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■オープニング本文 ●不完全燃焼 ダラーっと机に突っ伏す女性が一人。 「無理、無理だわぁ」 広い広い敷地、やりがいのある仕事‥‥それでも彼女は不満だった。 綺麗な衣服、美味しい食事、絢爛豪華な家。 だが、人間とはなかなか難しくできていて―――物質的な豊かさが心の豊かさ、生活の豊かさにつながるとは限らない。 そして自分に無いものなら特に求める訳で。 白を基調として金糸で綴られたお見合い用の肖像画を見ては肩をすくめる。 迷ってはいられない、そろそろこの話を決めなければ先方にも悪い。 義理だてした周囲の目もある。 「でも、迷いがあるまま答えを出したら相手に失礼だわ」 そして、何より自分に失礼だ。 そんな彼女は空に視線を向け、ポンと手を打った。 「そうよ、別の世界で答えを見つけるの」 別の世界‥‥すなわち、自分が思いもよらない世界。 平凡な毎日ではなくスリルのある世界。 甘いこととは理解していても、彼女は引き返す気はなかった。 ●燃える独身花の色 華美ではないが、その艶やかな生地は随分と高価なものであることが理解できる。 「本日はいかぐぁなしゃ‥‥いましたか?」 ダイナマイトボディに目を奪われつつ、受付員は口を開く。 舌はカミカミ、巻き舌と言う受付員にあるまじき事になっているが、気にしない。 両方の鼻穴からしたたる鮮血も気にしない。 「ロマンよ!」 「‥‥はい?」 「血沸き肉踊る冒険、頼りになる友と奏でる戦いの調べ‥‥手にする絆という宝!」 ‥‥一時間後。 「と、言うわけで開拓者にくっついて行きたいの」 「はぁ‥‥」 実は半分ほど聞き流していたりするのだが、どうやら目の前の金持ち美人は結婚を前に独身の思い出として冒険、と言うより冒険もどきをしたいらしい。 「(結婚どころか、浮いた話一つ浮かばないヒトもいるのになぁ‥‥)」 そんな事を思いつつ、受付員は張り紙を書き始めるのだった。 |
■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163)
20歳・男・サ
青嵐(ia0508)
20歳・男・陰
祁笙(ia0825)
23歳・男・泰
酒々井 統真(ia0893)
19歳・男・泰
嵩山 薫(ia1747)
33歳・女・泰
白蛇(ia5337)
12歳・女・シ
露羽(ia5413)
23歳・男・シ
バロン(ia6062)
45歳・男・弓 |
■リプレイ本文 ●青空と到来し 青い空にまばらな雲、春の訪れが窺えると言ってもまだまだ冬の天儀は寒い。 そんな中、現場に降りたのは8体の開拓者とその相棒。 酔狂な依頼を受けた者たちである。 「ふふ、冒険の道筋はもう頭の中に出来上がってるんですよね。実際の冒険は少し違いますけど‥‥演技も必要かな?演技はシノビの特技。黒霧丸、手伝ってくださいね」 にっこりと抗えない笑みを浮かべ、相棒の忍犬に向かって口を開いたのは露羽(ia5413)だ。 誇り高き忍犬はその言葉に、やや胸を張ったように見える。 「ふん、恵まれている人間の我侭に付き合うのか。ま、強いアヤカシ退治に行くわけじゃないしな」 そう言って傍らの相棒である人妖、八雲に視線を向けるのは祁笙(ia0825) 「任せておくのじゃ」 八雲が頷いて小さな胸を張った。 「それにしても、依頼人遅いですね‥‥」 回りの龍や人妖、ミヅチや忍犬が珍しいのかちょっかいをかけようとする相棒、さつなを宥めながら三笠 三四郎(ia0163)が口を開く。 確かに、指定された時刻は既に過ぎている。 