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■オープニング本文 神楽の都にも雪がたくさん降り積もったある日の事。 「綺麗ね〜、しばらくこのままだったらいいのに」 「暖かい日が続いたらすぐに無くなってしまうですのね。残念ですの」 「せっかくだから溶ける前に何か遊びたいな。雪だるまとか昔二人で作ったよね」 「懐かしいですの。たくさん降ったから朝一番からみんなはしゃいでたですの」 「二人で大きいの作ろうって転がしてたら、男の子達に壊されて……泣いたなぁ」 「あの頃の悪ガキ達が職人になったりお店で愛想いい顔で澄ましてたり、不思議ですのね」 「魅麻だけは全然変わらないよね。いや昔より大人しくなったかな?」 そうそう、有加が泣かされた時はいつも追いかけていって代わりに魅麻がぶん殴ってくれた。 一際小柄な女の子だけど志体持ちで、近所のガキ大将だった天満くらいだろうか互角だったのは。 彼は開拓者稼業をしていて、開拓者ギルドの職員をしている魅麻とは今でもよく顔を合わせる。 「章吉と、健一郎がうちの職人になるなんて思ってもいなかったな〜」 「相変わらず二人で競ってるですの?」 「うんうん。何本作ったとか、こっちが綺麗だとか。蝋燭屋の娘だけど、私が見ても判らない違いが二人にはちゃんと判るのよね。さすがだわ頭も二人の目を褒めてた」 「有加の店の蝋燭を使ってたら、二人が作った物かもしれないですのね」 「明日が私の誕生日でしょう。二人とも歳の数だけ作ったから倍になっちゃった。でもどっちかだけなんて選べないし」 先日も一緒に茶飲み話をした時に聞いた。 蝋燭屋の一人娘、そろそろ婿を取る話もちらほら周囲の口の端に昇る年齢だ。跡継ぎとなると職人からというのが両親の意向らしいが。 章吉と健一郎が競ってるのは蝋燭作りの腕だけではない。有加も二人の熱意と好意は感じている。だがどっちもまだ選べない。 「両方使っちゃえばいいってこないだも言ったですの。いい案を考えてあるんですの」 「何、どんなの〜。まだ教えてくれないの?」 「明日までは絶対秘密ですのね。有加への私から誕生日祝いですの!」 「雪が降るのは計算してなかったけど。うん、雪だるまも作ったらきっと有加が喜ぶですのね」 当日身体が空いてそうな開拓者にそっと声を掛けて根回ししておいた。 神楽の都に数ある店のひとつだが、蝋燭は身近な存在。 お店も開拓者ギルドに程近く、商いの手伝いをしていても買い物に出ても誰かしら行き交う。 依頼帰りに報告へ赴く開拓者があれば、路地を掃き清めながらご苦労様ですと笑顔で労ってくれる。 通り掛かりに挨拶するくらいの仲から、彼女の店のお得意様まで様々あろうか。 「有加はあまり遠くのお祭りを見に行ったりする機会もないから」 少し冬の祭りめいた雰囲気を作って楽しませようと考えた。蝋燭がせっかくたくさんあるなら氷燈籠とかどうか。 一人で何個も作るのは大変だが、皆でなら一個ずつでいいし作ってる間もわいわいと楽しい。 桶をひっくり返しただけのから、凝った氷の彫刻まで色んな物がきっと並ぶだろう。 そして有加の好きな雪だるまもたくさん並べておき。 日没と共に有加を用意した場所へ連れてきて、火を灯した氷燈籠と照らされる雪だるまに囲まれて。 プレゼントを皆で交換する会にするのだ。皆で有加にあげてしまうと、彼女の性格ならお返しを考えて大変になる。 だから皆からは景色の贈呈。プレゼントは皆で楽しもう。雪の夜の、ちょっとしたお祭り。 「あ、せっかくだから合同で同じ月の誕生日の人も祝いたいですのねっ!」 |
