【迎春】祓えぬ魔
マスター名:白銀 紅夜
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/01/25 08:12



■オープニング本文

●祓いの儀式
 新たな年を迎える‥‥それはとても目出度い事。
 何処かピンと張りつめた空気の中、誰もが少し畏まって新春の挨拶を述べる。
 大きな門松に、早咲きの梅の花。
 一年が良い年になるように、願いを込めて祝いを行う。
 勿論、それはこの家、花菊亭家でも同じ。
 屋敷内の一室で、揺れる甘い香りを大きく吸いこみその少年、花菊亭跡取りである花菊亭・伊鶴は微笑んだ。
「わぁ、いい香りですね」
 最上級のものを用意しました、そう言って横に控えるのは彼の侍従、波鳥である。
「花言葉は‥‥忠実、でしたか?」
「ええ。高潔な心と言う言葉もありますね」
 次々と上げられる花言葉を聞きつつ、伊鶴は視線を庭へと移した。
 視線の先は、屋敷内で一番広い庭。
 毎年恒例の破魔の儀式だ‥‥一番よく見える席には花菊亭家当主、伊鶴の父親である。
 馬に騎乗して矢を射るのは姉の花菊亭・有為。
 有為の侍女である秋菊を始めとして、弓の心得のあるものが弓を引く。
 パンっと小気味よい音と共に的の中央へと吸い込まれる破魔の矢。
「さあ、伊鶴様‥‥そろそろ戻りましょう、これ以上はさすがに怒られます」
 確かにと頷いて足を踏み出した伊鶴は室内にも関わらず、ド派手に頭を木の板に打ち付ける。
「い‥‥いたた、あ、えっと、どうして此処へ‥‥一人で来られたのですか?」
 目の前にいるのは可憐な少女、かつて幼い頃に出会い、そして密かに思い続けた人物。
 以前、花と詩を綴って捧げた―――布越しに逢う事しか叶わずとも、しっかりその姿は瞼の裏に焼きついている。
「―――伊鶴様、お気を確かに。姫様が此処におられる筈がありません、アヤカシの類でしょう」
 真っ赤な顔をした伊鶴を立ち上がらせ、背後に庇って波鳥が声を上げる。
「お屋形様、有為様‥‥アヤカシが現れたようです!」

●紅白の薄絹重ね
 そのアヤカシは紅白の薄絹を重ねた、綺麗な少女。
 白魚のような手が鋭く変容し、伸びてくる―――伊鶴はそれをどこか他人事のように見つめていた。
「伊鶴!‥‥波鳥、父上と伊鶴を頼む。秋菊、厳戒態勢を通達、共に開拓者ギルドへ連絡を」
 狙眼に遠くまで届いた矢がアヤカシの少女の頬を掠める。
 僅かに目を細めたその少女は歩みを止めず進めていく、一歩、二歩―――その前に立ちふさがったのは伊鶴。
「姉上、彼女は―――あの方です、やめて下さい!」
 帯刀した刀を抜き、伊鶴は言い放つ。
 苦い顔をした有為は波鳥を振り返る、口を開いた一瞬。
 伊鶴の刀が有為の着物の裾を切り裂いた。
 迷いのない一太刀、零れおちる血が綺麗に磨かれた床を紅に染める。
「波鳥、昏倒させてもいい、連れて行きなさい」
 表情を変えることもなく、有為は矢を重鎮した。
 ところどころ響く悲鳴、秋菊が有為の元へ戻ってきては告げる。
「その他、瘴索結界により、子供型5体確認しました―――兵達が食い止めています」
「わかった、秋菊、お前は持ち場に戻りなさい」
「既に開拓者ギルドには通達済みです、使用人はお屋形様と共に離れへ向かわせました」
 持っていた薙刀の鞘を払って秋菊は構える。
 視界の端、ひたすら暴れる伊鶴‥‥そして侍従に連れられ離れへと消える父の姿、横に立つ秋菊を見て、有為は静かに呟いた。
「‥‥‥‥―――」


■参加者一覧
青嵐(ia0508
20歳・男・陰
葛切 カズラ(ia0725
26歳・女・陰
虚祁 祀(ia0870
17歳・女・志
暁 露蝶(ia1020
15歳・女・泰
天目 飛鳥(ia1211
24歳・男・サ
真珠朗(ia3553
27歳・男・泰
神鷹 弦一郎(ia5349
24歳・男・弓
菊池 志郎(ia5584
23歳・男・シ


