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■オープニング本文 「以前、開拓者の方に協力を仰いで演奏会を行ないました時に、お嬢様は天儀風の音楽に大変興味を示されまして」 ぜひ風景も習俗も違うこちらの地に移り住んで、本場の空気を感じながら音楽の勉強をしたいと。 ジルベリアの小さな町で活躍していた希代の歌姫、ザウヘリヤ・ファルツェン。 地元では有名な音楽家の一人娘で、発せられる圧倒的な声量、水晶のように研ぎ澄まされた美しい高音。 聴き慣れぬ難しい歌でも、練習をちょっと重ねるだけで自分の物にしてしまう天性の音感と情感。 先頃、原因不明の喉の故障により声を一時的にクったが。今は回復して以前のように精力的な活動を行なっていた。 その歌姫が天儀の音楽に感銘を受けて、移り住むとの事である。 さて場所は、神楽の都の開拓者ギルド内。 「お嬢様が快適に過ごせますよう支度をするべく、私めが先に参りまして普請の手配等も行なう事になったのですが」 されど、こちらに伝手もない。ジルベリアの開拓者ギルドから紹介を受けて、相談へ訪れた次第。 神楽の都を訪れたファルツェン家の執事、シーバスは涼しいにも関わらずハンカチで汗を拭う仕草をしていた。 たぶん癖なのであろう。 「幸い土地も適正な価格で譲って戴き、充分な広さもございますので」 ファルツェン家の豊富な私財を投じて、公演を行なえる音楽堂も敷地内に併設したいとの事。 各地から集った吟遊詩人達も多く住まう賑やかな都。 皆様にも気軽に利用戴ける施設にできたらいいとのお嬢様の意向により、建築の専門家にも色々と意見を仰いだ。 しかし建築には詳しくてもその者は音楽の事はさっぱり。果たして満足な物を設計できるか自信が無いという。 「こちらにお嬢様が移られるのは、多忙な事もあり全部支度が整った後の事でございまして」 そうそう頻繁に連絡も取れないし時間が掛かる。それに彼女はジルベリアから一度も出た事の無い身。 こちらの気候も知らないので的確な意見が出せるとは限らない。 現地にせっかく音楽家がたくさん居るのなら、彼らから意見を集めてみたらどうか。 実際使う人間の意見は貴重である。使い勝手とかもあるのだから。 「それにこけら落とし‥‥というのですか、こちらの言葉で。それもお任せしたいと」 本当はザウヘリヤができればいいのだが、今回は都合により間に合わないという。 「いずれ是非、共演したいとは仰ってましたが。長期で天儀に渡る前にと公演依頼が詰まっておりまして」 どなたか設計から通してご協力を願えないだろうか。そんな相談は開拓者への依頼となった。 広さは観客の席を五十人ほど用意できるもの。どんな形式にするか。 ただ前方に席を並べるもの。半円形にステージを囲むもの。平作りにするか、壇状にするか。 壁や屋根を音響に配慮した作りにするのも大事である。 ちなみに彼女の地元では、石造りの壁に溶いた石膏を暑く上塗りして細かい穴をたくさん開けていた。 天儀風の木造建築を活かすなら、板で工夫すると良いかもしれない。 できれば双方の地域の特色を活かした建物にしたいと考えているが、具体的には外観の草案すらできていない。 肝心の舞台の高さや大きさもどうするのか。備え付けの照明はどんな物にしよう。袖の控え室に必要な物は何か。 決める事は、考えれば考える程に限りなく出てくる。こだわりを持てば尚。 広めの練習室は住居の方に作り、控え室まで裏手から直接行けるよう回廊で繋ごうとは考えている。 もちろん根幹的な部分は大工に任せるが、仕上げはできるだけこだわりが判る者に手伝って貰いたい。 「それと、華美すぎる装飾はお嬢様が好みませんので。その辺もご配慮願えれば‥‥」 主役はステージに立つ者達なのだから。演出は大事だが、箱はできるだけ実用的に。 裕福とはいえ無駄遣いする金があれば、それは楽器や衣装、観客へのサービスに費やしたい。 「どうかよろしくお願い致します」 さて神楽の地にどんな新しい音楽堂が建つのであろうか。 |
