【負炎、忍】即謀遠略
マスター名:白河ゆう 
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/11/03 23:33



■オープニング本文

●金
 陰殻国、伊宗の里――
「中々どうして、開拓者共も頑張るではないか」
 見たところ、年の瀬は十歳前後、といったところだろうか。その少女は紫煙を漂わせ、喉を鳴らした。煙草の葉は、大きく二、三も吸えば燃え尽きる。くるりと煙管を廻し、甲高い音と共に灰を落とした。
 当初、彼等陰殻の里長達は、緑茂の里は落ちると睨んでいた。
 開拓者は足並を揃えられずに討ち取られるのがオチだ、と見積もっていたのだ。だが、予想に反し、開拓者は想像以上に戦えている。
「――して、何用じゃ。用無く立ち入ったのであれば、首を刎ねるぞ」
 新たに煙草を詰める傍ら、言葉を投げ掛ける。
「理穴国より言伝」
 天井裏より響く声。
 同時に、少女の背後――ただし、かなり離れた位置に、一人のシノビが降り立った。
「文を」
 言うや否や、彼の姿は消え、後には一枚の文が残される。
 少女は立ち上がり、歩み寄ってそれを手にした。何の術かは解らぬが、煙管からは突然に紫煙が立ち上る。
「‥‥ふふ、そうよ。何事でも先立つものがなくてはの」
 そこには、理穴よりの援軍要請が記されていた。
 ただし、援軍の要請などは今までにも届けられているし、これまでも、一部の里が独自に兵を、少数ではあるが出してはいる。
 しかしながら。今回の援軍要請には、今までのものと違う点があった。ではその違いが何かと問われれば――「金」だ。要するに、それ相応の金子を用立てる故、有償で援軍を出して貰いたい、という事である。
 だが――
「安いな」
 文を懐にしまいながら、呟く。
(これでは、北條辺りは動いても、名張辺りは渋るであろうが、さて‥‥)
 再び煙管を叩き、少女は、慕容王はその姿を消した。

●影
「指令が来たぞい」
「――に金子を届ける使者を妨害せよ、か〜」
「使者の情報は既に仕入れてある」
「では、やるかの。作戦は――」
 既に使者は根来の里に到着している。即興とはなるが、里の命令とあらば絶対。遂行せねばなるまい。

●茶
「は〜い、今朝も元気に営業してますよ〜。そこの旅人さん達、一杯おいかがですか〜。旅の前に何かお腹に入れていきませんか〜」
 早朝まだ人通りもない路地に、のぼりを立てた茶屋。美味しいお茶!団子!と墨の字が躍っている。
 金子の包みを携えた開拓者達が通り掛かったとこに、ちょうど待ち受けていたかのように陽気な娘の声が響く。
「山歩きは疲れます。しばらく歩きますし少し喉を潤してから行きましょうか」
 援軍要請の金子を届けるという役目。何組かに任せられリスクを分散されたひとつとはいえ重要である。緊張に乾く喉に熱い茶が心地よく沁みる。
「‥‥ん?」

 謀られた。開拓者達の鋭い知覚をも騙すとは‥‥。
 少しだけ高くなった陽射しに顔を照らされ、一行が目覚めたは小さな居室。慌てて外を確認すると、そこは先ほどの茶屋であった。
「依頼の金子が無いぞ!」
「しまった‥‥あの茶屋め、何て奴だ!」
 他の荷物は全て無事。懐は手を付けられていないが主だった武器も奪われている。明らかに今回の依頼の妨害を狙った者の仕業であろう。
 既にもぬけの空となった小さな茶屋の建物。荷物も当たり障りの無い茶屋営業の道具しか残っていない。手際が良過ぎる。
 ここは陰殻。まさかどこかの里の忍び宿だったというのか‥‥?何故邪魔をする‥‥?

