、どう思う?」 「信弘が、精神が崩れないようにって美枝を想って春也の名前で送ってたんじゃないか‥‥って思うね」 「アタシも、そう思うわ―――見慣れているけど、違和感のある手紙」 窓の外を見ていた鴇ノ宮が、ボソリと口を開く。 「幼馴染って、聞いたからね‥‥」 海神が続ける、気付かないのは心が拒否していたのか。 「―――どんな物がいいのか、聞かれたよ」 紡いだ老女の言葉は、暗に『そうだ』と告げていた。 「惨い優しさだよ、いつか戻ってきたら‥‥の為に、そう信じたいのは、あの子、信弘もだったのかもねぇ」 燃え尽きていく線香、積もる灰はそれほどまでに長く、死を悼み続けたのだろう。 「やっぱり、僕にはわからない」 海神の言葉に、老女は微笑んだ。 ゆっくりと扉が開く、ギシと重い音‥‥文と贈り物を贈り続けた相手、潜む影の正体を知り、また美枝は泣き崩れた。 夕日が沈みゆく。 「うまく言えないけど‥‥苦しかった分、次は幸せになって欲しい」 真実を知ろうとする強さ、何処か憧れているその事実、だが日和は、気付かない。 「(悲しいやね‥‥なんでこう、皆が幸せになれんのかな)」 景倉が、斜陽の作る長い影法師を視界に映す。 「斜陽が、影法師を長くするか‥‥影法師以上に待ってたんやろね」 いつか‥‥自分を見てくれる日まで。 「帰りましょう、あなたを待っている人の許へ」 菊池が口を開く、揺れる影法師を見て、更に続けた。 「―――その影も含めて、今、あなたと共に歩んでいくことを願っている人なのですから」 間違った優しさなのかもしれない、だが、大切な存在である事はきっと、違ってはいない。 「あんなに晴れてたのに‥‥曇ってきちゃった、な」 一人、民家の壁にもたれ空を見上げる鴇ノ宮、空が曇るのか、それとも? ‥‥いや、と彼女は首を振った。 「(どうか、帰って来た依頼人に笑顔が戻っていますように)」 ●影と共に 無事に送り届けた開拓者達、不安そうな信弘。 「私は‥‥信弘と幸せになりますと、言いたかった。だから、生きていて欲しいと」 今ならそう思う、とやや落ち着いた美枝が紡ぐ。 「私達、お互いに影を追い続けていた‥‥」 生を光と言うのなら、死は影なのだろう―――決して切り離せない、人が背けたくなる事実。 「彼女と、生きていきます‥‥春也を忘れる訳じゃない、けれど、目を背けずに」 それが、生きて為したい事なのだ、と海神に言う信弘。 海神は肩をすくめて知らん顔を決め込んだ。 「話あって下さいね‥‥」 言葉がどんな意味を持つのかわからない‥‥でも、相手の為に何かを為したいと思う二人なら。 それを信じてラインハルトは紡ぐ。 「きっと、お二人なら大丈夫です」 続いて倉城の言葉、二人はしっかりと、頷いた。 「つらくても事実は知っておきたいか。やれやれやなぁ‥‥」 朧な月が、空に浮かぶ。 難儀な事だ、と斎藤は手酌で盃を満たすのだった。 |