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■オープニング本文 「なんで、俺がアヤカシ退治じゃなくて呉服屋の手伝いなんかに駆りだされてるんだよ!」 「はいはい、動かないですの。唇に差す紅がずれますの。高いんですからやり直しは実費になりますの」 「うがあー」 今日はギルドのお仕着せを脱いで雪の結晶をあしらった子供向きの晴れ着姿の彩堂 魅麻。 簪もふわふわの兎耳を模した温かそうな物に変えられている。 無駄な抵抗をしてるのはギルド所属の開拓者アキラ。華奢で均整の取れた中性的な美貌の持ち主である。 「彩堂屋が呉服商と協力して、お得意様に売り込みをするですの。報酬はちゃんと出ますですの」 好事家向けの万屋を商う彩堂屋は魅麻の実家で。その道の腕は確かな主が目利きした品を季節ごとに取り揃える。 今回は各地から取り寄せた高級な化粧や装身具の類を、呉服と揃いで披露してお得意達に買わせようというもの。 「女物しかねーのかよ」 「無いですの。これアキラが着てみるですの?」 「断る!」 魅麻が手に取ったのは純白の毛皮で縁取られた真っ赤なミニスカート。 ジルベリアから渡った職人が丁寧に仕上げた逸品。セットで同じあしらいの丈が短い上着と帽子が付く。 「脚を派手に露出するのは勘弁な。幾ら装ってもそれは俺の体格じゃ誤魔化せねぇ」 文句を言いつつもやるからには完璧を。女装にかけてはプライドが先立つアキラである。 女装は絶対嫌だと常日頃から言ってるのに。半端な仕事は許せない。 「じゃあこれがいいですの。重いけど。雪の十二単、高名な絵師が描いた寒椿が艶やかに裾に咲く新作ですの」 「豪奢だな。それだと頭の方の飾りも派手にしないと釣り合い取れねえんじゃないか」 「ぴったりの冠があるですの。氷柱を模した水晶飾りが髪を覆う豪華なのが」 紅はこの色で合ってますのね。少し顔立ちがきつく見えるくらいで映えると思いますの。 「しっかし、こんなの着て何処で見せるんだ。店先の路地とか似合わねえだろが」 「寒いですし、お得意様達にも寛いで戴く為に温泉宿をひとつ借りておりますの」 アキラにはそこまで歩いて貰うけど。宣伝になるし、面白いから。 「宴会、温泉付きか!」 「宴会はお得意様達の為だから。披露の後は着替えてもてなしもお願いしますけど」 侍って酒や珍味のご相伴に預かるのはどうぞご自由に。機嫌良く奢らせれば宿も喜びますし。 購買の狙いが女性客相手だから芸妓のようにとはいかず勝手が違う事でしょうが。 「料理は宿にお任せですが、もてなしはうちの雇った者だけで行なう予定ですの」 購入を迷ってるお得意様への推しも兼ねて。そこは大事な時間だ。 「アキラの他にも何人か雇ってるけど、支度は各自に任せてるから顔合わせは宿に入った後で」 付いた客の売上で報酬は変わるから、そこはよろしく。 「それ売れなければ、報酬は雀の涙って奴かよ」 「うちも慈善事業でやってるんじゃないですの。私も休みを取ったのに報酬は同じですの」 実家の商いが繁盛しようとそれは魅麻の懐には直接関係ない。 ギルドの職員として薄給といえども一人前に生計を立てているのだから。実家は実家である。 「手順は、さっき説明した通りだからよろしく頼みますのね」 「って、おい。温泉の説明は全然してねえだろうが」 「お得意様達が寝静まった後でしたら自由に入るといいですの。けど混浴しか無いから」 私が入ってる時に来たら髪の毛に火を付けますですの。 「てめぇの裸なんざ興味ねえよ。もっと背が高くて発育のいい姉ちゃんをだな」 「アキラは無報酬で手伝ってくれるですのね」 「……俺が悪かった。頼む!報酬はちゃんと出してくれ」 |
■参加者一覧
静月千歳(ia0048)
