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■オープニング本文 何の変哲もない平凡な農村である。 畑の作物がすくすくと育つ。朝を迎える度に少しだけ大きくなったような気がして。 我らが手塩にかけたまだ花も咲かぬ野菜。濃厚な緑が初夏の太陽を照り返して眩しく輝いている。 昨夜の雨の名残りがそこかしこに。湿った土と繁った葉の香りが混じり合った長閑な空気。 「いやあ、何とか今年も順調に育ちそうだべ」 「一杯収穫できるといいですなあ」 草をむしりながら交わされる村人の会話ものんびりとしたものであった。 「ん、ありゃあ何だ?」 ああ、ずっとしゃがんでいると腰が痛いべウ。 こんな短時間でもう辛いなんておらも年取ったもんだ。 首に掛けた粗末な手拭で日に焼けた額に滴る汗を拭き、小太りな男が立ち上がった。 その目に映ったのは、ぼっこりと盛り上がった土。 畑の下からずんずんとそれは水が湧くかのように形を崩しながら体積を増してゆく。 「どうしたい、鉄っつぁん?」 立ち上がった格好のまま固まってしまった男の様子を不審に思ったもう一人の村人は、よっこらしょと腰を上げて振り返る。 ゴフォッ。 「うわわわわわっ」 盛大に土を撒き散らして地中より姿を現したのは、ミミズ? いやミミズと呼ぶにはあまりにも巨大過ぎるのだが。しかしミミズと形容するより他にない。 ぬらりとした頭部が大きく裂けるように開く。人の頭も飲み込みそうな程に開かれた紅暗い虚ろな洞。 「ひぃ、ア、アヤカシだこいつはきっと。鉄っつぁん皆に知らせるんじゃ、はよせんかいっ!」 腰を抜かして這うように逃げながらも、ぼうっと突っ立ってる男に叱咤を飛ばす。 アヤカシがこっちに気付く前に――。 ひとしきりうねった後に全身を土壌から引き出し、獲物を探すその姿。目も鼻も無い、何をもって感知しようとしているのか。 人の胴はあろうかという太さ。先端から最後尾まで4mはあろうかという長さ。 そしてただの巨大化したミミズというには異なる形状。胴の中程から突き出した八本の分岐したうねり。 1mほどのそれは腕ほどの太さではあるがそれぞれが頭部器官であるかのように蠢いている。 はっきり言って、気持ち悪い。 何とか立ち上がった村人はそんなおぞましい姿のアヤカシを振り返り顔を引き攣らせながら、遁走を図る。 突っ立っていた男はいつの間にか体型に似合わぬ素早さで、仲間を置き去りに大声で叫びながら前を走っていた。 「大変だ、大変だ、巨大ミミズだ、アヤカシが現れたべさ〜!」 「て、鉄っつぁん、待っとくれ〜っ」 村はのどかな風景から急転して恐慌に陥りかけたが、指導力に溢れた村長の号令で迅速に着のみ着のままで村外への避難を開始した。 それと同時に開拓者ギルドへの緊急の救援要請。一刻も早く、アヤカシの退治を――。 何とか人的被害の出る前に巨大ミミズモドキの駆除を願う。 |
■参加者一覧
志藤 久遠(ia0597)
26歳・女・志
御凪 祥(ia5285)
23歳・男・志
新咲 香澄(ia6036)
17歳・女・陰
浅井 灰音(ia7439)
20歳・女・志
天ヶ瀬 焔騎(ia8250)
25歳・男・志
明夜珠 更紗(ia9606)
23歳・女・弓
フィリー・N・ヴァラハ(ib0445)
24歳・女・騎
久悠(ib2432)
28歳・女・弓 |
