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■オープニング本文 ●風よりも速く 「あー、じいちゃん、急がないと‥‥」 元気な声が辺りに響き渡る。 耳まですっぽりと覆う帽子を被った少女、ナツメは祖父であるクスギを促した。 「早く届けなきゃいけないんでしょ?」 「そうなんじゃが‥‥些か不安じゃの」 ため息をついてクスギが小型飛行船の調子を確かめる。 いつも護衛としてついてくるナツメの両親は生憎、風邪で臥せっていた。 だが、この荷物は早く届けなければならない。 煌びやかな宝石細工を見つめてため息をつくナツメを見て、クスギは苦笑する。 行商人、安いものを速くお届けします。 そうは言っても実際のところ、櫛一つ買ってやれない。 小型飛行船の整備や防具などで消えてしまう。 ずっと昔にプレゼントしたペンダントだけがナツメの唯一の装飾品。 「あ、何でも屋さんがいるって聞いたよ―――そうそう、神楽の都の開拓者ギルドだ」 ポンと手をうってナツメが言った。 「とは言ってものぅ‥‥」 渋る様子を見せるクスギに苦笑しつつナツメはうろ覚えのギルドの方へと向かう。 「大丈夫大丈夫、きっと、親切な人がいるって」 風よりも早く届けるならね、と付け足して走っていくナツメの姿を見ながら、クスギはため息をつくのだった。 ●真心と共に 「と、言うわけなんですけど‥‥このくらいで大丈夫ですか?」 開拓者ギルドに訪れたナツメ、こっそり溜めていた金額を受付員に提示する。 口調は丁寧だが、内心幸薄そうだなぁなんて思っているがそれは口にはしない。 一応、商人の娘である。 「はぁ‥‥まあ、大体平均の金額だと思いますよ、勿論、開拓者達が決める事ですが」 寒さで痛む腰をさすりながら受付員が口にする。 貼紙を出すための墨をすりながら、ナツメに視線を移した受付員は、目を見開いた。 「そ、それは恋愛成就のお守りっ!」 「はい?いや、これ、じいちゃんがくれたものなんですけど‥‥って、何引っ張ってんですかーっ!」 「いや、つい、その、愛するそりゃあ、美しい人が‥‥」 口上が始まる前に扇子で叩かれて沈黙する受付員。 「報酬と依頼内容はこれでいいのね」 「あ、はい‥‥よろしくお願いします!」 変な人達だなぁ‥‥そんなことを思いながら、ナツメは頭を下げるのだった。 |
■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163)
20歳・男・サ
高遠・竣嶽(ia0295)
26歳・女・志
志藤 久遠(ia0597)
26歳・女・志
滝月 玲(ia1409)
19歳・男・シ
八十神 蔵人(ia1422)
24歳・男・サ
羅轟(ia1687)
25歳・男・サ
神楽坂 紫翠(ia5370)
25歳・男・弓
ブラッディ・D(ia6200)
20歳・女・泰 |
■リプレイ本文 ●青と白 真っ青な空、雪混じりの風は白と青の対比を明確にし、開拓者達の心を晴れやかにする。 「初の空戦‥‥ま、思いっきり暴れるとするか。な、翡翠?」 そう呟いて、チラリと高遠・竣嶽(ia0295)に視線を向けたのはブラッディ・D(ia6200)だ。 控え目に志藤 久遠(ia0597)の方を見ては、ギュッと拳を握る。 気合い十分、ライバル視する高遠に負けるわけにはいかない。 「‥‥なんでしょうか?」 一方、相棒である甲龍、常盤の首を撫でてやりながら高遠は首を傾げた。 何やら強い視線を感じるものの、意味がわからない―――横で命綱を結ぶ志藤に視線を移せば、既に準備は完了とばかりに準備を終えている。 「私達の力が助けとなれれば幸いですね」 もちろん、ブラッディの想いを知りながらも妹のような印象を抱いている志藤は些細な心情など知らず呟く。 「そうですね―――さつなはやんちゃ盛りで、心配ですが」 心配そうにつぶやいたのは三笠 三四郎(ia0163)さつなと名のつく炎龍に騎乗する。 