22歳・女・陰
以心 伝助(ia9077)
22歳・男・シ
アクエリア・ルティス(ib0331)
17歳・女・騎
杉野 九寿重(ib3226)
16歳・女・志
郭 雪華(ib5506)
20歳・女・砲
フランヴェル・ギーベリ(ib5897)
20歳・女・サ
フレス(ib6696)
11歳・女・ジ
にとろ(ib7839)
20歳・女・泰 |
■リプレイ本文 「よいしょっと。運び込む荷物はこれで全部でにゃんすか〜?」 「まだ長持がもうひとつ玄関に残っていますのね」 「それは、あっしが運ぶっすよ。少ない男手でやすから……アキラさん」 「俺がこの格好で運んで破いちまったらどーすんだよ。ったく、皆まだ普通の格好じゃねえか!」 「よぉくお似合いでにゃんすよ。ここまで輿で晒……いや道中お披露目ご苦労様でにゃんす」 「にとろ、てめぇ……今ほんの少し本音が出なかったか」 「気のせいでにゃんす〜。さぁ温泉宿にぃ宴会の席を設けてぇ〜」 おっとりマイペースを崩さないにとろ(ib7839)の返しにがっくりと力が抜けるアキラ。 魅麻の策謀で、ここまで十二単に飾られた衣装姿で開拓者達に担がれてくるという羽目に。 棒のついた戸板に座布団を敷いただけ、余計なとこに予算は掛けないというのは半分は口実だ、故意だ。 「ボクが手伝おう。ふふ、今日はレディに徹するつもりだけどね。さあ子猫、いや子犬ちゃんかな先に着替えておいで」 幼い娘にはあくまでも紳士たらんと、以心 伝助(ia9077)の手伝いに率先して申し出るフランヴェル・ギーベリ(ib5897)。 天真爛漫なフレス(ib6696)はそう、彼女にとってジャストな守備範囲。静月千歳(ia0048)は既に立派な淑女だが、これもまた良い。 子持ちのお得意様も居るというが今日は同伴じゃないのがちょっと残念だね。下の子なんかたぶんボクの好みじゃないかと思うんだけど。 「化粧の力って……偉大だね」 アキラの頭から爪先まで眺め、感嘆とも溜め息ともつかぬ声を漏らす郭 雪華(ib5506)。 この依頼に男性も参加しているとは意外に思ったが。 「もしかして以心殿も着るのかな」 「いやあっしはこの格好で売り込みの口添えに回る予定っす。派手なのは苦手なんすよ」 藍の長着に茶の中羽織と商人のいでたち。彩堂屋の名入り手拭も袂に挟み。 渋々そうなアキラに同情はするものの、自分まで真似させられるのは御免だ。 「売上で実入りも決まるっていうし、正月を前に一働きっすね」 「私の事はアクアって呼んでね。モデルの仕事ね、わくわくするわぁ〜。ね、ね、このドレス私が着てもいいの?」 こっちもいいけどこれも可愛い〜迷っちゃう。と衣装選びにはしゃいでいるのはアクエリア・ルティス(ib0331)。 お仕事とは判っているんだけど、煌びやかな衣装がたくさん並ぶ様は乙女の心が躍る風景だ。 「アル=カマル風はフレスさん着ないんでにゃんすか」 「ん、今日は天儀の呉服を着て舞を見せようと思うんだよ。褐色の肌に合う着物をアピールするんだよ」 「雪華さんは泰風だし、フランヴェルさんがジルベリア風ね。じゃあ、私がこれ着ちゃおうかしら♪」 アクエリア、アクアが手に取ったのは、情熱的に鮮やかなピンクを基調としたエキゾチックなドレス。 薄地の色違いの布を何枚も重ね潤沢なドレープを開いた胸元にあしらい、腰からも脚のラインにかけて優美な流れを作って裾を長く取っている。 「脚、露出し過ぎかしら?飾りを多く付けるから少し肌を出した方が可愛らしくなるかと思ったけど。どう?」 「剣もあるから……見た目が重くならなくていいと思うよ。アンクレット、これ」 下着が見えそうな程深いスリットが入った水色の旗袍に着替えた雪華が手に取ったのは、彼女の剣の装飾と同じ華奢な白金色のアクセサリ。 