しっぱい なう
マスター名:白河ゆう 
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/03/09 17:33



■オープニング本文

ここは神楽の都。
開拓者目当てで開業している、都に数ある鍛冶屋さん。
今日も商売は繁盛しているようです。
‥‥が。

「うああああああ、俺の刀が。刀があっ!」

何やら盛大な悲鳴が店内より聞こえてきたような気がしますが。
しばらく沈黙の時。
出てきた煌びやかな装備の男の手には元刀だった物。
‥‥ご愁傷様です。

一体今まで幾人の猛者が、挑戦しては憂いの結果を見たのでしょう。
憎き鍛冶屋さん。許すまじ鍛冶屋さん。
そんな呪詛は何処吹く風。鍛冶屋さんはいつも通りの仕事を続けます。
彼らは彼らなりに‥‥頑張っているのです。
失敗もあれば、それは夢のような名器を作る事だってあるのです。
広い世界にも滅多にお目にかかれないような憧れの業物の逸品を目指して。
やはり今日も、挑戦者達は果敢に挑んでゆくのでした。

それは、さておき。

依頼を受けて、朝一番でギルドへの報告も終えた開拓者達のお話。
懐はいい感じに銭で膨らんで、気持ちも余裕があるようです。
とある一軒の立派な鍛冶屋さんの前を通りかかると‥‥。
出てくる人、出てくる人、いい笑顔をしています。
一段磨きの掛かった業物を携えて。

「ねぇ、ちょっと寄っていこうか?」

自分もその波に乗れそうな気がする。この鍛冶屋さん、腕がいいんじゃない?
そんな出来心でした。

しかし待ち受けていたのは――?

「あ、ちょっと予約も一杯入ってまして‥‥お急ぎでしたら手伝ってくれると助かります。その分お代は割引しますから」

なるほど繁盛しすぎて手が足りないのですか。
やめておきましょうか?

「でも、職人技を見学させて貰える機会もなかなか無いですよね」

弟子も含めて結構な人数を抱えた、なかなかの大所帯。設備も良いようで。
鍛冶屋といいつつ、木工細工ができる者、縫製に長けた者、飾り物を得意とする者、食品加工を得意とする者。
いずれは自分で別の店を構えようという様々な職人が寄り集まって研鑽に励む場のようです。
適した職人が居なければ、お願いして臨時雇いで来て貰ったりもするのだとか。
さすがに呪術品とかを扱える職人なんかは常駐していないようですね。
ところでここ、本当に鍛冶屋なんですか?

「親方が何でも引き受けちゃうものですから。気が付けばこんな事になってるんですよ」

大きな建物の中、それぞれの加工に応じた作業場が設けられているようですが。
では、興味のある場所にそれぞれ行ってみましょうか。加工して貰いたいものを携えて。

って、ああ!?

ええーっ!?


■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086
21歳・女・魔
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
鈴代 雅輝(ia0300
20歳・男・陰
ロウザ(ia1065
16歳・女・サ
村雨 紫狼(ia9073
27歳・男・サ
ジルベール・ダリエ(ia9952
27歳・男・志
アーシャ・エルダー(ib0054
20歳・女・騎
リリア・ローラント(ib3628
17歳・女・魔
ウルシュテッド(ib5445
27歳・男・シ
ヴィオラッテ・桜葉(ib6041
15歳・女・巫


■リプレイ本文

 とんとんかんかんとんてんかん。

「‥‥面白い、音」
 何か規則があるような音にふわりと誘われて暖簾をくぐる女性の後ろ姿が見えました。
 ゆったりとした布にきらきらの装飾。姿を見たところ異国の方のようですね。
 これも宝石ような金色の瞳をあちらこちらへ向ける、ぽやっとした感じのお嬢さん。
 リリア・ローラント(ib3628)さんと仰るのですか。
 ほら、あんまりぼうっとしてると誰かとぶつかりますよ。
「とんかん、とんかん、とて、ぐわっしゃん‥‥ほぇ?」

