俺達の夏はこれからだ!
マスター名:白河ゆう 
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 普通
参加人数: 32人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/09/14 00:02



■オープニング本文

 胸いっぱいの潮の香り。燦々と降り注ぐ太陽に照らされた砂浜。
 そこにはぴちぴちの肌とたわわな胸を惜しげもなく晒した娘達――。
「が、見たかったんだよぉっ!真夏の暑さの大馬鹿野郎っ!」
 その叫びは虚しく響く。人影ひとつさえ失せた海岸線に。

「くたばってたお前さんが悪いんだろうが。いや、まぁ今年もいい商売だったぜ」
 余裕の顔で煙管をふかす、特別に調合した樹液で自慢の燃えるような赤髪をツンツンに立てた伊達男。
「海の家も商売敵が寝込んで繁盛、繁盛。おい怒るな。ちゃんとお前さんの店も手下を寄越して見てやったんだぜ」
「ああ‥‥綺麗に掃除までしといてくれて、有り難く思ってるよ」
 何とも何処にもやり場の無い想いを、八つ当たり気味に掴んだ石ころに込めて、波間へと力任せに放り。
「俺は夏しか楽しみがねえんだよ。もう夏の海が好きで好きでこの商売をやってたんだ。それがよ」

 なんて失態だ。次第に近付く夏に心躍らせながら日銭を稼いでいた木材運びで誰が拾ってきたやら貰い風邪。
 長屋で寝込んでいたら、ちょっとコナかけていた飯屋の娘が看病に来たなんて俺ツイてる!?
 ま、さ、か。持ってきてくれた残り物の惣菜が腐ってたなんてな!
 ちょっと気が早すぎだろって猛暑が、これまた最悪の間合いで続くもんだ。
 げっそり痩せたぜ俺。もう汗は搾られるわ。下るもんは止まらないわ。丸薬売りには騙されるわ。
 お願いだから、店には秘密にしてくれ勝手にこっそり持ち出したんだって娘は泣くしよぉ。
 世話焼いてくれるのはいいが、何ていうか発想力のついてけない奴だった。
 普通に粥作ってくれりゃいいものを、河原の何たらの草が滋養にいいからって突っ込んで激マズにしたり。
 しかも薬草と思い込んでるが雑草だよ、雑草。葉っぱの形から違うだろってんだ。
 で、何言っても人の話聞かねーの。ここの戸を開けると運気が良くないからって暑いのに閉め切りやがるしよ。
 仕舞いにゃ俺、悪いけど帰ってくれって懇願したよ。

「いい夏の想い出じゃねえか」
「何処がだよ!」
「そんなお前さんに朗報だ。俺は今、この稼いだ銭をパーッと使いたい気分でな」
 半分はお前さんの店を借りて稼いだ銭だ。ま、気が変わらなければお前さんの為に使ってもいいな。
 無論、俺も楽しめる内容でな。
「水着のねーちゃんをわんさか呼んで催しってのはどうだ」
 風が吹こうが、海が荒れてようが関係ねえ。なぁに銭さえ出せば人なんて来るさ。

 という訳で、遊び盛りの過ぎた海である。
 浜も綺麗で地形が良く、海水浴に最適だが。ちょっと時期が過ぎれば風がやたら集まる土地。
 ざっぱーん、ざっぱーんと大波が威勢よく浜へ打ち寄せる。ついでにクラゲなんかも。

 ◆

『荒れた海が似合うマブい女決定戦!六万文を山分けか?独占か?』
 豪快な筆文字がビラに大きく躍る。
 参加無料!表彰台に輝いた美女にはどーんと賞金を出すよ!
 君も荒れた海原を背景に華を咲かせてみないか。
 野郎も鑑賞だなんてぬるい事言ってられないぞ。素敵な淑女達を担いでわっしょい。
 こちらも活躍すると賞金が出るよ!
 楽しく騒ごうぜ!

