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■オープニング本文 頑丈な石作りの建物の掃除、ついでに再度使うのに改装するから相棒と一泊して感想を教えてくれないだろうか。 そんな手紙が依頼金と共に開拓者ギルドに届けられた。 報告は現地で聞くからというので、そういう事だからよろしくねっと引き受けた開拓者は気軽に職員に見送られて。 随分と簡単な仕事だね。依頼人はどんな人なのか知らないけど会えばまぁ判るから行ってみようか。 ただそれだけのはず、だったのだが。 「依頼人さん、何を考えているのかな〜」 道順が判り難く随分と迷ってしまった。こんな山奥に誰が建てたのだか、辺鄙な場所である。 辺りヘすっかり真っ暗。雨も降ってきた。 「とにかく中に入ろっ。濡れちゃうし、もう疲れたから今日は休みたいよ〜」 掃除は明日起きてからでいいよ、いいよ。 なんだか龍を飼育していた場所だったらしいけれど。ひどく重い鉄製の扉を開けて、溢れ出たかび臭い空気に顔を背ける。 飼っていた‥‥というより閉じ込めていた? 湿気に腐った寝藁からの異臭。虫でも湧いてそうな気配。鉄棒の嵌められた小さな明り取りの窓が背丈より遥かに上に。 猫一匹通る隙間も無い。 面積だけは充分にあるようだが、古びた什器も相当に痛んでいる。 片隅は人間の居住空間、らしい。 三段ある引き出しに全て鍵を掛けられた机。体重を乗せれば、人によっては足が折れてしまうのではないかというぐらついた椅子。 埃に汚れきった姿見には大人の男の物らしき無数の手形。これでは何も映らない。 ワンピースや外套も畳まずに仕舞い込めそうなジルベリア風の箪笥。取っ手は複雑に編まれた三本の紐で怪しげに封印されている。 中に何が入っているのか、何だろうこの嫌な予感。匂いも音も特に無いが、開拓者の直感が何か不穏なものを告げる。 人数分の寝台には壊れた手枷や足枷が散乱していて‥‥。 煉瓦作りの暖炉には動物の骨らしき物が大量に散乱。 「何なのよ、一体っ!?」 泣きたくなるような状況だけれど、泊まればいいだけだよね。 もう腹を括って寝て、さっさと朝を迎えようよ。何も見ない見ない‥‥うっシーツまで何だか黴臭い。 壁の松明もしけっていて火が付かないし‥‥。 外の雨風が強くなってきた。今夜は嵐になる雰囲気だ。気温も下がってきている。 「入口も閉めちゃおうよ、真っ暗になっちゃうけど。誰か灯り持ってきてない?」 ギギギギィィィィー。ガッシャン。ガタンゴトンッ。 「えっ!?」 押しても引いても揺さぶっても扉がびくともしない。 「ちょちょちょ、ちょっと〜っ」 出入口はこれしかない。閉じ込められてしまった。総石造り、破壊して脱出するったって簡単には行かない。 いや壁や天井を破壊したらさすがに弁償で済まない。木製ならその辺の材料で直せなくもないだろうけど。 修復も難しいから、依頼主に怒られて失敗になるだろう。 「ああ〜、どうしようかっ!」 ふいに建物の中を吹き抜ける生暖かい風。 そして始まるショータイム――。 「いっやああああああああああああああああっ」 暗闇におぼろげに透けた満身創痍の龍が。地の底から這い唸るようなおぞましい咆哮。 「も、も、も、もしかして‥‥」 振り返っちゃいけない気がしたが、身体が勝手に動いてしまった。 人型‥‥えぇっと狂気の研究者といった風情の痩せた男の目玉が‥‥眼窩からとろりと零れ落ちている。 その手には鮮血の滴る出刃包丁‥‥。 |
■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191)
20歳・女・泰
酒々井 統真(ia0893)
