【奏宴】ジプシーと姫君
マスター名:白河ゆう 
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/05/27 23:28



■オープニング本文

「アル=カマル。新しい世界って魅惑ですわね」
「そちらに行きたいとか仰りませんですよね、お嬢様」
「まだ天儀の音楽を一杯勉強したいですし。労を掛けて戴いたのに言う訳ありませんわ」
 禿頭の汗を拭う執事に、安心させるように微笑むハウスドレス姿の大柄な女性。
 しかし夢見る瞳は、まだ知らぬ世界へと想いを馳せる。その地にはどんな音楽があるのでしょう。
(世界って本当に広いですわね――)
 ジルベリアの片田舎で歌姫と呼ばれていい気になっていた自分が恥ずかしくなる。
 もし開拓者と交わる事もなく、天儀の音楽を知る事もなかったら今頃どうしていただろう。
 ほのかに紅茶の香りがする熱い溜め息。
 時折、併設された音楽堂で会を主催して歌声を披露しているが。
 まだ天儀の音楽を自分の物にしている自信が無い。
 繊細な自然で培われた音を表面上は再現していても、何かまだ物足りなかった。
 大分新天地にも慣れてきて、近所の者とも頻繁に交流するとはいえ。
 お嬢様然とした癖は抜けず、周囲に気を遣われているのを感じる。
 ザウヘリヤ・ファルツェン。
 ジルベリアから天儀へ音楽留学中の彼女はまだまだ世間に対しても勉強中であった。

「また、開拓者を招待してはどうですかな」
 最近はアル=カマルから渡ってきている者も居るし。忙しく行き来する開拓者は彼らの文化に触れて最先端の知識を持ってるであろう。
 演目も多い大掛かりな公演となると、彼らの時間も束縛し手間も掛ける事になるが。
「そうね‥‥まだ勉強中の身で同じ舞台に立つのは恥ずかしいですけれど」

 奏宴堂。ここでまた彼らと共演するのは楽しみであった。
「実は歌劇をやってみたいと思うのですけれど‥‥」
 天儀独特の着物を煌びやかに仕立てた。俗に言う姫君の装束。
 乙女心満載のザウヘリヤはそれを着て舞台に立ちたいと望む。
 雌熊に例えられるその体格に到底似合うとは思えないのだが、執事のシーバスは身を弁えて口を謹んでいる。
 どうやら、こちらの絵草紙もお気に召しているらしい。特に恋絵巻は、つい夜更かしして読みふけるほど。

「それで、ザウヘリヤお嬢様は――」
 供を連れてお忍びの旅をする高貴な侍に救い出される捕らわれの姫役をやりたいと言っている。
 そこには魅惑的なジプシーも捕らわれていて、彼女に世間知らずを馬鹿にされながら心を結んでいき姫と彼女は生涯の親友になる。
 そうギルドの職員に説明するシーバスは話せば話すほどに、ハンカチーフで汗を拭う頻度が上がっていた。

 出演もそうですが脚本も書いてくれる者が居たらいいのですが。
 劇だから二週間くらいは公演したいというので、それも考慮して。
 お願い、できますでしょうか‥‥。


■参加者一覧
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
和奏(ia8807
17歳・男・志
琉宇(ib1119
12歳・男・吟
ユリゼ(ib1147
22歳・女・魔
モハメド・アルハムディ(ib1210
18歳・男・吟
羽喰 琥珀(ib3263
12歳・男・志
クロウ・カルガギラ(ib6817
19歳・男・砂


