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■オープニング本文 ●この手にある毒 罪には、罰が生じる……。 善悪は世論が決めるものだ、少なくとも、彼女はそう思っている。 故に、自分の行っている事が、悪徳だとも、彼女は知っていた――悪として、非難されるだろうと言う事も。 「父上――貴方は、本当にお変わりになられた」 雪に音を奪われ、静かすぎる白銀の世界の中で――彼女、花菊亭・有為(iz0034)は呟いた。 主の細い、華奢な手を握り返しながら、そうですね、と有為付きの侍女、秋菊は口にする。 「だから、有為様……貴女が、罪を背負わずとも」 「――あの人が死ねばと、私は、思っていた」 白い指先が、香水瓶のような華奢な細工の瓶を取り出す。 無色透明、無害に見えるこの水は、猛毒――人を殺す為に、花菊亭家が使ってきた毒だ。 だが、もう、この毒は……要らない。 ――だが、不要だとして『持ってしまった』力は何処へゆくのか。 この毒の使い方を、知らないものが手にしない為に、有為はその毒の使い方を知り続けなければならない。 ……祖父に託された、毒を。 ●罪悪感 ――花菊亭家、本宅。 別荘に一時避難をしていた、花菊亭・伊鶴(iz0033)は、父と共に本宅へと帰って来ていた。 何処にいても危険なのだから、と押し切ったのは伊鶴。 珍しく折れたのは、有為の方だった。 「姉上、お疲れの様子ですね……」 政務に携わるようになった、伊鶴は祖父の残した書物に目を通しながら、姉へと声をかける。 「ああ――。そうだな」 何処か上の空の返事に、伊鶴は視線を落とす。 此れは本当に、疲れきっているのだろう。 父である鵬由が臥せっている時は、跡取りとして会見に臨んだ伊鶴の影に有為はずっといたのだ。 それ以外にも、家の執務を取り仕切っているのは有為である――広川院本家との見合い話も進んでいるらしい。 「少し、家を離れてゆっくりしては如何ですか……仁生に宿をとっておきましたので」 「――宿?」 突飛な話に、有為の手がピタリと止まる。 どういう事だ、と赤い瞳に見据えられて、伊鶴は苦笑を浮かべた。 「こうでもしないと、姉上は休まないと思いましたので……」 「そうだな……たまには、いいか。仁生なら、何かあっても文を飛ばしてくれれば直ぐに動ける」 視線がふ、と和らいだのに気付いて、伊鶴はやっと肩の力を抜いた。 今までは知らなかった、姉の感情が少しだけ、ほんの少しだけ読み取れるようになった――。 これは、姉が心を開いてくれているのだろうか。 「あとですね……父上と三ノ姫、じゃなくて、義母さんが――緑茂に行くそうで」 「知っている。……となると、本宅の警備が手薄だな、やはり行くのは」 止めておく、と言う前に伊鶴が首を振る。 「花菊亭家を守る巫女や用心棒の皆は、信用出来ますよね。それに、母方の方から、巫女の方と陰陽師の方が来て下さるようです」 囮になるつもりなんてありませんから、と伊鶴が笑いかける。 ひくり、と有為のこめかみが動いたのを知って、伊鶴の表情が固まった。 「いえ、最近姉上、なんだか辛そうですし……ほら、そう言う時はゆっくりと」 「……伊鶴」 「――はい?」 ジジ、と音を立てて、油が燃える音がしていた――だが、その火が有為の手によって消される。 「私が……父上を殺そうとしていたとしても、お前は慕ってくれるか?」 重苦しい暗闇の中で、泣いているのだろうか、と伊鶴はその闇の中で目を凝らそうとして、やめた。 「殺そうとした事……多分、僕は気付いて、いました」 だから――どうするか、考えてきて欲しいのだと、静かに、だが、強い調子で、伊鶴は語った。 有為は視線を落とし、そして、息を吐く。 この数日でどうなるのか――少し、家を離れてみるのもいいかもしれない、と。 |