■参加者一覧
エグム・マキナ(ia9693)
27歳・男・弓
ヨーコ・オールビー(ib0095)
19歳・女・吟
ニーナ・サヴィン(ib0168)
19歳・女・吟
キオルティス(ib0457)
26歳・男・吟
琉宇(ib1119)
12歳・男・吟
朱鳳院 龍影(ib3148)
25歳・女・弓
羽喰 琥珀(ib3263)
12歳・男・志
長谷部 円秀 (ib4529)
24歳・男・泰 |
■リプレイ本文 まずはシーバスが手配した地元の技術者と顔合わせとなった開拓者。 実際に作る大工を束ねる棟梁の意見を伺いながら、図案そのものから検討をすべく。 「僕は建築の事はよく判らないけど。造り次第で音の聞こえ方にも影響するからね」 音楽の専門家として紹介をされた琉宇(ib1119)に言葉に神妙に頷く棟梁。 「ザウヘリヤさんが天儀に来るっていうんだから、相応しい器を用意してあげないと」 彼女の地元に赴きステージで共演、声を一時的に失った歌姫を導いた経験。 それにより、天儀に知己の無いシーバスとも既に面識があり信頼を受けている。 今回まだ本人は来ないというのは残念であったが、治ったという知らせが聞けたのは良かった。 「俺はそういう方面はさっぱりでね。祭囃子や宴会で聴く小唄とは違うんだろうなぁ」 「そやなぁ。あんまり格式ばったもんにする必要はないという注文やけど、細かい変化まで気を張るような曲も中にはあるでなぁ」 うちの演奏はそんな気遣い要るようなもん滅多にやらへんけど、と付け加えるように言うヨーコ・オールビー(ib0095)。 「私も流れ歩いて普通のお店や屋外で演奏する事が多いかな。でも、せっかくだし素敵な場所を用意したいわよねっ」 丸みを帯びた愛用のハープを抱えてニーナ・サヴィン(ib0168)が明るい笑顔で応える。 「素材は一応勉強してきたんだけど、ジルベリアとこっちじゃ使われる木材も違うし。どうなのかな」 あれこれと木の名前を並べて棟梁を感心させている。 「内装なら輸入材でも多少は手に入るし、何とかなるかと思うが――」 骨組みは実績のある地元の素材を使うのが無難じゃないかと。 「そうじゃな。湿気やら気温やらあっちとは結構違うから、その辺の選定は本職に任せる方がいいのう」 案は色々と出すから、とりあえず書き並べてみようかと朱鳳院 龍影(ib3148)が筆を取る。 「私は正直音楽には疎いからの。どういう造りが良いものやら」 「白くて瀟洒なのがええなあ。ジルベリア分が多めな方が映えるやろ」 「そうね、ドーム式の天井に天窓とか」 「ああ、それならこんな感じでしょうかねぇ。似たようなのがありましたよ」 根本から造りが異なる様式を口で説明するだけというのは難しい。 書籍を扱う店を方々廻り、できるだけ仕組みが判り易い絵図をと用意してきた長谷部 円秀(ib4529)。 「交流も多く雑多な様式に溢れる都とはいえ、例は少ないでしょうから」 「これ、どうやって作ってるんだ?蔵みたいな壁に見えるけど同じじゃダメなのかな」 絵を指さして素朴な疑問の声を上げる羽喰 琥珀(ib3263)。 「見た目だけ真似するなら確かに蔵のように土壁にするのもいいかもしれませんね」 それなら建てるのに問題ないでしょうと棟梁に確認する円秀。 「外側はそれかなぁ。でも天井をドームにするなら支えるのに柱は工夫しないとね」 このヴァイオリンもさ、中はただの空洞じゃなくて表板と裏板の間に支えてる柱があるんだ。 それがちょっとずれているだけで音が変わってしまうから位置はすごく大事なんだよね。 