厠から戻らず
マスター名:白銀 紅夜
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/11/19 05:39



■オープニング本文

●深夜に響き渡る悲鳴
 その日、雨が降っていた。
 そろそろ冬を目前にした天儀では寒波が押し寄せている。
 東房の宿の一室でむくり、起き上がってブルッと身体を震わせる男性。
 古きよき、伝統を感じさせる滑らかな木の温もりは人々を安心させ、同時に安らかな眠りに‥‥ポタリ
 訂正しよう、少々雨漏りがするが、古きよき、伝統を感じさせる滑らかな木の温もりに安らかな眠りにつくものも多い。
 隣ではこの雨の影響で雨水が滴っているが。
「寒いなァ」
 一人、呟いて男は立ち上がる。
 コクリ、コクリと船を漕いでいる従業員が目を覚ました。
 受付で眠る必要は無いのではないかと男は思うが、この暗闇では場所が分からない。
「厠はどこですか?」
「外」
 にべもない‥‥
「冗談です‥‥お客様のご要望にお答えして厠は移転しました」
 何処にだ、男は思った。
「現在はそこの廊下を突き当たったところを左に入ると男性用の厠になっています」
「‥‥灯りをお借りしてもいいですか?」
「手探りで行って下さいとは言えませんから行灯をお貸しします」
 一々棘のある言葉だなと思いつつ、従業員から灯りを受け取り、寝ぼけ眼で厠へ向かう。
 暗闇の中、無防備な姿になると言う事は少々怖さを想起させる。
 染みが奇妙に歪む。
 雨風の音が悲鳴に聞こえる―――個室に入った男は肩をすくめて早く済ませようとして、しゃがみこむ。
 のっぺりとした白いものが見えた、口が、三日月のように裂ける。
 その三日月は、赤い。
「うわぁぁああああっ!」
 一拍おいて、悲鳴が上がる。
「五月蝿いナァ‥‥まったく、また幽霊でも見たんだろ」
 そんなもの、いやぁしないのにと付け足して従業員は灯りを片手に個室の扉を叩く。
「お客さん、大丈夫ですか?」
 返事は、ない。
「お客さん―――?」
 まさか気絶でもしてるのか‥‥勘弁して欲しい。
 そんな事を思いつつ、従業員は小さく欠伸を漏らした。
 履物を濡らす液体に行儀がなってないなとため息を一つ。

●戻らなかった
 翌朝―――厠で。
「お客さん、大丈夫ですか!お客さん?!」
「ちょっと、麻耶、ちゃんと見てたんだろうね!」
 麻耶と呼ばれた従業員は首を億劫そうに口を開く。
「見てはいませんよ、私、男性の厠に入る趣味はないので。でも、呼びかけはしました」
「で、どうして血に気付かなかったんだい!」
「暗がりでしたし、普通別のものと思いますよ‥‥」
 ギィ―――男手の力でドアが開く。
 赤い液体を残して、客は忽然と消えていた。
「此れで五件目だよ‥‥ああ、もう、どうしたらいいんだい」
 頭を抱え込む上司を目端で捕らえてため息。
「麻耶、あんたのせいだよ、なんとかしておくれ!」
「無理ですよ、お客さんも人間なんですから蒸発しないでしょうし‥‥現実をみましょうよ」
 やれやれと言って上司のお小言も構わず、麻耶は書状を書き出す。
「で、五件ですよね?」
 まだ立腹中の上司に代わって、その夫からの返事を聞き、書状を完成させる。

