【四月】ふしぎなくすり
マスター名:白河ゆう 
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/04/20 23:55



■オープニング本文

「つ、ついに完成したぞ!ワシの人生を賭けた研究の成果が!」
 無色透明の液体が入ったフラスコを愛しげに目を細めて呟いた白衣の小男。
「大畠博士、それはまさか‥‥」
「うむ、小湊クン。君との競争についに勝ったようだ」
 感慨深く息を吐く。そんな大畠の様子に新進気鋭の研究者といった風貌の男が眼鏡の奥の瞳に険を光らせる。
 小湊と呼ばれた助手。彼は恩師でもある博士を尊敬していたが、同時に意見を異としていた。
「例の、品なのですね」
 ゆっくりと念を押す。
「そうだ、例の品だ」
「実は私も、今日完成したばかりなのですよ」
「何だとっ!き、貴様、あの研究をまだ続けていたのか!」
「貴方が反対されているのは承知です。でも私には私の理想があるのです。貴方と同じように」
「ダメだ。その研究はまかりならん!」
「貴方が許さなくても、これを欲しがる人は世にたくさんおられるのです」
 睨み合う二人。この信念ばかりは譲れない。
「もちろん商売人に売り渡す気などは毛頭ありません。これは幸せの為だけに使われるべきものです」
「しかし貴様の幸せは、別の者を不幸にする」
「貴方だって同じです。何故それほどまでに執着するのですか」

「‥‥これは世に発表するつもりはない」
「そうですね。私もそのつもりはありません」
 お互いの瞳の奥を覗き合い、真意を探る。長年傍で寝食も惜しみ研究を共にしてきて腹の知れた仲。
 誰もが途中で呆れて去っていくまで最後まで信念を貫いた男達。

 どんなにドッカーンな胸もツルンペタンにしてしまう魔法のような薬。
 微動だにしない永遠の磐石。年を取ろうとも毅然と変わらぬその姿。
 それこそ大畠の理想である。

 しかし小湊は信念を逆としていた。
 クールな顔してこの男。大きい事はいい事だ。それを座右の銘としている。

 けれど。
 研究室に篭ってばかりいるから、そもそも女気の欠片も無いという色々以前の問題。
 生きてきた年数いこーる彼女居ない暦である。
 こんな事を日々考えて論議を重ねているのだから、女性研究者が寄り付くはずもなく。

「そうだな‥‥本当に効くか試す相手も居ないとは」
「臨床実験は必要です。貴方のその薬、空論だったら笑って差し上げますよ」
「同じ言葉を貴様に返そう」

 被験者は密やかに募集された。
 それは被験者だけでなく共同研究者も。伝手というのは怖いものである。
 世間にこれだけ多様な試薬を成功させていた研究者達が居たとは。
 さすがに臨床対象が女性の胸だけというのは世間の批判を浴びかねない。
 身長を高くする薬、低くする薬、鋼鉄ロボットになってしまう薬。
 猫になる薬、透明になれちゃう薬、思った事と反対の事しかできなくなる薬。
 おいそれはどういう事だという薬が世界中で開発されていたのだ。本当に怖い。

 いったいそんなもの、何の為に作ったんだ――。

 君達はそうして集められた。報酬に騙されたのか、それとも志願したのか。
「あ、あ、あ、あの‥‥すみません‥‥」
 蒼ざめた顔で皆に、しどろもどろになりながら説明する女性研究者。
 読書してる姿がよく似合いそうな人だが、こう見えて鋼鉄ロボットの研究が専門。
 これから実験という矢先、重大な事態が発生した。
 全部、無色透明無味無臭の薬。手違いでどれがどれか判らなくなってしまったのだ。
「なんだと、しかしこれから作りなおしてる時間は‥‥」
「材料は希少でまた必要量を抽出しなおすには何ヶ月も掛かってしまいます」
「仕方あるまい。飲めば効果は判る事だ。実験は強行するぞ!」

 という訳で。実験体になってくれたまえ諸君。

「目当ての薬が当たりますようにっ!」
 ごくん。

 ‥‥。
 ‥‥‥‥。
 あれ?