「あの、む、向こうの人‥‥じゃない、かな‥‥」 そう言ってミヅチであるオトヒメに隠れるように指さした白蛇(ia5337)の指の先。 「超絶、いい、カッコイイ、可愛い‥‥」 明らかに怪しい人物がいた―――目が爛々と輝いている様は下手なケモノよりも恐ろしい気がする。 「まあ結婚なんてなったら人生の転機だから、迷う事自体は分からなくはないんだが‥‥なんで冒険なんだ?」 酒々井 統真(ia0893)は呟いて依頼人と思われる人物から目をそらした‥‥女性を主とした色恋に不得手と言う事もあるが、見るに堪えなかったらしい。 「依頼人には変わりないわ。宝子さんね?」 怪しげな依頼人と思われる人物に近付いて口を開いたのは嵩山 薫(ia1747)だ。 共通点めいたものを感じるとの事で、この依頼を受けたらしいが‥‥このような怪しい部分に共通点がある、と言う事ではない、念のため。 「あ、はい。私が吉野里 宝子です」 意外と口調は真面目だ。 態度は変だが、恐らく真面目に悩んでいるのだろう。 「私は嵩山 薫よ。貴女のお気持ちもよく解るわ‥‥でも、結婚は人生の墓場とは限らないものよ?」 彼女自身、既婚者。 結婚して得られる幸せに関してはよく知っている。 「そうでしょうか‥‥」 「はじめまして、青嵐(ia0508)です。私は、どんな時も『後悔の少ない』選択をしようと思っていますよ」 続いて口を開いたのは青嵐、天儀人形を器用に動かしながら自己紹介。 「しかし、腕ききが集まったのう‥‥簡単な依頼とは言え、気は抜かぬようにな」 そう言って自己紹介を付け足した後、他の開拓者達を静かに眺めるのはバロン(ia6062)だ。 やや、離れた場所で様子を窺う相棒、ミストラルを宥めつつケモノ―――猪が住んでいると言う丘へと視線を移した。 「では、私達は空から索敵しましょう」 青嵐が相棒、嵐帝の首を軽く叩く。 強面の骨龍は三笠の相棒、さつなに構われて嬉しそうであったが直ぐに一つ声を上げて気持ちを切り替える。 「じゃあ、僕達‥‥村の人、に‥‥聞いてみるね‥‥」 白蛇がオトヒメに向かって口を開いた、小さく頷くオトヒメ。 「なら、一時解散だな」 祁笙の言葉に、他の面々も頷く。 「久々の出番ね、嵩天丸。頼んだわよ‥‥って、起きてる?」 炎の化身のような駿龍、嵩天丸は軽く欠伸をして首を縦に振ったのだった。 ●村民は語る 「小説家、と言う事ですがどのような物を書いていらっしゃるんですか?」 道中、付いてきた依頼人に問いかける露羽。 会話をしながらも神経は研ぎ澄ませている‥‥通常の雰囲気を装うのなら彼の得意分野だった。 「私は基本的に恋愛物とか、人情物が多いわね。身を呈して仲間を庇ったり、身も心も焦がれるような恋とか素敵じゃない?」 話好きらしい、この依頼人は鞄からマル秘とデカデカ書かれた帳面を取り出す。 「小説のネタの為に持ち歩いてるのよ、道楽って言われたらそうなのかもしれないけどね」 うっかり、それに頷きかけた祁笙は慌てて首を振った。 イマイチ、ソリが合わないと感じているのか言葉数は少ない。 「開拓者、も‥‥出てくる、のかなぁ?」 白蛇の言葉に暫し考え、依頼人は口を開く。 「そうねー、出したいとは思ってるわ‥‥と、此処が被害に遭ってる村よ」 依頼人が立ち止り、村へ指を向けた。 長閑な雰囲気に露羽は赤の双眸を細める。 幼き頃より、忍術を叩きこまれた彼には縁のない事ではあるが、それなりに思う事はあった。 「意外と広い村ですね」 「困ってる、感じじゃ‥‥ないけれど‥‥」 白蛇の疑問に答えたのはその村の人間。 「おお、猪退治に来た開拓者かのう、感謝、感謝じゃ」 一人一人の手を握りながら、村長と名乗った人物は語る。 