|
■オープニング本文 ●凍てつく会話 ザッ、ザッ‥‥。 米をとぐ手を休めて、その女は顔をあげた。 とぎ汁を薬草園の薬草達にかけ、後ろに立った人物に視線を向ける。 後ろに立たれるのは好きではないが、後ろに立たれただけで引けを取る人間ではないと自負していた。 「何か用ですか?」 滅相も無いと言いたげな腹心、藍玄にそうですか、と一言返しては米を釜に入れる。 水を適量入れ、蓋をして火をおこす。 その間、後ろの腹心は表情一つ変えずに立っている―――書類を手に持ったまま。 「突っ立ってないで、座って下さい」 「李遵様、早く仕事をなさって下さい」 「今は朝食の準備で忙しいので」 勿論、手ずから作る物は自分の朝食。 何時毒を盛られるか分からない以上、自分で行う方が手っ取り早い、彼女は少なくともそう思っていた。 「知っています、ですがこうして無駄な事と知りながらも務めるのがわたしの役目ですから」 涼しい顔で返してきた藍玄は、身を翻す様子も無く李遵の手元を見つめている。 「‥‥毒を盛っていいのなら、作りますが」 「わたしの返事を聞くとは珍しいですね」 大して驚いた様子も無く藍玄が告げた。 「―――北條に足りない物を積極的に取り入れているだけです」 そう言って李遵は薬草の灰汁を抜きながら、やや驚いた様子の藍玄を見て薄く笑うのだった。 ●足りない物 「北條に足りない物ですか‥‥」 朝食を終え、書類を片付けていた藍玄がふと口にした。 李遵曰く『うっかり』入れたらしい毒草の解毒剤を含みながらである。 「ええ、足りない物です」 入れた張本人はピンピンしており、これは自分にだけ入れたのだろうと藍玄は思う。 「李遵様の考える足りない物とは?」 足りない事に視線を向ければ、それは様々。 それを自覚しているから、いつもは何も言わない―――口にしたと言う事は突破口が見つかったのだろう。 正しいかどうかはわからないが、彼女なりの突破口が。 「胡散臭さ、です」 「‥‥はい?」 たっぷり、十秒ほど置いてから藍玄は問いかけを口にした。 「ですから、シノビっぽい胡散臭さです」 「李遵様‥‥?」 何を言っているんだ、この人。 思わず言ってしまいそうになりグッと飲み込んだ。 深く息を吐いて気持ちを落ち着ける。 軽い眩暈がした‥‥ああ、毒のせいだろうかなどと思考が飛ぶ。 変な物を拾い食いしたのだろうか―――数多の悲しい事実に行きつきそうになってこめかみを押さえた。 「観光する場所もありませんし、第一見せられるような物もありません‥‥ですから、食事の美味しい北條を出してみようかと」 「その為、わたしの食事の中に毒薬を―――?」 だとしたら自分で毒見しろよと思いつつ、藍玄は何も言わない‥‥既に悟ったのか、あるいは違うと確信しているのか。 「それは趣味です」 「‥‥でしょうね」 大きくため息を吐いて、こめかみを押さえた。 瞬時に飛来した箸が藍玄の手を打つ。 「箸を武器にしないで下さい‥‥」 「ツッコミに苦無を使うのが勿体無かったので―――と、既に朝一番に出してきました」 「何を、でしょう?」 「開拓者ギルドに、美味しいご飯を求む、と言う旨を」 「‥‥それは李遵様が食べたかっただけでは?」 藍玄の言葉に李遵が大きくため息をついた。 「ええ、最近献立がありきたりになってきましたから」 「※このシナリオはエイプリルフールシナリオです。実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません」 |