■リプレイ本文 「村の平和を乱すアヤカシはボクが許さないよっ!」 すぐに家に戻れるから安心して待っていて。華奢で小柄、だが力強い意思を秘めた瞳が頼もしさを感じさせる新咲 香澄(ia6036)。 まぁ聞いた感じたいして難しくもなさそうだけれど、村人の前では気合充分なとこを見せておかないとね。 「何も巨大なミミズなんかの形して現れなくてもいいのにね。嫌〜な感じだけど、もしかしてそう思わせて気持ち悪い感情を喰らうのが狙いなのかな?」 「成程、あれですか‥‥」 視界に入った予想以上の気色悪い姿に久悠(ib2432)が顔をほんの少しだけ引き攣らせて言葉を途切れさせる。 遮る物も無い平地に広がる濃厚な緑に包まれた畑。到着した一行の目に映ったのは。 何か蠢くでっかいモノが不運な獣の真下から土や作物を撒き散らして姿を現し、喰らい始めた所。 畑の作物を荒らす害獣を食べてくれるなんて、案外いい奴? いやいやあの巨体で穴を掘られたら畑はぼこぼこになるし、放っておけば人間までその飽くなき食欲で喰らう。 「うっわ、きもすぎ‥‥ま、でも退治しないといけないし、全力でいかないとね〜」 殴り飛ばす気満々、一般的に騎士と聞いて思い浮かべるような剣に鎧といった姿とフィリー・N・ヴァラハ(ib0445)は異なる。 もちろん今日もそのつもりで来たのだが、これを幾ら武器を付けているとはいえ拳で殴るのはちょっと嫌な気がしないでもない。 「あれはミミズだ。ちょっと発育が良すぎて変な液の出るご立派なミミズだ。断じて毛、うぐ、あ、アレなんかではない。想像するな、想像するんじゃない更紗っ」 元々色白の肌を更に蒼白にさせて、俯いた明夜珠 更紗(ia9606)が後方でぶつぶつと呟いてる。 濡れた体表にもっさりと土をくっつけて蠢く様が、遠目にもその。微妙に波打つ表面に細かい毛がびっしり生えたかのような質感で。 この世でどうしても耐えられないあの存在、毛虫――それを連想させるだなんて許さんぞアヤカシめ。 涙の滲んだ目尻に殺気が満ちる。 「集中攻撃を喰らうのはきつそうですね」 「ああ、一人に固定されないよう交互に波状攻撃を行う必要があるな」 動きを冷静に観察する久悠、それに御凪 祥(ia5285)が賛同の言を付け加えた。 「畑も荒らしたくないしね。短期決戦で行くよ」 幾戦も呼吸を共にした間柄の仲間達と今日は一緒だ。ちょっと実験的な戦い方をしても隙を埋め合うから安心していられる。 陽光にきらりと三日月型の白刃が煌く。長き柄は澄んだ天空よりも深く爽快な青。 ジルベリアの鎧を覆う純白の陣羽織。翼を模した意匠の兜から風に流れる青い長髪が白を基調とした装束によく映えている。 さながら物語の戦乙女といった神々しい風情。‥‥が何だろう、禍々しいくらい凄みのある空気を放っていて黒い。 「ふふふふ‥‥すぐに壊れないでよね」 口元から洩れる含み笑い。この死神の鎌、さてどんな切れ味かな。浅井 灰音(ia7439)本日は危険也。 振動かそれとも、一体何をもって感知しているのか。試しに石でも投げて反応を見てから踏み込もうか。 そう思案した志藤 久遠(ia0597)の前を天ヶ瀬 焔騎(ia8250)が柔らかな地を蹴り走り、一気に距離を詰める。 「相手に不足は無いっ。一寸先の闇をも焼き照らす志士、天ヶ瀬。いざ参る!」 (ま、戦えば判る事ですね) 静かに肩から力を抜く久遠。考え過ぎてしまうのは癖だ、己の疑問に固執をするつもりはない。焔騎に動きを合わせようと急ぎその後を追う。 (頭使わずに戦えるな‥‥と思ったら、脳筋がそこに一人居たか) 苦笑気味の祥。端然と勤めに徹した様子の久遠を除けば前衛役は皆妙に暴れる気合に満ちた雰囲気。敵よりこっちの方が何をしでかすか心配なのは気のせいだろうか。 