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■オープニング本文 東房の国を侵食する魔の森の縁。その奥地に何があるかは知れぬ。 そして地下に巣食うモノ達が如何ほどのものかも。 「陰殻の国境とも近い土地。東房の王からも要請がある訳ではない。下手に大勢は動かせぬぞ」 「ええ、判っておりますですのね。だからあくまでも日常の依頼の範囲で」 「それで討てるのか?騒ぎを大きくするのは、影響が計り知れぬ」 老職員の後ろ向きな言葉がじれったい。とはいえ彼の言いたい事も承知している。 開拓者ギルドは成立の由縁もあり、朝廷とも密接に繋がる機関。普段はそのような意識も薄いが。 調整も無しにむやみに風呂敷を広げては、行き過ぎた干渉と。 例えそれがアヤカシ退治の為とはいえ、その土地の為政者を軽んじてるとも受け取られかねぬ。 だからお墨付きが欲しかった。 朝廷の意を受けた征伐であれば陰殻も東房も、不本意であろうとも開拓者が大勢踏み込む事に首を縦に振るか。 何がしかの条件と引き換えに。 上申はした。しかし朝廷が目を向ける物は他に有り過ぎて、確たる大アヤカシの兆候も無いこの案件は数ある陳情に埋もれてしまったのであろう。 「山喰が組織的な動きを始めたというならともかく‥‥巣退治はきりがないであろう?」 「ええ」 先の調査の結果。ただ山喰らしき眷族が巣食う場所があった。ただそれだけである。 日常で片付けるには、数が多過ぎるのは確かだが。弱点も行動様式も‥‥開拓者が命を張って見出してきてくれた。 自分もその目で確かめてきた。だから彩堂 魅麻は憂慮する。 あれがもしあれだけならば。それだからこそ、今のうちに絶つべきである。 無限に眷族を産み出し続ける伝承の大アヤカシと、直接糸が繋がっていないのであれば。 冥越で目撃されたという彼の悪夢のような軍勢が集結する前にひとつひとつ潰す。 どんなに遠い、迂遠な道であっても。きっと、やっていて良かったと思うはずだから。 「集められる人員だけでやりますのね。ギルドにもご迷惑は掛けませんですの」 「そうは言っておらぬ。協力できる事はできる限り支援するし、アヤカシ退治を否定するつもりはない」 そう先走るでないと老いた男は孫娘のように若い職員を優しくたしなめる。 残された少ない資料を当たり、先に得た情報と重ねて作戦を綿密に練る。 やるからには一度で片付ける。あらゆる可能性を想定し、指揮するアヤカシが居た場合の事も考える。 「小隊長に相当するアヤカシは集団の中に居たと思います。擬音による指令は出していました」 「十につきそれが一体居るとしよう。中隊長、大隊長は同じ能力か?」 「それは――あの時は出てきませんでしたから」 「居ると考えて作戦を立てよ。居なければ力押しでも充分と言えるかもしれないが」 ふたつの巣穴を同時にとなると人員が更に要求されるが。 ひとつずつ攻めるにしても、片方を手掛けてる間に充分に連絡を取り助勢できる距離と考えられる。 もし敵方の伝令が地下を通じていれば留める手立ては無い。 ●広く翻弄する者達 「アヤカシの数は合わせておおよそ百ないし二百と見立てていますのね」 両方合わせて百くらいだろうとは見込んでいるが、倍というのは保険の数字だ。 少なく見積もって壊走なんて事は、したくない。動いてくれる者皆が無事に帰ってきて欲しい。 それを少数で迎え撃てというのは無茶というのは承知している。中には雑魚と言えないモノも混じるであろう。 魔の森の片鱗にある巣穴より誘き寄せて、荒野で機動的な作戦を取る。 つまりは逃げ回り、時間を稼ぐ部隊。巣穴へ直接向かう部隊の支援であるが、大勢を相手するので危険度は高い。 話し合って作戦は立てたが。実戦の経験豊富とは言い難い者達で考えたものである。 「修正や代案があれば遠慮なく言ってくださいですのね。もっといい作戦があるかもしれませんの」 でも用意できるのはこの人員だけ。召集資金は魅麻の裁量でギルドから捻出させられた最大限であり。 