 近くの者に尋ねると、茶屋に居た老人と娘は見かけない男達と一緒に足早に出掛けたという。旅出の格好だったェ急いでいたのか近所への挨拶も無かったようだ。
 老人が小さな包みを大事そうに抱え、男達はずいぶん大きな荷物や武器を携えていた。
「そういえば、その後すぐに北の方から変わった鳴らし方の笛が幾つか聞こえたなあ。何かあったのかね」
 礼もそこそこに開拓者達は茶屋一行の後を追いかける。
 なんとしても、取り戻して当初の目的地へ向かい使者の任を果たさねばならない。


■参加者一覧
恵皇(ia0150
25歳・男・泰
芦屋 璃凛(ia0303
19歳・女・陰
琴月・志乃(ia3253
29歳・男・サ
珠々(ia5322
10歳・女・シ
神凪瑞姫(ia5328
20歳・女・シ
白蛇(ia5337
12歳・女・シ
輝血(ia5431
18歳・女・シ
千見寺 葎(ia5851
20歳・女・シ


■リプレイ本文

●失態
「槍も手甲も持ってかれたかいな。具足は無事‥‥褌までは持ってかれてないなあ」
「丸裸にされたわけじゃなし、褌を持っていく物好きはいないだろう」
「いや‥‥物好き、おるかもしれへんで」
 先に理穴へ潜入した時の風変わりな依頼がちらと脳裏をよぎる琴月・志乃(ia3253)。珍しい奢侈な褌をしてたら盗む物好きも世にはいるかもしれない。
 思わぬ失態に一瞬取り乱しそうになった恵皇(ia0150)もこの呑気な台詞に呆れ、却って冷静さを取り戻した。
「くっ、なんたる不覚。シノビともあろう者が」
 こちらは同業にしてやられた悔しさに、無造作に結い上げた青い髪を振り乱す神凪瑞姫(ia5328)。
 どこの里の者か知らぬが‥‥どのようになるか思い知らせてくれよう。怒りに歯噛みし、屈辱の炎を瞳に燃え上がらせる。
「とにかく‥‥考えるより取り返そう。相手を取り逃がしたら、事態が悪くなるからさ」
 得意とする陰陽術の媒介に欠かせない符を奪われて自分も悔しいが、ここで怒りをぶちまけていても仕方がない。芦屋 璃凛(ia0303)が瑞姫の肩を叩き、立ち上がる。必ず追いついてみせる‥‥。
「陰殻にしてはやることがせこいね」
 依頼により開拓者としての立場でこの地を踏む事になったシノビ、輝血(ia5431)が不愉快さを眉に表す。休憩時にはずした能面も奪い取られ、その大きな無邪気に見える紫の瞳にも感情が映されている。
 同じ陰殻の出身、白蛇(ia5337)は幼さを残した頬を恥ずかしさに染める。未だ姿は見ぬが尊敬する慕容王の存在。この依頼はきっとその人の耳に届いているはずである。同業者にしてやられたこの失態まで知れてしまったら‥‥。
「依頼の金子と‥‥貯金をはたいて買って、財布の底の底まで浚いつくして強化した装備、とっとと返してもらいましょうか」
 普段無口な珠々(ia5322)だが、自らも更に鍛え込んだ宝珠をはめこんだ珠刀『阿見』を奪い取られて、目を吊り上がらせる。
「金子、奪い返しますよ!」

(援軍要請の、陰殻にもたらされる金子を奪う‥‥)
 故郷の言い知れぬ構造に、追いかけながら苦い考えがよぎる千見寺 葎(ia5851)。
「いや、僕の懸念すべき事では、ない」
 頭を横に振り、少年のような顔から表情を消す。請け負った仕事の完遂。今考える事はそれだけで良い。

「背負ってくれないかな。早駆追いつけないし」
「璃凛、私の肩を」
 橙の短い髪が青の長い髪と微かに触れる。璃凛を背に負って瑞姫が駆け出す。小柄とは言えそれなりの荷重が背中に掛かり、本来の脚を鈍らせる。
 それでも二人の秘めたる想いが強く、不利な姿勢を克服して前を走る者を追う。その関係は璃凛と瑞姫しか知らない過去の記憶。
(この背中‥‥)

