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■オープニング本文 「お嬢様が本宅より運び込む品の明細‥‥おやおや結構持ってこられるのですね」 地元にしばしの別れを告げる公演も一段落着いたので、移住に向けて本格的に始まった準備。 既に神楽の都に建てられた長期留学用の邸宅に落ち着いていた執事のシーバスの元にザウヘリヤからの手紙が届く。 音楽堂のこけら落としの成功を労う言葉、彼の地の音楽へ早く触れたいとの言葉。 綴られた手紙の最後には、随分と長いリストが添えられていた。 「こちらで幾らでもあつらえる事もできますでしょうに。愛着あるドレスが多いのですなぁ」 ほとんどは衣装の類である。 ただひとつだけ。運ぶのに難がある貴重な品がぽつりと書かれている。 本宅の音楽室に数ある亡き父が遺した楽器の中より、天儀ではまずなかなか見られないであろう鍵盤楽器。 美しい彫刻の施された、大きな宝石箱のような楽器。ヴァージナルを運びたいというのである。 これが傍にあれば、あの歌えなくなった苦難の時を思い出して、何があっても頑張り続けられそうな気がするから。 それに珍しいというのなら、できるだけ多くの人にその姿や音色に触れて貰いたい。 彼女が居ない間、ずっと邸宅に眠らせておくのは楽器にとっても可哀想だ。 そんな事も丸みを帯びた彼女直筆によるジルベリア文字で綴られていた。 複雑かつ繊細な機構で製作が難しいだけでなく、父の遺した無二の品である。 移送中に何かあっては困る。飛空船での長旅、それなりの配慮が必要になる事であろう。 手配はあちらに居るファルツェン家の知己達が手伝ってくれているらしいが、航行速度より安定を重視した結果それなりの日数を輸送に要するらしい。そうなると船一隻丸ごとを貸切というのは結構な高額を提示された。船主にしたら期間中、他の収益を上げる事ができないのだから仕方あるまい。 音楽堂の建築に贅を尽くしたので、少しその辺は節約しないと今後の生計にも響きかねない。 どうせ費やすなら音楽に使う為に取っておきたい。それ以外はできるだけ抑えましょうと。 『そこでお願いがあるのですけれど‥‥』 船主との交渉で、他客との乗合にすればいいとの提案を受けた。 ただし、客を集めるには通常より鈍行になるのだから魅力的なオプションが欲しい。 ザウヘリヤ・ファルツェンによる空中音楽会を加えたジルベリアから天儀へのクルーズ。それなら商売として大変素晴らしい。 『でもそれなら他の演者も加えて本格的な物にしたいですわね。私一人ではせっかくヴァージナルがあるのに活かす事もできませんし』 弾き語りできる程の演奏技量は持ち合わせていない。歌姫の評判は高いが楽器に関しては平凡なのだ。 また楽器を演奏できる開拓者に頼んで貰えないだろうか。 ギルドに仕事として頼めば、精霊門でこちらに来て一緒に乗って貰えるから。 結果的に掛かる費用が同じになるとしても、それなら歓迎。素晴らしい音楽の場を用意できるならそれでいい。 『そうそう。外が見えない船で残念ですけれど、何か空をイメージできる音楽がやりたいわ』 「そんな次第でございまして、協力してくれそうな人は居ませんかね」 神楽の都に建つ開拓者ギルドを訪れて事の経緯を職員に相談するシーバス。 聞き取り書き取りした職員が依頼書を作ってくれる。 「空中音楽会クルーズですか〜。いいなぁ私も楽器ができたら参加したいですのね」 「他の費用は抑えましたから、船室も狭く食事も質素ですが。はい」 20人程の旅客。粋も皆無な貨物室を使った演奏会になるが、そこは何とか工夫を凝らし。 素敵な時間を提供できるようお願いしたい。 |
