くまさんを懲らしめて
マスター名:白河ゆう 
シナリオ形態: イベント
危険
難易度: 易しい
参加人数: 15人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/11/21 00:13



■オープニング本文

 くまさんを懲らしめて

 寒々として閑散とした浜辺。ここは夏になれば昨今では水着の人々で溢れるという。
「今はちょっと肌寒いけど静かで散歩に最適なんだよね〜。でも、これ‥‥」
 ひどい‥‥綺麗な砂浜がゴミだらけじゃないの!
 紙屑、木っ端。はともかくとして一人ではとても抱えるのが無理な丸太がごろごろしてるとか。
 海で遊んだ人達の仕業とは思えない。かといって嵐が最近来た覚えも無い。
 悪戯?にしても量が半端ではない。
「一人じゃとても片付けられる量じゃないわね」
 ルイは非力だ。村の有志でと声を掛けてみたが皆忙しいとか、来年でいいじゃんとつれない返事。
 この風景は切ない‥‥。
 広い浜辺の掃除には人海戦術が一番だが、開拓者に自腹切って頼むような事でもないし。

「はぁ‥‥ん?ゴミが増えてる?」
 数日前に散歩した時には無かった位置に、また丸太がどっかりと投げ捨てられている。
「誰よ、悪戯しているのは!見つけたらとっちめてやるんだから!」
 暇な身体ではないが、お店に頼んで丸一日休みを貰ってルイは見張ってみた。
 この夏、繁盛のお陰で一日も休みを取っていなかったんだから。
 快く主や番頭の許しを得て、むっくむくに着膨れて浜辺を見下ろせる場所に佇んだ。
 そこで見たのは人間なんかじゃなかった。
 ごしごし目を擦ってみても見えるモノは変わらない。
(どう見ても、可愛いくまのぬいぐるみが歩いているようにしか見えないんだけど)
 都に出回っているというまるごとなんとかとか称する着ぐるみだろうか。
 いや、こんなに集団でそんな訳はない。と思う。たぶん。
 せっせと何処からか燃えるゴミを抱えてきては、浜辺にぶちまけている。
 子供の背丈程度しかない小さな身体で丸太を担いで列になってくるモノも居る。
(これは、うんやっぱり開拓者ギルドに知らせるべきだわ!面妖よ、面妖!)

 ルイという浜辺へ向かう街道筋の宿屋に勤める娘から舞い込んだ調査の依頼。
 誰も来なくなった浜辺を、おかしなくまの集団が跋扈して荒らしている。
「アヤカシ‥‥なんですかねぇ。何をしたいのか判らないですけど」
 ギルドの職員も首を傾げている。今のとこ人に危害を加える様子は無いようだが。
 もしも正体がアヤカシなら放っておく訳にもいくまい。
「とりあえずアヤカシだったら退治して。ついでに良ければだけど掃除もして欲しいそうですのね」
 丸太も担いで歩けるのだから、本気で襲ってくればそれなりに危険だろう。
「ゴミは燃やせそうなモノばっかりらしいから」
 ついでに晩秋の星空を見ながら皆で焚火でも囲みませんか?
 綺麗なんですよ〜とルイは宣伝も忘れずにしていった。


■参加者一覧
/ 礼野 真夢紀(ia1144) / キース・グレイン(ia1248) / 平野 譲治(ia5226) / 和奏(ia8807) / 明王院 千覚(ib0351) / 羽紫 稚空(ib6914) / 斎宮 郁李(ib7591) / アゼリア(ib7726) / 甲真優(ib7843) / 黒崎 大地(ib7854) / 神龍 氷魔 (ib8045) / 鏡珠 鈴芭(ib8135) / 破鏡 水影(ib8136) / グローザ★(ib8169) / 鬼道 螢(ib8180