■参加者一覧
佐久間 一(ia0503)
22歳・男・志
安達 圭介(ia5082)
27歳・男・巫
雪切・透夜(ib0135)
16歳・男・騎
長谷部 円秀 (ib4529)
24歳・男・泰
厳島あずさ(ic0244)
19歳・女・巫 |
■リプレイ本文 ●雪の中 鉛色の空から、涙を流すようにハラハラと白い雪が降っていた。 侘び寂びを知る職人が作った庭を眺めた後、安達 圭介(ia5082)は口を開く。 「伊鶴様、ご健勝のようで何よりです。……ところで、直姫様の好きな料理などはご存知ですか?」 「そうですね……卵焼きや、大根の煮物が好きみたいです。以前、秋菊が差しいれしていました」 「農作物が美味しい、と聞きますし……良さそうですね」 客間へと開拓者達を通した、花菊亭・伊鶴(iz0033)は安達の言葉の意味を察し、笑みを零す。 「僕も食べたいなぁ――」 正直なその感想に、安達は苦笑染みた笑みを浮かべた後、パタンと手帳を閉じる。 手帳には、作る予定の料理が書かれていた。 「ええ、機会があれば」 もふもふ、と動くその姿に、花菊亭・涙花(iz0065)は目を奪われていた。 「……気になりますか?」 「え、あ――お客様でしたの? それとも、新しい巫女様ですか?」 そのもふら、居眠毛玉護比売命(イネムリケダママモリヒメノミコト)の主である厳島あずさ(ic0244)は少し虚ろな表情で涙花に視線を送り、そしてもふらへと視線を戻す。 何処か虚ろな様に、首をかしげつつ涙花は言葉を待った。 「依頼を受けた、開拓者です。あのもふらは、居眠毛玉護比売命と言うのですが――ねむりんで良いですよ」 「そうですの……?」 「ええ。……有為様の事は必ず守って差し上げます、他の方が」 不安げな表情をしていたのだろうか、と涙花はぺたぺたと顔を触る。 だが、厳島は気にした様子もなく、祝詞を唱えだし、信仰する神々へと礼を述べているところだった。 (「サポート型の巫女、事実、そうです。護衛は建前ですから」) 「姉上は……家を守る為に、沢山、辛いことに耐えましたの」 ぽつり、と涙花が口にした、ぽつり、ぽつり、雨が降るように。 自らの信じる神々と意識を通じようと祈っていた厳島は、少しばかり遅れて相槌を打った。 「だから――お願いします」 吐き出す息は白く、濁っては消える。 「鍛錬は欠かさずやっているようですね? 不在中の家の事、頼みます」 姉である、花菊亭・有為(iz0034)を見送る為に姿を現した、伊鶴の目を見、佐久間 一(ia0503)は口を開いた。 「勿論です……姉の事、頼みました」 続いて、佐久間は涙花へと視線を向ける――たどたどしいながらも、厳島との会話が続いているようで自然と口元がほころんだ。 「お兄さんが困った時は、助けてあげてくださいね」 歩み寄り、頭を撫でた佐久間に、コクリと涙花は頷いてみせた。 大丈夫ですの、と――。 「涙花。お土産話、楽しみにしていて」 続いてかけられた、雪切・透夜(ib0135)の言葉に、涙花は嬉しそうに微笑む。 白く、まるで穢れない雪のような透明さに、雪切も微笑んだ。 そして佐久間は、有為と伊鶴の母の友人である巫女と陰陽師へ視線を移す。 「これがあなた方の答えだと信じております」 相変わらず、巫女の方は渋い表情だったが、その代わりに陰陽師が笑って見せた。 「ああ、楽しんできとくれ」 視線を移せば、有為が何処か踏ん切りの付かない、微妙な表情で立っている。 「――行きましょうか。大丈夫ですよ、きっと。頼れる方がいるのですから」 天涯孤独の身であるからこそ、家族が、羨ましい――長谷部 円秀 (ib4529)は何処か、遠くを見る様な目で口を開いた。 