「大丈夫ではないかな、少なくとも、相棒はわかると思うよ」 そう言ったのは滝月 玲(ia1409)だ。 命綱の代わりに鎖分銅を巻きつけている。 「そう‥‥だ。我等‥‥一心同体‥‥太白、頑張ろう」 相棒の太白の首を叩いた羅轟(ia1687)頭から齧られるのはご愛敬。 もしかしたら齧りやすい位置だったのかもしれないが、それは太白だけが知っている。 「しかし、空中戦ですか?‥油断しない方が‥‥良いようですね――さて、依頼人が」 まだ来ませんね、と付け足して神楽坂 翡翠(ia5370)は厳しい顔で呟く。 「すみません、遅れました!」 大量の荷物を抱えて、郊外に小型飛行船を下したのは依頼人、ナツメとその祖父、クスギだ。 「ふむ、色男が多いのぅ、ワシの若いころにソックリじゃ‥‥」 「じいちゃん、それはいいから!あ、依頼人のナツメです。こっちがじいちゃん、あたしの祖父です」 「クスギです、いやぁ、いつもナツメがお世話に―――」 ふぉっふぉっと声をあげてはシワに包まれた口を開くクスギ。 「この度はご利用頂きありがとうございます」 銀髪に銀の瞳をした少女、八十神 蔵人(ia1422)の相棒、人妖の雪花だ。 「‥‥なんかちゃうぞ、それ」 いつもはボケとツッコミ、逆の筈だが思わず突っ込む八十神。 それはさあ、と促した雪華に流された。 「‥‥見事な連携技、私達も見習わなければなりません」 真面目な声で言い切った志藤、その言葉にブラッディの手が上がる。 「じゃあ、俺と連携技と言う事で!」 「連携は大切ですね―――私達も大切にしたいものです」 遅れて呟いた高遠、ブラッディが対抗魂を燃やす。 「(‥‥仲、悪いのかしら?)」 ナツメは苦笑しつつ、視線を荷物に移す。 「お手伝いしましょうか?」 神楽坂の手が上がり、続いて滝月も頷く。 「そうだね‥‥」 「いえ、皆さんの防寒着なので―――」 少し失礼、口にしてナツメは飛行船の中に広げていく。 「あ、ありがとうございます‥‥防寒着、です、よね?」 思わず口ごもったのは三笠、その前に広がるのはひたすら長い、毛布。 「いや、じいちゃんが‥‥龍も寒かろうと言うので」 「‥‥否、有難い」 高い身長故になかなか合う防寒着の見つからなかった羅轟、満足そうにつぶやいて毛布を巻きつける。 非常に温かそうだ‥‥太白にもかけてやるなど、甲斐甲斐しい。 「うん、まあ、よかった、かな‥‥じゃあ、皆さん、行きましょう!」 羅轟を見ていい体格じゃのぅと笑うクスギを叱咤して、ナツメは飛行船に乗り込んだ。 ●蒼穹を駆ける 開拓者を乗せた相棒、そして飛行船は空を飛ぶ。 一列目に、志藤と篝、滝月と瓏羽、三笠とさつな、ブラッディと翡翠 二列目に、羅轟と太白、神楽坂とスターアニスが位置している。 船に乗り込んだのは八十神と雪華、高遠と常盤。 来るべき敵に備え、警戒する。 「わしは冬の寒空の中、船の上で荒縄を命綱にして見張りやな―――雪華は」 「雪華は船の中でナツメさんの護衛をします」 ビシュっと手をあげて宣言した雪華。 「え‥‥何や、これ?いじめ?」 吹きっ晒しの飛行船に放り出された八十神、雪華曰く女の子同士のヒミツ、らしい。 一人、素振りをする八十神‥‥頑張ってくださいとスターアニスに乗った神楽坂の励ましが聞こえたような気が、した。 『ところでナツメさん、それは恋愛成就のお守りですよね?ということはナツメさんには‥‥まあまあまあまあ!』 楽しげな雪華の声が響いてくる‥‥戸惑いがちにナツメが答えているが、完全に気圧されている。 「おばさん臭いなぁ――――」 そう、ボソリと呟いた八十神にどこからかりんごが吹っ飛んで来てぶち当たる。 ‥‥もう、突っ込まへん、ツッコミ終いや。 心中呟いたか、何とか。 「やっこさん、来たみたいだぜ」 一番先に向かい来る骨龍を発見したのは前衛を務めていたブラッディだった。 直ぐに数を数え―――三体。 情報より少ない、そう、判断すると同時に彼女の相棒、翡翠が啼いた。 