■リプレイ本文

「わあっ、海から吹いてくる風って結構寒いね〜。ご主人様みたいな外套着てくれば良かったかな」
 ばたばたと風をはらんで大きく膨らむ水干。風さえ遮れば、気温はそんなに低くないのだけど。
 破鏡 水影(ib8136)の装備を羨ましげに見やる鏡珠 鈴芭(ib8135)に、穏やかな微笑みが降る。
「‥‥中には入れませんよ?それでは動き難くて、ちっともお仕事になりませんから」
「動いていれば気になる程ではないぞ?鈴芭」
 水影と肩を並べて歩いていた斎宮 郁李(ib7591)も振り返り、小さく笑う。
 気にしなければ気にならない。よほど薄着か汗でもかかなければ風邪を引くまでは至らないだろう。
「掃除にアヤカシの掃討に。手を休めている暇はきっとないでしょうね」
「くまさん‥‥可愛いけど倒さなきゃなんだよね?」
「そうだな。アヤカシをそのまま放置しては今後人を襲うかもしれないからな」
「くまさん、と呼ぶと可愛らしいですが。見た目も可愛らしいのでしょうか」
「ルイはもっこもこのぬいぐるみみたいだって言ってたよ。私攻撃できるかなぁ」
「いざ対峙したら余計な念は払って、な」
 そう。戦いとなったら躊躇してはいけない。迷いや怯え、憐憫。様々な念があろうが。
 郁李の言葉には、語らぬ傷がある。もしも必要な時に動けなかったら――。
 かつて友人を守れなかった後悔が、胸の内に深く刻みついている。
 強くある為に開拓者になる事を決意した出来事。
 まだ俺は弱いかもしれないが。その心得だけは常に身に付けていたい。
「ご主人様、それは?」
 水影の荷物に見慣れない品が。包みに開拓者ギルドの印が染め抜かれている。
「応急処置の道具ですよ。包帯や薬草ですね。万屋で購入できる物と同じだそうですが、頼んだら貸してくださいました」
 大抵は自前で用意するそうだが。今回は依頼そのものに慣れぬ人も多いからとギルドに常備の物を出してくれた。
「符水等の特別な薬のように怪我の回復をできる物ではありませんが、傷口が悪化しないよう綺麗に処置をするのは大事です」

「二人とも今回が初めての仕事だな。頑張れよ!」
 爽やか好青年を絵に描いたような笑顔で、激を飛ばす羽紫 稚空(ib6914)。
「ああ、くま退治がてら訓練ってとこだな」
「しっかり鍛えていかねぇとな!」
 気合充分の黒崎 大地(ib7854)と神龍 氷魔(ib8045)。
「きゃ〜、開拓者さんっていい男揃ってるわね。活躍楽しみにしているわ。噂の修羅さんまで!」
 武装した精悍な若者達の姿に大はしゃぎする依頼人のルイ。
 相手が駆け出しという事もあって気軽に傍に寄ってくる。
「よろしくな」
 街道筋の宿屋勤めなら、もう修羅も大分見慣れてきただろうに。
 心の中で軽く苦笑する氷魔だが、人好きのする笑顔で応じる。
 幼い頃は、こんなに気軽に人間の里に溶け込んで生活する日が来るとは夢にも思わなかったが。
「さてと、掃除と退治って事だったが‥‥」
「今日はまだ居ないみたいだな。出くわすまでに掃除でもしておくか」
「ああ、それも依頼のひとつだしな。手惜しみなくやらせて貰おう」
 次第に増えていったというゴミは、見渡す限りかなりの分量になっている。
「大きいのは男でも一人じゃ無理だ。大地、そっち持ってくれ」
「おう。どうするんだ、とりあえず一箇所に集めるのか?ルイさん」
「あたしに『さん』なんて付けなくていいよ〜。うん、燃やす予定だから浜のど真ん中がいいかな」
「了解。じゃ遠慮なくルイって呼ばせて貰うぜ。俺も大地でいいわ」
「きゃ〜嬉しいな〜♪氷魔、大地、頑張って♪」
「ねぇ、俺は?」
 ひょいと一人で細めの――と言っても充分に重い――丸太を担いで、おどけて笑う稚空。
「稚空もね♪」