■参加者一覧 / 小伝良 虎太郎(ia0375) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 周太郎(ia2935) / 鞍馬 雪斗(ia5470) / 菊池 志郎(ia5584) / 和奏(ia8807) / 霧咲 水奏(ia9145) / リンカ・ティニーブルー(ib0345) / 明王院 浄炎(ib0347) / 无(ib1198) / アルマ・ムリフェイン(ib3629) / 春風 たんぽぽ(ib6888) / 雨下 鄭理(ib7258) / エルレーン(ib7455) / にとろ(ib7839) / 闇眼 凶(ib8511) |
■リプレイ本文 「皆様もう始められてるようで御座いまするな。周殿、包みを彩堂殿にお渡しするのですぞ」 「あ、これ先に渡すんだっけか。悪ぃな、遅くなって」 揃いの包みを持って、睦まじく寄り添い訪れた霧咲 周太郎(ia2935)と霧咲 水奏(ia9145)の夫妻。 支度に時間が掛かったのはあれだ。家を出る間際になって周太郎がプレゼントの用意を忘れていたのに気付き。 急いで選んだはいいが包みの体裁がなっていないと水奏にもう一度連れ戻され。綺麗にやり直して貰ったからだ。 「説明通りに作ってみたけど、何かみんなが作ってるみたいなのいいなぁ」 大小の桶を重ねて水を一晩凍らせて。型から抜いてひっくり返したのを並べてみたが。 皆が更にそこから凝った作業をしているのを見て物足りなくなった小伝良 虎太郎(ia0375)。 「これさ、材料の氷や水に食紅なんかで着色って出来るのかな?」 礼野 真夢紀(ia1144)が今作っている物は同じ形状だが、水を少しずつ注ぎ水仙の花と南天の実を散らしては沈みきらぬうちに冷やして固める地道な作業を繰り返して凝った物になるようだ。 「水に先に色を付けておきましたら簡単ですよ。氷を固めるのはまゆもお手伝い致します」 「大きいのを作るなら雪でもいいんじゃないかな。このやり方だとまゆちゃんと逆に溶かしながらになる感じだが」 温かい眼差しを向けた巌のような大男、明王院 浄炎(ib0347)。真夢紀とは家族ぐるみの付き合いで今日も一緒にこの場所へやってきた。 分厚く大きな掌で雪を基礎から押し固め、朧の半透明な氷となるよう溶かしながら頃合を見て少しずつ高さを上げていっている。 構想は石燈籠のような重厚な作りだ。外殻が分厚い分だけ時間が掛かりそうだが、完成したらさぞかし見事だろうなと虎太郎は感嘆する。 「丈夫に作っておけば、幾日か余分に楽しめるかと思ってな」 「ジルベリアだったらきっと春先まで小父さんの燈籠を楽しめますね」 神楽ではちょっと陽気が照れば儚く溶けてしまうだろうけど。浄炎の燈籠はまた幾日か後に見に来てもしっかりと形を残しているかもしれない。 「薄いと明るく炎の形まで見えるんだよね。でも丈夫なのもいいな。うーんどうしよっかなぁ」 とりあえずおいらその辺で色付けれそうな物買ってくる!元気一杯に駆け出していった虎太郎。その足が端と止まり振り返る。 「ねぇ、こっから一番近い食紅とか絵の具とか売ってそうな店って何処?」 「雑貨を扱ってそうなお店なら彩堂屋さんですかね、あそこ玩具もありますから。魅麻さんのご実家、蝋燭屋の三軒向こうです」 「ありがとっ。ちょっと行ってくるね!」 「あの勢いで行ったら有加が店先に居たら何事かと驚くんじゃないか。まゆちゃん、今日も蝋燭屋は開いてるんだろう?」 「虎太郎さんが元気良く駆け抜けてゆくのはいつもの事で見慣れてますから、気にしないと思いますよ」 「それもそうか」 顔を見合わせて、笑う。 「ひゃあ〜、手が冷た〜いっ」 赤くなった手を摺り合わせるアルマ・ムリフェイン(ib3629)。模様まで、うん無理! 帽子から出していた耳も先が冷たくなっている。晴れ晴れと、今日は寒気が強い。 「うぅ、帽子の中に入れとこうかなぁ。あ、エルちゃん頭いいなぁ、その方法があった〜」 大きな問屋の漬物樽を借りてきて作った氷塊を刀でがつがつ削っているのはエルレーン(ib7455)。 