 第一競技:沖合いから打ち寄せる大波に乗った筏の上で独自の演出を。
 第二競技:荒れた海に浮かぶ小さな筏の上で尻相撲対決。勝利すると相手の第一競技での持ち点を得られる。
 第三競技:野郎共出番だ。波間に浮かぶ美女を担いで浜辺の白紐まで駆け込むのだ。まだ逆点の好機が!


■参加者一覧
/ 真亡・雫(ia0432) / 柚乃(ia0638) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 平野 譲治(ia5226) / ペケ(ia5365) / ガルフ・ガルグウォード(ia5417) / からす(ia6525) / コルテーゼ(ia7930) / 和奏(ia8807) / レヴェリー・ルナクロス(ia9985) / アルーシュ・リトナ(ib0119) / 雪切・透夜(ib0135) / 御陰 桜(ib0271) / リンカ・ティニーブルー(ib0345) / シルフィリア・オーク(ib0350) / ティア・ユスティース(ib0353) / 猫宮 京香(ib0927) / 御桜 依月(ib1224) / 志姫(ib1520) / 八条 司(ib3124) / ウィリアム・ハルゼー(ib4087) / 長谷部 円秀 (ib4529) / リィムナ・ピサレット(ib5201) / リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386) / 叢雲 怜(ib5488) / フランヴェル・ギーベリ(ib5897) / アムルタート(ib6632) / フレス(ib6696) / 八条 高菜(ib7059) / 紅月 風斗(ib7526) / 風蓮(ib7534) / 佐藤太郎(ib7540


■リプレイ本文

「いやいや皆の衆、よくぞ集まってくれました!なんと競ってくれるのは十五人の美女!いや見応えあるねぇ」
 煙管を咥えた若者が素肌に法被という姿で威勢の良い声を上げる。集まった野次馬もやんやの喝采。
 荒れた海!と言ってもまだ気温は高く、良い具合に晴れてくれた。
 風は強いが陽射しにさえあたっていれば、水着1枚という肌を晒した姿でも寒くは感じない。
 実は何にも用意はしていなかったが気の利いた開拓者が、食べ物を色々と持ち寄ってくれて浜辺ではそちらも賑わっている。
「別に女を鑑賞しに来た訳でもないしな‥‥」
 淡々とした顔で流れる汗を拭い、仮設の屋台で麺を茹で、鉄板でコテを動かし、その合間にも次々と注文に応えている。
 その見事な捌き、しかし着ぐるみのハトが何ともシュールな味を醸し出している紅月 風斗(ib7526)。
「んーっ♪作りたては美味しいなりね♪タコはこの海で獲れたものなりかっ!?」
 さっそく熱々を頬張り、満面に幸せを描いたような顔で平野 譲治(ia5226)が舌鼓を打っている。

●第一競技
「は〜い、エントリーナンバー1番コルテーゼ。テンションアップ、アップ♪で行きましょうねぇ!」
 水着なのか巫女袴なのか判らない姿のコルテーゼ(ia7930)。布が足りてないのはいつもの事。
 美味しそうな色をした杖を高々と掲げる。
 沖合いから放たれた筏の数々。第一競技のパフォーマンスは顔見世の色合いが強い。一人一人の見せ場だ。
 やっぱりここでいい得点はとっておきたいよね。
「コルテーゼさぁーん!頑張ってくださーい!」
 正面の浜辺で腕をぶんぶん、ついでに尻尾もぶんぶん振っている少年は、彼女の恋人。八条 司(ib3124)。
 大の男達のベスト鑑賞ポジション争いを潜り抜けて、ちゃっかり最前列だ。
 背が低いのはラッキーである。後ろの邪魔にならないので、ここでコルテーゼを応援し放題。
 しっかり抱え込んだ大盛りの焼き蕎麦も、安全!
「ミュージックスタート♪」
 杖を振り下ろすのに合わせて、上空で奏でられるリュート。
 おおーっとどよめきが走り見上げる先にはティア・ユスティース(ib0353)が腿際が切れ上がった水着姿で龍に跨っていた。
 潮風に煽られた薄絹の単衣が広がり、身体の線が惜しみなく披露されていた。
「もっと!もっと下に!」
 無責任に要求する観衆の声。
「いえ、あの‥‥これ以上高度を下げると波の影響を受けますからね」
 飛行は相棒のフォルトにお任せだが、曲を失敗して演技を台無しにしてはいけないと無理させるつもりはない。
「ティアさんありがと♪さあ、注目はこっちよ。」
 波のリズムに乗った神楽舞。踏むステップが上手い具合に揺れる筏を渡り。
「無事、ゴール♪司くん、応援嬉しかった〜」
 どさくさに紛れて司をむぎゅっと抱き締めるコルテーゼ。胸がおもいっきり司の顔を埋めて‥‥呼吸、呼吸が!