流暢な言葉で語りだす村長、止まらない止まらない‥‥。 「と、言うわけで困っておるんじゃ」 「(全然困ってるように見えないんだが‥‥)」 ひしっ、と手を握られたままの祁笙が内心呟く。 「おお、お嬢ちゃんも開拓者かね、怪我せぬようにな」 八雲を開拓者と間違えたらしい村長が丁寧に声をかける。 「任せるのじゃ!」 「あの、猪、退治したら‥‥いる、かな?」 三歩程避難した白蛇がオトヒメに隠れながら問いかける。 「うむ、貰えたらありがたいのう」 「わかりました、依頼人に掛け合ってみましょう」 その言葉に露羽が頷き承諾を表す。 その時、小さく、低く忍犬である黒霧丸が鳴いた―――威嚇の鳴き声だ。 「来た‥‥みたいだね」 オトヒメの震えを嗅ぎ取り、白蛇が誰に言うでもなく呟いた。 ●空からの使者 少し時は遡り。 空を担当している五名の開拓者、龍を駆りながら空から探索する。 「鎗真、追っかけて引き付けるからな!」 頑張るぞ、と酒々井が口を開いては駿龍、鎗真のわき腹を軽く蹴って方向を変える。 他の龍よりもやや低めに飛んでいる姿は直ぐに交戦に移れるように、との事だろうか。 それとは反対に、バロンの騎乗するミストラルは少し高めの位置を飛んでいる。 「自由にのびのび飛んでもいいですよ、嵐帝。焦らずに探しましょう」 青嵐の騎乗する嵐帝はその言葉にやや、喜色を交えて鳴いた。 「と、さつな、落ち着いて―――」 さつなに騎乗している三笠が軽く手綱を引く。 やんちゃなさつなは速度を速めたり、緩めたり―――楽しんでいる。 「と、来たわね」 周囲を満遍なく泳ぐように飛んでいた嵩山が騎乗する嵩天丸が、目標を見つけ小さく声を上げた。 なだらかな丘は草地が主で見通しは非常にいいが、木々がまばらに生えている場所。 そこに猪達は生息しているようだ。 「では、此方は伝達してこよう」 やや後方を飛んでいるバロンが呟き、ミストラルの手綱を引いて方向を変える。 向かうのは事前に聞いた、村の場所―――彼の相棒は好んで戦闘へ向かう性格ではない。 その上、依頼人が戦闘を楽しみにしている以上依頼人抜きで始める訳にはいかなかった。 「ったく、面倒くせぇな‥‥乗っけてきたらよかったかも、って、無茶はしねーよ」 酒々井を心配するように声を上げた鎗真を宥めながら呟く。 「じゃあ、私は引き付けを行います‥‥さつな、いきましょう」 三笠が高度を落としていく‥‥このまま、咆哮で引き付ける心積もりのようだ。 「固まっていますね―――私は嵐帝と待機、後方より支援します」 群れ単位で動いている猪を見て、青嵐が腹話術で会話する。 「私も宝子さんの方へ戻るわ、彼女の無事は確保しておきたいから」 それぞれの動きが決まったところで、開拓者達は一瞬、視線を合わせ、散った。 ●準備運動は素早く 三笠の咆哮が響く―――勝ち取った戦利品を食していた猪五体は首を上げた。 その口には凶暴な牙が上を向いている。 「さつな、走りますよ!」 咆哮により、引き付けられた猪達が突進を始める、油断しない限りその牙に貫かれる事は無いだろうと思うが痛そうだ。 「それにしても、爽快だな‥‥と、速過ぎず遅過ぎず」 追いかけられているのだが、酒々井は威勢のよさを崩さない。 鎗真が酒々井の安全を考え、速度を速めるもそれをいさめる。 「来ましたね、北から猪五体」 待機していた青嵐は呟いて、地を捜索している面々へと伝達。 素早さに欠けると言われる甲龍であるが、安定した速度には安心感がある。 「早かったな‥‥で、村の近くでバッサリやるわけにいかないだろう」 「もう少し、離れておくのじゃ」 改めて最新の情報を聞いた祁笙と八雲が口を開いた。 