■参加者一覧
からす(ia6525)
13歳・女・弓
アグネス・ユーリ(ib0058)
23歳・女・吟
ヨーコ・オールビー(ib0095)
19歳・女・吟
琉宇(ib1119)
12歳・男・吟
羽喰 琥珀(ib3263)
12歳・男・志
フォルカ(ib4243)
26歳・男・吟 |
■リプレイ本文 「ひゃー、こっちの空気はやっぱり冷たいなぁっ!」 驚いてるのか喜んでるのか判らないような声を上げて羽喰 琥珀(ib3263)は好奇心に目を輝かせて。 約束が無ければこのまま、この港町を見物して回ってしまいそうな元気を溢れさせ。 昨日も必要な物を買い集めるのに店を探しただけで時間を食ってしまったので、このまま今回は天儀に帰る事になってしまいそうだ。 「んー、でも今日は結構暖かいんじゃないかな?」 元々こちら出身のアグネス・ユーリ(ib0058)が気持ちいい天気だねっと両腕を天に伸ばす。 「待ち合わせの時間より早かったかな、まだ来てないみたいね。それにしても評判の歌姫に会うのが楽しみで待ち遠しいわ〜」 「ほんま楽しみやね。うちは一回会ってるんやけど、肝心の歌声聴くんは今回やっとなんや」 商店が親切に貸し出してくれた橇を止めて、ヨーコ・オールビー(ib0095)が笑う。 そう大きくもない橇の上には満載の荷物。 フォルカ(ib4243)が演出の為に用意したいと言っていたシャッター付きのカンテラだ。 急な探し物だったので、姿形はバラバラだが何軒も回ってどうにか数は揃えた。 数が数なのでそこそこの出費にはなったが提案した二人でその分は出し合って。 肝心なのは光がちゃんと任意のタイミングで遮れる事なのだから、見た目はまぁ二の次である。 「植木鉢って手も考えたがこっちの方が手軽だからな、あって良かったよ」 「来た来た。ザウヘリヤさ〜ん、ここだよっ!」 小さな身体をうんと伸ばして手を振る琉宇(ib1119)。空港の待ち合わせに使われる広場は乗合馬車で到着したばかりの人達で急に賑わい始めた。ザウヘリヤも宿からはこれに乗ってきたようだ。 「あれ、荷物は?」 「別の方に頼んで運んで貰ってますわ。皆様、来てくださってありがとうございます」 透き通るような綺麗な声。目立つがっしりとした長身に、仕立てのいい毛皮のコートと帽子を身に付けて。 華やかな顔立ちもあり人目を引く。荷物を抱えた旅芸人一座といった風情の開拓者達と合流する姿は注目を浴びたが、知り合いらしい和やかな談笑が始まると皆興味を失って、自分達の目的へと戻った。 「全快おめでとう、そしてツアーもお疲れ様。やっと本当の競演ができるね」 今回はオリジナル曲も用意してきたから楽しみにしててね。 「あ、譜面は先に渡しておくね。僕達、荷物の積み込みもしなきゃならないから」 「そやな、ザウヘリヤはんのエスコートは‥‥」 「俺とか初対面の野郎が張り付いててもな。ヨーコさんが付いてるのがいいんじゃないかな。内装は言ってた通りで大丈夫なんだろ?やっておくから」 そう申し出たフォルカに自分の荷物も任せ、ザウヘリヤと共に何もない船室へ向かうヨーコ。 彼女の話術なら退屈もせず時間もあっという間に過ごせるだろう。 「さて、積み込み、積み込みっと。よろしくな!」 飛行前の点検整備や修繕が完了して資材の搬入も今から。船員に置き場所を指示しながら開拓者も一緒に運ぶ。 「よく使う物はこの辺なら出しやすいかな」 予備の部品や修理用の資材は周囲に均等になるように並べ、白いシーツを被せて見栄えを整えておく。 「この板はそのまま出して使ってもいいんじゃない。かえって雰囲気出ると思うな」 旅芸人一座に居た頃の知識を活かして、アグネスが貨物室らしさを残したあえて即席っぽい内装になるよう助言。 