「お次は。っと長身グラマラス系が同時演舞か。さ〜、詳しい実況は野郎が続けるのも野暮だ。空から特別にお送りするぜ!」
「はい。実況は私、柚乃が。余す事なくお伝えしますっ」
 炎龍のヒムカが大きく旋回し、柚乃(ia0638)が可愛らしく手を振る。
 髪とお揃いの色で仕立てたサマーワンピの裾から伸びたすらりとした脚に輝くアンクレット。
 幼い顔に高々と横で結い上げた髪がいつもと少し違った活発な雰囲気を醸し出している。
 沖から同時に現れたのは、リンカ・ティニーブルー(ib0345)とシルフィリア・オーク(ib0350)だ。
 大きな胸をあえて無駄の無い実用一点の引き締まった水着に納め、理穴弓をきりりと構える。
 波に揺れる筏を龍の背に見立て、同じように海原を蠢く的を次々と射抜いてゆくリンカ。
「弓術士の奥義、安息流騎射術ですね。不安定な状況を活かした技。はいリンカさんこっちにも的です!」
 柚乃がにっこり掲げたゴールデンハンマーも、予定にはなかったが見事に命中させて拍手喝采。
「さ〜、シルフィリアさんのセクシーダンスも見所ですよ。お見逃しなくっ!」
 クールに決めたリンカと対照的にこちらは情熱的な姿態の動きで、妖艶さをアピールする。
 中心に深々と突き立てたコルセスカに脚を絡め、大胆なポーズの逆立ちから。
 紐を多用したツーピースの水着から胸が零れ落ちそう――っと波を被り姿が一瞬消え。
 次の瞬間には身体の向きを逆転させ、激しい踊りへと移行していた。
「濡れて蛇のように蠢く黒髪に飛び散る飛沫。艶やかですね〜。これは荒れた海が似合う点数が高いでしょうか?」

「ここからは、更に過激な水着が続きますっ」
 頬を赤らめる柚乃。やってきたのは、八条 高菜(ib7059)とペケ(ia5365)。
 どうみても布というか紐です。大事なとこがぎりぎり隠れてるけど、危険極まりない。
「大人の魅力で悩殺しちゃいますよ〜」
「むっちむちぴちぴちでは負けてないのです!生着替え攻撃開始!」
 ズダンと障子を立てますが、固定されてないのでモロ見えだ。ペケ!それは過激すぎる。
「緊急事態!これはいけません!ってああ、今通っちゃダメです〜」
 淨黒に乗り潮の流れや風の動向を監視していたガルフ・ガルグウォード(ia5417)。
 そっちに気を取られる余り、浜辺の男達が羨むポジションながらペケ達の方は見ていなかった。
「ぐっふぉ!」
 柚乃がぶん投げたゴールデンハンマーの直撃を喰らいバランスを崩して海中に転落。
 衝撃で高菜とペケの筏も煽られ転覆。えっと‥‥結果的には良かったようだ。
 全裸ご開帳の事態は避けられた。高菜は完全に巻き添えだけど。
「やれやれ、だね。浮舟、救助」
「あいさ。おりゃーでありますー」
 のんびりもふらの背で冷えた茶を啜っていたからす(ia6525)が躊躇なく回収に向かう。