■リプレイ本文

●来たる救援
「お屋敷に、アヤカシですって‥‥?!一体どこからどうやって」
 内容を聞いて真っ先に口を開いたのは暁 露蝶(ia1020)だ。
 堅牢に守られている筈の屋敷の中に、突如アヤカシが出没するなど考えられるのだろうか―――一瞬、考えた彼女は静かに首を振る。
 詮索は後、何よりも急ぐべきは依頼人の無事。
 同じく疑問に思い、一瞬だけ不思議そうな色を顔に宿らせ笑顔で塗り替えた菊池 志郎(ia5584
「新年早々のお客がアヤカシなんて災難です―――」
 その横では悲壮とも言える表情を浮かべた少女、虚祁 祀(ia0870)が刀の柄を握り締める。
「有為、すぐ助けに行くから、何とか持ちこたえてて‥‥!」
 お急ぎ下さいと急かす花菊亭家からの使者が用意した馬に乗り、開拓者達はついて行く。
「(破魔の儀式でアヤカシが出てくるとか呪われてるんじゃねーですかねぇ‥‥この家。口が裂けても言えねぇですが)そもそも口が裂けたら痛くて言えないって話でして。一飯のご恩もありますしね。さっさとお仕事にかかりましょうかねぇ」
 馬を駆りながらボソリと呟いたのは真珠朗(ia3553)である。
 彼の自己ツッコミを聞きながら口を開くのは葛切 カズラ(ia0725
「あら、厄払いの儀式の時に厄が現れたって事はこの厄を祓ってしまえば今年一年平穏無事って事じゃない」
 そんなに悲観するものでもないわよと付け足す。
「しかし、破魔の儀式の最中にアヤカシが現れるとは‥‥なんとも皮肉な話だ」
 天目 飛鳥(ia1211)がややぶっきらぼうな口調で言う―――淡々とした言葉だが、その声音には気遣いが滲んでいた。
「ええ‥‥さて、無粋な闖入者には、お引取り願いましょうか?」
 そうして銀の髪越しに言いきったのは青嵐(ia0508)しかし彼の唇が動いている訳ではなく、不思議な顔をする使者へ振り向き自分の名を告げる。
「青嵐です、少々家を壊してしまうかもしれませんが、構いませんか?」
 納得した使者が首肯するのを目端で捉えながら神鷹 弦一郎(ia5349)が中へ踏み込む。
「よし、まだ無事だな‥‥良かった」
 そう言って矢をつがえて前方、追いかける子供型のアヤカシへと射る神鷹、伊鶴に向かって手を伸ばした子供型の顔がぐるりと回り奇怪な笑みを浮かべる。
 その隣を早駆を使用した菊池が通り過ぎ、波鳥の手を煩わせている伊鶴の元へ向かう。
 遅れて響き渡った呪声、頭に直接響くその声に菊池は眉をひそめながらも暴れる伊鶴の攻撃を刀で受けた。
「ギルドからの救援だ!」
「安心してあたし達に任せて下さいね」
 天目と暁の言葉に納得がいったのか、礼を紡ぐ波鳥‥‥その横で菊池はやっと伊鶴の刀をはじき飛ばして手を引く。
「ふむ、ずいぶん目が良さそうだな‥‥少し面倒そうだ。まぁ、端から潰していけば問題ないだろう」
 神鷹が仏頂面のまま呟き、即射で矢を装填し放った。
「―――特に操られてはいないみたいね」
「操られてなんていません‥‥僕はあの方を助けなければ!」
 瞳を見て、伊鶴の瞳に生気を感じ取った葛切。
 安心させるように静かに呟いて、小さく笑い呪殺符を構える。
「(思い込んではいるみたいだけれど‥‥早く片付けちゃいましょ)そんなに有っちゃ見え過ぎで逆に辛いでしょ?楽にしたげる」
 暁の叩き込む鋭い蹴りの後ろ、闇が子供型の近くで爆ぜた。