●開拓者ギルドにて
「厠‥‥ですか」
「厠ですね」
 何度も呟く受付員‥‥彼は少々受け取った後、微妙な気持ちでいた。
 自分は怖がりな方だと思う。
 こんな事を聞いてしまえば、夜に厠へ行けなくなりそうだ。
「信頼できる方にお願いします、こちらも客商売なので」
「わかりました、では、内密に‥‥」
 ブルッと肩を震わせる受付員。
 こんな話を聞いたからか、厠に行きたくなった。
 でも、怖い‥‥
「とりあえず、厠に行きたかったら行っていいと思いますよ‥‥」
 依頼人の生ぬるい視線を受けて失礼と立ち上がる。
 そして、響き渡った高い女性の悲鳴。
「この助平!」
 この受付員に頼んで大丈夫なのだろうか、そんな事を考えながら麻耶はため息をついた。
 急募!
 らくらく稼げるお仕事です。
 仕事内容:宿の清掃員
 時給:‥‥
 自分の時給よりいいな‥‥そんな事を思いながらため息は積み重なっていくのだった。


■参加者一覧
恵皇(ia0150
25歳・男・泰
美空(ia0225
13歳・女・砂
真珠朗(ia3553
27歳・男・泰
奏音(ia5213
13歳・女・陰
朝倉 影司(ia5385
20歳・男・シ
設楽 万理(ia5443
22歳・女・弓
かえで(ia7493
16歳・女・シ
桂木圭一郎(ia7883
37歳・男・巫


■リプレイ本文

●偽清掃員
「厠なだけにスッキリさせないと‥‥いや、なんでもない」
 恵皇(ia0150)が呟いた言葉にギロリと睨みつける設楽 万理(ia5443
「クサイ、実にクサイ事件ね」
 似たようなことを言っている気もしなくはないが、そこは全て置いておく。
「厠で行方不明にですか。面妖なこともあったものです」
 桂木圭一郎(ia7883)が顎に手を当て、考え込むような仕草をしながらチラリと厠があったと思われる場所に視線を移す。
 移転したらしい厠の後はただ、穴だけが掘ってある。
 用を足すには問題ないが、外から丸見えという少々恥ずかしい事になりそうだ。
「本日はトイレの花子さん退治なのであります。美空はトイレの花子さんに会うのは初めてなのでドキドキなのであります」
 何故かウキウキとしている美空(ia0225)は拳を握り締めて力説している。
 もちろん、彼女が想像しているのは可愛らしい少女のオバケだが、相手がそうであるかは不明だ。
「清掃員募集に応募したかえでです。よろしくお願いします」
 かえで(ia7493)は先立って中に入り、受付で船を漕いでいる依頼者、麻耶に声をかける。
 他の開拓者達もそれに続く。
「ああ、ご苦労様です。私は麻耶です―――主に私が皆さんの担当なんで、サクッと、ザクッとお願いしますね」
 遅れて現れたのは真珠朗(ia3553)と奏音(ia5213)。
 真珠朗と奏音は家族として潜入する段取りになっている‥‥清掃員として働くには些か問題がある為だ、個人的な。
 のんびりとした口調で奏音が歌うように言葉を紡ぐ。
「暫らく〜よろしく〜なの〜」
「ま‥‥秘密の重みが金の重みって話で。面倒なことになる前に蹴散らさせてもらいますよ。ところで、以前の厠は?」
 周囲に人がいない事を確認した真珠朗が麻耶に問いかける。
「移転しました」
 そういう事を聞いているのではない。
「本当に移転のようだな。穴はあるが丸見えだ、厠としては機能しないと思われる。板も取り外されているし、暗い故に落ちることもあるだろう」
 突如天井から降ってきた朝倉 影司(ia5385
 人がいない事が幸いだが、天井に張り付いていたのだろうか‥‥凄まじい忍耐である。
「そうですね、そもそも不審者が出没するので移転したらしいですし」
 移転より不審者をなんとかしろよと開拓者達は内心突っ込む‥‥が、目の前の依頼人。
 全く気にしていない。
 事もあろうか、開拓者達に清掃道具を渡す。
「これは‥‥」
 何も言わずに差し出された掃除用具に戸惑ったようにかえでが呟く。
「掃除道具」
 にべもない。
「本気で掃除しろってことね」
 設楽が言いつつモップとバケツを受け取り厠の方へ向かう。
 どちらにせよ、昼間は点検に向かうつもりだ‥‥好都合と言えば好都合。
 清掃員に扮した開拓者達は厠へと向かった。