19歳・男・泰
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
千羽夜(ia7831)
17歳・女・シ
ジークリンデ(ib0258)
20歳・女・魔
フレデリカ(ib2105)
14歳・女・陰 |
■リプレイ本文 暗黒――。 なのに、見える。見たくないのに見える。おぞましい姿が。 「あ、あ、嫌っ‥‥ねぇ嘘だよね。何なのよぉ〜。お化けなんかじゃないよね、これ‥‥」 後ずさりながら徐々に小さくなってゆく千羽夜(ia7831)の声。どん、とその背中が誰かに当たる。 「きゃっ!?」 「うわっ。僕だよ、ふしぎだよ」 今にも腰が抜けて崩れてしまいそうな身体を後ろから支えてくれたのは天河 ふしぎ(ia1037)の手。 でも千羽夜と同じくらいがくがくと震えていて、どっちが縋りついているのか判らない。 (僕は男なんだ。これくらいの事で怖がっちゃ‥‥うん、女の子を守らなきゃいけないんだから。怖くなんか、な、無いんだからなっ!) 情けない悲鳴が唇から洩れそうだったのを必死に堪えて、腹に力を入れて全身に力を漲らせる。静まってゆく震え。 「大丈夫、みんな居る。居る‥‥よね?」 明かり取りの小さな高窓からも雨粒の叩きつける音が聞こえるだけで光は差さない。 (確か壁際まで行けば松明があったはず) ふしぎは千羽夜の身体をしっかりと支え、見当をつけた方角へじりじりと進む。 「ああ、ちゃんと居るぜ。絵梨乃は何処だ?どっちか前衛を頼む」 刃物を持った人型よりも龍型の方が厳しいか。だが絵梨乃ならどちらを任せても大丈夫だろう。その間に俺が一方を片付ける。 どんな姿をしてようとアヤカシならとっとと始末をつけるだけの事だ。何か異質な空気を肌に感じつつも酒々井 統真(ia0893)がいつもの調子で声を返す。 了解とてきぱきと役割分担を割り振る水鏡 絵梨乃(ia0191)。彼女も今はまだ普通のアヤカシ退治と認識している。 「じゃ、ボクは龍の方を倒すね。ジークリンデとフレデリカは何処かな?」 位置が判らないと敵味方を間違ってしまいそうだ。ボクと統真の間に入って――。 「良かった、みんな居るね。千羽夜は僕と一緒だ。同じ場所に居るから心配ない」 さっきより少し位置を移動したか。ふしぎの声が聞こえてきた方角は巻き込む心配がない。 「私はここで龍の方を攻撃致しますわ。フレデリカさん、あなたには反対の方をお願いしてよろしいかしら」 ジークリンデ(ib0258)の静かな声。フレデリカ(ib2105)がそれに応えてジークリンデと背中を合わせてから一歩踏み出て、呪殺符を手に構える。 「了解。統真、後ろから援護するから私の射線塞がないでね」 「おう。それじゃ行くぜっ!」 瞬時に駆け寄った統真に向かって出刃包丁を持った男がニタリと笑う。腕を振り上げるが統真の拳の方が速い。 キェェエエエエエエエエエエエエエエッ。 漲る精霊の力が炎のように覆った統真の腕が男の透き通った身体に突き込まれる。鳳凰の羽ばたきの如く舞い広がる炎と耳をつんざく怪鳥のような幻声。 しかし手応えは無くすり抜けて、勢い余った統真の身体も男を突き抜けて冷たい石の壁にぶつかりそうになる。 即座に姿勢を直して振り返った統真の顔に生臭い息が吹きかかる。至近でニタニタ笑う目玉の落ちた顔。ぺたりと冷たい手が頬に触れて背筋を凍らせる。 『挨拶からこれとは騒がしい客人だのう。ふぁっはっはっは!面白い、ゆるりと寛いでゆくがいい!』 ニタついて開いた唇を動かさないまま男の声が大きく響く。どういう事だっと聞き返す前にふっと風に掻き消されるようにその姿が消える――。 あっけにとられた統真。