【PM】機装獣神、最終話
マスター名:白河ゆう 
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/11/11 13:15



■オープニング本文

※このシナリオはパンプキンマジック・シナリオです。オープニングは架空のものであり、DTSの世界観に一切影響を与えません。

●神々の黄昏
 広大な石造りの間に描かれた幾重もの召還陣。散りばめられた輝石の粉。
「これで完成だ‥‥異世界の扉を開く、膨大なエネルギーが吹き荒れるぞ気をつけろ」
「ふふ、悪魔の所業。おぬしがまさか成し遂げるとはな」
「先にこの技術を見い出した貴方が何を言う。魔導の技量は変わらぬのだ」
「そうだったな‥‥競っていた時代が懐かしいわ」
 頭に響くかつて無二の友だった男の声。無機質に光る水晶の玉。
 柔らかな瑠璃色の瞳を持った男の姿は無い。彼の肉体は先の戦争で血の雫ひとつ残さず焼き尽くされた。
「これしかもう手段が残されてないんだ‥‥」
 魔導が栄華を極めた時代。煉獄の業火、降り注ぐ星屑、絶対零度の破壊。
 荒廃する大地、闇に閉ざされた天空。
 世界の終焉が時を刻んでようやっと、王達は全ての魔導技術を封印する事を決めた。
 ただひとつ抜け道はあった。禁則協定に含められなかった新技術の行使。
 不可能とされていた異界の生物を召還する術が、会合の直後に成功させる者が続出したのは皮肉であった。

 ラグナフィールドと呼ばれる時空軸。
 召還士達の呼び出したヴィラグナと呼ばれる異世界神達による代理戦争が始まった。
 世界地図がヴィラグナが繰り広げる一騎打ちの勝敗だけで塗り替えられてゆく。
 彼らを呼び出す為に必要なエネルギーは、数多の魂の犠牲を必要とする。
 尊い神の血を引く者だけが、生み出せる強大な力。
 イザルティス選王家の末裔に連なる八王国全ての血を賭けて。
 ――そして世界は滅び、伝説の彼方へと消えた。

「先生、どの国も勝利しなかったの?」
「ヴィラグナの力は、当時の召還士達に制御しきれるものじゃなかったのよ」
「暴走したの?」
「いいえ、最後に勝ち残ったヴィラグナが奇跡を起こしたの」
「ボク知ってるよ、明るい緑と潤いの水に満ちたこの世界を創ってくれたんだよね」
「そう。新しい世界を創り、もう生命を育めなくなった世界から私達のご先祖様を運んでくれたの」
「魔法の力は持ってきてくれなかったの?」
「人には過ぎた力だったのよ。どうしてこんな事になったのか、一年の時に習ったでしょう」
「ん‥‥でも便利な魔法も一杯あったんだよね‥‥」
「いつかまた誰かが同じ過ちを繰り返さないとは、決して言えないわ」
「そっか‥‥そうだよね」

 時は伝説の時代。
 暗き世界に祈りを捧げる人々。老若男女の慟哭が木霊する。
 終末の戦いが幕を上げた――。


■参加者一覧
風雅 哲心(ia0135
22歳・男・魔
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
芦屋 璃凛(ia0303
19歳・女・陰
乃木亜(ia1245
20歳・女・志
水月(ia2566
10歳・女・吟
叢雲・暁(ia5363
16歳・女・シ
ロック・J・グリフィス(ib0293
25歳・男・騎
御調 昴(ib5479
16歳・男・砂


