【大会】飛龍昇空演舞
マスター名:白河ゆう 
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: やや易
参加人数: 24人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/05/13 16:34



■オープニング本文

 春の神楽を賑わせている武闘大会。
 力を競い、技を競い、知恵を競い。多種多様な催しが一斉に花咲くように開催されていた。
「ふぅ〜、準備に手間取っちゃったなぁ」
「場所がなかなか取れなかったですからね〜。うちらの企画、広い場所を必要とするんですもん」
「龍を一箇所に集めるからにはそれなりに必要だから」
「見物客の安全も第一ですしね。さ、段取りはなんとかなりました」
 後は。
「肝心の参加者を募らなくてはなりませんね〜」
「急げ、急げ。当日までに人数確保できなかったら観客の目が怖いぞ」

 巨勢王のスケジュール確保は難しいので、当日ご本人の観覧は願えるかはちょっと定かではない。
 精力的にあちこち顔を出しているとはいえ、巨勢王といえども身体はひとつである。
 むしろ、重要人物が来ないほうが警護とか考えなくて済むのでありがたいのだが‥‥。
「うむ、来ないほうがいい!」
 ポカリッ。ボコスカッ。
「何考えてるんですか〜。王様の祝賀で華々しく大会を開いてるんでしょうが!」
 まぁ、今からひょいと根回しもなしに願い出ても観覧戴けるとは思えない。でも、建前は大事ですっ。

『【急募】飛龍演舞大会 参加者求む!』
 相棒と一緒に空を華麗に待って技を披露しよう!
 開拓者ギルド内に応募用紙と箱を用意してますのでそちらに入れてくださいね。
 集まりました観客の方々の投票により演技審査も行ないまして、
 高得点をゲットした方には、ささやかな景品も用意してお待ちしております☆

 参加条件:開拓者ギルドに登録されている者で自分の龍を保有している事。
 エントリー:個人部門、ペア部門(2名)、団体部門(3〜8名)

 さてさて神楽の空にどんな演舞が繰り広げられる事だろうか。


■参加者一覧
/ 星鈴(ia0087) / 葛葉・アキラ(ia0255) / 羅喉丸(ia0347) / 玖堂 真影(ia0490) / 胡蝶(ia1199) / 巴 渓(ia1334) / 赤マント(ia3521) / 神鷹 弦一郎(ia5349) / 設楽 万理(ia5443) / 鈴木 透子(ia5664) / バロン(ia6062) / アルネイス(ia6104) / 雲母(ia6295) / からす(ia6525) / 一心(ia8409) / 霧咲 水奏(ia9145) / 茜ヶ原 ほとり(ia9204) / 贋龍(ia9407) / 夏 麗華(ia9430) / 琥龍 蒼羅(ib0214) / トカキ=ウィンメルト(ib0323) / 小(ib0897) / 今川誠親(ib1091) / 琉宇(ib1119


■リプレイ本文

「飛ぶ順番はどのように決められるのですか?」
 相棒の蝉丸にそこで待機していてと言い置き、簡易天幕に歩み寄ってきたのは鈴木 透子(ia5664)。
 大会直前の日、円滑な流れの為に参加者一同が集められての合同練習の最中である。
 似たような演出の組が続くとそこは飽きが来るので、主催の係員も立ち会って見物しながら筆を走らせて最終の吟味をしていた。
「ああ〜適当に‥‥げふ」
「演目に合わせてそれなりに。希望があれば調整できますよ」
 にっこり笑顔で隣の係員の腹に拳を入れての回答。それは良かったと透子が最後の方にして欲しい旨を申し出た。
「光を演出に使おうと思いますので、できれば夕暮れ時が最良なのですが」
 団体一組、ペア四組、個人九組、前の組の片付けに支度に掛かる時間っと。頭の中で算盤を弾き始めた係員。
「うん最後ですね。照明の用意はしてないので日没までには終わらせたいですし」
「ありがとうございます」
 さらりと修正の筆を入れる係員に丁寧に頭を下げて透子は蝉丸の元へと戻る。
「さあ、練習しましょうか」

「初めての龍同士やけど、なんとかやって見よか」
「ああ、良い結果を出せるようにしたいな」
 せっかくだから一緒にやってみようと即席のペアを組んだ星鈴(ia0087)と琥龍 蒼羅(ib0214)。
「ほら風剣、人見知りせんで」
 おずおずと相棒の背後で澄んだ瞳を向けている龍。小柄な陽淵もじっと相手を見つめている。
「ふっ‥‥陽淵、気に入ったのか?風剣か、一緒によろしく頼むよ」