逆に弓術士二人と陰陽師、近くに寄らずに済むはずの面々の方が腰が引け気味。 「頑張ってね、ボクは後ろから撃つから!うん、あんなのには絶対近付かない」 きっぱりと言い切ってアヤカシとの距離を測る香澄。あの素早さなら一気に距離を詰められかねないから射程ぎりぎりまで離れておこうっと。 ● 「無駄にでかいモグラだな。悪いが確実に仕留めさせて貰うぞ!」 さっき誰かミミズと言わなかったか。戦わねばならぬ使命感に追われて人の話を全然聞いて無かったようである。 (きっと‥‥天ヶ瀬の事だ、本気で間違えているに違いない) 訂正の突っ込みを誰もあえて入れてくれない心優しい仲間達。そしてこのまま焔騎はモグラアヤカシと信じたまま戦うのだ。 しかし反応が違う者が意外と一人。弓を構えた更紗が翳っていた瞳を急に輝かせて、焔騎に全身全霊で同調する。 「そうか、あれはモグラか!」 ならば怖くはないぞ。もさもさ生えてるのはモグラの毛皮だ。あれは断じて毛虫なんかではないのだっ! ミミズより似ても似つかない存在、こっちの方が精神衛生に良い。あのアヤカシは獣の類だ決して虫の類ではないっ! 「あれは‥‥まぁ、いいか」 傍に居た久悠はミミズですよと言うべきか思案したが、自己暗示に悲壮漂う更紗の様子に黙っていた方が彼女の為と開きかけた唇を閉ざした。 互いの攻撃を阻害しない程度に間を取り、久悠と更紗は並んでいる。一方向からの集中砲火なら囲んで接近戦を挑む者達も流れ矢への注意も少なく済み動きやすい。 狙いをつけやすい本体が人の胴ほどの太さ。常に動き続ける腕程度の太さしかない分岐を狙うには40mというのは結構な腕前を要求されるが。 その上に取り囲む乱戦の中にこの距離から打ち込むのだから細心の注意を払わねばなるまい。 これ以上近付くのは嫌だし。前衛達には悪いがあんまり間近でお目に掛かりたいタイプではない。弓を生業とする者そこは有り難い立場。 灰音の真後ろの位置を陣取った香澄。霊魂砲が届くぎりぎりの位置を探る。 取り囲む開拓者達への威嚇に全身の粘膜めいた皮膚から勢いよく飛散された白い液体。 幸いここまでは届かなかったが、全周にわたるかなりの広範囲に飛び散って畑の緑を汚している。あれを頭から浴びるのは勘弁願いたい。 「効いてくれればいいんだけどね、できればこれ以上は近付きたくないし。さあ霊魂砲いっくよ〜。前の人は気を付けてねっ!」 香澄の合図に散開して距離を取る前衛、両腕で掲げた陰陽符から姿を現した式が残像も残さぬ高速でアヤカシの中央へと撃ち込まれた。苦悶にのたうつ姿に再び刃や穂先が振るわれる。 (どうやら効いたみたいだね♪) 祥の薙ぎ払うような斬撃がこびりついた土をこそぎ、体腔の弾力ある表面を滑るように切り裂く。 流れるような槍の動き、重さを感じさせぬ優雅に舞うような構えで攻防一体となった姿勢を保ち続け。 軌道を描いた穂先から弾かれて土に湿った音を立てて落ちる血とも腸ともつかぬ肉片。蒸散した瘴気となってそよぐ初夏の風に紛れて消えた。 「案外見た目の感じよりは硬いな‥‥表皮の弾力に刃の勢いが吸収されるようだ。だが再生はしないから一度破れば弱点となる、か」 新たなる攻撃を打ち込む隙を見極めながら、初手の感触を冷静に分析する祥。八本同時にうねる分岐した頭部がそれぞれの開拓者を威嚇して接近を阻む。 一対多数の囲み、相手も複数の頭部が独自に蠢いて仕掛ける為に手数は同等だが根元はひとつ。立ち回り次第でその標的たる位置をおおよそ固定してやれる。 踏み込んでは一撃離脱で退き次の一手を窺う。決して足を惜しまぬ。