アヤカシ退治で人を送り込んでも、国という物の体面や思惑を刺激しない数という苦い計算であった。 卓に広げた地図は、先に調査してくれた開拓者の情報を元にしたもの。詳細に書き込んである。 だから最新で正確である。魔の森が侵食を続ける地で古い地図は役に立たない。地形すら変わっている。 「巣穴の位置はここと、ここですのね」 記された地点は片鱗と言えども魔の森の中。瘴気に充ちた植生が繁殖し、覆い隠している。 誘き寄せる荒野は本当に何もない。起伏も視界を遮る役に立つ程には富んでいない。 「下がる線はこの辺りまで。この方向なら万が一進軍を続けられても集落はありません」 魔の森が地平に霞む距離。アヤカシの弱体化を狙い、敵が撤退を決めても時間を稼げる距離。 その代わり。 こちらの撤退は許されない。ここまで誘き出してそのまま餌を求めて徘徊されれば。 集落がある方向へ向かわないとも限らない。それは――作戦の致命的な失敗を意味する。 誘き寄せたが為に、起こさなくていい被害を人為的に発生させてしまったとなれば。 もうひとつの部隊との合図に何を使うか。アヤカシは音に反応する事が確かめられている。 しかし狼煙では、森の中へ入った面々から確認するのは困難。やはり音がいいだろう。こちらからは。 「距離が相当ありますから、武天の呼子笛とかあればいいのですけれど」 誰も持ってないようなら、ギルドから合図役に提供する。倉庫を探せば一個くらい眠っているだろう。 「私はこちらの部隊に同行しますのね。僅かな回復と支援の役にしか立ちませんが」 足手纏いにはならないように。 曇った表情は申し訳なさげだが、しかし危険な役目を任せてここで待っているのも。それも辛い。 こちらの部隊に託された役割は。 まず魔の森にある巣穴へ向かい、可能な限りアヤカシを引き付ける。 そして戦いつつ誘導後退し、魔の森から引き離しアヤカシにそうと意識させぬまま退路を断ちつつ。 頃合を見計らい、別働隊へ突入の合図。そして限りない持久戦。 もしも誤れば、別働隊が孤立のままで撤退した大群の餌食となる。 |
■参加者一覧
真亡・雫(ia0432)
16歳・男・志
志藤 久遠(ia0597)
26歳・女・志
乃木亜(ia1245)
20歳・女・志
八十神 蔵人(ia1422)
24歳・男・サ
叢雲・暁(ia5363)
16歳・女・シ
龍馬・ロスチャイルド(ib0039)
28歳・男・騎
蓮見 一片(ib0162)
13歳・女・魔
ハッド(ib0295)
17歳・男・騎
藤丸(ib3128)
10歳・男・シ
クレア・エルスハイマー(ib6652)
21歳・女・魔 |
■リプレイ本文 「巣穴の位置を確認したらブブゼラをヴラァ〜って吹いて逃げればいいんだよね!」 一見きゃぴっとしているがこれでもシノビ。いやそれは無意識の欺きの姿か。 鉄の平常心で危険な役目をさらりと確認してのける叢雲・暁(ia5363)。 藤丸(ib3128)と共に相棒を連れて囮として巣穴に向かう。 「あの音は誘き寄せを開始したようですね」 (ロートシルト、私達も仕事の時間ですよ) 丘の麓に待機させた愛機に呼びかけるように心に呟き。切れ長の眼差しを向ける龍馬・ロスチャイルド(ib0039)。 彼の手には武天の呼子笛。第二の合図、その時が訪れるのを待っていた。 ●誤算――臨機応変 「数が足らんな」 二人の合図を受けて上空から降下しようとしたが寸前で留め。小狐丸の背、八十神 蔵人(ia1422)が呟く。 巣穴の入口は魔の森に覆われているので、上から直接は視認できぬ。 藤丸と暁がいなしながら後退しているが、ざっと見たところ二十。 「わしも誘導に降りるわ。クレア、一片、様子見て一人ずつ降りてきてくれんか。魅麻はええで、無理せんで」 あえて彩堂 魅麻にだけそういうのは、彼女が全く龍での戦闘に慣れていないから。 空に留まっての援護なら何とかなるだろうが、立ち回りは恐らく足を引っ張るだろう。 「降下直前に一人ずつ術‥‥ああ、でも治療に残して貰った方がええか」 精霊の力を施すのは何かアヤカシの動きに変化を与えるかとも考えたが。 