■参加者一覧 / 風雅 哲心(ia0135) / 高倉八十八彦(ia0927) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 設楽 万理(ia5443) / からす(ia6525) / 春名 星花(ia8131) / 朱麓(ia8390) / 草薙 慎(ia8588) / 和奏(ia8807) / リエット・ネーヴ(ia8814) / トカキ=ウィンメルト(ib0323) / 御影 瑠璃(ib0774) / 不知火 虎鉄(ib0935) |
■リプレイ本文 ●活気と共に 陰殻、根来寺‥‥そこに用意された会場は妙な熱気に包まれていた。 珍妙な依頼に呼び出された13名の開拓者、その中でも目立つのは朱麓(ia8390)率いるチーム【万屋】 「さ、行こうか‥‥皆、準備はいいかい!」 朱麓の鼓舞する言葉に頷いてグッと拳を握りしめたのは春名 星花(ia8131)だ。 「んみゅ、頑張ります!」 魚料理担当らしい彼女はレシピをもう一度確認し、小さく頷く。 「美味しく作るコツはひと手間を惜しまないこと‥‥」 レシピ本を片手に呟いたのは和奏(ia8807)以前は雑草鍋を作ってしまったようだがそれはそれで大丈夫だ、審査員は美食家ではない。 「下ごしらえはこれで、いいですかね‥‥」 花見の季節、花見弁当にと朝から下ごしらえをしていた御影 瑠璃(ib0774)は一息ついて集中を解いた、彼女は数少ない一人参加の者である。 「星花ねー、こんな感じ?」 リエット・ネーヴ(ia8814)はサワラの下ごしらえを終え、問いかける。 同じく手を動かしていた春名は大きく頷いた。 「素材は、いいものを選ぼう―――」 根来寺で買ってきた食材を確認しながらからす(ia6525)は呟いた。 土がついたままの大根や体に光沢のあるブリは見るからに新鮮そうだ。 アラは下ごしらえの段階でしっかり取って、臭みを抜いておく。 素材の味を活かすように酒やみりん、砂糖少々で味付けし、煮込み、次の工程へ。 「はてさて、上手くいくといいですね」 呟くのは草薙 慎(ia8588)だ、共に下ごしらえをしていたトカキ=ウィンメルト(ib0323)はそうだなーと水にさらしたもち米を何度か確認しては呟く。 「料理を作るのは久しぶり、楽しみでござるなぁ」 不知火 虎鉄(ib0935)がググッと伸びをしながら選んだ肉や野菜を炒める。 「どっちかと言うと他人の料理見てお勉強ってつもりですが」 美食家である礼野 真夢紀(ia1144)は自分で桜エビのはらわたを取りながら参加者達の行動にも視線を向ける。 「ぬーん、この手の漬ける系は確かにええねえ。『手間を掛ける』ということ『手早く行う』ことを同時にやれるけえ」 感慨深く呟いたのは高倉八十八彦(ia0927)彼もまた、【万屋】の者の一人だ。 春名の作成した白味噌ベースに砂糖・酒を加えた漬けダレに魚を付ける。 「ホントは一晩漬け込みたいけど‥‥」 春名の呟きにネーヴが大丈夫と笑う。 「後は、味が浸み込むまで菜の花だね」 「やっぱり男の料理って言ったらバーベキューよね」 設楽 万理(ia5443)は豪快に捌いた肉や野菜を焼き始める。 器用な性質なのか、その形はいい、が‥‥彼女は男ではない、念のため。 「旬の食材を活かしたいな」 袖をたすきで結び、前掛けを着用した風雅 哲心(ia0135)がタラの芽のカマを取りながら呟く。 何処からどう見ても料理のお兄さんである。 次々と進んでいく調理だが、審査員がまだ――― ●審査員登場と共にカオスへ 「失礼、遅くなりました」 「あの―――李遵様、この格好は‥‥」 猫耳つきフードを被った全く忍んでいないシノビ達をひきつれて地味な女性が姿を現す。 「皆さん、本日はお集まり頂いてありがとうございます、主催の北条・李遵です‥‥後ろにいるのは配下の藍玄、若干スベってますがいつもの事なので気にしないで下さい」 「哀れじゃぁのぅ‥‥」 「アレはスベらされてるんじゃ―――」 「(大丈夫でしょうか、審査員)」 高倉と和奏の呟き、そして礼野の心中、恐らく他の参加者も同じ気持ちだったのだろう‥‥何とも言えない雰囲気が辺りを支配する。 