●厠に潜むは疑惑のかおり?
「花子さん、いるでありますかー、ここでありますかー、どこでありますかー?」
 美空は作成した地図を手に、大声を張り上げながら個室を覗いていく。
 その呼びかけに応えるものはいない‥‥その横ではじっくりと壁や便器を観察しつつ、茶色く変色した血糊をそぎ落としていくかえで。
「お姉ちゃん、厠は使用中かい?」
 のっそりと出てきた恰幅のいい女性が三名にねっとりとした見定めるような視線を向ける‥‥正直、感じが悪い。
「美空達は花子さん探しなのですー、使用中なのですー」
「困ったね‥‥」
 腕を組んでまるで開拓者達が悪いと言いたげな視線を向ける女性‥‥内心、頭にきた設楽だが最上級営業スマイルを炸裂させる。
「私達はただの清掃員ですから従業員にお聞きください」
「わかったよ‥‥」
 女性はため息を付きつつ身を翻す。
 ホッと息をついた女性3名、そこへ奏音が顔を覗かせる。
 8つのお手玉を放り投げては受け止める、そのまま食べていけそうな器用さ‥‥というのはおいておいて。
「真珠朗がね〜板で隠したら〜お外も使えるんじゃないかって〜」
「板なら調達したが」
 相変わらず神出鬼没の朝倉、いつの間にか板を持っている‥‥調達先は聞かないでおこう。
「兎に角、私達だけじゃなんとも言えないから麻耶に聞いてみたら?」
 疑問系ではあるが確定めいた語調でかえでは次の個室の清掃に入る。
「あら‥‥?」
「トイレの花子さんですか〜?」
 眉を顰めるかえでの後ろから美空が覗き込む。
 その言葉にゆっくりと首を振って片隅を指差す。
「ここだけ色が違うんだよね」
 かえでが指摘するように、一部の壁の色が変色している‥‥あからさまに怪しいが。
「おお、本当なのですよ!花子さんの根城ですかね?」
「でも〜壊さないほうが〜いい〜かも〜」
 ノンビリとした奏音の言葉を聞きながら設楽も頷く。
「キナくさいけど‥‥触らぬ神に祟り無しってとこじゃない?」
「兎に角、開けるのは皆が揃ってからがいいと思うのです」
 美空の言葉に頷く開拓者達‥‥さすがに昼間からドンパチをはじめるわけにもいかない。
 再三守秘義務と言われているからには、秘密裏に遂行するのがプロの開拓者であった。
 一方、男性用の厠では恵皇が中を汲み取っていた。
 いわば中にあるのは汚物‥‥
「うわっ、くせぇ」
「仕方がありません‥‥厠ですからね」
 桂木はその長身を活かして天井の隅、屋根裏に顔を突っ込んでは潜んでいるものがいないか確認をしている。
 芳しくないのか、その表情は浮かない‥‥恵皇は首の見えない桂木にやや恨みのこもった視線を向けるが、検分を始める。
 無論、彼には他人の汚物を見るという趣味はない。
 当人の名誉のために記しておく。
「これは―――骨、か?」
 白く細長い物体‥‥やや黄ばんでいるが、それは犠牲者のものか。
 軍手を借りてじっくりと検分する‥‥何度見ても骨だ。
「不可解な‥‥アヤカシなら跡形もなく食べるでしょうに」
「そうだな、情報として置いておくか‥‥そっちは?」
「どうやら蜘蛛ではなさそうですな、少なくとも、大きなものではないでしょう」
 蜘蛛型ではない、アヤカシの形状はわからないが‥‥その時、一陣の風。
 アヤカシか―――瞬時に得物を構え警戒態勢に入る恵皇と桂木。
「女性用の厠で不審な壁を見つけたらしい‥‥」
 いきなり天井から降ってきた朝倉、脅かさないでくれよと言いたげな視線をうけつつも堪えてはいない。
「骨、か‥‥伝えてくる」
 その言葉と共にまた、一陣の風。
 シノビの本領発揮‥‥寧ろ、シノビ過ぎているような気もするが。
 恵皇と桂木が苦笑しつつまた、作業に戻るのだった。