「ふむ、その方が味になる。貨物室だからこそというのがいいね」 自分の大きな楽器を運び込んで、からす(ia6525)が室内を見回す。 しっかりとヴァージナルが正面中央に据え付けられるのを監督し、万が一揺れても大丈夫か確認して。 当日エレメンタルピアノを置くのに適した台になる木箱を物色。自分が弾くのに合った丈の物を。 「この辺に置いて貰えるかな、それ」 「楽器はとりあえずみんなここに置いて。本番前に使うのもあるし並べるのは後でね」 主に装飾用に楽器を何台も持参してきた琉宇。大荷物だったが、もってきた甲斐はある。 「ヴァージナルもだけど、珍しい楽器が一杯ね。お客さん喜んでくれそう♪」 自身もヴァイオリンとリュートを持ち込んだアグネス。 ヴァージナルの滑らかな彫刻を施された箱の表面を嬉しげに指でなぞる。どんな音が出るんだろ、これ。 ● 乗客も乗せ夕方には無事に出航を済ませた飛空船。 謳い文句の通り、離陸の時以外は全く飛んでいる事を感じさせぬ安定感。 初日の夜は皆疲れてるだろうからと静かに過ごし、翌朝一番からサービスが始まる。 廊下に小さく流れる程度に抑えた穏やかなフルートの音色が次第に近づいてくる。 何だろうと音色に誘われるように出てきた人々を長身の精悍な獣人が恭しく迎える。 「紳士淑女の皆さんおはようございます。これより私フォルカが皆さんを朝のパーティーにご案内致します」 そして再びフルートを唇に当て、今度はリズミカルな曲調へ。 導かれるまま貨物室を訪れた乗客達。 食堂もない船なので、簡素な朝食を載せたワゴンが各部屋を回って給仕するのが本来だが。 貨物室を本番までは食堂にして、皆で毎食、音楽に親しんで貰おうという考えだ。 台の上にパンとサラダを並べ。自由に取って貰う形式。後は日替わりのスープがあるくらい。 木箱の上にクッションを置いただけの椅子。やはり木箱を重ねたテーブルにはクロスを敷いて。 「こーいうのも面白いだろ?あ、面白いでしょう、お客様」 スープを盛りながら、ついいつもの地が出てしまいチロっと舌を出して笑ってごまかす琥珀。 獣人の給仕というのが珍しいのかマジマジと見つめる客も居る。 「食事はたいして期待してなかったが、なかなか面白いじゃないか」 裕福なジルベリア紳士といった風情の男が穏やかに微笑み、連れの婦人に同意を求める。 「そうですわね。こんな旅ができると思いませんでしたわ。ありがとう可愛らしい獣人さん」 配膳が終われば今度は自分もリュートを持って、テーブルを回って即興曲を。 本番のステージ側は、シーツを材にドレープをたっぷりとった純白の幕で区切られ今はまだ見えない。 別の幕を用意しても良かったのだが、余計なお金も掛けたくなかったし周囲もシーツと木地のコントラストで統一してるので、むしろ雰囲気がぴったりと合っている。 食後にはからす謹呈のハーブティも供され、そのイメージに合った別の曲も奏でられ。 これは三度の食事毎に続けられて、単調なクルーズも退屈せずに客達も大満足。 「食後に如何ですか?」 「いやはや食事が楽しみでしょうがないですよ。こういうのもいいもんですなぁ」 メイド姿に獣耳カチューシャと可愛らしい扮装をしたからすに給仕され、行商風の天儀人が目を細める。 昼食後のひととき。今度は緑茶が出され、ヨーコが奏でる龍笛が天儀風の旋律を奏で。 それに合わせるようにアグネスがブレスレットベルを鳴らし、ふわりと舞うようにテーブルの間を巡りながら歌う。 生粋のジルベリア人といった外見の二人が奏でる天儀のイメージは、これから降り立つ地を予感させる。 歌だけのつもりだったが、つい旋律に合わせて身体が動いてしまうアグネス。 