白地に描く開拓者物語
マスター名:白河ゆう 
シナリオ形態: ショート
EX
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/01/29 00:02



■オープニング本文

 雪深き里に生まれし者達にとって、そう突飛な苦行という程でもない。
 農繁期も終わりを告げてから久しく、長き閉ざされた時。
 近くの都へ至る道も深く埋もれ、便りも春の訪れまで絶えるのも毎年の事。
 いざとなれば村の財をはたいて用意した風信器もあるので非常時も、きっと何とかなる。
 精霊の力で開拓者ギルドへと時を置かずに連絡を取れる手段。それだけで何と心強い事か。
 冬を越せるだけの暖の用意も存分に。食料の貯蔵も問題ない。
 漬け込んだ草肉が卓袱台に供され。塩気ばかり続く味も舌に慣れた冬の風物詩であった。

 方向定まらず暴れる、肌を刺すような風。豪雪の吹き荒ぶ高原。
 純白一色に染まった視界。消えてゆく温もり。

 開拓者達はアヤカシ出没の報を受けて、深き雪の中を越えて村へとやってきていた。
 通常冬一杯閉ざされている道を踏み分けて来るのは非常に困難であったが。
 もしも。
 ‥‥もしも、それで行かずして。
 村が骸に覆われて滅亡していたなんて事になったら。
 最悪の想像が、頭を過ぎった者も居たかもしれない。

 熊かと思う程の大きな狼に似た姿のアヤカシを退治する。
 それ自体は容易とも言えた。皆で力を合わせ、連携を駆使して受ける傷も少なく。
 ほっと息を吐いた、その時から嵐は始まった。
 急ぎ村へ辿り着いたものの、荒れ狂い続ける空模様。
 神楽の都へと帰る為には、再び近くの都まで至る深い雪の中を進まねばならぬ。
「皆様にしばらく滞在戴いても、村の蓄えが欠乏するという事はありませぬ。どうぞ留まりなされ」
 全員が泊まれるような大きな屋敷など無いが。分宿して一人ずつ泊めるなら造作もない。
「粗末なものしかあらなんだが‥‥」

 年寄りばかりが多き村。何かと不便な地で、働き手は冬の間ほとんどが出稼ぎで離れている。
 正月といえど戻ってくる事も難しいので若者の姿がこの季節に村にあるのは珍しい光景。
「子供や孫が居るみたいでいいものじゃのう」
 接ぎの当てられた布団や綿入れを恐縮しつつ貸し与えながらも、目尻を下げて笑う老爺。
「おねえ、歌うたってやー」
 恋しい母や姉を重ねているのか、しきりに甘える幼き子供。
 出稼ぎ先に連れてゆくにも、まだ幼すぎて見守る大人が傍に居なければならない年頃だ。
 年長の子は連れていって貰ったが、自分達は村に置いてかれて寂しい想いをしている。
 嵐が過ぎ去るまでの短い時であるが、仕事だけですぐには去り難いような交流が生まれる。

 ――もう少し、ゆっくりしていってもいいかな。

 風信器を通じて、開拓者ギルドには帰還の遅れを申し出る。
 待っている者達には無事と伝えてくれと。もう少しだけ、村で過ごして帰るから。

 晴れ渡った蒼空。全てが雪の中に覆われた銀世界。
「うわっ。まず家の周りを何とかしないと、隣フ家へ行き来もままならないな」
 高く三角状に藁を葺かれた屋根も、数日の風でびっしりと固く雪が張り付いている。
「こんくらい、何でもねえ」
 古着を重ねてまんまるに膨れた幼子達は平気な顔で外に転がり出る。
「ははっ、雪遊びでもするか?」
「お話、お話。おにい、おねえ。もっと、アヤカシさ退治したお話教えてや」
 袖を引きぶらさがる幼子達は、それよりも開拓者のしてくれる物語に興味津々のようだ。
「おら、開拓者ごっこがしてえ」
「我侭言うでねぇ、千坊にみち坊。こん偉い方々は村の為に来てくれたんやぞ」
 渇と叱る老爺の声にしょんぼりとする姿。まあまあと開拓者は宥め。
「即興に近いものだが、小劇をやってみるというのも面白いかもしれない」
 娯楽も無い村だ。子供達を主役に、観覧する老人達も楽しめるような何かをやってみるのも悪くない。
 広い場所といっても雪の上しかないが。昼間の村の中だ、暖も工夫すればきっとできるはず。
「よし、俺達に任せておきな!」