「はい、気を取り直して次の組に向かいましょうか」
 ガルフにごめんなさいと手を合わせつつ。次は清楚な組だ。
 しかし意匠は大胆。下着にしか見えない白の上下で現れたリィムナ・ピサレット(ib5201)。
 水着と日焼け跡が一致してないが。そこがまたいいと浜辺の男達が悶える。
 西瓜模様の鞠遊びをする無邪気な子供にしか見えない。いや、だがそこがいいと。
 羽織った浴衣を脱げずに恥ずかしがってる志姫(ib1520)もまたそっち方面の嗜好に応えている。
「こ、こうかな‥‥?」
 誰に教わったのか、前屈みでお色気の仕草を。勇気を出してみたっ。
 黒い浴衣の胸元から僅かに覗く白。ちらりずむという奴である。
「素晴らしいよ子猫ちゃん‥‥」
 リィムナに視線釘付けで涎を垂らしているフランヴェル・ギーベリ(ib5897)は置いておくとして。
 これは一部でかなり点数が高かったようである。だが荒れた海が似合うという点ではどうなのか。
 審議結果はまだ主催者の掌の中だ。

 この後も参加者の演技が続いたが、一部受けといえばレヴェリー・ルナクロス(ia9985)の姿がかなり好評だった。
 ハルバードを用いた演舞より、水着の上に着用したローライズから見えそうで見えない臍の下や尻に至る曲線が。
 仮面で判らなかったが、相当本人は真っ赤になってやっていたようである。
 荒れる波を利用しながらも麗らかな海を演出したのは、アルーシュ・リトナ(ib0119)。
 朗らかに伸びる歌声に誘われた海鳥が舞い、魚達が跳ねる。
 それを一転させたのがリーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)。
 彼女の放ったブリザーストームで、ほんの一瞬ではあるもののジルベリアの海と化した。
 何という魔女ぶり。不敵な笑みがこの上なく荒れた海に似合う。
「ひゃあっ、冷たい〜っ」
 舞い踊りの締めを決めた途端にそれである。滑って海中に落ちた御桜 依月(ib1224)。
 実は滑ったのはリーゼロッテと全然関係ないのだけど。

●第二競技
 しかしここまでの点数も、尻相撲大会に負ければ取られてしまう。
 参加者達の緊張、というか勝負を賭けた面持ちは華やかな闘志に溢れている。
「目指せ六万文なんだよー。競争やるからには負けないよっ!」
 白を選んだ者のひしめく中で映える真紅の水着に小麦色の肌。笑顔でやる気満々のフレス(ib6696)。
 対するは小悪魔な顔で媚態を振り撒くウィリアム・ハルゼー(ib4087)。
 水玉模様のパレオで腰を覆った姿は、華奢な女の子だが骨格は意外としっかりしている。
 体重差から不利と見たフレスが、なかなか積極的な手を打てないがウィリアムにも決め手を譲らない。
「女の子のお尻〜♪」
 回り込んだウィリアムがニタリと痴漢めいた厭らしい表情を浮かべ、手をさわさわと伸ばす。
 怯んで筏縁に寄ったフレスにえいっと尻を突き出した――が、そこに彼女の姿はもう無かった。
 とんっ。
「あれ?‥‥きゃあっ!?」
 どっぽーん。
「作戦だったんだよー♪」

(力技では勝てませんから‥‥っ)
 相手は騎士のレヴェリー。ぶつかる瞬間に勝負を賭けて腰を落とすアルーシュ。
 思い切り押してくると見えたレヴェリーは、だがそこで捻りを加えた。
 結果。アルーシュの角度に対する耐性が足りず、自分もバランスを崩し。
 でもアルーシュもレヴェリーの押しを相殺しきれず。両者揃って転落!
「な、なかなかやるわね!」