「ようこそ今日はたくさんの皆さんにお集まり戴き、龍も映える晴れ渡った青空。いい演舞日和ですね〜。さて開幕を飾りますは『翔龍楽士』のお二人。よろしくお願いしますっ」
 会場を取り囲む大観衆の拍手。最前列の縄に捕まって食いつくように待ち構えている飛行演舞に目がない青年。後方の空き地に茣蓙を広げてのんびり行楽気分の家族連れ。
 神楽の住人だけでなく、武闘大会の評判を聞いて遠くからやってきた者も見物に加わっている。

「だ、大丈夫だよ、ろんろん。初めてだけど‥‥怖くないから!」
 戦いに出るのに比べれば全然怖くない。むしろこれだけ大勢の前で演奏できるだなんて胸躍る。
 でも初めてだからちょっと緊張するね‥‥ろんろんの滑らかな首に腕を絡めて火照る頬を当てて。飛び立つ前の琉宇(ib1119)のひととき。
「小さんは落ち着いてるね」
「‥‥ん、おいらは別に。仕事みたいな気分でいるからな」
 といいつつ、実際はわくわくした気持ちを素直に表現するのが気恥ずかしいだけな小(ib0897)。素っ気無いような言い方だが、琉宇は笑顔で受け止める。
 ここ数日一緒に練習したりして、ぶっきらぼうだけど優しくていい人と認識している。
 琉宇の思いついた豊富なアイデア、小の冷静な補足意見を取り入れて見直したり、同じ演奏家でも異なる視点からの意見を交換したり、とても有意義な時間を過ごせた。
「演奏がメインだから、あんまり無理に飛ばすなよ。さて陸虎‥‥一丁やってみるか」
 相棒の背に飛び乗り、一度上空へと昇り態勢を整える。小の手には横笛、琉宇はリュート。二人とも両手を離しての飛行なのでうっかりすれば落ちる可能性もある。
 甲龍と駿龍、二匹並んでの緩やかな滑空。演奏の方もゆったりとした大河の流れのような導入部から始まる。
(口笛か‥‥)
 琉宇の奏でる音色に含まれた精霊へ呼び掛ける力。横笛の演奏に集中しながらもちらりと横目で見る小に微笑みで返す。
 小も口の端でにやりと笑って返す。そして頷き。リュートがほんの少し休み、笛の音色が転調する。
 陸虎とろんろんの僅かに声調の違う鳴き声。演奏しながら琉宇は自身の歌声も加える。
(ここが問題なんだよね‥‥)
 間奏。再びリュートと横笛だけに戻る。
「いくよ、ろんろん」
 演奏を続けながらの急加速。ぐいと脚だけが前方に持ってかれて上体が反り腕が止まりそうになる。
 練習の時はここが失敗して何度もやり直した。結局完成しないままのぶっつけ本番という不安。
 一瞬の途切れ、予期していた小が一拍休んで合わせて、素人には判らない程度のほんの一瞬の間を作って合奏は繋がる。
 高速で縦列移動しながらの二重奏。重なったりずれたり、観客との位置関係によって異なる不可思議な音響効果を齎す。
 再び低速を戻し、今の季節に相応しい春の花に似合う音色を。ふわりと香る匂い。陸虎の軌跡に春が振り撒かれている。
 素晴らしい序章の演舞、盛り上がりの開幕となった。