■参加者一覧
深山 千草(ia0889
28歳・女・志
日向 亮(ia7780
28歳・男・弓
村雨 紫狼(ia9073
27歳・男・サ
五十君 晴臣(ib1730
21歳・男・陰
藤丸(ib3128
10歳・男・シ
エラト(ib5623
17歳・女・吟
白仙(ib5691
16歳・女・巫
ノイ=キサラギ(ib5844
12歳・男・吟


■リプレイ本文

●道具作りと稽古
「これと‥‥これ。本当に‥‥いいの?」
「直さんと使えんが、わしじゃ針も使えんで放置してたからのぉ。むしろありがたいこって」
 囲炉裏にちろりちろりと燃える柔らかい火に当たりながら。
 目尻を下げた老爺の傍にちょこんと座り、白仙(ib5691)が劇の衣装に仕立て直せそうな古着を選別している。
 遊び盛りの広太が派手に袖を千切り裾を破いてしまった単衣。
「少し‥‥加工すれば‥‥水干ぽくなると思うの」
 陰陽師役にわかりやすい典型的な格好だと思うから、それなら破れた袖が上手く活用できる。

「おいおい、ガキンチョが雪まみれだわ。早く風呂沸かしてやらねーと風邪を引いちまうぜ!」
 というか自身が一緒に頭から足先まで雪で真っ白になった村雨 紫狼(ia9073)が土間から大きな声を掛け。
「おまえら本当に容赦ねーわ。いやもう、なんかマジな稽古みたいになっちまった」
 まだ道具も揃わないうちなので、棒っきれでの立ち回りからさせてみたが。
「基礎を仕込む前に、やってみてーような派手なの見せた方が楽しく覚えられるからな」
「でも子供達が怪我するようなのはいけませんよ」
 おっとりと微笑み、子供達の衣服から雪を丁寧にほろってやっているのは深山 千草(ia0889)。
 紫狼もその辺は心得ていて、自分を材にどうやったら危ないかを実体験を交えて教えていた。
 修行の頃には少々調子に乗ってやらかして、師匠にこっぴどく叱られたのも懐かしき想い出。
 今ではしっかりと二刀流の心得を身に付けて、門下に相応しい腕前な訳だが。
「しろーおにー、やっぱすげえなぁ。後でもっかい教えてくれろ」
「おう、しっかりと風呂入って飯を食ってからな。納屋ん中だからあんまり暴れるんじゃねーぞ」

「薪割りは俺がしといたから。これだけの人数順番に入ったら結構使うだろうけど充分あるよ」
 自分の役に立てる仕事を任せて貰って、誇らしげにピンと耳を立てて胸を張る藤丸(ib3128)。
 いくら慣れててもこの寒い中、たくさんの薪を割るのはやはり老体には堪えるだろうから。
 俺達が帰った後の分もしばらくはやらなくても大丈夫なように。気合を入れて働いた。
「他にもなんかあったらさ、もうバンバン言いつけて!」

 木材ならちょっとその辺で調達すれば幾らでも何とかなる。雪の中歩くのはちょっと大変だが。
 神楽の都で日常は木工細工の店も営んでいる日向 亮(ia7780)。
「白仙さんも一緒の時にこのような細工仕事をする用事ができるとは奇遇だな」
 二人も揃って本職の腕前。時間はそれほどないが、できる限り良い品を作って子供達に使って貰おう。
「鎧も‥‥形だけなら木片で‥‥見栄えがする物作れるから」
 肩当ても腰当ても、ただの板ではなく丁寧に形を揃え紋様を彫り込む。
「胴帷子までは‥‥一日じゃ無理だね」
「うむ、ちょっとそこまではなあ。その代わり刀や杖に気合を入れるか。それと鬼の面も」
 どんな劇にしようかと話し合い、亮はアヤカシの親玉役を演じる事になった。
 なんだか体格から選ばれたような気がしないでもないが‥‥。
(貫禄‥‥落ち着いて風格があると受け取っておこうか)
「それにしても、まさか副業が役に立つことになるとは。思いもよらなかったな‥‥」
 サムライ役の二刀。巫女役の杖。手早い腕で、玩具屋に値を付けて並べてもいいのではないかという出来まで仕上げる。
 陰陽師役には、村にあった古ぼけた手縫いの人形を使って貰おうかと思う。少し装いを変えて雰囲気を出せばいい。
 ノイ=キサラギ(ib5844)が持っていたとらのぬいぐるみでもいいかと思ったが、どう加工しても愛らし過ぎる気がしたのでやめた。
 一番時間を掛けたのは親玉の鬼面。どうせなら紫狼が持ってきた面より怖い形相にしたいと。