「じゃあ‥‥障害物が、多い場所に‥‥持ち込めない、かな?」 白蛇が口を開いてはオトヒメを見る。 傍に待機したオトヒメは笛のような鳴き声を上げて、水の臭いを辿るとでも言うように空を舞う。 「それなら此処から‥‥西の方に水場がありますぞ!」 ただ、そこは他の動物の飲み場でもあり、村の飼っている家畜の水飲み場でもあると付け足す村長。 「猪達は、そこを使っているのですか?」 露羽の言葉に村長は首肯した。 オトヒメが戻ってきては、西へと顔を向ける‥‥それに頷いて、白蛇が他の開拓者を見まわした。 「戦いが、終わったら‥‥洗ってあげたい、から‥‥」 「―――此方は構いませんが、どうしますか?」 青嵐が水場でのリスクと、力量を考えながら依頼人に問いかける。 「いいわよ」 「‥‥マジかよ」 祁笙の言葉に豪快な笑顔で、依頼人は頷く。 「宝子さん、私たちから離れないでね」 「わしは空中から攻撃するからのう‥‥」 嵩山とバロンの言葉に、依頼人は何度か頷いて了承とばかりに手を振る。 「(まあ、大丈夫だとは思いますが‥‥)」 露羽はどことなく凄みのある笑顔を依頼人へ向ける、その笑顔に依頼人は空笑いを浮かべるのだった。 ●敵はどちらか オトヒメと白蛇を先頭に、水飲み場へと向かった開拓者達。 武装した村長がくっついてきたが、それは丁重にお断りした。 「もうすぐ、だね‥‥」 白蛇が呟き、露羽が黒霧丸の様子を目端で見る。 警戒している様子は、敵が近い事を知らせていた。 「そろそろ、ですね」 青嵐が嵐帝を駆り、空からの偵察を行う‥‥そこから数秒。 「此方でしたか‥‥」 「よし、反撃すんぜ!」 三笠と酒々井が到着、そして地響きと共に猪達が現れた。 「来た、来たわ来たわ!」 「宝子さん、前に出ないで」 嵩山が嵩天丸を後ろに下がらせ、剣の柄を握りなおす。 「武具を物として使うのではなく、武具を己が身の一部とし、拳足の如く意のままに操る‥‥これこそが泰武術の極意なり。その業、とくと味わわせてあげるわ」 最も先に仕掛けたのは嵩山、突進を止めない猪へ気功波を放つ。 たたらを踏む猪へ、三角飛びで白蛇が、浮遊能力でオトヒメが後ろへ回る。 流星錘が一体を絡め取った―――そこへさつなが蹴りを叩きこむ。 「む‥‥培った弓術、とくと見よ!」 ミストラルを急降下させ、バロンは着地と共にヘビークロスボウを構え、放つ。 皮と肉を裂く鈍い音と共に、反対側から飛び出す矢。 「来るな、鎗真!」 急所を外すように気を付けながらも、わざと攻撃を受けた酒々井は飛び出してきそうな鎗真へ制止をかけ、飛龍昇を叩きこんだ。 依頼人へ牙を向けようとした猪は、突き刺さる矢とその衝撃に崩れ落ち絶命する。 「リロードするっ!援護を頼む!」 「了解しました」 露羽はバロンの言葉に返答し、打剣を使用した手裏剣を、放つ。 「そう言えば、貴女は大丈夫ですか―――少々、私の一撃は派手なものが多いのですが」 青嵐が飛び出していこうとする依頼人を抑えながら問いかける。 「大丈夫大丈夫、皮剥ぎはプロフェッショナルだから」 「皮剥ぎは‥‥まあ、退治後に置いておいてもらいましょうか」 依頼人の返事に苦笑しつつ、三笠が散らばり始める猪を咆哮で引き付けた。 「じゃ、こっちも連携行くぜ、八雲」 「任せておくのじゃ!」 猪の死骸を軽く越え、祁笙が骨法起承拳を牙の下、喉元へと叩きこむ。 嵩山が乱剣舞で舞うように二度、斬りつけた―――遅れて地面が赤く染まる。 「止めなのじゃ―――成敗!」 八雲が爪骨で傷ついた部分をさらに攻撃する、決めポーズと共に、猪は崩れ落ちた。 「赤が―――」 赤を嫌う白蛇が小さく呟いた、痛ましそうに表情を動かすが確実に術を紡いでいく。 