「ご拝聴、ご拝聴。今日は琉宇はんがヴァイオリンを奏でるで」 「あはは、食事の添え物だから軽い気持ちで聴いてね」 そう言いつつ何気に難度の高い演奏を織り交ぜて、穏やかなようで音階が目まぐるしく変わる曲を披露する琉宇。 元は小鳥さえずる朝を彷彿とさせるワルツ。耳に付き過ぎぬようオクターブを下げて、だけど明るい三拍子を。 「あら、この曲どこかで聴いた事があるわ」 そんな声も聴こえて。ジルベリアで割と広く知られてるだろう曲のアレンジで耳を楽しませる。 ● そんな間にも本番へ向けた入念な調整が続けられ。迎えたクルーズ最終日。 いよいよ本格的な演奏会を執り行い、歌姫ザウヘリヤも皆の前で評判高い声を披露する段。 この演奏会が終わり、余韻に浸って眠れば朝には天儀の地へ到着だ。やり直しはできない。 「お疲れ様でした。演奏会のお願いでしたのに雑事まで‥‥大変ですわね」 着替えていつもの服装に整えたからすをザウヘリヤが労う。 お嬢様育ちの彼女は開拓者がここまで色々考えてやってくれるとは想像もできなかったようだ。 食事は用意されたもの、舞台は整っているもの、というのが常だったから。 「好きでやってるだけだからね。お茶もいつもの事だよ」 敬語は必要ないと断られたので普段通りの口調で答えるからす。 さっきまで後片付けに掃除にと、厨房係の手伝いに忙しくしていた。 ザウヘリヤにも気にしなくていいと言ったのだが、彼女は普段からこの調子なので変わらず。 「時間になったら料理は運んできてくれるから、私のだけ先に並べておこう。小腹が空いたら摘まんでいいよ」 「え、やったぁ。からすさん手製のクッキーすげぇ美味いんだよね!」 遠慮なくひょいと摘まんで幸せそうな顔で琥珀が頬張っている。 「私も戴きますわ。空腹では最良の声が出ませんから。皆様もお茶にしませんか?」 楽器の配置と本番直前の通し練習も終わり、しばしお茶会の談笑の時。 何気ない雑談の間もヨーコが面白い事を言っては皆を笑わせている。 時間になり乗客が、貨物室へと迎えられる。 フォルカとヨーコが入口で一人一人に灯したカンテラを配り、演出に一緒に参加する事を呼びかける。 ステージを向くように綺麗に並べられた木箱の椅子の位置は今までと違う。 テーブル役の箱は邪魔にならないように少なめに。 当初は立食でという話だったが、話し合った結果このような形になった。 その位置は音の反響や吸収を計算され、偏りなく聴こえるように試行錯誤を重ねて決められて。 無造作に置かれてるかのごとく見える数々の楽器。それぞれに持ち込んだ為、普段こんなに一度には見れないという豪華な並びになっている。 牛の角を用いて作られたパラストラルリュート。鷲を模した頭がついたイーグルリュート。そして誰もが目にした事がある親しみ深い形の一般的なリュート。森を彷彿とさせる装飾が施されたラフォーレリュートはアグネスが食事の時の演奏に使っていた物だ。 更に神教会風のヴァイオリンが二台。フォルカ愛用のフルートも白布の上に飾られ。対称となる位置には珍しい楽器ブブゼラが。 中央に存在感を持って鎮座するヴァージナルの左右にエレメンタルピアノとアコーディオンが用意され。 演奏者達が配置に着くまでの間も、それらが観客の目を惹きつけ楽しませていた。 からすが厨房係と共に給仕する間、ヨーコと琥珀が司会を務め挨拶の後を漫談で沸かせて客の緊張感をほぐす。 「さって、いー具合に和んだ所で、歌姫ザウヘリヤ・ファルツェンの空中音楽会、堪能してくれなっ」 そして主催ザウヘリヤの挨拶。全員が位置に着き、一緒に揃った礼をし。 観客の持つカンテラ以外の照明が落とされ、幾多の炎の揺らめきが幻想的な風景を醸し出す。 