●追跡
左右を木々繁る斜面に狭められた谷。下り坂は道は狭いもののほとんど直線状に視界が開け、このまま道上を進めばお互いに発見は容易である。
 葎が横にぴったりと速度を合わせて走る珠々の瞳を覗き、頷く。
「左から」
 頷き返した珠々が足元に転がる小石を拾い、木立の斜面へと飛び込んだ葎の後を追う。道に沿って下る斜面に逆らうように斜めに同じ高さの場所を速度をできるだけ落とさぬよう小刻
みに歩を選びながら木立をすり抜ける。もし後続が敵と遭遇するようなら、この地形を利用して回り込める。
 木立に消える二人を見て白蛇と輝血が頷き合い、こちらは右手へ飛び込む。脚に集中する気の流れが緑の陰を次々と後ろへと押し遣ってゆく。
(きっとこの道の先に足止めがいる‥‥!)
 両脇から挟み撃ちにするには最適の地形。上方から飛び掛る相手がいるなら、その背後を狙うつもりで輝血は駆け抜ける。二人の肩を剥き出しにした忍び装束をひんやりとした風が触
れる。白蛇の小さな身体は複雑に絡む枝葉の間を器用にすり抜けてゆく。

 道の前方に老人と娘の姿が隠れもせずに堂々と足早に進んでいる。並の老人とは思えない歩みとはいえ、駆けず体力を消耗しない行軍を選んでいるようだ。
「待ちやがれ、インチキ野郎ども!」
 恵皇の罵る大声が谷間に響き渡る。
「ありゃ、来ちゃったね。意外と足が速いこと」
「わしらは顔を近所に知られてるからの‥‥ここで相手するのは予定のうちじゃい」
「この重い荷物抱えて逃げるのもしんどいしね〜」
 娘がよっこらせと木陰に置いた包みはガチャガチャと耳障りな音を立てる。
「金子の包み、持ってへんな。途中で持ち替えたか」
 相手の打ってくる手を警戒しながら、志乃が坂を駆け下りる。まだ飛び道具の届く間合いではないが、脇から矢が飛んでこないとも限らない。
 少し遅れて後に続いた瑞姫の背中から飛び降りた璃凛が側の枝を折り、即席の獲物にして恵皇と志乃の後を追う。身が軽くなった瑞姫は本領を発揮し足音を忍ばせて脇の木立に身を隠
すように静かにゆっくりと下る。

「正面からは三人。計略のつもりかしらね?」
 開拓者一行が八人いるのは承知済み。だがこちらは‥‥。
 老人と娘が牽制に放った手裏剣に恵皇と志乃は左右にかわし、璃凛が枝で打ち払い、速度を落とさずに駆け下りる。
「そっちへ行ったぞ!」
 別働の班にこちらは囮である事を知らせるべく恵皇が再び大声を上げる。
 味方が上手くそちらに回り込んでくれる事を信じて、恵皇は我の拳をちらと確認する。手足にきつく巻いていた白布は無理に解いて起こす事を恐れたのか、無事そのままに巻かれてい
る。泰拳士は己の身体が武器である。姑息な仕業に無力にされるような事はない。
「依頼の邪魔をする奴は許さねぇぜ」
 恵皇の手から圧搾された空気が波動となって繰り出される。

 木々の天蓋に覆われた薄暗い崖上で白蛇が立ち止まる。赤い瞳が猫のように細められ、下方で動き出す人影を捕らえた。
「お、降りるよ‥‥」
 できるだけ音を立てぬよう白蛇が土の崖を滑り降り、そこここに浮かぶ木の根を足掛かりに人影の背後を狙って迫り寄る。
 同じようにして後を追った輝血の目にも弓を構えるシノビの姿が映る。円月輪が手元にあれば‥‥しかし今使える武器は己の身体しかない。具合の良い太い枝が前方に目に入り、軌道
を一度逸らしてそれを足掛かりに低く跳躍する。
 近寄る銀色の髪を認識したシノビが弓を捨て刀を抜こうとした肩に樹上から飛び込んだ輝血の蹴りが命中し、態勢を崩す。その後頭部を両拳を組んで握り締めた白蛇が打ち昏倒させる。
「尋問してる暇はない、行こう」
 刀を使い慣れてる輝血が敵の獲物を拾い、二人は道へと合流する。