■リプレイ本文

「歌劇は僕もやってみたかったんだよね。お任せっていうから色々考えてきたよ」
「俺達に遠慮しなくていいんだぜ〜」
 勝手知ったる二人の少年、琉宇(ib1119)と羽喰 琥珀(ib3263)。
 奏宴堂設立の立役者でもあり、舞台を知り尽くしている。そしてもちろんザウヘリヤとも顔馴染みだ。
「ジプシーに興味あるって聞いて、今回はあっちから専門家も来てるしな!」
「いやいやそんな専門家だなんて事は。俺は地元だから当然習俗には詳しいって程度だから」
 爽やかな笑顔を見せるクロウ・カルガギラ(ib6817)。
 ゆったりとした砂漠の民の衣装を纏った長身の彼にハウスドレスの裾を摘まみジルベリア式に返礼するザウヘリヤ。
 ジプシーとはまた違った趣であるが異国の香り豊かな雰囲気に、嬉しそうに好奇心を露にしている。
「そちらの方も?」
「ラ、いいえ。私は貴女と同じ儀の出身ですよ。よく間違われますが氏族の文化があちらに似ていましてね」
 もしかして祖先はアル=カマルから来たんじゃないか、とこの頃思っているのですけれどね。
 モハメド・アルハムディ(ib1210)の姿を眺め、うちの氏族には居ないけどよく居そうだよなぁと笑うクロウ。

 台本の元となる大筋を用意してきたのはユリゼ(ib1147)。
「長い公演だから、実際舞台でやってみて直すとことか‥‥あるかもしれないですけど」
 楽しい舞台を作っていきましょうね。

「ガジャリーヤ、ジプシー役は女性なのですか‥‥」
 あらすじを聞いて呆然と呟くモハメド。自分ならアル=カマル人役は似合ってると思ったので手を挙げたのだが。
「そうね、このストーリーだと主役のお姫様と対照的な女性という役割だから」
 別に舞台だから男性が女性を演じても構わないと思うのだけれど。
 それはできれば勘弁して戴けませんかとモハメドは、ジプシー役を丁重に辞退する。
 自分の女装‥‥見たくありませんね。
「大事な役だし出番多いからな〜、誰やる?」
 と聞きながら、俺そのままでアヌビスだからやってもいいぜと手を挙げる琥珀。
 歌だけじゃなく踊りもやるんだよな?

 見せ場は何処になるのでしょうと、真剣ながら真剣さを感じさせないおっとりとした調子の和奏(ia8807)。
「私がやりたい役ですか‥‥そうですね、悪役とかやってみたい気がしますが‥‥」
 思い切り哄笑とかしてみたいかも。主役の侍ですか、はぁ私だと演技が淡白でつまらないかも。
 恋とかその‥‥絡まない単純な役の方がいいかもしれませんね。
「希望も被ってないし、それでいいのではないかしら?」
「主役、俺でいいの?」
「適役だと思いますよ。本物のサムライさんですし」
 ルオウ(ia2445)の問いにそう答える和奏。
「よし、がんばるぜぃっ。あ、けど背とか‥‥なんとかなるよな!」
 ザウヘリヤ、気にしてるみたいだしさぁ。

 オリジナルの戯曲。名前はシンプルに『縁屋姫』と決められた。
 見に来る者が判りやすく口の端に乗せ易い名前が良い。この名前なら被る事も無いだろうし。
 入口で配る案内紙は、あらすじと役紹介。歌劇とは何かと知らない人向けに砕いて説明した琉宇の文章。
 折り畳みで四頁目に当たる裏表紙にはおまけで主題歌の全詞が楽譜の一部と共に刷られている。
 譜は読める人が少なくても雰囲気になるからね、とは琉宇の談。
「ああ、ずれてるよ。これじゃ別の音になっちゃう。気付いたらちょっと出せないな〜」
 一枚ずつチェックして選り分けて。うん、前半の分は充分に足りるから作りなおして貰っても間に合うよね。

「こんな感じでどうかな?」
 クロウが見立ててくれたジプシー役の衣装は肌の露出を避けてゆったりとした造りだ。
「くるりと回ってみて。そうそう跳躍や回転の動きを多く入れるとそれっぽく見えるけど」
 琥珀が思いきり勢いを付けて回ってみると、ワンピースと違って裾が胸の辺りからふわりと大きく広がり裾の紐飾りが水平に切るように巡る。
 その下は足首を紐で絞ったズボンなので脚を大きく上げられる。
「踊る場面にもよるけど‥‥もう少し回り方をゆっくりと曲線を意識して」
 曲に合わせてやってみようか。ジプシーの踊りが見せ場になるのは脱出のシーン。
「アーニー、私がここで演奏するのですね」
 琥珀とザウヘリヤと同時に跳ねるようにモハメドも立ち上がり、リュートの演奏を始める。
「モハメドさんも動きが合った方がいいかなぁ。でも楽器弾きながらだしね」
「ヤー、琥珀さんの動きに合わせて少し動いてみましょう」