そしてカンテラも閉ざされ、場は闇に落ちる。 空をイメージしたオリジナルの組曲。 (音楽は想像を聴く芸術だ。素晴らしい音楽はその場に一時の幻想を引き起こす。貨物室だからこそ、味があるのだ。今ここは空飛ぶ音楽堂となる) エレメンタルピアノの前に立ち、からすが心の中で呟き唇を綻ばせる。 しゃら‥‥と小さく鳴るブレスレットベル。ひとつずつ幽玄な音が次第に近付くかのように夜明けを演出する。 客席の傍に控えていたフォルカの合図に幾つかの灯りがうっすらと開き次第に増えてゆく。 ベルの音色に重ね、流れ出すアグネスの歌声。冷たさと静寂を感じさせる音に風と光を表現した詞の無い歌。 梢から飛び立ち庭を旋回する小鳥のようにゆるりと踊り、時折靴で拍を踏み鳴らし。 薄闇の中、彼女の影が無数の分身となって揺れる。次第に強められる拍、鈴の音。同時に歌いながらの白熱の演技に汗が肌を滴る。そして締めの跳躍にショールがふわりと靡く。 場面が打って変わるように軽快なピアノの音色が始まる。光量を増した室内に優雅な朝のお茶会を演出。時折、小鳥が餌を啄ばむような即興めいた変奏を交えて。楽しい朝を演出する。 昼の場面となり、今度はヨーコの番。 「今日もお空は快晴や♪」 アコーディオンでテンポの速い踊りだすようなリズムを大きく動きながら。 彼女の曲の終わりに合わせ、またカンテラの灯りが閉ざされる。先頭中央の客にだけ残して貰った灯り。 フォルカの奏でるヴァイオリンの柔らかみを帯びた音色。母が子供を寝かしつけるような。 琥珀の構えた横笛の音色がそっと重ねられ、徐々に旋律が天儀の色へと塗り替えられ。 自然なタイミングで主と副が代わり蒼い光を放つ月の浮かぶ冬の夜空に場面を移し。 寒さに震えるような笛の音を包むようにヴァイオリンが温もりを与え。そして星々の煌きを。 曲の終わりに振り上げる弓が室内に再び光を。役割を忘れずこなし、ほっとする観客。 遮蔽された荷物の陰で並べ吊るしたベルに施していたミュートを解除する琉宇。 ヴァージナルの前でまず低音の伴奏を始めるザウヘリヤに客席からは戸惑い顔が。 そこへ琉宇が加わり中高音域を担当して連弾。 練習を重ねたが、伴奏しながら歌うのはやはり難しいと彼女が弾くのは途中までだ。 いつ交代したのか判らぬほどさりげなく低音の弾き手も琉宇に移る。 歩きながら情感たっぷりに歌うザウヘリヤの声量にベルが細かく共鳴する。 彼女の高音に琉宇が中音域の歌声を重ね。演奏の方は幅広い音の移り変わりが続く。 高まってゆく歌声に合わせ、雷や雨等を表現してはっきりと強弱を付けて鍵盤を叩く。 聴いている者は判るだろうか。並べられた楽器達の微かな共鳴。 強く音を奏でた時、楽器達が皆それぞれの持ち味で歌っている。 少しずつ小さく小さく消えてゆき、伸びてゆくザウヘリヤの声が余韻に残る。 (うんうん、これが聴きたかったんだよ) 最後はザウヘリヤの短い独唱を間に挟み、全員での合奏。 明るくなった室内に、ひとつずつ楽器の音色が増えてゆきザウヘリヤの声と重なる。 全員の楽器を合わせても負けずに通る彼女の歌。からすも楽器を変え、今度はヴァイオリンが二台。 ヴァージナルに専念する琉宇、技巧の限りを重ねこの楽器の持ち味を最大限に表現。 (うちらも負けへんで♪) ヨーコとアグネスの歌声がコーラスとなって加わり、フォルカの弓がいつの間にか指揮棒のように動かされ観客も口ずさみながら手拍子していた。 迎えるフィナーレ。全員ぴったりと合わせたラストに拍手が巻き起こる。 「お客はん、天儀に着いたら奏宴堂もよろしくな♪」 ちゃっかり宣伝も忘れず。 演者も乗客も皆満足の演奏会は終わった。 |