地上組の援護に待機している熟練の乃木亜(ia1245)ならともかく、魅麻に求めるのは酷だ。それだけで先に力を使い果たしてしまう。 乱戦になってからの応援に回して貰った方が実があるだろう。 「最後は私かな。術は温存して、炎衝の身体捌きだけでいけると思う。多少遅れても速度出せるしね」 ぎりぎりまで粘れるよと、駿龍に乗る蓮見 一片(ib0162)。 「そうね。じゃ私も術を控えていくわ。可能な限り誘き寄せて、一気に片付けたいですわ」 黄金に輝く霊杖を握り締め、唇に見た者が戦慄するような笑みを浮かべるクレア・エルスハイマー(ib6652) 彼女を背に乗せるのは風に靡く銀色の髪を鋭く猛々しい形に造形したかのような龍、シルベルヴィント。 色々と計算が違うが、まぁ計算通りにいかないのが戦場か。 じゃ、頼んだで。と手をさっと振るなり小狐丸の首筋を叩いて気合を入れさせる。 「一回目は火炎無しで横切るで。地上すれすれで蟻んこの間を抜くんや」 まずはご挨拶がてら。驚いて仲間を呼べば良し。そうでなければ二の手を。 「ゴー!」 「竜胆!」 先頭のアヤカシの振り降ろす爪脚を刀で受け流し、相棒のハスキー君に合図と同時に土を蹴る暁。 タイミングを合わせた藤丸が、まるで自分が言われたかのように犬のような瞬発力で走る。 名を呼ばれた迅鷹も固い甲羅の隙間を狙い仕掛けていた攻撃を受け止められる前に翻り、彼の頭上を同じ直線で飛ぶ。 「ギャアアッ!」 その背後に過ぎる横凪の旋風。声は小狐丸の威嚇だ。少し涙まじりのやけくそ気味なのは、頑張った証として後で褒めてやろう。 本来なら自分より小さいアヤカシにも怯えて近寄りたがらないのに、主人の命令とあれば一心に健気である。 白い光と共にガキリと音を立てているのは蔵人の持つ北狄。 頑丈でこの扱いでも折れはしない逸品。この速度でまともに当てた結構な衝撃が手首に走るが並外れた筋力で支える。 甲も砕かず痛手にはならないだろうが、勢いで数体が転がり何事も無かったかのようにまた進軍の姿勢を取っていた。 案の定、ギチギチと。まるで文句のようにも聴こえる擬音を立て始めるアヤカシ達。 「ここでもう少し頑張らないとな、わんさか出てくるまでやるぞ竜胆。無理すんな、でもまだ下がれないから」 「ギッ!」 「終わったら兎肉だ!気合入れろ!」 「ギーッ!」 もっと‥‥たくさん連れていかないと。 まだ魔の森の影響を濃く受ける領域。ここから離せば楽になるが、多数におでまし願うまで自分達は耐えねばならぬ。 その大半を誘き寄せられなければ――別働隊の突入もままならず策は失敗となってしまうのだから。 「あ〜、あんまり派手にやると逆に警戒されちゃうよ〜」 炎を吐き散らした小狐丸。分が悪いと見たアヤカシ達が魔の森を空飛ぶ龍の盾にしようと整然と散開し後退する。 「ほんま大アヤカシの眷族かてめえらは。案外弱気やな」 一度離脱して追い掛けるように弧を描き飛ぶ。超低空飛行で肉弾を挑むとなれば相手になる。現金な奴らだ。 先の報告を聞いた限りでも、今この状況を目の当たりにしても。本当に、遠距離に対する攻撃手段を持たないと見える。 「そういう個体も居そうなものだけど。ん〜、この巣に居るのはみんなしてガチ脳筋だらけ!とか♪」 何気に言った暁が正しいのかもしれない。奴らの動きは単純で判りやすい。 「イケると思ったら馬鹿正直に戻ってくるんだし、この作戦でそのまま頑張ろっ」 一旦戻って出直してとなれば藤丸も暁もさすがに息が上がって、すぐは無理だ。 (戻って報告したら巣で待ってる頭のいい奴がいるのかも。作戦読まれちゃうかもしれないよね) そこは杞憂かもしれないが。ともかく明るく計算を済ませた暁はへこたれない。 様子を見て降りてきた一片の駆る炎衝。 「まだ本気出さなくていいよ炎衝。膝の刃で切り結ぶ程度で守りでね、上昇は最小限」 知り合いが別働隊に居る。失敗でもしたら彼女に後で何言われるか判らない‥‥と。 誘導が予想より難儀している。