張り切ってはいるが、いくら志体持ちでも刀で削り出すのは一苦労。頭いいなんて言われて赤面している。 (皆……さん誰もこんな事してないですよね。うん、何かちょっと恥ずかしいかも……) かぁいい氷燈籠!には程遠い。まだ形にすらなっていない。 というか内側どうしよう。これ中も削らないと蝋燭入れられないよね。 (夕方までには……できる計算、で合ってるはず……) 気合に燃える。絶対かぁいいネコにするんだからっ。 「これ別に一人一個とかないでにゃんすよね。手伝うでにゃんすよ?」 悪戦苦闘しているのを見かねたのか、とろ〜んと傍にやってきたにとろ(ib7839)。 拘りもないのでシンプルに小さいのを用意したら手持ち無沙汰になった。 「細かいのは判らないでにゃんすけど、大きく砕くとこあったら言うといいでにゃんす」 「わぁ〜助かる!こ、ここお願いしてもいいっ?」 「天辺のどまんなか壊していいんでにゃんす?」 「ネコの頭になる場所だから。耳の部分が残ってれば」 「あ〜、私の頭みたいにすればいいでにゃんすね」 確かに、ちょうどいいお手本だ。 「あっちゃんさん、寒くないですか?」 「自分は身体動かしているから……。たんぽぽ殿こそ……風邪を引かぬよう」 「コートもしっかりと羽織りましたから。平気です!」 「震えているではないか。……少し休憩するか」 ふっと唇を緩めて、立ち上がった雨下 鄭理(ib7258)。 自分の事は別に構わないのだが、春風 たんぽぽ(ib6888)が無理をするのは見てられない。 「あ、お汁粉冷たくなっちゃった」 「構わぬよ……戴こう」 好意で作ってきてくれた物だ。汁は冷たいかもしれないが、作ってくれた心は温かい。 たんぽぽの優しさが良く溶け込んでいる。 人それぞれの独創。 太い竹筒を利用して用意した円柱状の氷に蝋燭を収める部分を削り抜き、今は外側の装飾に取り掛かっているリンカ・ティニーブルー(ib0345)。 彫刻用の小刀を用いての細かい作業。上等な木細工に見られるような睡蓮の浮き彫りを氷の表面に丁寧に描いてゆく。 意匠の案は似通っているが、蓮の線画を彫り刻んでいた菊池 志郎(ia5584)は、細かな立体の飾りを別の氷で作成している。 蝋引きの型紙に指先に乗るような小さな氷細工が固まりきると、今度はそれを燈籠と水で接着させてまた術で固定させてゆく。 「なかなかそこまで凝った物はできませんが」 「そうですか?无様の作品も充分手の込んだ物だと思いますが」 ゆったりとした調子だが精緻なお手本その物という氷燈籠を並べている和奏(ia8807)。 教えられた通りにで良いなら元々手先は器用。定規で測ったように寸分違わぬ仕上がりに氷に小刀を入れ。 無地透明と荒地の市松模様。いやそんなのを作ったら綺麗ですのねと魅麻が言っただけで、彼女も目にするのは初めて。 「式に細かい部分まで言う事聞かせるのは難しくてね。加減を知らないから」 苦笑いしている无(ib1198)。敵を討つ為に研究された式をこのように利用するのはなかなか。 行使したい用途のみに能が絞られた存在だけに。破壊の力を全く無くしてという使い方ができない。 炎も冷気も私が当てる量を調整してやらないと。うっかり何個かは溶かしたり壊したりしてしまった。 直接当てないように周囲の雪を目標にするようにして。間接的に温度を伝える事で透明感の高い氷燈籠を作っていた。 「プレゼント、匂いが移らないように包んだつもりだったけど。大丈夫かな」 「鼻を近づけないと判りませんですのね。あ、角はこんな感じでいいですの?」 「うん……そんな感じ。終わったら魅麻さんの氷燈籠も磨こうか」 鞍馬 雪斗(ia5470)が製作しているのはやや上の方が細い四角柱の塔。