「背後から‥‥来たようだ‥‥」 羅轟が呟いてはバトルアックスを構える。 「ナツメ殿‥‥クスギ殿‥‥操縦‥‥専念‥‥を。周囲‥‥我ら‥‥護衛‥‥するゆえ、太白!」 「スターアニス、三時の方角です」 キリキリと弓を引き絞り、放つのは神楽坂―――回避する骨龍。 「これは‥‥ちょこまかと動いて‥‥当てずらいですが‥お二人に近づけ‥‥させるわけには‥‥行きません」 しっかりと背筋を伸ばし、矢を放つ―――放つたびに不安定になる神楽坂をスターアニスが気遣い、バランスを取る。 「頭を撫でさせてやるほど気前は良くないんでね」 滝月の炎魂縛武―――炎を纏う槍が赤い軌跡を描いて薙ぐ。 避けようとした骨龍は瓏羽に踏みつけられる―――素早さでは骨龍の方が上とはいえ、主との絶対的な信頼、それが迷いもなく瓏羽を動かしていた。 一瞬、首を振るう瓏羽―――それを宥めるように滝月がトントンと首を叩いてあやす。 何らかの攻撃を受けたのは間違いない――― 「肉体を使わず、攻撃する―――非物理攻撃があるみたいだね」 伝えられた言葉に、前衛陣は首肯する。 気をつけるに越したことはない、けれど、退くわけにはいかない。 「気をつけましょう‥‥さつな、行きますよ!」 さつなが機嫌が好さそうにまだ、幼い声を上げた。 三笠の咆哮―――引き付けられた骨龍は三体。 「少々射程が足りませんでしたか?」 「問題ありません、私達は三体を引き受けましょう!」 志藤が声をあげて、篝にファングを命じる。 牙をつきたて、そのまま、爪で固定する篝。 身動きの取れない両者を狙う、別の骨龍―――ブラッディの乗った翡翠が爪で引きはがす。 「久遠の窮地に表れるのは俺ってわけよ!」 ブラッディの言葉に礼を返し、志藤は紅蓮紅葉で強化した流し斬りを叩きこむ。 「グッ―――ガガアア!」 咆哮が響き、動きの取れない骨龍の体が傾ぐ‥‥同時に、篝に叩き込む尻尾での薙ぎ払い。 二度目の攻撃を行う前に、ブラッディの七節棍が骨龍の頭蓋を砕く。 撃墜していく骨龍、それを確認して、ブラッディと志藤は別の標的へと移る。 「私は援護へ向かいます、ブラッディ殿は此処を!」 「了解、気をつけろよ!」 一瞬の戸惑い、そして首肯する―――武人としての強さは認めている。 「さつな、耐えて下さい―――」 三笠の持つ、刀が一閃する‥‥幼さの残るさつなだが、鋭利な爪を立て、果敢に挑む。 首筋に噛みつく骨龍を、三笠の刀が払い落す―――左方向から向かってきた別の骨龍は瓏羽が絡みついた。 「その船は彼等の生きる糧なんだ、龍鬼の名にかけて手出しはさせん!」 「行かせられない理由があんだよ!」 続いてブラッディが叫び、瓏羽が動きを止める骨龍に骨法起承拳を叩きこむ。 「見境なく、襲うあなた達に勝ち目はありません!」 三笠が口を開き二度目の斬撃を放った。 絹を割くような断末魔の悲鳴をあげて、二体の骨龍が崩れ落ちる。 一方、二列目、咆哮をあげた羅轟が引きつける二体の骨龍。 「太白‥‥すまない‥‥耐えよ‥‥!」 防御、そして攻撃と素早い相手の動きに翻弄されつつも、太白は小さく啼いては『御意』を伝える。 互いに動きの取れない両者、複雑に絡み合った太白と骨龍―――骨龍の呪われた声、呪声が響く。 太白は小さく呻くが、決して逃がしはしなかった。 「粉砕‥‥以て‥‥滅する!」 羅轟が骨龍に気力を使い、命中を上げた強打を使った斧を叩き込む―――傾ぐ骨龍、離れていく両者を、スターアニスに騎乗した神楽坂の矢が射抜いた。 「決して、逃しはしません」 ゆっくりと呟いた神楽坂にスターアニスが同意するように小さく啼いた。 「ええ、必ず、守り抜きましょう」 未だに、抵抗しようとする骨龍を、志藤の槍が黙らせた。 ●空に流れる戦歌 「残り、一体ですね―――」 呟き、高遠は常盤に乗り迎え撃つ。 冷静に眺めていれば、一際、向かってきた敵が大きい事に気づく。 だが―――恐れてはいられない。 