「おっしゃ、開拓者はアヤカシやっつけるばっかが仕事じゃねーし、気合いれて稽古やっぞー!」
 昨日も雪の中ではしゃいだのに、やっぱりいざ外に出るとまた気分が舞い上がる。
 教える大人というよりは一緒になって無邪気に遊びまわる藤丸。
 一緒に練習してるうちに、子供達三人分の台詞も覚えてしまう。
「いいか、開拓者の武器というのは何かを守る為のものだ。決して他者を傷つける為のものではないからな」
 子供の玩具というには立派過ぎる木製の二振りの模擬刀と杖、そして人形を手渡し亮が訓示を垂れる。
 ただの劇であるが。楽しむと同時に何かを学び取って欲しい。
(おそらく私達が帰った後にはチャンバラごっこや遊び道具になる事だろう。間違った使い方をすれば怪我もするからな)
 都に出て道場で心得と共に剣技を学ぶのと違い、ただ道具を与えただけでは。
 綺麗事かもしれないが、それを伝えねばいつ知る機会があろう。
 今後を見守ってやれないのだから、言うべき事は今しっかりと伝えておかねばなるまい。

「サムライの戦い方とは違うけれど、抜刀の仕方も教えておきましょうか」
 志士役をやる子が居るかとも思ったが、広太もみちも刀を振り回すよりは術の方に興味を持っているようだ。
「鞘から抜く時は自分の身体に当たらないように姿勢をきちんと取ってね」
 紫狼とは違った視点から、千草が刀の扱い方を教える。どちらかというと柔の動き。
 五十君 晴臣(ib1730)は広太とみちに術を使う時の口上等を教えている。
 特に決まった口上がある訳ではないが、劇だから何か言った方が様になる。
「うん、その調子。まるで本物みたいだよ」

 道具作りが終わった後はエラト(ib5623)は村の老人達を訪ねて歩いて、この地に伝わる音楽を少しでも取り入れようと学んでいた。
 長い想い出話に付き合いながら、そういえばこんな歌があったと口ずさむ謡を勘でトランペットの譜に頭の中で置き換えてみる。
「おお、そんな曲じゃ。わしの下手な歌でよくそこまで再現できるのう」
「良かったら続きの詞も聴かせて戴けませんか。何番まであるのでしょう」
「はて、結構あったような気がするが。いや、歌ってみたら意外と思い出すもんじゃなぁ」

「この木とこの木の間。ここを舞台の中央に見立てて開幕かな」
 天幕用の大きな布があるから、それを使用して。
 見学する老人達が過ごしやすい位置との相対も検分して、晴臣が頷く。
 始まった後はもっと場所を広く使うが、まずは口上と共に幕を下ろすと雰囲気がでるかな。
 荷物にあった荒縄を太い枝の根元へ括って渡し、そこへ布の端を折って仮縫いした物を通す。
「エラト、口上から幕を開いた後まで続けられるいい感じの曲でお願いできる?」
「ええ。この村に伝わる民謡を教えて戴きましたから、風景にあっていてちょうど良いと思いますよ」
 控えめな自信を覗かせて、微笑みを浮かべるエラト。
「テンポはそのままでいいと思いますけど、少し合わせの練習をしてみましょうか」
 唇に当てたトランペットから長い低音を出し、ゆったりと上下させて雪の風景へ渡らせてゆく。
「今のは私が幕を引く速度が早かったかな。曲はこの感じのままがいいね」
「そうですね、二拍毎に一度足を止めて段階をつけると合うのではないかと思います」
「なるほど一気にスルスルと引かずにもったいぶってか。口上も短く区切って直してみよう」