自らの愛器を手に流暢な説明をする琉宇に、棟梁は新たな知識を驚きの目をもって聞く。 「でも形が違うし、何処に配置したらいいかは実験してみないと判らないんだ」 実際に建ててから違うとかいう事にならないように先にミニチュアとかで試せないかな。 「作ってみればどうじゃ。建物の形が決まれば整地とか先にやる事があるからその間にやればいい」 私はそんな細かいのより力仕事の方が向いてるから、そっちから手伝うからの。 龍影の提案。音楽家達には主に内装の段になってからの仕事を任せたい。 単純な土木作業は自分がやっておくからと頼もしく請け負う。 あれやこれやと議論を重ねて、この日は建物の全体図が描ける程度には固まった。 「そうだ、あとこれは音楽っていうより何て言いますか別の提案なのですが――」 出演者が立つ壇は子供の腰ほどの低めにして欲しいとエグム・マキナ(ia9693)がお願いする。 観客を見下ろす感じではなく。目が合う高さというのは緊張もしやすくなるけれど。 まだまだ学びたいという歌姫の為に。観客の目を意識出来る高さにする方が後々の成長に役立つのではないか。 ●皆で力を合わせて 建築日和の晴天続き。ニーナはこの間に内装の布を選びに市場を巡る事にしていた。 丁寧に敷き均された土。精確に張られた縄。その間を集められた職人達が忙しく働いている。 大工達の中に混じって龍影が軽々と材木を担いで荷車から運んでいる姿が。 「こういう時でしか力を発揮できんしのう。種類別に積んでおけば良いのか?言ってくれれば何処にでも運ぶが」 色んな意味で人を圧倒する体格だが、やる事も剛毅。指示を仰いでは男顔負けの腕力で使いやすい場所へ移動させる。 左官職人の傍では、琥珀が真剣な顔で土壁の下部に埋め込む薄い煉瓦の色を選り分けている。 「一枚一枚、微妙に色が違うんだよな〜。なぁ、おっちゃん千鳥にするのと縞々にするのどっちがいいかなぁ?」 「屋根も同じ物使うんだろ。千鳥にしといた方が後で合わせやすいと思うがな」 「そっか、じゃあそうするね。俺も作業手伝いたいけど、塗るのって難しいの?やり方教えてよ」 「はは、坊主が手伝ってくれるのは嬉しいがなぁ。綺麗に仕上げるにはコツが要るんだ」 仕上げの分は残してこのぐらいの厚さにしといたからな。隙間はしっかりと漆喰を詰め込むんだぞ。 一個ずつ丁寧に曲がらないように煉瓦を埋めてゆく作業を任される琥珀。 この色の次はこれかな〜と悩み、言われた通りに一個ずつ心を込めて職人の作業を手伝う。 旅一座に居た頃は興業の度に小屋掛けしていたのが懐かしい。勝手は違うが、出来上がった後を思って楽しいのは共通だ。 「この真っ黒なのは何処に使うんじゃったか」 木目が美しく浮き出た焼き板。ただ乾燥させた物より腐食や虫害を抑えられるからと円秀が用意させた物。 「天井の梁とか出来上がった後にも見える場所に使うんですよ。ええっと、あの辺に運んでください」 「あそこか。だが下に置くより櫓の上まで持っていってやった方が良さそうじゃの」 大分組みあがって来た建物の骨格。吹き抜けの最上部は通常の建物なら三階にあたる程の高層。 既に職人達が一回り大きく囲むように組んだ櫓の上で作業を始めている。 「一人で大丈夫ですか?私も手伝いますが」 「分けて運べば問題なかろう。おぬしは庭の方を見なければならんし。ほれ庭師も指示を待っておる」 苗木の配置も、天儀風の庭とは勝手が違う。建物との調和を考えた物にせねば違和感があるだろう。 そこは主に円秀の担当だ。手伝いを辞した龍影は危なげは微塵も無く、櫓の上へと材を運ぶ。 高い所へ登るのは全く気にならないが。通廊を歩くのは翼が邪魔になるからと梯子を使って直接目的の場所に。 「華美でないといっても質感は大事だから。