 どすん。

「ってて。誰だい、ちゃんと前見て歩かないと武器と一緒に鉄くずにされちまうぜ」
 そう言って振り返った褌一丁で働く職人さん、使い込まれた筋肉で引き締まったいい身体してますね。
 と思いきや開拓者の村雨 紫狼(ia9073)さんでした。
 何でまたそんな格好で。
 ああ、自慢の『愛、正義、真実』とでかでか描かれたシャツが大変な事になるのが心配でしたか。
 『変、本当、切実』とかで染め直されたりした日には、この鍛冶屋を解体して更地にして墓地にしちゃった方がいいですもの。
 ええ、今日で職人の皆さんが神楽から消えたとしても誰も文句は言いません。開拓者ギルドの職員もきっと協力します。
 ともあれ格好はともかく爽やかな色男さんなのです。
 だけど振り返った相手が可愛い女の子と気付いた瞬間、それは崩れ去りました。あらまぁ、一瞬でしたね。
 ふぅんと荒くなる鼻息。星の代わりにハートが煌いた瞳。
(天然系っぽい、いや〜お兄さんが守ってあげなきゃタイプの可愛い子ちゃん!)
 豹変っぷりに困った顔で凍りつくリリアさんに優しく紳士的な手を差し伸べて、エスコートを申し出ようとした紫狼さんですが。

 すかっ。

「おう!何だお前さんもいたのか、お転婆娘!」
 ばしんと痛そうな音を立てて叩かれた背中。おっとりと振り向いたその向こうで紫狼さんがずっこけています。
「がっはっは、わりぃ、わりぃ」
 こちらもまた豪快に過ぎる笑いで、端麗で繊細な顔立ちは何処に旅立っているんですかというお人。
 陰陽師の鈴代 雅輝(ia0300)さんです。
「ここで会うたぁ、奇遇だな。リリアも格安で加工体験させて貰おうってくちか?なら頼んじまおうかな」
「体験‥‥させて貰えるの?でもそれ‥‥大事なものですよね?」
「大事なものだから気になる点ってのがあってだな」
 こう、羅宇をもうちょいと長くしてな、ヤニの溜まり辛ぇ感じにしてだな、と説明しながら歩いていってしまう二人。
 紫狼さんの事、一瞬でお忘れではないですか?

 しかしそんな事でめげるようなヤワな女の子好きではありません。彼は筋金入りです。
「わはは!ごめんだぞ!」
 好奇心をあますことなく発揮して、さっそく失敗作を量産中の豪快な女性に目を奪われていました。
「つぎ これか!まかせる ろうざ ちからもち!」
 ああ、ああ。そんな力一杯に槌を振り下ろしたら跡形もなく粉砕されてしまいます。

 どっぐぉーん。ばっきーん。

 作業台まで真っ二つですよ、ロウザ(ia1065)さん。
「ぬふぅ〜、飛び散る汗、荒い息遣い、揺れるきょぬ〜っ!」
 いいね、いいね。ハンマーと一緒に腰を振る姿。これぞ来た甲斐があるってものと興奮する紫狼さん。
 普通ならひかれるところですが、ロウザさんは一向に気にした様子はありません。
 それよりも、様々な道具が豊富にある作業場と動き回る職人達への興味で忙しい様子です。
「なだそれ なだそれ みたい そっちか ろうざいく」
 自分の作業場を離れてくれてほっと安堵の息を吐く職人を残してドタドタと行ってしまいます。

「ちょっと皆さん、一回集まってくださ〜い!」

 作業場に入れた途端に始まった混沌たる様子に、冷や汗を拭う案内役の弟子。
 その掛け声に好き勝手にうろついていた開拓者が寄り集まります。
(もう少しで奥の秘密の作業場に潜入して、皇帝陛下に献上する情報を入手するところでしたのに)
 小さく舌打ちをしている場合じゃないですよアーシャ・エルダー(ib0054)さん。
(天儀の鍛冶屋の謎‥‥ジルベリアの平和の為に手に入れてみせますとも)
 それはむしろ名品を輩出する武天の鍛冶屋さんに潜入した方がいいのではとも言えますが。
 ぐぐいっと気合が入っているところ、水を差す事もないでしょう。


「んじゃ第一回!チキチキ!クラフトマンズ一日体験会のはっじまりな〜う!」
 拳を振り上げる紫狼さん。やる気満々ですが脚が動いてませんよ。貴方は移動ですよ。
 朝比奈 空(ia0086)さんと水鏡 絵梨乃(ia0191)の会話に耳の神経を集中しているようですが。
「さすがボクの勘。うっちゃんの紐ショーツの籤を引くなんて冴えてるね!‥‥ねぇ、これ使用済み?」
「えっちゃん、声大きすぎます‥‥あの、未使用です。本当ですよ?」
「そんな事言っちゃって〜、ふふん。改造するの勿体ないな〜持って帰ろうかな」
「加工されないのなら返してくださいな」
「え〜っ」
 と言いつつ、ヴィオラッテ・桜葉(ib6041)さんから先ほど受け取った巫女袴をさりげなく荷物に混ぜようとする絵梨乃さん。
「あのう‥‥水鏡様?」
 じっと上目遣いで見るヴィオラッテさん。それ以上は言いませんが視線が突き刺さっておりますよ。