●少女は嗤う
 一方、青嵐、虚祁、真珠朗の三人は少女型アヤカシが現れたと言う広間へと向かっていた。
 広間へ近づくにつれて人は少なく、ガランとしている。
「ただっ広い家ですねぇ、相変わらず(ま‥‥セコくヤらせてもらいますよ。相応にね)」
 肩身の狭さを感じながらも割り切れない思いを込め、口を開いた真珠朗の言葉を聞きつつ、虚祁が周囲を見回す。
 来た事があるとはいえ、他人の家で、こうも広いとなると迷ってしまう。
「こっちだとは思うのですが―――」
「そこを、右へ、お願い、します」
 使者の道案内を受けながら、虚祁が先頭を走る。
「こちらですね、わかりました‥‥後は、私達でいけると思います」
 青嵐の言葉に真珠朗も頷く。
「ですねぇ、兄さんそろそろ限界みてーですし」
 膝をついた使者を見ながら先へ進む―――置いて行くのに抵抗がないわけではないが、かと言って連れていって死なれても困る。
「でも、私達と一緒の方が安心かもしれない」
 虚祁の言葉に使者は頷いて、戦いますと口にする。
 肩を竦めて真珠朗はわかりませんねぇと一人呟いた。
「有為!」
 一番先に広間へ辿りついたのは虚祁。
 両手に持った、刀を抜きながら有為と秋菊の姿を確認し、無事であることを察せば大きく踏み出して紅蓮紅葉を纏わせる。
「虚祁、だったか―――秋菊を頼む!」
 強射「朔月」を使用しつつ、有為が声をあげた。
 続いて否の意思を告げた秋菊の言葉を聞きつつ真珠朗が口を開いた。
「ま、問答するより戦った方が早いって話で」
「手当てに回って貰えますか?」
 青嵐の言葉に渋った様子の秋菊だったが、やがて是の意思を告げた。
 それを見届けて青嵐は隷役を使用し、呪縛符を放つ。
 呪布で覆われた異形の式は一目散に少女型へと向かった。
 やや斜めから、決して目を合わすことのないように気をつける―――魅了の術がどのようにしてかけられるのかはわからないが、警戒し過ぎても足りない筈。
 絡め取られた少女の表情が酷く歪んだ‥‥そのまま少女の腕は音もなく変形していく。
 少女の槍のような腕をかわしつつ、真珠朗が骨法起承拳を叩き込んだ。
 響き渡る少女の呪声‥‥頭が痛むのを感じながら七節棍を操り、更に打撃を加える。
 呪縛符で動きが鈍った少女の本体に攻撃を打ち込むのは難しくない。
 虚無を湛えた銀の瞳は確実に弱い所を見抜いていた。
 銀杏を使って鞘へ刀を収めた虚祁、居合で少女の片腕を切り裂く。
 血を流すこともなく、痛みを感じる事もないその腕は切り裂かれてもひるむことなく虚祁の肩を割く。
 簡易手当を受けた有為が攻撃の為に矢をつがう。
「少し、失礼しますね―――」
 それに気づいて青嵐が口を開く。
 その提案に有為は一つ、頷いた。

●呪声が紡ぐ助け
「縛られたなら『らめぇ』って言って悶えなさい『らめぇ』って」
 離れの廊下では葛切の呪縛符、細い触手が子供型を絡め取っていた。
いくつもの目が瞬くが口は固く結ばれている。
「さすがにそれは無理だと思うわ‥‥」
 口にされてもそれはそれでどう対応するべきかと思いつつ、暁が動きの鈍くなった子供型に旋風脚を叩き込む。
「(タス、ケテ‥‥)」
 頭に響き渡る幼い声、引き裂くような呪声の言葉に暁は一瞬ためらうが、そのまま返すように踵で攻撃を与えた。
 幼い見かけと声に騙されてはいけない―――それは今までのアヤカシとの交戦で彼女は勿論、他の開拓者達も身につけている。
 その後ろから、鷲の目を使用した神鷹の矢が空気を切り裂き子供型に突き刺さる。
「(ドウ、シテ‥‥)」
「聞かれても、な―――さて、次は誰から射抜いてやろうか」
 倒れていく子供型を見ながら、即射で矢を装填し殺気に気づいて振り返る。
 一瞬ブレた照準、切り裂くような子供型の攻撃にたたらを踏むが矢を放つ。
 瞬時に感覚を取り戻し攻撃する、それは幼い頃から戦士として育てられた彼の本能にも似た技術だった。
「伊鶴さんは離れに送り届けました」
 雷火手裏剣が空を切り、菊池が笑顔のまま告げる。
「巫女達が解術を行っている」
 大きく踏み出した天目が炎魂縛武を使用、炎のような光をまとった刀を袈裟斬りに振り下ろし、子供型を切り裂いた。
 残りを見れば後三体。
「急ぎて律令の如く成し、万物悉くを斬刻め―――逃げたかったら膝をついて奉仕なさい!」
 無くなった呪殺符を装填し、葛切が矢じりの様に変形させた斬撃符を放った。
 逃げようとする子供型に刺さり、一足早く動き退路を塞いだ暁が飛苦無で攻撃する。
「少女型の方へ援護に行ってくる」
 天目が口を開き、巫女達を連れて廊下を滑るように駆けた。
「早く片付けよう」
 一気にカタをつけようと、連環弓で矢を二本装填し神鷹は放つ。
 二本の矢が子供型に刺さるが、それでも子供型は歩みを止めない。
 死角に回ろうとするのに気づいて、菊池は三角跳で移動すると刀を振り下ろす。
 倒れる子供型に暁の放ったダーツがトドメを刺した。

