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■オープニング本文 「旦那様、旦那様‥‥そのままこっくり行ったら残雪の中に落ちてぽっくり逝きますよ」 「む‥‥眠っておったか」 「お風邪を召しましたら、皆手を叩いて喜びますから。そろそろ部屋にお戻りくださいませ」 縁側に火鉢を置いて、思案に耽っていた派手な羽織姿の老爺と、いかにも女中頭でございますという威厳を備えた中年の女性。 ここは北面の穀倉地帯に位置する町の中心部に建てられた古いお屋敷。 比較的裕福な村落が多い周囲の里の流通で栄え、商家に転身したこの屋敷も元はといえば土地の豪農である。 奇矯で知られる主、野崎 士座衛門(のざき しざえもん)の背中を叩くように押して、部屋へと押し込める女中頭の加代(かよ)。 乱暴に扱ってるようだが、この士座衛門はこう見えて町でも有数の遣い手で知られる志体持ちなので加減は要らぬ。 若い頃はぶいぶいというか、有力な家の跡継ぎでなければ困り者として持て余されていたであろう。 何しろ、町の何処からご落胤が次々と沸いてきてもおかしくない女好き。 加代が長年傍で仕えてこられたのも、彼の食指が動かなかったお陰である。 いや彼女は実は士座衛門よりも強いという噂もあるが。戦う姿はまだ誰も見た事がない。 「ミキちゃんもユキちゃんも辞めてしまったしのう。可愛くて面白い芸のある娘が欲しいんじゃが」 町の治安を守る私設志士隊『ぴぃち隊』。恥ずかしい名前なのはジルベリア遊学の際に余計な言葉を覚えてきた士座衛門のせい。 元は『双菱隊』という家紋を表した堅苦しい名前だったのだが、癒しだ癒しが欲しいとほざ‥‥いや騒いだ為に改名となった。 『双菱隊』の制服である桃色の袴。そこから桃の事を呼ぶジルベリア語をもじった言葉らしい。 当時は大きな内戦の最中だったジルベリアに渡って、本当にそのまま帰って来なければ良かったのにと隊員は涙を呑んだ。 隊員はこれまた士座衛門の趣味で若い娘達で構成され、飽きられるか嫁に行く事で卒業と呼ばれてお払い箱にされる。 それでも大金をくれるので志願する町や近隣の村から訪れる娘は後を絶たず、供給は賄われていた。 本来町の治安を司るのは国より派遣された代官に採用された正規の隊の者達なのだが。 何しろ彼らは薄給である。やる気も装備もいまいち。 士座衛門が金に飽かせて集めた私兵の方が優秀という事で、町の者も何かあったら『ぴぃち隊』を呼ぶのだ。 なにしろ、呼んだら可愛い女の子が助けに来てくれるし。 しかし助平爺に耐えて長く続けられる者はあまり居ない。 いつか元隊員達の討ち入りに遭って成敗される日も近いのではという噂は‥‥。 お縄にでもなって欲しいものだが、残念ながらお上にも協力的で受けのいい旦那。羽振りもいいので支持者も多い。 その日は遠いようだ。 「珍妙な格好や動きを強要しようとするからですよ」 「だってのう。生脚や乳間をたっぷりと晒した娘が『お上に代わっておしおきよ!』とか颯爽と決める姿は良いと思わんか?」 「思いません」 お願いですから、その為の特別隊を作ってください。 そんな要望、いや抗議も隊の娘達から上がってきていた。 肌もあらわな派手な原色の装束で、長々と無駄な前口上を上げて。 まったく必要のないような軽業のような動きで、何とも申し上げ難いような必殺技を一人一人用意する。 そんな事を日々夢想している馬鹿爺に誰が付き合いきれるか。 「せっかく神楽の都からわしの望みを叶えてくれそうな職人を引っ張ってこれたのに、難しいわい」 似た者というのは探せばいるものである。発明品と称して実用に足らぬからくりを日々考えている男。 玩具職人としては評判を取っていたようだが、あまりに近所迷惑なので引越しを迫られていたところ。 士座衛門という良い後見人を得て、嬉々としてこの町に移転してきた。 「最近屋敷に居ないと思ったらまったく何を‥‥」 「ついでに開拓者ギルドとやらも見学してきたんじゃが。