「村雨さん、いつまで見ているのです。早く作業に参りますよ」
 絵梨乃さんがどばーんと広げた女物の下着の数々のお陰で、男子禁制となり果てたこの場。
 遮るように立ちはだかったアーシャさんが促します。少し頬が赤いですよ。
(す、少しは独身女性の恥じらいというものをですね‥‥)
「しろう べる もっと おきい おと!」
「ロウザちゃ〜ん。よしお兄さんに任せときな!望み通りに頑張っちゃうぜ〜!」
 ああ、聞いてませんこの人。
 しゃかしゃかぶんぶんとブレスレットベルを振るロウザさん‥‥の揺れる胸に鼻の下を伸ばしています。

「あら‥‥お願いしようと思ってましたのに。職人さんが一人しか居なくなってしまいました」
 ヴィオラッテさん、それは男性職人が遠慮して出て行ってしまったからです。
「男の職人が多かったんだな‥‥ま、まさか預けた下着を懐に入れて、それを誤魔化す為にくず鉄を!?」
 そんな人聞きの悪い事を言わないでください絵梨乃さん。
「あははっ、そんなわけないよなボクじゃあるまいし」
「ですね、えっちゃんじゃあるまいし」
 すいと手を伸ばして、絵梨乃さんの胸元にちらりと覗く赤い紐ショーツをするすると引っ張りだす空さん。
「ひゃん、くすぐったい。うっちゃんのえっち〜」
「‥‥っと私は木工も試したいので行って参りますね。ではよろしく頼みます」

「では、さっそく」
 泰拳士に動きを阻害しないけど強い防具をと布胸当に、鉄板を縫いつける作業を始めたヴィオラッテさん。
 職人に預けた振袖の結果を楽しみにしながら、あれこれと試行錯誤をしています。
「ここをこうしてっと。できました。試着してみて貰えますか」
「どれどれ?‥‥ったたた、痛いよ。腕を振り回したら胸に鉄板が刺さるよ、これ!」
「‥‥やっぱり、そう簡単には行かないですよね」
 やり直しますっと、あれ、えっと、そのぉ。
「生地がボロボロになってしまいました‥‥ごめんなさい」
「ん、気にするな」
 とっても爽やかな笑顔で許してくれる絵梨乃さんでした。
「ボクもできたよ!じゃ〜ん、動きやすい巫女袴。いい感じにスリットが入ってお色気たっぷり!」
 さっそくでは試着をと広げたヴィオラッテさんの手がはたと止まります。
「あの‥‥これは‥‥」
 ごめんなさい私には無理です。真正面にスリット入れたらダメですよ絵梨乃さん。
「あれ、位置間違えたかな。あはは‥‥」
「振袖はまだ時間が掛かりますか?ではまた後ほど」


「絶対鍛冶屋より俺がやった方が上手く行くと思ってたんや。それを試すエエ機会やな」
 愛する妻となった女性と駆け落ちしていなかったら、職人の跡取りだったというジルベール(ia9952)さん。
 手先を使う作業はしっかりと基礎から仕込まれているので自信があるのです。
 天儀に渡ってきてからも、木削の匠師とまで呼ばれた腕前です。
「ジルならそこらの知らん奴に任せるより確かだものな」
 歪んだ山姥包丁を持ち込んで、焼き入れから直しているウルシュテッド(ib5445)さん。
 いったい何を叩き斬ったんでしょうか。食材ではなさそうですよね。
「今なぁ、ちょっと手を離せないんだ。そこの鞄に入ってるからよろしく」
 鐙をと頼んだつもりでした。見れば判る事だろうと思っていました。
「別にエエけど‥‥これって強化したら堅くなったり重くなったりするんやろか」
 鞄に手を突っ込んで出てきたのは大量のチョコレートでした。
 怪訝な顔でウルシュテッドさんの方を見ますが、彼は忙しくて振り返る余裕はありません。
「鍛冶用の竈でやってええんかな」
「‥‥?」
 鐙を竈で、とは一体どんな匠業。疑問に思いながらも友を信頼して作業を続けます。
「こんなものかな、たかが包丁といえども鍛冶となると結構体力使うな」
 その間もジルベールさんの額や掌に汗が増してゆきますが。
 熱気による汗にしては変ですね。
「テッドさん、これって…大事なもん?」
「ん、失敗したのか?って、そ、それは〜っ!」
 動揺のあまり手を離してしまった包丁が竈の炎の中へ没してしまいました。
「‥‥ジル、その手にあるのは何だ」
 鐙ではなく何故チョコだと思ったか説明してほしいとジト目で迫るウルシュテッドさん。
「鐙?そ、そやかて鞄の中って言うからてっきりこれやと」
「後でじっくりと聞こう。ところで」
 招き猫を強化して欲しいと言ってたよなと、とても念を押して聞かれました。
 壊される?叩き壊される?とびくびくしながらジルベールさんは差し出します。
「大丈夫、ここで仕返しだなんてけちな真似はしないよ」
 にっこりとした微笑に騙され、いえ安堵するのでした。