「効果は吸収されて一時間くらいで出るはずだから、まぁゆっくり寛いでいてくれたまえ」
「一応バスルーム以外はモニターで死角なく私達から見えるから自由にしていて構わないよ」
「こ、これは臨床用の実験薬なので‥‥効果が出てから数時間で元にもどるはずですからっ」
「部屋は外からロックを掛けるが、急変があれば対応するので安心していい」
「服のサイズが合わなくなったら着替えるといい。クローゼットの中に一通り用意してある」
 自分の研究の成果がきちんと発揮されるか。瞳を輝かせた研究者達が笑顔で送る。

 柔らかい絨毯が敷かれ、蛍光灯で照らされた清潔で広々とした部屋。窓は無い。
 向かい合ったソファの間にテーブル。上には誰が作ったのか手製のクッキーが山盛りになった皿。
 クローゼットに姿見。電子レンジ。食器棚。テレビ。謎のコントローラー。猫じゃらし。
 冷蔵庫を開けると、牛乳にオレンジジュース。缶ビールも。冷凍食品は各種取り揃えてある。
 それと猫缶がマグロ味とカツオ味。少々お高めのブランド品だ。
「紅茶も珈琲も準備がありますね。葉も粉も一種類しかないようですが」
「まぁ〜、のんびりしてろって事かね」
 ドアは二つ。施錠された入口とバスルーム。開けてみればホテルによく付いてるようなユニット式だ。
 着替えるならここでするしかないかな。

 ――そして、時は訪れるのであった。

※このシナリオはエイプリルフールシナリオです。実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません。


■参加者一覧
神町・桜(ia0020
10歳・女・巫
白拍子青楼(ia0730
19歳・女・巫
斑鳩(ia1002
19歳・女・巫
ウィリアム・ハルゼー(ib4087
14歳・男・陰
宮鷺 カヅキ(ib4230
21歳・女・シ
龍水仙 凪沙(ib5119
19歳・女・陰
フランヴェル・ギーベリ(ib5897
20歳・女・サ
笹倉 靖(ib6125
23歳・男・巫


■リプレイ本文

「ふふふふふ!ふはははは!これでわしもきょぬーの仲間入りじゃ!」
 垂直離着陸機のように上昇してゆくテンション。据わった瞳で叫ぶ神町・桜(ia0020)。
 その言葉に驚きの悲鳴を上げる人が何故か居た。
「な、なんだってーっ!」
 一目見た時からハァハ‥‥いや目をきらきらと輝かせていたフランヴェル・ギーベリ(ib5897)。
「ドクター大畠、よくぞこの薬を開発してくれました!」
 さきほど、嬉しさのあまりガシッと大畠教授に対面するなり情熱的な握手を求めていた金髪女性だ。
 そう彼女はこの時を待っていたのである。
 幼い姪っ子を熱烈に愛するあまり、もうそのような外見を持った少女には見境がない。
 いや、むしろ自分がその外見になりたい。
 桜のその姿は彼女のハートにドンピシャリ。もう初っ端から胸をキュンキュンさせていた。

「あれ、紅茶飲み放題と聞いて‥‥薬の臨床実験!?そんなの聞いてないですよ!」
 きっと情報が伝播されていく過程で話が何処かでズレていったのであろう。
 そんな事、募集広告のついでの隅っこにしか書かれてなかったと思うのだが。
 話がちっがーうとショックを受ける斑鳩(ia1002)をまぁまぁとウィリアム・ハルゼー(ib4087)が宥める。
 彼自身は‥‥どうしてここに来たのか。
「ご主人様の命令で‥‥それで実験って何ですか?」

 改めて説明を受けたものの。
「何のために作ったんでしょうね、コレ」
 そう呟く宮鷺 カヅキ(ib4230)。
 背が高くなりたいとか胸を大きくしたいとかはまだ理解できなくもない。
 自分だって思うとおりに成長できるというなら、もうちょっと背丈が欲しい。
 でも、ロボットだとか猫だとか不可解である。
「おくすり‥‥ですの?わたくし、苦いのは嫌いですの‥‥」
 不安そうにしているのは白拍子青楼(ia0730)。
 楽しそうなお話だから好奇心に負けて来てみたのだけど、飲めるだろうか?
「その点は心配ない。何も添加物は入れてないので美味とはいい難いが、苦いという事はない」
「まぁ、そうですの?売り出す時はシロップとか入れた方がいいと思いますわ」
 眼鏡を直しつつ語る小湊助手に、市販と決まった訳でもないのにお願いを申し出る。
「できれば甘くしてくださいね、わたくし味覚がお子様ですの」
「む、むむ。女性向けの製品だからその点は改良の余地があるとメモしておこう」