●小さな開拓者の物語
 いよいよ劇の本番である。
 老人達に心地よく観覧して貰う為に、ありったけの道具を持ち出して席も設えて。
 茣蓙の上に座布団、火鉢に毛布。すこし周囲より低く窪みにして暖気を少しでも保つように。
 
「さあ物語の始まり、始まり。突如として現れたアヤカシに村は悩まされていました――」
 幕を引きながら諳んじた口上を述べる晴臣。エラトの奏でる物悲しい調子のメロディと共に雪の上に倒れた広太の姿が現れる。
「暗い顔をした村人達を放ってはおけず、たった一人で勇敢に立ち向かった若者、広太。だけどアヤカシは強かった。返り討ちに遭った彼は深い傷を負ってしまったのです」
 老婆から借りた丈の合わぬ着物を纏い、心配そうに歩みよる白仙。おろおろとした表情で、広太に駆け寄り膝を折る。

「おや、あれはフミさんが娘時代に着てた単衣じゃないか。久方ぶりに見たのう」
「行李を見てもらったら出てきてあたしも驚いたわい。うちの娘も着なくなってすっかり忘れてたんじゃが」
「今でも着たらきっとお似合いになりますよ。あのようないいお召し物、仕舞っておくのは勿体無いですわ」
 懐かしさに目を細める老婆を毛布で温かく包み込みながら、千草が是非また着てみてはと薦める。
 彼女は序盤では劇に直接参加せず、老人達の傍で世話を焼いていた。
「ねぇ、次郎兵衛さんだって見たいでしょう」
 そう話を振ってあげれば、横に居た老爺も相好を崩す。
「ふぉっふぉ。おフミさんがそんな格好したらワシものぼせて若返るのう」

 雪の上の舞台では、物語が進み。白仙に手当てを受けた広太が悔しげに茣蓙へ拳を叩き付ける。
「よし、今だよ」
 晴臣にぽんと背中を押されて、脇から走ってくる陰陽師と巫女に扮した千太とみち。
 それを追うように鬼面に黒い着物という格好の紫狼が棒っきれを振りかざして迫る。
 滑って思い切り転ぶみち。これは台本にあったが演技ではなく本当に転んだらしく、目に涙を浮かべている。
「がおー!たーべーちゃうぞー!」
 木刀を持った獅子アヤカシを演じるノイが、さりげなく抱き起こして小声で囁く。
「‥‥痛かったら、我慢しないでわんわん泣いちゃっていいんだぞ?」
 持ち上げて何処から食べようか頭が美味そうか、それとも脚から戴こうかと邪悪そうに尖った歯を見せ。
「おい、そっちの娘を俺に寄越しやがるでやんす」
「なんだと。お前はその辺の雪でも食ってりゃいいんだよ、ひょっとこな鬼づらが」
「こ、このイケメン鬼の俺のどこがひょっとこでやんすか。きーっ」
 紫狼のおかしな口調が客席に笑いを誘う。
 滑稽に獲物を奪い合う隙を見て、飛びかかる千太。
 ひょいとみちを抱き上げたまま避けたノイが嘲笑い、紫狼が千太の傍に棒を振り下ろし。
「はっはー。夕飯戴きでやんすーっ!」
 頭を打ち砕かんと寸止めの一撃。上げた刀と軽く打ち合わせて、自ら後ろに吹き飛ぶ迫真の演技。
「みち、今は逃げるんだ」
 ノイにも体当たりして、みちを奪い返す。木刀に薙がれた小さな脚。
 教えられた通りの風の精霊への祈りを棒読みながら言い、みちが治癒を施す。

 大きく拍手する千草。それに誘われるように老人達も拍手し、幕が一度閉ざされる。
「私も劇に行って参りますわね。お風邪を召されないよう寒くなったら遠慮なく劇中でも申してくださいね」
 会釈して舞台の方へ行く千草と交代に、白仙が今度は老人達の話し相手に。
「ん‥‥火鉢の炭‥‥新しいの足すね」