「……そうだったな」 以前かわした言葉を思い出したのか、だが、然して有為は何か言う事も無く、牛車へと乗り込む。 御者が手綱を取り、開拓者達も牛車の中へと消えた。 ●仁生にて 雪にも関わらず、仁生の楽市はにぎわいを見せていた。 「――賑やかですね。雪が降っていますが」 厳島の言葉に、雪切がスケッチブックから顔をあげて口を開く。 「正月気分が抜けきっていないのでしょうか……? あ、門松」 まだ放置されたままの門松の横には、商売繁盛を願ってか熊手が飾られている。 やがて御者は、伊鶴の指定した宿の裏へと牛車を止めた。 一番初めに、警戒しつつの佐久間が牛車から顔を出す――特に怪しい人影はない。 この人混みで特定するのは大変だが……少なくとも、あからさまな者はいなかった。 (「まあ、その為の護衛ですが」) 自分の考えに苦笑しつつ、大丈夫ですよ、と後方へ声をかける。 宿に入り、名前を告げる――やはり、宿の付近にも怪しいものは居なかった。 柔和そうな女将と、仏頂面の主人だ……お喋りなのか、女将がペラペラと口を開く。 「まあまあ、逢引にはちょっとばかり、人が多いですねぇ」 手に持った算盤を置き忘れたのか、算盤を片手に女将は先んじて部屋へと向かう。 開拓者と有為が後についてくるのを確認し、二つの部屋をあてがった。 「貸し切りですから、何処を使って頂いても宜しいのですけれども……此処は、南側でとても日当たりが宜しいので」 火鉢に炭火を入れながら、女将は言った。 長谷部が口を開く。 「宿の厨房をお借りしても、宜しいですか?」 「ええ、ええ、宜しいですとも。通路を歩いて、斜向かいの部屋に厨房と従業員詰め所が御座います」 ごゆっくり……とぴっちり頭を下げ、女将が退室する。 去っていく太鼓結びの帯を眺めながら、有為が立ちあがった。 「――庭が、綺麗だな」 降り続く雪は白く、淡く……南天の木と、切り出した巨石、そして丸い白と黒の石を呑みこんでいく。 何処か物悲しさすら、想起させる情景に開拓者達も息を吐いた。 「そう言えば、皆様は楽市へ行かれるのですか?」 厳島の切り出した言葉に、真っ先に頷いたのは雪切だ。 「そのつもりです。お土産なども買いたいですし――」 「私は、楽市で食材を……長谷部さんも、料理をされるのですね。よろしくお願いします」 安達の言葉に、長谷部は少しだけ瞬いて頷いた。 「ええ、此方こそ。献立は――皆様が出てから話し合いましょうか」 有為へ目配せすれば、有為はああ、と気の抜けたような表情を浮かべた後、苦く笑う。 お楽しみ、というものらしい。 「自分は……そうですね、荷物の整理をしていましょう。長谷部さんも、食材の買い出しに行かれては? 此方は、自分がいますので」 「では、お言葉に甘えて。後から、安達さんと向かいますよ」 先に楽市へ向かうのは、厳島と雪切、そして有為の3人。 安達、長谷部は食材の仕入れの為に、後から向かうようだ。 佐久間はお留守番、何があるか分からないが故の行動でもあった。 「楽しんできて下さい」 「――ああ」 笑顔を向けられて、有為は少しだけ微笑むのだった。 楽市は賑わっており、中でも朱藩から手に入った衣服が人気のようだった。 「ほらほら緊張しない。ちょっとしたデートみたいなものです。気楽にね」 さり気なく、女性二人をエスコートしながら雪切が口を開く。 楽しげに行き交う人々、それをぼんやりと眺めていた有為は瞬いて微苦笑を浮かべた。 「……逢瀬の方が、緊張するだろう」 返された言葉に首を傾げ、雪切は笑みを浮かべる。 「そ、そうでしょうか――?」 脳裏に浮かんだのは、愛しい人の笑顔……彼女にもお土産を買うべきか、と思考を巡らせる。 