 ところで。
「どれがどれかわからんじゃと!?どういう事じゃ!」
 実験直前のアクシデントに焦り顔の桜。
 飲めばわかるからと言われても、自分が飲みたい物を当てられなければ来た意味がない。
「ま、それも面白いじゃないか。って俺が胸大きくなっても誰得って話だけどな」
 へらっと笑う紅いロン毛の好青年、笹倉 靖(ib6125)。実験体の黒一点。
 いや、失礼。ウィリアムは‥‥うん、女の子に数えていいと思うんだ。その胸パッド外してこないと。
「俺、できればちっこくなる奴を飲んでみたいなぁ。このなりだろ、人を見上げるっての新鮮だよな」
 196cmという高身長。同性でもそうそう見上げる相手にはお目に掛かれない。

 じとっと桜を強い視線で見つめる龍水仙 凪沙(ib5119)。
 胸を大きくしたいと思ってきたのに、ライバルが‥‥っ!
「この中で正解はただ一本のみ」
 全く違いの見えない並んだコップを睨み、見定めようと気合を入れる。
「これだ――!」
「いや、これに違いないっ!どうじゃ!」
 同時に別々のコップを手に取り、一気に飲み下す二人。
「どれかひとつ飲まなければいけないんですね。これいただきます!」
「これかな‥‥」
「そんじゃ、俺はこれで」
 次々と飲み干されてゆく薬。
 覚悟を決めた青楼も目を瞑り鼻をつまみ、残された一杯をこくんこくんと。
「ははっ、どんな変化が起きるのか楽しみだよ!」
 と言い放ったフランヴェルだが。‥‥誰も変化がちっとも現れない。


「ともかく皆様、お茶でもいかがでしょう」
 どうしていいか判らない場。何となくメイドの習性で給仕を始めるウィリアム。
「桜ちゃん、砂糖は何杯?」
 本人は自然を装ってるつもりだが爛々としたフランヴェルの目に危機感を感じる桜。
 紅茶を飲んで薬が本領発揮できなかったら困ると、固辞しつつ。
「ん♪ここの職員さんはセンスがいいですね、それにさすがウィリアムさん。美味しいです♪」
「お菓子もとっても美味しいですの。料理上手な方がいらっしゃるのですね」
 斑鳩と青楼はソファに寛ぎ、さっそくと堪能している。
 それを横目に部屋の中に無造作に置かれた見慣れぬ物を手に取る靖。
「ロボットとか言ってたよな。もしかしてこれで操縦!?うぉ、俺操作していい?」
 誰がなるのか知らないが、やっぱりこういうのってさ。なんつーか浪漫だよね。

 ガタン。

 いきなり立ち上がって服の上から自分の胸や腰を撫で回す不審者、いえフランヴェル。
(来た、来たーっ!)
 ぴったりフィットしていたはずの下着がその動きによってずれる。
 クローゼットをバーンと開け放し、これとこれとそれとこれと。わしづかみにして。
「鏡、借りてくよ!」
 部屋に合った姿見まで脇に抱えて、誰もが唖然と見送る中バスルームへと駆け込む。
「なんじゃ薬の効果が‥‥わしもそろそろ大きく、ぬ、ならないじゃと!?何故じゃ」
「ふふん、大きくなるのは私。ってうにゃ?にゃにゃ?うにゃああああああ!?」
 勝ち誇った顔で喋っている最中に凪沙の姿が消えた。
 服だけが積み重なって、何かもぞもぞと動いている。
「おい桜、お前右手どこいったんだ?」
 靖の声にふと見てみると、あれ無い。それってまさか。
 右手どころか肘、肩と順々に消えてゆく身体。どうやら違う薬が当たってしまったようである。
 がっくりすると同時にふと沸き立つ疑問。
(これ、透明な状況でモノを食べたり飲んだりしたらどうなるのじゃろう)
 バリウム飲んだレントゲンみたいになるのだろうか。試してみたい気もする。
(気になるが‥‥こうなったらそれ以上にやる事があるの!)
 誰だ、胸を大きくなる薬を飲んだ奴は。この恨み晴らしてくれん。
「わしの、わしのきょぬーの夢ぇぇぇっ!返せぇぇ」
 一糸纏わぬ姿となりて、怨恨の鬼と成り果てる桜であった。