「李遵ねーちゃん、久しぶり、イェーイ!」 いきなり駆けだす金色の風、ネーヴが李遵に抱きついた。 「お久しぶりです、料理、楽しみにしていますよ」 ネーヴの耳をさり気なくもふりながら呟く李遵、その後ろで藍玄が大きなため息をついた。 「これは‥‥完全に負けてるわね」 設楽が淡々と感想を述べる―――焼きあがったバーベキューを竹串に差して皿に放り込んだ。 「とりあえず、腹ごしらえにどうぞ」 料理勝負と言うよりも、皆でワイワイ楽しむ事に向いたバーベキューと言う男の料理。 簡単に味付けされた肉や野菜を李遵達は口に運ぶ。 「いいですね、こういう簡単な料理」 簡単な調理方法が気にいったのか李遵の評価はそこそこのようだ、ただ、バーベキューはタレの代わりに醤油の海に浸かっている。 「ですが、李遵様‥‥煙が忍ぶのに不利にならないでしょうか」 対する藍玄は慎重派、厳しい顔で悩むが頭についた猫耳がシリアスをぶち壊している。 「猫に関しての冒涜、だね」 草薙の言葉に頷く御影、猫好きの二人には似合わな過ぎる猫耳は許せないらしい。 「鴉の方がいいかな‥‥」 少し違った見解を述べるのはからす、超越聴覚で聞きとった李遵はその言葉に深く頷いた。 「それもいいかもしれません」 「止めて下さい李遵様―――」 「藍玄も大変だねぇ‥‥と、皆準備はどうだい?」 朱麓は以前の依頼を思い出し苦笑する―――気を取り直してチーム【万屋】の面々を振り返った。 「店長〜、これどうしましょう?」 いきなり救いを求める声が上がった、発生源はウィンメルト。 「どうしたんだい?」 「もち米の半分が流れました」 時間を確認して朱麓はギリギリ作れると判断すると、そのまま続行を指示する。 「‥‥大変そうだな」 そんな朱麓に声をかけたのは料理のお兄さんこと、風雅。 恋人同士だと言う二人は大丈夫、と短い言葉を交わす‥‥決して慣れ合いはしない。 「ああ、でもやりがいがあるよ―――そちらも、頑張って」 「と、あねさんの指令書には―――菜の花と竹輪の辛子醤油和え‥‥?」 さわらの下処理の合間に高倉は菜の花を洗って塩揉み、絞って水気をきる。 「醤油に辛子を混ぜて、辛子醤油完成!」 ピリッと辛子を利かせた辛子醤油、ネーヴが出来た醤油を高倉に渡す。 竹輪を切り終えた春名。 皆、きびきびと料理を作っていく中で―――軽く一服、と煙草を吸う朱麓。 「って、姉様何やってるんですかーっ!」 一拍置いた草薙のツッコミ、スッパーンとハリセンが小気味よい音を立てる。 尚、何処から出て来たのかは突っ込まないお約束だ。 大丈夫大丈夫と朱麓は不敵に笑って草薙の頭をガシガシと撫でる。 「細かい事気にしてると、ハゲても知らないよ?」 ニヤリとしたその笑みは完全に弄る気だ‥‥罠にかかったような気がして草薙はガックリと肩を落としたのだった。 一方、野菜炒めを作っていた不知火、会心の出来に大きく頷く。 少しを味見を‥‥と思いきや残ったのは空っぽになった皿。 「しまった‥‥拙者が食べてどうするでござるか」 そこそこ料理は出来るとはいえ短時間でレシピを考え、下ごしらえをして作成する、と言うのは生易しいものではない。 腹いっぱいになった彼は暫く考えたのち、結論を出した。 「とりあえず、おにぎりでも作っておくでござる」 やがて出来たおにぎり、審査員達がほおばる。 「形はいいですね―――シンプルですが保存食には丁度よさそうです」 「私は食べれたら何でも‥‥」 野菜炒めーっと要求した他の審査員は見事にスルーされた。 「水菜、海藻、柚子‥‥彩は大丈夫ですね、牛を乗せて」 御影が作ったのは牛たたきのサラダ、炭火でじっくり焼いた牛肉が冷たい菜類と合わさって味を引き出す。 