それにザウヘリヤさんの好みも」 シーバスを連れてジルベリア系の布を多く扱ってそうな反物屋を巡っているニーナ。 衣装にも使えそうな豊かな品揃えにも、つい目移りしてしまうが本題は忘れていない。 「お嬢様は非常に可愛らしいレースとかフリルを好まれるのであまり参考にならないと思いますが‥‥」 「こっちに来たら一緒に服を選びに行くのも楽しそうね。私も可愛いの欲しいな〜」 パステルな色合いを好むなら舞台は少し濃い色で揃えた方がバランスが取れるかな。 でもあんまり重い色にするとちぐはぐになるし。 「これはどうかしら」 手に取ったのは、濃い緑だが夏の葉のような明るい色合いの厚い布地。 建物は白を基調として煉瓦の色が加わるから――。 「昼間の公演には天窓の自然光を使うから、きっと合うと思うわ」 飾りは縁と紐程度で、ドレープをたっぷりとね。仕立ての注文もイメージをしっかりと告げて。 「座布団のカバーも同じ色合いで揃えようかな。キルティングでこれもジルベリア風にお願いね」 大量の注文なので店側もほくほく。期日までに間に合わすと笑顔で請け負ってくれた。 「後は控え室の調度とか、揃えなきゃいけない物は一杯あるし」 ●白亜の奏宴の器 いよいよ完成した音楽堂。 裏手の住居の側はこれからだが、巧みに配置された庭木により遮られてプライベートとは区切られている。 表通りから見える真新しい建物の美しさは目を引いた。巡らされた腰高の柵には門も無く、開放的。 蔵造りの純白の壁が陽光を照り返し、下部の縁取りと屋根は煉瓦で一見しただけではジルベリア風の建物に見える。 大きな両開きの扉を開けるとそこはロビーになっていて、今はまだ空白だが演劇場のような板を並べた掲示板。 ここには演目や演奏者の名前を墨で書き入れて、公演時に掛け替えられるようになっている。 カフェのような小さなテーブルと椅子が置かれて雑談も可能なように広めのスペースを。 更に内の扉を開けて入るとそこがホール。五十人程の小さな収容空間だが吹き抜けの天井が高く。 天窓の辺りには手入れの為に細い歩廊があるが、梁と共にそれも演出を考慮されて見苦しくない構造になっている。 琉宇があれこれと実験していた柱は最終的に八方にシンメトリーに配置する事となった。 観覧の妨げとはならないし最外部は通路や照明の空間として機能する。 内壁には予めフックを等間隔に用意して、行灯でもランプでも対応できるように。 拡張や変化を重視しているのは客席も同じだ。舞台は囲めるように半円形。柱の二角の間に。 長椅子はニーナの提案を取り入れ特注の奥行きがある物。脚を外して座敷席への転用も可能に。 椅子よりも座布団で寛ぐ事に慣れた者にも気軽に観覧して貰えるようにだ。 座布団のカバーはジルベリア風のデザインにしたので長椅子の時に敷いても違和感は無い。 「新しい試みでしたが、見事に天儀とジルベリアの折衷が調和しましたね」 仕上がりを見て目を細める円秀。 「色んな事ができて面白そうだな〜。上の歩廊から、鏡を付けたがん灯で照らしたりするのどうだろ」 後でそれも作っておこうかなと琥珀がウキウキとしている。 舞台の左右に配置された幕の後ろからは回廊に通じていて、建物両翼の小さな控え室と倉庫にはそちらから行けるようになっている。 後に建てられる住居とも繋がる予定だ。 ニ柱の間には何も無い空間。後に据付の大型楽器を配置できるように。 「パイプオルガンなんて付けれたら目玉になると思うんだけどね、あはは」 でも作れる職人はさすがに天儀には居ないか。ファルツェン家の伝手があればいずれ招聘できるかもと期待して。 琉宇としては希少な楽器が来たら是非演奏してみたいと願う。その為のスペースは空けておかないとね。 ●こけら落とし開幕 「舶来の歌姫、ザウヘリヤ嬢監修の音楽ホールの完成や!」 