「うにゃにゃ、みぎゃー」
「は?凪沙、猫になったのか。って暴れんじゃねーよ、ほら爪が引っ掛かってるだろが」
 もがいてる凪沙を助けようとした靖だが、意思に反して余計にぐるぐる巻きにしてしまって。
「あれ、これって見た目変わってないし。まさか‥‥」
 とりあえず離れて混乱する頭を落ち着かせようと、足がもつれてすっ転び。
「ひゃあん!」
「わ、わりぃ青桜。すぐどけるから。ってのうぁ」
 いきなりのしかかられてソファで悲鳴を上げた青桜の身体がぼんっと巨大化。
 反動でぶっ飛んだ靖。今度は後頭部がごつんと固い何かに。
「いてっ」
「あれ?えっとこれは‥‥」
 顔の筋肉がおかしい。何だか直線的な動き。あれでも声はちゃんとでるんですね。
 いつの間にか身体が鋼鉄化していた斑鳩。
 周囲の惨状に一瞬固まっていたのだが、その間に変化してしまっていたようだ。
 間接を動かすとガチャン。ウィーンガチャンと。妙な動き。
 とりあえずここは冷静にと、紅茶のカップをテーブルに戻す。もちろん飲み干してから。
 トクトクトクトク。プシュー。薫り高い蒸気が鼻から吹き出る。
 そこで動かなくなった。

「10秒で自動的にリモートモードへ切り替え。DNAに働きかけるプログラムは成功したようです」
 別室からモニターを眺め、頬を上気させて満足そうに頷く科学者。
 反対に無言で苦悩の表情を浮かべている小湊。残るは彼の薬を飲んだと思われるウィリアムかカヅキか。

「あれ‥‥偽胸がなんだか」
 バスルームがフランヴェルに占拠されているので、仕方なく冷蔵庫の陰で違和感の生じた偽胸を外す。
 圧迫から開放されたその下の胸がぼわんと。元々そんな物はない。男だから。
「やったー!これで乙女への道をまた一歩!」
 嬉しさのあまりその場でふにふにもみもみと自分の胸を好き放題弄り回すウィリアム。
 大丈夫、みんなそれどころじゃないからこっちは見ていない。
「あ‥‥残念です、完璧な乙女への道は遠いのですね」
 ついでにスカートの下も変化してないかなと触ったが、うんしっかりと存在している。

 自前で大きめの服も用意してきたし準備万端。わくわくして待っていたカヅキだが。
 小さくなってソファの上で呆然としていたら、立ち上がった青桜の勢いで床に転げ落ちてしまった。
「青桜さんちょっと待って、動かないでー!」
「いたぁいですの‥‥」
 天井に頭を思い切りぶつけて涙目になっていた青桜だが、声の主を探すと足元に素っ裸の人形が。
 いやカヅキが。
「可愛らしいですの」
 ひょいと掌の上に乗せるがカヅキが真っ赤な顔でジェスチャーしながら訴えている。
 自分も素っ裸だけど、青桜も巨大化した拍子に服が破れてあられもない姿になっていて。
「まぁ!」
 頬に血を昇らせて慌てて胸を隠すけど、カヅキを放り出しちゃダメじゃないですか。
 ちゃぽん。ぬるくなった紅茶の中へ着地。喉が渇いたし飲んで置こうか、茶は大事な燃料。
 そしてとりあえずは皿の上のクッキーを使って前を隠すカヅキであった。
「申し訳ないが青桜さん、クローゼットの中に服が用意されてあるはずだからそれを‥‥」
 自分では取りに行けない。というか不用意にテーブルから降りようものなら誰かに踏み潰されそうだ。
「クローゼットですの?」
 今度は頭をぶつけないように気を付けて。屈みながら開けに行くと確かに入っていた。
「これなら着れそうですのね」
 自分用の大きな着ぐるみと、着せ替え人形の物と思われるカヅキサイズのドレスと。
「む、選ぶ余地がないのだから仕方ないな」
 総フリル作りのピンクのドレス、とりあえず着られれば何でもいいから身に付けるしかない。

「いや、あの俺何処を見ていいか‥‥」
 靖は一生懸命目を逸らそうとしてるのだが、ばっちり着替えシーンを見てしまっている。
(不可抗力なんだ‥‥許してくれ!)
「ってか、ぷっ。うわっはははは」
 笑っちゃいけないと思えば裏腹に。
 赤い二等辺三角形に緑の腰帯。ちょうど顔の出る辺りに滑稽に垂れた黒い髭。
 なんだそのけったいな着ぐるみ。見た事ないぞ。
 ほわぁ?と訳も判らず首を傾げる青楼。そんなに面白い格好なのだろうか。
 鏡を見たいけれど、フランヴェルがバスルームに持っていってるので確認できない。

「つか、これコントローラー持ってるのやばくね?」
 誰かに渡そうと思ったら、目が合ったのは白ビキニのウィリアム。何て格好してるんだ。
 しかし渡そうにも脚が反対に向かうし、手が勝手にレバーやボタンを動かしてしまう。
「くらえーイカルガーパンチ!」
 何故か棒読み口調で必殺技を繰り出す斑鳩。
 ロケットパンチが冷蔵庫の扉を大きくへこませ。同じ勢いで元に戻りガチャンと装着される。
「みぎゃああっ」
 物凄い音に驚いて駆け回る凪沙。パニックを起こして色んな物をひっくり返して。