同時進行で焼いていた桜鯛、錦糸玉子、かいわれ、紅生姜などを用いちらし寿司を作り菜類に菜の花のおひたし、デザートは桜餡を使った和菓子。 「うん‥‥これなら美味しいだろう」 少し味見をしては大きく頷き、桜型の弁当箱へと詰める。 「出来たのですが、試食をお願いします」 完成した弁当を持ち、御影が前に進み出る。 「彩も綺麗ですね‥‥ただ、日持ちがしなさそうなのが難点ですが、熱い物と冷えた物を一緒に入れると腐りやすいですし」 李遵の言葉とは反対に藍玄は気にいったらしい。 「美味しいですよ。花見弁当と言う発想も素敵です」 審査ではあるので、弁当形式と言えどもサラダとちらし寿司のみの判定になるが是非、後で皆で食べましょう、と李遵が締めくくった。 「実家は男子厨房に入るべからず、でしたが―――」 料理レベル、新婚さんの和奏、拙いながらも愛情たっぷり(?)の料理を作成中。 卵とチーズとクリームをパサパサにならない程度に湯煎して合わせたパスタソース、大体はジルベリアから取り寄せたものだが、それに野草、ふきで出来た蕗味噌を加える。 「春のお品がきには丁度いい筈‥‥汚名返上です」 パスタソースを蕎麦に絡めた料理を審査員に差し出す。 「‥‥ぱすた、ですか」 李遵が驚いたように呟く―――藍玄に補足されつつ、口に運んだ。 「ソースは美味ですね、香りもいいですし‥‥ただ、蕎麦とは合わないかもしれません、蕎麦自体が香ばしいので」 「発想はいいですね‥‥蕗味噌ですか」 藍玄は頷き、他の審査員3名に視線を移す。 パッと出される文字による主張。 『無事に食べられれば何でもいいですby配下一同』 「食べられれば‥‥どんな食生活をしてるんだ?」 釜でじっくりとタケノコご飯を作っていた風雅が思わず呟く、ご尤もと頷く参加者達。 料理勝負も、料理を提出していない参加者は風雅、礼野、からす‥‥そしてチーム【万屋】 料理勝負と言えば食べるのも楽しみの一つ、御影などは参加者達の料理を覗き込む。 「味見係りはいらなぃ?」 問われた礼野は暫し考えた後、お願いしますと返答を返した。 醤油とみりんに鰹節を加え、深みを増した出し汁―――そして新鮮な魚介類を使ったカラリと揚がったかきあげ、それを出し汁に入れて軽く煮込む。 「うん、美味しいねぇ」 「光栄です‥‥」 御影の言葉に礼野の表情もやや柔らかくなる。 掻き揚げを予め炊いていたご飯に乗せ、ミツバを載せ出し汁をかけた。 「出来ました」 進み出る礼野、じゃあ頂きますと審査員一同、口に運ぶ。 「魚介、美味しいですね‥‥ただ、値が張りそうです」 「出汁もいい味してます、全体的に上品な風味ですね」 ガツガツと食べる他の審査員3名、一丁前に美食家ぶってみたり‥‥先ほどから食べてばかりだが胃袋は底なしなのだろうか? 「残りの方の料理も楽しみですね―――数日断食した甲斐があります」 「断食は良くない、逆に食べられなくなる」 風雅がボソリと呟く‥‥それを耳にした藍玄がですよね、と大きく頷いた。 「全員断食させられて―――本当に北條はこれでいいのか‥‥」 思わず愚痴りだした藍玄の後ろに手裏剣が突き刺さる。 「今日は手裏剣のち血の雨の模様ですね―――」 放った李遵は平然と設楽の焼いたバーベキューを食べている、相当空腹らしい。 「見なかった事にしようかな」 同じくバーベキューを口に放り込みながら設楽が呟いた。 触らぬナントカにたたりなし、である。 ●料理に求めるのは 菜の花の水気を切り、2cm程に切った風雅。 粗く刻んだエビと小口切りにした葱、カシューナッツと小麦粉を器に入れ、水を少しずつ加えつつ混ぜてぽってりさせ、それを揚げる。 どうやら、天ぷらを作っているらしい。 タケノコと鶏肉のご飯も上手く出来たようだ‥‥木の芽で香りを引き立たせる事も忘れない。 「旬の味を生かしたつもりだ。