オトヒメの体当たりに続いて、水柱があがり水遁が猪の動きを止めた。 「扇は風に属するもの、であるからには使う技はこれでしょう」 青嵐の持つ、鳥の羽を集めて作られた扇が風に揺らめく。 呪符を纏った斬撃符は異形の姿を持ち、猪へと向かう。 逃げられない速さに、猪は為す術もなく、崩れ落ちる―――痛みすら感じなかったに違いない。 「残り、二体ですか‥‥おされてますね」 それらしい、呟きを口にした露羽が黒霧丸へと視線を移す。 一瞬のやり取りで直感的に互いの考えを把握した‥‥それは、幼い頃からの相棒、故かもしれない。 白鞘を持ち、踏み込むと同時にわざと牙にかかる露羽。 「ああっ!危ない、危ないって!」 「抑えて、宝子さん‥‥」 演技と言うのもなかなか難しい―――何故なら、依頼人にとっては本当に起こっている出来事なのだから。 嵩山が依頼人を背に庇いつつ、距離を持たせる。 「が、頑張って!」 応援している依頼人だが、それは敵を引きつける行為に他ならない‥‥開拓者達の思考が一致した。 「(早く終わらせる)」 低いうなり声が響き、黒霧丸が露羽を庇って地を蹴った、そのまま鋭い爪を使って攻撃する。 小さく慰めるように鳴いては黒霧丸が主に寄り添う、礼を述べて露羽が立ちあがった。 「ありがとう‥‥さて、反撃に出ましょうか」 「そうじゃな、相手も辛かろう」 バロンが依頼人へ迫った猪の後ろをバーストアローで射抜く。 「飛んできましたね‥‥」 飛来した猪を三笠が刀の背で薙ぎ払った―――そのまま、祁笙が疾風脚を叩きこむ。 「うおおっ!」 色気のない声を上げ、硬直する依頼人を嵐帝がしっかり運んで後ろに庇う‥‥まるで親猫が子猫を移動させる時のようだ。 「オトヒメ、頑張って!」 流星錘で絡め取りながら、オトヒメに体当たりを指示して白蛇は突進をやや苦戦気味にかわす。 バロンが強射「朔月」で猪の目を射る。 そこに木の葉が突如舞い、木葉隠で目くらましをした露羽が白鞘で切りつけ止めを刺した。 「じゃ、見せ場貰うぜ!」 酒々井の宣言と共に開拓者達が頷く。 何かを察したのか、逃げようとする猪へ三笠が咆哮で引き付け、その牙を一閃。 「どんな壁でも叩いて砕く!どんな敵でも殴って倒す!八極門―――」 酒々井が巨体の猪を真正面から受け止める、怒り狂う猪に三回‥‥泰練気法弐にて攻撃を。 最後に大きな咆哮を上げ、猪は崩れ落ちた。 「す‥‥すごい、すごい!」 ポカンと見ていた依頼人、改めて状況に気づいて大きな拍手を送る。 かなり手加減して戦っていた開拓者達だったが、あまりに無邪気に喜ばれるとそれはそれで毒気も抜かれると言うものだ。 怪我自体は殆ど無いが、精神的なものは非常に使ったように思う。 「と‥‥毛皮と肉を被害にあった村に渡しませんか?―――我々も人々の生活で生きている存在ですし、これ位のサービスはいいでしょう?」 提案したのは青嵐だ。 五体の猪は流石に食べきれる気はしない、それにいずれもかなりの巨体である。 「うん、いるって‥‥言ってた」 「そうですね―――大事な食糧でしょうし」 「まあ、俺達じゃどうしようもないしな」 「ささやかなサービスなのじゃ!」 白蛇に続き、露羽や祁笙、八雲が頷く。 かくして、猪達の行き先は村へ‥‥と言う事になったのだった。 ●絆を胸に 猪の血抜きが終わった後、依頼人宅にて開拓者達はもてなされていた。 「オトヒメ、頑張ったね―――怖かったけど、頑張ったね」 白蛇は血の汚れを落とした後、庭に造られた池の傍でオトヒメと戯れていた。 依頼人の趣味だと言う横笛を借り、その笛を奏でている。 