式を放とうとしていたフレデリカも標的の思わぬ言動に事態を把握できず、混乱した頭を整理しようと動きが止まる。 「ホーリーアロー!」 聖なる力を帯びた矢がジークリンデの杖の先端から一直線に放たれ、おぼろげな姿の龍へと――命中しない!? 石壁に弾かれて魔法の矢は飛散して消える。それを見届ける前に既に絵梨乃は矢を追うように飛び出していた。 龍の唸り声を掻き消すように轟く雷雲のような発声。青い閃光が一瞬絵梨乃を中心に部屋の中を眩しく照らして視界を奪う。 そして壁への激突――。けたたましい。 「あいたた‥‥って、ていうかアヤカシじゃないのっ!?」 襲い来るかと思いきや、龍は再び低い咆哮を上げて哀しい――いや哀れみの眼で絵梨乃を見下ろして、羽ばたいたと思ったら石壁の向こうに消える。 一旦幽霊は消え去って、静寂が再び開拓者達を取り囲んだ。 「幽霊とか亡霊って‥‥アヤカシですよね。そんな効かないだなんて‥‥これは一体どうなって‥‥」 瘴気にホーリーアローが効かぬはずはない。かといって生身の龍とは到底思えない。どう見ても幽体だったアレは。 暗闇の中ではっきりと視認できたのも、そういう種類なんだろう瘴気は何を作り出すかわからないから、くらいにしか思っていなかったのだが。 「ほ‥‥本物?」 今頃初めて湧き上がってくる恐怖の実感にジークリンデが身震いする。 「ごめんさっき心眼で見たんだけど‥‥僕達以外何も映らないんだよね‥‥」 「な、何なのよぉ、ここ‥‥」 帰る。一秒でも早くおうちに帰るっ! ふしぎの柔らかな外套に掴まった指が固まって動かない。力が入りすぎて恐らく白くなっている。涙を目尻に滲ませて千羽夜が弱々しく呟く。 アヤカシと戦うよりよっぽど命の危険は低そうなんだけど、お化けだけは本当にダメっ!苦手っ! 真面目に依頼を放棄して帰りたい。こんな場所に泊まって感想を言えとか何を考えてるのよ、依頼人は。 ● 「帰るったってなぁ‥‥」 改めて玄関の扉を確認しに行った統真。内側からでも鍵を使わないと開かない造りのようだが、その鍵も見当たらない。 やはり先程と同じ、押しても引いてもびくりともしない。総鉄製では破壊も無理だしな‥‥鍵を探すしかないか。 壁もダメ、松明の灯りではそこまで判らないがおそらく天井も同じだろう。足跡に積もった埃の乱れた石床を見て思案する。 「まさか地下牢なんて作ってたりしないよな」 「とりあえずじっとしてても嫌だから。鍵探そうよ、鍵」 いつの間にかしっかりと統真にしがみ付いている絵梨乃。 「こらこら、絵梨乃。てめぇ踏んだ場数もそう違わねぇのに人の陰に隠れてんな!?」 「だってボク、お化けは得意じゃないからっ」 「俺も得意じゃないっての‥‥あぁ〜仕方ねえなぁ。いいよわかったよ、盾になりゃいいんだろうが」 ぼやきながらも今更および腰になるのも格好悪くて戴けない。諦めて、先頭に立つか。 男は俺とふしぎしか居ないしな‥‥ここは女を護るのが役目ってか。 絵梨乃もそこいらの男より断然強いがこういう場面ではやっぱりそういうものなのかね。 「よし、ジークリンデとフレデリカもどっちかに付いてろ。また幽霊がいつ現れるかわからねぇからな。さっさと手分けして探すぞ」 「た、頼りにしてるんだからねーっ。ね、男の子っ!」 バシッと力加減ができていないのは怯えているせいか。すかさずふしぎの傍へ行ったフレデリカの顔が引き攣っている。 (幽霊アヤカシなら怖がるも何も私は陰陽師なんだから、そういう式だって使う事あるし、へ、平気だけど‥‥本物はやめてよねっ!) (本当に居なくなった‥‥ってならいいんだがな) 貼り付くような視線。さっき頬に触れられたのと同じ感覚がへばりついて嫌な感覚が継続している。 