 待ち構えた老人が恵皇の空気撃を壮年のような身軽さで受け流し、その転倒を耐える。
「今だ切り裂け、斬撃符」
 刃を逆手に向かってきた娘の脚を理凛の放つ式が切り裂き、血を撒き散らす。
「ったぁい。陰陽師風情が!」
 街中の茶屋で愛嬌を振りまいていた姿とは似ても似つかない冷たい才気走った瞳が璃凛を睨み付け、脚を庇うように横の木立へと飛び込む。
 追いかけようとした恵皇の目前を手裏剣が飛び、仰け反るそこへ木立から現れた別の忍び装束を着た男が刀を突き出す。同時に左右の木立から各人へ飛び掛るように武器を構えたシノビ達が姿を現す。さきほどの笛の音は援軍を用意する合図であったか。幸い戦って戦えない数ではない。
「何人でも掛かってきいやっ!」
 志乃の咆哮が迫る伏兵の気を引き付け、上段から振り下ろされる刀を甲冑の肩で受け止め腹を殴りつける。
「首筋は危ないやんか、でもな急所はそこだけやないんやで」
 飄々と余裕の笑顔を浮かべながら腹の痛撃に耐えた男の股座を蹴り上げて突き放し、一人を戦闘不能に仕立てあげる。
「素手で戦うのもしんどいわ」
 木陰に投げ捨てられた荷物から飛び出している長い槍の穂。逸品の槍『羅漢』の愛しい姿に目を鋭く細める。武器を取り返すべく、甲冑の装甲を利用して敵の刃を潜り抜けながら位置を移動する。

(捉えた‥‥!)
 脚に手早く止血を施しこの場から速やかに去ろう立ち上がった娘の背中を、抜足で気配を消し進んでいた瑞姫が発見した。
 攻撃態勢に足早になった瑞姫の気配に慌てて放った手裏剣は髪を一筋切り裂いただけで、乾いた音を立てて後方の幹に突き刺さる。
 掴み掛かるように飛びついた瑞姫の身体が炎を纏い、周囲のこの葉を熱で萎れさせながら敵の身体ごと道へと転がる。落ち葉へ着火させない為に宙を舞った分の衝撃が身体を痛め、一瞬息を呑む。そのまま下敷きにするつもりだったが相手もシノビ、身体を捻って服を焦がし肌を焼かれながらも大きな打撃は逃れている。腕を振りほどいた娘は悪態をつく。
「ひどぉい〜、乙女の肌になんてことするのよ!」
 再び掴み掛かろうとするが、相手もお返しとばかりに木の葉の幻影を舞わせ、空を掴ませると一目散に逃げ出す。

「投げ‥‥たら危ない物ばかりやな」
 槍を手に取り、包みを切り裂いて中身をぶちまけると、さてどれから相手してくれようかと身構える志乃。
 自分の刀に持ち替えた輝血と走りながら鉄爪を装着する白蛇が、この場を任せて先を急ぐ。
 追いかけようとするシノビに恵皇が気功波を放ち、脚に喰らい膝を落としかけた男は態勢を第二撃を受けぬよう脇の木立に転がり込む。
 邪魔立てする男を呪縛して逃れた璃凛が自らの飛手を掴み、装着する。その間、槍を振り回す志乃が暴れ、飛んでくる手裏剣を弾きながら敵を寄せ付けない。
 式を宿した手甲で殴りかかろうと璃凛がその脇から飛び込む。
「喰らえうちのとっておき霊青打」
 腹に叩き込もうとした一撃は脇を掠るだけに留まり、その男も木立へと飛び込む。笛の音が辺りに響く。無言で散り散りに退却する男達。老人の姿はいつの間にかない。
「バラバラ逃げるのを追ってもしゃあないわな。金子が先や。先に向かうで」
 珠々と葎の武器を拾い、槍をひっさげた志乃を先頭に道を更に走る。白蛇の残した血文字の矢印が、この先を真っ直ぐに向かっている事を示していた。

●金子
 珠々と葎は戦闘の音にも目もくれず、木立の中を走り抜けていた。谷間から響いた恵皇の声にこの選択は間違いがないと確信する。先に金子を持って逃走する敵がいるはずだ。
「居た。男二人組」
 相手もシノビといえど長い時間を駆け続けるのは難しい。僅差の時間は先の場所での囮の準備に費やされたのだろう、なんとか追いつける距離にまだ姿があった。片方の男は一行が携えていた金子の包みを抱えている。一瞬開けた視界はまた深い木立に遮られてお互いの姿を消し去る。
「輝血さん達が‥‥追いつけば良いですが」
 まず二人で足止めするしかない。敵の進む道は谷間を次第に登り、途中の木立に阻まれた起伏を歩むよりはそのまま歩むのがよいと思われる。山を越える脇道はないがこれ以上進めばどこに抜け道があるかわからない。
「降りる」
 葎に続き、小石を拳に握り締めた珠々も斜面を静かに駆け下りる。