「激しい動きの瞬間を捉えるというのは難しいですね」
 傍らにおやつを広げ、浜辺でのんびり絵筆を走らせる雪切・透夜(ib0135)。
 幾枚目のスケッチであろうか。女性達の生き生きとした夏の想い出の姿を写し取っていた。
「相変わらず、多才ですね〜」
「うんうん。あ、これ京香ママだ〜。さっき始まる前に雫に抱きついてた時のだね♪」
「って、いつの間にそんなの描いてたんですか!?」
 天真爛漫に、ママと慕う叢雲 怜(ib5488)と真亡・雫(ia0432)が描かれた一枚を掲げて喜ぶ叢雲 怜(ib5488)。
 慌てて奪おうとする雫と、囃し立てながら逃げ回る怜の姿は‥‥ああ仲のいい兄弟のようだ。
 その横では、和奏(ia8807)が一人、砂のお城作りに挑んでいる。
 屋台は相変わらずで、からすもいつの間にか商売に精を出していた。一番人気は陰殻西瓜。

「もう、私私か弱い乙女なのよっ」
 ざっぱーん。
「お尻の強度では負けないよ!」
 どすっ。ざぷん。
 ここでは体格差に物を言わせて、点数を強奪されてゆく者も居た。

 しかし、まだ最後の競技がある!第三競技で上位に食い込めば、まだ引っくり返せるのだ。

●第三競技
「次の競技ですよ〜。旗の準備は整いましたから女性の皆様はそろそろ沖に向かう船に乗ってくださいね〜」
 休憩時間はティアの軽やかな間奏曲で繋がれ、会場の熱気はそのままに。いよいよ男性も参加の競技である。
 事前に告知していた通り危険なので、一応参加者は志体持ちが条件となっている。
 見学者にもぼちぼち混ざっていたようで、開拓者の他にも幾人かがスタート地点へと向かっていた。
「じゃ、僕達も行きましょうか。雫さんも一緒に‥‥」
「雫くんはこっち〜♪」
「え、あの‥‥」
 全力疾走してきた京香に攫われていってしまった。
「‥‥頑張ってくださいね」
 少々呆れ声で見送る透夜。いや下手に止めては自分も連れてかれそうな気がするから。

「行きますよコルテーゼさんっ、ってちょっと待ってこれおかしいですってぇー!?」
「おかしくなーいの。んもー可愛いんだからぁ♪」
 駆けつけた司を軽々と抱き上げたコルテーゼ。母親の目の前であるが彼女は諸手の賛成。
「あらあら、つーくん良かったわねぇ♪」
「お母さんってば!?」
「じゃ、私はこちらの体格のいい殿方に。よろしくね」
 むぎゅーと胸を押し付けて、発破を掛けている。
「はい、その人はこっち!落ちないように私の胸をしっかりと掴んで下さいませ」
 問答無用でパートナーをむんずと捕まえたペケ。ウィリアムが触手の式で捕まえた女の子の担ぎ手を雷火手裏剣でバリバリッ!
「あーん、せっかくイイ人捕まえたのに〜」
 水蜘蛛で水上滑りを楽しもうとしていた御陰 桜(ib0271)が嘆きの声を上げる。
 触手が浴衣を剥ぎ取って、桃色の水着と素敵なボディラインが露にされていた。
 ところで手綱を何本も持って、いつの間に男性に首輪をセットしていた!?
「ほらぁ、雷くらいで負けないの。終わったらご褒美のご飯いっぱいあげるからね〜?」

「えっと‥‥?」
「ほら、あたいとリンカでたすき繋いだから、これ持って」
 競技の要領をよく判ってない和奏にてきぱきと指示を下して、筏から飛び降りるシルフィリア。
 彼女自ら前に立ち、妨害を切り払う。和奏は遠慮がちながらもライバル達の押し退けを手助けだ。
「ありがとう、守ってくれるんだね」