仁生にもあるがやはり本場は格別じゃのう」 あんな格好をした娘やら、こんな格好をした娘やら。伝統の天儀風から斬新なのから泰国風にジルベリア風によりどりみどり。 助平爺っぷりを発揮してきたようである。さぞかし嫌らしい目付きで警戒されたに違いない。 「そうじゃ!開拓者でひとつ隊を作ればいいのだな。それを思いつかなかったとは士座衛門不覚なり」 常駐じゃなくても、別に支障はない。はっきり言って士座衛門のお楽しみの為に作る特別隊である。 「そして、動かせそうな事件がある度に呼び寄せればいいのじゃな。これは名案」 「‥‥まったくこのお人は」 まずは隊員集め、という事らしい。 「難しいアヤカシ退治でもないのに、随分と報酬がいいですこと‥‥」 『新規隊員募集!』と張り出されたその依頼。 条件は若くて可愛い娘である事。独創的な登場の仕方や口上、決め台詞、必殺技を用意できる事。 衣装はできるだけ個性的で。ある程度統一感を持ったお仕着せにはしたいが、その辺は個性を優先する。 誰がこんな依頼受けるのであろうか‥‥。 「私達はこれで『双菱隊』に戻れるのですね」 「良かったわ。『ぴぃちふれいむのトモヨ参上!』とかもう叫ばなくて済むのですもの」 道場で稽古する腿まで見える短い桃色の改造袴姿の娘達の間で、そんな安堵の声が出ていた。 雇い主の趣味に合わせるのも大変である。 「どんな娘が来るのか楽しみじゃのぉ。ぴっちぴちのぴぃち娘〜」 |
■参加者一覧
斑鳩(ia1002)
19歳・女・巫
嵩山 薫(ia1747)
33歳・女・泰
猫宮・千佳(ib0045)
15歳・女・魔
リン・ヴィタメール(ib0231)
21歳・女・吟
八条 司(ib3124)
14歳・男・泰
ウィリアム・ハルゼー(ib4087)
14歳・男・陰
宮鷺 カヅキ(ib4230)
21歳・女・シ
玉響和(ib5703)
15歳・女・サ |
■リプレイ本文 ●美少女集合! 「少女って歳じゃなくなってきましたけどねぇ。まぁいいか‥‥」 冷たい風に乱されて頬に掛かった銀色の髪を払い、宮鷺 カヅキ(ib4230)が呟いた。 好天。気温はまだ低いものの陽射しは暖かく心地よい。 とはいえ、肌を露出するには時期尚早。依頼主の趣味を考え、忍び装束を改造してきたが。 (ひ、冷えるな‥‥) 臍出しは無謀過ぎたかと心密かに後悔しつつ、組んだ腕を心持ち下げて腹を庇う。 (実はメイクでカバーしてるやなんて言えないわぁ。本当は二十歳なんてとっくに越してるさかいに) 目尻を下げてこちらを見ている士座衛門ににっこりと会釈して、内心冷や汗を垂らすリン・ヴィタメール(ib0231)。 この感じだと門前払いという事は無さそうと、同じ依頼に集まった面々をちら見するが。 (それにしてもみなはん大胆どすなぁ。私も露出した服を選んだ方が良かったんやろか) 恥ずかしげにもじもじしてたり、拳にぐっと力入れたり落ち着かない黒い獣耳の‥‥男の娘? (そんな助平な視線でお師匠を見ないで下さい。ぼ、僕で代わりになるなら‥‥うぅ、でも気色悪いです) 嵩山 薫(ia1747)へ向けられた士座衛門の視線を遮る位置へとさりげなく立つ八条 司(ib3124)。 水も弾くような滑々の肌。まだ発達した青年には遠くすらりとした筋肉。 肩から指先にかけて、足首から舐め上げるように改造旗袍のひらひらした裾から垣間見える腿まで昇る粘っこい視線。 「ええのう、ツカサちゃん。その初々しく恥ずかしがる姿がまた何とも可愛らしいわい」 「は‥‥はははは‥‥」 「私の見立てに間違いは無かったわね」 薫は身体の線にぴったりとした水着を基調とした衣装。といっても裾や袖も加えられ、別の服と化している。 両側に入った深いスリットが悩ましく、しかしリボンやフリルが一杯あしらわれて泰風なんだか無国籍なのか。 司の思惑など気にせず、風に戯れてはくるりと回り士座衛門にしっかりとアピールを。 三十路だろうが子持ちだろうが、このような場面で男の子より劣るというのはさすがに戴けない。 