■リプレイ本文

●龍神対翠神
「うちは、甲龍神璃絶――」
 それは異形。龍の部位を持つ人ではなく人の形をした龍。
 ごつごつとした頭部に、熾した炎の色をした瞳が爛々と輝いている。
 芦屋 璃凛(ia0303)の前に立ちはだかるは風雅 哲心(ia0135)。
 両の腕を下げ、静かに闇に溶けるように立つ。陽炎に似たオーラが身を包み。
 煌く緑の光。その身に纏う力は、獲物の第一手を見極めようと揺らめく。
 迸る牽制の雷撃。雄叫びを上げた璃凛、いや『璃絶』が余波弾ける光ごと身体を当て。
 流れる刃。荒ぶる璃絶に押され、返す毎に歩を下げる哲心。
 一撃の重さ、繰り出す速さ、どちらにおいても相手が上か。
 だが守りの堅さにおいて勝る哲心は、まだ璃絶に有効打を許していなかった。
 音も無く流れる刃、澄み切った瞳で繰り出されるそれを逃れられる者は哲心の世界には居ない。
 身は影となり名刀鬼神丸に宿りを移した翠嵐牙が眩く輝く。
 固い鱗に覆われた肌を切り裂くかと思われたが、翼を広げぐっと上方に後退する璃絶。
「ふ‥‥逃れられると思うな。こいつを喰らえ‥‥轟け、迅竜の咆哮。吹き荒れろ――トルネード・キリク!」
 無数の沸き立つ、いや空間を貪欲に呑み込む真空が璃絶を捉える。
 空間を蹴り、続く迅速の刀。繰り出す短剣。
「そのぐらい読んでるさぁっ」
 薄刃ながら丈夫さを備えた阿見が鬼神丸と交わり、身体を捻り短剣を避けると同時に牽制の尾を繰り出す。
 符から放たれた霊魂砲が哲心の身体を弾く。
 美しい翠の光は刃から再び哲心の身を包み、絹地の龍を浮かび上がらせる。
「技の強さだけで強さが、決まるわけじゃ無いけど」
 呼吸を整えた璃絶が符をくしゃりと潰し呑み込む。姿がぼやけてゆく。
「この姿じゃどうも威力が出ないね」
 完全なる龍へと変体。頭頂の中央に斜めに深く交差した傷が浮かび上がり。
 人型を覆った装備が消え、骨で構成された外殻が覆う。
「流れ‥‥込んでくる力。うっ‥‥後は任せるよ。もう一人の璃絶」
 雄叫び。繰り出される巨大な爪。
「行くぞ、翠嵐牙。全力でその動きを止める‥‥完膚なまでにな」
 巨躯の全重量を速度に変換して隕石のごとく哲心を砕くかに思われた。
 激しく瞬く閃光。迸る稲妻。
 何も存在しない空間を、交わったまま流星のように奔ってゆく龍神と翠神。
 宇宙の塵のように璃絶の身体が分解されてゆく。
「ここまでか‥‥悪くは無い」
 嘯いた璃絶の呟き。それを耳にした哲心が再び視界を取り戻す前に、世界は移ろった。

●犬神対砲神
 翼を羽ばたかせ石柱の迷宮を駆け抜ける御調 昴(ib5479)。
 叢雲・暁(ia5363)――それは過去の名。踏破不可能と定められた迷宮領域を踏破して神の座に達した今はMURAKUMOと呼ばれる。
 彼女が創り出した閉ざされた世界の中で、今二人は死闘を繰り広げていた。
「戦いたいですか、ケイト」
 昴の中に宿る雄々しき存在がその血を沸き立たせ、戦へと駆り立てる。
 ただ勝ち残る為に戦い続けるしかないという目の前の現実に、昴は心を痛めていた。
 何故戦わなければいけないのです。僕達を呼び出せる力を他の事に使えなかったのですか。
 MURAKUMOはそのような面倒な考えは持っていなかった。ただ気の向くまま駆け抜ければそれでいい。
 世界なんて本気でどうでも良かった。壊してしまいたいならそうすればいい。
 存分に暴れさせて貰ったら、後の事なんて知らないさ。
 執拗に、姿を現しては昴の頸を刎ねんと狙い、身を削る。
 魔槍砲が石柱を砕く。得意とするヒットアンドアウェイが、地の利を持つ相手に取られている。
 あらゆる方向から伸びる石柱の樹海。天も地も無かった。
 ただ考えていても時間が増えて消耗を増してゆく。
 だが消耗はMURAKUMOの方が早かった。世界を創り出した残りのありったけの力を攻め、攻め、攻めに注いだ。
 この空間で消える事など怖くない。犬神はただ刹那を愉しんでいる。
 技を惜しまず重ね、消極的で単調な反撃を繰り返す昴をいたぶり。
「楽しい‥ですか、こんな事していて‥‥」
 返事は喜びに満ちた咆哮であった。命を散らせようと迸る刃であった。
「ごめんなさい。僕にはその気持ちが判りません」
 ゼロショットを立て続けに浴びて散りながらも哂い続ける犬。血を全身に浴びて昴はその姿を目に焼き付けていた。
 紅と青の瞳が、揃いの透明な雫に濡れていた。