 陶器だから形を変えようというのは無謀かなと思案しています。
 景気よく金色に塗り塗り。顔も描き変えて、もっと愛嬌を出しましょうと。
「‥‥」
「‥‥」
 仕上がった招き猫(改?)を見て二人は無言で立ち尽くすのでした。
 どう見ても良からぬ事を企んでそうなニヤリ顔。招く手が何か悪への誘いのようです。
「まだらになったな、絵の具が合わなかったかな」
 これは無かった事にして、帰ったら綺麗に洗い落として欲しいと言われて、素直に頷くのでした。

「お前さんの感覚でどんな物に仕上がるのか楽しみだな」
 代わりに受け取った蝶の首飾りをしげしげと眺めていた雅輝さん。
 何か不穏な気配を感じて振り返った時には、既にリリアさんの指先には炎の玉ができていました。
「ちょっとま――」
 爆炎。職人の避難も慣れた様子ですが、普段いったい何をやっているんでしょうか。
「あら火加減が難しいですね、ならサンダーっ!」

 しばらくおまちください。


 全てが残念な結果に終わったのは言うまでもないのです。
 ともあれ誰も怪我したりしなくて良かったと胸を撫で下ろした職人達。
 ご飯でも食べてまぁ落ち着きましょうと、そんな夕方。
 これぐらいは平和に‥‥なるはずでしたが。ヴィオラッテさん?調理器具で何を。
「美味しいご飯を作るには道具から、その‥‥ですね」
 って、リリアさんも何してるんですか。
「速くたくさんお出しするには、火力第一」
「‥‥備えは大事ですね」
 絵梨乃さんの杯に酒を注ぎながら空さんが苦笑いしています。
「ほらそこぐだぐだ愚痴ってないで楽しく飲もうよ〜」
 いや飲み過ぎてジルベールさんとウルシュテッドさんが仲良く折り重なって潰れてますよ。
 卓の上、なんだか料理より倒れた酒瓶の方が多いような気がしますが。
「これ たべるできる!」
「その無事な卵焼きは、私のカッツバルゲルの詫びとしていただきます!」
 食欲旺盛な人達もいるようですね。賑やかでなにより。

「うふふ、えっちゃんと食べさせあいっこもできましたし」
 嬉しそうに微笑む空さんはこの時はまだ、自分の紐ショーツがちゃっかり持ち帰られた事には気付いていないのでした。
「見た目は何だが。リリアが改造してくれた煙管、家でさっそく試してみっか」
 失敗した事にすら気付いていない雅輝さん。お気を付けて、それ火薬が詰まっています。
 アーシャさんにぐっと親指を立てて渡されたぬいぐるみ。紫狼さん、帰りに棄てちゃだめですよ。
「失敗は罪ではありません。失敗からなにも学ばないのが罪なのです」
 穏やかな笑みを浮かべて鍛冶屋の暖簾を潜り出てきたヴィオラッテさん。
 彼女の笑顔の後ろにさきほど般若が見えていた事は、翌日から休みを取った職人だけが知っているでしょう。
 振袖、そんな物は存在しなかったのです。きっと夢だったのです。

 どさっ。

「はこぶ ここ ろうざ やった」
 軽々と担いだ大男二人と荷物を頼まれた通りに開拓者ギルド近くの路地に置いていったロウザさん。
 ほどよい大きさに砕け散った甘刀をお土産に貰ってご機嫌のようです。
 ウルシュテッドさん、ジルベールさん、風邪ひかないうちに起きてくださいね〜。
「むにゃむにゃ‥‥鍋になんで梅が入ってたんや?何とかキャンディに固めたから許してくれテッドさん‥‥復讐は勘弁、なう」