「二番手は僕だね。さあ、飛びに行くよ〜レッちゃん!」
 颯爽と紅い布をたなびかせて疾駆する赤マント(ia3521)。相棒のレッドキャップがいつでも飛び立てる態勢で待ち構えている。
 我こそは赤マント!
 相棒を背に乗せて上昇するレッドキャップの後ろにはどこまでも長い紅の帯が。反物一巻を全て広げての青空と色鮮やかなコントラスト。
 派手な演出に地上では更に盛り上がりを増している。
「まずはジグザグ!」
 レッドキャップの飛翔は真っ直ぐそのままに、赤マントが素早い手数で布を掴んだ腕を左右に振る。
「ちょっと動きが小さいかな‥‥レッちゃんジグザグに飛べる?」
 相棒の言葉に承知と言わんばかりの咆哮、張り切ったレッドキャップが小刻みに方向転換しながら羽ばたき、地上からは紅の布が波打つ様が見える。
「次は渦巻きだね。練習通りに行くよ〜」
 観衆の頭上を大きく円を描いて一周。次第に狭めて旋回を高速で繰り返し、紅が渦を巻くように付いてゆく。
「上昇!」
 中央付近まで来たとこでの急上昇。赤マント、レッドキャップ、全ての紅が一体となって突き上げるがごとく螺旋の頂点も真紅が太陽へと向かう。
「最後の仕上げだね!」
 手を離した布が自由落下を始める前に素早く。龍の口から迸る炎。燃え上がる布に更に赤マントの拳から紅の波動が放たれて、火の粉を纏った布が花火のごとく飛散して地面へと落ちてゆく。

「綺麗やなぁ‥‥ほな、うちも魅せたるわ。胡蝶ちゃん、ポチちゃん、夜雲ちゃん…皆行くでッ☆」
「じゃあ‥‥陰陽師の技を、見せましょうか」
 爛漫な表情の葛葉・アキラ(ia0255)の言葉に胡蝶(ia1199)がクールに返す。
「次は〜『絢爛』の演舞です!」
 黒髪と金髪、雰囲気も対照的な少女が駿龍の背に乗り飛び立つ。
 荒縄でしっかりと相棒の防具と結ばれた胡蝶が横笛で祭囃子を奏でる。同じように夜雲と結ばれたアキラは銅鑼を鳴らして合いの手を入れる。
 音色に動きを合わせて互いに噛み付くようにじゃれあいながら夜雲とポチは空に舞い上がる。
「胡蝶ちゃん、しっかり捕まっててな」
「‥‥そっちもね」
 アキラが抱えるように大きな手製のお手玉を宙に放り投げる。ポチが爪で確りと受け止めて、別の方向へと振り投げる。
 急激な動きで追いかけた夜雲が今度は掴む。振り落とされないようにアキラはその背にしっかりと伏せて捕まっている。
 夜雲が投げてはポチが拾いに。ポチが投げては夜雲が。空中でお手玉をお互いに拾い合う。
「最後は大技やで」
 観客の上をぐるりと互いに反対方向から全速力で。正面衝突せんとばかりにぐいぐいと近づく。
 相棒の背から互いの姿を見て緊張の一瞬。地上の観衆も息を呑んで見守る。
 三、二、一、ぐいと衝突寸前に大龍符を放ちながら方向転換。迫る龍がぶつかりあう。
 観衆が悲鳴を上げる。だがそれは幻影だ。夜雲とポチは翼が触れんばかりの交差を決めていた。
 無事を呑み込んだ観衆から緊張が解けて一斉に吐息が。
 拍手を受けながらゆっくりと旋回して並んで降り立つ二匹の龍。
「アキラ、お疲れ様」
 そう言いながらも顔をつんと背けた胡蝶。龍の背から降りて咳払いして付け足しであるかのように小さな声で言う。
「‥‥その、良い演技、だったわ」
「大成功だったよね☆」
 きゅっと抱きついたアキラ。胡蝶は照れながらも、こくりと頷いた。

「四番。泰の投擲志士、夏 麗華(ia9430)いきます!」
 準備は持ち時間に含まれないがあんまり待たせては観衆が冷めてしまう。機敏な動作で会場内に点々と設置してゆく的‥‥と野菜。
 所定の位置で待機していた飛嵐。麗華が駆け向かうと翼を広げ、いつでも飛び立てる用意で。
 龍単独の演技、その背で麗華は自身の得意とする分野の支度を進める。高度と速度を落として騎乗で円月輪をお手玉のように動かす演芸。
(あ〜遠くからは何をしてるか判り難いですかね。反応がちょっといまいち‥‥野菜に書いた番号も見えないかしら)
 ダーツに飛苦無。次々と取り出す投擲武器。自分で決めた番号順に当ててゆく。
 率なく腕前を披露して次の演者へと交代する。
 