●鎧神対水神
 カッ。
 眩き白い鋼鉄の光が空間を滑るように駆け抜ける。
 彗星ごとく紅が顔を覆い隠す兜から尾を引き、蹴るごとに淡く輝く力場が漆黒に散り。
「‥‥さて、まずはどんな相手が来るか」
 身体が飛ぶように軽い。だが蝕みも感じる。空間の作用‥‥か。
 麗しき聖堂騎士ロック・J・グリフィス(ib0293)の行く先に待ち構えていたのは、折れそうに華奢な少女であった。
 無数の澄んだ水の珠が乃木亜(ia1245)を守るようにふわふわと漂う。哀しみに潤んだ瞳がこちらをまっすぐに見据えていた。
「幾多の魂と引き換えに、あなたは何を望むのですか?」
 深い森に閉ざされた、さざなみひとつ立たぬ湖の水面を思わせる、静かな声。
「滅び行く世界が俺を呼んだのだよ、お嬢さん。美しい世界へと生まれ変わる為に」
 その望みをきっと叶えてみせる。苦しみに縛られた人々を真紅の薔薇と緑溢れる美しき地へ誘うのだ。
 だから俺は彼らの為に勝利せねばならない。
「そう‥‥私も同じ想いです。どうして戦わなければならないのでしょう」
「ここが戦う場でしかないからだ。‥‥くっ、おまえも感じるだろうこの波動。黙っていれば俺らは何も成し遂げられない」
「私が召還された事を無駄にしたくありません。そうですね、こうしていても私達は消える事しかできない」
 言葉を交わすだけでも、ただここに存在しているだけで消耗してゆく。
「ならばお手合わせ願います」
 すっと踏み込む青の娘。水の珠が一斉に弾け、ロックの脚へ絡みつくように転移。蒼い刃が軌跡を描いて舞う。
 耳触りな衝突音。髑髏の描かれた大盾が細身の刀を弾く。身体ごと押し返し、跳躍して距離を取る白騎士。
 瞬時に攻めに転じて眩いオーラと共にマントと絡めるようにランスを繰り出す。広がる布地に隔てられた二人。
「‥‥っ」
 重い一撃をぎりぎりでかわした。鎧の隙間を狙った刃に今度は血肉の手応え。
 力は無くとも速度なら負けぬ。扇の舞いと組み合わされた刃が反撃の度に捉える。
「だが、これならどうかな」
 空間が歪み、純白の滑らかな壁が複雑に絡んだ曲線を描き。滑り迫る騎士のランス。
 上下も無く、壁に囲まれた乃木亜。防御が間に合わない‥‥と世界が青一色に塗りつぶされた。
 確かにランスは深々と貫くはずであった。が、ランスも盾も、その鋼鉄の身体も全てが彼女をすり抜ける。
 龍にも似た小さな精霊が甘えるように鳴きながら絡み、再び彼女の身体に吸い込まれ。
 しかしその瞬間をロックも待っていた。各部品に散った鎧が身体から解き放たれ、紅の瞳を持つ偉丈夫が不敵に笑った。
(来る‥‥っ)
 何処まで距離を取れるか。立ちはだかる壁の隙間を抜け、駆ける少女。
「ツインランストルネード!」
 雷鳴のごとき轟音。眩いオーラの中に散り舞う真紅の薔薇。青い世界と交差しせめぎ合う力。
「はぁ‥‥はぁっ」
「‥‥」
 幾度もの交差の末、ロックとクロスボーンの姿が薄れてゆく。苦しげに歪んだ表情で見送る乃木亜。
 ラグナフィールドの激しい苛みが味方した。まだ彼女には力が残されている。
 短期決着を挑んだロックの熾烈なる攻撃に何とか耐え切った。

●歌神対速神
 ゆったりと羽衣を纏い背には純白の大きな翼。
 純真無垢といった形容が相応しい少女がそこに佇んでいた。
「神籟の雛鳥‥‥まさかここで対峙するとはね。逢えて嬉しいよ」
 朗らかな人懐こい笑顔を浮かべる水鏡 絵梨乃(ia0191)。
 桃色の翼がゆっくりと羽ばたき。その動きと共に羽根が花びらのように世界に舞う。
 水月(ia2566)の大粒の瞳が少しだけ驚きに見開かれた。
「その澄んだ歌声で数々の世界で荒む人々の心を救ってきた。この世界の人々の声も、聞こえたのかな?」
 どうせなら手を携えて一緒にボク達を呼び出した世界を巡りたいけどね。
 残念だ。このままではボク達二人とも消えてしまうから。
 言葉は無くとも気持ちは通じた。時間は無い。世界を救う為にお互い全力を尽くそうじゃないか。
 手出しを一切しない水月相手に、戦い難くはあったが。
 甘い呼びかけるような歌声に、水月と同じように純白の姿をした子猫が絵梨乃へ纏わりつく。
「ふふ、可愛いね。ねぇ、できるだけ痛くはしたくないんだ。長引かせても‥‥いい事はないよ」
 ふわりと避け、受けざるを得なかった衝撃を回復し続ける水月だが絵梨乃の手数は人智を超えていた。
 翼で距離を取っても同じだけ詰められる。
「だから‥‥一気にいかせて貰う」
 閃く蹴りが神ならぬ身であったなら何が起きたかも判らぬような速度で四度放たれる。
 触れもしないのにひび割れる額冠の宝玉。
 消える寸前、水月が袖を引いたような気がした。
 最後まで彼女は歌っていた。平和を願う詩を――。