メローハープを掻き鳴らし、陽気な声を張り上げるヨーコ。 「さあさ、老いも若きもよってたかれ!金持ち貴族にしか聴かせへんなんて、しみったれたコトは言わへんよ」 別の路地ではニーナが牧歌的な曲を奏でながら通行人の注目を引く。 (いつもは青空コンサートだから、こっちの方が得意かも。でもステージで弾くのも楽しみよね) エグムの読みやすい丁寧な字で綴られたビラが人々の手に渡り、興味を抱いた人には語りかけて歩いている。 「明日は歌姫の渡来を前にプレコンサートを開きますよ。ぜひいらしてくださいね」 「おっちゃん達もおいでよ!」 琥珀の元気な声に興味の無かった者も行こうかと考える。 屈託なくちょこまかと動き回る少年は可愛がられていて職人達のマスコット的存在になっていた。 「そうだなぁ。坊主がそんなに言うんなら一度行ってみるか」 「いやはや、物凄い大入りですね。今日だけでは入りきれませんよ」 入場案内をするエグムを手伝っていた円秀が控室を訪れると既に演者の準備は整っていた。 「宣伝した効果だね。あはは、明日からも毎日演奏しなきゃいけないかな?」 「うちは構わへんで。呼んだからには楽しんでもらわんとなぁ」 円秀の軽い挨拶と説明から公演は始まって。 琉宇が編曲した四重奏。ジルベリアの古風な格式ある主題を親しみやすい調へと変えている。 ヴァイオリンの軽快な独奏から始まり、ヨーコとニーナの奏でるハープが甘い音色から次第に身体を揺すりたくなるようなリズムを創ってゆく。 曲が乗ってきたところでジャーンと鳴らされる琥珀のリュート。 「気取る必要ねーから、目一杯楽しもうぜーーっ」 満面の笑顔で聴衆に向かって振り上げられる拳。 「お祝いの曲や。皆でさあ手を叩こう!」 ヨーコの掛け声に合わせて率先し最後列の壁際で手拍子を刻むエグムと円秀。釣られるようにその輪が会場中に広がる。 「龍影さんもほら、一緒にやりましょうよ」 「こ、こうか?」 実は演者の練習にも加わっていた龍影。結局最後まで音をまともに出す事ができず辞退したのだが。 手拍子くらいならと思ったが、どうしてもリズムが周囲と合わないので憮然とした顔をする。 「気にしない、気にしない。似たような人があちこちに居ますよ」 見れば無骨な職人達がハァ、ソレ、ヨイショと独自の拍子で楽しげに手を叩いている。 (あれよりは、確かにわしの方がまだマシかの) 一曲目で身体も温まったとこで、更にテンポの速い曲を。 「天儀の祭囃子も取り入れてみたんだ。太鼓も笛も無いけれどそれっぽく聴こえるかな?」 ピーヒョロと鳴る笛の代わりを務めるのはヴァイオリン。澄み渡る高音がホールの天井まで綺麗に響き渡る。 ヨーコの指に弾かれた太い弦が低音のリズムを躍動的に刻み。乱打する太鼓の勇壮さを琥珀が全身で表現する。 そこへ加わるニーナの誘うような旋律。老若男女集った聴衆も一体となって開拓者の舞台に魅せられていた。 そんな初回公演もあっという間に終わり。観客を入れ替えての演奏は夜遅くまで続く事となった。 「お疲れ様、素晴らしい演奏でしたよ」 円秀から汗だくになった演者に渡される花束。時間が経ち過ぎて少し萎れてしまったが。 代表して受け取ったニーナが拍手し続ける観客に手を振る。 「今日は遅くまでありがとう。また気軽にこの音楽堂に来てねっ」 「いい場所ができましたねぇ。今度は近所の子供達を連れて客として見に来ようかな」 門の前まで皆で最後の観客を見送りに出て。 名残惜しく帰っていった親子連れの後ろ姿を眺めて、そんな光景を思い描いて目を細めるエグム。 振り返った音楽堂が月明かりに照らされて、美しくそびえている。 ここで如何なる物語がこれから生まれてゆくのか。一緒になって見上げた開拓者達。 奏宴堂と名付けられたこの建物の――彼らは産みの親である。 |