 舞台で稽古が進む間、クロウは大道具や小道具の作成に精を出す。近所の職人が雇われてるが彼らは舞台装置にはからきし素人。
 実際の配置を頭の中に描き、適切なアドバイスをして回る。
 そこは人が乗っかるから頑丈に作ってね。運びやすいようにひとつひとつのパーツは小さく。それは背景で充分だよ。

 公演初日は好奇心と期待で客席は満員に近い埋まりと順調であった。
「縁屋姫、後でよろしくな!」
 舞台裏で少々重い衣装を纏って控えているルオウ。彼の出番はまだしばらく。
 少し落ち着いた年嵩に見えるよう渋い色合い。袴の裾は長めに足元を隠していて、厚底の靴が見えないようにしている。
 これを踏まないように立ち回るのは結構練習が必要になったが。面白い訓練みたいだったと本人は笑う。
(一回間合いを見誤まって、和奏の脛を思いきり蹴っちまったけどな〜)

「衣装これで間違いないわね♪」
 役に入った口調でクロウに衣装の確認をする琥珀。スカーフも言われた通りの方法で自分で鏡の前で巻いたが。
「それだと踊ってる間に外れちゃうぜ。俺が直してあげるからそのまま立ってて」
 改めて巻き直すクロウの手は慣れたものだ。ピンと立った耳が映えるように、母や姉とは位置が違うが手順は変わらない。
「これでよしっと」

 ホール前の小さな空間は憩いのスペース。ここの壁は役と演じる役者の名前を掲示できるようになっている。
 絵心ある者が居れば肖像を付けても良かったが。今回舞台を用意する者は忙しく。外注は提示された値段との兼ね合いで、またの機会にとなった。
 ザウヘリヤの予算が多少は潤沢とはいえ公演の収支も考えるとそこまでは、とはいかなかった。
 観覧料も近所のお財布に優しいお値段である。


「遥かなる砂の儀、まだ見ぬ夢の大地よ。この胸の想いより熱い風、私に飛べる翼と自由があったなら――」
 お忍びと言いながら高貴さの漂う衣装。響きは考慮しながら控えめの声量で歩き歌う縁屋姫。好奇心と見知らぬ場所を歩く心細さを帯びて。
 背景はありふれた天儀の港の町並み。下町を知らぬ姫は物珍しそうに見た風景を歌い上げてゆく。
 横笛の演奏は彼女の動きに合わせゆっくりと消えるように止め。街の雑踏の効果音は、あり合わせの材で表現し。
 大道具に隠された一角が琉宇の持ち場。彼の周りには楽器と共に様々な素材が所狭しと並べられている。
 貼り紙の前で立ち止まる姫。
「アル=カマルへ向かう労働者の募集ですって。きっと何かお手伝いできる事があるはずだわ。行ってみましょう」
 そこへ下手から現れるルオウとユリゼ。お忍びの軽装でぶらりと町を見物する態の侍と魔術師風の青年。
「人を攫い売り捌く悪しき組織の噂を聞き、追って参ったが。はて問題はここからよな」
「その場を押さえぬ事には知らぬ存ぜぬを通して、下っ端を切り捨てるだけでしょうね」
 腕を組み、曇らせた顔。クールに低めの声で答える魔術師が首を大きく横に振る。