膝くらいの高さの小さな物だ。 シンプルだけど手を掛けて。小さな窓も確りと。 「周殿、ああいう像みたいな燈籠を拙者も作ってみたいで御座いまする」 「出来るかね、そういうのは俺もやった事ねぇんだが。ま、一緒に作ってみっか」 ●夕暮れを迎えて ずべっ。 はしゃぎ過ぎて勢いよく前方に飛び込むようにすっ転んだアルマ。 自分よりも完成した小さな雪達磨を守ろうと腕を上げ、顔面から雪に突っ込んだ。 「ぷはぁっ。よし雪達磨は無事っ!」 「大きくし過ぎましたかねぇ」 ころころ転がせばいいからと時間一杯雪玉を転がし続けていた和奏。 「おいらなら中に入っちゃいそうだよね」 虎太郎なら確かに。 彼の雪達磨はいじってるうちに気が付くと耳や尻尾が付き、しまいには枯れ草で髭まで。 いや結構耳の付いた雪達磨があちこちに。誰か彼か作っていた。 「そろそろ日が暮れてきたね。点火しようか」 「ですのね。雪斗様手伝って戴けますか?」 空き地に祭りのようにたくさん並んだ氷燈籠と雪達磨。物言わぬ存在だが何だか賑やいだ雰囲気になっている。 蝋燭を入れた箱を運び、魅麻と一緒に燈籠に灯りを設置してゆく雪斗。 ひとつ、ふたつと淡い灯りが増えてゆき。日が翳り寒々とした景色が柔らかな温もりの光に包まれてゆく。 「幻想的ですね……」 完成した景色に微笑みを浮かべる志郎。 「友人やお世話になっている人達には、こんな風にきれいな物を見せたいとなるけれど」 (恋人同士や夫婦だと、一緒に見たいとなるのでしょうか) 瞳を向けた先は、霧咲夫妻。そして、初々しい好意をまっすぐに見せるたんぽぽ。それを受け止めている物静かな鄭理。 「主賓のご登場ですね。さてお迎えに上がりますか」 「僕も一緒に行く〜。えへへ、一番に有加ちゃんにおめでとうって言うんだ♪」 がしっと无の上着を掴むアルマ。 「はいはい私が二番で。って抜け駆けと違います。礼儀ですから」 お店まで迎えに行ったリンカとエルレーンと楽しそうに会話しながら歩いてくる有加。 お友達と誕生会とはいえ暗くなる時間、頼もしい女性開拓者達の同伴は送り出す方にも安心感が高まる。 「わぁっ。これみんなで作ったの!?すっごぉい!」 「有加が喜んでくれて何よりだ。さあ、足元に気をつけて」 待ちきれなくてうずうずしていたアルマがおめでとう〜と駆け出し。やはりまた転ぶ。 そつのない祝辞を述べて、アルマを助け起こす无。 はっくしゅん、ずず……とやるアルマにさりげなく懐紙を差し出す。 一番に有加が選んだ包みは梅花の髪留めが入っていた。水奏が包んだ品。 「十二月お誕生日の方から選んで貰いますのね。真夢紀様とリンカ様こちらいらしてくださいですの」 「同じ月生まれの仲間ね。おめでとう〜、一緒だね♪」 「ほう、うさぎのぬいぐるみ……か?」 にしては胴が中に固い物が入ってる感触がするが。よく見ると背に釦が並び開けるようになっている。 小さな空の水筒のような物が中に詰められていた。湯たんぽというらしい。 クールな表情で手元の品を眺めるリンカ。 「更に冷え込む時期故、少しでも暖かく過ごせれば良いと思ってな」 誰に当たるか判らないのに子供っぽい外観は失敗したかなと頭を掻く浄炎。気に召してくれれば良いのだが。 「まゆちゃんは何が当たったんだい?」 「泰国特産の珈琲豆の包みですね。独特の良い香りですからお菓子などにも使えそうです」 料理好きの真夢紀らしい発想。 「ね、ね、みんなのも何当たったか見てみたいなぁ〜♪」 「これは翡翠の蛙の根付ですか。良い運気を貰えそうな品ですね。巾着も素敵です」 「おいらは懐中時計が当たったよ!」 素直な喜びで満面の笑顔な虎太郎。 「そんなに喜んで戴けて何よりです」 「これ志郎がくれたの?ありがと、すっごい嬉しいな〜。あ、それおいらが出した根付だ」 「おやおやお互いに選んだのを当ててしまいましたね、こんなにたくさんあるのに奇遇です」 「真っ白なマントが当たったでにゃんす。