●翠神対砲神
「これしか手段が無いってんなら。やるしかねぇ」
 まだ躊躇いを棄てきれない昴に容赦なく、その持てる技を注ぎ込む哲心。
 さきほど璃絶から受けたダメージが身体に響いていた。少しでも長引けば自分の負けだ。
 翠嵐牙の齎す力を発揮させ続ける力も著しい。
 内なる声が呼びかける。真の力を披露すべき時ではないかな――このまま終わるのは悔しかろう、と。
 昴も内なる声に急きたてられる。
 攻めに転じろと。相手はもう限界に近付いている。お前はそこまで意気地なしなのか、と。
(でも僕が‥‥勝ち残ってこの戦争を止められるでしょうか)
 失望させる気か?挑む前から諦めるような態度では、このまま消えるのが世界の為だな昴。
(このまま‥‥いえこのまま世界を見捨てて消えてしまうなんて!)
 振り切る想い。紅の瞳が埋み火を焚き、青き瞳が獅子のように猛る。
「俺を踏み台にする度胸が無いのなら、進ませて貰うぞ。この身体が幾億に散ろうとも」
「踏み台にしあうなんて!僕は僕の為に戦いなんかしたくありませんっ」
「ならばその力を見せてみろ。力が無い奴が残る事に意味は無い。――全てを穿つ天狼の牙、その身に刻め!」
 アークブラストを叩き付け、急所を狙った刃が昴に迫る。
 苛む雷を纏ったまま鷲の翼を加速させ、至近の射撃。
 哲心の刃が夥しい鮮血を虚空に靡かす。見当違いの方向へ轟く砲声。
「何処へ――」
 最期の一撃へ身を翻した純白の羽織の背中に濡れた穂先が生えていた。
 ケイトが齎した速度に砲の反動を二丁分加えて。あらん限りの力を込めて。
 接吻ができそうな程至近に昴のまなじりを決した顔があった。

●水神対速神
「ぷはぁっ」
 髪の一部を青く染めた絵梨乃が肺腑に残った息を吐く。
「逃れましたか。水中のミヅチの動きには付いていけないでしょう」
 絵梨乃が出現させた平原は瞬時に大海原へと乃木亜によって変換された。
 得意の翼がぐっしょりと濡れ、大粒の雫を滴らせ。
「一対一ならやれる自信があるけどね」
 底の無い海に10mの穴を穿ち乃木亜だけを狙い、水の壁に飛び込む手前で捕まえる。
 腕を掴んだまま空へと連れ去らん。藍玉の放つ水牢が翼をまた重くし。
 落下すると見せかけて、ぐらりと途中で軌道を変え、また落ち、回る。
 鈍らせて尚、絵梨乃の動きは目の回るような速さ。二手打てば四手打つ。
 縺れるようにきりきり舞いながら、互いに攻撃を振るう神々。
「降参して‥‥戴けませんか?」
「悪いけど、やられるなら最後まで全力を尽くしたいね」
 幾つ手を打っても藍玉が癒しの水で回復させる。
 あちらを先に仕留めようとしても同じように乃木亜が回復させるだろう。
 引き離せるだけの距離を確保できない。翼の能力を早々に減じられたのが手痛い。
 紅に染まった房が元の髪色に戻る。海原に墜ちながら絵梨乃は安らかな顔をしていた。
「降参はしないけど、潔く負けを認めるよ‥‥その固い絆に」

●砲神対水神
 お互い死力を尽くして疲弊していた。もう残された力と時間は少なかった。
「権力の取り合いの為に僕らは呼び出された訳ではありませんよね」
「ええ‥‥私の力、使ってください。少しでも多くの魂を救ってあげて‥‥」
「いえ僕は‥‥もう」
 どれだけ血が流れただろうか。昴はもう長大な魔槍砲を支え続けるだけの力すら無かった。
 手当てをと伸ばした手に力なく首を横に振る。乃木亜にもそれは最期の力に等しかった。
「ケイト、いいですよね。もう最期だから」
 閉ざした瞳に自分を呼び出した召還士を囲み祈る人々の姿が映る。
 乃木亜が崩れる身体を抱き締め、奇跡を願う。
 この虚空を水と緑溢れる世界へ。
 散った神々の力も全てを変換させ。大勢の人々を召還する。
(さあ、新しい世界で――)
 乃木亜の姿も生命を育む水の一滴となって――伝説と消えた。