口に合えばいいんだが」 ぶっきらぼうに口にした風雅の料理を見、李遵が箸を取る。 「成程、こういう方を主婦と言うのですね」 『言いません』 思わず突っ込む藍玄を筆頭とした配下達、素知らぬ顔で李遵は感想を口にする。 「香りがいいですね、どちらも食材にもこだわりが感じられます。天ぷらは特にサクサクしていて―――私はもう少し濃口が好みですが」 「私はこう言った料理は好きですね、季節を感じられて」 他の審査員は育ち盛りでボリュームが欲しかったのか、少々物足りないようだが李遵と藍玄の評価は良いようである。 続いて仕上げたのはからす。 卵に焼豚や蟹にレタスを混ぜ合わせた炒飯、もう一品はブリ大根だ。 「今回ささっと作るが、素材の準備。焼豚手作りしたり、に手間をかければいいのだ、と私は思う」 妙に落ち着きはらった見た目12の少女、成程と頷いている3名の審査員を放っておいて李遵と藍玄は先に食べる。 「鮮度がいいようですね、大根も今の季節にしてはしっかりとしています―――もう少し濃口の方が、炒飯はレタスがシャキシャキとしていて美味しいです」 「李遵様、醤油飲んでて下さい‥‥ブリ大根、美味しいですね、冬は食べられなかったので―――」 「‥‥藍玄、鼻の穴にブリ突っ込みますよ」 愚痴が始まりそうな藍玄の言葉を無理やり断ち切る、そして最後の【万屋】の料理を待った。 さわらの味噌を落としたものと、落とさないものの二つに分けて春名は焼く。 「さわらの火加減よし!」 ネーヴが顔を上げてピースで合図を行う。 朱麓、ウィンメルト、草薙は『餅米焼売』の担当。 挽き肉に粘りがでるまで混ぜ胡椒と酒、塩、砂糖。 「隠し味っつー洒落たもんかどうかは分からんが‥‥まあ、やってみようか」 朱麓が持参したオイスターソースを隠し味程度にいれる。 「め、目が‥‥」 玉ねぎのみじん切りを行っていたウィンメルト、目が痛いらしい。 「確かに玉ねぎは沁みますよね‥‥代わりましょうか?」 其れに苦笑しつつ、草薙は椎茸をみじん切りに―――肉団子を作り、餅米付け蒸す。 その間、朱麓は胡麻・赤味噌・黒蜜のごまだれ、梅肉・醤油・酢の梅だれを作成。 食べる人間が選べる、と言うのを狙っているのだろうか、醤油もやまじ湯浅醤油を使用し、黒蜜と梅肉は自家製を使用すると言う徹底ぶり。 料理人でも食べていけそうである。 そして、20分後。 「はいよ、一丁あがりと」 「わぁ、美味しそうに出来上がりましたね」 草薙が満足そうに零し、玉ねぎに悩んでいたウィンメルトは復活して出来を見、頷いた。 6名の【万屋】達が審査員の前に並ぶ。 代表者の朱麓が口火を切った。 「さあさ、熱いうちに食べておくれ‥‥いや別に冷めたら不味くなるってわけじゃないからね?」 「では、頂きます‥‥」 「うん、召し上がれ?」 草薙の言葉にも頷き李遵が料理を口に運ぶ。 「美味しいです、純粋に。タレにもこだわっていますし」 「そうですね、調理も手際よく、お見事です」 李遵と藍玄の言葉に全員が笑顔になる―――美味しい物は人の気持ちを優しくするのだろうか。 さて、と李遵が立ち上がる‥‥。 「結果を発表します、はい、藍玄と3名、音楽」 何故か流れる音楽‥‥ドラムロールと行きたいところではあるが、残念ながら茶碗と箸のチャカポコと言う情けない音である。 「優勝者はからす様です。―――理由として、根来寺の食材を使った新鮮な物であること、誰でも作れて美味しい物であった事、最後の手間に関しては私達も直ぐに活かせる助言であった事、以上です」 マイペースに庭を見ていたからす、キョトンとした表情で李遵を見た。 「ですが、全員美味しかった事には変わりありません―――私達がなかなか作る事の出来ない職人の技、旬の食材を取り入れたアイデア、食べやすさを考えた利便性。