未だ出てきているのは想定の半分程度か。 クレアも降りてきたが術を放っていいものか考えあぐねている。 シルベルヴィントの身体捌きに任せている感じでもどかしいが、敵の強さを測りかねる。 ホーリーアローを一発でも、牽制を越して退却の決め手にされては適わない。 (自分達が術に弱いという自覚はあるのかしら。だとしたら‥‥退けないとこまで出してあげないと) 杖を棍のように振るっている限りは相手には区別が付かないだろう。 龍と乗り手の近接攻撃、そう思われている限りは奴らは数で押してくる。確実に敵は増えてきていた。 離脱をできるだけ控えた低空戦闘、我が身もだが乗り手を心配する龍の神経は磨り減る。 万が一地上に引っ掛ければ、自分が怪我を負うだけならまだいい。 最悪――態勢が悪ければアヤカシの真っ只中に相棒が放り出される事に。想像するだけで魂が竦みそうだ。 「藤丸、暁、まだ走れるか〜。そろそろ、おっぱじめるで」 「オーケイ♪」 「俺も準備万端!」 「蓮見さん、では私達は一度上へ退避致しましょう」 「うんっ」 アヤカシが届くか届かないかに逃走――全力と見せかけて藤丸達が仲間の待つ方向へ駆ける。 「うおおおおっ。小狐丸退却や退却!疲れとるやろが気張って飛びや!」 一拍置いて蔵人が咆哮の雄叫びを上げて小狐丸を叱咤する。よろよろ速度合わせて後ろを飛べ、とは耳打ちされた命令だ。 一片とクレアがさっさと高空に退避した為、アヤカシ達が追うのは地上を振動させる一団と、蔵人の出す低空の声だ。 「百以上いるんじゃないかな、これ。あ、クレアさん何匹か森に戻る!」 すかさずホーリーアローで連射狙撃するクレア。矢は甲羅に吸い込まれるように貫き、伝令の蟻はことごとく朽ちた。 緩やかな起伏があるだけの広い荒野。どれだけ駆け抜けただろうか。 振り返る余裕は無かったが。 ●激戦――包囲殲滅 耳を塞ぎたくなる異音を放ちながら、全速力で行進してくる大量の巨大な蟻。そこだけが黒く埋め尽くされて。 眼下に繰り広げられたおぞましい光景に震える腕を押さえ、唇を噛む乃木亜。 冥越――彼女の故郷を襲ったという光景はこれを遥かに超えるものであっただろうか。 それこそ山を埋め尽くす程。直接は見届けていない、だが辛うじて伝わる伝聞に残る景色は。 絵空事ではなく。彼女も知っている地名だった、交流がある村が在った、きっと父や母の知人だって居た。 束ねた黒髪を乱す程に首を振り、しかと瞳を開いてそのアヤカシ達を見下ろす。 「もう、あんなことが起きるのは嫌なんです。だから、逃げません」 それは自分への誓いの言葉だ。 私達には今こうして、彼らと立ち向かえるだけの力がある。 誰もが戦える訳ではない。悲劇が再び訪れる前に討つ機を得たのだから、私が背を向けてはいけない。 震えは止まる。感じるのは、奴らが進軍する響き。 (お願いします) 私は直接戦う力は無いけれど――それでも、できる事はある。私しかできない事があるから。 癒しの力で皆を支える。 仲間の背に祈りを送り、精霊の助力を求め神を祀る舞を捧げ。 「どうかご無事で」 突入の合図である笛が長く長く鳴り響く。より遠くまで響くという笛の音。 別の丘に立つ龍馬が吹き鳴らしていた。 息の続く限り鳴らし、一呼吸整えると丘を一気に駆け下りて愛機を起動する。 (さあ、回りこみましょう) 「全部一度に相手という事はできぬし危険すぎるの」 鉄くずと名付けたアーマーを操縦する煌びやかな少年、ハッド(ib0295)。 アーマーケースより取り出してから武装を整えるまで一呼吸で済まし。微調整。 「さて、へっぽこ鉄板はここで外れるとかいうオチは要らんぞよ」 腕の装甲に目の粗い普通の鉄板を追加してあるが、動きには影響が無い。 防具ではないので受けたら壊れるだろうが、用が済めば別に壊れても結構。 「全くいつの間にか蟻んこ風情が大きな顔をするよ〜になったものよの〜」 巨大な棘付き鉄球がぶんと唸りを上げ、懐に入られる前に一閃。これが自分の防衛ラインになる。 