と思ったのは最初だけ、若い格好をしてみたら気分が上がって存分に乗り気に溢れていた。 (ふふ、あの人の趣味がこんなとこで役に立つだなんてね) 亭主の趣味、らしい。 正義の味方を募集してると聞いて、無邪気にはしゃいでる猫宮・千佳(ib0045)。 「にゅふふ、こういうものならあたしは頑張っちゃうのにゃ〜♪」 それ演劇衣装ですかと聞きたくなるような子供向け草双子に描いたようなジルベリア魔法少女っぷり。 士座衛門の奇矯に慣れて、多少の事には動じない加代も目を見張ってギルドから送られた書類の束を落としかけた。 (身上はきちんと取ってるのですね。どうしょうもない助平爺でも筋は確かと) そこにはほっとする玉響和(ib5703)。こちらは装飾がたっぷりと施された士座衛門好み仕立ての巫女姿。 いざ着てみたら袴の裾丈が短すぎて、頬を薄く染めながら押さえている。 (そんな目で見ないでください‥‥仕事だからしているんです!) 双菱隊の娘達から寄せられる同情的な瞳。かぶりを振って目的を思い出す。彼女達の為に頑張らなくてはいけない。 「ウィリアム‥‥いまいちな名前じゃのう、アムちゃんでええかの?」 「はい!どうぞお好みの名前でお呼びくださいませ」 豊かな偽物の谷間に寄せられた視線に嬉しそうなウィリアム・ハルゼー(ib4087)。 後ろの加代が書類とウィリアムの胸を何度も見比べているが、士座衛門はもしかしたら男と知らないのかもしれない。 いや名前で判るだろう普通。男の名前だし。 ‥‥と、そんな間に。 すっこーん。 連れてきたもふらのパーシングがさりげなく和の裾を下から覗こうとしてるのに気付き、サンダルを飛ばすウィリアム。 「で、イカルガちゃんと。イカちゃんがいいかルガちゃんがいいか悩むのう」 (‥‥イカちゃんは烏賊みたいで、ちょっとどうなのでしょうか) 割といつも通りの格好で来た斑鳩(ia1002)。何か布に包んだ大きな物を抱えている。 『ぴぃち』とかいうから桃もついでに食べ放題になったりしないかと期待したが、それらしい物は見当たらない。 ほんのり残念。 ●颯爽と登場! 木の生えたお庭のある屋敷がいいとの申し入れで士座衛門が用意したのは。 双菱隊の道場に併設された広い屋外練武場。当然主の趣味で、大変都合の良い感じの木がある。 ぽろろん。 「奏で、歌い――伝う」 木陰からハープを奏でながら、一歩また一歩と歩みよる緑の影。 ぽぽぽぽろ〜ん。 耳を抑えたくなるような重低音。一瞬眉を顰めた士座衛門、直後には平然とした顔でリンを見つめている。 「魔曲の歌い手!ぴぃちぐりーん!」 「天儀に咲き誇る永劫の花!ぴぃちいえろー!」 泰拳士らしい演舞を決め、拳を何だかぐるりと別者に変身しそうな勢いで回し、裏の手刀をかざした状態でぴったりと止める薫。 全身紅系の衣装。何処がいえろーかと聞かれると困るが、細かい事は突っ込んではいけない。 ちょっと流れかけた沈黙。 (こ、この空気は何とかしないと!) 予定より少し早く走り出す司。師匠に見蕩れてる場合じゃなかった。いや、あまりにも可愛くて。 「戦場を駆ける一陣の影、ぴぃちぶらっくっ!」 勢いに巻き起こる風。むしろそれで薫の裾がめくれ上がったりして余計に焦りが募る。 (うわあああ、お師匠ごめんなさい!) 「冷静冷徹冷酷非情な氷のシノビ、ぴぃちしるばーカヅキ参ります」 日陰より、すっと現れる影。黒装束にきらりと銀色の髪が輝いて映える。 「地味じゃの」 (――っ!) あっさり言い捨てられてがくりと膝を付きそうになるカヅキ。これは次の試験で挽回せねば。 「あ、どうぞどうぞお先に」 正義の味方は高い所から飛び降りるのが相場。そう思った人間は複数居た。 屋根の上と木の上から顔を見合わせた斑鳩とウィリアム。お互い譲り合った末にウィリアムが先に。 (四回転三回捻り‥‥!は無理ですね) 着地の態勢を重視して水平二回転。 たゆんたゆん。 「心は純粋乙女♪ぴぃちぱーぷる参上!」 ぱっちりウィンク。士座衛門かなり鼻の下を伸ばしている。 「アムちゃん、いいぞい。