(アクロバットと陰陽術の融合‥‥行くよ!)
 自分の番がさて開始。緋鼓の背に乗り颯爽と上空へと舞い上がる玖堂 真影(ia0490)。
 景気よく放った一発目の大龍符と共に龍の力強い咆哮が高い空から響く。観客からよく見える位置へと滑空。
 近くまで迫るような錐もみの降下。迫力ある演技。
 これ以上は墜落してしまうというぎりぎりまで迫り、緋鼓の姿勢を羽ばたきへと戻し風を切って舞台中央へと飛ぶ。
「完璧な演舞をするわ‥‥それが今あたしにできる最高の贈り物」
 一体となった龍の制御に感嘆の瞳の群れ。あたしが全力で魅せてあげる。
 大龍符を放ちその幻影を潜り抜けるようにして低空で飛び込みそのまま観客の頭上をぐるりと一周。
 その際に放った虹色の蝶を模した式が更に感嘆の声を誘う。
「緋鼓、頑張ってね。信頼してるよ」
 しっかりと身を伏せてしがみ付くと同時に錐もみに近い極々小さな螺旋を描いて急上昇する緋鼓。雄叫びが空に響く。
「さあ、アクロバット飛行だよ」
 宙返り。背を捻って一回転する間の失速落下の感触は緋鼓への絶対の信頼により恐怖が沸かない。
 絶対大丈夫、そう思っているから。
 ここで氷柱を使った演舞を予定していたが、発動の瞬間には砕けてしまう式に龍の動きは間に合わない事が練習の際に判った。
「それじゃ最後の仕上げ‥‥地縁解縛、水龍参れ!」
 次は何が来るかと期待の目の観衆に上空から笑む。次々と出現する襲い掛かる龍の幻影。消えては現れ。次第に地上が近づいてくる。
 幻影に続いて八匹目として着地した緋鼓。唖然と見守っていた観衆が我に還り盛大な拍手を送る。
「どう、あたしの演舞は楽しんで貰えたかな?」


「『流星』参る」
 駿龍の動きを活かした高速の演舞。実戦のごとく騎乗の槍を突き入れる星鈴。刀を払う蒼羅。交差しては激する戦い。
(風剣、大丈夫やで。練習の通りに飛べばいいんや)
 互いの龍も疲労が見え始めた激しい動きの末、最後の突撃。ここは難しい。互いに避けられなければ本当に怪我をしてしまう。
 地上に迫りながらの交差の瞬間、星鈴のフェイントから繋いだ槍の穂先が蒼羅の顔を狙って迫り、瞬時にかわすと同時に鞘から抜いた刀が星鈴を襲う。
 星鈴の鎧が青く輝き、精霊力が刀の軌道を僅かに逸らして難を逃れる。演技とは思えない真剣な武のやりとり。
 綺麗に決まった。深い吐息と共に背中を冷や汗が伝う。
「ようやったで」
 相棒と、そして陽淵にも労いの声を掛ける星鈴。蒼羅も嬉しげに風剣の背中を撫でた。心地よさげに目を閉じる風剣。

 煙管をくわえたまま悠然と柘榴を伴って進み出る雲母(ia6295)。傷だらけの戦龍、どんな演舞が始まるかと観衆が静まる。
「柘榴、私を殺しに掛かれ」
 両手に構えた太刀。まずは地上での剣劇。柘榴が装着した闇色の刃と舞うように打ち交わし火花が散る。
 太刀を弾き返した刃を踏み、跳躍。その雲母の身体を喰らうように向けた牙。更にそれを蹴り高く跳躍。
 太刀を振るう主に挑むような動きをしながら、飛翔した柘榴は雲母を落とさずに空中戦を展開する。
 最前列の観衆が見上げるほど、失敗して落ちれば怪我をする高さにまで。次第に龍の攻撃が激しくなる。
 高度を落として刃が胸を掠めるように振るわれ、旋回した際に伸びた尾を踏み台に雲母が落下を調整して着地を決める。
 戦い終えた柘榴も地上に身体を下ろし、主の傍に身を伏せる。
「完璧だ。やはりいい子だなぁ、お前は」

 相棒が急に体調を崩して出場を断念しかけたアルネイス(ia6104)。ジライヤだったら呼び出せるんだけれど今回の出場資格は龍限定。
(ああ〜優勝狙ってたのに〜)
 一応進行の都合もあるので出場の穴を開ける訳には行かず、代役の龍を借りての演舞となった。
 大龍符を放ち、その姿を目指して龍が急ぎ昇る。抜いたり避けたり幻影の龍との競演。
 初騎乗のアルネイスと阿吽の呼吸ともいかないので動きも都度指示しつつ時々ぎこちないが‥‥頑張ってくれてはいる。
 それなりの出来。想定外な事態の選手交代に泣きたい気分だが帰って我が相棒の顔を見るまで我慢だ。いや旦那の顔かな。