「それ素敵ね♪後は冬らしく房の付いたショールを羽織って。えっ……下着も見せるの!?」 「売り物だからそれもアピールしないといけないんだよ。雪華さんもだよ」 「僕も……うん……他の人はあまり露出しないみたいだし」 「これなら少し見えても変に扇情的ではないですし色合いも近いからどうでしょうか」 杉野 九寿重(ib3226)の晴れ着姿の帯を後ろで可愛らしく結んでいた静月千歳(ia0048)が絹地に刺繍をあしらった湯文字風の下着を勧める。 「それなら……組み合わせても……あまり変じゃないかな」 下着の売り込みまでは考えてなかったけど、勉強だしね。横からの見栄えは影響が少ないからいいか。 「お披露目の順はこのような感じで進めましょう」 司会も務める千歳が、細かく段取りを確認する。 着替えの回数が多い九寿重は千歳のすぐ後に出して、フレスの踊りで場を温める。 「フランヴェルさんと前後を並べた方が宜しいですね」 「ボクの時に、ミニスカートの九寿重ちゃんが一緒だといいかな。エスコートさせて戴くよ」 舞台の袖でアキラが三味線を弾く。芸事は一通り積んでるので琴の音を奏でる宿雇いの者の方がやや拙いくらいだ。 「フレスやアクアが踊る時の曲は任せとけ。少しは躍動の合いの手入れた方が様になんだろ即興でやってやらあ」 「激しい舞いの時はべべんとお願いするんだよ、変な時入れたらダメなんだからね」 「任せとけい」 ●しょぉたいむ 「皆様本日はお忙しい中集まり頂きましてありがとうございます。どうぞ今宵はゆるりと華やかな時間をお楽しみください」 新年といった装い。純白の振袖に鮮やかな南天を飾る金の刺繍。目出度い色合いに身を包んだ千歳が楚々と舞台の中央に進み出て。 丁寧に三つ指を付き、黒髪を垂らすと賑やかな拍手に広間が包まれる。 「まぁ、揃いの簪も可愛らしいですこと」 「杏はんなら、振袖でもいけはるやろ」 「可南子様ったらご冗談がお上手で。さすがに振袖はもう」 「巾着も同じ色柄やから、今買わないと惜しゅう思いしますわな」 「従妹にでしたら……まだ嫁入り前ですから」 かしましいのは奥様連だ。他の者達はほぼ初対面ともあって、値踏みするに留まっている。まずは反応上々。 「お目の高い皆様方にとっておきの新作晴れ着。紅もよろしゅうございますが、来年の華、泰でも祝い事に定番の龍もお如何でしょう。お子様向けに可愛らしく雪の結晶をあしらった作 品もご覧くださいませ」 淑やかに口上を述べる千歳が大きく取った袖を魅せるように振ると。舞台の左より雪華、右より九寿重がゆったりと琴の調べに合わせ進み出る。 (子供用がぴたりと合ってしまいました。成長途上とも言えるこの体型がある意味必要不可欠なのは皮肉なのですかね……) 単純化した図案の雪の結晶を掌大の大ぶりに。簪の飾りもピンと立った耳の脇にシャラシャラと軽やかな音を立てて鳴る。 一礼した九寿重の視線の先にあるのは留袖を着てにこにこしてる若いご婦人。駆け出しの頃に縁のあった人。向こうは九寿重の事を知らないかもしれないが。 「やぁん、可愛いわぁ神威人の子大好きよ。尻尾の方とかどうなってるのかしら」 「ご心配ございません。神威のご婦人お嬢様には特別にしつらえておりまして、ご覧の通り」 すかさず千歳が客の言葉を捉え、九寿重に手を振る。くるりと回って背を向け、尾を立てたり横に振ってみたりそれで乱れない様子を見せ。 「袖よりも綻びやすい部分ですのでしっかりと作ってあります。後刻どうぞ近くに参りますので触って確かめてご覧ください」 「後で私のとこに来てね〜。お願いよ♪」 初っ端からご指名確定。 客席からの声で演目をやや乱された形の雪華だったが、澄ました顔で後ろで楽の音色に合わせて立ち位置を変えながらポーズを披露していた。 