「‥‥こっちもさっさと始めるか」
「そうですね、散らかってるのは見てるだけでも不愉快」
 掃除には向いていないと思われる舞踏会向けのドレス姿をした甲真優(ib7843)。
 汚れるだろうからとエプロンを纏った姿は、さながらジルベリア風お屋敷のメイドさん。
 かといって女性的という訳ではない。少年らしく発育した筋肉質の身体で腕力もある。
 好んで着る服が単に女性物ばかりというだけである。
「ん、なんだ。あ‥‥あんまりじろじろ見てんじゃねーっ」
 それでも羞恥という意識はあるようだ。
 アゼリア(ib7726)の珍しい物でも見るような視線に、つい乱暴な声を出してしまう。
「失礼、失礼。それにしてもよくここまで散らかしたもんですね」
 袖を二の腕まで捲り、てきぱきと持参したズタ袋に屑を放り込んで進む。
「今週の汚れは今週のうちに掃除すべき!来年でいいとか言った輩はなっていません!」
 ぶちぶち言いながらも声色が嬉々としているのは、本当に掃除が趣味と言っていいぐらい好きなのだろう。
「細かいのは任せて俺はでかぶつを片付けるか」
「ああ、お願いします。自分非力なもので宜しく頼みます」
 飄々と言うが、アゼリアの方が優より体格はいい。何となくノリで返事をしている。
 頭の中はいかにこれらを片付け元の綺麗な海岸に戻すかで一杯な様子。
 手も口も動くが、何ていうか早々に自分のビジョンに浸っている。
 ちなみにアヤカシというのは現在の所、脳裏から追い払っていた。
 考えたら、だって。
「ったく、わざわざ物好きだな」

「何をなさっているのです?」
 木っ端の上でころころと賽子を転がす平野 譲治(ia5226)を不思議そうに覗き込む和奏(ia8807)。
「運勢占いなりっ。今日はいい運勢ぜよ!」
「それは良かったです」
 一人になっている者が居ないか心配していたが。だいたい皆いい具合にばらけたようである。
 キース・グレイン(ia1248)は、誰のとこにでも駆けつけられるよう中間の位置で一人作業をしているが。
「海岸はいい感じぜよ。風で海の方に飛ばされたゴミもあるから、水の中が手薄なりね」
「では私もそちらをお手伝い致しましょう」
 水に足を浸すとさすがに冷たい。これは後で焚火するというのは有り難いかも。
 波打ち際に漂う紙切れを拾い集め。ありふれた雑紙だ。
 日付の古い瓦版も混ざっていて‥‥この辺で配られているものであろうか。
「後でルイ様に聞いてみましょう」

「千覚さん、一緒にゴミ拾い致しませんか?」
「あら、まゆちゃん。はい宜しければご一緒に」
 広いから人手が多い方がいいですし、と。
 礼野 真夢紀(ia1144)と明王院 千覚(ib0351)は友達同士連れ立って掃除に参加していた。
 育ちや性格も何処か似通っていて気心が通じ、実の姉妹のように睦まじい二人である。

●くまさん退治
「っと、来やがったぜ。ルイ、安全なとこまで下がって見てろよ」
「行くぜ、氷魔、大地!俺のフェイントにちゃんと付いてこいよ!」
 ルイ真夢紀の所まで下がらせ、二刀を即座に抜く大地。自ら囮に走る稚空。
 氷魔も稚空の背後にぴたりと付き疾走する。
 右に左にと稚空に翻弄されるアヤカシに大きな隙。
 態勢を立て直す前に氷魔の拳が肋の位置に叩き込まれる。
 骨を折る手応えは無いが、ずっしりと重い拳撃がその厚みの半分まで沈んだだろうか。
 弾けるように砂の上へと吹き飛ぶアヤカシ。間髪入れず旋回した踵が二匹目の顔面を喰らう。
 その脇を砂を割るような衝撃波が、数匹を巻き込んで海へと突き進み波飛沫を上げた。
「大地、カッコイイな。その技!」
「氷魔もやるじゃないか!」
 可愛らしいくまさんアヤカシは無表情のまま、尚も攻撃を続けてくる。
 ただ淡々と。目の前に居る生き物は殺さねばならないと本能に従うように。
「当たれば痛いが、そんな単調な攻撃は何度も効かないさ」
 腕の腫れと摺り傷が、気合と共に薄れてゆき。
 頬の横を鋭い風が凪ぐ。砂にどすりと音を立てて沈む丸太。
 それを踏み台に、突進してくるアヤカシを跳躍してやり過ごした氷魔。
 真下へと放つ空気撃。丸太を再び振り上げようとしたアヤカシの手が弾かれる。
「俺も負けてられねぇ!」
 大地の薙ぎ払った刀が胴を裂いた。気の消耗は大きく、あの技はまだ一度しか使えない。
 後は刀の腕だけが勝負だ。砂の上を颯爽と駆ける。