「しかし、話を伺った所随分と苦労なされたそうで……私の癒しの力で癒すことができるか分かりませんが、いかがでしょう?」 やや足早になりながら、厳島が口を開く――何しろ、有為の歩みは速い。 「苦労か――。そう、見えるのだろうか?」 「ええ、それはもう、とっても」 厳島は、以前の花菊亭家の事を知っている訳ではない――が、涙花の言葉と、第三者からの瞳で見る限り。 有為の表情は、苦しんでいるようだった。 「八百万の神たち(=精霊)はいつでもあなた様を見守っているはずで、す……ほら」 腕の中のもふらは、涎を垂らして酒まんじゅうの売り場を見ていた。 視線に気づいたのか、厳島と有為の方をちらりと見る。 「――まあ、あれも精霊です」 明らかに見守っている表情ではない、有為と雪切は思わず顔を見合わせて、そして、笑みを零した。 片方は優しく、片方は不器用に。 「酒まんじゅう、買うか」 一番喜んだのは、厳島のもふらだったのは言うまでもない。 ●楽市 食材を買いに、楽市へと安達と長谷部が足を向ける。 「おでんですか……。確かに温まって、良さそうですね。私は――甘いものを作ろうと思うのですが」 「甘いものは、疲れが取れますものね」 楽市でも質の良い素材を選び、そして交渉する。 食材を前にして、店主と長々と交渉する二人の男……主夫の鑑である。 大量に買い込んだ食材は、ずっしりと重かったが――その代わりに店主はオマケをしてくれた。 「それにしても、降りますね――」 白い息を吐きながら、安達は口を開いた。 傘を貸すと口にした宿の主人の言葉に、否、と言った事を思い出す。 「この様子では――夜も冷えるでしょうね。湯に浸かるのが楽しみです」 そう言って、チラリと手にした酒へと視線を移す長谷部……自然を愛でながら、酒を飲むのが好きだと言う。 「涙花や、伊鶴さんにお土産でも――如何です?」 少しは人の往来に慣れたものの、中々市に近づかない有為に雪切が進言する。 「――と言っても。何を買えばいいのか」 「娯楽品はどうでしょう? 窺ったところ、縁がなさそうだったので」 独楽とか、羽子板とか……そう言いながら、厳島が歩みを速め、一つの市の品物を覗きこむ。 様々な色に塗られた独楽、絵を書かれた羽子板。 決して高級なものではないが――庶民的な親しみやすさがそこにはあった。 「遊び方、知っていますか?」 厳島の言葉に、有為は首を横に振った……貝合わせや、香あわせの記憶はあるがこの様な玩具で遊んだことはなかった。 首を振った彼女に、店主が鴨だと目を光らせる。 「楽しい楽しい、独楽遊びに羽子板。これを知らなきゃ、天儀っ子とは言えないよ」 パチパチと算盤を弾き、少しばかり値上げした値段に有為は眉を顰めた。 綺麗な羽子板に見入っている厳島へ、視線を向ける。 「――聞きたいのだが」 「…………あ、はい。少し意識が、何でしょう?」 「こう言うものは、珍しくないのか――?」 「そうですね。一般的なものだと思いますよ」 困ったように頬を掻きながら、店主が動向を見守る。 「まあまあ、こう言うのは気に入ったものを買えばいいと思います」 結局、他の店を回ると有為は宣言し、土産を買いに二人は付き合うのだった。 ●夕餉 日が暮れれば、夕餉の時間。 「お帰りなさい。楽しかったですか?」 荷物を整理していた佐久間が、雪切と厳島、有為へと微笑みかける。 既に安達と長谷部は宿に戻り、今は夕餉を作っている最中だと言う。 「お二方、此処はお任せします――自分は、二人を手伝ってきますので」 立ちあがった佐久間に、雪切がお願いします、と頭を下げた……何しろ、雪切は料理下手なのだ。 厳島の腕からもふらが身をよじり、厨房へと付いていく。 何やら、いい匂いがしているらしい。 「あ、有為さん。