歩摺は槍舞の型を踏むが如く。 びゅんと鞭のようにしなり、掬い上げるように振るわれた分岐を上半身を反らせて紙一重でかわす。 だが瞬時に先端が下を向き胸元を焼かんと祥の鎧の胸部を掠めてゆく。 べっとりと擦り付けられた液体の臭気が鼻をつき、飛散した滴の触れた皮膚が火傷のようにひりつく。 (鎧を着込んでいなければ危なかったか‥‥) あれは明らかに。襟元から懐へ潜り込もうとしていた動きだ。直感がそう告げる。 あの触手めいた分岐が素肌を探る様子など想像しただけでおぞましい。がっちり装備していて良かった‥‥表情は平静を保ちながらも本気でそう安堵した祥であった。 ちらりと見れば接近戦を挑む者は全員鎧を着込んでいる。誰も餌食にはならずに済みそうだ。 残念――と思う者は居るだろうか? 「なんと破廉恥な動きをっ!」 表情にはあまり出ぬ性質で無ければ顔を真っ赤にしていたか。 それでも頬を薄く染めて眉の辺りに激昂が現れ出る更紗。 ぎりりと弦を固く張りつめて、吹き飛ばしてくれんと頭部へと慎重に狙いをつける。 「そこへ直れ変態ミミズめ。行くぞ朔月――」 確実なる一撃がアヤカシの頭部めがけて僅かな弧を描き突き刺さる。痙攣と共に瞬時その動きが止まる。 開拓者の鋭敏な瞳には充分なる一瞬。 我が身を省みず深く踏み込んだ久遠の切っ先が白き残像しか見えぬような速さで振り抜かれた。 重い手応えがその太い胴の上部、人間でいえば首に当たる位置だろうか――組織を裂いてその感触から空を抜ける刃の軽さへと変わるのを感じる。 (飛ばしたか――) 血飛沫ともつかぬ皮膚を突き抜け肉を侵食する刺激も伴った液体を浴びて霞む視界、敵の始末を見届けんと戻す刀と共に瞳を上げ。 「まだ動けるのか、くっ。志藤さん下がらないと!」 切断されたはずの残りの胴から分岐した頭部が虚ろな口を開けて、咄嗟に横踏で身体を割り込ませた焔騎の腕に喰らい付く。消化液が激痛を齎す。 「首が無くなっても、このモグラめまだやる気かよっ!」 動きを抑えんと持ち替えていた鎖分銅をとっさに絡めて、自らの身体ごと引き倒す。同時に発動させる紅蓮紅葉、鎖を伝う燐光が灯火に群れる夜虫のようにアヤカシの姿を覆う。 「天ヶ瀬殿、済まぬ」 助けて貰わなくても久遠なら充分に耐えられたが、そのヌルヌルまみれ的な意味で庇ってくれたのは非常に有り難い。 鎖を纏った頭部を踏みつけ逆手にした刀を体重を掛けて慎重に小さな頭部へと狙いを定め突き立てる久遠。ぬらりとした液体を散らし引き抜き、再度深々と。 切り落として分離した部分が尚、間を置かずに動くとは不覚であった。原始的な生物を模した生命力は驚嘆に値する。 長い胴を失い、土の中へ逃げ込もうとする大きな頭部。 「逃げさせはしない!」 先手を打つ久悠の矢が行き先を遮る。方向転換する頭部を次へ次へ。土に潜らせてたまるか。 「弱点は見切ったんだよ〜。はい、大人しくしようねっ♪」 全身から立ち昇るオーラが、揺れる髪をまるで碧き宝玉に閉じ込めたように透き通った輝きに包み込む。 ポイントアタックで見極めた場所に打ち込まれるフィリーの光を纏った拳。ただひたすらに休む事なく殴り続けるのが自分の戦い方だ。 「これで終わり〜っ」 組織を突き崩し拳が深くめり込む。 完全に停止した頭部。フィリーが腕を引くと同時に久悠と更紗の矢に貫かれて転がり、その生命の終わりを告げた。 「浅井さんいっくよ〜、頭下げて〜♪」 香澄の声に灰音は鎌を水平に薙いで分岐の攻撃を複数同時に掃いながらその身を沈ませる。すぐに鎌の柄を引き戻し次の攻撃の態勢へ。 「ちょっと待てっ!