「一斉に出ましたね。僕達の分は僕達で食い止めますよ」
 お互い見える範囲ではあるが。手出しするには目の前を優先しなければならない距離。
 杖を手にした水影が術を放ちやすいようにと、郁李と鈴芭が前へ出る。
「鈴芭、水影との位置を考えて動けよ」
「うん、わかってるよ!」
 刀に炎の幻影を纏わす郁李。積極的に打ち込む。
「あなたの相手は、わ・た・し!ご主人様の方には行かせないんだから!」
 手裏剣を放ち注意を引き、鼻面に刀をびしりと突きつける鈴芭。
「一匹だけを相手にするな。背中を狙われるぞ」
 鈴芭とアヤカシの間合いを量り、絶好のタイミングを狙って火球がアヤカシを包み込む。
「ん、さすが♪」
 毛皮の燃える嫌な匂いはしたが。綺麗に燃え尽きたアヤカシは灰も残さなかった。
 影。アヤカシの攻撃を割り込んで受け止めた郁李の背中が鈴芭に当たる。
「ごめんっ」
「だから一瞬でも気を抜くなって‥‥」
 多少怪我を負いながらも、三人だけで充分な数のアヤカシを討ち果たした。

「お前らの捨てた流木だ。しっかりと喰らっとけ!」
 アヤカシの突き出した棒を脇で絡め取り、そのまま奪い取った優。
 手頃な大きさだから棍として。鮮やかな動きで棒を持ってきた主を突く。
 援護にキースが加わり、こちらは拳を主体としていた。
「数が多いから」
 優一人では途中でへばるだろう。
「あ、あんなファンシーな生き物が怖いわけないですっ」
 アヤカシが出ても掃除を優先して、いや掃除に専念しているアゼリア。
「ですからね、自分は片付けを優先してるんですっ」
 決してアヤカシに向かっていく勇気が無い訳ではないと、自分に言い聞かせて。
 キースが行ったのを幸いと。
(ん〜、しかし‥‥)
 退治という依頼だし。意を決してアヤカシに向かうが。
 剣を抜き払う姿勢、何処か腰が引けている。
「え〜い、やああっ」
 これは人形相手の訓練であると。ひたすら掛ける自己暗示。
「っと目を開けろ。俺アヤカシじゃないよ?」
 恐る恐る開けると目の前に立ちキースが笑っていた。
「これ、おまえの成果」
 指差した先には、滅多切りにされたアヤカシが倒れて消えかけていた。
 残るは優が満身創痍になりながら、しっかりと退治していた。
「ふぅ」