●宿泊客は調査中
 時間は少しばかりさかのぼる。
「いやぁ、あんた、面白いねぇ」
「あたしは世知辛い世の中について語っているだけですよ」
 厠へ向かおうとした宿泊客の一人と思われる男性を捕まえて真珠朗は風刺の効いた会話を紡いでいた。
 煙草の火から広がる会話‥‥さり気なく外の厠へ誘導しつつ、皮肉と持論を交えては相手の言葉を引き出していく。
「おっと、厠を過ぎちまったな」
「あそこにありますよ、あそこでいいんじゃぁないですか?」
「おお、そうだな、じゃあ、また機会があれば」
 そう言って即席厠へと駆け込む男性。
 勿論、真珠朗は見届けてそのまま帰る‥‥なんてことはなく、厠の前で待機。
 何しろ、即席の厠。
 うっかりチラリなんて事もあるかもしれないが、それはおいておく。
 当人の名誉の為に言うが、そんな趣味はない。
「何て言いましょうかねぇ‥‥煙草が切れたとでも言いましょうか」
 呟きは紫煙に包まれる。
「真珠朗〜厠に〜変な壁〜あるらしいの〜」
 ひょこりと顔を出したのは奏音、小さな手にお手玉を握り締めながら手招きをする。
 真珠朗は少し厠の方を見たが、直ぐに駆けつけることの出来る距離であることを確認すると奏音に近づく。
「あと〜骨も見つかったの〜」
「そうですか、ありがとうございます」
「ケモノとはちがう感じだから〜アヤカシだとは思うんだけど〜、おトイレに〜瘴気がくっついちゃって〜、アヤカシに〜なっちゃったの〜かな〜?」
 やや声を潜めて呟く奏音‥‥やはり調査中の仲間達が気になるのかチラチラと視線を送る。
「そうですね―――でも捕まえてみないとわからな‥‥」
 響き渡る悲鳴。
 咄嗟に動く真珠朗と奏音。
「どうしましたか?」
「どうしたの〜おじちゃん〜?」
 そこで二人が見たもの、それは‥‥
「すまんすまん、片足が落ちてな‥‥白い手に掴まれたような気がするんだが」
 全く人騒がせな男性である‥‥だが。
「なんだか、少しばかり身体がだるいんだが―――俺もトシかな?」
 ハハハと笑うその顔に生気は薄い。
 開拓者としての直感が告げる、アヤカシだと。
「そうですか、それは災難でしたね」
「危ないから〜別の宿のおトイレを使うと〜いいと思うの〜。中のおトイレはお掃除中〜なの〜」
 怪しまれないように配慮しつつ、二人は男性を部屋まで送り届ける。
 収穫はあった、日もそろそろ沈みかけている。
 二人は頷くと、合流するために中へと入った。