むしろその間は表情を淡として横顔を見せていれば良かったので楽だった。 (さて……営業の笑顔で衣装をより魅力的に見せないとね……少しは) 動きを舞へと切り替えて、板間前方ぎりぎりまで出たところで決めの姿勢。 羽扇子で一度顔を隠し、すらりと伸びた脚だけが肌の色。 身体の線に沿い落葉のごとく滑らかに扇子を持った手を下げてゆき、上体から脚線へと視線を導く。 反対の手指が膝の脇から腰まで撫で上げ。更に視線を辿ると透けるような薄絹に覆われた細い腹部が。 (下着……ここで見せておいた方がいいのかな。後で見せるのも変か、機会どう掴んでいいかわからないし) 旗袍の裾にあしらわれた水煙より登る龍の爪を摘まみ、脚を更に見せ。湯文字をほんの少しだけ。 固くなりかけた笑顔を扇子で覆って目元の柔らかさで誤魔化す。 「他に日輪や紅蓮など各色取り揃えてますので、どうぞ気軽にお声掛けください」 続いて純天儀風の白い呉服を褐色の肌に合わせ、清楚な舞で笑顔一杯のアピールするフレス。 飽きの来ないようにここでフランヴェルがジルベリアのゴージャス婦人といった出で立ちで登場。 真っ赤な厚地に白い毛皮の飾りで全身揃えた九寿重の手をしっかりと握り。 化粧とウィッグで何者だか奥様連は気付いてないようだが、フランヴェルの方では体格や話し方でピンと来ていた。 (おや、あの時の……ふふ。秘密だからね、初対面のそぶりでもしていよう) 編み上げのブーツに高級毛皮のコート。綺麗なターンで背中を見せた後で、つい笑みが頬に洩れてしまう。 いや緩み過ぎて、隣の九寿重が少々引いている程のにやけ具合。 「あの着替えますからお手を……離して戴きたいのですが」 登場した瞬間から目に飛び込むような鮮やかなアクアの衣装。 眩いばかりの大粒の宝石群。肌も露に一足飛んで春が舞台に現れた。 騎士らしく宝剣での演舞を。楽の音も高まり、途中からフレスが情熱的な真紅で絡む。 (ネイガ姉様にも新しい可能性を見て貰えたらいいんだよ♪) フレスのアドリブを駆使した動きに戸惑いながらも目一杯舞台を楽しむアクア。 動きに気を取られて大胆に白レースの布胸当まで見せちゃってるのはご愛嬌。 「きゃっ危なかった〜。動き過ぎたかしら。装飾の重さに引き摺られるのね」 口上役を千歳より引き継いで魅麻の番で流暢にポイントを語る伝助。結の視線が突き刺さって仕方がない。 (あきらかに結さん狙った衣装でやすからね。これはバレてるかな) 壇上の灯りを絞り、夜を思わせる琴の単音に合わせてにとろが舞台に立つ。 暗い陰の部分では溶け込むような黒地。明るい側に立つと銀糸の天の川が照らされる。 傘をパッと広げるとそこにも銀の星空。 「最後は絢爛な十二単の登場でにゃんす」 袖で待機していたアキラの手を引き舞台中央へ。純白と黒銀の対比。 再び傘を開き、傍に跪いたとこで幕。拍手喝采。 ●せぇるす 「ジルベリアのお嬢さん風も可愛いわぁ〜」 優しい色合いのワンピースとカーディガンに着替えた九寿重を傍に置いて離さないさゆり。 持参した様々な衣装にこれもあれもと着せ替え人形扱い。もふもふされ過ぎて忙しい。 親愛の情として示されるのは多々なので気にはならないが、随分と激しい人。 「ところであの、銀狐のお嬢さん方のその後はどうなりましたかね?」 えっという顔をするさゆりに当時の関わりを説明する。 「あの時の!親御さんの情報は芳しくなくてね。別の儀に渡ったまでは掴んだのだけれど」 伝手で見つかったら天儀に戻して貰う算段はしてるものの、未だ消息は掴めない。 「そうですか。娘さん達はお元気ですか?」 「ええ、上の子は開拓者になりたいっていうからたまに寒河さんに預けたり」 預かりなしで外に出すのはやっぱり怖いわねぇ。 