「(空の上ですらアヤカシの脅威からは逃れられぬと‥‥そうであれば、全て討ち払うが我らが役目。必ず無事に送り届けてみせます)」 心中で呟き、接近を待つ。 鞘を帯に挟み、両手で刀を構える―――高遠がフェイントのように突き出した刀を交わす骨龍、同時に、常盤がクロウを叩きこむ。 鈍く、白い鉤爪は銀閃を描き、しっかりと骨龍を固定する。 「常盤、硬質化を―――」 骨龍が尻尾を曲げて、常盤払うようにその胴に叩きつける。 その拍子に、バキリと音を立てて骨龍の骨が離れる―――しかし、動力部分を未だ保ったままの骨龍は一目散に飛行船を狙う。 一番の得物と、知っているのか―――ナツメの操縦する飛行船へと向かう、その距離が縮まる。 「なるほど、噂通り素早い‥‥しかし!」 八十神が大斧「塵風」を構える―――炎魂縛武と共に巌流、そして気力で命中を高める。 出し惜しみはしない。 操縦席へと向かう骨龍、爪が八十神を捉え、八十神も骨竜を捉える。 先に崩れ落ちたのは骨龍、しかし、呪声を放つ。 「バラバラの状態で動かないで欲しいですね」 響き渡る不愉快な声に八十神が眉をひそめ、雪華が神風恩寵を唱える。 「助かったで」 「旦那様は雪華がなんとかしないといけませんから」 涼しい顔で言い切った雪華―――舞いあがろうとして滑稽な踊りを踊る骨龍を冷たく見据える。 高遠の騎乗する常盤に、神風恩寵を掛けて―――周囲を見回そうと、した。 一瞬の、視線の交差‥‥先に動いたのは骨龍だった。 撤退が肝心とばかりに、全力行動、空を駆ける。 「なっ―――」 「どないした?」 「不覚です、術をかけられました」 大丈夫かと続ける八十神に頷く。 「後はこちらにお任せを―――」 「いいところ、見せてやるからよ!」 スターアニスと神楽坂、そして翡翠とブラッディの駿龍に騎乗した二人が追いかける。 「我も‥‥手伝おう」 羅轟が咆哮する―――一瞬の停止、共に、引き付けられたように骨龍が舞い戻る。 抗えない闘争心、呪声を放ちながら突っ込んでくる。 「最後の仕上げ、邪魔ですからとっとと失せてもらおうか」 解けかけた髪を後ろに流しながら神楽坂が矢を放つ、冷徹とも乱暴とも言える口調と冷ややかな瞳。 空を切る矢、ブラッディが七節棍で翼を砕き、しぶとく戦い続ける骨龍の動力源を奪う。 「一昨日きやがれ!」 指を立てて、墜落して行く骨龍に言い捨てる。 ●真心をあなたに 「これで、全て片付けましたか」 神楽坂は矢を重鎮しながら周囲を見回す。 「そう見たいだな‥‥」 ブラッディも頷き、一列目へと離れていく。 敵襲は凌いだ、だが、アヤカシはいつ現れるとも限らない。 それはよく、理解している‥‥開拓者達は視線を合わせ、また警戒へと入る。 「敵襲は退けましたね――――」 高遠は言いつつも、警戒を怠らない。 「そやな、雪華、嬢ちゃんの護衛の方、頼むで」 「勿論です」 頷いて、雪華の銀の瞳があやしく光る――― 「(まだ、お相手を聞き出してませんし)」 何やら冷たいものが背筋をかけるが、八十神はとりあえず、流した。 「なあ、久遠」 「どうしましたか、ブラッディ殿」 一列目、横に並んだ志藤と、ブラッディ。 「お疲れさま‥‥って、そんな目で見るなよ、翡翠」 ジトーという視線を向ける相棒の首を叩いて宥める。 「お疲れさまです―――仲が良いですね」 「久遠もだろ―――なあ、信じてもいいか?」 「(触れて、踏み込んで、抱いて‥‥欲しい、と。そう、思えたんだ)」 内心で呟く思いは口にせず、ブラッディは誤魔化そうかと口を開く。 「ええ、私は―――一度受けた信頼を、裏切りはしません」 「そうか‥‥そう、か―――あ、降りるみたいだな!」 一歩前進か、それとも、平行線か‥‥それでも、今はいいと、思える。 飛行船はゆっくりと目的地を見つけ、降下していく―――クスギの乗る、飛行船が先に。 続いて、ナツメの飛行船。 郊外、そこは静かな、庭園のようだった。 開拓者達も、竜を着陸させる。 息をついて、全員の無事を確認した。 