俺は!?」 「言わなくても判ると思うけど‥‥」 視線を敵から動かさずに呟いた灰音。焔騎も同じ四神の異名を持つ対なる仲間の内だ、言わずとも通じるはず。 鎖分銅を離し、業物の刀をもう一度その手に構える焔騎。 灰音の頭上を掠めるように抜ける霊魂砲。炸裂した瞬間に繰り出される灰音の流し斬り。全集中力をこの一撃に注ぐ。 「捉えたよ‥‥この一撃で、沈めっ!」 この一振りで残りの分岐を全て鎌の餌食としてくれん。繋がっている頭部を全部潰せば残された胴などただの丸太同然。 様々なものが交じり合った液体を散らしてその三日月型の白刃が切り裂いてゆく。 「朱雀悠焔。紅蓮葬!」 紅蓮紅葉の燐光から紅椿を発動して更に精霊の力を集わせる。灰音が残る頭部を断ち切ってがら空きになった胴に突き入れた刀を捻りつつ逆袈裟に払う。 生暖かい飛沫が焔騎に吹き掛かる。その姿を見て。 「紅椿っていうか‥‥」 「白濁椿」 「うわ、その呼び名嫌な感じすぎる」 ドロドロまみれになってそれはない。自慢の耐久力を活かして身体を張ったので誰よりもひどい有り様なのに。 ● 「皆様大丈夫ですか。火傷に効く薬草ですが少しは痛みが引くと良いのですが」 包帯も薬草も念の為大量に持参してきた久悠が駆けつけて手当てする。揉み潰した青臭い即席の軟膏がひりつく肌に染みる。 防御液から体液から消化液から。色々なものに汚れひどい有り様になった前衛と、飛散しても届かない距離を保ち続けた身奇麗な後衛。随分な違い。 「お疲れ様だったね〜」 「ああ、モグラ型アヤカシは随分と厄介な相手だったな」 消耗の激しい焔騎の身体に香澄の手から治癒の力を宿した式がふわりと吸い込まれてゆく。 焔騎の勘違いにはやっぱりあえて突っ込まない香澄なのである。うん、放っておこう。 「アヤカシも消えてゆくな‥‥これが本物なら良い肥料になるだろうに勿体無い」 溜息をつく更紗。アヤカシから飛散した様々な液に腐食され作物も結構な被害を受けている。 「皆さんはどうぞ水浴びしてきて下さい。川で服ごと飛び込んできた方がいいかもしれませんね」 私達はその間に畑を少しでも修復しますからと見回す久悠。これは耕し直して新しい種を撒かないとダメだ。 「じゃお言葉に甘えて行ってこようかな。あ〜もう、身体中べっとべと〜」 洗ってもこれじゃ買い直しかも〜とフィリーが嘆く。 「戻ったら俺達も手伝う。あまり頑張らなくていいからな」 粘液魔人と化している焔騎を見て顔をしかめ、わざとらしくかなりの距離を開けて歩む祥。 「ん‥‥?」 さてどこから手をつけようかと踏み出した久悠の靴底にぐにゃりとした感触。紐状で桃色の見慣れてるはずの生き物。 「ぴぎゃっ!」 もうミミズは悪夢に出てきそうだから勘弁して。妙な悲鳴を上げて靴底に貼り付いた土まみれのそれを剥がし放り投げて闇雲に走り出す。 「‥‥!」 不運な事に顔面に命中したのは更紗。その瞬間を目撃して香澄が絶句する。 これは毛虫ではないと身構える間もなく視界に拡大化されたそれは刺激的過ぎた。 目を見開いたまま硬直して卒倒する。ミミズ型アヤカシのまだ消えきらない残骸の上に‥‥。 「あ〜」 結局最後まで無事だったのボクだけ? とりあえず顔の上のミミズだけは取り除いてあげる香澄。 う〜ん、今この状況で更紗を起こしてあげるよりアヤカシが完全に消えてからの方が親切な気がする。 久悠は放っておけば我に返って戻ってくるだろう。 「皆帰ってくるまで休憩しよっかな〜。その前に報告、報告♪」 村人が早く家に戻れるよう先に行ってこよう。畑はこれじゃ時間が掛かりそうだものね。 |