「一式買うの。だから化粧、やって見せて」 売り込みに来た伝助の袖を掴んで命令する結。 「あ、あっしがでやすか!?」 「買うから責任持って、やって見せるの」 「アキラさんじゃなくて?魅麻さんじゃなくて?」 「これセールスしたの貴方なの、全部着て」 「服もっすか!」 「化粧だけじゃ気持ち悪いの」 助け船を求めてもアキラは遠くでニヤニヤしてる。魅麻もお客様の要望ですのねと取り合わない。 「結さんがそう仰るなら……」 着替えて戻ってきた伝助の姿に爆笑する結。目尻の涙を指で拭っている。そんなにか。 (笑うと年相応っすね。それはいいんですが、この格好) フリル大量のワンピースにシルクハット、ふわふわ毛皮に手袋に薔薇のコサージュ。 口紅に爪紅に。完璧なる女装である。 「着替えたらダメなの。宴が終わるまでその格好で酌するといいの。しなかったら銃の的なの」 「お買い上げありがとうございま……す。いやその銃の修練は程々に」 完全に彼女からお気に入りの『玩具』認定を受けたようで。伝助災難。 (アキラさんの方は早々にお客様に着て貰って普通の格好に戻ってるのに。あっしは……) 奥様方三人を一手に引き受けて、フランヴェルが売り込みをしている。 時折微妙な反応を見せるが、当時とはお互いに違う姿。 しばらくするうちに向こうも気付いたようだが、ほほほと笑い誤魔化され。 「そうですわね、このブーツで。いや何でもありませんわ」 「正月、主人と詣に行くんやけど。毛皮にはどんな髪型が合うか教えてくれはる?」 「はい、喜んで」 良ければ着付の際に個人的に呼んでくれても。ついでにあんな事やそんな事も。 フランヴェルの頭の中は。決して記録には残せない。 (うーん、脚の売りで攻めるのはなかなか難しいね) ネイガの傍は既にフレスとアクアが占めてしまっている。さて何処に回ろうかと雪華は悩む。 アクアは色々可愛い服を着るのを純粋に楽しんでるようで。売り込み?フレスが話してるから大丈夫。 「廻る集落には肌の白い人ばかりのとこもあるからねぇ。帰ってからじゃ試せないから。うちの者は皆同じ肌だしね」 宝飾品はごっそりと。しかしがっつり値切るネイガ。フレスの勧めを聞きながら売り込み先を算段している。 にとろは客が退屈しないよう、座を固定せずに分かれて巡る。 夜空を着ると売り込んで、紗那に二着星座違いを購入して貰い。雪華を呼び一緒に旗袍を推す。 「その綺麗な脚に……男性はメロメロになるよ」 試着までもっていき、玉の輿に磨き上げた肢体に囁き口説き落とそうと。 千歳も座の巡りに忙しい。若い奥様にも売れたし、もふもふでさゆりの傍にも。 「色違いで、咲季さんたちに如何ですか?」 「そうねぇ、でも九寿重ちゃんのもいいし。ああ、そんなに予算ないわぁ〜」 「たくさんお買い上げなら割引するよう私からも申し添えます」 「やっぱり晴れ着は欲しいわねぇ。ごめんね九寿重ちゃん」 「こちらは季節問いませんから春の装いに新調でも」 「そうね、そうさせて戴くわ。その時はまたお願い、ね」 「で、何で旗袍まであっしが試着するでやすか!?」 「見たいから。伝助が着たら買ってもいいの」 「それはそれは。お買い上げ戴けるなら僕からもお願いするよ」 さりげなく手渡される黒系の旗袍と同色の羽扇子。 「下着もなの」 「はい、以心殿。それも黒があるから」 「雪華さん、澄ました顔で渡さないで!」 ●温泉 ぬっくぬく。恥ずかしがる事はないと女性陣だけの入浴は和気藹々と。 はしゃぐアクア。嬉しそうに他の背中を流すフランヴェル。 「別に恥ずかしがる事なんてないけど……にとろさんそう直接見せるのは」 「だって見て見て。この前の依頼で全部抜けちゃってぇ、未だにちゅるんちゅるんでにゃんすよー」 |