「アヤカシにやられたんだ‥‥」
 みちの台詞から始まる第二幕。苦しくもアヤカシをなんとか追い払い、村へと訪れた開拓者。
 そこで千太とみちは村で手当てを受けたが、まだ動きがぎこちない広太と出会う。
 村の中にはアヤカシに傷つけられ、動けなくなった人も居ると晴臣が説明する。
 家々から借りた小物を並べ、民家の中を模した舞台。茣蓙の上に千草が横たわり苦しそうにしている。
 みちが傍に寄り添い、治療を施し表情を明るくしてゆき起き上がる千草。
 感謝に袖で涙を拭う演技。懸命に励ます子供の演技に、思わずもらい泣きする老婆も居た。
 途中で忘れてしまった台詞もあったが、木の陰から藤丸が助け舟を出して、長い台詞も何とかこなし。
 お願いです倒して下さいとすがる千草に頼もしく応える千太と広太。再び幕が閉ざされる。

 片付けて次の場面を用意する間もエラトが音楽を奏で続け。そしてその音が劇的に盛り上がった所で休止する。
「さて景色は変わって山の中。腹を空かせたアヤカシ共はそろそろまた村を襲おうかとうろつきだした」
 晴臣の言葉に合わせて再び始まる曲。戦闘を予感させる思わせぶりな調。
 一番休む暇がないのはエラトかもしれない。

「グアァァ。おまえら獲物一匹捕まえられないのか」
 中央にどっかりとあぐらをかいた貫禄のある巨体。気迫ある鬼面と共に悪の親玉らしさを醸し出している。
 苛立たしげに立った親玉役の亮にへいこらと頭を下げている紫狼。そっぽを向いたノイは大欠伸。
「ようし、ここがアヤカシの巣だな。行くぞ!」
「なんだと。開拓者なんぞ餌にしちまえ。潰せ、潰せ、叩き壊してしまうのだ!」
 あまりにも大げさな振りで自分でも恥ずかしくなるが。面の下で苦笑いしながら亮は大声を上げる。
 果敢に立ち向かう三人の子供達。強いアヤカシ相手に苦戦するが、てんでばらばらの動きを掻い潜り、まずは紫狼を追い詰める。
「くそう。連携の取れた開拓者は強いでやんす。うわあああ、式に食われるでやんす〜」
 陰陽師役の広太の投げた雪玉に説明を加えながら大げさな演技で悶える。
「ひゃああああ〜っ」
 自分が教えた千太の二刀流の殺陣をしっかりと受け、黒い着物をバッと放りだして雪の上に大の字に倒れる。
(うひゃ、冷てえっ!)
 それはそうだ。着物の下は褌一丁だったのだから。
 その程度じゃ俺には勝てないぜと嘯いていたノイも紫狼が倒されたと見るや、身を翻して逃げようと試みる。
 が、可愛らしい舞を踊るみちに応援された千太が先回りという筋書き。
「うっわ、なんて速いんだ。やべ逃げ切れなかった。って痛て痛てててて!」
 あっけなくやられてしまう。
 後半になると暴れてるうちに台詞が頭から飛んでるのは予想通り。藤丸が陰で一個ずつ教えながら、やりとりを続けさせる。
 台詞を続けながら繰り返される攻撃に次第に亮の動きが鈍くなってゆく。
 そしてゆっくりと崩れ落ち、膝をつき。亮もバッタリと倒れた。
 歓声を上げる三人の子供達。村へ凱旋を果たした姿を千草が優しく抱き締めて――完。

「最後まで良く出来たね」
 頭を撫でる晴臣に誇らしげに顔を輝かせる。ご褒美に貰ったクッキーをさっそく頬張り。
「都にはこんなうめえ食べ物もあんのか」
「ほらガキンチョども。こんな食べ物は見たことあっかー?美味いぞプディングも」
 芝居が終わって褌一丁の格好のまま寒さも気にせず、想い出に残る品を配る紫狼。
 千太には昨夏に神楽の都に溢れた珍妙な球を。広太にはお手玉、みちには鞠を。
「‥‥紫狼ってアヤカシ退治の時もその格好だったよね。よく風邪引かないな」
「ギルドが大至急だっていうから、ついこのまま来ちまったんだよ。いつもの服が洗濯中だったから」
「一枚‥‥しかないの‥‥?」
 首をかしげる白仙。彼女はお面を村の行事に役立てて欲しいと申し出た。
「もうすぐ‥‥節分もあるから」

 そろそろ戻らねばならないと判ってはいるが名残惜しい。
 明日は帰る前に子供達と一緒に作ろうか、八体の個性的な雪達磨を。
 私達の代わりに‥‥融けてしまうまでの間、傍に居てあげられるように。