●散る紅白
 ジリジリと迫る少女型、後退する開拓者と有為、秋菊。
「(このまま庭に誘き出せれば幸いですね)」
 青嵐は内心呟いて斬撃符を使用する。
 あまり効いてないようにも思えたが、既に次の動きは考えていた。
「うっ‥‥!」
 突如、崩れ落ちる秋菊。
「秋菊、大丈夫かっ!」
 有為が直ぐに駆け寄り、助けようと手を伸ばした。
「まって、有為離れて!」
 虚祁が直ぐに気づいて滑り込み、振り上げられた薙刀を刀で受け止める。
 呟き続ける言葉に耳を澄ませれば、呟いているのは誰かの名前で。
「げに恐ろしきは人の業。夜の闇より、なお昏い。くわばらくわばら」
 有為と少女型の間に入り込みつつ、真珠朗が呟く。
 空気撃を叩き込むが、なかなか守りが堅い。
 ニタリと笑ったままの表情、耳まで裂けて赤い口が嬉しそうに見えた。
「(口が裂けるって、こう言う事でしょうかねぇ)」
 頭の中で響き渡った呪声に眉を顰めて生命波動で回復しつつ、そんな事を思う。
「秋菊、目を覚ませ‥‥私だ、有為だ!」
 必死に目を覚まさせようと声を上げる有為に、ゆっくりと虚祁が言った。
「大丈夫」
 妙に落ち着いた声音は無責任ではなく、強い意志を孕んで響く。
「‥‥ああ」
「丁度いい時についたな―――」
 駆け込んできた天目が秋菊を捉え、そのまま少女型にフェイントを放つ。
 ほとばしる殺気に少女型が引きつけられ、槍のような腕を伸ばす。
 それを払って一歩下がった。
 遅れて駆けつけたのは子供型を担当していた開拓者達。
 早駆と三角跳を駆使して一番に乗り込んだ菊池が風魔手裏剣を放つ。
 それを避けようと動いた少女型の身体に鷲の目で命中率の高まった矢が放たれる。
 放った本人、神鷹は涼しげな表情で少女型を見ていた。
 そこに真珠朗の七節棍が叩き込まれる。
 少女型は下がると、間合いを取ったがその後ろ、暁は呪声に頭を顰めながらもダーツを放つ。
 他の開拓者達もフェイントや殺気で引きつけ、徐々におびき寄せた。
 自然と床から庭に降り立つ少女型は近くにいた天目へ呪声を放つ。
 それを見て青嵐が銀の髪の奥で青と金の瞳を細めた。
「風姫、汝が父祖たる気、吹戸に坐す気、吹戸主と言う神の下、諸々の罪穢れを一切合財ことごとく、その風にて祓い給え‥‥」
 斬撃符に隷役、そして気力を込めたその式は呪布で覆われた異形。
 その攻撃を受けて笑みを湛えたまま少女型が崩れ落ち、二度と動くことはなかった。