此方をどうぞ、今日の記念です」 何時の間に買ったのやら、小さな根付けを雪切は差し出した。 龍を象った御守りだ――雄々しい登り龍は、繁栄を表している。 「……ありがとう」 控えめな礼と共に受け取り、大切そうに有為は自分の荷物袋に括りつけた。 「良い趣味だ」 「皆さん、料理が出来ましたよ」 もふらに纏わりつかれつつ、安達が大鍋を持って部屋へと戻ってくる。 どこか懐かしい、優しい匂いが立ち上っていた。 「お口にあうかは分かりませんが……私は甘い物を作って来ました」 長谷部が人数分の膳を、器用に持ってくる――後ろでは、やる事の無くなった女将が申し訳程度にお茶を持ってくるところだった。 「おでんですか……いいですね」 厳島がもふらに水あめを与え、諌めながら口を開いた。 相変わらず、少し危ないような目をしている。 「後は、卵焼きですね」 「……好物だ」 手をあわせて、頂きます――大鍋から摘まむ料理は、食べた事の無い味付けの筈なのに懐かしい気がした。 北面で栽培された米や野菜、安達と長谷部の値切り攻防戦の話を聞きながら、皆で笑みを零す。 最後に出てきた芋ようかんは、ほっくりとして甘かった。 厳島が崇拝する神々に、供えている。 「この後は、飲みますか?」 佐久間の問いかけに、有為は首肯する……賑やかな時間を楽しんだ後。 そうすれば、嫌でも考えなければならない――それを放棄する事は、彼女には出来なかった。 程良く浴場で温まった身体を、冷たい風が冷やしていく。 決断を迫るように、月が冷たく輝く。 「その様子、疲れだけではありませんよね? 自分でよければ、聞きますが」 佐久間の言葉に、そしてゆっくりと縁側に座る安達と長谷部。 「……僕では分からない大変なことがあると思います。ですが、それでも涙花や伊鶴さんみたいに、自分を想ってくれる家族がいます」 雪切が静かに近づき、口を開いた。 「俺の家族には……いませんでした。故に分かるのですよ。温か味のある家族がどれだけ得難いものかと……。絆、大事にしてあげてくださいな」 かけられた言葉は、優しくも厳しいものだ。 続いて、控えめに酒を嗜みながら、長谷部は口を開く。 「前も言った気がしますが、私は家族と仲良くしてほしいです。家が大切とか色々あるんでしょうが……肉親と争うのは寂しいでしょう?」 「私もそう思います。人の命を、しかもお父上の命を奪おうとしたことは確かに許されないことです」 ひゅぅ、と喉が鳴る音を、聞いた気がした。 安達の言葉は静かで、まるで降り続く雪のようだった。 「ですが、直姫様はそれを実行に移さなかった。つまり、まだ取り返しはつくということです……今後、どうされたいのか。きちんと見据えて頂きたいです」 その言葉に、有為は笑ったようだった――笑ったのか、それとも泣いたのか。 ぐしゃり、歪んだ表情で、それでも、笑う。 「送った銀時計を覚えていますか? 貴女はあの時から確実に変わっていますよ。勿論、良い意味で」 その言葉に有為は首肯した……同じ時を刻む。 「――この手に、父を殺す為の毒があったとしても。取り返しは付くのだろうか?」 その言葉に、開拓者達は静かに微笑んだ。 そう、全ては『自分』の意思で決めていいのだと。 ●決断 仁生と別荘での日を過ごした有為は、少しだけ穏やかな表情で戻ってきた。 自分で決めていいのだと、そして、話を聞いてくれる開拓者……そして家族がいるから。 『拝啓――』 全てを棄てて、開拓者になる事も考えた……しかし、それは裏切りに等しい。 「――有為、いいのか」 父の言葉に、有為は頷く。 「ええ。その代わりに、伊鶴や涙花を。――必ず、守ってみせます。大切な、家族の為ですから」 広川院当主との縁談に、有為が下した決断は――是の答えだった。 |