 凛々しい侍が舞台の中央で歩みを止めて立ち、重なると同時に姫が振り向き。
 ぶつかり、よろめくように倒れる姫。それを侍が背中に手を差し入れて軽々と助け起こす、が脚を痛めた様子で立ち上がれない。
 宿まで送ろうと問答するが、頑なに明かさず名を聞かれても惑うばかり。身を明かす訳にはいかないと。
 訳ありのお嬢さんなのだなと深くは問わず、気を付けて参られよと見送る二人。彼女が舞台の袖に消えるまで心配げにそのまま。
「貼り紙を見ていた時の純粋なまでに輝いていた瞳‥‥素敵なお嬢さんですね」
 魔術師の言葉にいったい何が書かれていたのだろうと見に行く侍。
「はて。あのような令嬢には無理がある仕事だと思うが」
 訝しげに姫が去った方を見やる。そこへ袖から響く明るい歌声。
「ああ、未知の国。憧れの異国はすぐそこに!」
 第一場が終わり、左右よりするすると幕が紐で引かれ閉じられてゆく。

 薄汚れた路地裏。迷っている様子の姫の格好だけが景色から浮いている。
 ならず者達が下卑た声を掛け、姫を囲む。エキストラの演技は上手いとは言い難いが初日だから仕方あるまい。
 ヴァージナルで不安を煽るような伴奏を。姫の台詞毎に繰り返しの調を僅かに変えて、緊迫感を次第に高めてゆく。
 この辺の息の合わせは姿が見えなくても判る。ザウヘリヤと琉宇の見えない掛け合いのシーンになる。
 縁屋のどの言葉を引き金にするかは頭にちゃんと入っていた。次第に高まってゆく声調、そのクライマックスで鍵盤を不協和音を叩く。

 幕が再び閉じ、場面転換。
 打って変わって静かに。次の場面を予感させるかのようにアル=カマル風の音階が単音で爪弾くようにゆったりと奏でられる。
 舞台演出担当のクロウが率先して動きながら、他の者にも指示を出し。転換の時間は素早く。
 半円の階段状に並べた木箱。低い段には、脚を投げ出して背中合わせに座る琥珀とモハメド。互いの手首が縛られているかのよう。
 疲れて眠るかのように顔を俯かせた二人。そこから始まる。

「楽しさを求め、深き雲の海を渡っては来たけれど――」
 髪を覆うように深く被ったスカーフでまだその横顔はほとんど見えない。簡素な砂漠風の貫頭衣に身を包み。
 甘さを含んだ中性的な琥珀の歌声。まだ子供に近い少年の喉は澄んだ声を響かせて。

 歌声と伴奏が止む。
 舞台に置いた麻袋の上にどさりと投げ出される縁屋姫。その音は音響係の琉宇が別の袋を叩いていて、実際には痛くないように自分で倒れ込むような感じだ。
 それでもザウヘリヤには思いきりよく飛び込むように打ち合わせたけれど。舞台となると彼女も本気だ。
「おや、捕まったのは私達だけではないようですね」
 首を伸ばし覗き込もうとする男。が、縛られた手首が背中合わせの娘と繋がっている。
「痛っ、ちょっと引っ張らないでよ。もう」
 姫が目を醒ますまでの間、囀るように、自分達を捕らえた悪い男と手下のならず者達への文句を並べ立てる娘。
「あら、起きたわ?ねぇ、貴女はどうしてここに連れてこられたの?」
 目を醒まし嘆きすすり泣く姫とは対照的に。
 ファティマと名乗った人懐こい娘。あっけない捕まりぶりにケラケラと、薄暗い中に陽気な声が響き渡る。
「正真正銘の世間知らずね!」

「誰か来るみたいですよ」
「いい?隙を見て脱出するのよ。泣いてても誰も助けに来ないんだから!」
 私が誘惑して縄を解かせるから。
 言葉巧みに甘い声でねだり、縄を緩めさせる娘。そっちのお嬢様もお願い、おとなしいから大丈夫よ。ね、優しい男って素敵だわ。
 しなだれかかり油断した所で姫といちにのさんで同時に立ち。二人で見張りを翻弄するように合わせた踊りを。
 華麗で奔放な娘の踊りに、必死に真似するように舞う姫。ぎこちないがそれも演出のうち。
 楽師もいつの間にか立ち上がり曲を奏でていて、姫はそれに合わせて歌う。二人に弄ばれるように倒れる男。
「ただの世間知らずのお姫様じゃないのね。じゃじゃ馬お姫様」
 娘は姫の手を取り親しみの笑顔を浮かべ。三人は脱出する。