降り続く雨の湿気。昼の熱が篭ったまま残り蒸し暑いというのに悪寒が走る‥‥が顔にはそれを出さない。女達を不安にさせたくない。 (どうやらこれを感じているのは俺だけか‥‥?) 直接殴りに行ったのは統真だけだから。まさか憑いちまったか。 同様に龍の幽霊に突っ込んだ絵梨乃はと振り返るが、別に異変は感じていないようだ。 反対側の袖にはジークリンデが。そしてジークリンデを掴む誰かの腕が。 あれ、こっち四人だったか。 ざっと見た感じ、什器は色々とあるが生活感は残っていない。 包丁を持っていた男が住人なのかね。狂気に溺れて人を実験台にしてるとかその類に見えた。 「ん――?」 強く踏み鳴らすように響かせていた足音に微かな違和感。 「切れ目がここだけ揃っていますわね」 震え声ながらもジークリンデの冷静な指摘。埃を綺麗に拭ってみると薄い鉄板が敷かれていて、除けた下には板戸が嵌っていた。 「地下かぁ」 嫌な予感しかしないけれど。 「とりあえずジークリンデはボクがしっかりと護るから、後は頼んだぞ統真♪」 陽気に背中を叩き、さっさと掴み先を変える絵梨乃。私は行かなくていいのですねとほっと息をつくジークリンデが絵梨乃に身を任せる。見送る気満々。 「あのな‥‥埃ががっつり詰まってて持ち上がりそうにねぇな。試しに蹴ってみるか。下がってろよ」 崩震脚! 「うっ‥‥」 既にこの建物の臭気には慣れて無感覚になっていたものの、それでも耐え難いほどの吐き気を催す悪臭が踏み破った穴から溢れ出る。 (これ、屍臭だよなぁ) 「死人でも何でもどんと‥‥と言いてぇが」 どう考えても嫌な物が待ってそうじゃねぇか。入るのか、おい。 「頑張って統真」 「よろしくお願い致しますわ」 しっかりと鼻と口を覆って下がった二人が応援している。もう一人誰か手をひらひらと振っている。 「あぁ〜、わかったよ。いってやらぁっ!」 ‥‥‥‥。見なきゃ良かった。 「詳しくは後で話す‥‥早く鍵、探しちまおうぜ‥‥」 さすがの統真も取り乱しはしないものの蒼白になっていた。上がってくるなり床に膝をつく。動くと吐きそうだ。 「匂いも染み付いちまったな。近寄らないほうがいいぞ」 ああ、でも。さっきの悪寒はどっかいっちまったな。 ● 「ねぇ、さっきから変な音が微かに‥‥しない?」 「ど、何処よ。居るなら居るではっきりしなさいよ」 「どっちかな石造りって慣れてないから音の方向があんまり‥‥あ、あれ!きゃああああっ!」 盛大な千羽夜の悲鳴と同時に襲い来る黒い影。突然の悲鳴に伝染されてフレデリカも頭の中がパニック状態になる。 一番先に冷静に動けたのはふしぎだった。女性陣の盾になるんだからなっ。 いつ身構えたのかも判らぬ速さ。抜き放たれた『水岸』の切っ先が月のように美しい弧を描いてソレを切り裂いて襲来を払う。 「――っ!?」 床にぱさりと落ちたソレ。どう見てもゴキブリの綺麗に切り裂かれた死骸。 「いやあああああああああああああああっ!」 再び上がる千羽夜の悲鳴。さっきよりも大きい。今度はまともに近くで見てしまっただけに余計に。 「く、苦しいわ。千羽夜落ち着いて、私の首が絞まってるっ!」 フレデリカの顔が真っ赤になって喘いでいる。本気で息が止まるより先に頭の血が、血がっ。 「こんなもの粉々に吹き飛ばしてしまえばいいのよ」 驚かされて半ば腹いせ。斬撃符で既に死骸となっているゴキブリを切り刻み、原型を留めぬほどに始末を遂げる。 「ごめんね。でもだって叫ぶなって言われても無理っ。アレは乙女の天敵よ!」 乙女じゃなくても好きな人は稀だろうが。ふしぎが無言で刀身を懐紙で拭っている。このまま鞘に納めるのはちょっとそれは。 「最悪。