●残されたモノ
「これは―――」
 一番先に、気づいたのは青嵐だった。
 有為を始めとした花菊亭家の人間の無事を確認した後、気になっていた原因を探るべく部屋を見ていた開拓者達。
「どうしたの‥‥?」
 暁が青嵐の言葉に気づいて口を開いた。
「藁人形のようです」
「使用済みじゃない」
 ほら、と指を指したのは葛切、所々血痕が付着し髪の毛が絡まっている。
 明らかに怪しい物体にくわばらくわばらと言いつつ真珠朗は少し距離を置く―――君子危うきに近寄らず。
「此処にいたのか、手当を行いたいのだが」
 一足早く巫女達に連れられて手当を受けていた有為。
 何やらきらびやかな衣装は心配をかけた詫びに着せられたと言うのが本人の弁。
「あの、有為さん‥‥こんなものが見つかったの」
 暁が内容を話し、藁人形を見せれば途端に険しい顔を浮かばせる。
「そう言えば、あたし誰かの名前を聞いたんですけどねぇ―――」
 別に人の腹を探る訳ではないと付け足しつつ、秋菊から聞いた名前を口にした真珠朗。
 更に険しい顔で有為が固く口元を結んだ。
「わかった、父上のお耳に入れておく‥‥」
 そう言って足早に戻っていった有為。
 遅れて侍女が開拓者達に向かって礼を述べては手当と称し、きらびやかな衣装を見せた。
 一方、離れでは神鷹と菊池が伊鶴の元を訪れていた。
「怪我などはないか?」
「手荒な事をしてしまってすみません」
「はい、大丈夫です‥‥」
 案の定、声には元気がなく、表情も暗い。
 姉上と呟く姿は二人の思ったとおり、かなり落ち込んでいるようだ。
「‥‥次は、もう少し楽しい依頼で会えると良いな」
 珍しく笑みを浮かべて口にした神鷹の言葉にキョトンとした表情を浮かべる伊鶴。
「悪いのは、大切な人を思う心に付込むアヤカシですから。強くなりましょう」
 続いて菊池の言葉を受け、二人の言葉を噛みしめる。
 やがてその表情は笑顔へと変わった。
「はい、僕、絶対に強くなります―――皆さんや姉上、父上、妹やあの方の力になれるように!」

●再開された破魔
「改めて破魔の儀式のやり直しをしてみたら、どうかな。こんな事があったからこそ。大丈夫、もう何がきたとしても邪魔はさせないから」
 虚祁の言葉に暫く考え込んでいた有為だったが、当主不在でよければとささやかな儀式を始める事を宣言。
 明らかに侍女達に遊ばれたとわかるきらびやかな衣装をまとい、開拓者達は破魔の儀式に参列していた。
「天儀の服も素敵ね」
 暁が薄い緑に紅を重ねた衣装の裾を摘まみながら笑みをこぼす。
「私も嫌いじゃないわ―――なかなか話のわかるコだったし」
 と口を開いたのは葛切、妖艶に着崩した姿を見て真っ赤になっている伊鶴をからかう。
「でも、また儀式が再開されて、よかった」
 やや二人より動きやすい格好をしているのは虚祁、しっかり帯刀している。
「この衣装、どれくらいするんですかねぇ」
 真珠朗が自分に着せられた衣装をマジマジと見る。
「俺は忍び装束でよかったのですが」
 苦笑しつつ菊池が口を開き、同じくと神鷹は溜息を吐く。
「皆さん、お疲れ様です」
 青嵐が口を開いてはねぎらうが、当人も天儀人形もきらびやかな衣装だ。
「このような席にくるとは思わなかった―――」
 矢を射る為、他の開拓者達とは少し違って動きやすい服をした天目が呟いて登場する。
 巫女の祝詞が上がる中、口上の後に的を目がけて矢を放った。
「負けてられないな」
 そう言って騎乗した有為が当主代理として座っている伊鶴へ一礼、同じく矢を放つ。
 同じく的へ刺さる―――それを見届けた伊鶴は丁寧に労いの言葉を述べ、開拓者達の方を向いた。
「皆さん、祝杯もありますよ!」
 倉庫に転がっていた物ですけれど、と付け足す伊鶴に有為も頷くのだった。
 にゃぁ、と猫が鳴く。
 それに気付いた青嵐が振り向いては、その姿を映す。
「姉上、兄上を助けてくれてありがとうございます」
 そう言って走っていく市女笠を被った娘。
「涙花―――私達の妹だ」
 誰かと問いかけた開拓者達に静かに有為は告げたのだった。