ぐっ」 「世にはびこる悪、どんなに隠れても照らしてみせましょう」 まずは自分に視線を惹き付け、片足を前に出して白い脛を晒す斑鳩。 ちらりずむ。最初から見せ過ぎないで期待を煽るのが大事です。 二本指を瞳の横に翳し、腰のラインをきっちり魅せたポーズで決め。 「今日も元気に見敵☆必殺!ぴゅわほわい‥‥きゃあんっ」 勢いよく飛び降りたら、旗袍の裾が風をはらんで下着が丸見えに!? 「おぉぉっ」 士座衛門期待の声。斑鳩の美脚が腿まで露に。 どすん。 危うく見え過ぎは阻止したものの、その為に着地が疎かになった斑鳩。 固められた土の上にお尻を強く打ってかなり涙目。 「ルガちゃん大丈夫かの。わしが痛い場所さすってやろう、どれ」 「平気です。ほら歩けますし!」 尻を撫で回されるのは勘弁願いたい。痛いけど、そこは我慢して笑顔。 さ、試験続行。 屋根からはもう一人。 びしりと身長よりも長い黒い杖を向けて、マントを風にたなびかせる少女。陽射しが眩しくその表情までは見えない。 「そこまでにゃ!」 「な、何者じゃ!」 嬉しそうに、しかし渋い声で応えた士座衛門が大仰に見上げる。 瓦を華麗に蹴り、空中で猫のようにくるりと着地の姿勢を取り、名乗りを上げる千佳。 「情熱の熱き赤――ぴぃち♪れっど参上にゃ♪」 屋根の高さからであるから足への衝撃は結構きつい。本当の戦闘ならこの隙に詰め寄られかねないが。 二本の杖を棍の演舞のごとく振り回し、決めポーズ。 和の登場は最後となった。折よく流れる雲に太陽が隠れ。 「ひとーつ、必殺なごみ斬り」 じり。 「ふたーつ、不可抗力でも許しません」 じりり。 「みっつ、淫らなその視線。叩き斬って差し上げます!ぴぃちぶるー玉響和、此処に推参!」 カッと澄んだ瞳を見開いて、薙刀を振り止め身構える。 ●溌剌と活劇! 双菱隊に黒装束で付き合わせてまでの殺陣。 戦いの支度をして余裕上機嫌の士座衛門に比べ、周囲の娘達は気迫ゼロ。まぁお付き合いである。 先程検めたばかりなので名乗りは省略、立ち回りがいきなり始まった。 「ええい、もっと悪役の雑魚らしく奇声を上げんか。相手は素晴らしい動きをしとるぞい」 「無茶言いはりよるわぁ」 ひょいとなまくら剣を避けながら、仲間の動きに合わせて変化に富んだメロディを奏でるリン。 密集地帯に飛び込み、身構えさせる間も無く薫が凄まじい衝撃波を浴びせかける。 踏み込むだけの仕草に見えるが、これだけでばたばた黒装束娘が倒れてゆく。 「お師匠〜、やり過ぎです‥‥けふ」 「あら、加減したつもりだったけど?」 おっとり型のとろそうな娘を庇って盾になったのは司。 普通に男の子の服装でやったらカッコイイ場面だったと言える。 「ブルームトルネード!」 何か凄そうな技名を言いつつ、その実は箒で足払いするだけ。 無駄に箒を回転させる間、誰も来ないのでしっかりとポーズ決めまで完了するウィリアム。 いや密かに足止めをしていた。女の子大好きな相棒のパーシングをその前に投げていたのだ。 (やはり挽回すべく、技名は大げさに叫んだ方がいいな) 地味と言われたままで終わってたまるか。 「しるばーふれいむっ!」 黒装束娘の型に忠実な、カヅキなど闘い慣れた開拓者から見れば物足りぬ動き。 計算高く踏み込む距離を合わせ、彼女達が火傷しないよう火遁の間合いに工夫を凝らす。 焦げる肩袖にひるむ娘の手首をしかと掴み、刀を捻り落としながらくるりと一体となった投げ技。 自分の身体に乗せて衝撃はできるだけ小さく。 その勢いのままに踏んだ地を再び蹴り、娘達を銀色の旋風に巻き込みながら士座衛門へと迫る。 柔軟に上体を反って臍出しルックを強調して魅せるのも忘れず――。 (って、士座衛門さん。こっち見てないし!) くるん。ばしん。 「うに、あたしのマジカ‥‥もといぴぃち☆ろっどを受けるにゃ♪」 二本の長さが異なる杖を使い分けながら、踊るように位置を移してゆく千佳。 人垣の輪へ最後の攻撃に高々と決めたハイキックの瞬間が。 努力家カヅキのセクシーアピールと被っていた。