 第四幕。
 突然鳴り響く空砲。ガヤガヤと探し回る男達の野太い声。
「ああ、もう。なんて迷路みたいな場所なの!」
 袋小路に入り込んでしまった。でも塀を越えればきっと何とかなるわと歌う姫。
 楽師に抱えられ身軽に塀の上へと登る娘。続いて楽師が。
 姫に手を貸そうと二人が腕を伸ばした時、とうとう追いつかれてしまう。
 ここで和奏が悪趣味な派手過ぎる柄の羽織を纏い、ならず者達の後ろから登場する。
「ふふっ。このような美しい娘達。逃してはならぬぞ!さあ、早く連れ戻すのだ!」
 役作りの際にあまり豪快な笑いは喜劇のようになってしまうと。顔はいいが陰険な男という風に低く笑う。
 言葉だけは威勢がいいが人形のような白い顔貌に醒めたような瞳はそのままに。冷たい印象を前面に押し出して。
 羽織を広げるように腕を払えば、手下のならず者達が一斉に姫を捕らえる。
「私はもう置いていって。ファティマ、モハメド。どうぞ逃げ延びてくださいな、素敵な旅人よ」
「ダメよ。貴女を追いてゆくなんてできないわ。一人では心配だわ、何も知らないんだから」
 歌うような台詞に胸を掻き乱すような旋律。別れの辛さをリュートの音色で表現するのはモハメド。
「大丈夫、また縁屋を連れて戻るから!」
 ひらりと舞い戻るファティマ、モハメドを残して二人はまた捕らわれの身へと。

 だが大きな声がそれを阻む。
「待て待てい。貴様らの悪事、此度こそは突き止めた。逃さぬぞ!」
 供の魔術師ユリゼを連れて、堂々と現れる侍ルオウ。
 何奴と誰何する和奏。姫を乱暴に引っ立てて、手下達が彼を守るように囲む。
 ここで天儀の庶民受けの良い勧善懲悪のありきたりのやりとりが交わされる。
 安心の展開に客席からも、いよっ待ってましたと声が飛ぶ。
 耳馴染みの良い楽曲を多様な楽器用にアレンジした曲で躍動感のある伴奏が始まり、琉宇の指が踊る。

「ひとつ!続けてふたつ!」
 大きな振りで同時に向かいくるならず者を切り、その度に号声を挙げ見得を切るルオウ。
 剣速は常より落として、観客の目にもよく映るように。どのように見えているか角度を選びながら動く。
 杖を翳すユリゼの動きに合わせ、ブレスレットベルの澄んだ音色。姫にナイフを突きつけようとした男が崩れる。
 琉宇がモハメドと共に伴奏に専念している場面なので、ここは効果音の数々はクロウが手伝っていた。

 和奏とルオウの殺陣は大きな見せ場だ。
 ユリゼに助け出された縁屋とファティマの声援の歌に合わせ剣舞のように。
 派手な演出を交えながらも息を呑むような鍔迫り合い。互いの高等な腕前を披露する。
 ルオウの刀が和奏の胸の寸前を薙ぎ動きを止める。大仰な動きでよろよろと後ずさる和奏。
 刀を鞘に収めると同時にドサリと倒れる。

 万事解決の終幕。ユリゼが奏でる笛を背景に。
 別々の方向へ立ち去ろうとする侍とジプシー達。どちらに向かうべきか迷う姫。
「ここでお別れ。でも遠く離れていても貴女の事を忘れないわ。一緒に危機を乗り越えた友達よ」
 侍の後を追うように促し。二人の友情は永遠、でも彼は今追いかけなければ。
 幕は閉じ、ファティマの歌、縁屋の歌、合奏も交え全員の歌で終わる――。

 連日の公演は好評で、中には毎日通い詰めた熱烈な者も居たようであった。