「お疲れさま、じゃ―――いやぁ、頼もしいのぅ!」 クスギが言いつつ、一人一人に礼を言う。 「わしももう少し若ければ―――後、十年位」 「じいちゃん、十年じゃ足りないような‥‥それに、志体と言って父さんや母さんみたいな特殊な体でないと無理だって」 荷物を降ろしながらナツメが呟く。 「元気なのはいいと思うけどな」 ほどほどにと苦笑する滝月。 「皆さん‥‥お疲れ様でした‥‥荷物も無事みたいですし‥‥依頼人も‥‥怪我無い様で‥‥良かったです」 既に髪を纏めた神楽坂が呟いてスターアニスの首を撫でてやる。 気持ち良さそうに目を細めた漆黒に、星の模様をもつ相棒は、他の龍をからかう為の機会を窺う。 「太白、落ちつけ‥‥」 からかわれた太白が何やらスターアニスに言っている‥‥ように見えなくもない。 「常盤もお疲れさまでした、雪華様、感謝します」 「二人とも、お疲れさまでした―――しかしナツメさん‥‥仕事でお忙しいのは分りますが、恋する乙女ならばもう少し着飾らねば」 と言う事で、旦那様‥‥と手を出す八十神の人妖。 「あれ、わし、言いようにこき使われてる?」 「それはいいので、荷物をお寄越しなさい!―――さあ、ナツメさん、これをどうぞ」 そう言って雪華が差し出したのは睡蓮の簪とワンピース。 「わぁ―――綺麗、あ、でもいいんですか?」 目を輝かすナツメ、八十神は笑いつつ、頷いた。 「ええよ持ってき、売っても安く買い叩かれるし」 「ありがとうございます!」 「ナツメさんの恋、雪華は応援してますよ!」 雪華の言葉に頬を染めつつ、ナツメは年相応の笑みを浮かべた。 「俺からもプレゼント。これでも細工師でね、鼈甲とまではいかないけど君みたいな人に使って貰いたいんだ」 そう言って滝月が差し出したのは柘植の髪飾り。 棗の模様の描かれた櫛、ナツメは笑みを浮かべて受け取る。 「ありがとうございます―――大切にします!」 「馬子にも衣装ってやつじゃのぅ」 言いきるなじいちゃんーっ!と叫ぶナツメ、苦笑しつつそれを見ていた三笠だったが、さつなに突かれてその頭を撫でる。 遊んでほしいと言いたげに構ってくるさつなにもう少し我慢と言い聞かせては、口を開いた。 「クスギさん、ナツメさん‥‥お仕事の方はいいんですか?」 追いかけっこが止まる。 「じいちゃん、急がなきゃ―――」 「そうじゃのぅ―――ああ、腰が」 「嘘つくなじいちゃんーっ!」 バタバタと素早く積み荷を開いていく二人。 「手伝いましょう」 神楽坂が申し出て、それに常盤の傷を見ていた高遠も頷く。 「ええ、人手がいた方がいいでしょう」 「ほぉ、感心な若者じゃ―――うむ、わしについて来い!」 依頼完了なのにと心配するナツメだが、クスギは知らん顔で開拓者達に積み荷を預ける。 「こんな、大事な荷物渡していいのかよ?」 持って逃げるかもしれねぇぜとニヤリと笑ったブラッディにクスギは笑みを向けた。 「人となりは知っておるよ‥‥行商人、殺して荷物を奪ったほうが早いからのぅ」 一瞬遠い眼をしたクスギに、何やら感じて開拓者達は口を閉じた。 「‥‥クスギ殿、我、持つ」 「おお、持ってくれるか―――」 荷物をしっかりと持った羅轟に、じゃあ―――と、荷物を渡す人間が増えていき。 ‥‥お見事、と誰かが呟く。 もちろん、しっかり持ったままの者もいるが―――倍以上の荷物は持っている。 「あのー、お疲れ様です‥‥次で、終わりです」 荷物を全て届けた開拓者達にナツメが笑いかける。 「最後は皆さんに―――温泉の無料券です‥‥貰いものですが、良ければ」 「ボロボロじゃが、信用は出来るからのぅ―――客寄せの為に是非」 「では、私達は失礼します」 じいちゃん、余計なこと言うなーと追いかけながらナツメが去っていく―――知り合いの宿に泊まるのだと言う。 「お、いいな、行こうぜ!」 久遠と一緒と付け足したブラッディ。 「折角ですしね」 思わぬ贈り物を貰った開拓者達、現地でしばし、骨休めを行うのだった。 |