どれをとっても素敵な戦争でした」 戦争だったのか‥‥と開拓者からツッコミが入る。 「と、言う事で盛大に飲み食いしたいと思います‥‥優勝者のからす様には賞金と、藍玄を自由にこき使える権利を譲渡します」 何を勝手なこと言ってるんだと思わず視線をひきつらせる藍玄。 「‥‥いらない」 それに追い打ちをかけたからす。 「振られましたね、藍玄‥‥まあ、要ると言われてもツッコミに困りますが」 「李遵様―――」 「じゃあ、今から打ち上げを始めます、流血沙汰は起こさないように注意して下さい、以上!」 主に流血沙汰を起こしているのは李遵なのだが、当人はどこ吹く風。 さて、と料理を食べ始める。 ●戦いの後で 「それにしても、皆さん見事でしたね―――」 口を開いたのは礼野、作り過ぎて余った料理をつまみながらコレはいい、コレはもう少し出汁を、などと呟く。 「お茶入ったけぇ、後片付けも任せんさい」 高倉が人数分のお茶を入れては持ってくる。 有り難く頂く開拓者達、全員が清々しい顔をしていた‥‥少なからず料理が好きな者が集まったのだろう。 共通の話題があると言うのは、話も弾むと言う事で。 「優勝おめでとう」 からすに声をかけたのは同じ小隊に属しているらしい設楽。 「‥‥ありがとう、きみもお疲れ様」 お茶を飲みながら暫しマッタリとする‥‥桜も咲き、花見には丁度良い季節。 「お花見弁当はどう?」 声をかける御影の手には桜の弁当箱、男性の格好をしていても心は繊細な女性だ。 「おお、いいでござるな」 不知火が顔を覗かせる、その視線の先にはお弁当。 早々に食べてしまった為、少々空腹のようだ。 「では、貰おうかしら」 設楽の言葉に御影は是非、と頷いた。 「蕗味噌風味のカルボナーラ、意外と美味いな」 和奏の料理を食べながら風雅が呟く‥‥同じく旬の食材を、と考え互いに試食しているのだが。 「天ぷらもタケノコご飯も美味しいです‥‥やはり旬の食材はいいものですね」 「健闘、お疲れ様」 「お疲れ様です‥‥俺も頂いてよろしいですか?」 草薙とウィンメルトも料理を口に運ぶ。 「この間の雑草鍋よりはずっと上手に出来たかと‥‥」 平然と言った和奏、思わず噴き出しそうになる3名だがそこはグッと耐えた。 「臭いと見た目がよかったら―――味は、悪くないと‥‥思ったのですが―――」 ボケ確定の太鼓判を押したい気分になった3名だが、まあ、と頷く。 「味覚は、それぞれだな―――」 フォローする風雅、だがあまりフォローになってない。 この後も和奏の蕗味噌布教は続いたのだった。 「大変そうだねぇ」 朱麓の言葉に分かってくれますかっ!と食いついたのは藍玄。 涙ながらに日々を語る。 「猫耳、可愛いと思いますよ‥‥(多分)」 最後の方は自信が失せつつ、春名が涙する藍玄にハンカチを差し出す。 実際のところ、おじさんの猫耳姿はあまりに特殊過ぎて受け入れがたい、のだが―――さすが開拓者、心が広い。 「食事には毒が入ってますし、書類を持っていくと手裏剣が飛んできますし‥‥」 「えっと、大丈夫ですか?」 心配そうな春名の言葉に藍玄は頷く―――対する朱麓は何やら面白がっている様子。 「難儀だねぇ」 ご尤もである。 「解毒剤を作るのも大変ですしね―――」 「これには毒とか入ってないけぇ、安心するんじゃ」 片付けを終え、差し入れとお茶を持ってきた高倉にありがとうございますと受け取った藍玄はどこかやつれていた。 そして、手伝い片付けを終えたネーヴと李遵。 「李遵ねーちゃん、美味しかった?」 「ええ、非常に‥‥私達が作れないのが残念でしたが」 やった、と無邪気に喜ぶネーヴを見ながら、たまにはいいものですねと李遵は息を吐いたのだった。 ―――後日、胡散臭さを、と呟いた李遵の命に従って猫耳忍者が闊歩する、なんて事が? あったら面白いですね、とは北條流の頭領の言葉である。 |