「お次は『天かける鷹』!」
 いいですね〜、何かもう演舞を始める前からこの相愛っぷり。特に女性の方の笑顔は見ている方が嬉しくなるほど。
 そんな光景を見て爽やかに死ねと呟いた彼女居ない暦三十年の相方を蹴り倒して、進行役の係員が合図の旗を振る。
「それじゃ、威織行ってくるよ」
 相棒の忍犬の背中を撫で。
 黒と白の長袍、揃いの泰国風の衣装に身を包み、龍の待つ中央へと進み出る。
 丁寧に四方にお辞儀をした神鷹 弦一郎(ia5349)が茜ヶ原 ほとり(ia9204)の手を取り、代役の龍に乗せる。
 弦一郎が乗るのはほとりの相棒、黒江。
 雄々しい演技の多い中で、柔らかな神楽舞のような双龍の動き。ふわりと風に乗って気持ちよさげに寄り添って。
 すいと離れてほとりの龍が上昇、紙風船のような袋が投げられたかと思うと下方の騎上で弓を構えていた弦一郎が射抜く。
 衝撃波で銀箔を交えた紙吹雪が青空に星々の河のように散り、陽光に煌く。
 光の河を巡りながら再び寄り添う二匹の龍。ゆったりと高度を下げて横転‥‥のはずが。
「きゃあっ」
 絆強き黒江以外に要求するのは酷な動きだったか。背中から放り出されたほとり。弦一郎が慌てて腕を伸ばす。
 着地直前に予定外の空中キャッチ。ほとりを抱きとめた勢いで黒江の背中から転がり落ちた弦一郎、庇って下敷きになってしまったが温かく微笑む。
「残念だ、お姫様だっこはまたの機会かな」
 そのままお団子に結った頭を引き寄せて額へと接吻。ほとりの顔が真っ赤になる。
 やんやと飛ぶ冷やかしの野次。

「え〜と、次行きましょうか‥‥」
 次はちょっと準備が掛かる。中央に山と積まれる廃材。何をするんだろうと観客が好奇にざわめく。 
 巴 渓(ia1334)は相棒の背に乗って充分な高度を取り、廃材に向かって降下を始める。
「ジルベリアじゃさすがにきつかったが‥‥ま、今回も多少の怪我は覚悟でいくさ。行くぞサイクロン!」
 とうっ。一般人なら怪我しそうな高さから錐もみの飛び蹴り、駆け巡る体内の気。
 サイクロンの尻尾が渓の身体を打ち落下に加えて更なる速度と威力。
「マキシ――」
 観客のどよめきと派手な破壊音にその声は途中で掻き消された。舞い上がる木端、土煙。
 覚悟の自爆技、さすがに痛い。それでも煙が薄れる前には立ち上がってポーズを決めて拍手を受けた。

 弓術師小隊『白獅子』による編隊飛行。本日一番の目玉演目だろうか、飛ぶ前から歓声が沸いている。
 これだけ大勢居れば、遠い異国の合戦を伝える報告書で名を目にした者もあるかもしれない。
「なに、合戦でやった事をそのままやるだけじゃ。肩の力を抜き気を張らずにな」
「空中で矢を撃ちまくるけど大丈夫かしらね?」
 先頭にはバロン(ia6062)が騎乗するミストラル。一心(ia8409)と珂珀。設楽 万理(ia5443)及び宵闇。
 続いて今川誠親(ib1091)とアレクサンダー。最後尾にからす(ia6525)と鬼鴉。前後に駿龍四匹、そして炎龍という配置の編成である。
 縦列で一気に弧を描くように急上昇と急降下、会場の端ぎりぎりで地上に迫り、間近で翼の羽ばたきを受けた観客の着物が風圧ではためく。
「行くぞい」
 今度は水平の弧を描き、五人が弓形に並んだ瞬間一斉に放たれた矢。中央の万理の放つ鏑矢が快い音を響かせて飛ぶ。
 地上に設置された的に綺麗に五本の矢が並んで突き立ち感嘆の声と拍手が沸く。
 反対側では降下しながらの射撃、縦列に並んだ的を各自一本ずつ中心を射抜いては上昇する。
 単調に五本かと思いきや、宵闇の炎に驚き、鬼鴉のソニックブームに悲鳴が上がる。
 他の龍が上空へ昇る中で、高く跳ね上がった的に向かって全速力で接近する鬼鴉。
 これは騎乗するからすに激突してしまう、間に合わない!と地上の観衆が息を呑んだ。
 だが冷静に重機械弓を至近で構え、接射の技で逃れる。微塵にされた的の破片が黒髪に絡みつく。
 羽ばたきを強めて、仲間達の元へと向かう鬼鴉。何事も無かったように。
「‥‥鬼鴉、私を試したな?」
 笑いを含んだ声。
 相棒は何も言わない。返事の代わりに尻尾を揺らして僅かに軌道を揺らしたのは、答えなのか。
 こういう信頼の形。頼りになる相棒のちょっとした茶目っ気だ。