他意は無い。 丸見えのミニスカートの中身。ばっちり見えた桃色の褌。 「むむ、さすがぴぃち隊を名乗ろうとするだけの事はある。チカちゃん意外と策士だのう」 と、さっそく自分の元へと一番乗りで抜けてきた和と刃を合わせ、片手で押し返す士座衛門。 「男言葉で勇ましい事じゃが、ほれ胸元に隙があるぞい」 スパッと左手の刀の切っ先で布だけを器用に切り裂く。 「ひゃああっ!?‥‥お、おのれ助平爺め!」 素に戻って悲鳴をつい上げてしまったが、武器を構えなおし上目遣いで睨む。 「俺の刃、遠慮なく打ち込ませて貰う。なごみ斬り!」 全身をバネにして獲物を狙う狼のごとく飛びかかる。 一対一ではなかなかに踏み込ませて貰えないが、荒々しく刃を連続で浴びせ。 「にゅふふ、突撃はさせないにゃ!」 千佳が立てた石の壁。 その向こうにはリンが孤立したように見せかけて。 突如転じたハープの音色。ゆったりしたテンポなのに何故か胸を掻き乱されるような。 翻弄するような動きに釣られた黒装束の姿がまるで道化の踊りのように回り、眠りに崩れてゆく。 「ほな、カヅキさんいきますで♪」 精霊の祝福を浴びたカヅキが、指を絡め印を結ぶ。 呼吸を合わせ、二人の声が重なる。 「アストラルサンダー!」 無より生じた白銀の刃が士座衛門の身体へ突き刺さる。 「‥‥痺れましたか?」 腰に手を当て胸を張り、今度こそ士座衛門の視線を捉えたカヅキ。ニヤリと口の端を吊り上げる。 「なかなか強気な愛じゃのカヅキちゃん。そこがいい、わしのはぁとをもっと痺れさせてくれ」 効いてはいるのだろうが、丈夫な爺。ウィンクと一緒に刃から地断撃が迸る。 ひらりとかわすカヅキ。‥‥う、そろそろ本当に腹が冷えてきた。 「もっと痺れさせるにゃー。必殺ぴぃちさんだーにゃ!」 「おおぅ、チカちゃん」 嬉しそうな爺に遠目で呆れつつ。 「じゃ、司さん行くわよ。足りない分は気力で補ってね」 全力で駆け出す薫。遅れじと気合で追いかける司。 何とか横に並んだ状態で、同時に地を蹴り空中で叫ぶ。 「シューティングスターキィィック!」 「ほぅ、お揃いのぱんつ」 滑り込むような姿勢で、しっかり覗きながら二人の下を潜り避け。 直後、迸った青い閃光と共に吹っ飛ぶ。着地と同時に背後から放った薫の蹴りだ。 「士座衛門さんの名前を出したら、この町って何でも買えるんですね」 さすがによろめきつつ立ち上がった前で、特大の鰹節を抱えて微笑む斑鳩。 一番大きいのくださいと言ったら本当に手に入った。ちゃっかり士座衛門ツケで。 大所帯だから、無駄にはならないはず。食べ物は大事にしないと。 「一撃☆粉砕!しゃああああああいにんぐ!」 美しく透き通るような声が木霊を伴って青空に響き渡る。 『牌紋』の吹き上げる幻の炎が斑鳩の全身を包み込み、それ自体が精霊の力と合わさって生き物のごとく揺らめき。 ぐいと両腕を振りかぶると同時に左右へぷるんと揺らす胸。はぁと型に炎がそれを囲む。 あまりの魅惑的光景に士座衛門の双刀が一瞬下がる。 「うぃざあああああっど!」 渾身の力で振り抜く鰹節が、その緩んだ頬をぶっ叩く。 どの辺が閃光で魔術なのか。それは言った本人も判らない永遠の謎である。 「ぬぉぉぉっ」 しかし士座衛門、ただじゃ倒れない。 ちょうどいい位置に居たウィリアムの胸へ。 ぽふっ。 「はふぅ‥‥!?トドメです。ぴぃちぱーぷる奥義!ぎにゅーいんぱくと!」 そのまま頭を両腕でがっしり抱え込み、偽胸をぎゅうぎゅうに押し付けて、更に押し倒す。 「これで死ねるなら本望じゃ‥‥」 がくり。 このまま窒息して息の根を止めて戴いても、と一瞬思いつ加代が試験の終了を告げる。 全員合格! 「年寄りは労るものです。た、例えそれがどうしようもない助平爺であっても」 士座衛門に手当てをしてあげる和。時折、胸や腿へ伸びる手を払いつつ。 一方でカヅキが双菱隊の治療をしている。 そこへ漂ってくる鰹出汁のいい匂い。薫がいつの間にか女中達を手伝っている。 せっかくだからご飯も食べてから神楽に帰ろうか☆ |