最悪よ、もう」 ちょっと目が虚ろに据わってきたフレデリカ。もういい加減にしてよね。誰よこんな廃墟に泊まって感想教えろだなんて言ったのは。 机や寝台のある辺りを中心に探っていたこちらの組は幾つかの鍵を拾った。 どれも小さいが何が何の鍵やら。手枷やら足枷やらの鍵があってもしょうがない。差してみればわかるか。 「玄関っぽいのはないみたいだね。片っ端から開ければその中に‥‥とかはないかな?」 あんまり期待していないけれど。せっかくだから家捜しをしちゃえ。怖さも過ぎれば好奇心が溢れ出るふしぎ。 「大事な鍵は引き出しの中とかは有り得るわね。にしても寝台の下とか変なとこに落ちてたけどこっちは」 一方フレデリカは好奇心というより何かする事で気を紛らそうとしている。既に声には理不尽な状況に対する怒りが滲み出て。 張り詰めた糸が切れたら失神してしまうんじゃないか。案外、最初っから取り乱しまくってる千羽夜の方が安全だそういう意味では。 「まずはこの意味深な箪笥から――」 使う物なのに何でこんなに厳重に紐で封印してるのかな。これじゃ服を出せないよね。 「‥‥」 強気で行ったフレデリカの全身が硬直した。何かあった?と後ろから覗いたふしぎも顔が引き攣る。 「ど、どうしたの!?」 そんな二人の姿に泣きそうな千羽夜。 「み、見ちゃいけない。ダメだっ」 バタンっと思い切り箪笥の戸を閉めて背中で隠す。ダンダンダンダンっと箪笥の中から拳で叩く音。 千羽夜には見せられない。 もう一回紐で封印しておこう。紐をしっかりと組み終えると叩く音も何故か静まった。 一息吐いたがフレデリカがまださっきの状態で固まったままで居た。 「フレデリカ君、フレデリカ君、息をして!」 ふしぎに揺さぶられてハッと我に返る。 「何でもないわ‥‥大丈夫よ‥‥」 気絶してたけど。 引き出しの中も無事とは言えない事ばかりだったが割愛しよう。主に千羽夜の名誉の為に。 もうすっかり腰が抜けてしまって自分より小柄なフレデリカに縋りついてしまっている。 「フレデリカちゃ〜ん、お願いっ離れないで〜っ」 「え、ええ。絶対離れないわ‥‥うん」 実際はもう動けないだけなんだけど。顔は強張りっぱなし、脚も力が入り過ぎて気力で立っているのがやっと。 散々探し回ったが徒労。玄関はやはり開けようがない。 「胸の悪くなるような代物だね」 捜索のうちに見つけた一冊の日記。ぱたりと閉じて呟くふしぎ。 騙し譲り受けた老龍と迷い込んだ人間の虐待と拷問に明け暮れた記録。 狂気を急加速させてゆく男が最後に切り刻まれた屍肉で溢れた地下室へと自らも閉じ込めようと消えた日まで。 統真が見たものは、既に白骨と屍蝋が混然とした状態であったがその最後の状況と一致していた。 「わざわざ自分で入って、更にご丁寧なことに鉄板被せて内側から閉めたってのかよ‥‥」 ● 夜明けの白光が差すまでの間、非常に長い時間のように感じられた。 「どーいう事なのよ!最悪じゃないっ!」 「どういうって‥‥僕は昨日ジルベリアから着いたばっかりでして‥‥」 いきなり噛み付くような剣幕のフレデリカに依頼人の男がたじろぐ。 間もなく空き家になるから処分を頼むとこの屋敷の主が送った手紙が彼の父親に届いたらしいのが既に何年も前。 大掃除してたら出てきたので、まだ住めるようなら誰かに売ればいいと先に調査をギルドに依頼しておいて現地を見に来たのである。 見せてくれたその手紙には日記の最後の頁と同じ日付が同じ筆跡で書かれていた。 事情は全く書かれていない為、このような事態になってると誰が想像できるであろうか。 「依頼は依頼ですから一応お掃除は致しましたけれど」 地下室以外は。 後の始末は――さすがに解体しかないかな、これは。 |