ん〜いい肌触りにゃんす」 「にとろさ〜ん。ねぇねぇ、着て見せて、ね?」 「いいでにゃんすよ〜。エルレーンさんは何が当たったでにゃんすか?」 「私は……白粉かな?花の匂いがする。お化粧してゆくようなお仕事、私できるかな〜」 「たまに趣を変えるのも面白いと思うでにゃんすよ。うん、暖かいにゃんす」 「すごく似合う〜。可愛い〜。良かったぁ似合う人に当たって!」 ごつい大男に当たっても、それはそれで可愛いと思うのだが。いやそれこそ白熊になってしまうか。 「蝋燭だぁ。これきっと有加ちゃんだね!あ、そのローブ僕選んだんだ、星綺麗だよね♪」 アルマには花蝋燭。无はアルマが包んだ星の刺繍が施された気品ある夜色のローブだった。 包みを開けた雪斗の表情が笑顔を一応作りながらほんのり固まる。 (これ、え〜と女の子が着ると似合うと思うんだけど) うさみみ頭巾。女の子に似合うという事は性別不詳のミステリアスな容姿の雪斗にも似合うという事だが。 「これ付けたら魅麻さんとお揃いっぽくなっちゃうね」 いつもうさみみ簪を付けている魅麻と並んだら、兄妹の神威人みたいになってしまうかもしれない。 魅麻の手首には、色とりどりの紐で編まれた輪が新しく付けられていた。リンカ手作りの品。 手にした誰かの幸せを祈る暖かな気持ちが真摯に込められている。 浄炎は可愛らしいテンの姿を象った首飾り。和奏の手元にあるのはフルートだ。 ●氷の幻想をそぞろ歩き 「どれも綺麗なもんだなぁ」 「周殿の作られた燈籠も見事で御座いまするよ」 「時間ありゃあ、立体に挑戦してみても良かったんだがなぁ」 最初は普通の桶型を作っていて、途中からだったから。絵柄を追加で彫り込む程度に留まった。 妻の希望通り、燈籠を持つミズチの姿を可愛らしく。蝋燭の灯に線画が浮かび上がっている。 水奏はもふらさまを彫り込んだはずだが……間抜けな顔になったのはご愛嬌。 二人には傘とペンダントが。傘は魅麻、ペンダントはたんぽぽが用意した物だそうだ。 「こ、これ。あっちゃんさん用の!男の人って何が欲しいのか判らなくて」 「たんぽぽ殿に選んで貰ったというだけで……嬉しいよ」 良かったら今開けて貰えるかな、と。 「わぁ、蒲公英の飾りが付いたマフラーっ。手袋までっ!」 大きく花咲くような笑顔。薄闇の中だというのに眩しく感じられる。 (……その喜ぶ顔を見れたのが、一番の貴公からのプレゼントだな) 「あっちゃんさんは何を貰ったんですか。私、お香と簪がセットになったのを貰いましたっ」 「邪気を払う勾玉……良き年をと手紙が添えてあった」 誰か知らぬが、人の心の温かさが伝わるというのはいいものだな。 「二人きりで居たら勘違いされちゃうかな」 たまにゆっくり話したかったんだけど。こんな機会も少ないしね。 魅麻を誘って、賑やかに有加を囲む場所から離れた雪斗。 「皆が楽しんでるのなら幸いだな。何より……自分もそれは望むところだったし」 更に雪達磨を増やしている光景に苦笑いする。有加が作り始めたら、僕もおいらもと。子供のように。 燈籠そっちのけではしゃいでいる。 幾人か姿が見えないが、自分達と同じように灯りの幻想を味わっているのだろう。 「有加もこうしてると昔と変わらないですの」 「魅麻さんもあんな感じで遊んでたんだ」 「神楽は雪がそんなに降らないから、子供の時は降ったらそれだけで大はしゃぎでしたのね」 燃え続ける蝋燭の丈の変化と共に灯りが作り出す風景もまたゆっくりと別の姿を見せる。 既に周囲は真っ暗になっていた。冷えがしんと堪えるし、そろそろお開きの時間か。 灯りが全て途絶えてしまう前に、それぞれの家路へと。 向こうの家並の明かりが美しく見えるように、この場所だけは淡く輝いてみえるのだろうか。 |