「これを越える蟻んこはぺしゃんこにしてくれるわ」 鉄くずの稼動限界を考えると、そう長期戦になられても困るが。 下賎なモノは蹴散らしてくれると、鎖鉄球をぶんぶん振り回す暴れ戦士型の彼に対し。 盾に剣という鎧騎士をそのまま大きくしたかの気高き外観を誇るロートシルト。 鋼鉄の鈍い輝きを生かした赤を基本としながらも落ち着きのある塗装。 鉄くずが正面に堂々と立つのに対し、森を背にするように回りこみ、彼と対に大群を挟む。 「一匹たりとも決して逃しません。騎士として、この場はきっちりと務めさせて頂きましょう」 威圧を主とし、追い立てる。組みし易い生身の徒歩も混ざる中、龍とアーマーに対しては敵方も数を利用した牽制の手。 「統率は取れているようですね。むしろ心配なのは瓦解後ですか」 術の連発を受けて残ったアヤカシ、それを森に戻らせないのが自分の仕事だ。 無論、向かってくる分は叩き潰す。時折飛び込んでくる死兵は盾でいなし、剣の重量を活かして葬る。 乱戦にならぬよう広大な戦場を活かし、大太刀を振るう真亡・雫(ia0432)。 常に位置を変えるが、仲間が広範囲の術を使えるように外周に居る事を意識して。 無論、刻無の安全が第一。小さな相棒は常に敵に晒されぬよう気を配る。 一片とクレアが迸らせる吹雪が着実に敵の数を減らす。直接の影響は無い。 雫に向かってくる数は変わらない。全体の数が減っても常に目の前にある数は一緒だ。 おそらく志藤 久遠(ia0597)も同じ状態だろう。倒しても倒しても屍を乗り越え攻めてくる。 同時に捌く数が多く、手傷も負うが刻無が癒してくれる。 「マスターの傍、離れる暇がないよ。大丈夫かな他の人」 「乃木亜さんと魅麻さんも治療してるから。それより一人で何処か行かないでください」 刻無の小さな身体ではアヤカシの陰になったら見失ってしまう。 「危ない刻無!――くっ」 「マスター!」 「たいした事ないです。さ、大きい奴が来ました。倒しますよ!」 甲羅に霜を張り付かせて、術を受けて尚生き延びたという事は隊長級か。 兵を失ったのか単独で退こうとしているがさせはしない。 大量のアヤカシの骸から立ち昇る瘴気を払うように白梅香の一閃。目前の雑魚を倒し――奴が反応した。 「ふふ、こっちです」 焚火に吸い寄せられる蛾のごとく敵意の異音を発しながら向かってくるアヤカシ。 一対一なら、勝てる。 「大和、防御‥‥後退、防御」 戦闘力は逸品だが融通は少々欠ける相棒。特性を心得ている久遠は必要の都度指示を飛ばす。 命令は見事にこなす。防御と言ったら意地でもアヤカシは通さない。心強い。 味方の殲滅に合わせ二人は少しずつ後退し、散開したと判断したら押す。 「突撃しますよ。まっすぐ抜けてください」 乃木亜が放った焙烙玉で散開した一団。ここからなら一息で届く。隊伍を再び整える前に討ちに。 彼女の癒しの術を受けられる場所まで突き抜け、回復して。 藍玉がピィと鳴き、久遠と大和の刃を逃れたアヤカシを淡い鉛の色をした水に絡ませて足止めを。 それまでも乃木亜に仕寄る敵は藍玉が水柱を放ち、払っていた。 普段は彼女に甘えたな性質だが、その大事な人を守る仕草は可愛らしくも必死であった。 「ありがとう、藍玉。後でぎゅっと抱き締めてあげるからね」 ピィピィ鳴きながら頑張る姿がいじましい。辛い戦場の中でほっと心を和ませてくれる。 「大和、反転!」 「承知でござる、主殿」 他にも音による撹乱はあらゆる手が行なわれた――。 撹乱というよりは命令系統を阻害した効果が大きかっただろう。 あれほど居たアヤカシが今は点描となっている。その点も次第に消えてゆく。 時間は掛かり、深く傷を負い、術を使い果たしたが。 アーマーから降りたハッド、龍馬。竜と別体となって共に戦った蔵人。彼らの身体も。 黒々とした死骸の波は時間の経過と共に瘴気となり、荒野は荒野へと還る。 どれ程の時間があれから経過しただろうか。別働隊は無事だろうか。 想いを馳せ、視線は自然、静まりかえった森の方へと向かう。 自分達の役割は終えた。彼らが根元を断ち、無事戻るのを祈るしかない。 |