 術を使い、一気に距離を詰める。珠々が放った小石が敵の足元を狙う。かわした男が撒菱をばらまき、包みを抱えた男は木立へと姿を隠し逃走を試みる。勢いのまま飛び込んだ葎が男の衣服を捕まえ、そのまま幹に激突する。取り落としそうになった金子に気をとられた男の足を払い、掴みとろうとするが葎を突き飛ばした男は再び道へ包みを手にしたまま戻る。
 敵味方の位置が入れ替わり、珠々と葎が道先を塞ぐように立ちはだかる。足元に散る撒菱を間に挟み、飛び道具を持つ敵が有利だが、牽制の構えで睨み合い時間を稼ぐ。
「仕事の妨害は、此処で終わりにして貰います」
 駆けつける白蛇と輝血。シノビ達が左右に別れ再び木立に紛れようとするのを見逃さず、珠々と葎がそれぞれに迎え撃つべく別れる。
 珠々の蹴りを避けた男に追いついた白蛇が水柱を迸らせ敵を惑わす。逃げるシノビは金子から引き離す為の囮か。
 葎に手裏剣を投げかけた男の包みに刀を振るいながら輝血が手を伸ばし、肘打ちを喰らいながらもその手からもぎ取り転がる。攻撃してくる葎に取り返す隙を阻まれ、男は刀を抜き丸腰の葎に突きつけようとする。
 後方から聞こえる笛の音。刹那身体を強張らせたシノビは舌打ちし、気の無い刀で葎を払いのけると、奪い返された包みをそのままに退いてゆく。
 輝血を助け起こし、包みの中身を調べ数えた葎がほっと息をつく。間違いなく奪われた本物の金子である。
「金子は取り戻したぞ!」
 その声が追いかけてきた後続隊にも届き、ひたすら走り続けた開拓者達はその足を留める。

「ところで‥‥」
 再び歩み始めた璃凛が隣を歩く瑞姫に話し掛ける。
「何で姿見せようと思ったのさ」
「お前の育ての親やお師匠に見守ってくれと頼まれたからな」
 少し不本意だったのか璃凛が他所を向き頬を掻く。何か言いかけたが、その小声は遮られる。
「おい、ゆっくり話し込んでる暇は無いぞ。だらだらしてると置いてくぜ」
 振り返った恵皇の言葉に二人は慌てて駆け出す。
「交友温めるのは依頼が終わってから、ゆっくりな」
 志乃が優しく細めた目で笑い掛け、再び前を向く。

●顛末
「ま、こんなものじゃて」
「失敗じゃないの?このままのこのこ里に帰るのも怖いんだけど」
「構わぬ。邪魔立てをして我らが動いた事がひとつの任。はした金や開拓者の始末など、些細な事」
「そういうものなのか〜上の考える事はよくわからないわ」
 老人と娘はどこで着替えたのか全く目立たぬ格好の旅人へと戻り、人知れぬ山野を歩んでいた。

「結局どこの者か聞かんかったけど、詮索するだけ野暮ってやつかね」
「この国にも色々な政治って奴があるんだろうさ」
「巻き込まれるこっちは迷惑やけど、死人は出さんかったから逆恨みされる筋合いはないし。無事金子は取り戻したから気にせん方向で行こか」
 槍を肩に担いだ志乃の影が長く伸びる。
「やっと着きましたけど結構な時間はとられましたね」
 刻々と西へと下ってゆく太陽を見上げ、葎が呟く。
「これ以上援軍は遅らせられへん。手渡すまで気張っていくで」
 一行が抱えた金子は予定よりは遅れたものの、陰殻は北篠氏の手の者へと届き納められた。彼らがどの時点で出立するのか、金子を届けた者達には知らされる事はなかった。