 ここから更に一心と誠親が弓術の披露を続ける。
 大扇子を投げ、落下するそれに向けられる誠親のアーバレスト。退魔弓を持った一心がその射線を抜けた瞬間に扇子が射抜かれ。
 反撃がごとく一心が放った矢は回避したアレクサンダーの後方の的に命中する。見事な息の合った双演。

「ふふ‥‥見事なものでございまするな」
 こちらは個人での弓術演舞。霧咲 水奏(ia9145)が身繕いを整え直して進み出る。
 道具を用意する演舞は片付けや準備に手が足りず、自分達だけでやらなければならないので少々手間が掛かった。
 その間に白獅子の面々とも言葉を交わし見事と称え。一挙一足が観衆の視線に追われた緊張の時間。流鏑龍の支度は整った。
 この晴れ舞台の為に用意した鮮やかな衣装で飾った崑崙。その織布は武天産、この度の祝賀に相応しく。
「ではいざ。霧咲の人龍一体の弓術、参りまするっ!」
 高度を取り、会場中央を横断。力強い咆哮と共に急降下、きりりと水奏が弓弦を引き絞る。
 ふたつの的へ次々と命中。空鏑の音が風を裂いて響き渡る。三本目の矢は先に鏃の代わりに小さな球を重ねた木綿で覆った物。鉦を鳴らす撥の代わりである。
 三枚目の的として設置した銅鑼を見事に打ち鳴らし、沸き起こる拍手。反対側からもよく見えるようにと今度は的に向かう角度を変えて繰り返す。
 銅鑼の響きと龍の咆哮が唱和する。
「これにて仕舞いにございまする」

 死神の鎌に陣羽織。鍛錬を積んだ体躯が、甲龍と肩を並べて中央へと歩む。
「派手に行こうか、頑鉄」
 入念に相棒と練習を重ねた技はそう奇抜な発想を狙ったものではない。だが実際やるとなれば難しく、記憶に残る泰拳士を目指して弛まず研鑽を重ねた身のこなしが発揮される。
 失敗すれば自分が大怪我をするだけでなく、観客を困惑させ大会の開催者に迷惑を掛けてしまう。そんな椿事は自分の矜持に掛けて絶対に起こしはしないと誓う。
「ずいぶん集まったもんだ。これは期待を裏切るわけにはいかないな!」
 楽しみにしている観衆の顔。自信に溢れた笑顔を向け、空へと投げる羽織。鎌を地に置き、羅喉丸(ia0347)は頑鉄の背へと飛び乗る。
「そうそう、その高さだ」
 低空で羽ばたきながらの水平飛行。巻き上げる土埃もできるだけ少なく。要求される事は難しいが頑鉄は精一杯にこなす。
「頑鉄、頼むよ」
 飛行する龍の鞍上で命綱もなしに立ち上がる姿。それだけでも肝が冷えそうなものだが。鞍を蹴っての宙返り。
 これは練習の時に試行錯誤を重ねた。着地点が移動してしまうので、前方に背を向けて距離を正しく飛ぶ必要がある。
 息をするのも忘れるような緊迫した演舞、続けて半回転で手をついて龍の背で倒立を。飽きさせぬ動きで観客を魅了する。
 そこからは荒々しい動きで龍を中心に。頑鉄の胴体をしっかりと脚で挟み、上体を起こして尻を浮かせたまま、時には斜めになったりしながら空を駆け抜ける。