優しく撫でられたオトヒメは非常に嬉しそうに、笛の音に合わせながらその鳴き声を上げていた。 「孤独なシノビとは言え、やはり仲間とは良いものだと感じます‥‥これは、開拓者だからこそ味わえるものかもしれませんね」 他の開拓者達への労いを終え、黒霧丸を撫でながら露羽は切れ切れに聞こえる笛の音に耳をすませる。 「今回もよく、やってくれました。これからも、一緒に戦いましょう」 軽く首の下を撫でて礼を言う、決してべた付かないのが彼らのやり方、なのか。 「おお、意外と大きな魚もいるのじゃ!」 池を覗き込んだ八雲が池を泳ぐ魚にえさを投げる。 「落ちるなよ」 それを見ながら祁笙は空を眺めた。 ―――いつの間にか、青かった空は紫に変わっている。 「ミストラル、本日はよくやった」 離れた場所でちょっかいをかけられ、驚いているミストラルに声をかけつつ慰めながらバロンは口を開いた。 「お疲れ様です―――後は、どう動くか、ですね。さつなも‥‥よく我慢しました」 ちょっかいをかけて回るさつなをいさめては、甘噛みされて三笠が苦笑する。 人見知りのさつなが攻撃しないか、非常に心配していた彼であったがそれは杞憂に終わったらしい。 いつもより甘えてくる姿は心配の裏返しなのかもしれない。 「心配性だな」 終わってから、ずっと寄り添ったままの鎗真の首筋を撫でながら酒々井が苦笑する。 「ま、心配すんなって‥‥ピンピンしてるだろ?」 小さく鳴いた鎗真の頭を撫でては慰める―――この状態は暫く続くのかもしれない。 「今日は御苦労さま、嵩天丸‥‥そう言えば、さっきから宝子さん、部屋に閉じこもったままだけど」 大丈夫かしら、と嵩山は呟く。 それに呼応するように、嵩天丸が寝そべっている木の下で大きな欠伸を返す。 「血抜きの時は元気でしたが、血にあてられたという事はないと思うのですが―――と、嵐帝、遊んできてもいいですよ」 忠実に傍にいる嵐帝を軽く叩いて、青嵐が輪の中に促した。 恐る恐るさつなや、ミストラルの輪の中に入っていく相棒を見ながら視線を移す。 ‥‥いきなり、庭に面した扉が開く。 「決めた!申し訳ないけど、売り払うわ、この家」 「いや、簡単に決めていいのかよ‥‥言っておくが、やった後は戻れないからな?」 祁笙の言葉に、依頼人は大きく頷いた。 「勿論、家と畑を買うお金位は持って行くわ!」 「っと‥‥一体、どういう結論に走ったんですか?」 タックルとばかりに抱きついてきたさつなを宥めながら、三笠が問いかける。 「畑や、自然や、人や獣‥‥私の小説にはそれが欠けてたのよ」 やっと気付いたわと悦に浸る依頼人の言葉を開拓者達は苦笑しつつ、聞く。 「後悔する事無く笑えるなら、それに越したことはありませんよ」 青嵐が頷き、天儀人形を動かす。 「そうね、お見合いは断るの?」 嵩山の言葉に、依頼人は続けた。 「お金無しで構わないのだったら、お受けするけど」 「世間はそれ程、甘いとは思えませんが」 露羽はやや厳しい口調で言うが、それにも止まらない。 「結婚は人生のパートナーを決めるようなものじゃ」 バロンが続けた‥‥という彼も、家庭で喧嘩が勃発すると家が破壊されるのだがそれも仲がいい事の表れ。 「やる気がありゃぁ、出来ない事はねーよ」 精神の強さで道を切り開いてきた酒々井が言った。 「大切な‥‥仲間、見つかると‥‥いいね‥‥」 白蛇がオトヒメを抱きしめながら、呟く。 それに大きく頷いて依頼人は拳を握りしめるのだった。 その後、依頼人がどうなったのか、開拓者達にはわからない。 だが、その後‥‥開拓者ギルドに届けられた達筆な書簡を見る限り、無事なのだろう。 そこに綴られたのは感謝と畑の具合、そして八割を占める惚気だったのだから。 |