●退治が終わって
「すごい山ですね〜。乾かして来年、海の家の建材にするとかしないんでしょうか?」
「あ、それ全然考えてなかったわ」
「冬の間の燃料にもなりますし」
「それも名案ね」
 和奏が言うまで全くそれはルイの脳裏に無かったようだ。
「だいたい大きさ別に分けて集めてありますから、使える物は後で運び出しましょう」
 もふもふもこもこのアヤカシ。応援とゴミ拾いに専念していた千覚。
 一通り皆の治療を終えて、後は依頼後の楽しみだけ。
 譲治も来ていたし、治療班は充実していた。皆もう傷跡ひとつ残っていない。
「結局ゴミの出所はわかったなりか?」
「紙屑の一部は、街道のゴミね。きちんと集めて古紙屋さんに買い取って貰ってるんだけど」
 ルイがご立腹の理由は、誰かがそれをさぼって適当な所に捨てたんじゃないかという推測。
 なんて勿体無い事すんのよ!
「丸太は何処からだか判らないけど、近隣の村に聞いてみる必要がありそうね」
「材木を扱ってる村が被害にあってるかもしれないなりね」
 後で聞き込み回るなら手伝うぜよ。
 専ら今回の依頼では譲治は観察が主であった。人の動き、アヤカシの様子。
 着ぐるみは憑依ではなく、そのものが瘴気だったようで退治するなり消えた。
「結局何がしたかったんだろうな」
 キースの呟きはごもっとも。焚火を用意しながら首を傾げる。
「環境の害ではあるが、アヤカシに益があるかは甚だ疑問なのだが」
「強迫観念のようなものかもしれないなり」
 アヤカシの種類によってはあるのだろう。大抵は食欲という本能に突き動かされるのだが。
 知能が低いアヤカシ程、世に生まれた時の習性に行動を縛られる。
「獣というより命令を聞いて動く人形のようだったなり」
 でも生まれてから命令する者が無かったら、そのアヤカシがどのように動くのか。
 今回の事例は興味深いと、譲治は考えた。式に近い存在だったのかもしれない。

「皆様、雑炊ができましたよ〜」
 その荷物に何が入ってたかと思ったら、真夢紀は調理道具の他に人数分の食器まで用意していた。
「材料は芋幹縄と干飯で、それだけだと味が物足りないかもですので薬味も好みで使ってくださいませ」
 太陽も月に場を譲り。まだ蒼さは残るが煌き始めた満天の星空の下。
「あ、これ美味しい〜。真夢紀ちゃん、これ芋幹の味だけじゃないしょ」
 ねぇねぇ教えてとルイが、星見にまったりとしていた真夢紀の傍に寄る。
「お味噌を別に溶いて仕上げに整えてあります。一度煮た物ですと香りも落ちてますから」
「さっすが〜。千覚さんも料理上手そうだよね、何処かで習ってんの?」
「実家が民宿で小料理屋も兼ねてますから。自然と覚えました」
 どちらかというと経営の方に携わってたので家事の技量はまだ修行中なんですけれども。と薄く頬を染め。

「それにしても、やっぱ稚空は早いな。動きも俺らよりずっといい動きしているしな」
「結構実戦積んで修行したからな。俺も駆け出しの頃は同じだよ」
「俺もあのぐらいの動き目指さないとな。‥‥大地、おかわりはいいのか?」
「ん、さっきチョコ食ってたし」
 近年かなり普及してきたとはいえ、市販の流通としてはまだ奢侈の部類に入るチョコレート。
 それを常食としている大地。出先でもこれだけは欠かせない。
「ほんとそれ好きだな〜。餡子と違って売ってる場所限られてるだろ」
「チョコ以外の甘い菓子は好んで食わねーし。っていうか甘い物得意じゃねぇから」
「充分甘い物に入ると思うけどな」
「ふ〜ん、じゃさっき釣った魚は俺全部食べちまうぜ」
「釣り勝負は互角だったな」
 海に来たんだし釣りしようぜと誘ったのは稚空。三人で肩を並べて即席の竿で興じてみたが。
「これ持ち帰って天ぷらにした方が良かったんじゃね?」
 どれも小ぶりである。
「まぁそういうなって、こーいう野外で食べるのが楽しいだろっ」

「お魚焼いたんですけど、ご主人様どうぞ」
「ありがとうございます、鈴芭。頂きますね」
 こちらはきちんとした焼き魚。神楽から持参してきたので鮮度は落ちるが。
「それにしても誰も大きな怪我が無いようで良かったです」
「郁李、あの時の傷は‥‥?」
「千覚が術を掛けてくれたから、跡も無いし痛みも無いよ」
 襦袢を捲って、腹に受けた一撃が残ってない事を見せる郁李。
 安心した鈴芭が大きく息を吐く。
「良かった!」