 ゆっくりと西日が遠く霞む山々に差し掛かって稜線を染めた頃。
 蝉丸の背に乗った透子がゆっくりと空に昇る。暮れなずむ空に翼を広げた龍の黒い影。
「さて最後の演舞です。十四番、鈴木 透子さんと蝉丸さん。式と龍を組み合わせた幻想的な妙技、どうぞお楽しみください!」
 中央で声を張り上げた係員が一礼して、急いで天幕へと走る。それと同時に急降下する蝉丸。
 くるりと低空旋回して、餌を口でキャッチさせるかのような仕草で、透子が放り投げるように飛ばした蛍のように淡く光る式、夜光虫をパクリと食べる真似をする蝉丸。
 もっと頂戴と言わんばかりに飛びながら身体を小刻みに揺らすと、またひとつ。それが可愛らしいと、観客が手を叩いて喜んでいる。
 満足げに一鳴きして、空中散歩を楽しむかのように取り囲む観客達の前を少しだけおどけた動きをしながら一周する。
 客席に放られた夜光虫を追って、蝉丸が速度を上げて正面から飛び込む。そのまま上を抜けるかと思いきや、最前列の目前で方向転換した背から連続で光が放られる。
 落ちてきた光を子供達が喜んで掴もうとするがそれはすぐに消えてしまう。取り囲む円周の四方で同じような演舞を至近で繰り返し喝采。
 中央に戻っての演舞。速度はそのままに、だが動きは優美に。ひとつ、ふたつ、透子の持つ光が次第に増えて明るさを広げてゆく。
「行きますよ、蝉丸。最後も綺麗に決めましょう」
 ぐいぐいと高度を上げた龍が光を纏って一瞬の静止。螺旋を描くような錐もみ降下。光の粒がその勢いで全周に振り撒かれて、日暮れの空に幻想的な風景を作り出す。
 息を呑んでいた観客が一拍置いて我に返ると盛大な拍手を送った。着地してお辞儀をしてもまだ拍手が続いていた。

 演舞が全て終わって縄張りで作られた出口に設置された投票箱に殺到する行列。あれが良かったこれが良かったと楽しげに話しながら皆帰ってゆく。
 長時間疲れたし、お腹も空いたしね。今夜は何にしようか。
「えー、閉会式とかないの?」
 そこの段取りとかすっかり忘れていた。出口に投票箱を置いたんだから、そりゃ帰っちゃうよね。琉宇の残念そうな声に乾いた笑いを貼り付かせた係員。
 生真面目に残っている観客も一応は数が居たので、結果発表するので集まってくださ〜いと龍に乗った参加者達が声を掛けて回った。
 係員の二人はその間に必死に投票用紙を集計している。半紙に大量に並ぶ正の字。
「結果が出ました〜発表しますっ!」
 おお〜と拍手が沸き起こる。もう参加者含めて百人も残っていないような‥‥そんな事は気にしてはいけない。
「団体部門、え〜参加が一組しかおりませんでしたが『白獅子』の弓術による連携。素晴らしい演技を称えて、記念品を贈らせて戴きます!」
 入賞者には武天特産の名酒が配られる。競争相手なく貰うのも気が引けるが、皆一生懸命に最良の演技を尽くした。貰っていいのではないか。
「ペア部門の一位は『流星』です。槍と刀での素晴らしい空中戦、たくさんの観客の皆さんを魅了したようです」
 やったな。掌を打ち合わせる星鈴と蒼羅。何と即席のペアで他の組を凌いで優勝してしまうとは。
「個人優勝は鈴木 透子さんと蝉丸さんによる夜光虫を使用した演舞でした。剛の勇壮さで各組に票が割れた中で、柔の美麗な演技への評価は集中したようですね」
 龍の幻影を扱って計算違いに惑った陰陽師が多かった中で一人独創的に突出していた。大会の締めに空の変化も利用した黄昏の美しい演出。
「ちなみに僕の個人的には空中ならではっていう赤マントさんの布をたなびかせた演技が良かったです」
 表彰も終わって最後の片付けも開拓者に手伝って貰い。
 握手を求めに行く係員。まぁ主催者と観客の趣味嗜好は一致するとは限らない。おそらく彼の頭の中ではそれが王道的なイメージだったのだろう。彼の中では。
 さてここからは各々が美酒に酔いしれるなり反省会を開くなり。ひとまずはお疲れ、と終幕である。