「ほら、俺の背中にしがみ付け。波を被らないように顔上げてろよ」
 憮然とした表情を崩さないまま、だが優しく手を差し伸べる風斗。
「はい。お願いします。無理なさらないでくださいね?」
 おずおずとその身を任せる志姫。愛想はないが頼もしい背中だ。

 きゃっきゃと大騒ぎしているのは百合組。こちらは徒党を組んで砂浜へ向かう。その中心は京香だ。
「あ、あの僕重くないですかね?」
 なりゆきで女物の水着にされて担がれている雫。いや別に胸を隠さなくてもいいと思うよ。
 待ち時間に京香からどう弄ばれたのか、全身を茹で蛸にしたレヴェリー。もう運ばれるがままである。
「依月が守ってあげるから頑張って運んでね♪」
 癒し系依月は、色々飛来してくるものを力の歪みで捉え、迎撃態勢だ。
 あ、さすがにアルーシュの子守唄は。
「し、沈まないで!?」

「○△◇×解禁ーっ!」
 興奮の余り何言ってるか判らないが、その爛々と光る眼にはもうリィムナしか入ってないというのは確かなフランヴェル。
 そのあらん限りの技を駆使し、筏に一番乗りで上がり。
「きゃあ、こ、こないでーっ」
「あんぎゃああ!」
「やめてやめてやめてやめてっ」
 アークブラストをまともに喰らっても何のその。捕獲されて叫ぶリィムナを抱えて浜辺へ向かってターン。
「いや元気なのはいいですが‥‥よっと。リーゼロッテさん遠慮なく掴まってくださいね」
 怪我の療養中だからあまり無理はしないが、女性に負担を掛けないようにと優しく抱き上げる長谷部 円秀(ib4529)。
「先陣は任せるなり〜。全力で行くぜよ!」
 結界呪符とアイアンウォールを組み合わせた進路遮断。惜しみなく降り注ぐブリザーストーム。
 もうこのチームは鬼というしかなかった。
「ふふ、悪いわね。勝つのは私よ!」
 円秀の腕の中で寛ぎながら、余裕の勝利の笑みを浮かべるリーゼロッテ。
「は、速い!ワンツーは何と露草組が独占してしまいました!」
「え‥‥勝ったの?」
 無我夢中でフランヴェルを眠らせるのに専念していたリィムナ。気が付けば、そこはゴールであった。
 何か砂に頭から突っ込んで伸びてる人が居るが、記憶から消し去ろう。

●総合結果
「あ、そろそろ結果集計が出たみたいですね」
 ティア、シルフィリア、リンカなど友達の健闘を労って、腕を振るった豪勢なお弁当を振る舞っていた礼野 真夢紀(ia1144)。
 さきほどまでは鈴麗と一緒に空中からシャンシャンとベルを振って応援に精を出していた。
「芋餡のおはぎも作ってきたんですよ、食後の甘味に如何ですか」

「一位は私?これが魔女の実力よ」
 ほくほくと胸の内でさてどの研究に注ぎ込もうかと算段するリーゼロッテが手にしたのは二万文の大袋。
 そしてリィムナの手にもずっしりとした袋が渡され。第三位のペケも結構な額が。
「残りは特別賞だ。まずは一日中可愛い声で実況を頑張ってくれた柚乃ちゃん。音楽担当のティアちゃん。協力ありがとな!」
 それと何か観衆の応援が異様に熱の篭っていた。点数は低かったが、ここは表彰しないと来年の集客が困るぜ。
「ローライズ姫レヴェリーちゃん。それと志姫ちゃんだ」
 で、最後残った三千文は健闘した野郎共の中から――。
「大いに笑わせて貰ったぜフランヴェル。その痛ましい姿に免じて特別賞だ」
 本人はまだ爆睡の最中である。代わりに彼を治療していた譲治が受け取り。
「良かったなりね!」
 どすっ。
「はぎゅあ!?」
 銭の詰まった袋を腹に落とすなって。海岸の一同大笑い。
 盛りも過ぎた彼らの夏は――愉快な幕落としとなったのであった。