●厠の主
 夜。
 宿の振る舞いだと言う夕飯を食べた開拓者達は静まり返った宿の中で己の得物を確認していた。
 ただ一人、朝倉だけは気配を消して厠の外で潜んでいる。
 直ぐに増援へ駆けつけることが出来るように鉄甲は装備しており、神経を研ぎ澄ます。
 夜の厠は何処か、不気味だ。
 饐えた臭いは士気を下げるのに大きく貢献している、手っ取り早く片付けたいのが本音である。
「いきますね―――」
 美空によって額にベッタリと精霊符を貼られた真珠朗が呟く。
 加護結界‥‥しかし、見方によっては真珠朗の方がアヤカシに見えないこともない。
 封印中の。
 奏音は地縛霊を潜ませ、桂木も神楽舞「防」をかける。
 出来る限りの援護は行った。
 真珠朗の青白い手が扉にかかる‥‥中へ、踏み込む。
 扉が、閉まる―――
 一拍の空白。
 用を足すフリ、そして‥‥
「お出ましです!」
 すかさず飛び出した真珠朗を追いかける存在。
 カタカタカタカタ‥‥床に触れる度に奇妙な音が立つ。
「なんと言うか、妙な妖怪―――もとい、アヤカシね」
 白いのっぺりとした顔。
 腹を上にし、所謂仰向けの状態でそのアヤカシは動いていた。
 手の甲と足を動力源にして。
「こんな花子さん信じないですっ!」
 酷く期待が裏切られた美空が精霊符を構える。
 奏音の仕掛けた地縛霊をものともせず、一直線に向かうは桂木のもとだ。
「させるか!」
 恵皇がその素早さを活かしてアヤカシに掴みかかる。
 ブチッと嫌な音がして、アヤカシの腕がもげた―――まだ、アヤカシは動いている。
「私達を忘れてもらっては困るわね」
 設楽の短刀が一閃する‥‥傷を受けたアヤカシは奇声を上げながら無事な手と足を使って飛び上がる。
「助太刀、感謝します」
 続いて桂木は感謝の言葉と共に神楽舞・攻を使用する。
「まさか〜飛ぶとは〜思わなかったの〜」
 奏音が呟きながら砕魂符を形成し、放つ。
「厄介だな」
 それを追うようにして朝倉の十字手裏剣が向かっていく‥‥刺さった部分から、どす黒い瘴気が噴出す。
 生々しい白が黒と合わさって禍々しい。
「手早く倒したいものです」
 ずるずると壁を滑り降りたアヤカシの脈動する腹に真珠朗の骨法起承拳が叩き込まれる。
「同じく、見るに耐えないね」
 弱ったアヤカシ、逃げようとするそれをかえでの短刀が貫いた。
 抜足で気配を絶った彼女の攻撃は確実に急所を貫く。
 ボタリと音を立てて転げ落ちる白い塊―――噴出していく瘴気はいずれ、消えてしまうのだろう。
「すみませーん、清掃終わりましたか?」
 突如聞こえた女性の声。
「ああ、清掃中の札を下げていたんだった」
 根回しは完璧、朝倉が呟く。
「じゃあ、美空が付き合うのですよ」
 そこに自分の用もあったことは内緒にしておく美空だった。

●厠には蓋を
「ご苦労様でした」
 朝、開拓者達を向かえたのは相変わらず淡々とした依頼者、麻耶の姿だった。
「それにしても、泊まった人間が5人も消えているのによく隠し通せるわね」
 依頼は終わった。
 設楽は常々疑問に思っていた事を口にする。
 その言葉を聞いても、相変わらず涼しい顔をしている麻耶。
「こういう宿がやっていく為には色々な手段が必要、とだけ答えておきます」
「俺としては『臭いものには蓋』的な考え方はあんまり好きじゃないんだけどな‥‥悪評がなくても、犠牲者が出たことには変わりない」
 恵皇が腕を組みながら忠告する。
「その点は抜かりなく‥‥では、報酬の方と、これを」
 皮袋に入った通貨を麻耶が開拓者達に渡す。
「秘密はしっかりと守りますよ、ご心配なく」
 桂木が頷いて口にする。
 それに麻耶は頷き、お願いしますと淡々とした口調で言った。
「それにしても、あの骨と壁は?」
 報酬を受け取るために現れた朝倉が問いかける。
 その言葉に麻耶を少しだけ眉を動かした。
「私よりも皆さんがご存知だとは思いますが、生を終えた人間が必ずしも、骸になる訳ではないと言うことです」
 これで終わりとばかりに麻耶は立ち上がり、開拓者達を見る。
「この度はありがとうございました、また、何かあればよろしくお願いします」
 もう、質問を受け付けないと言わんばかりのその語調に開拓者達は社交辞令を述べると静かに宿を後にしたのだった。