 そういえばフランヴェルは何してるのか。
「ああ!ボクが幼女に!幼女そのものの体に!こんなに嬉しい事はない!今や『幼女』のイデアは我に分有された!イア!幼女!」
 鏡に映る我が姿を見つめ、歓喜の涙を流し続けていた。しかも自分にキスまでしてるし。
 どうやっても唇同士のキス。鏡なんだからそれ以上は無理。
「なんて可愛いんだボク!んん!大好き!愛してるっ!」
 もう怖いものはない。
 頭の周囲に蝶が舞っていそうな鼻歌を交え、いちごぱんつに白い靴下。
 カッターシャツに、真っ赤なスカート。サスペンダーで両側を吊って。
 赤いランドセルに黄色い帽子。完璧、これぞ完璧!
「ボクは幼女!幼女フランヴェルさ!ハハハ!」

 彼女の姿がモニターに映った瞬間、大畠教授は感涙に咽び、残りの者は盛大に茶を吹いた。
 実際部屋に居る者達はそれどころではないのだが。

(おのれ、ビキニなぞを自慢げに付けおって。けしからん!)
 もみもみもみもみ。透明なのをいい事に揉み放題。
 顔を真っ赤にしたウィリアムにその恨みをぶつける桜。
 その触り心地に夢中になっていて途中から目的を忘れている。

「凪沙さん、落ち着いて!ほらほら、遊びましょ?」
「ふにゃ?」
 白くふわふわした物が目の前で揺らされて。ぱしっと押さえようと思えば逃げられ。
 猫じゃらしを抱えたカヅキと全速力追っかけっこを始める凪沙。
「えっと反対の動きをするんだから逆の動きをすれば」
 と考えれば余計に混乱して斑鳩を暴走させている靖。
 間一髪、鋼鉄の脚に踏み潰されそうになったカヅキが潜り抜け。凪沙が顔をぶつける。
 青桜の身体を駆け登り、ペロペロと顔を洗って気を鎮め。
(あ、ここ見晴らしいいし。柔らかくて気持ちいいかも)
 ふと見下ろせばカヅキが大の字になって伸びている。透明な桜にまともに衝突したか。
(そのままじゃ危ないわ)
 とことこっと降りて、襟首を咥え。青桜の上にまたよじ登り。
「にゃんにゃん、可愛らしいですわ」
 小さな二人を乗せてお昼寝タイム。一番最初にすやすやと寝息を立てたのは青桜であった。

「桜ちゃんと記念撮影したいのに何処へ行ったんだろう‥‥おやこの服は」
(ちょ、わしの服をそんなにくんかくんか嗅ぐのはやめるのじゃ)
 フランヴェルを止めようと桜が部屋を横切ったその時。
 靖の手がものすごいスピードでレバーコマンドを入力。ボタン同時押しで斑鳩が喋る。
「イカルガーキャノン、榴弾装填」
 グィーン、グィーン、グィーン。ガッシャン。両腕を大きく開いて振り上げ胸元のエンブレムが輝く。
 顎外れてるとしか思えない具合に開いた口。何処から声が出るのか謎である。
「イカルガーキャノン、発射」
「え、逃げないとやばいって」
 言いつつ、もろに直撃の射線に入る靖。その向こう側にフランヴェルと縺れ合う桜。
 あ、たまたま近くに立っていたウィリアムも巻き込んでいた。
 ごめんね、ビキニがボロボロになっちゃった。必要なとこ隠れてないよ。

「こ、こんな事もあろうかと救急班は待機させていました。ロック解除します」
 ロボット薬開発者の顔には想定外という文字が張り付いてるような気がしないでもないが。

 がっしりとした体格の救急班の男達が突入すると――。

 ソファに折り重なるようにスヤスヤと眠る三人の全裸女性。
 着ぐるみは床に落ち。素晴らしい目の保養?
 モニターの映像はしっかりと小湊が録画してバックアップDVDも作成中。
「教授の為にコピーも取っておきましょう。赤毛の子、貴方の好みでしょう?」
 一方部屋の隅で爆風に倒れた幼女コスとひんぬー、あと野郎と男の娘が手当てを受け。
 そして中央にて首をかしげている元に戻った斑鳩の姿があった。
「何か夢を見てた気がするんですけど‥‥いったい何事ですか、これは?」